マッスルD:飲まない人の脂肪肝、「食べ過ぎ・運動不足」による生活習慣病のサイン
MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、従来のNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)から名称変更された新しい疾患概念であり、その背景には「アルコールの有無」ではなく、「代謝機能障害」が病気の本質であるという医学的理解の進展がある。
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現状(2026年7月時点)
2020年代に入り、健康診断で「脂肪肝ですね」と指摘される人が急増している。以前は飲酒量が多い人の病気というイメージが強かったが、現在では酒をほとんど飲まない、あるいは全く飲まない人にも脂肪肝が広く認められることが明らかとなっている。
日本では健康診断や人間ドックの普及によって腹部超音波検査を受ける機会が増え、脂肪肝が偶然発見されるケースも多い。推計では成人のおよそ3人に1人が脂肪肝を有するとされ、その多くは飲酒とは無関係な代謝異常に起因すると考えられている。
こうした背景から、従来使用されてきた「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)」という名称が、医学界では患者の実態を十分に反映していないとの議論が進んだ。2023年には国際的な専門学会が新しい疾患概念として「MASLD(Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」を提唱し、日本国内でも徐々に新名称への移行が進んでいる。
近年、日本のテレビ番組やニュースなどで「マッスルD」という言葉が取り上げられる機会が増えている。しかし、この言葉は正式な病名ではなく、「MASLD(マッスルディー)」という英語略称を日本語風に読んだものである。正式には「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」を意味し、生活習慣病との関係が極めて深い疾患群を指す。
この名称変更は単なる呼び名の変更ではない。病気の原因や危険因子をより正確に表現し、患者が誤解しにくい名称へ改めるという医学的・社会的な意味を持っている。
さらに近年では、脂肪肝は単なる肝臓の病気ではなく、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病、心筋梗塞、脳卒中など全身疾患と深く関係することが多数の研究で示されている。そのため世界各国の肝臓学会だけでなく、糖尿病学会、循環器学会、内分泌学会なども共同で診療指針を整備する動きが進んでいる。
日本でも高齢化や食生活の欧米化、運動不足、肥満人口の増加を背景として患者数は増加傾向にある。一方で、初期には自覚症状がほとんどないため、多くの人が健康診断で異常を指摘されても放置してしまうことが問題視されている。
「マッスルD」とは何か?
「マッスルD」とは、正式にはMASLD(Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)のことである。日本語では「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」と訳される。
従来使われていた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」は、「アルコールが原因ではない脂肪肝」という消極的な定義であった。つまり、「飲酒ではない」という否定表現によって病気を説明していた。
しかし実際の患者の多くは、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、インスリン抵抗性などの代謝異常を背景として発症している。このため現在では「代謝異常が原因となる脂肪肝」という積極的な病態概念へ変更されたのである。
MASLDでは肝細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積する。正常な肝臓にも少量の脂肪は存在するが、一定以上蓄積すると脂肪肝と診断される。
肝臓は糖や脂質の代謝、胆汁の生成、薬物の解毒、ビタミンや鉄の貯蔵、たんぱく質の合成など極めて多くの役割を担っている。そのため脂肪蓄積が進行すると全身代謝にも大きな影響を及ぼす。
MASLDでは内臓脂肪の増加と密接な関係がある。内臓脂肪が増えると炎症性サイトカインや遊離脂肪酸が多量に放出され、それらが門脈を通じて肝臓へ流入することで脂肪蓄積が加速すると考えられている。
さらにインスリン抵抗性が進行すると、筋肉や脂肪組織で糖を利用しにくくなり、余った糖が脂肪へ変換されやすくなる。この過程でも肝臓への脂肪蓄積が増加する。
このようにMASLDは「肝臓だけの病気」ではなく、「全身の代謝異常が肝臓に現れた病気」と理解することが重要である。
日本では痩せている人にもMASLDが認められる場合がある。特に内臓脂肪型肥満、筋肉量低下、運動不足などが組み合わさることで、体格指数(BMI)が正常範囲でも脂肪肝になる「やせ型脂肪肝(Lean MASLD)」も近年注目されている。
また、糖質を過剰摂取する食生活も重要な危険因子である。清涼飲料水や果糖ブドウ糖液糖を多く含む飲料、菓子類、加工食品などの過剰摂取は肝臓での脂肪合成を促進し、脂肪肝の形成に関与するとされている。
なぜ名称が変更されたのか?(背景)
名称変更の最大の理由は、「病気の本質を正しく表現するため」である。
NAFLDという名称では、「アルコールではない」という否定形によって病気が定義されていた。しかし実際には患者の多くが肥満や糖尿病などの代謝異常を背景としており、病気の原因を十分に示しているとは言えなかった。
さらに飲酒量の線引きにも国ごとの差が存在し、研究ごとに定義が異なる問題もあった。このため国際共同研究では患者分類が統一しにくく、研究成果を比較しづらいという課題があった。
患者側にも誤解が生じていた。「酒を飲まないから自分は関係ない」「脂肪肝でもアルコールが原因ではないので安心」と考え、生活改善の必要性を十分理解できないケースも少なくなかった。
そこで欧州肝臓学会、米国肝臓病学会、中南米肝臓学会など多数の専門学会が協議を重ね、新しい国際的疾患概念としてMASLDを提唱した。
新名称では、代謝異常を病気の中心概念に据えている。このため糖尿病や肥満、高血圧など生活習慣病との関係が患者にも理解しやすくなった。
また、「脂肪肝は生活習慣病の一部である」という認識が広まりやすくなり、早期の生活改善や治療介入につながることも期待されている。
医学研究の面でも名称変更は重要である。診断基準を統一することで国際共同研究が行いやすくなり、新薬開発や予防法の確立にも大きく貢献すると期待されている。
さらに近年は肝臓だけではなく、循環器、糖尿病、腎臓、内分泌など複数の診療科が連携してMASLDを診療する体制が整いつつある。これはMASLDが全身疾患として認識されるようになったことを示す変化でもある。
一方で、名称変更によって従来の病気が消えたわけではない。基本的な病態や患者層は従来のNAFLDと多くが重複しており、診断や治療方針も継続性を持ちながら新しい概念へ移行している段階にある。
どんな人が該当するのか?(診断の基準)
MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、単に「肝臓に脂肪がたまっている」というだけでは診断されない。新しい疾患概念では、肝臓に脂肪が蓄積していることに加え、代謝機能障害が存在することが重要な診断要素となる。
まず前提となるのは、画像検査や病理検査などで脂肪肝が確認されることである。腹部超音波検査(エコー)は最も一般的な検査であり、肝臓が白く明るく映る「高エコー像」が認められる場合には脂肪肝が疑われる。必要に応じてCTやMRI、MRI-PDFF(脂肪定量)、一過性エラストグラフィ(FibroScan)などを用いて脂肪量や線維化の程度を評価することもある。
そのうえで、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、インスリン抵抗性など、代謝異常の指標を一つ以上有している場合にMASLDと診断される。つまり、「脂肪肝」と「代謝異常」が組み合わさって初めて、新しい概念であるMASLDに該当する。
代表的な代謝異常としては、BMIの上昇や腹囲の増加など肥満の指標がある。日本人では欧米人よりも内臓脂肪が蓄積しやすく、BMIがそれほど高くなくても代謝異常を生じることが少なくない。そのため体重だけではなく、腹囲や体脂肪率なども重要な評価項目となる。
血液検査では、中性脂肪(トリグリセリド)の増加、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下、空腹時血糖やHbA1cの上昇などが確認されることが多い。また、ALT(GPT)やAST(GOT)など肝機能を示す酵素が高値となる場合もあるが、正常範囲内でも脂肪肝が進行していることは珍しくない。
MASLDの診断では、肝機能検査だけに頼ることは危険である。血液検査がほぼ正常であっても、画像検査では脂肪肝が進行している例や、肝臓の線維化が始まっている例も報告されている。そのため、健康診断で「肝機能は正常だから問題ない」と判断することは適切ではない。
さらに近年では、FIB-4 index(フィブフォーインデックス)やNAFLD Fibrosis Scoreなどの計算式を用いて、肝臓の線維化リスクを評価する方法も広く用いられている。これらは年齢、AST、ALT、血小板数などから算出され、肝硬変へ進行する危険性を予測する補助指標となる。
「食べ過ぎ・運動不足」による生活習慣病のサイン
MASLDの発症には、現代の生活習慣が深く関わっている。特に、過食、運動不足、睡眠不足、ストレスの蓄積は、代謝異常を引き起こす主要な要因と考えられている。
現代社会では、高脂肪・高糖質の食品が手軽に入手できるようになり、エネルギー摂取量が消費量を上回る状態が続きやすい。外食や加工食品、ファストフード、菓子類、甘味飲料などを日常的に摂取すると、余剰エネルギーが中性脂肪として肝臓に蓄積される。
特に注意が必要なのが果糖(フルクトース)の過剰摂取である。果糖は肝臓で脂肪へ変換されやすい性質を持ち、清涼飲料水やスポーツドリンク、エナジードリンク、菓子類などに多く含まれている。これらを頻繁に摂取する生活は、脂肪肝形成のリスクを高めるとされる。
運動不足も重要な危険因子である。筋肉は糖を消費する最大の臓器であり、筋肉量が減少すると血糖が利用されにくくなる。その結果、インスリン抵抗性が進行し、肝臓で脂肪が作られやすくなる。
デスクワーク中心の生活や長時間の座位行動も問題視されている。週に数回運動をしていても、日常生活で長時間座り続ける習慣がある場合には、代謝機能が低下しやすいことが近年の研究で示されている。
MASLDでは初期にほとんど症状が現れない。そのため、疲れやすさや倦怠感を年齢のせいと考えたり、体重増加を「少し太っただけ」と軽視したりしてしまうケースが多い。
しかし、体重増加、腹囲の拡大、血圧の上昇、血糖値の上昇、中性脂肪の増加、HDLコレステロールの低下などが同時に認められる場合には、代謝異常が進行している可能性がある。これらはMASLDだけでなく、糖尿病や動脈硬化の前兆でもあるため、生活習慣全体を見直す契機とすべきである。
近年では「サルコペニア肥満」も注目されている。これは筋肉量が減少しながら脂肪量が増加した状態であり、見た目にはそれほど肥満に見えなくても、代謝異常や脂肪肝のリスクが高い。高齢者だけでなく、運動不足の若年層でも認められることがある。
放置するとどうなる?(様々なリスクと病気)
MASLDの最大の問題は、「症状がないまま進行する」ことである。多くの患者は自覚症状がほとんどないため、健康診断で脂肪肝を指摘されても、そのまま放置してしまう。
しかし、肝臓では脂肪の蓄積が続くと慢性的な炎症が生じるようになる。この炎症が長期間持続すると、正常な肝細胞が徐々に傷つき、その修復過程で線維化(肝臓が硬くなる現象)が進行する。
線維化が進むと肝臓本来の柔軟性が失われ、血流が悪化する。さらに進行すると肝硬変へ移行し、黄疸、腹水、食道静脈瘤、肝性脳症など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。
また、MASLDは肝臓だけの病気ではない。代謝異常を背景としているため、糖尿病、高血圧、脂質異常症が相互に悪影響を及ぼし、全身の臓器に障害が及ぶ。
特に心血管疾患との関連は極めて強い。MASLD患者では、心筋梗塞や狭心症、心不全などの循環器疾患の発症リスクが高まることが多くの疫学研究で示されている。実際、MASLD患者の主要な死亡原因は肝不全よりも心血管疾患であると報告されている。
さらに、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害のリスクも増加する。これは脂肪肝そのものが全身の慢性炎症やインスリン抵抗性を悪化させ、動脈硬化を促進するためと考えられている。
慢性腎臓病(CKD)との関連も明らかになってきた。腎機能の低下は高血圧や糖尿病と密接に関係しており、MASLD患者では腎障害の進行速度が速いとの報告もある。
加えて、睡眠時無呼吸症候群、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、痛風、高尿酸血症、胆石症など、さまざまな疾患との関連も指摘されている。これらはいずれも代謝異常を共通基盤としており、複数の病気が同時に進行することで生活の質(QOL)や生命予後に大きな影響を与える。
このように、MASLDを放置することは単に「肝臓に脂肪がたまる」だけでは済まない。全身の代謝ネットワークが崩れ、複数の生活習慣病や重篤な臓器障害を引き起こす可能性があるため、早期発見と継続的な管理が極めて重要である。
MASH(マッシュ:代謝機能障害関連脂肪肝炎)への移行
MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)の患者すべてが重症化するわけではない。しかし、一部の患者では脂肪が蓄積した状態に加えて肝臓に慢性的な炎症が起こり、細胞障害が進行する。この状態がMASH(Metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:代謝機能障害関連脂肪肝炎)である。
従来は「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」と呼ばれていたが、MASLDへの名称変更に合わせてMASHへ改められた。病名は変わったものの、病態の本質は「脂肪蓄積に炎症と細胞障害が加わった進行性の脂肪肝」である。
MASHでは、肝細胞内に過剰に蓄積した脂肪が酸化ストレスを引き起こし、活性酸素の産生が増加する。これにより細胞膜やミトコンドリアが損傷し、肝細胞は壊死やアポトーシス(細胞死)へ向かう。
傷ついた肝細胞を修復しようとする過程では、免疫細胞が集まり炎症性サイトカインが放出される。この炎症反応が長期間持続すると、肝臓ではコラーゲンなどの線維成分が増え、線維化が徐々に進行する。
線維化は初期には自覚症状がなく、患者自身が進行に気付くことはほとんどない。しかし、線維化が高度になると肝臓は硬くなり、本来の代謝機能や解毒機能が低下する。
MASHの進行速度には個人差がある。遺伝的要因、糖尿病の有無、肥満の程度、食生活、運動習慣、睡眠、喫煙など複数の因子が重なり合って病態が悪化すると考えられている。
特に2型糖尿病を合併している患者では、MASHへの進行率が高いことが多くの研究で報告されている。高血糖状態では酸化ストレスや慢性炎症が増強されるため、肝障害が進みやすくなる。
また、近年では腸内環境(腸内細菌叢)も重要な因子として注目されている。食生活の乱れや肥満によって腸内細菌のバランスが崩れると、腸管のバリア機能が低下し、炎症を促進する物質が門脈を通じて肝臓へ流入しやすくなる。この「腸-肝相関」はMASHの発症・進行に関わる重要なメカニズムの一つと考えられている。
MASHは進行すると肝硬変へ至る可能性がある。肝硬変になると正常な肝組織は線維組織に置き換わり、肝機能は著しく低下する。さらに肝硬変は肝細胞がん(肝がん)の主要な危険因子であり、定期的な画像検査や血液検査による経過観察が不可欠となる。
全身の血管・心臓・脳の病気
MASLDやMASHは肝臓だけに影響を及ぼす疾患ではない。現在では「全身性の代謝疾患」として認識されており、特に心血管疾患との関連が極めて強いことが知られている。
脂肪肝では慢性的な炎症やインスリン抵抗性が全身に及び、血管内皮細胞の機能が低下する。血管内皮は血液の流れを調節し、血栓形成を防ぐ重要な役割を担っているが、その機能が損なわれると動脈硬化が進行しやすくなる。
動脈硬化が進行すると、心臓へ血液を送る冠動脈が狭くなり、狭心症や心筋梗塞を発症する危険性が高まる。疫学研究では、MASLD患者は脂肪肝のない人に比べて心血管イベントの発症率が高いことが繰り返し報告されている。
さらに心不全との関連も明らかになってきた。慢性炎症や代謝異常が心筋の構造や機能に悪影響を与え、心臓の収縮・拡張機能を低下させることが示唆されている。
不整脈との関連も注目されている。特に心房細動は脳梗塞の重要な原因となるため、MASLD患者では循環器系の定期的な評価も重要となる。
脳血管にも同様の変化が起こる。動脈硬化が頸動脈や脳血管へ及ぶことで、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の危険性が高まる。また、高血圧や糖尿病を合併している場合には脳出血のリスクも上昇する。
近年では、脂肪肝患者では冠動脈石灰化スコアや頸動脈内膜中膜複合体(IMT)の肥厚が認められやすいことも報告されている。これらは将来の心血管疾患を予測する指標として用いられており、MASLDが全身の血管病変と密接に関係していることを示している。
実際、MASH患者の生命予後を左右する最大の要因は、必ずしも肝臓そのものではない。多くの研究では、心血管疾患が主要な死亡原因であることが示されており、肝臓だけを診るのではなく全身管理が必要とされる理由となっている。
その他の合併症
MASLDやMASHでは、肝臓や心血管以外にもさまざまな臓器で合併症が認められる。代謝異常が全身に及ぶため、一つの病気としてではなく「全身疾患」と捉えることが重要である。
代表的な合併症の一つが慢性腎臓病(CKD)である。糖尿病や高血圧を背景とする腎障害に加え、脂肪肝による慢性炎症や血管障害が腎機能低下を促進すると考えられている。
腎機能が低下すると老廃物や余分な水分を十分に排出できなくなり、最終的には透析療法が必要となる場合もある。そのためMASLD患者では定期的な腎機能検査も重要である。
睡眠時無呼吸症候群との関連も深い。肥満や内臓脂肪の増加によって気道が狭くなり、睡眠中に呼吸停止を繰り返すことで低酸素状態が生じる。この低酸素状態は肝臓にも悪影響を与え、MASHの進行を促進する可能性がある。
高尿酸血症や痛風も合併しやすい疾患である。尿酸値が高い状態では炎症反応や酸化ストレスが増強され、代謝異常全体が悪化しやすくなる。
胆石症も比較的多く認められる。肥満や脂質代謝異常では胆汁成分のバランスが変化し、胆石が形成されやすくなるためである。
女性では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)との関連が知られている。PCOSではインスリン抵抗性や肥満を伴うことが多く、MASLDの有病率が高いことが報告されている。
近年は悪性腫瘍との関連も研究が進んでいる。MASH患者では肝細胞がんだけでなく、大腸がん、膵がん、乳がんなど一部のがんの発症リスクが高い可能性が示唆されているが、その機序については現在も研究が続けられている。
さらに、高齢者ではサルコペニア(筋肉量・筋力の低下)との関連も重要視されている。筋肉量が減少すると糖の利用効率が低下し、インスリン抵抗性が悪化することで脂肪肝が進行しやすくなる。このため、筋肉量の維持はMASLD管理の重要な柱の一つとなっている。
このようにMASLDは、肝臓だけではなく心臓、脳、腎臓、血管、筋肉、内分泌系など全身に影響を及ぼす疾患である。そのため診療では肝臓専門医だけでなく、糖尿病内科、循環器内科、腎臓内科、栄養士、運動療法士など多職種による包括的な管理が推奨されている。
対策と予防のポイント
MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、早期に生活習慣を改善することで進行を抑えられる可能性が高い疾患である。現時点では一部の進行例を除き、治療の中心は薬物ではなく、食事・運動・体重管理を柱とした包括的な生活習慣改善となっている。
肝臓は再生能力の高い臓器であり、原因となる代謝異常が改善すれば、肝細胞に蓄積した脂肪が減少し、炎症や線維化が改善する可能性があることが多くの臨床研究で示されている。そのため、健康診断で脂肪肝を指摘された段階から対策を始めることが重要である。
特に肥満を伴う患者では、体重減少が最も効果的な治療法の一つとされている。一般的には現在の体重から5%程度の減量で肝脂肪量の減少が期待され、7~10%以上の減量では肝炎や線維化の改善が認められる症例も報告されている。
ただし、急激な減量は推奨されない。極端な食事制限や短期間での大幅な体重減少は、かえって肝機能を悪化させる可能性があるため、栄養バランスを保ちながら継続可能な方法で減量を進めることが望ましい。
近年では管理栄養士による栄養指導や、運動療法士を含めた多職種による生活習慣改善プログラムも普及している。医療機関と連携しながら取り組むことで、長期的な改善効果が期待できる。
食べ過ぎ・糖質の摂りすぎに注意する
MASLDの予防・改善では、総摂取エネルギーの適正化が基本となる。しかし、それと同じくらい重要なのが「何を食べるか」である。
糖質の過剰摂取は、肝臓で中性脂肪が合成される「デノボ脂肪合成(de novo lipogenesis)」を促進する。そのため、菓子類、清涼飲料水、甘味飲料、菓子パン、加工食品などを日常的に多く摂取する習慣は、脂肪肝の発症・進行に大きく関与すると考えられている。
特に果糖ブドウ糖液糖を多く含む飲料は注意が必要である。果糖は肝臓で代謝されやすく、中性脂肪へ変換されやすい特徴を持つため、過剰摂取は脂肪肝形成の一因となる。
一方で、炭水化物を極端に制限することが必ずしも最適とは限らない。重要なのは、精製された白米や白パン、砂糖を多く含む食品を減らし、全粒穀物や野菜、豆類など食物繊維を豊富に含む食品へ置き換えることである。
食物繊維は血糖値の急上昇を抑え、腸内細菌叢の改善にも寄与する。近年では腸内環境の改善が肝臓の炎症抑制にも関与する可能性が報告されており、食物繊維の積極的な摂取はMASLD対策の重要な要素となっている。
脂質については、飽和脂肪酸の過剰摂取を控え、不飽和脂肪酸を適切に取り入れることが勧められる。魚に含まれるn-3系脂肪酸(EPA・DHA)や、オリーブオイル、ナッツ類などに含まれる良質な脂質は、脂質代謝や炎症の改善に役立つ可能性がある。
また、食事時間にも注意が必要である。夜遅い時間帯の食事や頻繁な間食はエネルギー消費が少ない時間帯に脂肪を蓄積しやすくするため、規則正しい食生活を維持することが望ましい。
アルコールについては、MASLDは飲酒が主因ではないものの、過度の飲酒は肝臓への負担を増やし病状を悪化させる可能性がある。飲酒習慣がある場合には、医師と相談しながら適切な飲酒量を心掛けることが重要である。
適度な運動を取り入れる
運動療法はMASLD改善の柱の一つである。運動には体重減少だけでなく、インスリン抵抗性の改善、内臓脂肪の減少、筋肉量の維持・増加など、多面的な効果が期待されている。
有酸素運動では、速歩、ジョギング、自転車、水泳などが推奨される。一般的には中等度の運動を週150分以上継続することが望ましいとされている。
一方、筋力トレーニングも重要である。筋肉は糖を消費する主要な臓器であり、筋肉量が増えることで血糖コントロールが改善し、肝臓への脂肪蓄積を抑制する効果が期待できる。
高齢者ではサルコペニア(筋肉量減少)の予防も重要な課題となる。ウォーキングだけでは筋肉量の維持が難しい場合もあるため、スクワットやレジスタンス運動などを組み合わせることが勧められている。
また、長時間座り続ける生活習慣も改善すべき点である。1時間ごとに立ち上がって歩く、階段を利用する、短時間でも身体を動かすなど、日常生活の中で活動量を増やす工夫が推奨されている。
運動は無理なく継続することが最も重要であり、短期間で成果を求めるよりも、長期間続けられる習慣として取り入れることが予防・改善につながる。
定期的な検査を受ける
MASLDは初期には自覚症状がほとんどないため、定期的な健康診断が早期発見の鍵となる。特に肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などを有する人は、肝機能や腹部超音波検査を定期的に受けることが望ましい。
血液検査ではAST、ALT、γ-GTPだけでなく、血糖値、HbA1c、脂質、腎機能なども総合的に評価する必要がある。また、線維化リスクが高いと判断された場合には、FibroScanやMRIなどの精密検査が行われることもある。
近年では、FIB-4 indexなどの簡便な指標を用いて線維化リスクを評価し、高リスク患者を専門医へ紹介する診療体制も広がっている。これにより、肝硬変や肝がんへの進行を早期に防ぐことが期待されている。
定期的な検査は病気を見つけるだけではなく、生活改善の効果を確認する機会でもある。体重や血液データ、画像所見の変化を継続的に把握することで、治療方針を適切に調整できる。
今後の展望
MASLDは世界的に患者数が増加しており、今後の医療における重要課題の一つと考えられている。肥満人口の増加や高齢化に伴い、肝疾患だけでなく心血管疾患や糖尿病を含めた包括的な対策が求められている。
近年は新しい治療薬の開発も進められている。代謝改善薬や線維化抑制薬、炎症を標的とした薬剤など、複数の作用機序を持つ新薬の研究・臨床試験が国内外で進行しており、一部では実用化も始まっている。
また、AI(人工知能)を活用した画像診断やリスク予測モデル、ウェアラブル機器による生活習慣管理など、デジタルヘルス技術を取り入れた予防医療にも期待が寄せられている。
さらに、MASLDは肝臓専門医だけでは対応が難しい疾患であることから、糖尿病内科、循環器内科、腎臓内科、栄養士、理学療法士などが連携するチーム医療の重要性が今後ますます高まると考えられる。
まとめ
MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、従来「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていた疾患概念を発展させたものであり、名称変更は単なる言葉の置き換えではなく、病気の本質をより正確に反映するための国際的な見直しである。従来の名称は「アルコールが原因ではない」という否定的な定義であったが、新たなMASLDでは、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症などの代謝機能障害を病気の中心に据え、「なぜ脂肪肝になるのか」という原因を明確に示す考え方へと転換された。
「マッスルD」という呼び方はMASLDの英語略称を読みやすくした表現であり、正式な病名ではない。しかし、この名称がメディアで取り上げられる機会が増えたことで、飲酒習慣のない人にも脂肪肝が広く存在することが社会的に認識され始めている。現在では、成人の相当数が脂肪肝を有すると推定され、その多くが生活習慣や代謝異常と深く関係していることが国内外の研究から明らかになっている。
MASLDの最大の特徴は、初期にはほとんど自覚症状がないことである。健康診断や人間ドックで偶然発見されるケースが多く、「痛くない」「体調に変化がない」という理由で放置されることも少なくない。しかし、肝臓では脂肪の蓄積とともに慢性的な炎症が進行し、一部の患者ではMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)へ移行する。さらに線維化が進行すると肝硬変や肝細胞がんに至る可能性があり、症状が現れた時には病状がかなり進んでいる場合もある。
また、現在の医学では、MASLDは単なる「肝臓の病気」ではなく、全身性の代謝疾患と考えられている。脂肪肝を背景とした慢性炎症やインスリン抵抗性は、動脈硬化を促進し、心筋梗塞、狭心症、心不全、脳梗塞、慢性腎臓病などの発症リスクを高めることが多くの疫学研究で示されている。実際、MASLD患者の生命予後に最も大きな影響を与えるのは肝臓そのものではなく、心血管疾患であると報告されており、肝臓だけを診るのではなく全身を包括的に管理することが重要視されている。
発症の背景には、現代社会特有の生活習慣がある。高脂肪・高糖質の食事、果糖を多く含む清涼飲料水や加工食品の過剰摂取、慢性的な運動不足、長時間の座位行動、睡眠不足、ストレスなどが重なり、内臓脂肪の増加やインスリン抵抗性を引き起こす。その結果、肝臓に中性脂肪が蓄積し、MASLDが形成される。肥満だけでなく、筋肉量の少ない「サルコペニア肥満」や、BMIが正常でも内臓脂肪が多い「やせ型MASLD」が存在することも分かっており、「太っていないから安心」とは言えない。
予防と改善の基本は、生活習慣の見直しである。食べ過ぎを避け、エネルギー摂取量を適正化するとともに、果糖や精製糖質を多く含む食品・飲料を控え、野菜や豆類、全粒穀物、魚などを取り入れた栄養バランスの良い食事を心掛けることが重要となる。さらに、有酸素運動と筋力トレーニングを継続的に行い、内臓脂肪の減少と筋肉量の維持を図ることが推奨されている。特に肥満を伴う患者では、現在の体重から5~10%程度の減量でも肝脂肪や炎症の改善が期待できるとされている。
定期的な健康診断も欠かせない。ASTやALTなどの肝機能検査だけでなく、腹部超音波検査、血糖値、HbA1c、脂質、腎機能などを総合的に評価し、必要に応じてFIB-4 indexやFibroScanなどによる線維化評価を行うことで、重症化リスクを早期に把握できる。自覚症状がない段階で病気を見つけ、生活改善につなげることが将来の合併症予防に直結する。
今後は、MASLD患者の増加に対応するため、肝臓専門医だけでなく、糖尿病内科、循環器内科、腎臓内科、管理栄養士、理学療法士などが連携するチーム医療の重要性がさらに高まると考えられる。また、代謝改善薬や抗線維化薬などの新規治療薬の開発、AIを活用した画像診断やリスク予測、ウェアラブル機器による生活習慣管理など、新しい医療技術の導入も進みつつある。
総じて、MASLDは「症状がないから心配ない病気」ではなく、生活習慣病の集大成とも言える全身性疾患である。健康診断で脂肪肝を指摘された場合には軽視せず、自らの生活習慣を見直し、必要に応じて専門医の診察を受けることが重要である。早期発見・早期介入によって病気の進行を防ぎ、肝臓だけでなく心臓や脳、腎臓を含めた全身の健康を長期的に守ることが、これからのMASLD対策の基本となる。
参考・引用リスト
- 欧州肝臓学会(EASL)MASLD関連ガイドライン
- 米国肝臓病学会(AASLD)Practice Guidance
- アジア太平洋肝臓学会(APASL)診療ガイドライン
- 日本肝臓学会『肝疾患診療ガイドライン』
- 日本消化器病学会『NAFLD/NASH診療ガイドライン』
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン』
- 日本循環器学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査」
- 厚生労働省「患者調査」
- 国立国際医療研究センター(現・国立健康危機管理研究機構へ機能移管)による脂肪肝・生活習慣病関連資料
- 日本肝臓学会・日本消化器病学会によるMASLD/MASH関連提言
- Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology
- The Lancet Gastroenterology & Hepatology
- Journal of Hepatology
- Hepatology
- New England Journal of Medicine (NEJM)
- JAMA
- BMJ
- Diabetes Care
- Circulation
- Gastroenterology
- 世界保健機関(WHO)生活習慣病・肥満関連資料
- 各国のMASLD国際コンセンサスステートメント
