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イランの死刑制度:恣意的な適用と広範な死刑対象

イランの死刑制度の問題は、単純に「死刑執行数が多い」という量的問題ではない。死刑対象犯罪の広さ、曖昧な法定義、国家安全保障を理由とする政治的事件への適用、薬物犯罪への大量適用、少年犯罪者の処刑、革命裁判所における公正裁判上の問題、拷問による「自白」の疑いなどが相互に結び付いている点に本質がある。
2022年9月20日/イラン、首都テヘラン中心部、アミニさんの写真を掲げる女性(Getty Images/AFP通信)
現状(2026年9月時点)

イランの死刑制度は、世界でも最も広範かつ頻繁に死刑が執行される制度の1つであり、2025年から2026年にかけてその問題がさらに深刻化している。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、2025年にイランで確認された死刑執行は少なくとも2159件に達し、2024年の確認数の2倍を超えたとされる。この数字は、中国のように死刑執行情報を公表していない国を除き、同年の世界全体の死刑執行件数の大部分を占める規模である。

2026年に入っても状況は改善していない。特に2026年1月以降の反政府抗議運動に対する弾圧、米国・イスラエルとの軍事的緊張の高まりを背景として、国家安全保障に関連するとされた事件で死刑判決・執行が相次いでいる。国連人権高等弁務官は2026年8月、3月19日以降だけで国家安全保障関連の容疑により少なくとも56人が処刑され、そのうち27人が年初の抗議運動と関連していたと明らかにし、さらに100人以上が同様の処刑リスクに直面していると警告した。

ここで重要なのは、イランの死刑制度を単純に「殺人など重大犯罪に対する刑罰」と理解することができない点である。薬物犯罪、殺人、強盗などの一般犯罪だけでなく、国家への敵対、反政府活動、諜報活動、外国勢力との協力など、政治的意味を帯びた行為にも死刑が適用されているためである。

さらに、実際の死刑執行数だけでは制度の全体像を把握できない。死刑判決を受けた者のうち、執行を待っている者が存在し、政治活動や抗議活動に関係した被拘禁者についても死刑の危険が継続しているからである。アムネスティ・インターナショナルは2026年、抗議活動や反政府活動への関与を理由に少なくとも78人が死刑執行の危険にさらされていると報告している。

2026年の特徴は、死刑が単なる司法上の刑罰としてではなく、政治的・社会的な威嚇手段として機能しているとの指摘が強まっていることである。ヒューマン・ライツ・ウォッチも、2026年3月以降、政治的動機による容疑で少なくとも28人が処刑されたと報告しており、死刑制度と政治的弾圧の結び付きが明確になっている。

広範な死刑対象と法定義の曖昧さ

イランの死刑制度を理解するうえで最も重要な問題の1つが、死刑対象となる犯罪類型の広さである。イランの刑法はイスラム法を制度的な基礎としており、通常の刑事犯罪だけでなく、宗教的・道徳的・国家安全保障的な概念を含む複数の犯罪類型について死刑を認めている。

特に問題となるのは、犯罪の構成要件や適用範囲が広く解釈され得る規定が存在することである。たとえば「神に対する戦争」といった概念に相当する犯罪類型は、武装犯罪だけに限定されず、当局によって国家に対する重大な敵対行為として解釈される場合がある。このような規定が政治的抗議活動や反政府運動に適用されると、本来は表現、集会、結社などの自由の行使として保護されるべき行為と、死刑対象となる重大犯罪との境界が曖昧になる。

刑罰法規における明確性は、法の支配を構成する基本的な要素である。市民がどの行為によって重大な刑罰を受ける可能性があるのかを事前に予測できなければ、刑罰法規は政府による恣意的な処罰を防ぐ機能を失う。

この問題は、死刑という不可逆的な刑罰において特に重大である。自由刑であれば誤判後の釈放という救済が理論上可能だが、処刑された者を司法手続によって元に戻すことはできないからである。そのため、国際的な人権基準では、死刑を認める場合であっても対象犯罪を極めて限定し、厳格な裁判手続を要求することが基本となっている。

イランでは、こうした限定性とは反対に、宗教、国家安全保障、政治活動など複数の領域が死刑制度と接続している。結果として、死刑制度そのものの存在だけでなく、どのような行為を死刑犯罪として認定するかという司法当局の裁量が制度の重大な問題となっている。

国家安全保障を口実とした政治的犯罪

近年のイランにおける死刑制度を特徴付けるもう1つの要素が、国家安全保障を理由とする死刑の拡大である。とりわけ2026年には、反政府抗議活動への参加、国家機関への攻撃、外国勢力との協力、諜報活動などを理由とする事件で死刑判決や処刑が相次いでいる。

2026年1月には大規模な抗議活動が発生し、当局は多数の逮捕者を出した。ヒューマン・ライツ・ウォッチとアムネスティ・インターナショナルは、治安部隊による過剰な武力行使、大量拘束、恣意的逮捕などについて共同で批判しており、その後の司法手続においても重大な人権上の問題が生じていると指摘している。

抗議活動参加者に対する死刑適用で特に問題となるのは、殺人など具体的な重大犯罪の立証と、政治的反対行動そのものが処罰対象となることとの区別である。国家側は治安維持や国家防衛を理由として処罰を正当化するが、人権機関は、抗議活動への参加や政府批判などを死刑に結び付けること自体が、表現・集会の自由に対する重大な侵害になり得ると指摘している。

2026年には、政治的容疑で処刑された人数が短期間に急増した。イラン人権団体の分析では、2026年4月末までの6週間に少なくとも22人の政治囚が処刑され、その中には1月の抗議活動で拘束された人物も含まれていたとされる。さらに、その手続について拷問、強制された供述、適正手続の欠如が指摘されている。

この構造を考えると、イランの死刑制度における「政治犯」と「一般犯罪者」の区別は単純ではない。国家が政治的行為を安全保障上の犯罪として再構成する場合、表面的には刑事司法の手続を経ていても、実質的には政治的反対者を処罰するための制度として死刑が機能する可能性がある。

2026年7月には、1月の抗議活動で警察官を殺害したとして有罪判決を受けた2人が、イスファハーンで公開処刑されたと報じられた。この事件では、国際人権団体が不公正な裁判や拷問によって得られた供述への懸念を示しており、公開処刑が単なる刑罰執行にとどまらず、社会全体に対する威嚇として利用されているとの批判が出ている。

したがって、2026年9月時点のイランの死刑制度を評価する場合、単純な「死刑執行件数の多さ」だけを見るのでは不十分である。死刑対象犯罪の広さ、曖昧な犯罪概念、国家安全保障を理由とした政治的事件への適用、そしてその事件を扱う裁判手続の問題を一体として分析する必要がある。

治安・情報関連の厳罰化

イランでは、国家安全保障に関係すると当局が判断した事件について、死刑を含む極めて重い刑罰が適用されている。特に2026年には、国内の抗議活動だけでなく、外国勢力との協力、諜報活動、敵国への情報提供、国家機関への攻撃などが死刑につながる事件が増えており、安全保障を理由とした刑罰体系が政治的反対者を処罰する仕組みと重なっている。

2026年の大規模な抗議活動後には、当局が抗議参加者を国家に対する重大犯罪者として扱う姿勢を強めた。アムネスティ・インターナショナルによると、2026年2月までに少なくとも8人が抗議関連事件で死刑判決を受け、さらに22人が死刑の危険にさらされていた。その中には、犯行時に子どもだった者も含まれていた。

このような事件では、単純な殺人や武装攻撃といった具体的な犯罪行為だけではなく、「神に対する戦争」や「地上における腐敗」、「国家に対する武装反乱」など、国家安全保障と宗教的概念が結び付いた罪名が用いられることがある。問題は、これらの罪名が広い解釈を許すことで、暴力行為を実際に行った人物と、政府に反対する政治活動や抗議活動に参加した人物との境界が不明確になり得る点にある。

2026年1月18日には司法当局の報道官が、抗議参加者を「犯罪者」と位置付け、「神に対する戦争」を理由として最も重い刑罰を短期間で科すべきだと発言したとアムネスティ・インターナショナルが報告している。このような司法当局者による発言は、個別事件について十分な証拠を審理する前から、抗議活動と死刑犯罪を結び付ける政治的環境を形成する危険性がある。

さらに、外国との緊張が高まると、情報関連犯罪への取り締まりも強化される。2025年にはイスラエルとの諜報活動や協力などを理由として少なくとも13人が処刑されたとヒューマン・ライツ・ウォッチが報告しており、その大半は2025年6月のイスラエルとイランの軍事衝突後に処刑されたとされる。

国家が実際の軍事情報の提供や破壊工作を処罰すること自体は、どの国にも認められる国家防衛上の権限である。しかし死刑を適用するのであれば、具体的な殺害行為との関係、被告人の実際の行為、証拠の信頼性、弁護権の保障などについて極めて厳格な審査が必要になる。

イランの場合、国家安全保障を理由とする事件ほど非公開性が高まり、捜査段階で弁護士への接触が制限されるなど、被告人が自らの立場を十分に主張できない問題が繰り返し指摘されている。したがって、情報犯罪に対する死刑の問題は、犯罪類型そのものだけでなく、国家安全保障を理由に通常の刑事司法上の保障が縮小される構造として検討する必要がある。

非人道的なそのほかの対象犯罪

イランの死刑制度が国際的に強く批判されている理由は、政治犯罪への適用だけではない。薬物犯罪、殺人、強盗などに加え、宗教的・道徳的犯罪や一定の非暴力犯罪にも死刑が規定されており、その対象範囲は国際的な死刑制度の縮小傾向と大きく異なっている。

特に薬物犯罪は執行数の大きな部分を占めている。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2025年にイランで確認された2000件を超える処刑のうち、半数以上が薬物関連犯罪だったとされる。この点について同団体は、国際法が死刑を「最も重大な犯罪」に限定していることとの明確な矛盾を指摘している。

薬物犯罪による死刑は、社会的・経済的に弱い立場にある人々に集中する傾向も問題となっている。2025年には民族的少数者やアフガニスタン出身者などが死刑執行の対象となる例が多数確認され、死刑制度が社会的弱者に不均衡な負担を与えているとの指摘が出ている。

また、イラン法には宗教的侮辱、背教、同性間の性行為、姦通、飲酒など、国際的な人権基準から見れば死刑によって処罰すべきではない行為が死刑対象となり得る規定が存在する。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、こうした非暴力的行為についても死刑が法的に認められていることを問題視している。

ここで重要なのは、死刑対象の広さが単なる「刑罰の厳しさ」の問題ではないという点である。宗教、道徳、薬物、政治、国家安全保障という異なる領域の犯罪を死刑制度によって包摂することで、国家が生命を奪うことのできる領域そのものが広く設定されているからである。

恣意的な適用と裁判プロセスの重大な欠陥

死刑制度における最大の問題は、法令上の死刑対象が広いことだけではなく、実際の裁判手続が国際的な公正裁判基準を満たしていないとされる事例が非常に多いことである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2025年の死刑執行について、重大な公正裁判上の問題を伴ったものが体系的に存在し、国家安全保障犯罪についても曖昧な規定が利用されていると指摘している。

被告人が捜査段階で弁護士に自由に接触できないことは、その後の裁判全体に大きな影響を及ぼす。捜査機関が証拠を収集する段階で被疑者が孤立した状態に置かれ、その後、捜査段階の供述が裁判で重要な証拠として扱われれば、被告人がその内容の正確性や任意性を十分に争うことは難しくなる。

2025年の事例では、ベフルーズ・エフサニとメフディ・ハサニの2人が死刑判決を受け、その裁判はわずか5分程度で終わったとアムネスティ・インターナショナルが報告している。2人は拷問やその他の虐待によって「自白」を強制されたと訴えていたが、重大な刑罰を決定する裁判としては、審理時間そのものが極めて深刻な疑問を生じさせる。

もちろん、個々の裁判が短時間で終了したという事実だけで直ちに有罪判決が誤りだと断定することはできない。しかし死刑という不可逆的な刑罰を科す事件で、弁護人との十分な協議、証拠の検証、供述の任意性に関する審査などが十分に行われていなければ、誤判を防止する制度として機能しているとは評価しにくい。

2026年の抗議関連事件では、こうした問題がさらに顕著になっている。アムネスティ・インターナショナルは、2026年1月の抗議活動に関連して死刑の危険にさらされた人々について、拷問の疑いがある供述に依拠した迅速な裁判が行われていると報告している。

この構造は、刑事司法における「推定無罪」や「疑わしきは被告人の利益に」という考え方にも深刻な影響を及ぼす。国家が被告人をあらかじめ危険人物、反政府活動家、外国勢力の協力者などと位置付け、その認識を捜査・起訴・裁判の各段階で維持すれば、裁判所が行政や治安機関の判断を独立して検証することが困難になるからである。

国連人権機関も、イランの死刑執行について、組織的に不公正な裁判が伴っていることを繰り返し問題視している。国連人権理事会のイラン人権状況に関する特別報告制度についてヒューマン・ライツ・ウォッチがまとめた資料では、2024年だけで900人を超える処刑が行われ、その多くが重大な公正裁判上の問題を伴っていたとされている。

拷問による「自白」の強制

イランの死刑事件を分析するうえで、とりわけ重大なのが拷問による「自白」の問題である。被疑者を殴打する、脅迫する、長期間拘束する、精神的圧力を加えるなどの方法によって供述を得た場合、その供述は真実を確認するための証拠ではなく、捜査機関が望む内容を被疑者に語らせた結果である可能性がある。

2026年4月、アムネスティ・インターナショナルは、バハーイー教徒の2人について、2026年1月の抗議活動に関連する死刑犯罪の疑いを受け、殴打、模擬処刑、電気ショックなどの拷問を受け、「自白」を強要されたと報告した。2人は弁護士への接触や医療へのアクセスも制限されていたとされる。

さらに2026年2月の別事件では、死刑判決を受けた被告人が法廷で「自白は拷問によって得られた」と撤回したにもかかわらず、裁判所がその主張について調査を行わなかった事例が報告されている。これは単に捜査段階で拷問が行われたかどうかという問題にとどまらず、裁判所が拷問の申し立てを独立して検証する義務を果たしているかという問題でもある。

また、国家テレビなどを通じて被告人の「自白」が放送されることも、人権団体から繰り返し批判されている。アムネスティ・インターナショナルは、イランで拷問の影響を受けた「自白」が国営テレビで放送される事例を報告しており、これは裁判が始まる前に社会的な有罪認定を形成する効果を持つ。

本来、刑事裁判における供述は、自由な意思に基づいて行われたものでなければならない。特に死刑事件では、供述の取得過程そのものを厳格に検証し、拷問や脅迫が疑われる場合には、その供述を証拠として排除するとともに、拷問の実施者について別個の捜査を行うことが不可欠である。

ところが、拷問の申し立てそのものが十分に調査されなければ、捜査機関は違法な手段によって得た供述について責任を問われにくくなる。その結果、「拷問による供述→起訴→有罪判決→死刑」という連鎖が成立する危険があり、死刑制度の不可逆性を考えれば極めて重大な司法上の欠陥となる。

革命裁判所の特異性

こうした問題を考えるうえで避けて通れないのが、イランの革命裁判所である。革命裁判所は、国家安全保障、政治的反対活動、諜報、国家に対する重大な犯罪など、体制の安全に関わる事件を扱う特殊な裁判機関であり、死刑判決が政治的事件と結び付く際に重要な役割を果たしている。

革命裁判所で扱われる事件では、通常の刑事事件以上に国家安全保障が重視されるため、被告人の政治的背景や組織との関係が重要な争点になりやすい。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、革命裁判所における重大な公正裁判上の問題を繰り返し指摘しており、抗議参加者や政治活動家に対する死刑判決もこの裁判制度と密接に関係している。

革命裁判所の問題は、特殊裁判所が存在すること自体ではない。国家安全保障という極めて政治性の高い事件を扱う裁判所が、行政・治安機関から十分に独立しているのか、被告人が十分な弁護を受けられるのか、証拠の収集過程を裁判所が厳格に審査しているのかという点にある。

2025年の死刑事件では、女性活動家やクルド系政治囚らが革命裁判所で死刑判決を受けた事例も報告されている。こうした事例が積み重なることで、革命裁判所は単なる特殊な司法機関ではなく、政治的・安全保障的な対立を刑事処罰へ転換する制度的な接点として機能しているとの批判を受けることになる。

以上を総合すると、イランの死刑制度における問題は、死刑という刑罰の存在だけに限定されない。死刑対象犯罪の広さ、国家安全保障犯罪の曖昧さ、捜査段階での弁護権制限、拷問による供述、革命裁判所による審理という複数の要素が結び付くことで、誤判や政治的動機による処刑を防ぐための安全装置が弱くなっていることが最大の問題である。

政治的抑圧および社会統制の手段としての利用

イランの死刑制度を制度全体として評価する場合、最も重要な論点の1つは、死刑が単なる犯罪者への刑罰ではなく、政治的反対者や抗議参加者に対する抑圧手段として利用されているとの指摘である。特に2026年は、2025年末から2026年初頭にかけて発生した大規模抗議活動を契機として、死刑と政治的統制の結び付きが一段と強まった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2026年3月18日から8月末までの5か月余りに、イラン当局は政治的動機を伴う曖昧な国家安全保障犯罪を理由として、少なくとも59人を処刑した。このうち少なくとも29人は2025年12月から2026年1月にかけての抗議活動との関係で逮捕された人物であり、少なくとも3人は2022年の「女性、生命、自由」運動に関連して逮捕された人物だった。

さらに重要なのは、処刑された人物の中に18歳、19歳の若者が含まれていたことである。抗議活動に参加した人物について、殺人を行ったとの具体的な主張が存在しないケースでも、公共物の損壊、道路封鎖、政府施設への侵入などを国家安全保障上の犯罪として扱い、死刑に至った事例が報告されている。

このような運用は、死刑を「犯罪に対する最終的な刑罰」としてではなく、社会に対する警告として機能させる効果を持つ。政府に抗議すれば逮捕され、長期拘禁や死刑判決を受ける可能性があるという認識を市民に植え付けることで、まだ犯罪を行っていない人々に対しても政治活動を控えさせる抑止効果を発生させるからである。

特に公開処刑は、この性格を明確に示す。2026年7月28日にはイスファハーンで2人が公開処刑され、2026年3月にもコムで複数人が人前で処刑されたと報告されている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、公開処刑には刑罰を実行する以上の意味があり、社会に恐怖を与え、さらなる抗議を抑止することを目的とした威嚇の性格があると指摘している。

この点から見ると、イランの死刑制度は「刑罰制度」と「政治的統制制度」の境界に位置している。国家が死刑を利用して犯罪を抑止するだけでなく、政治的反対、社会運動、宗教的少数派、民族的少数派などに対して恐怖を形成するのであれば、死刑制度そのものが人権侵害の一部を構成することになる。

国際法および人権基準との乖離

死刑をめぐる国際的な議論では、死刑を完全に廃止していない国についても、その適用には厳格な制限が課されるという考え方が確立している。特に市民的及び政治的権利に関する国際規約第6条は、死刑存置国においても死刑を「最も重大な犯罪」に限定する考え方を示している。

イランはこの国際規約の締約国であるため、死刑制度を維持していること自体だけで国際法違反となるわけではない。しかし、死刑の対象犯罪をどこまで広げられるか、どのような裁判手続を要求されるか、政治的犯罪に死刑を適用できるかについては、国際人権法上の制約を受ける。

国際的な人権基準では、死刑を適用する場合には、被告人に十分な弁護の機会を与え、独立した裁判所による公正な審理を行い、拷問その他の不法な方法によって得られた証拠を排除することが求められる。特に死刑事件では、生命を奪うという刑罰の不可逆性から、通常の刑事事件以上に厳格な手続保障が必要になる。

しかしイランについては、国際機関や人権団体が、死刑判決に至るまでの過程でこれらの保障が十分に機能していないと繰り返し指摘している。アムネスティ・インターナショナルは2025年のイランについて、裁判が体系的に不公正であり、そのため拘禁や処刑そのものが恣意的なものになっていると評価している。

さらに2026年には、国家安全保障を理由とした新たな諜報関連法制が、公正な裁判を受ける権利をさらに弱める要因になったと指摘されている。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2025年に成立した諜報関連法は「敵対国家」との協力などについて広い犯罪類型を設け、2026年の政治的弾圧に利用されている。

したがって、国際法上の問題は「イランが死刑を廃止していない」という一点にはない。むしろ、死刑の対象を広く設定し、政治的・安全保障的な犯罪に適用し、不公正な裁判や拷問による供述が疑われる事件で執行していることが、国際人権基準との重大な乖離を生み出している。

「最も重大な犯罪」原則の違反

「最も重大な犯罪」という原則は、死刑制度をめぐる国際法上の重要な基準である。この原則は、死刑を維持する国であっても、その対象を生命を意図的に奪うような極めて重大な犯罪に限定すべきだという考え方であり、薬物犯罪、財産犯罪、単なる政治的反対行為などに死刑を適用することを認めるものではない。

イランでは、この原則との衝突が特に明確に表れている。2025年の処刑についてヒューマン・ライツ・ウォッチは、2000人を超える処刑が行われ、その半数以上が薬物関連犯罪だったとしている。薬物犯罪は生命を意図的に奪う犯罪とは異なるため、この大量の処刑は国際法上の「最も重大な犯罪」の基準と直接衝突する。

アムネスティ・インターナショナルの2025年統計でも、世界で確認された薬物犯罪による処刑は1257件に達し、その大部分をイランなどの国が占めている。また同団体は、2025年にもイランで意図的な殺人を伴わない犯罪について死刑が適用され、国際法上の基準に反する事例が確認されたとしている。

この問題は、薬物犯罪だけに限定されない。イランでは「神に対する戦争」や「地上における腐敗」などの曖昧な犯罪類型が死刑につながる場合があり、2026年の抗議関連事件では、殺人の具体的な主張がない人物にも国家安全保障犯罪を理由として死刑が適用されている。

つまり、「最も重大な犯罪」という原則から見ると、イランでは死刑の対象が二重に拡張されていると分析できる。第1に、薬物犯罪など生命を意図的に奪う犯罪ではない一般犯罪に死刑を適用すること、第2に、政治活動や抗議活動などを曖昧な国家安全保障犯罪へ分類することによって死刑の対象に組み込むことである。

この二重構造は、死刑制度の危険性を単純な犯罪類型の問題以上に拡大している。国家が「重大犯罪」の意味を広く解釈できるようになれば、刑罰の限界を法律そのものが設定するのではなく、治安機関や検察、裁判所の判断によって事実上決定することになるからである。

死刑制度と国家による威嚇

ここまでの事例をまとめると、イランにおける死刑制度には、犯罪者を処罰する機能とは別に、市民に対して国家の強制力を示す機能が存在すると考えられる。大量処刑、公開処刑、政治犯への死刑適用、短期間での裁判と執行が組み合わされれば、死刑は司法上の最終刑ではなく、政治的メッセージを発する手段となる。

2026年9月時点でこの傾向は継続している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2026年3月から8月末までに少なくとも59人が政治的動機を伴う曖昧な国家安全保障犯罪によって処刑されたとし、その処刑の多くが逮捕から数週間ないし数か月という短期間で行われたと報告している。

この状況は、死刑制度の「抑止力」という一般的な議論とは区別して考える必要がある。一般犯罪の抑止を目的とする刑罰であれば、犯罪行為を防止することが政策目的になるが、政治的抗議者を処刑する場合には、国家に対する反対意見そのものを抑制することが目的となり得るからである。

したがって、イランの死刑制度を政治的抑圧との関係で分析する場合、個々の処刑事件だけを見るのではなく、法規、治安機関、検察、革命裁判所、死刑執行、公開処刑、国営メディアによる宣伝という一連の仕組みを見る必要がある。この一連の過程が結び付いたとき、死刑は司法制度の一部であると同時に、政治的支配を維持するための強制装置として機能する。

そして、この問題をさらに深刻にしているのが、被害者が政治活動家だけではないことである。民族的・宗教的少数者、外国人、社会的弱者、薬物犯罪の被告人、さらには犯行時に18歳未満だった人物まで死刑制度の対象となっているため、次の論点では、少年犯罪者の処刑と「キサース(報復刑)」というイラン独自の制度的要素を分けて検討する必要がある。

少年犯罪者の処刑

イランの死刑制度を国際的な人権基準から評価する際、特に重大な問題となるのが、犯罪時に18歳未満だった者に対する死刑の執行である。国際人権法では、児童の権利に関する条約および市民的及び政治的権利に関する国際規約の双方において、犯罪時に18歳未満だった者に死刑を科すことは禁止されている。

しかしイランでは、こうした国際的な禁止原則に反して、犯罪時に18歳未満だった人物の処刑が確認されてきた。アムネスティ・インターナショナルは、1990年から2024年までの期間について、犯罪時に18歳未満だった者を処刑した国の1つとしてイランを挙げており、2025年についても少なくとも1人が18歳未満の時に行ったとされる犯罪を理由に処刑されたと記録している。

この問題は、単に「若年者に対して刑罰が重すぎる」という道徳的問題ではない。少年期には判断能力や人格形成が発達途上にあり、成人と同じ刑事責任を前提に生命を奪うことは、国際人権法が少年に特別な保護を与えている基本的な考え方と正面から衝突する。

さらに深刻なのは、政治的抗議活動に関連して逮捕された若者の中にも、死刑の危険にさらされている者が存在することである。アムネスティ・インターナショナルは2026年2月、2026年1月の抗議活動をめぐり、少なくとも8人が死刑判決を受け、さらに22人が死刑の危険にさらされ、その中には抗議関連の行為が問題となった時点で子どもだった者も含まれていると報告した。

2026年5月の報告では、さらに少なくとも78人の抗議参加者、反体制活動家などが死刑判決を受けるか、処刑の危険に直面しており、その中には2026年1月の抗議活動で逮捕された41人が含まれていた。また、そのうち少なくとも5人は問題となった行為の時点で子どもだったとされる。

少年に対する死刑は、イランの死刑制度が抱える司法上の問題とも結び付いている。少年事件では年齢の認定、責任能力、教育・更生可能性、家庭環境などを慎重に考慮する必要があるが、国家安全保障を理由とする迅速な裁判や、拷問による供述が疑われる事件では、そのような個別的な審査が十分に行われない危険が高まる。

したがって、少年犯罪者の処刑は、イランの死刑制度における個別的な例外ではなく、死刑を適用できる範囲を広く設定し、その適用を政治・治安事件にも拡張する制度構造の最も深刻な表れの1つと位置付けることができる。

被害者遺族による「キサース(報復刑)」

イランの死刑制度を理解するうえでもう1つ重要なのが、「キサース(報復刑)」である。キサースはイスラム法上の報復の概念に基づく制度で、特に故意の殺人について、被害者側の遺族が加害者に対する報復を求める権利を認める仕組みである。

この制度では、国家が一方的に死刑を決定する通常の刑事処罰とは異なり、被害者の遺族が重要な立場を持つ。殺人事件などでは、遺族が報復を選択することもできれば、一定の条件の下で加害者を赦免したり、金銭的補償を受け入れたりすることも可能である。

この点には、国家による刑罰と被害者救済を単純に同一視できないという重要な問題がある。キサースは被害者側の意思を尊重する制度として説明できる一方、死刑という国家による生命剥奪を、遺族による「赦し」や「報復」の選択と結び付けることで、死刑制度そのものを存続させる別の法的経路にもなっている。

キサースについては、政治犯罪や薬物犯罪などとは区別して評価する必要がある。殺人事件において被害者遺族が意思決定に関与する制度であるため、国家安全保障を理由として反政府活動家を処刑する制度と同一視することはできない。

しかし、死刑制度全体を考える場合、キサースが存在することによって、死刑廃止をめぐる議論が単純な「国家対被告人」という構図ではなくなる。被害者遺族の感情、正義の回復、金銭的補償、赦し、報復という複数の要素が刑事司法の中に入り込むためである。

また、キサース事件では、被害者遺族が死刑執行を望まない場合に救命につながる可能性がある一方、遺族が報復を選択すれば死刑が実行され得る。この構造は、死刑を完全に国家の刑罰政策として管理する制度とは異なる性質を持っている。

したがってキサースについては、単純に「遺族が死刑を決定する制度」と説明するのでは不十分である。より正確には、殺人など特定の犯罪について被害者側の権利を認め、その中に報復、赦免、補償という複数の選択肢を組み込んだ制度であり、その一部として死刑が維持されていると理解する必要がある。

一方、キサースが適用される事件であっても、国家による司法手続が公正でなければ別の問題が発生する。捜査段階で強制された供述が有罪判決につながった場合、遺族の選択以前に「誰が実際に犯罪を行ったのか」という前提そのものが不確実になるからである。

この意味で、キサースをめぐる死刑問題も、最終的には司法手続の信頼性から切り離せない。死刑が不可逆的である以上、被告人の有罪認定が確実であり、弁護権が保障され、拷問や強制による供述が排除されていることが不可欠となる。

今後の展望

2026年9月時点で、イランの死刑制度が短期的に大幅な縮小へ向かう可能性は高いとは言い難い。2025年には少なくとも2159人の処刑が確認され、アムネスティ・インターナショナルが1981年以来の記録としている水準に達しており、死刑制度が国家の刑事政策の中心的な位置を占めているためである。

さらに、2026年には戦争や国家安全保障上の緊張を背景として、諜報、敵国協力、反政府活動などへの取り締まりが強化されている。国連人権高等弁務官事務所の特別手続も、2026年5月、拷問、恣意的拘禁、公正な裁判を受ける権利の侵害が疑われる手続を経て、差し迫った処刑の危険にある人物についてイラン政府に情報を求めている。

この状況では、死刑制度を直ちに全面廃止することだけを唯一の改革目標とするよりも、まず死刑対象犯罪の縮小、政治犯罪への死刑適用停止、少年犯罪者への死刑禁止、拷問による供述の排除、弁護権の完全な保障、革命裁判所における公正な審理の確保などを段階的に実現することが重要になる。

特に重要なのは、「国家安全保障」を理由として死刑の対象を拡張しないことである。テロ、武装攻撃、諜報活動などについて国家が刑事責任を問うこと自体は否定されないが、その犯罪構成要件を明確にし、実際の暴力行為や生命への重大な侵害と厳格に結び付けなければ、国家安全保障という概念が政治的反対者を処罰するための包括的な法的根拠になってしまう。

また、死刑執行件数の削減だけでは不十分である。死刑判決を受けた人々について、再審査、弁護人との接触、独立した医療検査、拷問疑惑の調査、証拠の再検証などを行い、誤判や不公正な裁判による処刑を防止する制度的な仕組みを構築する必要がある。

長期的には、死刑そのものを廃止する方向が国際的な人権政策の大きな潮流となっている。アムネスティ・インターナショナルによると、2025年末時点で死刑を法律上または実際上廃止した国は145か国に達しており、完全廃止国だけでも113か国となっている。

したがって、イランにおいても死刑制度を縮小・廃止する議論は、単なる刑罰政策の変更ではなく、司法制度の独立性、国家安全保障法制、被拘禁者の権利、少数者の保護、政治的自由を含む国家統治全体の改革として考える必要がある。

まとめ

以上を総合すると、イランの死刑制度の問題は、単純に「死刑執行数が多い」という量的問題ではない。死刑対象犯罪の広さ、曖昧な法定義、国家安全保障を理由とする政治的事件への適用、薬物犯罪への大量適用、少年犯罪者の処刑、革命裁判所における公正裁判上の問題、拷問による「自白」の疑いなどが相互に結び付いている点に本質がある。

2025年の少なくとも2159件という処刑数は、この制度が例外的な刑罰ではなく、イランの刑事司法において非常に大きな役割を果たしていることを示す。しかもその中には薬物犯罪による998件が含まれ、少なくとも1人について犯罪時に18歳未満だったことが確認されている。

一方で、すべての死刑事件を同じ性質のものとして扱うことにも注意が必要である。一般的な殺人事件、薬物犯罪、キサースによる殺人事件、国家安全保障事件、抗議活動関連事件では、犯罪の性質も法的根拠も異なるため、それぞれを区別したうえで司法手続と人権基準を検証しなければならない。

それでも制度全体を俯瞰すれば、最も重大な問題は、死刑という不可逆的な刑罰を適用できる領域が広すぎることと、その適用過程に重大な公正裁判上の疑問が繰り返し生じていることである。特に政治的反対者や抗議参加者に対して死刑が適用される場合、刑事司法と政治的抑圧の境界が失われる危険性が極めて高い。

国際法上も、死刑を存置する国には「最も重大な犯罪」に限定すること、公正な裁判を保障すること、拷問による証拠を排除すること、少年に対して死刑を科さないことなど、厳格な制約が存在する。イランの現在の制度運用は、これらの基準との間に大きな隔たりを示している。

したがって、イランの死刑制度を「宗教的刑法だから厳しい」という説明だけで理解することは不十分である。より正確には、宗教法上の刑罰、国家安全保障法制、薬物犯罪対策、被害者遺族の権利、革命裁判所、治安機関、政治的抑圧が複合した制度として捉える必要がある。

そして2026年9月時点で最大の焦点となるのは、この死刑制度が今後も政治的反対者を威嚇する手段として利用され続けるのか、それとも死刑対象犯罪の縮小、公正裁判の強化、少年への死刑禁止、拷問の根絶などを通じて段階的な改革へ向かうのかという点である。少なくとも現在確認されている執行数と人権機関の報告を見る限り、後者への転換はまだ実現していないと評価するのが妥当である。


参考・引用リスト

  • アムネスティ・インターナショナル「死刑判決と死刑執行2025」2026年5月。2025年の世界の死刑執行状況、イランで少なくとも2159人が処刑されたこと、薬物犯罪による998件の処刑、犯罪時18歳未満だった人物の処刑などを収録している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:人権状況2025/2026年版」2026年4月。イランにおける死刑、政治的抑圧、公正な裁判、拷問などを総合的に扱った年次資料である。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:抗議参加者・反体制活動家が処刑の危険に」2026年5月。2026年の抗議活動関連事件について、少なくとも78人が死刑判決または処刑の危険にさらされ、その中に行為当時18歳未満だった者が含まれることを報告している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:2026年1月抗議活動関連の死刑」2026年2月。抗議活動後の迅速な裁判、拷問の疑い、死刑判決を受けた者の状況について報告している。
  • 国連人権高等弁務官事務所・特別手続「イランに関する通報」2026年1月・5月。拷問、恣意的拘禁、公正な裁判を受ける権利の侵害が疑われ、処刑の差し迫った危険にある人物についての政府宛て通報を掲載している。
  • アムネスティ・インターナショナル「犯罪時に子どもだった者の処刑、1990〜2024年」2025年4月。国際人権法上、犯罪時18歳未満の者への死刑が禁止されていることと、各国における実態を整理している。
  • アムネスティ・インターナショナル「イラン:処刑危機、2025年9月」2025年9月。2025年の死刑執行急増と、死刑制度が政治的反対者への抑圧手段として利用されているとの指摘を収録している。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ「イラン:継続する抗議参加者への違法な処刑」2026年9月。2026年の政治的動機を伴う処刑、抗議活動参加者への死刑適用、公開処刑などについて分析している。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ「世界人権報告2026・イラン」2026年。死刑、薬物犯罪、国家安全保障犯罪、革命裁判所、公正な裁判など、イランの刑事司法制度全般を扱っている。
  • 国際連合・市民的及び政治的権利に関する国際規約。生命に対する権利、死刑の制限、公正な裁判などについて、イランを含む締約国に適用される国際的基準を確認するための基本資料である。

追記:イランの死刑制度をどう評価すべきか

ここまでの検証を総合すると、イランの死刑制度について最も重要なのは、単に死刑執行件数が多いという事実ではなく、死刑を適用できる犯罪の範囲、法規定の曖昧さ、国家安全保障を理由とする適用、裁判手続の不備、拷問による供述の疑いが一つの制度構造として結び付いていることである。2025年にはイランで少なくとも2159人の処刑が確認され、アムネスティ・インターナショナルが1981年以来で確認した同国の年間執行数として最多となった。

この数字だけをもって、すべての処刑が政治的処刑だったと判断することはできない。実際には薬物犯罪や殺人など多様な犯罪が含まれており、2025年の2159件のうち998件は薬物関連犯罪だったとされるため、政治事件だけでは説明できない大規模な死刑制度であることも明確である。

しかし同時に、死刑制度が政治的抑圧の手段として利用されていることも否定できない。アムネスティ・インターナショナルは2025年について、女性・生命・自由運動などで政府に異議を唱えた人物に対する死刑の利用が続き、2026年にはさらに政治的動機を伴う死刑執行が増加したと指摘している。

2026年における政治的処刑の拡大

2026年の状況は、イランの死刑制度を検証するうえで特に重要である。2025年12月から2026年1月にかけての抗議活動後、当局は抗議参加者や反体制派に対して国家安全保障関連の犯罪を適用し、死刑を含む重い刑罰を科す動きを強めた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチとイラン人権擁護団体によれば、2026年3月18日から8月末までの5か月余りの間に、政治的動機を伴う曖昧な国家安全保障犯罪によって少なくとも59人が処刑された。そのうち少なくとも29人は2025年12月から2026年1月の抗議活動に関連して逮捕された人物であり、少なくとも3人は2022年の女性・生命・自由運動に関連して逮捕された人物だった。

さらに、処刑された人物には18歳、19歳の若者も含まれていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これらの抗議関連事件の多くについて殺人の主張すら存在せず、公共財産の損壊、石を投げたこと、政府施設への侵入などが曖昧な国家安全保障犯罪として扱われたと報告している。

この点は、国際人権法上の「最も重大な犯罪」という原則との関係で極めて重要である。政治的抗議や政府批判そのもの、あるいは生命を意図的に奪う行為とは直接結び付かない財産損壊などを死刑につなげるなら、死刑の対象は国際的に認められている最も狭い範囲を大きく超えることになる。

「国家安全保障」はどこまで許されるのか

国家には、外国の諜報活動、武装攻撃、テロ行為などから国民を守る正当な権限がある。したがって、国家安全保障に関する犯罪を刑事処罰すること自体を人権侵害とみなすことはできない。

問題は、国家安全保障という概念が極めて広く解釈され、政治的反対者や抗議参加者を刑事処罰する根拠として利用される場合である。2026年には、米国・イスラエルによる軍事攻撃後に当局が「戦時状況」を強調し、外国勢力への協力や諜報などを理由とする迅速な起訴・裁判・死刑執行を進めたことについて、アムネスティ・インターナショナルが強く批判している。

同団体によれば、2026年2月28日以降、当局は6000人を超える人々を恣意的に逮捕し、その中には抗議参加者、記者、弁護士、人権活動家、反体制派、民族的・宗教的少数者などが含まれていた。また、死刑事件について迅速な裁判が指示され、拷問、強制失踪、強制された「自白」などに対する重大な懸念が生じている。

つまり、国家安全保障を理由とする刑罰は、それ自体が問題なのではなく、犯罪行為の具体的な立証よりも政治的な立場や政府との関係が処罰の根拠として重視される場合に問題となる。この境界を明確にできなければ、国家安全保障法制は司法制度ではなく政治的統制の道具へ変質する危険性がある。

裁判手続の問題が死刑制度をさらに危険にする

死刑制度について最も慎重に検証しなければならないのは、誤判を防止する司法上の安全装置が十分に機能しているかという点である。死刑は生命を奪う不可逆的な刑罰であるため、証拠の検証、弁護人との十分な接触、独立した裁判所による審理、拷問による証拠の排除などが通常の刑事事件以上に重要になる。

ところがイランについては、革命裁判所を中心として、公正な裁判を受ける権利に関する重大な問題が繰り返し報告されている。アムネスティ・インターナショナルは、2025年のイランの裁判について「体系的に不公正」だったと評価し、それによって拘禁や処刑そのものが恣意的になっていると指摘している。

さらに、2026年には裁判の迅速化が問題を一層深刻にしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、2026年3月から8月までに処刑された政治事件の被告人について、逮捕から処刑までの期間が5週間余りから8か月未満にすぎない事件があり、死刑事件として十分な証拠審査や弁護活動が行われたのか重大な疑問が生じている。

「自白」の信頼性という根本問題

死刑事件で特に重大なのが、拷問や脅迫によって得られたとされる「自白」の問題である。被疑者が自由な意思で供述したのではなく、身体的・精神的な圧力によって捜査機関が求める内容を認めさせられたのであれば、その供述の証拠価値は根本から疑われなければならない。

2026年には、拘禁中の模擬処刑、殴打、手足をつるす行為、長時間の独房拘禁、食料や医療の制限などが報告されている。さらに、国家メディアで「自白」映像を放送し、司法手続が終了する前から被拘禁者を犯罪者として社会に提示する事例も確認されている。

この問題は、単なる捜査上の不正にとどまらない。拷問によって得られた供述が死刑判決の根拠となれば、司法制度そのものが違法な捜査方法を利用して生命を奪う仕組みに変わるためである。

したがって、死刑制度を評価する場合には「法律上、どの犯罪が死刑になるのか」だけではなく、「その犯罪がどのような証拠によって認定されたのか」まで検証しなければならない。ここにイランの死刑制度をめぐる最大の構造的問題の1つが存在する。

少年犯罪者の処刑と国際的な禁止

犯罪時に18歳未満だった人物への死刑も、イランの制度に対する国際的批判の主要な対象である。アムネスティ・インターナショナルによると、2025年には世界で少なくとも3人が、18歳未満の時に行ったとされる犯罪を理由に処刑され、そのうち1人がイランだった。

これは単なる刑罰政策上の意見の相違ではない。児童の権利に関する条約および市民的及び政治的権利に関する国際規約の下では、犯罪時18歳未満の者に死刑を科すことは禁止されており、イランがこの原則と異なる制度運用を続けることには明確な国際法上の問題がある。

2026年の抗議関連事件でも、問題となった行為の時点で子どもだった者が死刑の危険にさらされていると報告されている。アムネスティ・インターナショナルは2026年5月、少なくとも78人の抗議参加者、反体制活動家などが死刑判決を受けるか処刑の危険にさらされ、その中に当時子どもだった少なくとも5人が含まれているとした。

キサースをめぐる評価

キサースについては、国家安全保障犯罪への死刑と同じものとして扱うべきではない。キサースは主として故意の殺人などについて被害者遺族に一定の選択権を認める制度であり、報復、赦免、補償という複数の選択肢が存在する。

したがって、キサース制度の存在そのものをもって、すべての死刑が政治的処刑であると結論付けることはできない。むしろ、イランの死刑制度には、国家が直接刑罰を決定する類型と、被害者遺族の意思が大きな意味を持つ類型が併存していると理解する必要がある。

ただし、キサースによる死刑であっても、最終的な有罪認定が公正な手続によって行われなければならない。拷問による供述、弁護権の制限、証拠の不十分な審査などが存在すれば、遺族が報復するか赦免するかを判断する前提そのものが不確かなものになる。

今後の展望

2026年9月時点で、イランが近い将来に死刑制度を全面的に廃止する可能性は高くない。むしろ2025年の2159件以上という記録的な執行数と、2026年の政治的処刑の継続を考えれば、現状では死刑制度が国家の刑事政策および治安政策の重要な手段として維持されていると評価する方が妥当である。

しかし、全面廃止だけが改革の選択肢ではない。まず、薬物犯罪など「最も重大な犯罪」に該当しない犯罪から死刑を排除し、政治的抗議や表現活動に関連する犯罪への死刑適用を停止し、少年への死刑を完全に禁止することが現実的な第一段階となる。

同時に、革命裁判所を含む司法制度の独立性を強化し、国家安全保障事件であっても弁護人へのアクセス、公開性、証拠開示、証人尋問、上訴などの権利を確保する必要がある。拷問による供述を完全に排除し、拷問の申し立てがあった場合には独立した機関による調査を義務付けることも不可欠である。

国際的には、イラン政府に対する外交的圧力だけでなく、死刑執行予定者の救命、拷問の調査、公正裁判の監視など具体的な措置が重要になる。死刑制度の縮小を進める場合も、犯罪被害者の権利や遺族の利益を無視するのではなく、キサースにおける赦免や補償などの選択肢を拡充しながら生命刑罰への依存を減らすことが必要となる。

結論

イランの死刑制度を一言で表現するなら、「死刑そのものの存在」よりも、「死刑を適用できる範囲が広く、その適用を制御する司法上の安全装置が弱いこと」が最大の問題である。薬物犯罪への大量適用、曖昧な国家安全保障犯罪、政治的抗議への適用、少年犯罪者の処刑、拷問による「自白」、革命裁判所における公正裁判上の問題が重なり合っている。

2025年に確認された少なくとも2159件の処刑は、その規模を端的に示している。しかも998件が薬物犯罪関連であり、国際人権法が求める「最も重大な犯罪」という限定から大きく外れる運用が存在する。

さらに2026年には、抗議参加者や反体制派に対する政治的処刑が続いている。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2026年3月18日から8月末までに少なくとも59人が政治的動機を伴う曖昧な国家安全保障犯罪によって処刑され、そのうち少なくとも29人が直近の抗議活動に関連していた。

したがって、イランの死刑制度は「宗教的価値観に基づく厳格な刑罰制度」という説明だけでは十分に理解できない。宗教法、刑事法、国家安全保障法制、治安機関、革命裁判所、政治的弾圧、被害者遺族の権利が複合した多層的な制度として分析する必要がある。

国際人権基準との関係では、死刑対象犯罪を「最も重大な犯罪」に限定すること、犯罪時18歳未満の者を処刑しないこと、拷問による証拠を排除すること、公正な裁判を保障することが最低限の基準となる。現時点のイランの制度運用は、これらの原則との間に明確な隔たりを示している。

そして最も重大なのは、死刑が国家による政治的威嚇の手段になり得る点である。処刑が政治的反対者への警告として機能し、公開処刑や国営メディアによる「自白」の放送まで組み合わされるなら、死刑は犯罪に対する最終刑ではなく、社会全体に恐怖を伝達する統治手段となる。

以上から、2026年9月時点のイランの死刑制度については、広範な死刑対象、法定義の曖昧さ、国家安全保障を利用した政治的適用、不公正な裁判、拷問による供述、少年への適用という複数の問題が相互に補強し合う構造的な人権問題と評価するのが妥当である。


参考・引用資料の位置付け

本稿の検証において特に重要なのは、アムネスティ・インターナショナルの2025年死刑統計、2026年のイランに関する緊急報告、ヒューマン・ライツ・ウォッチの2026年9月の政治的処刑に関する調査、国連人権機関の資料である。アムネスティの2025年統計は、イランで少なくとも2159人が処刑されたこと、薬物犯罪による処刑が998件に達したこと、犯罪時18歳未満だった人物の処刑が確認されたことを示しており、量的分析の基礎資料として重要である。

2026年の政治的抑圧については、アムネスティ・インターナショナルが、2月28日以降の大量逮捕、迅速な死刑裁判、拷問、強制された「自白」について報告している。特に、2026年5月の報告では、少なくとも78人が死刑の危険にさらされ、その中に2026年1月の抗議活動で逮捕された41人と、行為当時子どもだった少なくとも5人が含まれるとされている。

一方、2026年9月10日に公表されたヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、2026年3月18日から8月末までの59件の政治的処刑について、逮捕から執行までの期間、国家安全保障犯罪の曖昧さ、殺人の主張がない事件、公開処刑、若年者への適用などを具体的に検証している。2026年9月時点の現状を把握するうえでは、特に重要な最新資料である。

なお、死刑執行数は秘密裏に行われるものを含め、すべてを完全に把握できるわけではない。アムネスティ・インターナショナル自身も、各国の公式統計が存在しない場合には、司法資料、報道、家族・弁護士などから得られた情報を組み合わせて最小確認値を算出しているため、「2159人」は実際の処刑数そのものではなく、確認できた最低数として扱う必要がある。

この点を踏まえると、イランの死刑制度について最も慎重な結論は、「世界最多の処刑国である」という単純な表現ではなく、確認可能なだけでも極めて多数の処刑を行い、その一部が国際法上の死刑適用基準を満たさない犯罪や、政治的・国家安全保障上の曖昧な犯罪に及んでいること、そしてその過程に重大な公正裁判上の問題が報告されているというものである。

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