クウェートの死刑制度:法体系の根幹、イスラム法(シャリア)と成文法
クウェートの死刑制度は、イスラム法を重要な法源とする憲法秩序の上に構築されているが、具体的な刑罰制度は成文法によって詳細に規定されている。
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現状(2026年10月時点)
クウェートは2026年10月時点で死刑を法律上維持している国であり、実際の執行も行っている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、2025年にクウェートで確認された死刑執行は17件で、2024年の6件から大幅に増加したため、近年のクウェートの死刑制度を考える際には、単に「死刑制度が存在する」という法制度上の説明だけでなく、実際に国家が死刑を執行しているという運用面も見る必要がある。
2025年の17件という数字は、クウェートが死刑制度を形式的に残しているだけではないことを示す一方、年間の執行件数だけから制度全体の特徴を判断することも適切ではない。死刑判決、上訴、恩赦、首長による承認、妊娠や年齢などによる執行制限といった複数の段階が存在するため、クウェートの死刑制度は刑法だけでなく、憲法、刑事訴訟法、特別刑法、少年関連法などを横断して理解する必要がある。
さらに2026年には、テロ対策を名目とする法令によって死刑の対象範囲が拡大されたとアムネスティ・インターナショナルが指摘している。2026年3月15日に首長令によって制定された「テロ犯罪対策に関する法令第47号」は、テロ行為に関する死刑の適用範囲を大きく広げたとされ、2026年のクウェートの死刑制度を考えるうえで重要な最新動向となっている。
このように2026年10月時点のクウェートは、死刑制度を維持しながら、その適用領域についても安全保障政策との関係で変化が生じている国である。したがって、「イスラム法を採用しているため死刑が存在する」という単純な理解では不十分であり、宗教法、成文法、憲法、司法制度、行政権限がどのように組み合わされているのかを確認することが重要である。
法体系の根幹:イスラム法(シャリア)と成文法
クウェートの法体系を理解する際、最初に確認すべき規定が憲法第2条である。同条は、国家の宗教をイスラム教と定めるとともに、イスラム法を立法の主要な源泉として位置づけている。
ここで重要なのは、「イスラム法が主要な法源である」という規定を、「すべての法律がイスラム法そのものである」という意味に置き換えてはならないことである。クウェートでは、刑法や刑事訴訟法などについて具体的な成文法が制定されており、死刑の対象犯罪、刑事手続、執行条件などは、それらの法律によって具体化されている。
この点についてクウェート政府が国連の人権審査で示した説明も重要である。同政府は、憲法第2条について、イスラム法を主要な法源としながらも、イスラム法学によって明確に成文化されていない分野について立法者が別の法源を用いたり、新しい社会的需要に対応する規定を制定したりすることが可能であるとの立場を示している。
したがって、クウェートの法体系は「宗教法か世俗法か」という二者択一では説明できない。イスラム法を重要な法的基盤としながら、近代国家として必要な刑事法規を成文法として整備し、その成文法を裁判所が適用するという複合的な構造を持っている。
死刑制度もこの構造の中に置かれている。つまり、死刑の正当性についてイスラム法との関係が強く意識される一方、実際に誰をどの犯罪について死刑に処することができるのか、どのような裁判を経るのか、判決後に何が起こるのかについては、具体的な成文法と刑事司法制度を確認しなければならない。
憲法上の位置づけ
クウェート憲法は1962年に制定され、1990年のイラクによるクウェート侵攻と占領を経た後、1992年に憲法秩序が回復された。憲法第1条はクウェートを独立した主権国家として規定し、第2条はイスラム教を国家の宗教、イスラム法を立法の主要な源泉として位置づけている。
この第2条が死刑制度の議論で重要なのは、クウェート政府自身が死刑制度の法的正当性をイスラム法と憲法秩序の双方に結びつけて説明してきたためである。国連に提出されたクウェート側の説明では、死刑はイスラム法上認められており、憲法第2条によってイスラム法が主要な法源とされていることから、死刑制度は憲法体系と整合するとする立場が示されている。
ただし、ここでも「憲法に死刑という刑罰が直接書かれている」と理解するのは正確ではない。憲法第2条はイスラム法の位置づけを規定するものであり、個々の犯罪について死刑を科す具体的な根拠は刑法などの成文法に置かれている。
この違いは制度を理解するうえで非常に重要である。クウェートにおける死刑は、宗教的規範がその背景に存在しながら、現代の司法制度においては成文法によって犯罪類型と刑罰が定められ、裁判所による司法判断を経て適用される制度として構成されている。
刑法典との統合
クウェートの刑事法制の中心には1960年法律第16号による刑法典がある。死刑制度を理解する場合、この刑法典を基本としながら、薬物犯罪やテロ犯罪などについて後から制定・改正された特別法を合わせて確認する必要がある。
刑法典は殺人などの重大犯罪に対する刑罰を定める一方、クウェートの死刑制度は刑法典だけで完結していない。特に薬物犯罪については特別な麻薬取締法が重要であり、さらに2026年にはテロ犯罪に関する法令によって死刑適用の領域が拡張されたと報告されている。
また、刑法の規定は社会状況に応じて改正されている。例えば2025年には刑法第153条が廃止され、女性親族を殺害した男性に対して従来認められていた特別な減軽規定が撤廃されたとクウェート司法省が公表している。これにより、いわゆる名誉を理由とする女性親族の殺害について、男性加害者を一般的な殺人事件とは異なる形で軽く扱う規定が削除された。
この改正は、クウェートの刑事法がイスラム法を重要な背景として持ちながらも、現代的な法改正によって具体的な犯罪と刑罰の構造を変化させていることを示す事例である。したがって、死刑制度を「古くから存在する固定的な宗教刑」とだけ捉えるのではなく、成文法の改正によって対象犯罪や適用条件が変化する現行の刑事司法制度として捉える必要がある。
死刑が科される主な対象犯罪
クウェートの死刑制度を理解するうえで重要なのは、死刑が殺人だけに限定されていないことである。2025年に国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが確認した17件の死刑執行では、14人が殺人、2人が薬物取引、1人が殺人で有罪となった女性であり、少なくとも6人の外国籍者が含まれていた。
同じ2025年について確認された新たな死刑判決は15件で、その内訳は殺人10件、薬物関連犯罪4件、誘拐1件だった。したがって、実際の執行については殺人が中心である一方、死刑判決を生む犯罪類型には薬物犯罪や誘拐も含まれており、クウェートの死刑制度を「生命を奪う犯罪だけを対象とする制度」と説明することはできない。
さらに2026年にはテロ犯罪を対象とする新たな法令が制定され、死刑の対象範囲が広がったとアムネスティ・インターナショナルが分析している。このため2026年10月時点では、従来から存在する刑法上の死刑規定に加えて、薬物犯罪とテロ犯罪に関する近年の法改正を合わせて考える必要がある。
殺人・重大な暴力犯罪
死刑制度の中核に位置するのは、故意による重大な殺人である。2025年にクウェートで確認された17件の執行のうち、14人が殺人で有罪となっていたことからも、現実の執行において殺人が圧倒的な比重を占めていることが分かる。
殺人については、単純に「人を殺せば死刑」という構造ではない。故意性、計画性、犯罪態様、被害結果などが刑事責任の判断に関係し、裁判所が具体的な証拠と法定刑に基づいて判断することになるため、同じ死亡結果が発生した事件でも、適用される刑罰が必ずしも同一になるわけではない。
この点では、2025年に行われた刑法第153条の廃止も重要である。従来、この規定は、夫、父、兄弟、息子などの男性が、姦通などを理由として女性親族を殺害した場合に、通常の殺人より大幅に軽い刑を認める仕組みだったが、2025年の改正によって廃止され、この種の殺人についても終身刑または死刑の対象となった。
この改正は、死刑制度そのものを拡張したというより、従来存在した殺人に対する特別な減刑規定を撤廃したものと理解する方が正確である。つまり、社会的・文化的な理由によって特定の殺人を軽く扱っていた刑法上の例外を縮小し、重大な殺人について一般的な刑事責任を適用する方向へ法制度を変更したものと位置づけられる。
薬物犯罪
クウェートの死刑制度をめぐって近年特に注目されているのが薬物犯罪である。2025年12月に新しい麻薬・向精神物質対策法が施行され、従来の薬物関連法を廃止するとともに、一定の加重事情がある薬物犯罪について死刑を必要的刑罰とする範囲が拡大された。
新法では、加重事情を伴う薬物の製造や取引について、再犯、未成年者への販売、未成年者や精神障害者を利用した販売、権限を悪用した販売、刑務所、警察施設、薬物治療・更生施設、礼拝施設、教育機関、スポーツ施設などでの販売、さらに薬物犯罪を目的とする犯罪組織の設立・管理などが死刑の対象となる。
また、他人に薬物を強制的に使用させたり、本人に知らせず投与したりした結果として死亡させた場合も死刑の対象となり得る。さらに、他人に薬物を仕掛けてその人物を犯罪者として陥れ、その結果として相手が死刑に処された場合についても、死刑が必要的刑罰として規定されている。
一方、薬物の製造、栽培、所持、購入、交換、輸入を取引目的で行った場合や、販売、密輸などについては、すべてが自動的に死刑になるわけではない。新法ではこれらについて死刑を選択できる規定が残されており、犯罪の具体的事情によって刑罰が判断される構造になっている。
2025年の実績を見ると、クウェートで確認された17件の執行のうち2件が薬物取引によるものだった。アムネスティ・インターナショナルは、薬物犯罪を理由とする死刑執行について、国際法上の「最も重大な犯罪」に対する死刑という基準との関係で問題があると評価している。
ここで、イスラム法と薬物犯罪の関係を単純化しないことも重要である。クウェートの薬物犯罪に対する死刑は、古典的なイスラム法上の固定刑がそのまま適用されているというより、現代国家として制定された薬物規制法によって具体的な犯罪類型と刑罰が定められている部分が大きい。
宗教的・社会的冒涜(モラル犯罪)
クウェートには宗教に対する侮辱や宗教的人物への中傷などを処罰する法規が存在する。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教という3つの一神教に対する中傷や、イスラム教およびユダヤ教・キリスト教における宗教的人物の名誉を傷つける行為については、最高10年の拘禁刑が規定されていると米国務省の宗教自由に関する報告書は説明している。
ただし、ここで非常に重要な区別がある。宗教への冒涜や背教が存在することと、それ自体がクウェートで死刑になることは同じではない。
少なくとも近年の公的資料では、イスラム教からの離脱そのものについて刑事上の死刑が明文で規定されているとは確認されていない。背教者には相続など一定の法的効果が生じ得るものの、背教そのものを犯罪として死刑に処する規定が存在するという説明は、クウェートの現行制度を正確に表していない。
宗教的表現については、宗教への侮辱、宗派間の対立を扇動する行為、宗教的人物を侮辱する表現などに刑事罰が設定されている。特に出版物や放送、電子的な表現についても規制が及ぶため、宗教・社会規範に関係する刑事法制は死刑制度とは別に検討する必要がある。
したがって、「クウェートでは冒涜や背教が死刑になる」という一般化には注意が必要である。現行制度を整理すると、宗教的侮辱や社会的道徳に関する犯罪には相当の刑事罰が存在する一方、背教そのものを死刑とする刑罰規定は確認できず、死刑の主要な実際的対象は殺人、薬物犯罪、そして近年ではテロ関連犯罪などに置かれている。
テロ犯罪への拡大
2026年3月15日、クウェート首長はテロ犯罪対策に関する法令第47号を制定した。この法令についてアムネスティ・インターナショナルは、テロ行為の定義を広げるとともに、従来より死刑の適用範囲を大幅に拡張したと分析している。
新制度では、クウェート法上で本来終身刑の対象となる犯罪が「テロ行為」に分類された場合、死刑を必要的刑罰とする仕組みが設けられた。アムネスティ・インターナショナルは、その例として、戦時に国家安全保障や公共秩序を損なう虚偽情報の拡散、敵対国家との諜報活動に関連する行為、船舶やその貨物を奪取する目的の攻撃などを挙げている。
この2026年の変化は、クウェートの死刑制度を考えるうえで極めて重要である。従来の死刑制度が主として生命侵害などの重大犯罪を中心としていたのに対し、国家安全保障を理由とする犯罪類型についても死刑を必要的に適用する領域が広がったからである。
一方、この法令の内容については人権上の重大な議論が生じている。アムネスティ・インターナショナルは、死刑の適用対象となる「テロ行為」の定義が広く曖昧であり、意図的な殺人を伴わない犯罪まで死刑の対象になり得るとして、国際人権法上の問題を指摘している。
ここでは、クウェート政府の安全保障上の立場と人権団体の評価を区別する必要がある。政府側から見ればテロや重大な薬物犯罪への厳罰化は治安維持のための刑事政策として位置づけられるが、人権団体は死刑の適用範囲を「最も重大な犯罪」に限定すべきだとの国際的基準から問題を指摘しており、両者の法的・政策的立場には明確な違いがある。
以上を整理すると、クウェートの死刑制度には3つの大きな層がある。第1は殺人を中心とする伝統的な重大犯罪、第2は2025年の新法によって死刑適用が拡大された薬物犯罪、第3は2026年のテロ対策法によって適用範囲が広げられた国家安全保障関連犯罪である。
この構造を見ると、クウェートの死刑制度を「イスラム法に基づく宗教刑」とだけ説明することには限界がある。実際の死刑執行を生み出しているのは、イスラム法を重要な法源とする憲法体系を背景にしながら、現代の成文刑法、薬物規制法、テロ対策法が具体的な犯罪類型と刑罰を設定するという複合的な法体系である。
法的手続と免除規定
クウェートでは、死刑判決は通常の刑罰よりも厳格な手続的保障の対象となっている。クウェート政府が国連に提出した説明によれば、死刑を科すことができるのは重大犯罪に限られ、死刑判決を言い渡す裁判所には高度な手続上の慎重さが求められ、さらに判決後も複数の司法審査と首長による最終的な判断が予定されている。
憲法上も、刑罰については明確な法律上の根拠を必要とする原則が置かれている。憲法第32条は、犯罪および刑罰は法律によって定められなければならないとし、第34条は被告人について、法的な裁判で有罪が証明されるまでは無罪と推定されること、さらに防御権を行使するための必要な保障を受けることを定めている。
このため、イスラム法を重要な法源とするクウェートであっても、宗教的規範を理由として行政機関が直接死刑を執行する制度ではない。犯罪の成立と刑罰は成文法に基づいて裁判所が判断し、その判決が確定するまで複数の司法上の手続を経るという、近代的な刑事司法制度の枠組みに組み込まれている。
司法プロセスと上級審による審査
死刑判決については、被告人自身が控訴しない場合であっても、裁判所が職権で上級審に事件を送る仕組みが設けられている。クウェート政府の国連への説明によれば、刑事裁判所が死刑判決を言い渡した場合、被告人から控訴が提起されなかったとしても、判決から1か月以内に控訴裁判所へ事件を送付することが刑事訴訟法第211条によって定められている。
さらに、死刑判決事件については検察当局による破棄申立ても必要とされている。クウェート政府は、1972年法律第40号第14条に基づき、死刑判決が出た事件について検察当局が破棄裁判所に申し立てる制度があると説明しており、被告人本人の意思だけに司法審査を委ねない構造になっている。
この制度の意味は大きい。死刑は誤判が発生した場合に回復できない刑罰であるため、クウェートでは死刑判決を通常の有罪判決よりも慎重に確定させる仕組みが設けられているのである。
死刑判決が出た直後に執行されるわけではない点も重要である。クウェート政府の説明では、控訴、破棄申立て、恩赦または減刑の申請などについて最終的な判断がなされるまで、死刑の執行は停止される。
死刑判決と首長の承認
クウェートの死刑制度を特徴づけるもう一つの要素が、首長による承認である。刑事訴訟法第217条に基づき、死刑判決は最終的な司法判断を経ただけでは直ちに執行されず、首長が承認することが必要とされている。
死刑判決を受けた者は、首長による判断が出るまで刑務所に収容される。首長は判決を承認して執行に進ませることも、刑を減軽することも、恩赦を与えることもできるとクウェート政府は説明している。
ここでいう首長の権限は、裁判所の判決そのものを通常の司法審査とは別の形で再審理する権限とは区別する必要がある。司法機関が有罪と死刑を判断した後に、国家元首が刑罰を実際に執行するか、減刑または恩赦を行うかを判断するという構造であり、司法判断と行政的・恩赦的判断が段階的に分かれている。
クウェート憲法第67条も、首長が個人に対する刑罰の免除または減刑を行う権限を持つことを定めている。したがって、死刑制度では裁判所による有罪判決だけでなく、首長による恩赦・減刑権限も制度全体の一部を構成している。
死刑が免除されるケース
クウェートでは、一定の人物について死刑を科すこと、または執行することを制限する規定が存在する。特に重要なのが、犯罪時の年齢、妊娠、精神状態などに関する例外である。
まず未成年者については、2017年法律第1号の少年法第15条により、少年に死刑または終身刑を科すことは禁止されている。15歳以上18歳未満で死刑または終身刑に相当する犯罪を行った少年については、最高15年の拘禁刑が科される制度になっている。
したがって、現在のクウェート法制では、犯罪を行った時点で18歳未満だった者に対して死刑を適用することはできない。これは判決時の年齢ではなく、原則として犯罪行為を行った時点の年齢を基準にすることが重要である。
この点は国際人権法との関係でも重要である。国際人権法では犯罪時18歳未満の者に対する死刑を禁止する原則が確立しており、クウェートの現行少年法もこの年齢基準を採用している。アムネスティ・インターナショナルも、犯罪時18歳未満の者に対する死刑執行は国際人権法で禁止されていると整理している。
妊婦に対する特別規定
妊婦についても死刑執行には特別な制限がある。クウェート政府が国連に提出した説明では、妊娠中の女性について死刑を執行することは禁止されており、出産した子どもが生存している場合には死刑の執行を停止し、判決を言い渡した裁判所に事件を戻して終身刑へ変更する制度が示されている。
この規定は、単に執行日を妊娠期間の終了まで延期する制度とは異なる。クウェート政府の国連提出資料では、出産後に死刑を終身刑へ減刑する仕組みとして説明されており、妊婦に対して死刑をそのまま執行することを認めない制度設計になっている。
ただし、クウェートの過去の法制度については、妊娠・出産後の執行停止期間に関する説明に時期による違いが見られる。したがって、過去の資料をそのまま2026年の現行法として引用するのではなく、現在適用される少年法、刑法、刑事訴訟法および矯正施設関連法の条文を区別して扱う必要がある。
精神状態による制限
精神状態も死刑制度における重要な制限事項である。クウェート刑法第22条について政府は、精神的能力を失っている者について死刑を科すことができないと説明している。
さらに、刑事手続の段階で被告人が精神疾患などによって自らを防御する能力を欠いている場合についても、死刑の適用・執行に一定の制限が置かれている。これは犯罪を行った時点の責任能力と、裁判や執行の段階での訴訟能力を区別して考える必要があることを示している。
このような規定は、死刑を単純に「犯罪が成立すれば自動的に執行される刑罰」として扱っていないことを示す。犯罪成立の判断だけでなく、行為時の責任能力、裁判時の防御能力、妊娠、年齢など、個人の法的状態についても刑罰適用の可否を確認する必要がある。
被害者側による免除とイスラム法上の考え方
殺人事件については、イスラム法上の報復刑の考え方がクウェート政府による死刑制度の説明に登場する。政府は、クウェートの刑事法に死刑を取り入れている根拠としてイスラム法を挙げ、その背景に報復刑の考え方があると説明している。
ただし、これを「被害者遺族が自由に死刑を決定できる制度」と理解するのは正確ではない。現代のクウェートでは、犯罪の認定と刑罰の判断は国家の司法制度を通じて行われ、裁判所の判決、上級審による審査、首長による承認などが組み合わされている。
イスラム法上の報復刑という概念が法制度の背景に存在することと、現代国家における死刑執行手続がそのまま古典的な宗教法廷の手続で行われることは別問題である。この区別をしなければ、クウェートの法体系を「宗教法だけで刑罰を決める制度」と誤って理解することになる。
死刑制度における手続的保障の意味
以上を総合すると、クウェートの死刑制度には、少なくとも複数段階の安全装置が存在する。死刑判決、控訴審による審査、破棄審査、恩赦・減刑の可能性、首長による承認という段階を経なければ、最終的な執行には至らない仕組みである。
一方で、国連の拷問禁止委員会は、クウェートにおける死刑の対象犯罪が薬物犯罪などにも及んでいることについて、国際人権法上の「最も重大な犯罪」という基準との関係で懸念を示してきた。つまり、クウェート政府が「手続的保障」を強調するのに対して、国連の人権機関は「そもそもどの犯罪まで死刑を認めるべきか」という実体法上の問題を指摘してきたのである。
この違いは、クウェートの死刑制度を分析するうえで欠かせない。制度の内部には慎重な司法手続が設けられている一方、国際人権法の観点からは死刑そのものの対象範囲について別の評価基準が存在しており、両者は同じ問題ではない。
したがって、クウェートの死刑制度を「厳格な手続があるから問題がない」と単純に評価することも、「イスラム法に基づく制度だから司法手続が存在しない」と説明することも適切ではない。現実には、宗教的・憲法的な法的基盤、成文刑法、刑事訴訟上の審査、少年・妊婦・精神状態に関する例外、そして首長の恩赦・減刑権限が重なり合う複層的な制度となっている。
執行の方法と実態
クウェートでは死刑制度が法律上維持されているだけでなく、実際の執行が行われている。アムネスティ・インターナショナルの集計によると、2024年には6件の死刑執行が確認され、2025年には17件が確認されたため、1年間で約3倍に増加したことになる。
2025年の17件という数字は、クウェートの近年の死刑運用を考えるうえで重要である。アムネスティ・インターナショナルは、2025年に執行された17人のうち14人が殺人、2人が薬物関連犯罪、1人がその他の犯罪によるものと記録しており、女性1人の執行も確認している。
ただし、国際機関が公表する執行件数は、クウェート政府が保有するすべての死刑関連情報と必ずしも一致するわけではない。アムネスティ・インターナショナル自身も、各国について合理的に確認できた事例を集計しており、情報公開が限定されている国では実際の件数を完全には把握できない可能性があると説明している。
したがって、本稿で示す執行件数は「その年にクウェートで実施された死刑の絶対数」と断定するより、「国際的に確認された最低限の件数」と理解する方が適切である。これは死刑制度を数量的に分析する際の重要な留意点である。
執行方法
クウェートにおける死刑の執行方法として中心となっているのは絞首刑である。近年の国際的な死刑統計でも、クウェートの執行は絞首刑として記録されており、2025年に世界で確認された執行方法の一つとしても絞首刑が挙げられている。
ここで注意すべきなのは、イスラム法を主要な法源とすることと、現在の死刑執行方法が宗教的儀式として行われていることは同じではないという点である。クウェートの死刑は、現代の刑事司法制度における刑罰として、成文法および刑事手続に基づいて執行される。
クウェート政府は国連への説明の中で、死刑制度について、犯罪者を処罰するだけでなく、厳格な手続的保障を設けていることを強調している。死刑判決後に上級審による審査を経て、最終的には首長による承認、減刑または恩赦の判断が行われるという構造は、執行方法そのもの以上に制度上重要な部分である。
したがって、クウェートの死刑を分析する場合、「絞首刑である」という一点だけを見るのではなく、どの段階を経て執行に至るのかを併せて確認する必要がある。刑事裁判、上訴・破棄審査、首長の承認、執行という複数の段階が連続して初めて刑罰が現実化するためである。
執行場所
クウェートの死刑執行については、刑務所施設が重要な場所となる。公開されている国際資料やクウェート政府の説明からは、死刑は刑務所内に設けられた執行施設で行われる制度として理解されている。
これは公開処刑を基本とする制度とは性格が異なる。死刑囚を刑務所から一般社会の公開空間へ移し、多数の市民の面前で処刑するのではなく、刑務所を中心とする国家管理下の施設で執行する仕組みである。
また、2025年の世界的な死刑執行状況を見ると、公開処刑が確認された国は限定されていた。アムネスティ・インターナショナルは2025年に少なくとも17件の公開処刑を確認しているが、その対象として挙げられているのはアフガニスタンとイランであり、クウェートは含まれていない。
この点からも、クウェートの死刑執行は、公開処刑を制度の中心に据えたものではないと整理できる。ただし、個々の執行に関する詳細情報がすべて公表されているわけではないため、執行施設の具体的構造や当日の手続については、公的資料で確認できる範囲を超えて推測すべきではない。
執行前後の国家手続
死刑の執行は、確定判決が存在するだけでは直ちに実施されない。前回確認したように、死刑判決については上級審による審査が行われ、さらに首長による承認や減刑、恩赦の可能性が存在する。
この点は、クウェートの制度を理解するうえで特に重要である。死刑判決を受けた者が存在することと、その人物について死刑執行が確定していることは同じではなく、判決後にも国家による最終的な判断の段階が残されているからである。
クウェート政府は、死刑制度に関する国連への報告で、死刑判決に対する司法上の保障を多数設けていると説明している。こうした手続には、被告人の上訴だけでなく、死刑事件について職権的に上級審の審査を受ける仕組みも含まれている。
この構造は、死刑制度の「司法的側面」と「国家元首による恩赦・減刑」という2つの要素を明確に分けている。裁判所は犯罪事実と刑罰を判断し、首長はその最終的な刑罰について承認、減刑、恩赦を行うことができるという制度的分担である。
執行の再開・動向
クウェートでは、死刑執行が長期間まったく行われていたわけではないが、一定期間の停止と再開を繰り返してきた。近年では2022年に執行が再開され、その後も死刑執行が続いていることから、現在のクウェートを「事実上の死刑停止国」と分類することはできない。
特に2022年11月には、2017年以来となる死刑執行が行われ、5人が執行されたと報じられた。その後、2023年には執行が確認されず、2024年に6件、2025年に17件と再び実施件数が増加した。近年の推移を見ると、クウェートでは死刑の執行停止と再開が政策上の重要な変化として現れている。
2024年の6件から2025年の17件への増加は、単なる小幅な変動とは言いにくい。アムネスティ・インターナショナルの統計では、クウェートの執行件数は約3倍となり、2025年の世界的な死刑執行増加の中でも顕著な変化の一つとして記録された。
ただし、2025年の17件という数字から、今後も同じペースで執行が増えると予測することはできない。死刑執行の件数は、確定した死刑判決の数、上級審の判断、首長による承認・減刑、恩赦、政治・治安情勢など複数の要因に左右されるためである。
2025年の執行増加をどう見るか
2025年のクウェートにおける17件の執行は、同国の死刑制度を分析するうえで重要な転換点となっている。2024年の6件から大幅に増えただけでなく、薬物犯罪による執行も確認されており、死刑制度が現実の刑事政策として機能していることを示している。
また、2025年には新たな薬物犯罪法が施行され、特定の加重事情を伴う薬物犯罪について死刑の適用範囲が広げられた。したがって、2025年の執行増加を分析する場合、単純に裁判所が以前より厳しくなったと解釈するのではなく、犯罪類型そのものに対する法改正と、既存の死刑判決が執行段階に到達したことを分けて考える必要がある。
さらに2026年には、テロ犯罪に関する法令によって死刑の適用範囲が拡張されたと人権団体が指摘している。これは、薬物犯罪と国家安全保障関連犯罪という異なる領域で、死刑制度の適用可能性が近年拡大していることを示す動きである。
一方、国際人権法の観点からは、死刑を故意による殺人など「最も重大な犯罪」に限定すべきだという考え方が存在する。アムネスティ・インターナショナルは、薬物犯罪を理由とする死刑執行についてこの基準との不一致を指摘しており、クウェート政府の国内法上の説明と国際人権機関の評価には明確な隔たりがある。
2026年10月時点での位置づけ
2026年10月時点でクウェートの死刑制度を整理すると、制度は「廃止へ向かっている段階」ではなく、少なくとも法律上も実務上も存続している。2025年には17件の執行が確認され、2026年にはテロ犯罪について死刑適用範囲を拡大する法令が制定されたため、直近の法政策だけを見る限り、死刑制度を縮小する方向よりも、一定の犯罪領域で維持・拡張する動きが確認できる。
もっとも、これを「クウェートが死刑制度全体を無制限に拡大している」と表現するのも適切ではない。未成年者、妊婦、精神的能力を欠く者などについては明確な制限が存在し、死刑判決についても上級審による審査と首長による承認・減刑・恩赦という複数の段階が設けられているからである。
したがって、現在のクウェートは、死刑を完全に廃止した国でも、死刑を例外的にしか適用しない事実上の停止国でもない。イスラム法を主要な法源とする憲法秩序の下で、成文刑法と特別刑法によって死刑対象犯罪を定め、司法手続を経たうえで国家元首の承認を必要とし、実際に執行まで行っている国と位置づけるのが最も実態に近い。
今後の展望
今後の焦点の一つは、2025年の薬物犯罪法改正と2026年のテロ犯罪関連法令が、実際の死刑判決と執行件数にどの程度影響するかである。特に新しい犯罪類型について死刑判決が増加する場合には、国内法上の治安政策と国際人権法上の死刑制限との緊張がさらに明確になる可能性がある。
もう一つの焦点は、死刑制度そのものに対する国際的な圧力と、クウェート国内の法体系との関係である。クウェート政府はイスラム法を主要な法源とする憲法上の構造を死刑制度の根拠の一つとして説明している一方、国際人権機関は死刑の対象犯罪をより限定するよう求めており、今後もこの2つの法的理念の調整が論点となる。
特に重要なのは、「死刑を廃止するか維持するか」という二択だけで今後を判断しないことである。対象犯罪の範囲、死刑判決の数、恩赦・減刑の運用、司法審査の実効性、被告人の防御権、外国籍被告人の扱いなどを個別に追跡することで、クウェートの死刑制度が実際にどの方向へ変化しているのかをより正確に把握できる。
2026年10月時点では、少なくとも2024年から2025年にかけて執行件数が大幅に増加し、さらに2026年には死刑対象犯罪を拡張する法的動きが確認されている。このため、今後の制度を検証する際には、単なる「存続」という表現ではなく、どの犯罪について、どのような手続を経て、どの程度実際に死刑が執行されているのかという実証的な視点が必要になる。
2026年10月時点でクウェートの死刑制度を展望すると、当面の焦点は制度そのものが廃止されるかどうかだけではなく、どの犯罪について死刑が適用されるのか、そして実際の執行がどの程度行われるのかに移っている。2024年に6件、2025年に17件の死刑執行が確認されており、少なくとも直近の実績からは、死刑が単なる法典上の刑罰ではなく、現実に運用されている制度であることが確認できる。
特に注目されるのが2025年12月に施行された新しい薬物犯罪関連法と、2026年3月に制定されたテロ犯罪対策法令である。前者は一定の加重事情を伴う薬物犯罪について死刑を必要的刑罰とする範囲を拡大し、後者についてはアムネスティ・インターナショナルがテロ犯罪に関する死刑の適用範囲を広げたと指摘している。
このため、今後のクウェートの死刑制度を検証する際には、殺人など従来からの死刑対象犯罪と、新たに拡大された薬物犯罪・テロ関連犯罪を区別する必要がある。法律上の対象範囲が拡大しても、それが直ちに同数の死刑判決や執行につながるとは限らないため、今後は判決数、確定判決数、首長による減刑・恩赦の件数、実際の執行数を継続的に追跡する必要がある。
国内法と国際人権法の緊張関係
クウェートの死刑制度をめぐる最大の論点の一つは、国内法上の死刑制度と国際人権法上の死刑制限との関係である。クウェート政府は、憲法第2条がイスラム法を立法の主要な源泉としていることを踏まえ、死刑制度が国内の法体系に組み込まれていると説明している。
一方、国連の人権機関や国際人権団体は、死刑を認める場合であっても、国際人権法上は「最も重大な犯罪」に限定すべきだという立場を示している。薬物犯罪についてもこの基準との関係が問題となっており、クウェートで薬物犯罪を死刑対象とすることについて国際的な批判が存在する。
ここで重要なのは、国際人権機関の見解とクウェート国内法の現状を混同しないことである。国際機関が特定の刑罰制度を問題視しているとしても、それによってクウェート国内の刑法が自動的に無効になるわけではなく、逆に国内法が死刑を認めているからといって国際的な人権上の論点が消えるわけでもない。
つまり、クウェートの死刑制度には、国内法としての有効性と、国際人権法上の適合性をめぐる評価という異なる分析軸が存在する。制度を客観的に理解するには、この2つを明確に分けたうえで、それぞれの根拠と立場を確認する必要がある。
「イスラム法だから死刑」という理解の問題
クウェートの死刑制度について最も多い誤解の一つは、「イスラム法を採用している国だから、死刑はすべて宗教法によって直接決まっている」という理解である。実際には、クウェート憲法がイスラム法を立法の主要な源泉としている一方、具体的な犯罪と刑罰は刑法、薬物犯罪関連法、テロ犯罪関連法などの成文法によって規定されている。
したがって、クウェートの法体系は「宗教法か成文法か」という単純な二分法では説明できない。イスラム法を重要な法源として認める憲法的枠組みと、近代国家として制定された成文刑法・刑事訴訟法・特別刑法が併存し、それぞれが異なる役割を果たしている。
殺人についてイスラム法上の報復刑という考え方が法制度の背景に存在することも、この構造の一部である。しかし、現代のクウェートでは、殺人事件の有罪判決や死刑判決は国家の司法制度によって処理され、上級審による審査や首長による恩赦・減刑権限が組み込まれている。
このため、クウェートの死刑制度を理解するには、宗教的な法思想と現代国家の刑事司法制度を同時に見る必要がある。イスラム法は制度の思想的・憲法的背景を理解するために不可欠だが、実際の死刑判決と執行を説明するには成文法と刑事手続まで確認しなければならない。
死刑制度の特徴を整理する
クウェートの制度には、いくつかの明確な特徴がある。第1に、死刑は法律上存続しているだけでなく、2025年には17件の執行が確認されているため、現在も実効性のある刑罰である。
第2に、殺人が実際の執行において中心的な位置を占める。2025年の17件中14件が殺人によるものであり、死刑制度の実務上の中心が生命を奪った重大犯罪にあることは統計から確認できる。
第3に、薬物犯罪にも死刑が適用され、2025年の執行では2件が薬物取引によるものだった。さらに2025年12月施行の新法によって、一定の加重事情を伴う薬物犯罪に対する死刑適用の範囲が広がったことから、この分野は今後の動向を確認する重要な領域となる。
第4に、2026年にはテロ犯罪について死刑対象が拡大したと人権団体が指摘している。これは、クウェートの死刑制度が従来の殺人中心の構造から、薬物犯罪や国家安全保障に関連する犯罪にも適用可能性を広げていることを示す重要な法政策上の動きである。
第5に、死刑判決には複数の手続的段階が設けられている。死刑判決は上級審による審査を受け、最終的には首長による承認、減刑または恩赦の可能性があり、判決が出たからといって直ちに執行される制度ではない。
免除規定が示す制度上の境界
一方、クウェートの死刑制度には明確な境界も存在する。犯罪時18歳未満の者については死刑を科すことができず、妊婦についても執行を制限する規定があり、精神的能力を欠く者についても刑法上の制限が設けられている。
特に少年については、2017年の少年法によって18歳未満への死刑適用が禁止されている点が重要である。これは死刑制度を維持する一方で、年齢という個人属性によって刑罰の上限を明確に制限する制度であり、クウェートの刑事司法が死刑をすべての重大犯罪者に一律適用する構造ではないことを示している。
また、宗教的冒涜についても慎重な整理が必要である。クウェートには宗教への侮辱などを処罰する規定が存在するが、「冒涜や背教を行えば自動的に死刑になる」という説明は、現行法の構造を正確に表していない。
まとめ
クウェートの死刑制度は、イスラム法を重要な法源とする憲法秩序の上に構築されているが、具体的な刑罰制度は成文法によって詳細に規定されている。したがって、その全体像を把握するには、イスラム法だけを見るのでも、刑法だけを見るのでも足りず、憲法、刑法、刑事訴訟法、薬物犯罪関連法、テロ犯罪関連法、少年法などを相互に確認する必要がある。
実際の死刑執行では殺人が中心となっており、2025年に国際的に確認された17件の執行のうち14件が殺人によるものだった。一方で、薬物犯罪についても死刑執行が確認され、2025年の新法によって対象範囲が拡大し、さらに2026年にはテロ犯罪に関しても死刑の適用範囲が広がったとする国際人権団体の分析が出ている。
司法手続については、死刑判決後に上級審による審査が行われ、首長による承認や減刑・恩赦の可能性も存在する。したがって、死刑判決と死刑執行は制度上明確に区別され、最終的な執行までには複数の手続段階が存在する。
同時に、犯罪時18歳未満の者、妊婦、一定の精神状態にある者などについては死刑適用または執行に制限が設けられている。このことからも、クウェートの制度は単純な宗教的報復刑ではなく、現代的な刑事司法手続と例外規定を備えた国家刑罰制度として構成されている。
2026年10月時点で最も重要な動向は、死刑制度が依然として実際に運用されていることに加え、薬物犯罪とテロ犯罪という2つの領域で死刑の適用範囲に拡大傾向が確認されていることである。一方、国際人権機関は死刑を故意の殺人など「最も重大な犯罪」に限定するよう求めており、クウェート国内法と国際人権法との間には明確な論点が残されている。
結局のところ、クウェートの死刑制度を理解するための核心は、「イスラム法だから死刑がある」という単純な説明ではない。イスラム法を主要な法源とする憲法、具体的な犯罪と刑罰を定める成文法、複数段階の司法審査、首長の承認・恩赦権、そして実際の執行という5つの要素が組み合わさって現在の制度を形成していると理解することが適切である。
参考・引用リスト
クウェート政府・公的資料
クウェート憲法
1962年制定クウェート憲法。国家の宗教、イスラム法の位置づけ、刑事責任、被告人の権利、首長の恩赦・減刑権限などについて参照した。
クウェート政府による国連人権機関提出資料
クウェートの死刑制度、死刑判決に対する上訴・破棄審査、首長による承認・恩赦、未成年者・妊婦・精神状態に関する制限について参照した。
クウェート司法省
2025年の刑法改正に関する公表資料。刑法第153条の廃止と、女性親族の殺害に関する従来の特別減刑規定の撤廃について参照した。
国際機関
国連人権高等弁務官事務所
死刑と国際人権法、「最も重大な犯罪」の範囲、薬物犯罪に対する死刑をめぐる国際的基準について参照した。
国連人権機関
クウェートに対する人権審査・条約機関による指摘。死刑対象犯罪、薬物犯罪、刑事司法上の保障などについて参照した。
国際人権団体
「2025年の死刑執行に関する年次統計」。クウェートにおける2024年・2025年の執行件数、犯罪類型、死刑判決数などの確認に使用した。
アムネスティ・インターナショナル
クウェートの2025年薬物犯罪関連法に関する資料。新法による死刑対象犯罪の拡大について参照した。
アムネスティ・インターナショナル
2026年のクウェートのテロ犯罪対策法令に関する報告。テロ犯罪に対する死刑適用範囲の拡大について参照した。
その他の専門資料
米国国務省「国際宗教自由報告書」クウェート関連資料
宗教への侮辱、宗教的人物への中傷、背教などに関するクウェートの法制度を確認するために参照した。
世界各国の憲法・法令資料を収録する国際的な憲法資料
クウェート憲法第2条、第32条、第34条、第67条などの位置づけを確認するために参照した。
