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エチオピアの死刑制度:法制度上の現状と「事実上の停止」

エチオピアの死刑制度について、2026年8月時点で最も重要な結論は、死刑は法的には存続しているが、2007年を最後に執行が確認されておらず、約19年間にわたる事実上の執行停止が続いているということである。
エチオピア、首都アディスアベバの機動隊(Getty-Images)
現状(2026年8月時点)

2026年8月現在、エチオピアは死刑制度を法律上維持している死刑存置国(retentionist state)である。したがって、「エチオピアでは死刑が停止されている」という表現は、執行実態を説明するものとしては一定の妥当性を持つものの、法制度そのものについては正確ではなく、より厳密には「死刑を法定刑として存置しながら、長期間にわたり執行を行っていない国」と位置づける必要がある。アムネスティ・インターナショナルの分類でも、エチオピアは死刑存置国に分類されている。

エチオピアにおける死刑制度を理解するうえで重要なのは、「法律上の存続」「判決としての死刑」「実際の執行」という三つの段階を分けることである。死刑を定めた刑法規定が存在することと、裁判所が死刑判決を言い渡すこと、さらに政府が実際に死刑を執行することは同義ではないためである。

実際、エチオピアでは2007年以降、死刑執行が確認されていない。世界死刑廃止連盟(WCADP)の2026年時点の国別情報でも、最後に確認された執行年は2007年であり、2023年、2024年、2025年の執行はいずれも「0」とされている。

この点から、エチオピアは実態としては長期間の「事実上の死刑執行停止(de facto moratorium)」を維持していると評価できる。国連人権委員会も2022年の対エチオピア審査において、2009~2018年に211人が死刑判決を受けた一方、審査対象期間中に執行はなく、2020年12月時点で152人が死刑囚として残っていたことを確認し、政府の政策を「事実上の死刑執行停止(de facto moratorium)」と表現している。

一方、この停止は法律によって死刑制度そのものを廃止したものではない。また、後述するように、エチオピア政府は国連の場で死刑廃止条約への加入や制度廃止について明確な政策転換を行っておらず、「執行していないから廃止に向かっている」と単純に判断することもできない。

2025年についても、アムネスティ・インターナショナルはエチオピアで新たに少なくとも5件の死刑判決を記録した一方、執行は記録していない。これは、死刑制度が単なる歴史的遺物ではなく、現在も裁判制度の中に残されていることを示す重要なデータである。

したがって、2026年8月時点のエチオピアの死刑制度は、「法的には存置、司法上は死刑判決がなお存在、行政上は執行を長期間停止」という三層構造で把握するのが最も適切である。

法制度上の現状:死刑の存続と対象犯罪

エチオピアの死刑制度の中心的な根拠は、2004年制定の連邦民主共和国エチオピア刑法(Criminal Code of the Federal Democratic Republic of Ethiopia 2004)にある。同刑法117条は、死刑について一般原則を定め、重大な犯罪であり、かつ「例外的に危険な犯罪者」に該当する場合など、法律が明示的に死刑を刑罰として定めている犯罪について適用できるとしている。

同条はさらに、死刑は完成した犯罪について法定されている場合に限り、酌量すべき事情が存在しないことを条件として科すことができると規定している。また、犯罪行為を行った時点で18歳未満であった者には死刑を科してはならないという年齢要件も置かれている。

この規定から分かるのは、エチオピア刑法が死刑を一般的な刑罰として広範に適用するというより、建前上は重大犯罪に対する例外的な刑罰として位置づけていることである。エチオピア政府自身も2022年の国連人権委員会への回答で、憲法、刑法および連邦最高裁判所の量刑マニュアルによって、死刑は最も重大な犯罪に限定され、酌量事情がない場合に適用されるとの立場を示している。

しかし、ここで注意すべきなのは、「重大犯罪」という原則だけを見て、実際の死刑適用範囲が極めて狭いと判断することはできない点である。人権団体による分析では、エチオピアの法制度には殺人などの生命侵害犯罪だけでなく、テロリズム、ジェノサイドその他の重大犯罪についても死刑の可能性が残されていると指摘されている。

さらに、国際人権法の観点からは、自由権規約(ICCPR)第6条との関係が重要になる。同条は死刑を全面的に禁止しているわけではないものの、死刑を維持する国に対して、その適用を「最も重大な犯罪」に限定する方向を要求しており、対象犯罪の範囲がどこまで許容されるかは国際人権上の重要な論点となる。

適用される主な犯罪

エチオピア刑法において、死刑の代表的な対象となる犯罪の一つが加重殺人(aggravated homicide)である。刑法539条は、計画性、動機、凶器・手段、犯行状況その他の加重要素によって、行為者が「例外的に残虐、忌まわしい、または危険」であると認められる場合などについて、終身の重禁錮または死刑を規定している。

特に重要なのは、単純な故意殺人すべてが死刑になるわけではないという点である。刑法540条の通常殺人は原則として5年以上20年以下の重禁錮とされており、死刑は加重要件を伴う殺人など、より限定されたケースに適用される構造となっている。

また、国際法上の重大犯罪についても死刑が規定されている。例えば刑法269条のジェノサイドについては、犯罪の重大性に応じて5年以上25年以下の重禁錮、終身刑または死刑が規定されている。

このほか、エチオピアの死刑制度をめぐる人権団体の分析では、テロ関連犯罪などについても死刑の可能性が残されていることが問題として指摘されている。特に、死刑の対象となり得る犯罪が「人を直接殺害した犯罪」に完全に限定されているわけではないことは、国際人権法上の「最も重大な犯罪」という基準との関係で検討を要する問題である。

したがって、エチオピアの死刑制度を「殺人に対する刑罰」とだけ説明するのは不十分である。中心的対象は加重殺人であるものの、ジェノサイド、テロ関連犯罪などにも死刑の可能性が存在し、その対象範囲そのものが人権上の検証対象となっている。

なお、エチオピア政府は2022年の国連審査において、当時の死刑囚124人のうち、少なくとも相当数が加重殺人で有罪となった者であることを説明している。政府資料によれば、2022年11月時点で124人、内訳は男性122人、女性2人が死刑判決を受けた状態にあった。

法的手続きと大統領権限

エチオピアの死刑制度には、裁判所による死刑判決だけでは執行に至らないという重要な特徴がある。刑法117条2項は、死刑判決について国家元首による確認がなければ執行できないと明確に規定している。

さらに、国家元首による確認だけでなく、恩赦によって刑が減免・減刑されないことが確認されるまで、死刑を執行することはできない。つまり、司法機関による最終的な死刑判決と、行政・国家元首の関与による執行可能性の確定は、制度上分離されている。

この仕組みは、死刑という不可逆的な刑罰に対して、司法判断の後にも一定の行政的・政治的チェックを置く制度として理解できる。一方で、死刑判決を受けた者が国家元首による確認や恩赦判断を長期間待ち続ける可能性も生じるため、死刑囚が法的に不確定な状態のまま長期間収容される問題につながり得る。

刑法118条は、執行の確認と実施を待つ死刑囚について、原則として厳重拘禁刑を受けている受刑者と同様の条件で拘禁すると規定している。刑務所長には死刑囚の安全確保のために必要な措置を取る義務があり、法文上は一定の処遇上の枠組みも設定されている。

また、死刑の執行方法についても、刑法117条は公開処刑や絞首などの非人道的手段を否定し、刑務所内で人道的な方法によって行うことを規定している。実際の執行方法については連邦または地域の刑務所行政を所管する行政機関が決定する仕組みとなっている。

しかし、これらの規定が存在することと、現在実際に死刑執行が行われていることは別問題である。2007年以降の長期的な執行停止によって、刑法上は執行可能な刑罰として残されている死刑が、行政実務上は長期間実施されていないという、エチオピア特有の「法と実務の乖離」が形成されている。

運用の実態:「事実上の停止(モラトリアム)」と死刑囚の現状

エチオピアの死刑制度を特徴づける最大の要素は、死刑を法律上廃止していないにもかかわらず、実際の執行が極めて長期間停止していることである。世界死刑廃止連盟(WCADP)の最新情報では、エチオピアの法的地位は依然として「存置国」である一方、最後に確認された死刑執行は2007年であり、2023年、2024年、2025年には執行が記録されていない。

この期間はすでに約19年に及ぶため、単なる一時的な執行停止として扱うことは難しい。国連人権委員会もエチオピア政府との審査において、死刑制度が法律上存在しながら実際には執行されていない状況を「事実上のモラトリアム」として認識している。

ただし、「モラトリアム」という言葉には注意が必要である。エチオピアでは死刑制度を全面的に廃止する法律が成立したわけでも、死刑執行を永久に停止する明確な法律上の決定が存在するわけでもないため、現在の状態は「法的モラトリアム」というより、国家が死刑執行を長期間実施していないという事実上の停止と理解する方が正確である。

この点は、死刑廃止国とエチオピアを区別するうえでも重要である。アムネスティ・インターナショナルは、死刑を法律上維持している国と、法律上は存置していても長期間執行していない「事実上の廃止国」を区別しており、エチオピアについては依然として死刑存置国に分類している。

さらに注目されるのは、執行が止まっている一方で、死刑判決そのものが消滅しているわけではないことである。アムネスティ・インターナショナルによる2025年の集計では、エチオピアでは少なくとも5件の死刑判決が記録されている一方、同年の執行はゼロであった。

つまり、現在のエチオピアでは「死刑判決を言い渡す司法制度」と「それを実際には執行しない行政実務」が併存している。この構造こそが、同国の死刑制度を単純な「死刑廃止への移行」と評価することを難しくしている。

最後の執行事例

エチオピアで最後に確認された死刑執行は2007年7月である。処刑されたのは元治安・移民当局高官の殺害事件で有罪となったテセハイ・ウォルデ・セラシエ少佐(Major Tsehai Wolde Selassie)で、2001年にキンフェ・ゲブレメドヒン(Kinfe Gebremedhin)を射殺したとして死刑判決を受けた。

当時の報道によれば、被告側の恩赦申請は最高裁で退けられ、その後、ギルマ・ウォルデギオルギス大統領によって死刑判決が承認されたうえで執行された。これは、刑法上規定された「司法判断だけでは執行に至らず、国家元首による確認を必要とする」という制度が実際に機能した事例でもある。

アムネスティ・インターナショナルの当時の記録でも、2007年7月の処刑は1991年以降で2回目の執行とされている。同時期には複数の死刑判決が存在し、数十人の死刑囚が上訴や恩赦請願の結果を待っていたと記録されている。

この最後の執行から現在までの長期間、死刑が実施されていないことは、エチオピアの死刑政策を考えるうえで極めて重要である。2007年の執行が制度の「最後の実行」であり、その後の約19年間は、死刑判決が存在し得るにもかかわらず、国家がその刑罰を実際に発動していない期間となっている。

なお、1998年にも死刑執行があったことが報じられており、2007年の事例はその後の最後の執行となった。2007年の執行については銃殺によるものと報道されており、WCADPもエチオピアの過去の執行方法として「銃殺刑」と記録している。

ここで重要なのは、2007年の処刑を「死刑制度が通常通り機能していた最後の年」と理解するのではなく、むしろそれ以後、制度の執行部分が停止した転換点として捉えることである。

死刑囚の係属と「終わりのない宙吊り」

死刑執行が停止したからといって、死刑判決を受けた人々が自動的に釈放されたわけではない。むしろエチオピアでは、死刑判決を受けたまま刑務所に長期間収容され続ける「死刑囚」が存在し、死刑制度の事実上の停止が別の人権問題を生み出している。

エチオピア政府が国連人権委員会に提出した資料によれば、2020年12月9日時点で152人が死刑判決を受けた状態にあり、その内訳は男性149人、女性3人であった。この時点でも死刑囚は誰一人として執行されておらず、政府は一部の死刑判決が終身刑またはそれより短い刑期へ減刑されたことも説明している。

その後、2022年11月時点では死刑囚の人数は124人、男性122人、女性2人と政府によって報告されている。政府によれば、これらの死刑囚はいずれも有罪判決を受けており、その多くは加重殺人などの重大犯罪に関係していた。

この数字の変化は、死刑執行によって死刑囚が減少したことを意味しない。むしろ減刑、司法手続き、個別事件の処理など複数の要因が含まれるため、単純に「152人から124人になったから死刑制度が縮小した」と結論づけることはできない。

さらに、近年の国際的な統計ではエチオピアの死刑囚数について「+」という表記が使われることがあり、これは完全な最新人数を確認できないことを示している。アムネスティ・インターナショナルは2025年末時点でエチオピアについて、5件以上の死刑判決を記録した一方、死刑囚総数について確定的な数字を示していない。

したがって、2026年8月現在について「エチオピアには何人の死刑囚がいる」と断定する場合には慎重さが必要である。最後に政府が具体的な人数を公表した資料として確認できる重要な数字は、2022年11月時点の124人であり、それ以降の正確な累積死刑囚数については公開情報が限定されているとするのが学術的には適切である。

この情報不足自体も制度上の問題となる。死刑は生命を奪う究極的な刑罰であるため、本来ならば判決数、確定数、減刑数、恩赦数、執行数、死刑囚の収容状況などについて透明性の高い統計が必要になるからである。

「終わりのない宙吊り」という問題

死刑囚にとって、執行されないことは必ずしも問題が解消されたことを意味しない。死刑判決が撤回されず、減刑もされないまま長期間収容される場合、本人は「いつ執行されるのか分からない」という極度に不安定な法的・心理的状態に置かれることになる。

特にエチオピアの場合、死刑制度が法律上存在し、国家元首による確認という制度も残っているため、死刑判決を受けた者が「制度が完全に廃止されたから執行されない」と認識できるわけではない。したがって、約19年にわたる執行停止は、死刑囚にとって「刑罰の消滅」ではなく、刑の執行可能性を残したまま時間だけが経過する状態を生み出している。

国連人権委員会に提出された資料でも、2020年時点で152人の死刑囚が存在しながら、誰も執行されていなかったことが確認されている。また、同資料は複数の死刑判決が終身刑などに減刑されていることも認めている。

ここには、死刑制度を「執行するか、廃止するか」という二択だけでは捉えられない問題がある。すなわち、死刑判決を維持しながら執行しないという中間状態が、死刑囚の長期拘禁という別の問題を発生させるのである。

この点は、死刑制度における「Death row phenomenon(死刑囚現象)」、いわゆる死刑確定者が長期間にわたって執行を待たされることによる精神的苦痛の問題とも関連する。エチオピアの個々の死刑囚について心理状態を網羅的に検証できる公開資料は限られるものの、2007年から2026年までという極めて長い期間を考慮すれば、単なる短期的な執行猶予とは性質が異なることは明らかである。

また、死刑囚が長期間収容されることは、家族関係にも影響を及ぼす可能性がある。判決が減刑されるのか、執行される可能性が残るのか、あるいは事実上無期限に収容されるのかが不透明な場合、本人だけでなく家族も長期間にわたって不確実性を抱えることになる。

したがって、エチオピアの「事実上のモラトリアム」は、生命の剥奪を回避しているという意味では重要な人権上のプラス面を持つ一方、死刑判決そのものを維持した状態で死刑囚を長期間拘禁するという、別種の人権問題を残している。

恩赦・減刑の動き

エチオピアでは、死刑制度が長期間執行されていない一方で、死刑判決が恩赦や減刑によって変更されるケースも存在する。これは、死刑制度の運用を理解するうえで重要なもう一つの要素である。

2007年のアムネスティ・インターナショナルの記録によれば、その年には通常犯罪について言い渡された10件の死刑判決が大統領恩赦によって減刑された。一方、政治的性格を持つ暴力犯罪についての複数の死刑判決はなお効力を維持していた。

この事例は、エチオピアにおいて死刑判決が必ずしも自動的に執行されるものではなく、国家元首による恩赦・減刑が実際の刑罰の帰結を左右してきたことを示している。つまり、司法による死刑判決と最終的な刑罰の実施との間には、政治的・行政的判断が介在する余地が存在する。

また、2020年のエチオピア政府資料でも、死刑囚の一部について死刑判決が終身刑またはそれより短い刑へ減刑されたことが確認されている。

ただし、恩赦や減刑が存在することをもって、死刑制度そのものが廃止に向かっていると判断することはできない。個別の減刑はあくまで個別事件の刑罰変更であり、死刑を法体系から除去する「廃止」とは法的性質が異なるからである。

むしろエチオピアの現状は、死刑判決→上訴・恩赦手続き→長期収容→場合によって減刑、しかし制度上は死刑が存続という複雑な経路を形成していると見るべきである。

「事実上の停止」は廃止への過渡期なのか

ここまでの検証から、2007年以降のエチオピアの死刑政策を「死刑廃止への明確な移行」と評価することには慎重であるべきだと分かる。執行が約19年間停止していることは死刑制度の実質的な弱体化を示す重要な事実だが、死刑を規定する刑法は残り、裁判所は死刑判決を出すことができ、政府も制度廃止を明確に決定していない。

特に、2022年の国連審査においてエチオピア政府は、死刑廃止および自由権規約第二選択議定書への加入について、従来の立場からの変更がないことを示している。つまり、執行停止という実務上の変化が存在する一方で、法的・外交的な意味での死刑廃止政策への転換は確認できない。

そのため、現時点で最も妥当な評価は、「エチオピアは死刑存置国であるが、2007年以降、長期間にわたる事実上の執行停止を維持している」というものである。この状態は、死刑を完全に廃止した国と、現在も定期的に執行している国との中間に位置する特殊な制度的状態と評価できる。

さらに、2025年にもエチオピアで少なくとも5件の死刑判決が記録されたことは、制度が単なる法典上の残骸ではないことを示している。執行がゼロであっても、司法機関による死刑判決が継続する限り、死刑制度は現在形の制度として存在しているのである。

したがって、エチオピアの死刑問題を評価する際には、「約19年間執行されていない」という事実だけをもって「死刑廃止国」と分類するのではなく、①法制度上の存置、②死刑判決の継続、③死刑囚の存在、④19年間の執行停止、⑤恩赦・減刑による刑の変更という複数の指標を組み合わせる必要がある。

エチオピアでは、2007年の最後の執行以降、死刑執行が長期間停止している。この状態は国連機関からも「事実上のモラトリアム」と認識されており、2026年現在も執行実績は確認されていない。

しかし、死刑そのものが廃止されたわけではなく、2022年11月時点では124人の死刑囚が存在し、2025年にも新たな死刑判決が確認されている。したがって、エチオピアの死刑制度は「廃止」ではなく、長期的な執行停止と死刑判決の存続が併存する制度として理解する必要がある。

そして、この「停止」は必ずしも死刑囚の問題を解決していない。死刑判決を維持したまま長期間拘禁される者が存在する以上、死刑制度の人権問題は「処刑されるかどうか」だけではなく、いつまでも刑罰の最終的な帰結が確定しない状態そのものへと広がっている。

国際社会との関係とスタンス

死刑制度をめぐるエチオピアの国際的な位置づけは、国内での長期的な執行停止とはやや異なる。国内では約19年間にわたり執行が確認されていないため、実態面では死刑廃止国に近い側面を持つが、国際法上は死刑を正式に廃止した国ではなく、死刑存置国として扱われている。

この違いを生み出している最大の要因は、エチオピアが死刑廃止を国際条約上の義務として受け入れていないことである。特に、自由権規約(ICCPR)の締約国であることと、その死刑廃止を目的とする第二選択議定書(Second Optional Protocol to the ICCPR)に加入していることは別問題であり、エチオピアは後者の締約国ではない。

自由権規約第6条は生命に対する権利を保障し、死刑を維持する国についても厳格な制限を設けている。しかし、同条は死刑を直ちに全面禁止する規定ではないため、エチオピアが死刑を国内法上維持していること自体が、自由権規約への加入だけによって直ちに否定されるわけではない。

この点がエチオピアの立場を理解するうえで重要である。エチオピアは国際人権法上の生命権保障を受け入れている一方、死刑を全面的に廃止する追加的な国際法上の義務までは受諾しておらず、国内刑法上の死刑存置を維持する法的余地を残している。

一方で、実際の執行を行っていないことは、国際社会から見れば一定の肯定的要素でもある。死刑廃止を推進する国際機関や人権団体にとって、執行ゼロが長期間継続していることは、将来的な完全廃止へ移行するための重要な基盤になり得るからである。

したがって、エチオピアの国際的な位置は、「積極的に死刑を執行する存置国」と「法律上も死刑を廃止した国」の中間に位置する。国内実務は廃止国に近いが、国際法上・国内法上の地位は存置国のままという二重構造が続いている。

国際条約への不参加

死刑廃止をめぐる国際的な制度の中心に位置するのが、自由権規約第二選択議定書である。同議定書は死刑の廃止を目的とし、締約国に対して、原則として自国の管轄内で死刑を執行しないこと、および死刑廃止に必要な措置を取ることを求める国際法上の枠組みである。

エチオピアは2026年8月現在、この第二選択議定書の締約国ではない。国連条約集の締約国情報でも、第二選択議定書の締約国一覧にエチオピアは含まれていない。

これは、エチオピアが現在死刑を執行していないという事実とは別の意味を持つ。仮に将来、国内政治や治安情勢の変化によって政府が死刑執行を再開しようとした場合、第二選択議定書による国際法上の拘束を受けないため、国内法上の要件を満たす限り執行を再開できる余地が制度的に残されている。

もっとも、自由権規約そのものには加入しているため、死刑制度の運用は第6条をはじめとする人権保障規定との関係で国際的な審査を受ける。国連人権委員会は各国の履行状況を審査する機関として、死刑の存置だけでなく、死刑判決の対象犯罪、裁判手続き、恩赦、死刑囚の処遇などを問題にすることができる。

2022年の国連人権委員会によるエチオピア審査は、この点で重要である。委員会はエチオピアにおける死刑執行が事実上停止していることを認識しつつ、死刑の完全廃止、第二選択議定書への加入、死刑囚の状況などについて質問を行った。

これに対してエチオピア政府は、死刑の適用が最も重大な犯罪に限定され、司法制度上の保障が存在すると説明した一方、死刑廃止について直ちに国際的な義務を受け入れる姿勢は示さなかった。つまり、政府の基本姿勢は「執行を行わない実務」と「死刑制度そのものを放棄しない法政策」の組み合わせである。

国連総会決議への反対

もう一つ重要なのが、国連総会における死刑執行停止決議へのエチオピアの対応である。国連総会では2007年以降、死刑執行のモラトリアムを求める決議が繰り返し採択されてきた。

これらの決議は国際条約とは異なり、国家に対して直接的な法的拘束力を持つものではない。しかし、死刑執行停止を世界的な人権政策として促進する国際的な政治的意思を示す文書として重要な意味を持つ。

エチオピアは、こうした国連総会の死刑モラトリアム決議について、廃止を支持する側には一貫して加わってこなかった。国連総会第79会期の死刑執行モラトリアム決議でも、エチオピアは反対票を投じた国として記録されている。

この投票行動は、国内で死刑を執行していない事実と一見矛盾する。だが、両者を分けて考えれば矛盾は小さくなる。

つまり、エチオピア政府は「現時点で死刑を執行する」という積極的政策を採用していない一方、「死刑を国家として永久に放棄する」という国際的コンセンサスにも同意していないのである。執行停止には事実上参加しているが、死刑廃止という国際的政策目標には必ずしも参加していないという状態である。

この点は、エチオピアの死刑政策を「人権重視に転換した」と単純に評価することに対する重要な留保となる。国家の投票行動や条約への加入状況を見る限り、政府は死刑存置という政策上の選択肢を放棄していないからである。

「執行停止」と「死刑廃止」の国際的な違い

死刑制度をめぐる国際比較では、しばしば「死刑を使っていない国」と「死刑を廃止した国」が同一視される。しかし、国際人権法上は両者の違いは大きく、エチオピアはその違いを典型的に示すケースである。

法律上の死刑を廃止した国では、裁判所が死刑判決を言い渡すこと自体が原則としてできない。そのため、政府が将来的に執行を再開するためには、まず法律を変更して死刑を復活させる必要がある。

これに対してエチオピアでは、刑法に死刑規定が残されている。裁判所は法定要件を満たす事件について死刑判決を言い渡すことができ、実際に2025年にも少なくとも5件の死刑判決が記録されている。

したがって、エチオピアの場合、現在の執行停止が解除されれば、理論上は既存の法制度の枠内で死刑執行が再開される可能性がある。これが、死刑廃止国との決定的な違いである。

この意味で「事実上のモラトリアム」という言葉は、エチオピアの現状をかなり正確に表現している。死刑制度を完全に撤廃する政治的決断はなされていないものの、実際の執行は長期間行われていないからである。

ただし、約19年間の執行停止という事実は、制度の政治的・社会的な意味を大きく変化させている。長期間執行されない刑罰は、法律上存在していても、その実効性が徐々に低下し、社会における刑罰としての役割が変化する可能性がある。

国際社会から見たエチオピアの特殊性

エチオピアのケースが国際的に興味深いのは、死刑制度に対する国内実務と外交的立場が一致していない点にある。実際の執行については2007年以来ゼロが続いている一方、第二選択議定書には加入せず、国連総会の死刑執行停止決議にも反対するという組み合わせになっている。

この状態は、「死刑制度を積極的に利用している国」とは明確に異なるが、「死刑廃止を国家政策として明確に採用した国」とも異なる。したがって、エチオピアは国際的な死刑分類において、事実上の死刑執行停止(de facto moratorium)に近い実態を持ちながら、法律上・外交上は死刑存置国(retentionist state)の立場を維持する国と整理できる。

国連人権委員会による審査は、この矛盾を明確に浮かび上がらせている。委員会は死刑執行が停止していることを肯定的な要素として認識しながらも、政府に対して制度そのものの廃止と第二選択議定書への加入を促す方向で議論している。

これは、国際社会が「死刑を執行していない」という一点だけでは十分と考えていないことを意味する。国際人権政策の観点からは、最終的な目標は単なる執行停止ではなく、死刑を法制度から排除し、将来的な執行再開の可能性そのものをなくすことにあるからである。

エチオピア政府のスタンスをどう評価するか

以上を総合すると、エチオピア政府の死刑政策は「廃止支持」と「積極的存置」の中間に位置すると評価できる。少なくとも2007年以降、政府は死刑執行を実施していないが、そのことを永久的な法的モラトリアムとして明文化したわけではなく、死刑制度そのものも維持している。

さらに、国際的な死刑廃止枠組みである第二選択議定書への加入を行っておらず、国連総会の死刑執行停止決議にも反対していることは、死刑廃止を国家として確約する意思が限定的であることを示している。したがって、「事実上の停止」は確認できても、「公式な死刑廃止政策」が存在すると評価することはできない。

もっとも、約19年間にわたって執行がないこと自体は軽視できない。死刑判決が現在も存在するとはいえ、長期間にわたって国家が実際の処刑を行っていないという事実は、エチオピアの刑事司法において死刑の位置づけが実質的に変化していることを示唆している。

ここにはエチオピア特有の政策的ジレンマがある。すなわち、国内の実務では死刑を使わない一方、法制度と国際的立場では死刑を放棄しないという状態である。

この状態が今後も継続するならば、エチオピアは長期的な「事実上の停止」を維持する国として位置づけられる可能性が高い。しかし、法律上の死刑が残り、公式なモラトリアムも存在しない以上、将来の政治情勢や治安情勢によって政策が変更される可能性を制度的に完全には排除できない。

ここまでの検証から、エチオピアの国際的な立場には明確な二面性があることが分かる。実務上は2007年以来死刑執行を行っていないが、法的には死刑を存置し、自由権規約第二選択議定書にも加入せず、国連総会の死刑執行停止決議にも反対しているという構造である。

このため、エチオピアを「死刑廃止国」と分類することはできない。より正確には、「死刑存置国でありながら、約19年間にわたり死刑執行を停止している事実上のモラトリアム国」と表現するのが妥当である。

そして、この制度的な曖昧さは、人権上の問題とも直結する。死刑が法的に残されている以上、死刑判決を受けた人々の法的地位、長期拘禁、裁判の公正性、恩赦・減刑手続きなどについて、国際人権基準からの検証が必要になる。

主な人権上の課題

死刑は生命を直接剥奪する不可逆的な刑罰であるため、その制度を維持する国には、通常の自由刑以上に厳格な司法的保障が求められる。とりわけ自由権規約第6条は、死刑存置国であってもその適用を厳しく制限し、「最も重大な犯罪」に限定するという国際的な基準を形成している。

エチオピアの場合、長期間執行が停止していることは生命権の観点から重要な肯定的要素である。しかし、それだけで人権問題が解消されたとはいえず、死刑判決を受けた者が長期間拘禁されること、政治的・治安的状況の中で死刑規定が適用され得ること、十分な司法的保障が確保されているかという問題が残る。

国連人権委員会は2022年のエチオピア審査で、死刑について政府から説明を受ける一方、死刑囚の人数、減刑、裁判手続き、死刑廃止に向けた措置などについて質問している。これは、国際人権機関が問題を「執行の有無」だけで捉えていないことを示している。

つまり、エチオピアの死刑問題は「処刑が行われているか」という一点から、「どのような法律によって死刑が科され、どのような裁判を経て判決が確定し、どのような手続きによって最終的な刑が決定されるのか」という司法制度全体の問題へと広がる。

法制の曖昧さと恣意的な適用

エチオピア刑法は死刑を「重大な犯罪」に対する例外的な刑罰として位置づけている。刑法117条は死刑について、特に危険な犯罪者に対して例外的に科すという考え方を採用しており、加重殺人などについても具体的な要件が定められている。

しかし、「例外的に危険な犯罪者」という概念には、個別事件における裁判官の評価が入り込む余地がある。犯罪の重大性だけでなく、犯罪者の危険性や動機、犯行態様などを総合的に判断する仕組みは、適切に運用されれば量刑の個別化につながる一方、基準の解釈が不統一になれば死刑適用の予測可能性を低下させる可能性がある。

死刑という不可逆的な刑罰については、法律の文言が存在するだけでは十分ではない。どのような事実が存在すれば死刑となるのか、どのような事情があれば終身刑などにとどまるのかについて、可能な限り明確で客観的な基準が必要になる。

この問題は、特に政治的対立や武装紛争が存在する環境では重要になる。エチオピアでは近年、国内紛争や治安上の緊張が続いており、テロリズムや国家安全保障に関連する犯罪について刑事司法が適用される場合、通常犯罪とは異なる政治的・社会的圧力が司法手続きに及ぶ可能性があるからである。

もっとも、ここで「エチオピアでは死刑が政治的に恣意的に適用されている」と一律に断定することは適切ではない。公開資料から確認できるのは、政治的に敏感な事件における司法の独立性、公正な裁判、法執行機関による人権侵害などについて、国際機関や人権団体が懸念を示していることであり、個々の死刑判決すべてが政治的動機によるものだと証明されているわけではない。

この区別は重要である。学術的な分析では、制度上「恣意的な適用が可能となる余地」と、個別事件で実際に「恣意的な適用が行われたこと」を分けなければならない。

公正な裁判(フェア・トライアル)の欠如

死刑制度において最も重大な問題の一つが、公正な裁判を受ける権利との関係である。死刑は誤判が発生した場合に事後的な救済が極めて困難であるため、逮捕から捜査、弁護人へのアクセス、証拠開示、裁判所の独立性、上訴権まで、刑事司法の各段階で高い水準の手続的保障が必要となる。

エチオピアについては、国連機関や国際人権団体が、司法制度全体における司法の独立性、恣意的拘禁、適正手続き、政治的事件における公正な裁判などについて、繰り返し懸念を示してきた。こうした問題が存在する環境では、死刑制度そのものが存在することによって、通常の刑事司法上の問題がより重大な生命権の問題へと転化する可能性がある。

国連人権委員会の2022年の審査でも、エチオピアの死刑制度について、死刑が「最も重大な犯罪」に限定されているという政府側の説明だけでなく、司法手続きや死刑囚の状況について幅広い議論が行われた。委員会が死刑制度と公正な裁判を切り離さずに扱っていることは、この問題の本質を示している。

特に問題となるのは、死刑事件において誤判を防止するための制度が実質的に機能しているかである。裁判所が独立して判断できること、被告人が十分な弁護を受けられること、証拠の信頼性を争えること、上級審による実効的な審査が行われることが不可欠となる。

さらに、政治的緊張が高まっている状況では、刑事司法と国家安全保障政策の境界が曖昧になる危険がある。テロ対策や武装勢力対策が強化される場合でも、刑事被告人の権利を制限し過ぎれば、公正な裁判という基本原則との緊張が生じる。

したがって、エチオピアにおける死刑制度を評価する際には、「2007年以来執行されていない」という事実だけではなく、死刑判決に至るまでの手続きそのものが国際人権基準を満たしているかを検証する必要がある。

死刑と政治的・治安的事件

エチオピアの人権状況を考える際には、国内の政治・治安情勢を無視できない。特に2020年代前半にはティグレ地域を中心とした武力紛争が発生し、その後も複数地域で武装勢力との対立や治安上の緊張が続いてきた。

こうした環境では、政府が国家安全保障を重視する一方、反政府活動や武装勢力への関与をめぐって刑事訴追が行われる可能性がある。死刑が法制度上残っている場合、このような重大な政治・治安事件と死刑制度との関係が人権上の検証対象となる。

ただし、ここでも「政治的事件では死刑が自動的に適用される」とするような単純化は避ける必要がある。現在確認できる統計では、近年のエチオピアにおける死刑判決の件数は少なくとも存在するものの、すべての判決について事件類型や政治的背景を完全に比較できるだけの公開データは十分ではない。

したがって、より妥当な評価は、死刑が存在することと、司法制度の独立性・公正性に関する懸念が存在することが重なった場合、誤判や恣意的適用が生じた際の被害が不可逆的になるという制度的リスクを指摘することである。

公式なモラトリアムの欠如

エチオピアの死刑制度をめぐるもう一つの重要な問題が、約19年間にわたる執行停止が、明確な法律上の「永久的な停止」として制度化されていないことである。

2007年以来、死刑執行は確認されていない。そのため国際的には「事実上のモラトリアム」と評価されるが、これは政府が法律によって死刑執行を禁止した状態とは異なる。

この違いは極めて大きい。法的モラトリアムが存在すれば、行政機関が死刑を執行できないことが明確になるが、単なる実務上の停止であれば、将来の政府が政策を変更して執行を再開する余地が残る。

つまり、現在の死刑囚は「死刑が廃止された国の受刑者」ではない。法律上の死刑判決を維持したまま、国家が現在まで執行していないという状態に置かれている。

この状態は、死刑囚の法的安定性という観点から問題となる。死刑判決が長期間存在し続ける一方で執行されず、しかも明確な制度変更によって別の刑へ一律に転換されるわけでもなければ、受刑者は将来の政策変更に対する不確実性を抱え続けることになる。

また、公式なモラトリアムがないということは、国際社会から見てもエチオピアの政策転換が容易に確認できないことを意味する。2007年以降の執行ゼロは客観的に確認できても、「今後も執行しない」という国家の法的コミットメントが存在するとは限らないからである。

長期拘禁と「死刑囚現象」

この問題は、死刑囚の長期拘禁という、いわゆる「Death row phenomenon(死刑囚現象)」とも関連する。死刑囚が長期間にわたって執行を待つことによって、極度の精神的苦痛や将来に対する不確実性が生じる可能性があり、死刑制度をめぐる国際的な人権議論では重要な論点となっている。

エチオピアでは、2020年12月時点で152人、2022年11月時点でも124人の死刑囚が政府資料上確認されている。しかも、この間に死刑執行によって死刑囚が処理されたわけではなく、減刑や個別事件の進展などによって人数が変化しているため、長期的な執行停止が死刑囚の存在を消滅させていないことが分かる。

したがって、エチオピアでは「死刑執行の停止」と「死刑囚問題の解消」は同じではない。むしろ後者を解決するためには、死刑判決の再審査、減刑、恩赦、刑の変更、あるいは最終的な死刑制度の廃止など、別の政策的措置が必要になる。

国際人権基準から見た評価

国際人権法上、死刑存置国に求められる最低限の条件は、死刑を無制限に利用しないことである。自由権規約第6条に加えて、国連人権委員会の一般的意見36号は、「最も重大な犯罪」の解釈を非常に限定的に捉え、死刑を生命を意図的に奪う極めて重大な犯罪に限定する方向を示している。

この基準から見ると、エチオピアでは死刑の対象犯罪がどこまで厳格に限定されているか、量刑判断がどの程度一貫しているか、死刑判決を受けた者が十分な司法的救済を受けられているかが重要となる。法律上の規定が存在することだけではなく、それが実際の裁判でどのように運用されているかが評価の中心となる。

一方、2007年以来の執行停止は、国際人権上の観点から明確に肯定的な要素である。少なくとも現在、死刑判決を受けた者について国家が生命を奪う執行を行っていないからである。

しかし、それだけでは制度全体が人権基準を満たしているとはいえない。死刑の執行停止、死刑判決の存在、公正な裁判、長期拘禁、恩赦・減刑制度、死刑廃止への政策的意思は、それぞれ別々に検証する必要がある。

ここまでの分析から、エチオピアの死刑制度における最大の問題は、「執行されていないこと」と「制度が廃止されたこと」の間に大きな空白が存在する点にある。2007年以来の執行停止は重要な人権上の進展だが、死刑規定そのものは残り、死刑判決も現在なお存在する。

さらに、死刑事件においては通常の刑事事件以上に厳格なフェア・トライアルが要求される。司法の独立性、弁護人へのアクセス、証拠に対する十分な反論機会、上訴・再審査の実効性などが十分に保障されなければ、死刑制度の存在そのものが重大な人権リスクとなる。

また、公式なモラトリアムが存在しないため、現在の執行停止は将来に対して完全な保証を与えていない。エチオピアが第二選択議定書に加入していないことも含めれば、現状は「死刑を使わない」という実務上の状態であって、「死刑を二度と使わない」という法的・国際的コミットメントではないと評価できる。

したがって、エチオピアの死刑制度をめぐる人権上の核心は、「死刑執行がないから問題がない」ということではなく、死刑を法制度として残したまま、長期にわたって執行を停止し、死刑囚を宙吊り状態に置き、しかも制度廃止について明確な法的決断を行っていないことにある。

今後の展望

2026年8月時点で、エチオピアの死刑制度について最も重要な事実は、2007年以来、死刑執行が確認されていないという長期的な実績である。アムネスティ・インターナショナルの最新の2025年統計でも、エチオピアでは少なくとも5件の新たな死刑判決が記録された一方、執行は記録されていない。

この状況が今後も継続すれば、エチオピアは実務上の死刑廃止にさらに近づいていく可能性がある。国際的にも、長期間にわたって執行を行わない国は、将来的な法的廃止に向けた潜在的な基盤を形成していると評価できるからである。

実際、アムネスティ・インターナショナルは、死刑を法律上または実務上廃止した国が世界的に増加していることを指摘している。2025年末時点では、113か国がすべての犯罪について法律上死刑を廃止し、法律上または実務上の廃止国を合わせると145か国に達している。

この世界的潮流を考えれば、エチオピアが長期的な執行停止を正式な法的廃止へ発展させることは、国際的な人権政策の流れとも整合する。しかし、そのためには単に執行しない状態を継続するだけでなく、刑法上の死刑規定を改正する必要がある。

シナリオ① 事実上のモラトリアムを継続する

最も短期的に考えやすいのは、現在の状態をそのまま維持するシナリオである。つまり、死刑制度を法律上残したまま、死刑判決が出る可能性は維持しながら、実際の執行は行わないという政策である。

この方法には、政府側から見れば一定の政治的メリットがある。死刑制度を完全に廃止する政治的決断を必要とせず、治安や重大犯罪への厳罰姿勢を法律上維持しながら、実際の処刑は回避できるからである。

しかし、この方式には重大な弱点がある。死刑囚の法的地位が不安定なまま残り、刑罰が終身刑などへ自動的に転換されるわけでもないため、長期的な「宙吊り状態」を生み出す可能性がある。

2022年11月時点で、エチオピア政府は124人の死刑囚を報告していた。2026年現在、この人数がそのまま維持されているとは確認できないが、少なくとも政府が最後に公表した具体的な数字として124人という規模が確認されていることは、問題の大きさを示している。

したがって、単純に「執行しなければ問題はない」とすることはできない。死刑執行の停止と、死刑囚の法的問題を解決することは別問題だからである。

シナリオ② 死刑囚の減刑を進める

第二の可能性は、個々の死刑判決について恩赦・減刑を進め、死刑を終身刑などへ段階的に変更していく方法である。これは、制度を一挙に廃止するよりも政治的抵抗が小さい可能性がある。

エチオピアでは過去にも死刑判決の減刑が行われている。政府が国連に提出した資料でも、死刑判決の一部が終身刑またはより短い刑へ減刑されたことが確認されている。

この方法を制度的に拡大すれば、現在の死刑囚問題を縮小することができる。特に、長期間死刑判決を維持されている者について、個別事件の再審査と減刑を行うことは、長期拘禁による人権上の問題を軽減する可能性がある。

ただし、個別恩赦や減刑だけでは死刑制度そのものは消滅しない。新たな死刑判決が出れば、再び死刑囚が発生する可能性があるからである。

2025年にもエチオピアで少なくとも5件の死刑判決が確認されていることは、この点を明確に示している。つまり、過去の死刑囚を減刑するだけでは、制度そのものの問題を根本的に解決することにはならない。

シナリオ③ 法律上の死刑廃止へ進む

最も明確な解決策は、刑法から死刑規定を削除し、死刑を正式に廃止することである。これによって初めて、現在の「事実上の停止」を「法律上の廃止」へ転換できる。

法律上の廃止には大きな意味がある。政府が将来政策を変更したとしても、単なる行政判断によって死刑執行を再開することはできず、まず法律そのものを改正しなければならなくなるからである。

さらに、死刑廃止後には現在の死刑囚についても、終身刑などへの刑の変更を制度的に行う必要がある。これによって、死刑囚が長期間にわたって「いつ執行されるか分からない」状態に置かれる問題を解消できる。

国際社会との関係でも、法律上の廃止は重要である。特に自由権規約第二選択議定書は死刑廃止を目的とする国際条約であり、2026年8月現在92か国が締約国となっている。エチオピアは現在もその締約国ではない。

したがって、エチオピアが死刑制度を完全に廃止する場合、国内法の改正だけでなく、第二選択議定書への加入を検討することも、国際的なコミットメントを明確化する手段となる。

シナリオ④ 政治・治安情勢によって執行が再開される可能性

一方、現在の状態を「永久的な廃止への道」と決めつけることもできない。エチオピアは法律上死刑を存置しており、第二選択議定書にも加入していないため、制度上は将来的な執行再開の可能性が残されている。

特に、国内の治安情勢が悪化し、重大犯罪や武装勢力への対策として厳罰化を求める政治的圧力が強まれば、死刑制度が再び政治的議論の中心となる可能性がある。実際、世界全体を見ても、死刑執行を長期間停止していた国が再開する例は存在する。

2025年には日本、南スーダン、台湾、アラブ首長国連邦で執行が再開され、世界全体では17か国で死刑執行が確認された。アムネスティ・インターナショナルは、2025年の世界の確認済み執行数を少なくとも2,707件としており、前年から大幅に増加したと報告している。

この国際的事例からも、単に「長期間執行されていない」という事実だけでは、将来の再開可能性を完全に否定できない。だからこそ、エチオピアの現在の状態を正式な法的廃止へ転換することに意味がある。

エチオピアにとって最も重要な課題

以上を総合すると、エチオピアが今後取り組むべき課題は、単に死刑執行を継続して停止することだけではない。第一に必要なのは、死刑判決を受けた者の現在の法的地位を明確にし、死刑囚数、判決確定状況、上訴状況、減刑・恩赦の実績などを透明性の高い形で公表することである。

第二に、長期間死刑判決を受けたまま収容されている者について、個別事件を再検証する必要がある。特に、公正な裁判を受ける権利が十分に保障されなかった可能性のある事件については、再審査や司法的救済の実効性を確保することが重要となる。

第三に、死刑の対象犯罪と量刑基準を国際人権法の基準に照らして再検討する必要がある。死刑を存置するのであれば、少なくとも自由権規約第6条の「最も重大な犯罪」という基準、適正手続き、上訴・恩赦などの保障を厳格に遵守する必要がある。

そして最終的には、死刑そのものを法律上廃止することが最も明確な解決となる。

「事実上の停止」をどう評価すべきか

エチオピアの約19年間に及ぶ執行停止は、決して小さな意味を持つものではない。2007年以降、実際の処刑を行っていないという事実は、生命権保護という観点から明確に評価できる。

しかし、これをそのまま「死刑廃止」と呼ぶことには問題がある。アムネスティ・インターナショナルはエチオピアを現在も「死刑存置国(retentionist state)」として分類している。

さらに、2025年にも死刑判決が記録されている。これは死刑制度が現在も司法制度の中で機能し得ることを意味しており、単なる法律上の死文化した制度とはいえない。(amnesty.org)

したがって、「事実上の停止」という評価は妥当だが、「事実上の廃止」と断定する場合には慎重であるべきである。現状は、執行という最も重大な部分が長期間停止している一方、死刑判決を生み出す法的基盤が残っている状態だからである。

総合評価

エチオピアの死刑制度を一言で表現するなら、「法的存置と実務上の停止が長期間併存する制度」である。

刑法上は死刑が存続し、加重殺人などの重大犯罪に対する刑罰として適用され得る。国家元首による確認などの手続きも存在し、死刑判決そのものも現在なお出されている。

一方、2007年以降、死刑執行は確認されていない。2025年についても少なくとも5件の死刑判決が記録されたものの、執行はゼロであり、長期的な執行停止という実態は現在まで維持されている。

国際的な位置づけも明確である。エチオピアは死刑廃止を目的とする自由権規約第二選択議定書に加入しておらず、したがって国際法上、死刑を永久に廃止する義務を受け入れている国ではない。

そのため、現在の制度は「死刑廃止国」と「死刑執行国」の単純な二分法では説明できない。法律上は存置国、実務上は長期モラトリアム国、国際的には死刑廃止義務を受け入れていない国という三つの側面を持つ。

まとめ

エチオピアの死刑制度について、2026年8月時点で最も重要な結論は、死刑は法的には存続しているが、2007年を最後に執行が確認されておらず、約19年間にわたる事実上の執行停止が続いているということである。

この状態は、生命権の保護という観点からは肯定的に評価できる。しかし、死刑判決自体は現在も存在し、2025年にも少なくとも5件が記録されているため、制度が消滅したわけではない。

また、2022年11月時点で政府が報告した死刑囚は124人に達していた。この数字は2026年8月現在の人数ではないため、そのまま現在値として使用することはできないが、エチオピアが長期間にわたり相当数の死刑囚を抱えてきたことを示す重要な資料である。

さらに、公式なモラトリアムが存在しないことは、現在の執行停止が将来に対する完全な保証ではないことを意味する。死刑が法制度に残り、第二選択議定書にも加入していない以上、政治・治安情勢の変化によって執行再開の可能性が制度上残されている。

したがって、エチオピアにとって最も重要な政策課題は、「死刑を執行しない状態」を漫然と継続することではなく、その状態をどのように法的安定性のある制度へ転換するかである。具体的には、死刑囚の再審査・減刑、死刑判決に至った裁判の公正性の検証、死刑統計の透明化、そして最終的には死刑の法律上の廃止が検討されるべきである。

エチオピアが死刑を正式に廃止し、さらに自由権規約第二選択議定書への加入まで進めれば、約19年間続いてきた「事実上の停止」は「法律上の廃止」へと転換する。その時点で初めて、将来の政権が政策変更によって死刑執行を再開する可能性を制度的に排除できる。

結論として、エチオピアの死刑制度は、「廃止された制度」ではなく、「長期間使われていないが、法的にはなお生きている制度」と評価するのが最も正確である。現在の執行停止は死刑廃止への重要な足掛かりとなっているが、法的廃止、死刑囚問題の解決、国際条約への加入、公正な裁判の保障という課題が残されており、今後の政策判断が同国の死刑制度の最終的な方向を決定することになる。


参考・引用リスト

1.アムネスティ・インターナショナル

Amnesty International, Death sentences and executions 2025, 18 May 2026. 2025年の世界各国における死刑判決・死刑執行を集計した最新の年次報告であり、エチオピアについて少なくとも5件の死刑判決が記録されたこと、執行が記録されていないことを確認するために使用した。

Amnesty International, Abolitionist and retentionist countries as of December 2024, 7 April 2025. エチオピアを死刑存置国として分類する際の基礎資料として使用した。

Amnesty International, Human rights in Ethiopia. エチオピアの死刑制度について、現在も法律上死刑を存置する「Retentionist」であることを確認する資料として使用した。

2.国際連合・国連人権機関

United Nations Human Rights Committee, Information provided by Ethiopia in relation to the list of issues, 2022. エチオピア政府が2022年11月時点で124人の死刑囚を報告したこと、死刑を重大犯罪・例外的に危険な犯罪者に限定しているとの政府説明を確認するために使用した。

United Nations Human Rights Committee, 2022年のエチオピア審査関連資料。死刑執行の事実上の停止、死刑囚の状況、死刑制度に関する国際人権上の論点を検討する際の基礎資料とした。

3.国際条約・国連条約データベース

United Nations Treaty Collection, Second Optional Protocol to the International Covenant on Civil and Political Rights, aiming at the abolition of the death penalty. 2026年8月時点で92か国が締約国であること、エチオピアが締約国に含まれていないことを確認するために使用した。

4.国際的な死刑制度研究資料

World Coalition Against the Death Penalty(WCADP), Ethiopia. エチオピアの死刑制度の国別状況、最後の死刑執行年などを確認するための補助資料として使用した。

5.国内法資料

Federal Democratic Republic of Ethiopia, Criminal Code of the Federal Democratic Republic of Ethiopia Proclamation No. 414/2004. 死刑の法的根拠、死刑の適用条件、国家元首による確認、死刑囚の処遇等を確認するための主要な国内法資料として使用した。

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