ヨルダンの死刑制度:対象犯罪の広さと国際基準の乖離
ヨルダンは2026年9月現在も死刑を法律上維持している国である。長期間の事実上の執行停止を経験してきたものの、2014年、2017年、2026年に執行が行われており、モラトリアムは法的な死刑廃止を意味しない。

現状(2026年9月時点)
ヨルダンは2026年9月時点で、死刑を法律上存置している国である。国際的な分類でも死刑存置国に位置付けられており、殺人、テロリズム、一定の国家安全保障犯罪、薬物犯罪などについて死刑を科し得る法制度が残されている。
ただし、ヨルダンの死刑制度を理解する際には、「法律上死刑を維持していること」と「実際に死刑を執行してきた頻度」を区別する必要がある。ヨルダンでは長期間にわたって執行が抑制され、特に2017年以降は執行が確認されない状態が続いていたが、2026年6月21日に6人が絞首刑に処され、約9年ぶりに執行が再開された。
2026年6月の執行は、ヨルダンの死刑制度をめぐる従来の評価を大きく変える出来事となった。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、執行された6人の事件にはテロリズム関連事件2件と薬物密売関連事件3件が含まれ、いずれも警察官または治安部隊員の死亡につながった暴力行為を伴っていた。
したがって、2026年9月時点のヨルダンについては、「死刑を法律上残しているが、長期間ほぼ執行していない国」と単純に位置付けることはできない。むしろ、長期間の事実上の執行停止から再執行へ移行したこと、その対象にテロリズムや薬物犯罪が含まれていることを踏まえ、制度そのものと運用の双方を検討する必要がある。
ヨルダンにおける死刑制度の現状と対象犯罪の広さ
ヨルダンは1975年に国際人権規約の締約国となり、生命に対する権利を定める第6条を含む国際人権上の義務を負っている。ヨルダン政府は国連への報告において、自国の死刑は「最も重大な犯罪」に限定され、国際人権基準と整合しているとの立場を繰り返し示してきた。
一方、国連人権委員会は過去のヨルダン審査において、国内法に死刑対象犯罪が広く残されており、その一部が国際人権規約第6条の「最も重大な犯罪」の基準を満たしていないとの懸念を示してきた。さらに、死刑が一部の犯罪について義務的に科される規定や、死刑判決に至る裁判手続についても問題を指摘している。
ここにヨルダンの死刑制度をめぐる主要な論点がある。国内法上は重大な犯罪への厳格な刑罰として構成されている一方、国際人権法上は「重大な犯罪」という一般的な意味ではなく、意図的な殺人を伴う極めて重大な犯罪に限定するという、より狭い解釈が採用されているからである。
国連人権委員会の一般的意見第36号は、「最も重大な犯罪」を意図的な殺人を含む極めて重大な犯罪に限定して解釈すべきだとしている。そのうえで、薬物犯罪、性的犯罪、誘拐、強盗、政治的・経済的犯罪など、重大ではあっても意図的かつ直接的な死亡をもたらさない犯罪については、死刑の根拠とすることはできないとの立場を示している。
この基準から見ると、ヨルダンの問題は単純に「死刑を存置しているか否か」にとどまらない。死刑を科すことが可能な犯罪類型そのものが国際基準より広く設定されている可能性があり、さらに国家安全保障を理由とした特別裁判所で死刑判決が出され得ることから、犯罪構成要件と裁判手続の双方を検討する必要がある。
主な対象犯罪
ヨルダンの死刑対象犯罪は、一般的な殺人だけに限定されていない。殺人など生命を直接侵害する犯罪に加え、テロリズム、国家の安全保障に関係する犯罪、一定の薬物犯罪、未成年者に対する重大な性犯罪などにも死刑規定が存在してきた。
過去のヨルダン政府による国連への説明では、死刑の対象として殺人、テロリズム、未成年者に対する強姦などが挙げられている。また、2026年に国連の特別手続がヨルダンに示した懸念では、改正されたテロリズム対策法の複数の条文について、死刑につながる犯罪類型が国際人権規約第6条の基準を超えている可能性が具体的に指摘されている。
特に重要なのは、死刑対象犯罪のなかに「結果として死亡が生じた」ことを理由として死刑につながり得る犯罪が含まれている点である。国連側は、死亡という結果だけでは、必ずしも意図的殺人を伴う「最も重大な犯罪」には該当しないと指摘している。
また、テロリズム関連法制には、実際に死者や負傷者が発生していない場合でも、テロ組織の設立、運営、指導などについて死刑または終身刑につながり得る規定が存在すると国連側は問題視している。この点は、ヨルダンの死刑制度を「犯罪の結果として人命が失われた場合に限る制度」と理解することができないことを示している。
殺人
殺人は、国際人権規約第6条の「最も重大な犯罪」という基準との関係で、死刑の対象となり得る犯罪の中心に位置する。国連人権委員会も、意図的な殺人を伴う極めて重大な犯罪については、厳格な条件を満たす限り、死刑制度を残している締約国に対して直ちに全面的な執行禁止を要求するという構造にはしていない。
しかし、殺人事件であれば自動的に国際基準を満たすわけではない。死刑判決を科す場合には、個別の犯罪行為の重大性、故意性、被告人の関与の程度、裁判の公正性などを考慮する必要があり、適正手続に重大な欠陥があれば、死刑そのものが恣意的な生命剥奪となる可能性がある。
ヨルダンについては、過去の国連人権委員会審査でも、死刑が義務的に科される犯罪の存在や、強制された自白を基礎として死刑判決が下されたとの申し立てが問題とされてきた。したがって、殺人についても「犯罪類型が国際基準上許容され得ること」と「具体的な死刑判決が国際基準に適合すること」は別々に検証する必要がある。
テロリズム関連犯罪
テロリズム関連犯罪は、ヨルダンの死刑制度をめぐる議論で特に重要な位置を占める。ヨルダンはシリア、イラクなどとの地理的関係を持ち、国内の安全保障政策においてテロリズム対策を重視してきたため、テロリズム関連法制と死刑制度が結び付いている。
2026年6月21日に執行された6人のうち2人について、ヒューマン・ライツ・ウォッチはテロリズム関連の有罪判決を受けていたと報告している。今回の執行は、単に過去の法律上の死刑規定が存在することを示したのではなく、テロリズム関連事件に対して実際に死刑を執行する運用が2026年に再び確認されたという点で重要である。
一方、国連の特別手続は2026年のヨルダンに対する書簡で、テロリズム対策法の複数の規定について、行為の結果として死亡が生じた場合に死刑を科し得ることを問題視した。さらに、テロ組織の設立、運営、指導などについて、死亡や負傷が発生していなくても死刑または終身刑につながり得る規定についても、国際人権規約第6条との整合性に疑問を呈している。
この点は、次回以降の検討で中心的に扱う必要がある。すなわち、テロリズムという犯罪の重大性そのものを論じるのではなく、テロリズム対策を理由として死刑の対象となる行為をどこまで広げることが国際人権法上許されるのか、という問題である。
性犯罪
ヨルダンでは、重大な性犯罪についても死刑規定が存在してきた。過去のヨルダン政府の国連報告では、未成年者に対する強姦が死刑の対象となる重大犯罪の一例として明示されている。
性犯罪は被害者に重大な身体的・精神的被害を与え得る犯罪であり、国内法上重い刑罰を科すこと自体は各国の刑事政策の問題として存在する。しかし、国際人権規約第6条の解釈では、性的犯罪が重大であるというだけでは死刑の対象となる「最も重大な犯罪」には該当しないとされている。
したがって、ヨルダンにおける性犯罪への死刑適用を検討する場合には、被害の重大性と国際法上の死刑許容範囲を区別することが不可欠となる。この区別が、ヨルダンの国内刑法と国際人権基準との間に存在する構造的な緊張を理解する重要な手掛かりとなる。
国家治安・薬物犯罪
国家安全保障に関する犯罪と薬物犯罪も、ヨルダンの死刑制度を考えるうえで無視できない。特に2026年の執行では、6人のうち3人が薬物密売関連事件で有罪判決を受けており、ヨルダンにおいて薬物犯罪が死刑制度と現実に結び付いていることが確認された。
さらに2026年6月には、ヨルダン政府が薬物関連犯罪について死刑の適用範囲を拡大する計画を示したと報じられている。国際的な人権機関は、薬物犯罪に対する死刑について、国際人権法が求める「最も重大な犯罪」の範囲を超えるとの立場を示しており、この政策動向は今後の重要な争点となる。
ここでは、薬物犯罪の深刻性と死刑の国際的な許容範囲を混同しないことが重要である。薬物取引が社会に重大な被害をもたらし得るとしても、国際人権規約第6条の解釈では、意図的な殺人を伴わない薬物犯罪に死刑を科すことは「最も重大な犯罪」の要件との間に明確な緊張関係を生じさせる。
また、2026年の執行対象となった薬物事件には治安部隊員の死亡につながった暴力行為が含まれていたと報告されているため、個別事件では単純な「薬物犯罪だけ」の事案と区別する必要がある。ただし、国際基準上は薬物犯罪そのものと、意図的な殺人を伴う別個の犯罪行為を法的にどのように評価するかが重要となる。
執行の動向とモラトリアムの経緯
ヨルダンの死刑制度を検討する場合、法律上の存置と実際の執行を分けて考える必要がある。ヨルダンでは2000年代以降、死刑を法律上維持しながらも執行を長期間停止する時期があり、2014年末の執行再開、2017年の大量執行、その後の再停止、そして2026年6月の再執行という経過をたどっている。
ヨルダンでは2014年12月まで約8年間、死刑執行が行われない事実上のモラトリアムが続いていた。この期間については、死刑制度そのものを廃止したわけではなく、死刑判決を維持しながら執行を停止するという運用が取られていた点が重要である。
この事実上の執行停止は、ヨルダンが中東地域において死刑の執行を抑制する国の一つとして認識される背景となった。国際人権団体の評価では、ヨルダンは長期間にわたって死刑執行を停止しており、周辺諸国と比較して死刑制度の運用を縮小する方向に進む可能性がある国と見られていた。
しかし、2014年12月に状況が変化した。ヨルダン当局は殺人罪で有罪となった11人を絞首刑にし、約8年間続いた事実上のモラトリアムを終了させた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これを死刑執行の再開として記録しており、その後の2015年にも2人の執行が確認されている。
この再開は、死刑制度が単に法律上残っていたという段階から、国家が実際に死刑を刑罰として再び利用する段階へ移ったことを意味する。特に、長期間の停止を経て執行を再開したことから、ヨルダンの死刑政策が固定的なものではなく、治安情勢や重大犯罪への対応と結び付いて変動してきたことが分かる。
2017年の15人執行
ヨルダンの死刑制度における最大の転換点の一つが、2017年3月4日の15人に対する執行である。15人はいずれもヨルダン人男性で、首都アンマン南方のスワカ刑務所で絞首刑にされたと報告されている。
この15人のうち10人は、2003年から2016年までに発生した6件のテロリズム関連事件について有罪判決を受けていた。残る5人は殺人事件で有罪判決を受けており、2017年の大量執行では、一般的な殺人事件とテロリズム関連犯罪が同時に死刑執行の対象となった。
2017年の執行は、単純な犯罪抑止政策という観点だけでは説明できない。テロリズム関連事件に対する死刑執行が10人に及んだことから、国家安全保障上の犯罪に対する刑事司法政策として死刑が利用された側面が強く、その後のヨルダンの死刑制度と国家安全保障裁判所の関係を考えるうえでも重要な事例となった。
アムネスティ・インターナショナルによると、ヨルダンは2017年に15件の死刑執行を行い、同年に執行を再開した国の一つとして記録されている。同団体は2017年の中東・北アフリカ地域について、死刑が国際人権法上の「最も重大な犯罪」の基準を満たさない犯罪に利用される事例や、死刑事件の裁判が国際的な公正な裁判の基準を満たさない問題を指摘していた。
2018年以降の再停止
2017年に15人を執行した後、ヨルダンでは再び執行が行われなくなった。アムネスティ・インターナショナルの統計では、2018年のヨルダンにおける確認された死刑執行は0件であり、少なくとも16件の死刑判決が記録されている。
この時期の特徴は、死刑制度そのものが廃止されたわけではなく、死刑判決を出す司法制度が存続する一方で、実際の執行が再び停止したことである。したがって、2018年以降のヨルダンについて「死刑廃止国」と表現することはできず、国際的な分類では現在も法律上の死刑存置国として扱われている。
このような状態は、法律上の制度と実際の国家運用との間に一定の距離が存在することを意味する。執行停止が続けば、死刑制度は実質的に縮小されたように見えるが、死刑判決を受けた者が存在する以上、制度そのものが消滅したわけではなく、政府の政策転換によって執行が再開される可能性は残る。
実際、その可能性は2026年に現実のものとなった。2026年6月21日、ヨルダン当局は6人を絞首刑にし、2017年以来初めてとなる集団的な死刑執行を実施した。
2026年6月の執行再開
2026年6月21日に執行された6人は、全員がヨルダンの国家安全保障裁判所で有罪判決を受けていた。同裁判所は軍事的性格を持つ特別裁判所であり、軍人裁判官だけでなく民間人裁判官も含む構成となっている。
6人の事件のうち2件はテロリズム関連事件であり、3件は薬物密売関連事件だった。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、6件はいずれも警察または治安部隊員が死亡する暴力行為を伴っていたため、今回の執行を単純な薬物犯罪やテロリズム犯罪一般に対する執行と理解するのではなく、具体的な事件の事実関係を区別して検討する必要がある。
そのうち2人は、2018年8月にフヘイス近郊で治安部隊の巡回隊を狙った爆弾攻撃などに関係した、いわゆる「ソルト細胞」事件で有罪となった。政府発表によれば、この攻撃とその後の容疑者拘束作戦によって、憲兵など計6人が死亡し、さらに6人が負傷したとされている。
別の1人は、2022年12月に南部マアーンで警察部隊を襲撃し、マアーン警察局の副局長を務めていた警察大佐を死亡させた事件に関与したとして執行された。残る3人についても、麻薬対策活動中の法執行官の死亡に関連する事件で有罪判決を受けていたと政府側から説明されている。
ヨルダン政府によると、これらの死刑判決は最終的に破棄されることなく、破棄院による確認、閣議による承認、国王の命令を経て執行された。この手続は、ヨルダン国内法上、死刑判決の確定から執行までに複数の国家機関が関与する仕組みが存在することを示している。
一方で、2026年の再執行は単なる過去事件の処理にとどまらない可能性がある。2026年6月、ヨルダン政府が一定の薬物犯罪について死刑対象を拡大する計画を示したとアムネスティ・インターナショナルが報告しており、今回の執行と合わせると、死刑制度を再び積極的に運用する方向への転換が生じていることが示唆される。
モラトリアムの意味
ヨルダンの事例で注目すべきなのは、モラトリアムが必ずしも死刑制度そのものの廃止に直結していないことである。2006年頃から2014年末までの約8年間、そして2017年の大量執行後から2026年6月までの約9年間、執行が行われない期間が存在したが、いずれも法律上の死刑制度は維持された。
この点から見ると、ヨルダンのモラトリアムは「死刑制度を廃止するための法的措置」というより、死刑判決の執行を政策的に抑制する措置として理解する方が正確である。したがって、モラトリアム期間中にも死刑判決そのものが消滅するわけではなく、死刑制度の潜在的な執行可能性は維持されていた。
この構造は、死刑制度をめぐる国際的な議論において重要である。国連総会は2012年の決議で、死刑の執行に関するモラトリアムの設定、死刑の対象犯罪の段階的縮小、最終的な廃止を視野に入れた措置を各国に求めているが、モラトリアムだけでは制度上の死刑規定を除去したことにはならない。
その意味で、2026年6月の6人の執行は、ヨルダンの死刑制度について「長期的な執行停止がそのまま廃止方向への不可逆的な移行を意味するわけではない」ことを明確に示した。2017年から約9年間執行がなかったにもかかわらず、政府が最終的な司法・行政手続を経て執行を再開したためである。
死刑判決数から見る制度の持続
執行件数だけでは、ヨルダンにおける死刑制度の実態を十分に把握できない。ヨルダン国家人権センターの2025年年次報告についてヒューマン・ライツ・ウォッチが紹介した数字によると、2023年には284人、2024年には276人が死刑判決を受けた状態にあり、その内訳には女性も含まれていた。
同じ報告によると、第一審に相当する大刑事裁判所による新たな死刑判決は2023年の25件から2024年には13件へ減少した。また、国家安全保障裁判所については2022年から2024年まで新たな死刑判決を出していないと国家人権センターは報告している。
ただし、2023年2月には「ソルト細胞」事件の被告3人について国家安全保障裁判所が死刑判決を下したとの報道もあり、機関ごとの統計や集計期間によって情報に差異がある。したがって、死刑判決数については単一の数字だけを用いるのではなく、ヨルダン国家人権センター、司法当局、国際人権団体などの資料を照合して扱う必要がある。
それでも、2023年と2024年に数百人規模の死刑判決確定者が存在したとする国家人権センターの数字は、執行停止期間がそのまま死刑制度の縮小を意味していなかったことを示す重要な材料となる。執行されない死刑判決が蓄積されれば、執行再開時に過去の事件が一括して処理される可能性もあり、2026年6月の6人の執行はその一端として位置付けることができる。
2026年再執行が示す制度上の転換
2014年の執行再開、2017年の15人執行、2018年以降の再停止、2026年の6人執行という流れを並べると、ヨルダンの死刑制度には一定の周期的な変動が見られる。すなわち、死刑制度を廃止する方向へ一貫して進んできたというより、執行を停止する時期と再開する時期が交互に現れてきたと整理できる。
特に2026年の再執行は、対象事件の多くが国家安全保障裁判所の管轄に置かれていたことから、単なる刑事政策上の問題にとどまらない。死刑そのものの是非だけでなく、テロリズムや薬物犯罪を扱う特別裁判所の権限、裁判の公開性、弁護権、証拠の扱い、上訴制度など、死刑判決に至る手続全体を検証する必要がある。
したがって、ヨルダンの死刑制度について「執行が少ないから国際基準に近い」と判断することはできない。国際人権法との整合性を評価するためには、実際の執行数だけでなく、死刑対象犯罪の範囲、死刑判決が出される裁判所、被告人に保障される適正手続、そして死刑判決に対する救済制度までを一体として分析する必要がある。
国際人権基準との主な乖離点
ヨルダンの死刑制度を国際人権基準から検証する場合、問題は死刑制度を存置していることだけではない。ヨルダンは自由権規約第6条の締約国であり、同条は生命に対する権利を保障するとともに、死刑を廃止していない国についても、その適用を厳格に制限しているため、国内法がどの犯罪を死刑対象としているか、またどのような裁判手続によって死刑判決が出されるかが重要になる。
国連人権委員会は、自由権規約第6条についての一般的意見第36号で、死刑制度を存置する国であっても、死刑は「最も重大な犯罪」に限られなければならないと解釈している。この「最も重大な犯罪」は広く重大な犯罪一般を意味するものではなく、原則として故意に人を死亡させる犯罪を中心とする極めて限定された範囲として理解されている。
この基準に照らすと、ヨルダンの制度には第1の問題がある。ヨルダン国内法では、殺人以外にもテロリズム、国家安全保障に関係する犯罪、薬物犯罪、一定の性犯罪などが死刑につながり得るため、これらすべてが自由権規約第6条の「最も重大な犯罪」に該当するのかという問題が生じる。
①「最も重大な犯罪」要件からの逸脱
国際人権法上、「最も重大な犯罪」という表現は、各国が自由に死刑対象を決められるという意味ではない。国連人権委員会は、死刑を存置する国について、その適用を極めて重大な犯罪に限定することを求め、意図的な殺人を伴わない犯罪に死刑を科すことは第6条の趣旨と両立しないとの立場を示している。
ここで問題になるのが薬物犯罪である。薬物の製造、密売、輸送などは社会に重大な被害を与え得る犯罪だが、犯罪行為そのものが必ずしも意図的な殺人を構成するわけではないため、国連の人権機関は薬物犯罪に対する死刑を「最も重大な犯罪」の範囲に含めることに否定的である。
ヨルダンでは2026年6月の死刑執行に薬物密売関連事件の受刑者3人が含まれていた。この3人については、薬物犯罪だけでなく、薬物対策に従事していた法執行官の死亡に関連する暴力行為があったと報告されているため、個別事件については犯罪事実を詳細に区別する必要があるが、薬物犯罪を死刑対象としている国内法の存在そのものは国際基準との緊張関係を生じさせる。
テロリズム関連犯罪も同様である。テロ攻撃によって多数の死者が発生した場合には、故意の殺人を含む重大犯罪として死刑の対象となる余地がある一方、組織への加入、組織の設立、資金提供、指導、準備など、実際に人を殺害していない行為まで死刑対象を広げれば、「最も重大な犯罪」という限定との整合性が問題になる。
2026年に国連の特別手続がヨルダン政府に示した懸念でも、テロリズム対策法における複数の犯罪類型について、死刑につながり得る行為の範囲が広すぎる可能性が指摘されている。特に、死亡という結果を伴わないテロリズム関連行為まで死刑または死刑につながり得る重大刑罰の対象とすることは、自由権規約第6条の限定的な解釈との関係で問題となる。
性犯罪についても同じ構造が存在する。ヨルダンでは未成年者に対する重大な性犯罪などに死刑を科し得る規定が存在してきたが、国連人権委員会の解釈では、犯罪の重大性だけを理由として死刑対象に含めることは認められず、意図的な殺人を伴わない犯罪については「最も重大な犯罪」の要件を満たさないとされる。
ここで重要なのは、国際人権基準が性犯罪や薬物犯罪を軽い犯罪として扱っているわけではないことである。問題となっているのは刑罰の重さではなく、生命を奪う刑罰を許容できる犯罪の範囲を国際法が極めて狭く設定していることであり、重大な犯罪であることと死刑を科すことが国際法上許されることは同じではない。
死刑制度に対する比例性の問題
国際人権基準では、死刑を存置する場合でも、その適用には比例性が求められる。犯罪の性質、被告人の故意、犯罪への関与の程度、結果の重大性などを個別に考慮せず、一定の犯罪類型について自動的または機械的に死刑を科す制度は、生命に対する権利との関係で重大な問題を生じさせる。
この点では、死刑が必ず科される犯罪が存在するかどうかも重要になる。国連人権委員会は、死刑判決について個々の事件の事情を考慮する余地が必要であり、裁判所が被告人の個人的事情や犯罪への関与の程度を十分に評価できない制度は、第6条との整合性を欠く可能性があると指摘している。
ヨルダンについては、過去の国連による審査で、死刑対象犯罪の広さだけでなく、一定の犯罪について死刑が義務的に科され得ることが問題として取り上げられてきた。したがって、対象犯罪の縮小だけでなく、裁判所が個別事情を考慮して刑罰を決定できるかという点も、国際基準との適合性を判断するうえで重要になる。
② 国家安全保障裁判所の運用と適正手続
ヨルダンの死刑制度を考えるうえで、もう一つの重要な問題が国家安全保障裁判所である。この裁判所はテロリズムや国家安全保障に関係する事件を扱う特別な司法機関であり、2026年6月に執行された6人も同裁判所で有罪判決を受けていたと報告されている。
国家安全保障裁判所そのものが存在することだけを理由に、直ちに国際人権法違反となるわけではない。問題は、死刑という取り返しのつかない刑罰を科す裁判所として、独立性、公平性、公開性、弁護権、証拠へのアクセス、上訴権など、国際人権法が要求する適正手続を十分に保障できているかという点にある。
自由権規約第14条は、公正な公開審理を受ける権利、独立した公平な裁判所による審理を受ける権利、弁護人を選任する権利、証人を尋問する権利、判決に対して上級裁判所による審査を受ける権利などを保障している。さらに死刑事件については、裁判手続上の違反が生命を奪う結果につながるため、通常の刑事事件以上に厳格な手続保障が必要となる。
ヨルダンの国家安全保障裁判所については、民間人を軍事的性格を持つ特別裁判所で審理することそのものが長年の国際人権上の論点となってきた。2026年の死刑執行についても、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、執行された6人が同裁判所で有罪判決を受けていたことを踏まえ、死刑制度だけでなく裁判手続上の問題を合わせて検討している。
特に問題となるのは、テロリズムや国家安全保障を理由として、通常の刑事司法とは異なる手続が採用される場合である。国家の安全を守る必要性が存在するとしても、それによって被告人の弁護権や公平な裁判を受ける権利が制限されれば、死刑判決の正当性そのものに重大な疑問が生じる。
拷問・自白・証拠の問題
死刑事件では、自白の取得方法も極めて重要である。ヨルダンについては過去の国連人権機関による審査で、拷問や虐待によって得られた自白が刑事裁判で使用される可能性について懸念が示されてきた。
拷問によって得られた自白を死刑判決の根拠として使用することは、単なる証拠法上の問題にとどまらない。拷問禁止と公正な裁判を受ける権利の侵害が、最終的に国家による生命の剥奪につながるため、死刑事件では極めて重大な問題となる。
国際人権基準では、被告人の有罪を合理的な疑いなく立証すること、強制された自白に依存しないこと、弁護人が証拠を十分に検討できることなどが重要になる。特に国家安全保障事件では捜査機関が保有する情報が広範になりやすいため、弁護側が証拠にアクセスできるかどうかが裁判の公平性を左右する。
したがって、ヨルダンの死刑制度について「死刑対象犯罪が国際基準に合致するか」だけを検討するのでは不十分である。死刑判決に至るまでの捜査、逮捕、取調べ、公判、証拠開示、上訴、恩赦の各段階が適正に機能しているかを検証しなければ、死刑制度全体の国際人権法上の位置付けを判断できない。
死刑と「恣意的な生命剥奪」
自由権規約第6条が問題にしているのは、生命を奪う刑罰そのものだけではない。死刑が法律に基づいて宣告されたとしても、その犯罪が「最も重大な犯罪」に該当しない場合や、公正な裁判を受ける権利を侵害する手続によって判決が下された場合には、恣意的な生命剥奪との関係が生じる。
このため、死刑制度の国際的な評価では「国内法に従って執行された」という説明だけでは十分ではない。国内法そのものが国際人権条約上の義務と整合しているか、さらに国内法に従った裁判手続が国際的な公正裁判基準を満たしているかを別々に確認する必要がある。
ヨルダンの場合、長期間のモラトリアムを経て2026年に死刑執行が再開されたことで、この問題はより具体的になった。執行件数が少ないことではなく、実際に死刑が執行される事件について、犯罪の種類と裁判手続の双方が国際基準を満たしているかが改めて問われることになった。
「廃止」と「縮小」の間にあるヨルダン
ヨルダンの状況を国際的な死刑廃止の潮流との関係で見ると、さらに複雑な側面がある。国際社会では、死刑を全面的に廃止する国が増えている一方、死刑を存置する国についても対象犯罪を縮小し、執行を停止し、最終的な廃止へ移行することが求められている。
ヨルダンは長期間のモラトリアムを経験しているため、制度を縮小する方向への動きが存在したことは確かである。しかし、2017年の15人の執行と2026年の6人の執行は、執行停止が法律上の廃止や不可逆的な縮小を意味していなかったことを示している。
特に2026年の執行では、テロリズム関連犯罪と薬物犯罪が含まれた。これらは国内の治安政策上、重大な犯罪として扱われている一方、国際人権法では死刑の適用範囲を「最も重大な犯罪」に限定する考え方が存在するため、ヨルダンの国内政策と国際的な人権基準との距離が改めて明確になった。
この距離は、単純に「ヨルダンが死刑制度を維持している」という一点だけでは説明できない。対象犯罪の範囲、国家安全保障を理由とする特別裁判所、裁判手続の保障、薬物犯罪への死刑適用、そして長期的な執行停止と再開という複数の要素が相互に結び付いている。
国際基準から見た現在の位置付け
以上を整理すると、2026年9月時点のヨルダンは、死刑を法律上維持しながら、その適用範囲と執行の双方について国際人権上の検討課題を抱えている。とりわけ「最も重大な犯罪」の範囲をどこまで認めるかという問題と、国家安全保障裁判所における死刑事件の適正手続という2つの論点が中心となる。
ヨルダン側には、テロリズム、組織犯罪、薬物密売、治安部隊員に対する攻撃など、国家の安全と社会秩序を直接脅かす犯罪に厳格な刑罰を科す必要があるという政策的背景がある。しかし、国際人権法上は犯罪の重大性を理由として死刑の対象範囲を無制限に拡大することは認められず、生命に対する権利と刑罰権の均衡が厳しく問われる。
そのため、ヨルダンの死刑制度を評価する際には、「死刑を存置している」という制度論と、「どの犯罪に死刑を適用し、どの裁判所で、どのような手続によって判決を出しているか」という運用論を分離する必要がある。この2つを合わせて検討することで、ヨルダンの死刑制度が国際人権基準とどの部分で一致し、どの部分で乖離しているのかが明確になる。
③ 国際社会からの廃止・縮小勧告への対応
ヨルダンの死刑制度をめぐっては、国際社会から長年にわたり、死刑対象犯罪の縮小、執行停止、最終的な制度廃止に向けた措置が求められてきた。特に国連人権機関は、自由権規約第6条に基づく生命に対する権利の保障との関係から、死刑の適用範囲を「最も重大な犯罪」に限定することや、死刑判決に至る裁判手続を国際的な公正裁判基準に適合させることを繰り返し求めている。
ヨルダンはこうした勧告を一律に拒否してきたわけではない。実際、2000年代から2014年までの長期的な執行停止や、2017年以降の約9年間にわたる再度の執行停止は、少なくとも死刑執行を抑制する方向の政策が存在してきたことを示している。
しかし、ヨルダンは死刑制度そのものを廃止する法改正には踏み込んでいない。2014年末に執行が再開され、2017年には15人が執行され、さらに2026年6月には6人が執行されたことから、モラトリアムは制度廃止に向かう不可逆的な措置ではなく、政策判断によって変更可能な執行停止として機能してきたと整理できる。
国連による勧告とヨルダンの対応
国連人権委員会によるヨルダン審査では、死刑対象犯罪の範囲、死刑が義務的に科され得る犯罪、裁判手続上の保障などが問題として取り上げられてきた。こうした指摘の背景には、死刑を存置する場合でも、生命に対する権利を最大限尊重し、その適用を例外的なものに限定すべきだという自由権規約の考え方がある。
また、国連の特別手続は2026年にもヨルダンのテロリズム対策法について懸念を示している。特に、実際の死亡結果を伴わない行為まで死刑につながり得る犯罪類型について、自由権規約第6条の「最も重大な犯罪」という基準との整合性を検討する必要があるとの問題提起が行われている。
ここで重要なのは、国際機関による勧告が、ヨルダンに対して直ちにすべての死刑判決を無効にするよう求めるものだけではないことである。対象犯罪を限定すること、死刑を義務的に科す制度を見直すこと、死刑事件における公正な裁判を保障すること、執行を停止することなど、複数の段階的措置が示されている。
したがって、ヨルダンの対応を分析する際には、「勧告を受け入れたか、拒否したか」という二分法だけでは不十分である。一定期間の執行停止という部分的な対応を行いながら、死刑を規定する刑法やテロリズム関連法制を存置し、必要に応じて再執行するという複合的な政策が取られてきた点に特徴がある。
普遍的定期審査との関係
国連人権理事会の普遍的定期審査でも、ヨルダンの死刑制度は人権政策上の論点の一つとなっている。普遍的定期審査は、国連加盟国の人権状況を定期的に審査し、他国から改善措置に関する勧告を受ける制度であり、死刑廃止や執行停止もその対象となる。
ヨルダンに対しては、死刑制度の廃止、少なくとも執行停止の維持、死刑対象犯罪の縮小などを求める国際的な働き掛けが続いてきた。一方で、ヨルダン側はテロリズムや重大犯罪への対応を理由として死刑制度を維持する立場を示しており、治安政策と人権上の要請との間には継続的な緊張関係が存在する。
この点は、ヨルダン固有の事情として理解する必要もある。ヨルダンは周辺地域で武力紛争やテロリズムが続いてきた環境にあり、国内の治安維持を国家政策上の重要課題として位置付けているため、テロリズム関連犯罪に対する厳罰政策には国内の安全保障政策との結び付きがある。
ただし、国際人権法は国家が治安上の脅威に直面している場合でも、生命に対する権利や公正な裁判を受ける権利を無制限に制限できるとはしていない。テロリズム対策の必要性と、死刑の適用範囲および裁判手続の国際基準との適合性は、それぞれ別個に検証される必要がある。
2026年の再執行が持つ意味
2026年6月の6人に対する執行は、こうした国際的な勧告とヨルダン国内の治安政策との関係を考えるうえで重要な出来事となった。約9年間の執行停止を経て再び死刑が実行されたことで、ヨルダンが死刑制度を単に法律上残しているだけではなく、重大な国家安全保障事件などについて実際に刑罰として利用する意思を持っていることが確認された。
さらに、今回の執行対象者は国家安全保障裁判所で有罪判決を受けていた。したがって、国際社会が今後ヨルダンの死刑制度を検討する場合には、死刑そのものだけでなく、国家安全保障事件を扱う裁判所の独立性、被告人の弁護権、証拠へのアクセス、上訴制度なども重要な検証対象となる。
2026年6月の執行をめぐっては、ヒューマン・ライツ・ウォッチが死刑制度の再開に反対する立場から批判を表明している。また、アムネスティ・インターナショナルも、薬物犯罪に対する死刑の拡大について国際人権基準との関係から問題を提起している。
これらの国際人権団体の評価は、それぞれの組織の立場に基づくものであり、ヨルダン政府の説明とは区別して扱う必要がある。ヨルダン政府側から見れば、2026年に執行された事件は治安部隊員の死亡など重大な結果を伴う事件であり、国内法に基づく司法手続を経て刑罰が確定したという説明になるため、双方の主張を区別して検討することが重要である。
今後の展望
今後のヨルダンの死刑制度を考える場合、最大の焦点は、2026年6月の再執行が一時的な例外なのか、それとも執行政策の本格的な転換なのかという点にある。現時点では、2026年9月という時点だけから長期的な政策転換を断定することはできず、今後の執行件数、死刑判決数、法改正の内容を継続的に確認する必要がある。
第一の可能性は、2026年の6件の執行が限定的な措置にとどまり、再び執行停止に戻ることである。ヨルダンでは過去にも、長期間の執行停止と一定数の執行が交互に現れているため、今回の執行だけから継続的な大量執行政策への移行を判断することはできない。
第二の可能性は、テロリズムや薬物犯罪などを中心に死刑の執行が増加することである。特に薬物犯罪について死刑対象を拡大する政策が実施されれば、国際人権基準との乖離がさらに明確になる可能性がある。
第三の可能性は、死刑制度を直ちに廃止するのではなく、まず対象犯罪を縮小する方向で制度改革が行われることである。この場合、意図的な殺人を伴わない犯罪から死刑規定を削除し、死刑の対象を生命を意図的に奪った極めて重大な犯罪に限定することが、国際人権基準との距離を縮める重要な措置となる。
さらに、死刑制度を存置するかどうかとは別に、国家安全保障裁判所における裁判手続の透明性と適正性を高めることも重要となる。死刑事件では誤判を後から回復できないため、捜査段階から最終上訴までの各段階で弁護権、証拠開示、独立した裁判、上訴権を確実に保障することが不可欠である。
死刑対象犯罪の縮小という現実的な論点
国際社会からの廃止勧告に対して、ヨルダンが直ちに全面廃止へ移行するかどうかは、国内の政治・社会・治安状況にも左右される。しかし、全面廃止と現状維持の間には、対象犯罪を段階的に縮小するという政策選択が存在する。
その中でも、薬物犯罪について死刑を適用しないことは、国際人権機関が特に強く求めている方向の一つである。薬物犯罪が重大な社会的被害を生じさせるとしても、意図的な殺人を伴わない犯罪への死刑適用は、自由権規約第6条の解釈との間で大きな問題を生じさせるためである。
テロリズム関連犯罪については、さらに慎重な犯罪類型の区別が必要になる。実際に意図的な殺人を行った者と、組織への関与、資金提供、準備などを行った者を同じ死刑対象として扱うことが国際人権法上許容されるのかという問題があるからである。
このため、今後の法改正では「テロリズム」という名称だけで死刑の適用を正当化するのではなく、具体的な行為、故意の内容、死亡結果の有無、被告人の関与の程度を基準として死刑の対象を限定することが重要になる。
まとめ
ヨルダンの死刑制度は、法律上の存置、長期間の執行停止、2014年の執行再開、2017年の15人執行、2018年以降の再停止、そして2026年6月の6人執行という経過をたどってきた。この歴史から分かるのは、ヨルダンでは死刑の執行が長期間停止されても、それが制度廃止を意味するわけではなく、治安政策などを背景として再び執行される可能性が残されているということである。
国際人権基準との最大の論点は、死刑対象犯罪の範囲にある。自由権規約第6条の「最も重大な犯罪」という基準は死刑の対象を極めて限定しており、薬物犯罪、意図的な殺人を伴わないテロリズム関連犯罪、一定の性犯罪などを死刑対象に含めるヨルダンの制度には、国際基準との明確な緊張関係が存在する。
もう一つの中心的問題が、国家安全保障裁判所を含む死刑事件の適正手続である。死刑は誤判を後から回復できない刑罰であるため、犯罪類型だけでなく、独立した公平な裁判、弁護権、証拠の検証、上訴権などが国際基準に従って保障されているかを個別に検証する必要がある。
したがって、2026年9月時点のヨルダンについては、「死刑存置国」という一言だけで制度を評価することはできない。死刑対象犯罪の縮小、国家安全保障裁判所における適正手続の強化、執行停止の再導入、最終的な死刑廃止という複数の改革段階を視野に入れ、国内の治安政策と国際人権法上の義務を分けて検討することが必要である。
2026年9月時点のヨルダンの死刑制度を考える場合、単純に「執行が再開された国」と捉えるだけでは制度の全体像を把握できない。ヨルダンでは長期間にわたって執行停止が続いた一方、死刑そのものは法律上維持され、2014年、2017年、そして2026年に実際の執行が行われてきたため、停止期間がそのまま制度廃止への不可逆的な移行を意味してきたわけではない。2026年6月21日には6人が絞首刑により執行され、2017年以来の大規模な執行となった。
今後の焦点の1つは、死刑の対象犯罪をどこまで限定するかである。とりわけ薬物犯罪や、殺人との関係が個々の被告人についてどのように認定されたかが問題となる犯罪類型については、国際人権法上の「最も重大な犯罪」という基準との関係を具体的に検討する必要がある。
もう1つの焦点は、国家安全保障裁判所を含む刑事司法手続の保障である。2026年6月に執行された6人はいずれも国家安全保障裁判所で有罪判決を受けており、政府側は破棄院による最終的な司法確認、閣議承認、国王の命令を経て執行されたと説明している。一方、人権団体は同裁判所における民間人の裁判や公正な裁判の保障について問題を提起しているため、死刑制度の議論では刑罰の種類だけでなく、判決に至る手続そのものを検証する必要がある。
ヨルダン国内の統計を見ると、2024年には通常の重大犯罪裁判所による死刑判決が13件で、2023年の25件から減少したと国家人権センターが報告している。また、同センターによれば国家安全保障裁判所による死刑判決は2022年から2024年まで0件だったとされている。これは、2026年の執行が単純な増加傾向の延長として生じたものではなく、一定期間の抑制を経て執行が再開された現象であることを示している。
したがって、今後の制度変化を評価するには、執行人数だけを見るのでは不十分である。死刑判決そのものの件数、対象犯罪、裁判所別の運用、上級審による審査、恩赦や減刑の実態、さらに被告人が十分な弁護活動を受けられたかという複数の指標を継続的に追跡する必要がある。
最後に
ヨルダンは2026年9月現在も死刑を法律上維持している国である。長期間の事実上の執行停止を経験してきたものの、2014年、2017年、2026年に執行が行われており、モラトリアムは法的な死刑廃止を意味しない。
制度上の主要な論点は、死刑の対象犯罪が国際人権法上の「最も重大な犯罪」という基準にどこまで限定されているかという点にある。殺人のように故意の生命侵害を伴う犯罪と、薬物犯罪、特定の国家安全保障犯罪、性犯罪などを同じ死刑制度の枠組みで扱う場合、それぞれについて国際基準との適合性を個別に検討しなければならない。
さらに、国家安全保障裁判所をめぐる適正手続の問題も重要である。死刑は誤判や手続上の重大な瑕疵があった場合に取り返しのつかない結果を生じさせるため、証拠の開示、弁護人へのアクセス、独立した審理、上訴の実効性、供述の任意性などが制度評価の中心となる。国連人権委員会は過去のヨルダン審査で、国家安全保障裁判所や拷問によって得られたとされる供述の証拠利用についても懸念を示してきた。
2026年の6人の執行によって、ヨルダンの死刑制度は再び国際的な検討対象となった。政府が国内法上の手続を経た合法的な執行として説明する一方、人権団体は死刑の再開と国家安全保障裁判所による裁判について問題を提起しており、両者の立場を区別して検討することが重要である。
結局のところ、ヨルダンの死刑制度をめぐる問題は、死刑を存置するか廃止するかという二者択一だけでは捉えられない。対象犯罪の範囲、故意の殺人との関係、量刑の個別化、国家安全保障裁判所の手続、公正な裁判の保障、執行停止の法的安定性という複数の論点が重なっており、それぞれを分けて検討する必要がある。
参考・引用資料
国際連合・国際人権機関
- 国際連合人権委員会「市民的及び政治的権利に関する国際規約第6条についての一般的意見第36号」
- 国際連合人権委員会「ヨルダン第5回定期報告に関する総括所見」2017年
- 国際連合拷問禁止委員会「ヨルダン第4回定期報告に関する総括所見」
- 国際連合拷問禁止委員会「ヨルダン政府による総括所見へのフォローアップ情報」2026年
- 国際連合人権理事会・普遍的定期審査におけるヨルダン関連資料
ヨルダン政府・国内人権機関
- ヨルダン国家人権センター「2024年ヨルダン・ハシェミット王国人権状況第21次年次報告書」
- ヨルダン司法当局・国家安全保障裁判所関連公表資料
- ヨルダン政府による2026年6月21日の死刑執行関連発表
国家人権センターの2024年報告書では、死刑判決を受けた収容者数について2023年284人、2024年276人とする統計も掲載されている。これは「その年に新たに死刑判決を受けた人数」とは異なるため、死刑判決件数と死刑囚総数を混同しないことが重要である。
国際人権団体・調査資料
- アムネスティ・インターナショナル「ヨルダン――死刑制度に関する国別資料」
- ヒューマン・ライツ・ウォッチ「6 Executed as Jordan Resumes Death Penalty」2026年6月23日
- ヒューマン・ライツ・ウォッチによるヨルダンの国家安全保障裁判所・刑事司法制度に関する調査資料
アムネスティ・インターナショナルは現在もヨルダンを死刑存置国として分類している。2026年の執行については、ヒューマン・ライツ・ウォッチが6人の執行を確認し、その全員が国家安全保障裁判所で有罪判決を受けていたと報告している。
