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ウェアラブル機器が切り開く医療の新時代と課題

近年のスマートウォッチは心拍数だけでなく、皮膚温、血中酸素飽和度、呼吸数、ストレス指標、心拍変動(HRV)、睡眠の質など数多くの生体データを24時間測定できる。
フィットネストラッカーのイメージ(Getty Images)

スマートウォッチやフィットネストラッカーが、単なる運動記録の道具から健康状態を把握する医療ツールへと進化している。ある女性は身に着けていたフィットネストラッカーが、本人が妊娠に気付く前から身体の変化を検知していたと説明するなど、ウェアラブル端末は医療や健康管理にプラスの効果をもたらす可能性がある。

この女性は日頃から運動や睡眠、心拍数などを記録するためフィットネストラッカーを装着していた。ある日、普段より安静時心拍数が高くなり、睡眠状態や身体の回復度を示す指標にも変化が現れた。当初は疲労や体調不良だと思っていたが、その後検査を受けた結果、妊娠が判明したという。端末が示していた身体データは、妊娠による生理学的変化を反映していた可能性が高かった。

妊娠初期にはホルモンバランスや血液循環が大きく変化する。胎児へ十分な血液を送るため循環血液量が増え、安静時心拍数は通常より毎分数回から十数回高くなることがある。また、体温や睡眠パターン、自律神経活動にも変化が生じるため、高性能なセンサーを搭載したウェアラブル機器は、こうした微細な変化を連続的に捉えることができる。

近年のスマートウォッチは心拍数だけでなく、皮膚温、血中酸素飽和度、呼吸数、ストレス指標、心拍変動(HRV)、睡眠の質など数多くの生体データを24時間測定できる。これらのデータをAIが解析することで、感染症、疲労、睡眠不足、生理周期、さらには妊娠の可能性まで推測できるケースが増えている。

実際、研究ではウェアラブル端末が新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染兆候を発症前に検知できる可能性も報告されている。心拍数や皮膚温の変化は症状が現れる前から始まることがあり、利用者本人が異変を感じるより先にデバイスが警告を発する場合もある。このため、医療分野では「デジタルバイオマーカー」として活用する研究が急速に進んでいる。

一方で、専門家は現時点のウェアラブル機器を診断装置と考えるべきではないと強調する。心拍数が上昇する原因は妊娠だけではなく、運動、ストレス、脱水、発熱、睡眠不足、カフェイン摂取などさまざまである。機器が異常を示したとしても、それだけで妊娠や病気と断定することはできず、最終的な判断は医療機関での検査が不可欠となる。

さらに、個人データの管理も課題である。ウェアラブル端末は個人の詳細な健康情報を蓄積しており、データの保存方法や第三者への提供、プライバシー保護の在り方が各国で議論されている。健康データは個人情報の中でも特に機微性が高く、適切な管理と透明性が求められる。

それでも、ウェアラブル技術の進歩は医療の在り方を大きく変えつつある。これまでは病気になってから受診する「治療中心」の医療が一般的だったが、今後は日常生活のデータを継続的に分析し、異常の兆候を早期に把握する「予防・先制医療」への転換が期待されている。

今回紹介した事例は、その可能性を象徴する一例といえる。本人が自覚する前に身体の変化を記録し、健康管理に役立てられる時代が現実となりつつある一方、機器の精度や医学的根拠、プライバシー保護など解決すべき課題も少なくない。ウェアラブル端末は今後、医療を補完する重要な存在として普及が進むとみられるが、その恩恵を最大限に生かすには、科学的検証と適切な制度整備が不可欠である。

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