がん克服への道④:難治性がんや転移・再発の壁、知っておくべき現代のがん医療の潮流

がん医療は、手術、放射線治療、抗がん剤を中心とした時代から、遺伝子解析、免疫療法、分子標的薬、細胞療法、人工知能などを組み合わせる高度な個別化医療の時代へ移行している。
乳がんのイメージ(Getty Images)
現状(2026年10月時点)

がん医療は、過去20年間で大きく進歩した。手術、放射線治療、抗がん剤を中心とした従来の治療に加え、がん細胞の遺伝子異常を標的とする分子標的薬、患者自身の免疫機能を利用する免疫療法、がん細胞の特徴に応じて治療を選択する個別化医療などが実用化され、一部のがんでは治療成績が大幅に改善している。

かつては治療が困難とされた進行がんでも、薬剤の組み合わせや治療法の改良によって長期間病状を抑えられる症例が増えている。特定の血液がんや一部の固形がんでは、再発リスクを大幅に低下させたり、長期寛解を実現したりする治療も登場しており、がんは必ずしも短期間で生命を脅かす病気ではなくなりつつある。

しかし、こうした進歩は、すべてのがんに等しく及んでいるわけではない。膵臓がん、胆道がん、特定の肺がん、脳腫瘍など、診断時点ですでに進行していることが多く、従来の治療にも新しい治療にも十分に反応しない難治性がんは、依然として大きな医療上の課題である。

世界保健機関(WHO)が2026年7月に公表した世界のがんに関する報告では、2024年の世界の新規がん患者数は推計2,060万人、死亡者数は約980万人に達した。生涯のうちに約5人に1人ががんを発症し、男性では約9人に1人、女性では約13人に1人ががんで死亡するという規模であり、がんは依然として世界的な主要死亡原因の1つである。

国際がん研究機関(IARC)の2024年推計でも、肺がんが新規患者数、死亡者数ともに最も多く、大腸がん、乳がん、前立腺がん、胃がんなどが続いている。重要なのは、がんの発症数だけでなく、治療後に再発する患者や、遠隔転移によって根治が難しくなる患者が相当数存在するという点である。

日本でも、がんは主要な死亡原因であり続けている。国立がん研究センターの「がん統計2026」では、2024年の死亡統計、2021年の罹患統計、過去の診断患者の生存率などが整理されており、がんの種類によって治療成績に大きな差があることが示されている。

例えば、2026年1月に公表された2016年診断患者の全国がん登録に基づく5年純生存率では、前立腺がんが92.1%、乳がんが88.0%だった一方、膵臓がんは11.8%だった。この差は、がんの種類によって早期発見の難しさ、進行速度、転移のしやすさ、治療への反応性が大きく異なることを示している。

つまり、現代のがん医療は、すべてのがんを治せる段階には到達していない。治療技術の進歩と、難治性がんを克服できない現実が同時に存在しているのである。

難治性がん・転移・再発の現状と「壁」

難治性がんとは、一般に、標準的な治療を行っても十分な効果が得られない、再発しやすい、進行が速い、あるいは有効な治療選択肢が限られているがんを指す。ただし、医学的に統一された単一の分類ではなく、がんの種類、病期、遺伝子異常、治療歴、患者の全身状態などによって意味合いが変わる。

代表的なものとして、膵臓がん、胆道がん、膠芽腫などの悪性脳腫瘍、小細胞肺がん、特定の進行肝がんなどが挙げられる。これらは、それぞれ異なる理由で治療が難しく、単純に同じ治療戦略を適用することはできない。

例えば、膵臓がんは初期段階で特徴的な症状が現れにくく、早期発見が難しい。診断時には周囲の血管や神経に浸潤していたり、肝臓や腹膜などに転移していたりすることがあり、手術によって完全切除できる患者は限られる。

さらに、膵臓がんの組織には、がん細胞を取り囲む線維性の間質が発達していることが多い。この構造が薬剤の浸透や免疫細胞の侵入を妨げ、治療効果を弱める要因の1つになっている。

一方、膠芽腫では、脳を保護する血液脳関門が治療薬の到達を制限する。手術で目に見える腫瘍を取り除いても、周囲の脳組織に浸潤した微細ながん細胞をすべて除去することは難しく、放射線治療や薬物療法を組み合わせても再発することが多い。

小細胞肺がんでは、初期治療に対して比較的高い反応を示す場合があるものの、治療後に耐性を獲得して再発することが大きな問題となる。最初の治療で腫瘍が縮小したからといって、すべてのがん細胞が消滅したとは限らないのである。

難治性がんを克服するうえで、特に重要なのが転移と再発である。

転移とは、原発巣と呼ばれる最初に発生したがんから細胞が離れ、血液やリンパ液などを通じて別の臓器や組織に移動し、そこで新たな腫瘍を形成する現象である。肺がんから脳や骨へ、大腸がんから肝臓や肺へ、乳がんから骨や肝臓、肺へと広がるケースなどが代表的だ。

転移が起きると、治療対象は原発巣だけではなく、複数の臓器に存在する腫瘍へと拡大する。手術による完全切除が困難になる場合が多く、全身に作用する薬物療法が治療の中心となるが、すべての転移病変に同じ程度の効果が得られるとは限らない。

再発は、手術や薬物療法、放射線治療などによって一度は腫瘍が消失した、あるいは検査で確認できない状態になった後、再びがんが発見されることをいう。再発には、手術した場所やその周辺に再び発生する局所再発、リンパ節などに現れる領域再発、離れた臓器に発生する遠隔再発がある。

ここで注意すべきなのは、画像検査で腫瘍が確認できなくなった状態と、体内からがん細胞が完全に消滅した状態は同じではないということだ。治療後も検査で検出できないほど少数のがん細胞が残存し、それらが時間をかけて増殖することで再発に至る場合がある。

したがって、がん克服の最大の壁は、単に目に見える腫瘍を小さくすることではない。治療によって生き残ったがん細胞をいかに発見し、根絶し、再発や転移を防ぐかという問題にある。

なぜ再発・転移が起きるのか(メカニズムの壁)

がんの再発と転移は、単純に治療が不十分だったために起きるわけではない。その背景には、がん細胞が持つ遺伝的・生物学的な多様性、周囲の組織との相互作用、免疫機能からの逃避、治療環境への適応など、複数の要因が複雑に関係している。

まず、がん細胞は正常細胞と異なり、増殖や生存に関係する遺伝子に異常を蓄積している。その異常は細胞分裂の過程で変化し、同じ腫瘍の内部でも性質の異なる細胞集団が形成される。

抗がん剤や放射線治療は、主として増殖が活発な細胞や特定の分子機構に依存する細胞を攻撃する。しかし、腫瘍の中には薬剤の影響を受けにくい細胞や、細胞分裂を一時的に停止して生き延びる細胞が存在する場合がある。

こうした細胞は、治療によって周囲のがん細胞が減少した後も生き残り、治療終了後に再び増殖する可能性がある。治療前には少数だった耐性細胞が、治療後には腫瘍の主要な構成集団になることもある。

次に、転移には複数の段階が必要となる。がん細胞は原発巣から周囲の組織へ浸潤し、血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液の流れに乗って移動する。その後、別の臓器の血管から外へ出て、現地の組織環境に適応し、増殖を続けなければならない。

この過程は容易ではなく、移動中に多くのがん細胞が死滅する。しかし、一部の細胞は血小板などと相互作用して免疫細胞による攻撃を回避したり、転移先の組織に適応したりする能力を獲得している。

また、がん細胞の周囲にある血管、線維芽細胞、免疫細胞、細胞外基質なども、転移や治療抵抗性に関係する。こうした腫瘍周辺の環境は、がん微小環境と呼ばれ、がん細胞の増殖を助けたり、免疫による攻撃を抑えたりすることがある。

免疫機能からの逃避も重要な問題である。本来、免疫細胞は異常な細胞を認識して排除する働きを持つが、がん細胞は免疫細胞の働きを弱める分子を利用したり、免疫細胞が入り込みにくい環境を形成したりして、生存に有利な状態を作り出す。

このように、再発・転移は、がん細胞そのものの性質だけでなく、周囲の組織や免疫系との相互作用によって成立する。2026年10月に発表された転移研究の総説でも、転移は単一の現象ではなく、浸潤、血管内への侵入、循環中の生存、転移先への定着といった各段階に異なる障壁が存在する過程として整理されている。

つまり、がんの再発や転移を防ぐには、原発巣を攻撃するだけでは不十分である。がん細胞が生き残る仕組み、転移先で増殖する仕組み、免疫から逃れる仕組みをそれぞれ理解し、複数の段階に対して治療を組み立てる必要がある。

微小残存病変(MRD)

がんの再発を防ぐうえで、近年、特に重要視されている概念が微小残存病変(MRD)である。これは、手術や薬物療法、放射線治療などを実施した後、画像検査や通常の検査では確認できないほど少量のがん細胞が体内に残っている状態を指す。

例えば、手術によって腫瘍を完全に切除したように見えても、血液やリンパ液、周辺組織、骨髄などに微量のがん細胞が残っている可能性がある。こうした細胞が長期間にわたって休眠状態を維持した後、再び増殖を始めると、数年後の再発につながることがある。

MRDが問題となる理由は、現在の標準的な画像診断には検出限界があるためだ。コンピューター断層撮影や磁気共鳴画像法、陽電子放射断層撮影などは、一定以上の大きさや活動性を持つ腫瘍を発見するには有効だが、単独のがん細胞や極めて小さな細胞集団を確実に見つけることはできない。

この課題に対する有力な技術として注目されているのが、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)の解析である。がん細胞は死滅したり、細胞の内容物を放出したりする過程で、腫瘍に由来するDNA断片を血液中に放出することがあるため、採血によってこれらを検出し、体内に残るがんの存在を推定する。

この検査は、一般にリキッドバイオプシーと呼ばれる技術の一種である。従来の組織生検では、腫瘍の一部を採取するため、身体への負担や採取部位の制約があるが、血液検査であれば繰り返し実施しやすく、治療後の経過を継続的に観察できる利点がある。

特に大腸がんでは、手術後のMRD評価に関する研究が進んでいる。血中の腫瘍由来DNAが陽性となった患者は、陰性の患者と比べて再発リスクが高い傾向が確認されており、従来の病理学的な病期分類だけでは把握しにくかった再発リスクを評価する手段として期待されている。

また、乳がん、肺がん、膵臓がんなどでも、血中腫瘍由来DNAを利用した再発予測や治療効果の判定に関する研究が進められている。治療中に血中の腫瘍由来DNAが減少するか、治療終了後に再び増加するかを追跡することで、画像検査より早い段階で病状の変化を捉えられる可能性がある。

ただし、MRD検査は万能ではない。腫瘍の大きさが極めて小さい場合や、血液中にDNAを放出しにくい種類のがんでは、実際にがん細胞が残っていても検査が陰性になることがある。

さらに、血液中のDNAには、がん以外の細胞に由来する遺伝子変異が含まれる場合もある。加齢に伴って血液細胞に遺伝子変異を持つ細胞が増える現象は、クローン性造血と呼ばれ、検査結果の解釈を複雑にする要因となっている。

もう1つの重要な課題は、MRD陽性という結果が得られた場合に、どの治療を追加すれば生存期間を延ばせるのかという点である。再発リスクを高精度に予測できることと、その情報を利用して治療成績を改善できることは別問題であり、検査に基づく治療変更の有効性を検証する臨床試験が必要となる。

したがって、2026年時点では、MRD検査は再発予測や治療研究における重要な技術として発展している一方、すべてのがんに対して標準的な治療判断に利用できる段階には達していない。今後は、検査精度の向上に加え、陽性・陰性の結果に応じた治療戦略を確立することが重要となる。

がんの多様性(ヘテロゲナイティ)

がん克服を難しくしている根本的な問題の1つが、がん細胞の多様性である。医学的には腫瘍内不均一性、あるいは腫瘍間不均一性などと呼ばれ、同じ患者の同じがんであっても、細胞ごとに遺伝子変異、増殖速度、代謝、薬剤への反応性などが異なる現象を指す。

この多様性には、大きく分けて2つの側面がある。1つは同じ腫瘍の内部に異なる性質のがん細胞が混在する腫瘍内不均一性であり、もう1つは原発巣と転移巣、あるいは異なる患者の腫瘍間で性質が異なる腫瘍間不均一性である。

例えば、ある患者の肺がんに特定の遺伝子変異が存在し、その変異を標的とする薬剤が高い効果を示したとする。しかし、同じ腫瘍内に別の遺伝子異常を持つ細胞集団が存在すれば、その集団は標的薬の攻撃を受けにくく、生き残る可能性がある。

治療によって薬剤に弱い細胞が減少すると、残った細胞が増殖し、腫瘍全体の性質が変化する。治療開始時には有効だった薬剤が、再発時にはほとんど効かなくなる現象の背景には、このような細胞集団の選択と進化が関係している。

この過程は、がんの進化として理解できる。がん細胞は遺伝子変異や染色体の変化などを蓄積しながら増殖し、環境の変化に適応できる細胞が生き残りやすくなる。

さらに、腫瘍内の細胞は遺伝子だけでなく、遺伝子の働きを調節する仕組みも異なる。DNAの塩基配列そのものを変えずに遺伝子の発現を変化させるエピジェネティックな変化によって、薬剤に対する感受性や細胞の性質が変わることもある。

近年は、単一細胞解析や空間解析などの技術が進歩し、腫瘍内部にどのような細胞集団が存在し、それらがどのような位置関係にあるのかを詳しく調べられるようになってきた。従来の組織検査では平均化されて見えにくかった少数の耐性細胞や、免疫細胞との相互作用も分析対象となっている。

特に注目されるのが、がん幹細胞と呼ばれる性質を持つ細胞集団である。これらは自己複製能力や腫瘍を再形成する能力を持つとされ、一部のがんでは治療後の再発や薬剤抵抗性に関係すると考えられている。

ただし、がん幹細胞はすべてのがんに共通する単一の細胞集団ではなく、その定義や役割はがんの種類や研究手法によって異なる。また、通常のがん細胞が環境の変化によって幹細胞に似た性質を獲得する可能性も指摘されており、単純に特定の細胞だけを除去すれば再発を防げるというものではない。

転移巣における多様性も深刻な問題である。原発巣から移動したがん細胞は、転移先の臓器の環境に適応する過程で性質を変えることがあり、原発巣の検査結果だけでは転移巣の薬剤感受性を正確に予測できない場合がある。

このため、今後のがん医療では、最初の診断時に一度だけ遺伝子検査を実施するのではなく、治療経過や再発時の腫瘍の変化を継続的に把握することが重要になる。がんを固定された病気として扱うのではなく、治療によって性質が変化する動的な病気として理解する必要がある。

難治性がん特有の障壁

難治性がんは、単に進行が速い、あるいは抗がん剤が効きにくいという理由だけで分類されるものではない。がんの発生部位、組織構造、遺伝子異常、免疫環境、発見時の進行度などが複雑に関係し、それぞれ異なる治療上の障壁を形成している。

膵臓がん:発見の遅れと薬剤が届きにくい組織構造

膵臓がんの最大の問題は、早期発見が難しく、診断時に進行している症例が多いことだ。初期には症状が乏しく、腹痛、背部痛、黄疸、体重減少などが現れた段階では、すでに周囲の血管や神経への浸潤、遠隔転移が生じている場合がある。

また、膵臓がんでは腫瘍周辺に線維性の組織が多く形成される傾向があり、薬剤の到達や免疫細胞の侵入を妨げることがある。こうした腫瘍微小環境の特徴に加え、遺伝子変異の多様性や免疫抑制も治療を難しくする要因である。

膵臓がんでは、KRAS遺伝子の変異が高頻度に認められる。これまで直接標的とすることが困難だった変異型KRASに対する薬剤開発は進んでいるが、対象となる遺伝子変異の種類が限られ、耐性の獲得も問題となるため、すべての患者に有効な治療には至っていない。

胆道がん:発見の難しさと治療標的の多様性

胆道がんには、肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆嚢がんなどが含まれる。初期には特徴的な症状が出にくい場合があり、黄疸などが現れた段階では進行していることも少なくない。

胆道がんは遺伝子異常の種類が多様であり、特定の患者ではFGFR2融合遺伝子やIDH1遺伝子変異など、治療標的となる異常が見つかることがある。こうした異常に対応する分子標的薬は治療選択肢を広げているが、対象患者は限定され、薬剤耐性や再発への対応も必要となる。

膠芽腫:脳という特殊な環境

膠芽腫は成人に発生する代表的な悪性脳腫瘍であり、周囲の正常な脳組織に浸潤する性質が強い。手術で腫瘍の大部分を切除しても、周辺に広がったがん細胞を完全に取り除くことは難しく、放射線治療や薬物療法を組み合わせても再発率が高い。

さらに、血液脳関門によって多くの薬剤が脳組織に十分に到達しないという問題がある。腫瘍内部では血液脳関門が部分的に破壊されている場合もあるが、浸潤したがん細胞が存在する周辺領域では薬剤の到達が不十分となる可能性がある。

免疫療法についても、脳腫瘍特有の免疫抑制環境や腫瘍の多様性などが障壁となる。免疫チェックポイント阻害薬は複数のがんで有効性を示しているものの、膠芽腫では一般的な治療としての有効性が確立されていない。

小細胞肺がん:初期反応と早期再発の問題

小細胞肺がんは、増殖速度が速く、診断時に広範囲へ転移していることが多い。化学療法や放射線治療に対して初期反応を示す患者もいるが、治療後に再発しやすく、再発時には薬剤への抵抗性を獲得していることがある。

近年は免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用によって治療成績が改善しているが、その効果は患者によって異なる。再発後の治療選択肢も限られる場合があり、耐性を獲得する仕組みの解明が重要な研究課題となっている。

このように、難治性がんには共通する問題と、個別のがんに特有の問題がある。したがって、すべてのがんに同じ治療法を適用するのではなく、発生部位、遺伝子異常、腫瘍微小環境、患者の状態に応じて治療を組み立てることが不可欠である。

難治性がんの克服には、腫瘍を縮小させる薬剤の開発だけでは足りない。早期発見、転移の抑制、微小残存病変の検出、耐性細胞の排除、免疫環境の改善を一体的に進める必要がある。

今回取り上げた3つの問題は、難治性がんを克服するために避けて通れない課題である。

第一に、MRDは、画像検査で腫瘍が消失したように見えても、体内にがん細胞が残っている可能性を示している。血中腫瘍由来DNAなどの技術は、再発を早期に予測する可能性を持つが、検査結果を実際の治療改善につなげるための臨床的検証が必要である。

第二に、がんの多様性は、同じ腫瘍の中に異なる性質の細胞が存在し、治療によってその構成が変化することを意味する。治療に弱い細胞だけを攻撃しても、耐性を持つ細胞が生き残れば、やがて再発につながる可能性がある。

第三に、難治性がんは、それぞれ異なる生物学的・解剖学的な障壁を持つ。膵臓がんの線維性間質、胆道がんの遺伝子異常の多様性、膠芽腫の血液脳関門、小細胞肺がんの早期耐性など、個別の問題に対応する必要がある。

がんを克服するためには、目に見える腫瘍を縮小させる段階から、体内に残る可能性のあるがん細胞を把握し、再発や転移を未然に防ぐ段階へと医療の重点を移していくことが重要となる。

知っておくべき現代のがん医療の潮流

2026年のがん医療は、従来のように腫瘍を手術で取り除く、抗がん剤で縮小させる、放射線で破壊するといった治療だけに依存する段階から、がん細胞の遺伝子異常、免疫機能、腫瘍周辺の環境、治療に対する耐性などを総合的に分析する段階へ移行している。

この変化の中心にあるのが、個別化医療、免疫療法、次世代の分子標的薬、細胞療法、抗体を利用した薬剤開発などである。これらは単独で使用されるだけでなく、複数の治療法を組み合わせることで、従来の治療では十分な効果が得られなかった患者にも新たな選択肢を提供しつつある。

特に重要なのは、がんを単に発生臓器で分類するのではなく、がん細胞が持つ分子レベルの特徴によって分類する考え方が広がっていることだ。同じ肺がんでも遺伝子異常によって有効な薬剤が異なり、異なる臓器に発生したがんであっても、共通する遺伝子異常があれば同じ標的薬が有効となる場合がある。

また、治療の目的も変化している。従来は腫瘍の縮小や消失が主な評価対象だったが、現在は再発までの期間、生存期間、治療後の生活の質、長期的な副作用、社会復帰の可能性なども重要な評価項目となっている。

さらに、人工知能を活用した画像診断、病理診断、遺伝子解析、創薬研究などが進み、膨大な医学情報から治療方針を検討する環境が整いつつある。こうした技術は医師の判断を代替するものではないが、診断の精度向上や治療候補の絞り込みを支援する可能性を持つ。

ただし、新しい技術が登場したからといって、すべての患者の生存率が直ちに改善するわけではない。臨床試験による有効性と安全性の検証、治療対象となる患者の選定、長期的な耐性への対応、医療費や提供体制の整備が必要となる。

がんゲノム医療(プレシジョン・メディシン)

がんゲノム医療は、がん細胞の遺伝子情報を解析し、その患者に適した治療薬や治療方法を選択する医療である。一般に精密医療、あるいは個別化医療とも呼ばれ、従来の臓器別治療を補完する重要な戦略となっている。

従来のがん治療では、肺がん、大腸がん、乳がんなど、発生した臓器や組織の種類に基づいて治療方針を決定することが基本だった。しかし、同じ臓器に発生したがんでも、細胞の増殖を促す遺伝子異常や細胞内の信号伝達経路は異なる。

例えば、肺がんでは上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異や、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子の融合などが見つかることがある。こうした異常を持つ患者には、それぞれの分子を標的とする薬剤が使用され、従来の細胞障害性抗がん剤とは異なる治療効果が期待できる。

大腸がんでは、KRASやNRASなどの遺伝子変異が治療薬の選択に関係する。これらの遺伝子に特定の変異がある場合、上皮成長因子受容体を標的とする薬剤の効果が得られにくいことが知られており、治療開始前の遺伝子検査が重要となる。

乳がんでは、ホルモン受容体やヒト上皮成長因子受容体2型(HER2)の発現状態などが治療方針を左右する。HER2陽性乳がんでは、HER2を標的とする抗体医薬品や抗体薬物複合体などが治療成績を改善してきた。

さらに、臓器を問わず特定の遺伝子異常を持つがんを対象とする治療も登場している。代表例として、NTRK遺伝子融合を持つ固形がんに対する標的薬や、特定のDNA修復機能の異常を持つがんに対する治療が挙げられる。

このような治療は、がんの発生臓器ではなく、遺伝子異常を基準に薬剤を選択する点に特徴がある。ただし、特定の遺伝子異常が見つかったからといって、必ず薬剤が効くわけではなく、がんの組織型、変異の種類、併存する異常、薬剤の到達性なども考慮する必要がある。

がん遺伝子パネル検査の役割

がんゲノム医療を支える重要な技術が、がん遺伝子パネル検査である。これは、腫瘍組織や血液からDNAなどを採取し、複数の遺伝子を一度に解析して、治療に関連する遺伝子異常を調べる検査である。

従来は、疑われる遺伝子異常を1つずつ調べる検査が中心だったが、遺伝子パネル検査では数十から数百の遺伝子を同時に調べられる。これにより、予想していなかった治療標的が見つかる可能性が広がった。

日本では、がんゲノム医療中核拠点病院などを中心に、遺伝子パネル検査と専門家による治療方針の検討が行われている。検査結果は、複数の専門家が参加するエキスパートパネルで検討され、標準治療や臨床試験、薬剤へのアクセス可能性などを踏まえて患者に適した選択肢が検討される。

ただし、検査で遺伝子異常が見つかっても、国内で承認された薬剤が存在しない場合や、臨床試験への参加が難しい場合もある。遺伝子異常が判明した患者のすべてが、実際にその異常を標的とする治療を受けられるわけではない。

また、がんゲノム医療には検査費用、検体の品質、解析に必要な時間、遺伝子情報の解釈などの問題がある。特に、治療が急がれる患者では、検査結果が出るまでの時間が治療選択に影響する可能性もある。

がんゲノム医療の限界と今後の課題

がんゲノム医療の最大の限界は、遺伝子異常を発見することと、その異常を利用してがんを根治することの間に大きな隔たりがある点だ。標的薬によって腫瘍が縮小しても、標的分子の構造変化や別の信号伝達経路の活性化などによって、がん細胞が薬剤への耐性を獲得することがある。

また、同じ患者の腫瘍内でも遺伝子異常が均一とは限らない。検査で採取した組織には特定の変異が認められても、別の部位に存在する腫瘍や微小な転移巣では異なる遺伝子異常を持つ細胞が優勢になっている場合がある。

この問題に対応するため、血液を利用するリキッドバイオプシーや、複数の部位から得られた情報を組み合わせる解析技術が研究されている。今後は、がんの遺伝子情報を一度だけ調べるのではなく、治療経過に応じて継続的に分析し、変化する腫瘍の性質に合わせて治療を調整することが重要になる。

次世代の免疫療法

がん免疫療法は、患者自身が持つ免疫機能を利用して、がん細胞を攻撃する治療法である。従来の抗がん剤が主として細胞の増殖や分裂を妨げるのに対し、免疫療法は免疫細胞によるがんの認識と排除を促す点に特徴がある。

免疫療法の発展を大きく変えたのが、免疫チェックポイント阻害薬である。がん細胞は、免疫細胞の攻撃を抑制する仕組みを利用して体内で生き延びることがあるが、この抑制機構を解除することで、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようにする。

代表的なものとして、PD-1、PD-L1、CTLA-4を標的とする薬剤がある。これらは悪性黒色腫、肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、頭頸部がんなど複数のがんで使用され、従来の治療では長期生存が難しかった患者の一部で、持続的な治療効果をもたらしている。

一方、免疫チェックポイント阻害薬がすべての患者に効くわけではない。腫瘍内に免疫細胞が少ない場合、がん細胞が免疫から認識されにくい場合、免疫抑制性の細胞が多い場合などには、十分な効果が得られないことがある。

また、免疫機能を活性化することによって、正常な臓器や組織に免疫反応が及ぶ免疫関連有害事象が発生する可能性がある。大腸炎、肺炎、肝炎、甲状腺機能異常、心筋炎などが知られており、重症化すれば治療の中断や免疫抑制治療が必要となる。

こうした限界を克服するため、次世代の免疫療法では、免疫細胞そのものを改変する方法、複数の免疫機構を同時に活性化する方法、がん細胞を免疫系に認識させる方法などが研究されている。

CAR-T細胞療法:免疫細胞を改造してがんを攻撃する

CAR-T細胞療法は、患者の血液からT細胞を取り出し、がん細胞の表面に存在する特定の分子を認識する受容体を遺伝子改変によって導入した後、体内に戻す治療法である。患者自身の免疫細胞を利用するため、個別化された細胞療法の代表例とされる。

特に血液がんでは大きな成果を上げている。急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの一部では、従来の治療で再発した患者や治療抵抗性となった患者に対して、深い寛解をもたらす場合がある。

一方、固形がんに対するCAR-T細胞療法は、血液がんほどの成果を上げていない。固形がんでは、標的となる分子が正常組織にも存在する場合があり、正常細胞への攻撃を避けることが難しいからである。

さらに、固形腫瘍内部には免疫細胞の侵入を妨げる環境が存在し、がん細胞に到達したT細胞も、免疫抑制や代謝環境の影響によって十分に働けなくなることがある。腫瘍内の多様性によって標的分子を持たないがん細胞が残ることも、治療効果を制限する。

このため、複数の標的を同時に認識する細胞の開発、免疫抑制環境への耐性を高めた細胞の設計、体内での増殖や持続性を改善する研究などが進められている。将来的には、固形がんに対する細胞療法の適用範囲が広がる可能性があるが、現時点では研究段階のものも多い。

二重特異性抗体:がん細胞と免疫細胞を結びつける

二重特異性抗体は、2種類の異なる分子を同時に認識するよう設計された抗体医薬品である。がん細胞の表面にある分子と、T細胞などの免疫細胞が持つ分子を同時に結合させることで、免疫細胞をがん細胞の近くに誘導し、攻撃を促す仕組みを持つ。

代表的なものに、T細胞表面のCD3とがん細胞表面の標的分子を結びつける薬剤がある。多発性骨髄腫では、BCMAなどを標的とする二重特異性抗体が実用化され、複数の治療を受けた後に再発した患者にも新たな治療選択肢を提供している。

2026年には、再発・難治性の多発性骨髄腫に対する新しい二重特異性抗体も米国で承認されるなど、免疫細胞を直接がん細胞へ誘導する治療の実用化が進んでいる。

ただし、免疫細胞の過剰な活性化によってサイトカイン放出症候群が起こることがあり、発熱、血圧低下、呼吸状態の悪化などに注意が必要となる。神経毒性などの重い副作用も発生し得るため、適切な投与管理と専門的な対応が欠かせない。

腫瘍浸潤リンパ球療法:腫瘍の中に存在する免疫細胞を活用する

腫瘍浸潤リンパ球療法は、患者の腫瘍組織からがんを認識しているリンパ球を取り出し、体外で増殖させてから患者に戻す治療法である。腫瘍の内部に実際に入り込んでいる免疫細胞を利用するため、患者のがんを認識する能力を持つ細胞を選択的に増やせる可能性がある。

特に悪性黒色腫では研究と臨床応用が進んでおり、従来の治療で十分な効果が得られなかった患者に対して、腫瘍縮小や持続的な反応が確認されている。米国では2024年に、進行した悪性黒色腫を対象とする腫瘍浸潤リンパ球療法が承認され、細胞療法の新たな選択肢となった。

一方、腫瘍組織の採取、細胞の選別と培養、患者の前処置、細胞の再投与などが必要となるため、治療工程が複雑である。大量の細胞を製造する設備や専門スタッフも必要となり、幅広い医療機関で実施するには課題が残る。

がんワクチン:免疫にがんの特徴を学習させる

がんワクチンは、免疫系にがん細胞特有の目印を認識させ、がん細胞への攻撃を促すことを目的とする治療法である。感染症を予防するワクチンとは異なり、すでに存在するがんに対する免疫反応を誘導する治療用ワクチンと、将来の発がんリスクを低下させる予防ワクチンを区別する必要がある。

治療用ワクチンの有望な研究分野として、患者ごとの腫瘍の遺伝子情報から個別の目印を選び、それを利用して免疫反応を誘導する個別化ワクチンがある。特に、がん細胞に特有の遺伝子変異から生じる新しい抗原を利用する方法は、正常細胞への攻撃を抑えながらがん細胞を認識させる可能性を持つ。

近年は、メッセンジャーRNAを利用した個別化がんワクチンの臨床試験が進んでいる。悪性黒色腫などでは、免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせることで再発リスクを低下させる可能性が報告されており、複数のがん種への応用が研究されている。

ただし、個別化ワクチンは患者ごとに設計・製造する必要があり、製造期間、費用、品質管理が課題となる。また、免疫機能が低下した患者や、免疫抑制性の腫瘍環境を持つ患者では、十分な効果が得られない可能性がある。

このほか、腫瘍内の免疫抑制細胞を制御する治療、自然免疫を活性化する治療、免疫チェックポイント阻害薬と放射線治療や分子標的薬を組み合わせる治療なども研究されている。次世代の免疫療法は、単一の薬剤でがんを排除するという発想から、免疫系全体を調整し、がん細胞が逃げられない環境を作る方向へ進んでいる。

新世代の薬剤開発

がん治療薬の開発では、従来の抗がん剤のように増殖の速い細胞を広く攻撃する方法から、がん細胞の特定の分子や生物学的な弱点を狙い撃ちする方法へと研究の重点が移っている。

特に注目されるのが、抗体薬物複合体、タンパク質分解誘導薬、放射性医薬品、新世代の遺伝子標的薬、RNAを利用する治療薬などである。これらは、がん細胞への攻撃精度を高めるとともに、従来の薬剤が効きにくかったがんに新しい治療機会を提供する可能性を持つ。

抗体薬物複合体:がん細胞に薬剤を運ぶ

抗体薬物複合体は、がん細胞の表面に存在する特定の分子を認識する抗体に、強力な抗がん作用を持つ薬剤を結合させた治療薬である。抗体が標的となるがん細胞に結合すると、薬剤が細胞内に取り込まれ、内部で放出された抗がん成分が細胞を攻撃する。

従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞にも作用するため、脱毛、吐き気、骨髄抑制などの副作用が問題となってきた。抗体薬物複合体は、抗体による標的認識を利用することで、薬剤をがん細胞に集中的に届けることを目指している。

乳がん、胃がん、肺がん、リンパ腫などで実用化が進み、特にHER2を標的とする薬剤は、従来の治療に抵抗性を示した患者の治療成績を改善してきた。標的分子の発現量が比較的少ないがん細胞にも作用する薬剤が開発され、適用範囲が広がっている。

ただし、抗体薬物複合体も正常細胞への影響を完全に避けられるわけではない。薬剤の種類によっては間質性肺疾患、骨髄抑制、肝機能障害などの副作用が生じるため、効果と安全性の両面から慎重な管理が必要である。

タンパク質分解誘導薬:がんを促進するタンパク質そのものを除去する

従来の分子標的薬の多くは、がん細胞の増殖に関係するタンパク質の働きを阻害する仕組みを持つ。しかし、タンパク質の構造によっては薬剤が結合しにくく、従来の方法では十分に標的化できないものがある。

この問題を克服する技術として注目されているのが、タンパク質分解誘導薬である。これは、細胞内に存在するタンパク質分解機構を利用して、がんの増殖に関係する特定のタンパク質を分解・除去する仕組みを持つ。

代表的な技術が、標的タンパク質と細胞内の分解装置を近づけることで、不要なタンパク質を分解させる方法である。単にタンパク質の働きを止めるのではなく、タンパク質そのものを細胞内から減少させるという点に特徴がある。

2026年には、エストロゲン受容体陽性・HER2陰性の進行乳がんの一部を対象に、タンパク質分解誘導の仕組みを利用した薬剤が米国で承認された。これは、この技術が基礎研究から実際のがん治療へ移行し始めた重要な事例である。

今後は、従来の分子標的薬では対応が難しかったタンパク質を標的とする薬剤の開発が期待される。ただし、標的タンパク質を十分に分解できるか、正常細胞への影響をどこまで抑えられるか、長期的な安全性を確保できるかなど、解決すべき課題も多い。

新世代の遺伝子標的薬:難治性がんの弱点を狙う

遺伝子標的薬の開発では、従来は薬剤の標的にすることが困難だった分子への対応が進んでいる。代表的な研究対象がKRAS遺伝子であり、膵臓がん、大腸がん、肺がんなどの発生や進行に関係する重要な遺伝子である。

KRAS遺伝子に変異が生じると、細胞増殖を促す信号が異常に活性化し、がん細胞の増殖を支えることがある。従来、このタンパク質は薬剤の標的にすることが難しいと考えられていたが、特定の変異型を狙う薬剤の登場によって状況が変わり始めた。

さらに、2026年8月には、転移性膵臓腺がんを対象とする新しいRAS阻害薬が米国で承認された。これは、従来治療後の膵臓がんに対して新たな選択肢を提供するものであり、長年治療が難しかった膵臓がんの薬剤開発における重要な進展である。

もっとも、RASを標的とする薬剤にも耐性の問題がある。がん細胞が別の増殖経路を活性化したり、標的分子の性質を変化させたりすれば、薬剤の効果が弱まる可能性があるため、複数の分子を同時に標的とする併用療法などの研究が進められている。

放射性医薬品:がん細胞に放射線を届ける

放射性医薬品は、がん細胞の表面に存在する特定の分子を認識する物質に放射性同位元素を結合させ、腫瘍に放射線を届ける治療法である。外部から放射線を照射する従来の放射線治療とは異なり、薬剤が体内を移動して標的となる細胞に集積する仕組みを利用する。

代表的なものとして、前立腺がんに対する前立腺特異的膜抗原を標的とする放射性医薬品や、神経内分泌腫瘍に対する治療薬がある。がん細胞に集積した放射性物質から放出される放射線によって、標的細胞やその周辺の腫瘍細胞を破壊する。

この分野で重要なのが、診断と治療を一体化するセラノスティクスという考え方である。最初に画像診断用の薬剤を使って標的分子が腫瘍に存在することを確認し、その後、同じ標的を利用する治療用の放射性医薬品を投与することで、患者ごとに適した治療を選択する。

ただし、腫瘍への集積が不十分な場合や、正常臓器にも放射性物質が集まる場合には、治療効果が制限される。腎臓や骨髄などへの影響、放射性物質の製造・供給体制、専門施設の不足なども普及に向けた課題となっている。

RNA医薬品と遺伝子を利用した治療

RNAを利用する医薬品も、新しい薬剤開発の重要な分野である。メッセンジャーRNAを利用して免疫反応を誘導する方法や、特定の遺伝子の働きを抑制するRNAを細胞内に届ける方法などが研究されている。

個別化がんワクチンでは、患者の腫瘍の遺伝子情報を解析し、その患者に特有のがん抗原を選択して免疫反応を誘導する。従来の薬剤のようにすべての患者に同じ成分を使用するのではなく、患者ごとに治療内容を設計できる可能性がある。

また、遺伝子編集技術を利用して免疫細胞の機能を改変する研究も進んでいる。がん細胞を認識する能力を高めたり、免疫抑制環境に対する抵抗力を強化したりすることで、従来の免疫療法では十分な効果が得られなかった患者への応用が期待されている。

しかし、遺伝子やRNAを目的の細胞に正確に届ける技術、予期しない免疫反応、長期的な安全性、製造費用などの問題が残されている。現段階では、研究段階や臨床試験段階にある技術も多く、実用化には慎重な検証が必要である。

現代のがん医療は、がん細胞を直接攻撃するだけでなく、遺伝子、タンパク質、免疫細胞、腫瘍微小環境などを標的とする複合的な治療へと進化している。

がんゲノム医療は、患者ごとの遺伝子異常に応じた治療選択を可能にし、免疫療法は患者自身の免疫機能を利用してがんを攻撃する道を広げている。また、抗体薬物複合体、タンパク質分解誘導薬、放射性医薬品などは、従来の薬剤では十分に攻撃できなかったがん細胞への新しいアプローチとなっている。

2026年は、これらの技術が研究段階から実際の治療へ移行する動きが明確になった年でもある。米国では新しい分子標的薬、免疫療法、タンパク質分解誘導薬などの承認が相次ぎ、難治性がんに対する治療選択肢が拡大している。

一方、治療効果は患者によって異なり、薬剤耐性、再発、転移、副作用、費用などの問題は残されている。新しい治療法の登場だけでがんを克服できるわけではなく、それらを適切に組み合わせ、患者ごとの病状に応じて使い分ける医療体制が必要となる。

現在直面している主要な課題

がん医療は、遺伝子解析、免疫療法、分子標的薬、細胞療法などの発展によって大きく進歩している。しかし、治療技術が高度化する一方で、がんを完全に克服するためには解決しなければならない問題が数多く残されている。

その中心にあるのが、治療を続けても生き残るがん細胞、再発・転移、薬剤耐性、早期発見の限界、治療へのアクセスの不平等、医療費の高額化である。これらは互いに独立した問題ではなく、複雑に関連しながら、がん患者の治療成績や生存期間、生活の質に影響を及ぼしている。

特に重要なのは、薬剤の有効性が確認されても、それがすべての患者に適用できるわけではないという現実だ。遺伝子異常が治療標的と一致しない患者、全身状態が悪く強い治療を受けられない患者、薬剤が承認されていても経済的・地理的な理由で利用できない患者など、治療技術の進歩だけでは解決できない問題が存在する。

また、臨床試験で優れた結果が示された治療法であっても、実際の医療現場で同じ効果が得られるとは限らない。臨床試験の参加者は、年齢、臓器機能、合併症、全身状態などについて一定の条件を満たしていることが多く、一般の患者集団とは背景が異なる場合がある。

さらに、がん治療の成功をどのように評価するかという問題もある。腫瘍が縮小しても生存期間が延びない場合や、生存期間が延びても重い副作用によって生活の質が大きく低下する場合があるため、単純な腫瘍縮小率だけでは治療の価値を判断できない。

今後のがん医療では、治療効果、安全性、長期生存、再発予防、患者の生活の質、医療経済性を総合的に評価する必要がある。科学技術の進歩を実際の患者の利益につなげるためには、医学的な研究と同時に、医療制度や社会的な支援体制の改善が欠かせない。

治療抵抗性と耐性獲得

がん治療における最大の問題の1つが、治療抵抗性である。これは、がん細胞が薬剤や放射線、免疫療法などの攻撃に対して生き残る性質を持つことを指し、治療開始時から存在する場合と、治療の過程で新たに獲得される場合がある。

治療開始時から薬剤が効きにくい状態は一次耐性、治療によって一度は効果が得られた後に薬剤が効かなくなる状態は獲得耐性と呼ばれる。この2つは異なる仕組みで生じる場合があり、治療方針を検討するうえでも区別する必要がある。

遺伝子変異による耐性

がん細胞は増殖と分裂を繰り返す過程で遺伝子変異を蓄積する。その中には、治療薬が標的とする分子の構造を変化させたり、薬剤の作用を回避する信号伝達経路を活性化したりするものがある。

例えば、特定の遺伝子異常を持つ肺がんでは、当初は分子標的薬が高い効果を示しても、治療の継続によって別の遺伝子変異が生じ、薬剤が効かなくなることがある。こうした変化を検出するため、再生検や血液を利用した遺伝子解析が重要になっている。

また、標的分子そのものが減少したり、別の分子に置き換わったりすることで、薬剤の攻撃を回避するケースもある。がん細胞が複数の経路を利用して生存するため、1つの分子だけを阻害する治療には限界が生じる場合がある。

細胞の性質の変化による耐性

耐性は遺伝子変異だけで生じるわけではない。がん細胞が遺伝子発現の状態を変化させ、細胞の性質そのものを変えることで、薬剤に対する感受性を低下させる場合もある。

例えば、上皮系の性質を持つがん細胞が、間葉系に似た性質を獲得する上皮間葉転換は、細胞の移動や浸潤、転移、薬剤抵抗性などとの関連が研究されている。こうした変化によって、従来の治療が効きにくい細胞集団が形成される可能性がある。

また、がん細胞の中には、細胞分裂を一時的に停止し、薬剤の攻撃を回避する状態に入るものがある。この状態は薬剤耐性持続細胞などと関連づけて研究されており、治療終了後に再び増殖を始めることで再発につながる可能性がある。

腫瘍微小環境による耐性

がん細胞の周囲に存在する血管、線維芽細胞、免疫細胞、細胞外基質なども、治療抵抗性に関係している。腫瘍内部の血流が不十分な場合、薬剤が十分に届かず、低酸素状態や栄養不足などが生じることがある。

低酸素環境では、がん細胞が代謝や遺伝子発現を変化させ、治療に対する抵抗性を高める場合がある。また、免疫抑制性の細胞が腫瘍周辺に集まることで、免疫療法の効果が弱まることもある。

特に膵臓がんでは、線維性の間質が発達した腫瘍微小環境が薬剤の浸透や免疫細胞の侵入を妨げることがあり、薬剤耐性を理解するうえで重要な研究対象となっている。

免疫療法に対する抵抗性

免疫チェックポイント阻害薬は、一部の患者に長期的な治療効果をもたらしているが、治療開始時から効果が得られない患者や、最初は反応しても途中で再発する患者が存在する。

その理由として、がん細胞が免疫細胞に認識されるための抗原を失うこと、免疫細胞の働きを抑制する分子が増加すること、腫瘍内部に免疫細胞が入り込めなくなることなどが考えられている。

また、免疫細胞が長期間にわたってがんを攻撃することで、機能が低下した状態に陥ることもある。免疫細胞の疲弊と呼ばれるこの現象は、免疫療法の効果を制限する重要な研究課題である。

耐性を克服するための研究

耐性への対策として、複数の分子を同時に標的とする併用療法、薬剤の投与順序や投与間隔を調整する治療、免疫療法と分子標的薬を組み合わせる治療などが研究されている。

さらに、治療中に血中腫瘍由来DNAを継続的に解析し、耐性に関係する遺伝子変化を早期に検出する方法も注目されている。再発が画像検査で明確になる前に腫瘍の変化を捉えられれば、治療方針を変更する機会を早められる可能性がある。

ただし、併用療法は必ずしも単独療法より優れているとは限らない。副作用が増加したり、薬剤同士の相互作用によって治療継続が難しくなったりする場合もあるため、適切な患者選択と臨床試験による検証が不可欠である。

耐性を完全に防ぐことは、現在の医学では極めて難しい。今後の重要な方向性は、耐性が生じる仕組みを事前に予測し、治療中の変化を継続的に監視しながら、がん細胞が生き残る余地を減らすことである。

アクセスと開発の格差

がん医療の進歩は世界中で均等に共有されているわけではない。先進国では遺伝子解析、免疫療法、細胞療法、放射性医薬品などの高度な治療が利用できる一方、低所得国や医療インフラが十分に整備されていない地域では、基本的な検診、病理診断、手術、放射線治療、抗がん剤の提供すら十分ではない場合がある。

世界保健機関(WHO)は、がんによる死亡の大部分が低・中所得国で発生していることを指摘している。これらの国々では、がんの発見が遅れやすいことに加え、専門医、診断装置、治療施設、医薬品の供給体制が不足しているため、治療可能な段階で発見されても適切な治療を受けられない患者が存在する。

特に問題となるのが、早期発見と治療開始の遅れである。検診制度が十分に整備されていない地域では、症状が現れてから初めて医療機関を受診する患者が多く、診断時には進行がんとなっていることがある。

また、病理診断や遺伝子検査を実施できる施設が限られている場合、がんの種類や遺伝子異常を正確に特定できず、適切な治療薬を選択できない可能性がある。高度な治療技術が存在していても、その前提となる診断能力が不足していれば、十分な恩恵を受けることはできない。

一方、高所得国でも地域による格差が存在する。都市部には高度ながん専門病院や臨床試験を実施する施設が集中する一方、地方や離島では専門医へのアクセスが限られ、診察や治療のために長距離の移動を必要とする患者もいる。

日本でも、がんゲノム医療や高度な細胞療法を実施できる医療機関には地域的な偏りがある。専門施設が都市部に集中すると、地方の患者は検査や治療を受けるために移動や宿泊を伴う負担を抱えることになる。

さらに、臨床試験への参加機会にも格差がある。新しい薬剤の有効性が期待されても、治験を実施する施設が近くにない、参加条件を満たさない、通院回数が多いなどの理由で、患者が参加を断念することがある。

医薬品開発にも国際的な格差がある。製薬企業は市場規模や研究開発費の回収可能性を考慮して開発対象を決めるため、患者数が少ない希少がんや、医療費を十分に負担できない地域で多く発生するがんでは、研究開発が進みにくい場合がある。

こうした問題を改善するには、検診制度や基礎的な医療インフラの整備に加え、診断技術の標準化、医療従事者の育成、国際的な研究協力、医薬品供給体制の強化が必要となる。高度な治療法を開発するだけでなく、それを必要とする患者が実際に利用できる環境を整えることが、がん克服に向けた重要な条件である。

経済的負担と高額化

新しいがん治療の登場は、患者にとって大きな希望となる一方、医療費の高額化という問題を生み出している。特に、遺伝子解析に基づく個別化医療、免疫療法、細胞療法、抗体薬物複合体、放射性医薬品などは、研究開発や製造、投与管理に多額の費用が必要となる。

従来の抗がん剤と比較して、新しい分子標的薬や免疫療法の価格が高く設定されることもあり、治療の長期化によって医療費が累積する場合もある。薬剤の効果が認められても、患者や家族にとって経済的な負担が大きくなる可能性がある。

高額な新薬と開発費用

新薬の価格には、基礎研究、臨床試験、製造設備、品質管理、承認申請後の安全性調査など、多くの費用が反映される。特に、患者ごとに細胞を加工するCAR-T細胞療法や、複雑な製造工程を必要とする個別化治療では、一般的な医薬品より製造・提供コストが高くなりやすい。

米国では、細胞療法や新しい抗がん剤の価格が非常に高額になるケースがあり、保険加入状況や医療制度によって患者の自己負担にも大きな差が生じる。日本では公的医療保険や高額療養費制度によって自己負担が一定程度抑制されるものの、医療費全体の増加は保険財政に影響を及ぼす。

また、薬剤の価格だけでなく、遺伝子検査、入院、通院、画像診断、副作用管理などの費用も必要となる。治療を受けるために仕事を休むことによる収入減少、交通費、宿泊費、家族の介護負担など、保険診療以外の経済的負担も無視できない。

日本の高額療養費制度と課題

日本には、患者の医療費負担を軽減する高額療養費制度がある。一定の条件の下で、1か月の医療費の自己負担額が所得に応じた上限を超えた場合、超過分が支給される仕組みであり、高額な抗がん剤や長期治療を必要とする患者の経済的な支えとなっている。

ただし、制度の対象外となる差額ベッド代、入院中の食事負担、交通費、宿泊費、先進医療の技術料などが発生する場合もある。また、治療が長期間続く患者では、自己負担が毎月積み重なることで家計に大きな影響が及ぶことがある。

さらに、高額な新薬が次々に保険適用されると、公的医療保険の支出が増加する。患者が必要な治療を受けられるようにすることと、制度を長期的に維持することを両立させなければならない。

医療経済性と治療効果の評価

高額な治療薬を保険診療に導入する際には、薬剤の価格だけでなく、どの程度の治療効果が得られるのかを評価する必要がある。腫瘍が縮小する割合、再発までの期間、生存期間、生活の質、副作用、治療後の医療費などを総合的に考慮することが重要だ。

医療技術の費用対効果を評価する方法として、費用対効果評価がある。日本でも、医薬品や医療機器の価格調整に活用されており、限られた医療資源をどのように配分するかという政策上の判断に関係している。

ただし、費用対効果だけで治療の価値を判断することには慎重でなければならない。希少がんや治療選択肢が限られた難治性がんでは、患者数が少ないことや治療効果の評価が難しいことから、一般的な基準だけでは医療上の価値を十分に捉えられない可能性がある。

今後は、薬剤の価格交渉、適応患者の適切な選定、治療効果に応じた支払い方式、後発医薬品やバイオ後続品の活用などを組み合わせる必要がある。新しい治療法を患者に届けながら、医療制度の持続可能性も確保するという両立が求められている。

今回取り上げた課題から明らかなのは、がん克服を妨げている要因が、医学や科学技術の限界だけではないということだ。

治療抵抗性と耐性獲得は、がん細胞が治療に適応し、生き残る能力を持つことに起因する。遺伝子変異、細胞の性質の変化、腫瘍微小環境、免疫機能の低下などが複雑に関係しており、単一の薬剤によって完全に解決することは難しい。

一方、医療へのアクセス格差は、治療技術が存在していても利用できない患者が世界中に存在することを示している。診断設備、専門医、医薬品、臨床試験への参加機会などの不足は、治療成績を左右する重大な社会的要因である。

さらに、新薬の高額化は、患者の経済的負担だけでなく、公的医療保険制度の持続可能性にも影響する。今後は、治療効果と費用のバランスを検証し、必要な患者が経済的理由によって治療を断念しない仕組みを構築する必要がある。

がん克服とは、優れた薬剤を開発することだけではない。科学技術の成果を公平に届け、治療を継続できる社会的・経済的な環境を整えることまで含めた総合的な課題なのである。

今後の展望:がん克服へ向けて

2026年のがん医療は、治療技術の高度化だけでなく、がんの発生を防ぎ、発症した場合には可能な限り早期に発見し、再発や転移を抑えながら長期生存を実現する方向へ進んでいる。今後のがん克服に向けた重要な戦略は、治療、予防、早期発見、再発監視、生活の質の維持を一体的に進めることである。

これまでのがん医療では、腫瘍が発見されてから治療を開始することが基本だった。しかし、微小残存病変やがん細胞の多様性に関する研究が進むにつれ、がんが画像検査で確認できるようになる前の段階から、発症や再発の可能性を評価することが重要になっている。

将来的には、遺伝的な発症リスク、生活習慣、環境要因、血液中の分子情報、免疫機能などを組み合わせ、患者ごとに適した予防・検診・治療計画を構築することが期待される。がんを発症してから対処する医療から、発症リスクを管理し、病気の進行を先回りして抑える医療への転換である。

ただし、すべてのがんを予防できるわけではなく、すべてのがんを超早期に発見できる技術が確立されているわけでもない。将来の技術に過度な期待を寄せるのではなく、現時点で有効性が確認されている予防策や検診を継続しながら、新しい技術を科学的に検証する姿勢が必要となる。

個別化予防と超早期発見

がん克服において、治療と同じくらい重要なのが予防である。がんの発症には、加齢、遺伝的要因、喫煙、飲酒、感染症、食生活、肥満、身体活動、紫外線、職業環境など、さまざまな要因が関係している。

国際がん研究機関などの研究では、世界のがんの相当部分が予防可能な危険因子と関連していると推計されている。喫煙対策、感染症予防、適切な食生活、身体活動の促進、過度の飲酒の抑制などは、現在でも重要な予防戦略である。

特に、たばこは肺がんだけでなく、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、膀胱がん、膵臓がんなど、複数のがんの発症リスクを高める。禁煙は、がん予防の中でも科学的根拠が強い対策の1つであり、個人の努力だけでなく、社会全体で喫煙率を低下させる政策が重要となる。

また、感染症に関連するがんも予防可能性が高い分野である。ヒトパピローマウイルスは子宮頸がんなどの発症に関係し、B型・C型肝炎ウイルスは肝がんのリスクを高める。ワクチン接種、感染検査、抗ウイルス治療などを組み合わせることで、これらに関連するがんの発症や死亡を減らせる可能性がある。

遺伝的リスクに応じた個別化予防

今後は、遺伝的な発症リスクに応じて検診の開始年齢や頻度を調整する個別化予防が重要になると考えられる。例えば、乳がんや卵巣がんの発症リスクに関係するBRCA1・BRCA2遺伝子に病的変異を持つ人では、一般集団とは異なるリスク管理が必要となる。

こうした人には、専門医による遺伝カウンセリング、画像検査を含む厳重な経過観察、状況に応じた予防的手術などが検討される。遺伝子情報を利用することで、発症する前からリスクを把握し、適切な予防策を選択できる可能性がある。

ただし、遺伝子変異が見つかったからといって、必ずがんを発症するわけではない。遺伝子情報だけで将来の発症を確実に予測することはできず、家族歴、年齢、生活習慣などを総合的に評価する必要がある。

血液検査による超早期発見

近年、特に注目されているのが、血液中に含まれる腫瘍由来DNAなどを検出する多種類のがんの早期発見検査である。がん細胞が血液中に放出する微量のDNA断片やタンパク質などを分析し、複数のがんの存在を推定する仕組みである。

従来のがん検診は、肺、大腸、胃、乳房、子宮頸部など、対象となる臓器ごとに検査方法が異なっていた。これに対して、多種類のがんを対象とする血液検査は、1回の採血で複数のがんの可能性を調べられるため、将来的な検診のあり方を変える可能性がある。

しかし、こうした検査には重大な課題もある。がんの種類によって血液中に放出される腫瘍由来DNAの量が異なり、早期がんでは検出感度が十分でない場合がある。

また、検査で陽性となっても実際にはがんが存在しない偽陽性や、検査結果が陰性でもがんが存在する偽陰性が問題となる。陽性判定後にどの臓器をどのような順序で詳しく調べるのか、検診によって最終的に死亡率が低下するのかという点も検証しなければならない。

さらに、発見された腫瘍が生涯にわたって症状を引き起こさない可能性がある過剰診断にも注意が必要である。検出技術が高精度になればなるほど、治療する必要性が低い病変まで発見し、不必要な検査や治療を増やす危険性がある。

したがって、多種類のがんを対象とする血液検査は、従来の科学的根拠が確立された検診を直ちに置き換えるものではない。今後は、対象年齢、検査間隔、陽性後の診断手順、死亡率への影響、費用対効果などを大規模な臨床研究で確認する必要がある。

人工知能によるリスク予測と診断支援

人工知能の活用も、がんの早期発見を変える可能性を持つ。画像検査、病理標本、遺伝子情報、電子診療記録などを解析し、医師が見落としやすい微細な異常を検出したり、発症リスクを予測したりする研究が進んでいる。

特に、画像診断では大量の検査データから病変の特徴を学習し、肺結節や乳房の異常などを検出する支援技術が実用化されつつある。将来的には、画像、血液検査、遺伝子情報を統合し、患者ごとの発症リスクや再発可能性をより精密に評価できるようになる可能性がある。

ただし、人工知能の予測精度は学習に用いたデータの質や対象集団に左右される。特定の年齢層や地域の患者に偏ったデータで開発された場合、別の集団では精度が低下する可能性があり、診断の最終判断は医療専門職による検証が必要となる。

「治療 × 科学技術」の融合

今後のがん医療を大きく変えると考えられるのが、医学と情報科学、生命工学、材料科学、放射線工学などの融合である。これまで個別に発展してきた技術を組み合わせることで、診断から治療、再発監視までを一体化する新しい医療が実現する可能性がある。

人工知能とビッグデータによる個別化医療

人工知能は、画像診断や病理診断だけでなく、遺伝子解析、薬剤選択、治療効果の予測、臨床試験の設計などにも活用され始めている。大量の患者データから人間では把握しにくい特徴や相関関係を抽出することで、患者ごとに異なる治療反応を予測することが期待される。

例えば、腫瘍の遺伝子情報、タンパク質の発現状態、免疫細胞の構成、画像検査の結果、過去の治療歴などを統合すれば、特定の薬剤が有効となる可能性や、重い副作用が発生するリスクを予測できる可能性がある。

さらに、人工知能を利用した創薬では、薬剤候補となる化合物の探索、タンパク質の構造解析、薬剤と標的分子の結合予測などが進められている。研究の初期段階で候補を絞り込めれば、開発期間や費用を削減できる可能性がある。

ただし、人工知能が提示する予測には誤りが含まれる可能性があり、学習データの偏りや情報不足によって判断が左右されることもある。医療現場で利用するには、独立したデータによる検証、個人情報の保護、判断過程の透明性、医師による最終的な確認が必要となる。

遺伝子編集と細胞工学

遺伝子編集技術は、がん細胞の弱点を理解するだけでなく、患者の免疫細胞そのものを改変する方向でも研究されている。特定の遺伝子を調整してがん細胞を認識する能力を高めたり、免疫抑制環境への抵抗力を強化したりすることが目指されている。

特に、遺伝子編集を利用した次世代のCAR-T細胞療法では、複数の遺伝子を改変することで、治療効果の持続性や安全性を改善する研究が進んでいる。患者本人の細胞を利用する方法だけでなく、健康な提供者の細胞を加工して複数の患者に利用する他家細胞療法も開発対象となっている。

他家細胞療法が実用化されれば、患者ごとに細胞を採取して製造する必要がなくなり、治療開始までの時間や製造費用を削減できる可能性がある。一方、患者の免疫系による拒絶反応や、移植片対宿主病などの問題を克服する必要がある。

ナノ医療と薬剤送達技術

ナノテクノロジーを利用した薬剤送達技術も、がん治療の新しい可能性として研究されている。薬剤を微細な粒子や特殊な材料に封入し、腫瘍組織に届けやすくすることで、正常組織への影響を抑えながら治療効果を高めることが目標である。

すでに脂質ナノ粒子などの技術は、核酸医薬品の送達に利用されている。今後は、腫瘍の酸性環境や特定の酵素に反応して薬剤を放出する仕組みなどを組み合わせ、腫瘍内部で選択的に作用する薬剤の開発が期待される。

ただし、ナノ粒子が体内でどのように分布し、どの臓器に蓄積し、最終的にどのように排出されるのかを十分に把握する必要がある。腫瘍への到達効率にも個人差があるため、基礎研究と臨床試験による慎重な検証が不可欠である。

診断と治療を一体化する医療

今後は、診断によって得られた情報を、そのまま治療選択に結びつける医療が重要になる。放射性医薬品を利用するセラノスティクスは、その代表的な例である。

まず診断用の薬剤によって腫瘍の標的分子の存在や分布を確認し、その結果を利用して治療用の薬剤を選択する。これにより、薬剤が届く可能性の高い患者を事前に選び、効果が期待しにくい治療を避けられる可能性がある。

同様に、血液検査による微小残存病変の評価、遺伝子解析、画像診断を組み合わせれば、治療の効果を継続的に確認し、必要に応じて治療方針を変更することも考えられる。将来のがん医療は、診断、治療、経過観察が独立した工程ではなく、相互に情報を交換する循環型の医療へと発展していく可能性がある。

QOL(生活の質)を重視したサバイバーシップ

がん医療の目的は、患者の生命を延ばすことだけではない。治療後も可能な限り自分らしい生活を送り、身体的・精神的・社会的な健康を維持できるようにすることも重要である。

この考え方を支えるのが、サバイバーシップである。がんと診断された時点から、治療中、治療終了後、再発や長期療養に至るまで、患者と家族が直面する問題を継続的に支援する考え方を指す。

従来のがん医療では、腫瘍の縮小や生存期間が治療の主要な評価項目だった。しかし、治療成績が改善し、長期生存する患者が増えるにつれて、治療後の生活や後遺症への対応が重要になっている。

治療後に残る身体的な問題

がん治療では、手術による臓器機能の変化、放射線治療による組織障害、薬物療法による神経障害や心機能への影響などが生じることがある。治療が終了しても、疲労、痛み、しびれ、運動機能の低下、ホルモン機能の変化などが長期間続く患者もいる。

例えば、乳がん治療後には、手術やリンパ節郭清などに関連して腕のむくみが生じるリンパ浮腫が問題となる場合がある。また、抗がん剤による末梢神経障害は、手足のしびれや痛み、細かな作業の困難などを引き起こすことがある。

こうした症状には、リハビリテーション、薬物療法、運動療法、栄養管理、専門的な相談支援などを組み合わせる必要がある。治療後の定期検査だけでなく、後遺症を早期に発見して対処する仕組みが重要である。

精神的な負担と再発への不安

がん患者は、診断時だけでなく、治療中や治療終了後にも強い精神的負担を抱えることがある。再発への不安、将来への恐怖、仕事や家庭生活への影響、経済的な心配などが長期間続く場合もある。

特に、治療が終了して定期的な通院だけになると、医療機関との接点が減少し、身体の小さな変化に対して過度に不安を感じる患者もいる。再発の可能性を適切に説明しながら、心理的な支援を継続することが重要となる。

必要に応じて、心理士、精神腫瘍科、看護師、医療ソーシャルワーカーなどが連携し、患者の不安や生活上の問題に対応する体制を整える必要がある。家族もまた介護や経済的な負担を抱えることがあり、患者本人だけでなく家族を含めた支援が求められる。

仕事、社会復帰、経済的な支援

がん治療は、患者の就労や社会参加にも大きな影響を及ぼす。治療のために休職や退職を余儀なくされたり、治療後も体力の低下や後遺症によって以前と同じ働き方が難しくなったりする場合がある。

日本では、がん患者の就労支援として、医療機関と企業、産業医、ハローワークなどが連携する取り組みが進められている。治療と仕事を両立するためには、勤務時間の調整、通院への配慮、職場復帰後の業務内容の変更などが必要になることがある。

また、患者が経済的な理由で治療を中断しないよう、高額療養費制度、傷病手当金、障害年金、各種相談窓口などを適切に利用できる環境も重要である。医療技術の進歩を患者の生活の改善につなげるには、医療制度と社会保障制度の連携が欠かせない。

長期生存を前提とした医療体制

今後は、がんを治療して終わりとするのではなく、長期的な健康管理の一部として捉える必要がある。再発監視に加えて、心血管疾患、骨粗しょう症、二次がん、内分泌障害など、治療後に生じる可能性のある問題にも対応しなければならない。

特に、小児がんや若年発症のがんでは、治療後に数十年にわたって生活する可能性があるため、成長、妊孕性、学業、就労、結婚、出産など、人生の各段階に応じた支援が必要になる。

がん克服の成果を本当に患者の利益につなげるためには、治療によって生存できる期間を延ばすだけでなく、その期間を健康で充実したものにすることが重要である。

今後の展望

今後10〜20年のがん医療では、いくつかの重要な技術革新が重なり、診断、治療、再発予防のあり方が大きく変わる可能性がある。ただし、すべてのがんが同じ速度で克服されるわけではなく、技術の成熟度や臨床的な有効性には大きな差が生じると考えられる。

短期的な展望:2026〜2030年

短期的には、がんゲノム医療の普及、血中腫瘍由来DNAによる再発監視、抗体薬物複合体、二重特異性抗体、細胞療法などの改良が重要になる。特に、治療抵抗性を獲得した患者に対して、再生検や血液検査によってがんの性質を再評価し、次の治療を選択する医療が発展すると考えられる。

また、微小残存病変の検査を利用して再発リスクの高い患者を特定し、必要な患者に追加治療を行う戦略も研究が進むだろう。国立がん研究センターは2026年9月、MRD検査を利用した新しい治療開発の枠組みを提唱しており、国際的な患者情報の統合によって臨床試験を効率化する構想が示されている。

中期的な展望:2030〜2035年

中期的には、複数の遺伝子情報、タンパク質情報、免疫状態、腫瘍微小環境を統合した個別化治療がさらに進展する可能性がある。単一の遺伝子変異を標的とする治療から、がん細胞の複数の弱点を同時に攻撃する治療へと発展することが期待される。

また、患者ごとに設計する個別化がんワクチンや、遺伝子編集によって機能を強化した免疫細胞なども、臨床試験の成果によっては適用範囲が広がる可能性がある。固形がんに対する細胞療法が進歩すれば、膵臓がん、肺がん、脳腫瘍など、従来の免疫療法では十分な効果が得られなかったがんにも新しい治療選択肢が生まれるかもしれない。

長期的な展望:2035年以降

長期的には、がんの発症前からリスクを評価し、血液検査や画像診断で早期に異常を捉え、発症した場合には患者ごとに最適な治療を選択する医療が理想となる。さらに、治療後も分子レベルの検査によって再発リスクを監視し、必要に応じて早期介入する仕組みが整えば、再発による死亡を減らせる可能性がある。

ただし、がんは単一の病気ではなく、多数の異なる疾患の集合体である。遺伝子異常、発生部位、細胞の性質、患者の年齢や免疫機能などが異なるため、1つの技術ですべてのがんを根絶することは現実的ではない。

したがって、将来の目標は、すべてのがんを一律に治すことではなく、がんの種類や患者の状態に応じて、予防、早期発見、根治治療、長期管理を最適化することにある。

がん克服の可能性をどう評価するか

がん克服という言葉には、いくつかの異なる意味が含まれている。完全にがん細胞を消滅させること、再発を防ぐこと、進行を長期間抑えること、がんと共存しながら通常の生活を送ることなどは、いずれも重要な成果である。

今後は、がんを完全に治癒できる患者を増やすことに加え、治癒が難しい患者でも長期生存を実現することが重要になる。慢性疾患のように定期的な治療や検査を続けながら、仕事や家庭生活を維持できる状態を目指すことも、現実的な克服の形といえる。

また、がんの種類によっては、早期発見と適切な治療によって高い治癒率が得られる一方、進行した段階で発見されると治療が難しくなる。したがって、難治性がんの治療薬を開発するだけでなく、早期発見と予防によって進行がんそのものを減らす取り組みも重要である。

2026年2月、WHOと国際がん研究機関は、世界の新規がん症例の約37%に当たる約710万件が、予防可能な危険因子と関連していたと発表した。これは、がん克服の可能性が高度な医療技術だけに依存しているのではなく、喫煙、感染症、飲酒、肥満、運動不足などへの対策によっても大きく左右されることを示している。

一方、2026年9月に公表された英国の大規模無作為化比較試験では、多種類のがんを検出する血液検査を通常の検診に追加しても、主要評価項目である進行がんの発生率を有意に低下させることは確認されなかった。この結果は、検査技術の精度が高いことと、実際にがん死亡を減らすことが同じではないという重要な教訓を示している。

がん医療の将来を評価する際には、研究成果や新薬の承認数だけで判断してはならない。最終的に患者の再発率、死亡率、生存期間、生活の質が改善したかどうかを確認することが必要である。

まとめ

がん医療は、手術、放射線治療、抗がん剤を中心とした時代から、遺伝子解析、免疫療法、分子標的薬、細胞療法、人工知能などを組み合わせる高度な個別化医療の時代へ移行している。これによって、一部の難治性がんでも治療成績が改善し、従来は治療が難しかった患者に新たな選択肢が生まれている。

しかし、がん克服を阻む根本的な問題は依然として残されている。

第一に、微小残存病変である。画像検査で腫瘍が消失しても、体内に微量のがん細胞が残っていれば再発する可能性があり、これを検出して根絶する方法の確立が必要である。

第二に、がん細胞の多様性である。同じ腫瘍内でも細胞の性質が異なり、治療によって耐性を持つ細胞が選択されるため、単一の薬剤では完全に排除できない場合がある。

第三に、転移と治療抵抗性である。がん細胞は血液やリンパ液を通じて別の臓器に広がり、免疫機能から逃れ、薬剤への耐性を獲得する。原発巣だけでなく、転移先や腫瘍周辺の環境まで考慮した治療が必要になる。

第四に、医療へのアクセスと経済的な問題である。画期的な薬剤が開発されても、価格、医療施設、専門医、地域格差などによって利用できない患者が存在する。科学技術の進歩を社会全体の利益に結びつける仕組みが不可欠である。

今後の突破口としては、微小残存病変の高精度な検出、がんゲノム医療の高度化、次世代免疫療法、抗体薬物複合体、タンパク質分解誘導薬、放射性医薬品、個別化がんワクチンなどが期待される。さらに、人工知能、遺伝子編集、ナノ医療などの技術が融合すれば、従来とは異なる治療戦略が実現する可能性がある。

一方、こうした技術を実際の患者の利益につなげるには、臨床試験による有効性と安全性の確認が必要である。研究段階の技術を過大評価せず、標準治療との比較、長期生存への影響、副作用、費用対効果を慎重に検証しなければならない。

最終的に目指すべきなのは、すべてのがんを一度に根絶することではない。予防できるがんを減らし、早期に発見できるがんを増やし、難治性がんの治療成績を改善し、再発した患者にも有効な治療を提供し、がんと共存する患者の生活の質を高めることである。

がん克服への道は、単一の画期的な新薬によって開かれるものではない。予防、早期発見、個別化治療、再発監視、耐性克服、社会的支援という複数の取り組みを積み重ねることで、初めて現実に近づくのである。


参考・引用リスト

世界のがん統計・予防

1. 国際がん研究機関(IARC)・米国がん協会(ACS)

  • Global Cancer Statistics 2024: GLOBOCAN Estimates of Incidence and Mortality Worldwide for 34 Cancers in 186 Countries(2026年7月)

  • 世界の新規患者数2,060万人、死亡者数980万人などの推計。

2. 世界保健機関(WHO)・国際がん研究機関(IARC)

  • Four in ten cancer cases could be prevented globally(2026年2月)

  • 世界の新規がん症例の約37%が予防可能な危険因子に関連するとの分析。

3. IARC・米国がん協会

  • Global Cancer Statistics 2022: GLOBOCAN Estimates of Incidence and Mortality Worldwide for 36 Cancers in 185 Countries(2024年)

  • 世界のがん発生状況と地域別の死亡状況に関する基礎資料。

がんゲノム医療・微小残存病変

4. 米国国立がん研究所(NCI)

  • Biomarker Testing for Cancer Treatment

  • がん遺伝子検査、バイオマーカー、個別化医療の解説。

5. 国立がん研究センター

  • リキッドバイオプシーを活用した新しいがん治療開発の枠組みを提唱(2026年9月15日)

  • MRDレジストリと新規治療開発に関する研究。

6. 米国国立がん研究所(NCI)

  • Targeted Therapy to Treat Cancer

  • 分子標的薬の仕組みと治療への応用。

免疫療法・細胞療法

7. 国立がん研究センター・がん情報サービス

  • 免疫療法

  • 免疫チェックポイント阻害薬の有効性と、科学的根拠が確立していない免疫療法との区別。

8. 米国国立がん研究所(NCI)

  • T-cell Transfer Therapy

  • CAR-T細胞療法、腫瘍浸潤リンパ球療法などの解説。

9. 米国国立がん研究所(NCI)

  • CAR T Cells: Engineering Immune Cells to Treat Cancer

  • 血液がんにおけるCAR-T細胞療法の臨床成果と課題。

超早期発見・血液検査

10. 米国国立がん研究所(NCI)

  • Cancer Screening Overview

  • 多種類のがんを対象とする血液検査の検証状況と課題。

11. 米国医療研究品質庁(AHRQ)

  • Blood-Based Tests for Multiple Cancer Screening: A Systematic Review(2025年)

  • 多種類のがんを対象とする血液検査の精度、利益、リスクに関する系統的レビュー。

12. Nature Medicine

  • Performance and Safety of a Multi-Cancer Early Detection Test: The PATHFINDER 2 Study(2026年9月22日)

  • 約3万2,000人を対象とした多種類がん早期発見検査の研究。

13. New England Journal of Medicine

  • Effect of Screening with Multicancer Early-Detection Test on Late-Stage Cancer Diagnosis(2026年9月22日)

  • 英国の大規模無作為化比較試験。主要評価項目である進行がん発生率の有意な低下は確認されなかった。

サバイバーシップ・生活の質

14. 米国国立がん研究所(NCI)

  • Follow-Up Medical Care

  • 治療終了後の定期検査、晩期合併症、心理的・社会的支援に関する解説。

15. 米国がん対策プログラム

  • Survivorship Recommendations(2025年更新)

  • 再発監視、身体的・精神的支援、就労、経済的問題などを含む包括的な生存者支援。

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