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ホルムズ海峡依存の脱却困難、頼みのパイプラインも攻撃対象に、イエメン内戦の再燃とフーシ派の攻勢

今回の一連の出来事から導かれる結論は明確である。ホルムズ海峡依存からの脱却は、技術的には一定程度可能でも、完全な脱却は極めて困難である。
2026年9月13日/イエメン、モカ方面に向かうフーシ派の戦闘員(AP通信)
現状(2026年9月時点)

2026年9月の中東情勢は、単純な「イラン戦争によるホルムズ海峡の封鎖」という段階を越えている。ホルムズ海峡の通航リスクが高まるなか、その代替経路として重要視されてきたサウジアラビアの東西パイプラインまで攻撃を受けて停止し、さらにイエメンのフーシ派が紅海・バブ・エル・マンデブ海峡周辺で攻勢を強めているためである。つまり現在起きているのは、1つの海上要衝が機能不全になる問題ではなく、中東から世界市場へ石油を運び出す複数の経路が同時に危険にさらされる事態である。

とりわけ重要なのが、9月12日前後に発生したサウジアラビア東西パイプラインへの攻撃である。全長約1,200キロメートルの同パイプラインは、ペルシャ湾岸の油田・施設から紅海沿岸のヤンブー港へ原油を陸上輸送し、ホルムズ海峡を通らずに国際市場へ輸出するための重要な迂回経路だったが、ドローンによる攻撃を受けて停止した。

ロイターによれば、同パイプラインは通常、日量400万〜500万バレル程度の原油輸送に利用されており、停止が長期化すれば世界の供給に大きな影響を与える可能性がある。9月13日時点では、サウジアラビアの輸出用在庫は5〜7日程度しか持たないとの関係者情報も報じられており、問題は「パイプラインが使えない」という設備上の障害から、「輸出そのものをどこまで維持できるか」という国家レベルの供給問題へ移りつつある。

一方、イエメンではフーシ派が攻撃能力と支配地域を拡大している。ロイターは9月11日、フーシ派が紅海とアデン湾を結ぶバブ・エル・マンデブ海峡に近いドゥバーブへ到達したと報じ、さらに9月15日にはサウジアラビア国内の軍事施設などへのミサイル・ドローン攻撃が確認されたとしている。

この動きは、イランと米国などの対立にイエメン情勢が連動することで、戦争の地理的範囲が拡大していることを意味する。ホルムズ海峡だけを監視していればエネルギー安全保障を判断できるという従来型の考え方が通用しにくくなり、ペルシャ湾、サウジアラビア西部、紅海、バブ・エル・マンデブという複数の地域を一体として見る必要が生じている。

現状の概要:何が起きているのか

今回の危機を理解するためには、まず「石油がどこから、どの経路を通って世界市場へ出ていくのか」を確認する必要がある。ペルシャ湾岸には世界有数の産油国が集中しており、その多くは原油をタンカーで輸出する際にホルムズ海峡へ依存しているため、同海峡の安全は世界のエネルギー市場に直結する。

米国エネルギー情報局によると、2024年にホルムズ海峡を通過した石油は平均で日量約2,000万バレルに達し、世界の石油液体消費量のおよそ20%に相当した。さらに2025年上半期でも日量約2,090万バレルが通過しており、世界の海上石油貿易の約4分の1を占めていた。

したがって、ホルムズ海峡の通航が大きく制限されれば、単純に「タンカーが少し遠回りすればよい」という問題にはならない。輸送船、港湾、備蓄、パイプライン、精製設備、保険、護衛体制などが一体となった物流網そのものが制約を受け、供給不足への懸念が原油価格、輸送費、保険料、インフレ、金融市場へ波及するからである。

実際、9月10日には原油価格が大幅に上昇し、北海産原油の指標価格は1バレル100ドルを超えた。ロイターは、イランをめぐる戦闘、タンカーへの攻撃、ホルムズ海峡の混乱、サウジアラビアのエネルギー施設への攻撃が同時に発生していることを、市場が供給リスクとして織り込んでいると報じている。

ここで重要なのは、サウジアラビアが長年にわたって「ホルムズ海峡を回避できる国」として一定の優位性を持っていたことである。東西パイプラインによって原油を紅海側へ移送できるため、少なくとも理論上はペルシャ湾から直接タンカーを出す必要性を減らせるからである。

しかし今回、その「代替ルート」そのものが攻撃対象となった。これによって問題の性質が変化したのである。

ホルムズ海峡依存の脱却の限界

ホルムズ海峡からの脱却という表現には注意が必要である。パイプラインを増設すれば海峡を通過する原油を一定量減らすことはできるが、世界市場へ供給されるすべての原油を陸上輸送へ切り替えることは、設備能力、地理、コスト、輸出港の能力などから現実的ではない。

米国エネルギー情報局は、サウジアラビアとアラブ首長国連邦のパイプラインを合わせても、ホルムズ海峡を迂回できる能力には限界があると分析している。2025年上半期の分析では、両国の既存設備を合わせた迂回能力は約470万バレル/日とされ、ホルムズ海峡を通過する日量約2,090万バレルと比べれば、その一部にすぎない。

サウジアラビア単独で見ても、東西パイプラインは非常に重要だが万能ではない。米国エネルギー情報局によれば、同パイプラインの能力は通常日量500万バレルで、必要時には700万バレルまで一時的に拡張できるとされるものの、これはあくまでサウジアラビアの輸出経路の一部を代替する規模であり、ホルムズ海峡全体を代替するものではない。

さらに、パイプラインには別の弱点がある。海峡のような「一点の海上要衝」を回避できても、長距離にわたって地上に固定された設備は攻撃対象を限定できるため、ミサイルやドローンによる精密攻撃に対して脆弱になる。

今回の東西パイプライン停止は、まさにその問題を示した。海峡を避けるために陸上へ移した輸送経路が、今度は別の軍事的脅威によって遮断されれば、「迂回すること」と「安全に輸送できること」は同義ではないことが明らかになる。

この意味で、現在の中東危機は「ホルムズ海峡への依存を減らせば解決する」という単純な構図ではない。むしろ、海上輸送を陸上輸送へ移すほど、別の地点に新しい脆弱性が形成されるという問題を浮き彫りにしている。

サウジアラビアの東西パイプライン(PETROLINE)の停止

東西パイプライン、いわゆるペトロラインは、サウジアラビアのエネルギー安全保障における戦略的な設備である。ペルシャ湾側で生産された原油をサウジアラビア西部へ運び、紅海沿岸のヤンブーから輸出することで、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブという2つの海上要衝への依存を減らすことができる。

この仕組みは、特に紅海方面の船舶がフーシ派による攻撃を受けるようになった近年、重要性を増していた。米国エネルギー情報局も、サウジアラビアが東西パイプラインを利用してホルムズ海峡だけでなくバブ・エル・マンデブ周辺の危険を回避してきたことを指摘している。

ところが2026年9月、その回避策そのものが攻撃を受けた。攻撃の発生地点や関与勢力をめぐって各国の主張には相違があるものの、少なくともパイプラインが航空攻撃によって損傷し、サウジアラビアが輸送を停止せざるを得なくなったことは、現在のエネルギー危機を考えるうえで決定的に重要である。

つまり、「ホルムズ海峡が危険になったからパイプラインを使う」という危機対応策が、そのパイプラインへの攻撃によって機能しなくなったのである。この段階に至ると、単なる輸送ルートの変更では危機を吸収できなくなり、世界の石油市場は供給そのものが減少する可能性を直接評価せざるを得なくなる。

ホルムズ海峡依存からの脱却が「極めて困難」な理由

ホルムズ海峡を回避するためのパイプラインは以前から存在していたが、それはホルムズ海峡そのものを代替する設備ではない。米国エネルギー情報局によれば、2025年前半にホルムズ海峡を通過した石油は日量2,090万バレルで、世界の石油液体消費量のおよそ20%に相当したのに対し、サウジアラビアとアラブ首長国連邦のパイプラインによる迂回能力は合わせて約470万バレルにとどまる。

つまり、ホルムズ海峡を完全に代替するだけの輸送能力は、そもそも存在していない。仮にパイプラインがすべて正常に稼働していたとしても、海峡が長期間にわたって機能不全になれば、湾岸産油国の輸出量をそのまま別経路へ移すことはできず、世界市場は一定規模の供給減少を受け入れざるを得ない。

この問題をさらに難しくしているのが、パイプラインの「名目上の輸送能力」と「実際に危機時に利用できる輸送能力」は同じではないという点である。設備が最大能力で運転できるとしても、原油の種類、貯蔵施設、輸出港の処理能力、国内需要、他の輸送設備との接続状況などが制約になるためである。

サウジアラビアの東西パイプラインは、現在の能力で日量500万バレル、必要に応じて一時的に700万バレルまで拡張できるとされる。これは非常に大きな能力だが、ホルムズ海峡を通過する日量2,000万バレル規模の石油を考えれば、あくまで限定的な代替手段でしかない。

さらに、ホルムズ海峡を回避した後にも問題が残る。東西パイプラインの原油は紅海沿岸のヤンブーからタンカーで輸出されるため、輸送の最終段階では再び海上交通に依存することになるからである。

輸送容量の限界

この構造を単純化すると、湾岸から世界市場へ向かう石油輸送には「生産設備」「陸上輸送」「輸出港」「海上輸送」という複数の段階が存在する。ホルムズ海峡を避けるために1つの段階を変更しても、別の段階に十分な容量がなければ、全体としての輸送能力は増えない。

例えばサウジアラビアが東部の産油地域から原油を西部へ移送できても、ヤンブーの貯蔵・積み出し能力や紅海側のタンカー輸送能力が不足すれば、パイプラインの最大能力を使い切ることはできない。したがって「500万バレルのパイプラインがある」という数字だけを見て、同量の石油を確実に世界市場へ送り出せると考えるのは危険である。

しかも現在は、ホルムズ海峡だけが問題になっていない。紅海とアデン湾を結ぶバブ・エル・マンデブも安全保障上の重大な問題になっており、サウジアラビアが東西パイプラインによって西岸へ原油を移したとしても、その先の海上輸送が攻撃を受ける可能性がある。

ここに現在の危機の特徴がある。代替経路は存在するが、その代替経路もまた軍事的な圧力を受けるため、単純な「迂回」が成立しなくなっているのである。

地政学的脆弱性

パイプラインは海峡とは異なる種類の脆弱性を持つ。海峡は巨大な地理的要衝であるため、封鎖や攻撃の兆候を比較的把握しやすいが、1,000キロメートルを超えるパイプラインは長い距離にわたって固定されているため、複数の地点が潜在的な攻撃対象になる。

今回のサウジアラビア東西パイプラインへの攻撃は、その脆弱性を実際に示した。サウジアラビア政府によると、9月11日、リヤドとメディナ周辺のパイプラインが複数の無人機によって攻撃され、負傷者と設備損傷が発生したため、パイプラインは予防措置として停止された。サウジアラビアは無人機がイラクから飛来したとしており、イラク側も調査を開始した。

ここで注目すべきなのは、攻撃そのものによる物理的損傷だけではない。パイプラインのような重要インフラは、実際に破壊されなくても「攻撃される可能性」が高まれば、安全確認や消火、点検、警備のために輸送を停止することがあるからである。

つまり、非対称型兵器による攻撃は、投入された兵器の価格と破壊された設備の価値を単純に比較するだけでは評価できない。比較的低コストの無人機やミサイルによって、極めて高価なエネルギーインフラを一時停止させ、さらに市場に供給不安を生じさせることができるためである。

今回の事例では、攻撃を受けたパイプラインが「数時間停止した」という程度では終わらず、9月15日現在、修復に数週間を要する可能性が報じられている。報道によって停止期間の見積もりには幅があるものの、少なくとも短期間で完全に通常状態へ戻るとは限らない状況になっている。

「頼みの綱」だったサウジ・パイプラインへの攻撃

サウジアラビアの東西パイプラインが重要なのは、単純に輸送量が大きいからではない。この設備は、ペルシャ湾と紅海という2つの海域を陸上で結び、ホルムズ海峡を避けるだけでなく、バブ・エル・マンデブ方面の危険も回避するための戦略的な輸送路だからである。

米国エネルギー情報局も、サウジアラビアが東西パイプラインを利用することで、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブの双方を回避できると説明している。2024年にはヤンブーからの原油輸出がサウジアラビアの海上原油輸出全体の18%に達し、紅海側の輸出拠点としての重要性が高まっていた。

だからこそ、今回の攻撃は単なる石油施設への攻撃以上の意味を持つ。攻撃側から見れば、サウジアラビアの生産能力そのものを完全に破壊しなくても、ホルムズ海峡の代替経路を停止させることで、世界市場に「安全な輸送路が残っている」という安心感を崩すことができるからである。

ロイターによれば、今回停止した東西パイプラインは約1,200キロメートルに及び、通常は日量400万〜500万バレル程度の原油を輸送している。ホルムズ海峡の通航が大きく制限されている現在、この経路の停止は単独の設備事故ではなく、世界の供給網に対する追加的な制約になっている。

「迂回ルートの消滅」という意味

今回の事態を「サウジアラビアのパイプラインが止まった」とだけ理解すると、本質を見誤る。より重要なのは、ホルムズ海峡の代替策として期待されていた輸送経路が、同じ地域的な軍事衝突の中で攻撃対象になったことである。

ホルムズ海峡が危険になると、通常ならサウジアラビアの東西パイプラインを使うという判断が成立する。しかし、そのパイプラインまで停止すれば、石油輸送網は「第1の経路が塞がれたら第2の経路へ移る」という冗長性を失う。

この状況でさらに紅海方面まで不安定化すれば、問題は一段と深刻になる。サウジアラビアは東西パイプラインによって原油を紅海側へ移すことができても、その周辺海域を安全に航行できなければ、代替ルートとしての価値そのものが低下するからである。

そして、まさにそのタイミングでイエメンのフーシ派が紅海沿岸への攻勢を強めている。9月11日にはバブ・エル・マンデブ海峡にあるペリム島へフーシ派勢力が到達したと複数のイエメン政府関係者がロイターに証言し、同海峡周辺での軍事的な位置取りが大きく変化している。

このため現在の中東では、「ホルムズ海峡を避ければよい」という発想そのものが成立しにくくなっている。東側の海上要衝を避ければ西側の陸上インフラが攻撃され、西側の輸出港へ逃がせば紅海・バブ・エル・マンデブの安全保障問題に直面するという、複数の脆弱性が連鎖しているからである。

非対称型兵器による新たな脅威

この連鎖をさらに強めているのが、無人機や巡航ミサイルなどの非対称型兵器である。巨大な油田や製油所、パイプラインを守るためには大規模な防空体制が必要になる一方、攻撃側は比較的小規模な兵器でも重要施設の一部を停止させることができる。

これはエネルギー安全保障における従来の「戦力の均衡」と異なる問題である。国家が巨額の費用をかけて防衛網を構築しても、すべてのパイプライン、ポンプ施設、貯蔵タンク、港湾、送電設備などを完全に防御することは難しく、攻撃側はその隙間を探すことができる。

しかも無人機による攻撃は、実際の破壊能力以上に心理的な効果を持つ。1回の攻撃で設備を停止させ、その後に再攻撃の可能性を残せば、事業者は安全確保を優先して操業を抑制する可能性がある。

したがって現在のエネルギー危機では、「どれだけの原油が実際に破壊されたか」だけではなく、「どれだけの輸送能力が軍事的リスクによって利用不能になったか」を見る必要がある。この視点に立つと、ホルムズ海峡、サウジ東西パイプライン、紅海、バブ・エル・マンデブは別々の問題ではなく、1つの広域的なエネルギー輸送システムとしてつながっていることが分かる。

そして、その中心に突然浮上してきたのがイエメンである。

イエメン内戦の再燃とフーシ派の攻勢

2026年9月に入り、イエメン情勢はそれまでの「凍結された内戦」という状態から明確に変化した。フーシ派は紅海沿岸で大規模な攻勢を開始し、9月10日にはモカを制圧し、その後さらに南へ進撃してドゥバーブなどの沿岸地域、ペリム島、ハニシュ諸島へ勢力を拡大したと報じられている。

この動きの意味は、単にイエメン国内の勢力図が変化したというだけではない。フーシ派が紅海沿岸からバブ・エル・マンデブ海峡周辺にかけて軍事的な足場を確保すれば、イエメン内戦の前線がそのまま世界有数の海上交通路に接続することになるからである。

特に重要なのがペリム島である。同島はバブ・エル・マンデブ海峡の中央部に位置し、紅海とアデン湾を結ぶ航路を監視するうえで戦略的価値が高い。フーシ派がこの地域で支配力を強めれば、船舶を直接攻撃しなくても、航行そのものに対する軍事的圧力を高められる。

9月11日にはフーシ派がペリム島を確保したとの情報が相次ぎ、さらに大・小ハニシュ諸島も掌握したと報じられた。これにより、紅海南部におけるフーシ派の軍事的な位置は、それまでの沿岸部を中心とするものから、海峡そのものを意識したものへと変わった。

しかもフーシ派は9月15日にもサウジアラビアに対するミサイル・無人機攻撃を実施したと報じられている。サウジアラビアがイエメン国内のフーシ派勢力を攻撃し、それに対してフーシ派がサウジアラビアの軍事施設やエネルギー関連施設を攻撃するという相互報復の構図が形成されつつある。

フーシ派の戦略的地位

フーシ派の強みは、単純な兵力規模だけではない。イエメン北部を中心とする広範な支配地域に加え、長年の内戦を通じてミサイル、無人機、沿岸攻撃能力などを蓄積しており、サウジアラビアや国際的な海運に対して比較的小さな戦力で大きな経済的圧力を加えられる点にある。

さらに現在のフーシ派は、イランとの関係によって中東全体の軍事的ネットワークの一部として位置付けられている。米国の戦争研究機関は9月11日の分析で、フーシ派がバブ・エル・マンデブを「抵抗の枢軸」が影響力を持つ海域として確立する条件を整えていると分析している。

ただし、ここでは「フーシ派がイランの完全な指揮下にある」と単純化するべきではない。フーシ派には独自の政治目的とイエメン国内の権力闘争があり、イランとの関係も武器、技術、政治的支援など複数の側面から捉える必要がある。

それでも、現在の戦争環境ではフーシ派の存在がイランにとって戦略的な意味を持つことは否定できない。ホルムズ海峡がイラン側の圧力によって不安定化する一方、南側ではフーシ派がバブ・エル・マンデブを脅かすことで、ペルシャ湾と紅海という2つの主要な海上交通路が同時に不安定になるからである。

この状況は、イラン本土から遠く離れたイエメンが、実質的に中東戦争の別の戦線として機能することを意味する。イランと米国などの直接対立が拡大すればするほど、イランと関係を持つ武装勢力がそれぞれの地域で圧力を加え、戦争の地理的範囲を広げる構造が生まれる。

停戦の崩壊と戦闘激化

今回の戦闘激化は、完全に突然発生したものではない。イエメンでは2022年以降、国連の仲介などを背景として大規模な戦闘が抑制され、全面的な停戦が正式に成立していないにもかかわらず、前線の大規模な戦闘は比較的少ない状態が続いていた。

しかし2026年8月後半から9月初旬にかけて戦闘が急速に拡大した。世界保健機関の集計として、8月23日から9月5日までの間にイエメンで194人が死亡し、2万1,000人以上が避難したとの報告も出ている。

こうした国内戦闘の激化に、イランをめぐる地域戦争が重なった。サウジアラビアはフーシ派への攻撃を強化し、フーシ派はサウジアラビアへのミサイル・無人機攻撃を強めるという形で、イエメン国内の内戦と地域的な国家間対立が一体化し始めている。

9月14日には、イエメン政府軍がタイズ西部でフーシ派の攻勢を押し返したとの報道もある。つまりフーシ派が紅海沿岸で急速に前進している一方、政府側も反撃を開始しており、イエメン全土で前線が再び動き始めている。

この点は重要である。フーシ派によるバブ・エル・マンデブ周辺の支配強化が短期間で終わるのか、それともイエメン国内の新たな戦線形成につながるのかによって、中東のエネルギー輸送への影響は大きく変わるからである。

「代理戦争」の連鎖

イエメン情勢を理解するうえで、「代理戦争」という言葉は重要だが、それだけで説明することも危険である。フーシ派はイランの影響を受ける勢力である一方、イエメン国内の政治勢力として独自の利益を追求しており、サウジアラビアや米国もそれぞれ独自の戦略目標を持っている。

それでも現在の構図には、明らかな連鎖が存在する。イランと米国などの対立がホルムズ海峡を不安定化させ、それに呼応する形でフーシ派が紅海方面で軍事行動を強め、サウジアラビアがイエメンを攻撃し、その報復としてフーシ派がサウジアラビアを攻撃するという循環である。

さらにサウジアラビア北方では、イラクを拠点とするイラン系武装勢力からの攻撃が問題になっている。9月11日の東西パイプラインへの攻撃はイラクから発射された無人機によるものとサウジアラビア側が説明しており、イラク側でも関係者の処分や調査が行われていると報じられている。

ここで地理を見ると、この構造の異常さが分かる。サウジアラビアは東側でホルムズ海峡をめぐる危機に直面し、中央部では東西パイプラインを攻撃され、西側では紅海とバブ・エル・マンデブをめぐってフーシ派の圧力を受けている。

つまりサウジアラビアにとって、エネルギー輸送の問題は一方向から来ていない。東、北西、西の複数方向から異なる主体による軍事的圧力が同時に加わっている。

中東のエネルギー供給網と海上・陸上要衝が、システミックにリスクに晒されている現実

ここまでの状況を一つの地図として見ると、現在の危機の本質が見えてくる。ホルムズ海峡はペルシャ湾からインド洋へ抜ける東側の出口であり、東西パイプラインはその代替となる陸上経路、ヤンブーは紅海側の輸出拠点、バブ・エル・マンデブは紅海からアデン湾へ抜ける南側の出口である。

通常なら、これらを相互に補完させることで輸送網の冗長性を確保できる。しかし2026年9月の状況では、ホルムズ海峡が機能不全となり、東西パイプラインが攻撃を受け、さらにバブ・エル・マンデブ周辺でフーシ派が軍事的優位を拡大している。代替経路を用意することでリスクを分散するはずが、複数の経路が同じ地域戦争の中で同時に脅かされているのである。

このため、「ホルムズ海峡が封鎖されてもサウジアラビアのパイプラインがある」という従来の危機対応シナリオは大幅に弱体化した。パイプラインが復旧したとしても、その先のヤンブーから出るタンカーが安全に紅海を航行できる保証がなければ、代替経路としての実効性は限定される。

しかも、9月15日時点で東西パイプラインの復旧には数週間を要する可能性があると報じられている。米国メディアが報じた関係者情報では、修復に最大5週間程度かかる可能性も示されており、短期間の設備障害ではなく、一定期間にわたる供給制約となる可能性が出ている。

その結果、原油市場では実際の供給量だけでなく、「次にどこが攻撃されるのか」という予測が価格形成に影響する。9月15日には北海産原油の指標価格が1バレル106.93ドルまで上昇し、サウジアラビアのパイプライン停止と新たな攻撃が供給懸念を強めたとロイターは報じている。

これはエネルギー安全保障における「連鎖リスク」の典型である。1つの設備が停止することで別の経路に需要が集中し、その別の経路が攻撃対象となり、さらに別の経路へ輸送を移そうとすると、そこでも軍事的リスクが発生するという循環が生じる。

そして、この循環を最も象徴しているのがイエメンである。イエメン内戦はもともと国内政治とサウジアラビア、イランなどの地域対立が絡み合った複雑な紛争だったが、現在はその前線が世界的な石油・海運網の要衝に重なっている。

フーシ派がバブ・エル・マンデブ周辺を実効支配する方向へ進めば、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブという2つの海上要衝が、同時に同じ地域的対立の影響を受けることになる。そうなれば、世界のエネルギー供給網にとって「代替経路を持つこと」自体の意味が薄れてしまう。

代替ルートを増やしても危機を解消できない理由

ここまで見てきたように、現在の中東のエネルギー危機は「ホルムズ海峡をどう迂回するか」という単純な輸送問題ではない。ホルムズ海峡を避けるためのサウジアラビア東西パイプラインが存在しても、その設備自体が攻撃され、さらに西側の紅海・バブ・エル・マンデブでも軍事的緊張が高まれば、代替経路は同時に機能不全へ向かう可能性がある。

エネルギー輸送網の強さは、最も多くの経路を持っているかどうかだけでは決まらない。複数の経路が同じ軍事的脅威や同じ地域紛争に依存している場合、それらは見かけほど独立しておらず、1つの戦争によって複数の経路が同時に危険になるからである。

今回の中東情勢は、まさにこの問題を示している。東側ではホルムズ海峡、西側では紅海・バブ・エル・マンデブ海峡、陸上では東西パイプラインという異なる輸送経路が存在するにもかかわらず、イランをめぐる地域戦争とイエメン情勢の悪化によって、それぞれが同じ安全保障環境の影響を受けている。

このため、今後のエネルギー安全保障では「代替経路を何本持っているか」だけでなく、「それぞれの経路が異なる軍事的リスクにさらされているか」を評価する必要がある。

「輸送能力」と「実効輸送能力」は違う

もう1つ重要なのが、輸送設備の名目上の能力と、実際に危機下で利用できる能力を区別することである。サウジアラビアの東西パイプラインは最大で日量700万バレル規模の輸送能力を持つとされるが、攻撃を受ければ、その能力は一時的にゼロにもなり得る。

同じことはタンカー輸送にも当てはまる。海上輸送能力が存在していても、攻撃リスクが高まれば船会社が運航を控え、保険料が上昇し、船員の安全確保や護衛のために航行コストが増加する。

つまり「物理的に通れる」ことと「商業的に継続して利用できる」ことは別問題である。エネルギー市場においては、後者が実際の供給能力を決める。

この点で、2026年の危機は従来の戦争とは異なる特徴を持つ。施設を完全に破壊しなくても、無人機やミサイルによって「攻撃される可能性が高い」と認識させるだけで、輸送業者やエネルギー企業の行動を変えることができるからである。

非対称型兵器が変えるエネルギー戦争

無人機や巡航ミサイルの普及は、この問題をさらに深刻にしている。従来、巨大な石油施設や長距離パイプラインを攻撃するには大規模な軍事力が必要だったが、現在では比較的小型の無人機でも重要施設の操業を停止させることが可能になった。

攻撃側にとって重要なのは、施設全体を破壊することではない。ポンプ、電力設備、制御装置、貯蔵設備、輸送拠点など、全体の機能を止める「急所」を攻撃できれば十分だからである。

防御側には逆の問題がある。1,000キロメートルを超えるパイプラインの全区間を24時間監視し、すべての地点を防空システムで防護することは現実的ではない。

この非対称性によって、エネルギーインフラの防衛コストは上昇する。しかも攻撃側は、1回の攻撃で世界市場に供給不安を生じさせることができるため、軍事的損害以上の経済的効果を得ることができる。

したがって、東西パイプラインへの攻撃は「何バレルの原油が失われたか」だけで評価するべきではない。むしろ重要なのは、世界市場がそのパイプラインを安全な代替輸送路として信頼できなくなったことである。

フーシ派が持つ戦略的価値

この構造の中で、フーシ派の存在感は極めて大きい。イエメンの国内勢力であるフーシ派がバブ・エル・マンデブ周辺に軍事的足場を持つことで、イランをめぐる戦争の影響を紅海へ拡大できるからである。

バブ・エル・マンデブは、スエズ運河とインド洋を結ぶ重要な海上交通路の入口にあたる。ここが不安定化すれば、欧州とアジアを結ぶ海上物流にも影響が及び、石油だけでなく液化天然ガス、コンテナ貨物などにも波及する。

したがってフーシ派にとって、バブ・エル・マンデブ周辺の支配は単なる領土獲得ではない。世界的な海上物流の要衝を圧迫することで、軍事力以上の政治的・経済的影響力を獲得できる。

一方、サウジアラビアにとっては、この地域をフーシ派に掌握されることは直接的な安全保障上の脅威となる。サウジアラビアの西側国境に近いだけでなく、自国がホルムズ海峡を回避するために利用する紅海側の輸出経路にも影響するためである。

そのため、サウジアラビアがイエメンへの軍事関与を強めれば、フーシ派は報復攻撃を強化する可能性がある。そこにイランと米国などの直接対立が重なれば、イエメン内戦は地域戦争の一部として再び拡大する危険がある。

「プロキシ戦争」の連鎖がもたらすもの

ここで重要なのは、イエメンを単純に「イラン対サウジアラビア」の代理戦争と見ることではない。フーシ派には独自の政治的・軍事的目的があり、サウジアラビアにも自国の安全保障上の計算があり、イランにも地域的な影響力を維持するという目的がある。

それでも、複数の主体が相互に攻撃と報復を繰り返すことで、1つの戦争が別の戦争を刺激する構造が形成されている。イランと米国などの戦闘がホルムズ海峡を不安定化させれば、フーシ派が紅海で攻勢を強め、サウジアラビアがイエメンを攻撃し、それに対してフーシ派がサウジアラビアを攻撃するという循環が生まれる。

さらにイラク方面からサウジアラビアへ無人機が飛来すれば、サウジアラビアは東西だけでなく北側にも警戒を広げなければならない。こうなると、サウジアラビアがエネルギー施設の防衛に投入する資源も増加し、軍事的負担が経済政策や石油生産政策に影響する可能性が出てくる。

この意味で、現在の中東危機は「複数の紛争が同時に発生している」のではなく、「複数の紛争が互いのリスクを増幅している」状態に近い。

今後の展望

今後の展開を考える場合、少なくとも3つのシナリオが考えられる。第1は、戦闘が一定期間で抑制され、ホルムズ海峡と東西パイプラインが段階的に復旧し、紅海の航行も安定化するケースである。

この場合、原油価格は高止まりした後、軍事的緊張の後退とともに低下する可能性がある。ただし、一度攻撃を受けた輸送インフラについては保険料や警備費が上昇し、危機以前と同じ輸送コストに戻らない可能性がある。

第2は、現在の状態が長期化するケースである。ホルムズ海峡の通航制限が続き、東西パイプラインの復旧にも時間がかかり、さらに紅海の危険性が高いままなら、世界市場は恒常的な供給不足に近い状態へ移行する。

この場合、サウジアラビアなど湾岸産油国が持つ余剰生産能力や備蓄が重要になる。しかし、輸送経路そのものが攻撃対象になれば、増産しても世界市場へ届けられないという問題が発生する。

第3は、最も危険なシナリオである。イランをめぐる戦争が拡大し、フーシ派による紅海方面の攻撃が強まり、サウジアラビアのエネルギー施設や東西パイプラインへの攻撃が継続する場合である。

この場合、問題は「石油価格がどこまで上昇するか」だけではなくなる。石油、天然ガス、海運、保険、航空、化学産業、電力、製造業などが連鎖的なコスト上昇に直面し、世界経済全体への波及が避けられなくなる。

エネルギー安全保障の考え方は変わるのか

今回の危機が長期的に残す最大の教訓は、エネルギー安全保障を「供給量」だけで考えることの限界である。世界に十分な石油が地下に存在していても、それを安全かつ継続的に消費国へ運べなければ、実際の市場では供給不足になる。

これまでのエネルギー安全保障では、産油国の生産能力、備蓄量、余剰生産能力などが重視されてきた。しかし現在は、それに加えて港湾、パイプライン、海峡、タンカー、通信設備、電力網などの「輸送インフラの耐久性」を評価する必要がある。

特に中東では、重要インフラが互いに代替関係を持っている一方で、同じ地域紛争によって同時に攻撃される可能性がある。このため、単純にパイプラインを増設すれば安全になるとは限らず、輸送経路そのものを分散するとともに、異なる軍事的脅威から独立した経路を確保する必要がある。

これは容易ではない。中東の産油地帯そのものがペルシャ湾岸に集中しているため、輸送経路を分散しても、生産地と輸出インフラが同じ地政学的空間に存在するという根本問題が残るからである。

2026年9月の中東情勢を「イラン戦争によるホルムズ海峡危機」とだけ捉えるのは不十分である。実際には、ホルムズ海峡、サウジアラビア東西パイプライン、紅海、バブ・エル・マンデブという複数の要衝が同時に不安定化し、それぞれの危機が別の輸送経路への負荷を高めている。

そして、その中心にイエメン内戦の再燃とフーシ派の攻勢が加わった。フーシ派がバブ・エル・マンデブ周辺で軍事的地位を高めれば、ホルムズ海峡と紅海という2つの重要海上交通路が同時に脅かされることになり、サウジアラビアの東西パイプラインという陸上の迂回路も攻撃対象となる。

したがって現在起きていることの本質は、「ホルムズ海峡依存から脱却できない」という一点だけではない。ホルムズ海峡を回避するために構築されてきた代替経路そのものが、同じ地域戦争によって脆弱化していることにある。

この状態が長期化すれば、中東のエネルギー供給網は「1つの要衝が止まったら別の経路へ切り替える」という従来型の危機対応では対処できなくなる。2026年9月の事態は、中東のエネルギー輸送網が複数の地点で同時に圧力を受ける、システミックな安全保障危機へ移行していることを示している。

現時点で確認できる危機の全体像

2026年9月15日時点で確認できる状況を整理すると、今回の中東エネルギー危機は、単独のホルムズ海峡問題ではない。ホルムズ海峡の通航が大幅に減少する一方、サウジアラビアの東西パイプラインが攻撃を受けて停止し、さらにイエメンではフーシ派が紅海沿岸とバブ・エル・マンデブ周辺で勢力を拡大している。

米国エネルギー情報局によると、2025年上半期にホルムズ海峡を通過した石油は日量2,090万バレルで、世界の石油液体消費量の約20%に相当した。一方、ホルムズ海峡を迂回できるサウジアラビアとアラブ首長国連邦のパイプライン能力は合計約470万バレルにすぎず、代替能力には明確な限界がある。

この数字だけでも、ホルムズ海峡を完全に代替することが極めて難しいことが分かる。しかも2026年9月は、まさにその限られた代替能力の中心を担うサウジアラビア東西パイプラインが攻撃を受け、さらに紅海側の安全保障環境まで悪化している。

ホルムズ海峡依存からの脱却は「設備の問題」だけではない

ホルムズ海峡への依存を減らすためには、パイプラインの増設、輸出港の拡張、備蓄の増加、産油国の余剰生産能力の確保などが必要になる。しかし、今回の危機は、それらを整備するだけでは十分ではないことを示した。

なぜなら、代替ルートそのものが戦争の対象になるからである。ホルムズ海峡を避けるための東西パイプラインが攻撃され、そこからさらに紅海へ抜ける輸送路もフーシ派の軍事的圧力を受ければ、代替経路を増やしても危機を完全には吸収できない。

これはエネルギー安全保障における「地理的分散」と「リスク分散」の違いでもある。複数の経路が存在していても、それらが同じ地域紛争、同じ武装勢力、同じ軍事技術の脅威にさらされているなら、実質的には1つの大きなリスクを共有している。

したがって、今後のエネルギー政策では「ホルムズ海峡を何%迂回できるか」という数量的な議論だけでは不十分になる。重要なのは、代替ルートがどの程度独立した安全保障環境の中に存在しているかである。

サウジアラビア東西パイプライン停止が示したこと

今回の東西パイプライン停止は、その意味で象徴的な出来事である。約1,200キロメートルに及ぶ同パイプラインは、ペルシャ湾岸から紅海沿岸のヤンブーへ原油を運び、ホルムズ海峡を避けるための重要な陸上経路として機能してきた。

ところが9月の攻撃によって同設備が停止し、9月15日時点では復旧に3〜5週間を要する可能性が報じられている。これは一時的な警戒措置という段階を超え、一定期間にわたって世界の石油輸送能力を制約する可能性があることを意味する。

ロイターは、パイプラインが長期間停止した場合、世界の石油供給の最大4%が失われる可能性があるとの市場関係者の見方を伝えている。実際の減少量は代替輸送、備蓄、生産調整などによって変化するため、この数字をそのまま実供給減とみなすべきではないが、市場がこの設備を世界的に重要な輸送インフラと認識していることは明白である。

つまり、今回の攻撃は「サウジアラビアの1本のパイプラインが壊れた」という話ではない。ホルムズ海峡が機能しなくなった場合に備えて存在していた重要な代替手段が、その同じ地域戦争によって利用不能になったという点に本質がある。

イエメン情勢が持つ意味

さらに深刻なのが、イエメン内戦の再燃である。フーシ派は9月に入り紅海沿岸で急速に勢力を拡大し、モカやペリム島などを掌握したと報じられているほか、紅海南部のハニシュ諸島にも支配を広げたとされる。

この動きによって、イエメン内戦は単なる国内戦争ではなくなった。バブ・エル・マンデブという世界的な海上交通路に直接接続する戦争になったからである。

フーシ派がこの海域で軍事的圧力を強めれば、紅海を通過する船舶は航路変更、速度低下、護衛要請、保険料上昇などを余儀なくされる可能性がある。さらにサウジアラビアが軍事的に介入すれば、フーシ派によるサウジアラビアへの報復攻撃が強まるという循環が発生する。

実際、9月15日にはフーシ派がサウジアラビア南部の軍事基地に対してミサイル・無人機攻撃を行ったと報じられている。サウジアラビアはその前段階でイエメンへの空爆を行っており、イエメン国内の戦闘とサウジアラビアへの越境攻撃が再び連動している。

「代理戦争」だけでは説明できない複雑さ

この状況を「イランとサウジアラビアの代理戦争」とだけ説明するのは不十分である。フーシ派はイランから支援を受ける一方、独自の政治的・軍事的目標を持つイエメン国内の勢力でもあり、イランの完全な指揮下にある単純な代理勢力として扱うことはできない。

しかし、結果としてフーシ派の軍事行動がイランをめぐる地域戦争と連動していることは否定できない。イランと米国などの対立がホルムズ海峡を不安定化させ、その南側ではフーシ派がバブ・エル・マンデブ周辺を圧迫するという構造が生まれているからである。

さらにサウジアラビアの東西パイプラインがイラク方面を発したとされる無人機攻撃によって停止したことで、サウジアラビアは東、西、北の複数方向から安全保障上の圧力を受ける状況になった。

この構造こそが、今回の危機を長期化させる最大の要因である。戦争の前線が1本ではなく複数存在し、それぞれが石油生産・輸送・海運という異なる部分を攻撃できるためである。

今後の展開を左右する最大のポイントは、ホルムズ海峡の通航がどの程度回復するか、東西パイプラインがどの程度の期間で復旧するか、そしてイエメンでフーシ派の攻勢を止められるかの3点である。

まずホルムズ海峡については、9月15日時点で通航量が大きく落ち込んでいる。ロイターが引用した船舶追跡データによれば、9月14日に同海峡を通過した商業船はわずか4隻で、戦争前の平均約125隻から大幅に減少している。

この状態が続けば、原油だけでなく液化天然ガスなどの輸送にも影響が広がる。特にアジアのエネルギー消費国は湾岸地域への依存度が高く、輸送障害が長期化すれば、原油価格だけでなく電力、化学製品、輸送費などを通じて幅広い価格上昇につながる可能性がある。

次に東西パイプラインである。仮に数週間で復旧したとしても、一度攻撃を受けたことで警備コストや保険コストが上昇する可能性が高い。

さらに再攻撃の可能性が残る限り、復旧後も常に最大能力で運転できるとは限らない。エネルギー安全保障では、設備が存在することよりも、危機時に継続して利用できることの方が重要だからである。

最後がイエメンである。フーシ派の攻勢が短期間で止まるならば、今回の問題は地域的な軍事危機として収束する可能性がある。しかし、紅海沿岸と島嶼部でフーシ派の支配が定着すれば、バブ・エル・マンデブは長期的な軍事的緊張地域となる。

その場合、ホルムズ海峡だけでなくバブ・エル・マンデブも恒常的な海上輸送リスクとして扱われることになる。世界のエネルギー市場にとっては、2つの海上要衝が同時に不安定化することが最大の問題となる。

まとめ

今回の一連の出来事から導かれる結論は明確である。ホルムズ海峡依存からの脱却は、技術的には一定程度可能でも、完全な脱却は極めて困難である。

最大の理由は輸送能力である。ホルムズ海峡を通過する石油量は日量2,000万バレルを超える一方、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の迂回パイプライン能力は合計約470万バレルにすぎない。

第2の理由は地政学的脆弱性である。ホルムズ海峡を避けて東西パイプラインへ切り替えても、そのパイプラインが攻撃されれば輸送能力は失われる。

第3の理由は、代替ルートの先にも別の要衝が存在することである。東西パイプラインは紅海側へ原油を運ぶが、紅海の南側にはバブ・エル・マンデブがあり、現在そこではフーシ派が軍事的勢力を拡大している。

したがって、中東のエネルギー安全保障は「ホルムズ海峡を迂回すればよい」という段階をすでに超えている。ホルムズ海峡、東西パイプライン、紅海、バブ・エル・マンデブという複数の要衝を一体のシステムとして防護しなければならない段階に入っているのである。

そして今回最も警戒すべきなのは、これらの要衝が別々に攻撃されているのではなく、イランを中心とした地域戦争、イラクの武装勢力、イエメンのフーシ派、サウジアラビアなど複数の主体による軍事行動が相互に連動している点である。

このため、2026年9月の危機は「石油が足りなくなる危機」というより、石油を世界市場へ運ぶための経路そのものが同時多発的に脅かされる危機と表現した方が正確である。

今後、戦闘が収束すれば市場は徐々に正常化する可能性がある。しかし、東西パイプラインへの攻撃が繰り返され、フーシ派がバブ・エル・マンデブ周辺で支配を固め、ホルムズ海峡の通航制限が長期化すれば、世界のエネルギー市場は従来とは異なるリスク構造に移行する。

その意味で、今回の危機が突きつけている最大の問題は「ホルムズ海峡をどう代替するか」ではない。中東という1つの地政学的空間に世界の石油供給と輸送の重要部分が集中しているという構造そのものを、世界各国がどう克服するのかという問題である。


参考・引用リスト

  • 米国エネルギー情報局「世界の石油輸送における主要海上要衝」――ホルムズ海峡の通過量、世界消費量に占める割合、サウジアラビア・アラブ首長国連邦の迂回輸送能力など。
  • ロイター通信「サウジアラビア、フーシ派が紅海海運への圧力を強める中、東西石油パイプラインを停止」――東西パイプラインへの攻撃、停止の経緯、イラク方面からの攻撃をめぐる情報。
  • ロイター通信「ホルムズ海峡の通航量が減少、中東攻撃激化で石油供給への懸念」――2026年9月15日時点のホルムズ海峡の船舶通航量と輸送への影響。
  • ロイター通信「フーシ派、サウジアラビアを再び攻撃、ホルムズ海峡をめぐる協議も停滞」――フーシ派によるサウジアラビア攻撃、ペリム島などの掌握、イエメン情勢と石油供給への影響。
  • AP通信「ドローン攻撃を受けたサウジアラビアの石油パイプライン、数週間停止へ」――東西パイプラインの損傷と復旧見通し、原油輸送への影響。
  • アルジャジーラ「サウジアラビア、ドローン攻撃後に重要石油パイプラインを停止」――東西パイプラインの地理的位置、輸送機能、今回の攻撃の概要。
  • ロイター通信「新たなホルムズ海峡・サウジアラビア攻撃で石油供給への懸念」――ホルムズ海峡と東西パイプライン、紅海・バブ・エル・マンデブをめぐる複合的な輸送リスク。
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