SHARE:

南鳥島沖のレアアース、半分以上が貴重な元素類も課題山積

南鳥島沖レアアース泥は、2026年8月時点で「日本の将来の資源安全保障を変える可能性を持つ有望な海底資源」であると評価できる。
レアアースのイメージ(Getty Images)
現状(2026年8月時点)

南鳥島沖の海底に存在するレアアース泥は、2026年に入り、日本の資源・経済安全保障政策における重要性を一段と高めている。最大の理由は、これまで「有望な海底資源」として研究されてきた段階から、実際に水深約6,000メートル級の海底からレアアース泥を連続的に船上へ引き揚げる実証段階へ移行したためである。2026年1月から2月にかけて、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」を用いた試験が実施され、2月1日未明には海底下のレアアース泥を船上へ連続的に揚泥することに世界で初めて成功した。

さらに2026年7月24日、JAMSTECはこの試験で回収したレアアース泥の分析結果を公表した。回収量は海水を除いた重量で約50トンに達し、レアアース総量の約54%がイットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの「中重レアアース」であることが確認されたほか、有害物質や放射性物質について有意な数値は検出されなかった。

この結果は、南鳥島沖のレアアース泥をめぐる評価を大きく前進させる材料となった。ただし、ここで注意すべきなのは「資源が確認されたこと」と「日本が商業的にレアアースを生産できること」は同じではないという点である。今回成功したのはあくまで採鉱システムの実海域での接続・揚泥試験であり、今後は大量かつ継続的な採鉱、輸送、脱水、分離、精製、製錬、廃棄物処理までを一つの生産システムとして成立させる必要がある。JAMSTEC自身も、2027年2月から本格的な採鉱試験を行い、2028年3月までに経済性を含めた総合評価を行う計画を示している。

したがって2026年8月時点の評価を一言で表現するなら、「南鳥島沖レアアースは資源としての実在性と採鉱技術の実現可能性が大きく前進したが、まだ商業生産の段階には到達していない」とするのが最も正確である。ニュースで報じられる「世界初の回収成功」は極めて重要な成果だが、それをそのまま「国産レアアースの確立」と解釈するのは早計である。

南鳥島沖レアアースの概要と近年の進展

南鳥島沖のレアアース泥は、日本の排他的経済水域(EEZ)内に広く分布する海底堆積物である。東京大学などの研究グループによって高濃度のレアアースを含む泥の存在が明らかになり、2010年代以降、日本が中国への依存度を低下させるための新たな資源候補として研究が進められてきた。東京大学の研究グループは、南鳥島周辺海域に「超高濃度レアアース泥」が存在することを確認しており、その成因についても海洋環境の変化や魚類の骨などとの関係から研究が進められている。

レアアース泥の重要性は、通常の鉱山資源とは異なる性質にもある。一般的な鉱石を採掘する場合、鉱山を掘削して鉱石を破砕し、選鉱して目的元素を取り出す必要があるのに対し、南鳥島沖では海底表層付近の堆積物そのものを回収し、そこからレアアースを分離するという方式が想定されている。このため、鉱石採掘とは異なる技術体系を構築できる可能性がある一方、深海という極限環境が最大の技術的ハードルとなる。

日本政府は2018年以降、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などを通じて、深海からレアアース泥を回収する技術の開発を進めてきた。2022年には茨城県沖の水深2,470メートルで海底堆積物の揚泥に世界で初めて成功し、その技術を基礎として、2026年には南鳥島沖の約6,000メートル級というさらに厳しい環境へ技術を拡張した。

この技術開発の進展は、単に「深い海から泥を取った」という意味にとどまらない。石油・天然ガス開発などで使われるライザー掘削方式に独自技術を組み合わせた「閉鎖型循環方式」を採用し、海底から泥を船上まで連続的に輸送するシステムの実証が行われたからである。JAMSTECによれば、この閉鎖型循環方式は採鉱時に発生する懸濁物の漏洩・拡散を抑制し、環境負荷を低減することも狙っている。

2026年の試験では、荒天によって作業に予定以上の日数を要したものの、1月30日にパイプ長5,569メートルの海底へ採鉱機を到達させ、2月1日に最初の揚泥を確認した。3日間の揚泥試験では3カ所のレアアース層から泥を回収し、開発した採鉱システムが実際の海域で安定して稼働することが確認された。

大規模な試掘の成功

2026年の成果を評価する際には、「試掘」と「大規模商業採掘」を区別する必要がある。今回の試験は商業生産を開始したものではなく、深海採鉱システムを実海域で作動させ、海底からレアアース泥を連続回収できることを実証するための試験である。

それでも、その技術的意義は極めて大きい。水深約6,000メートルでは、水圧、海況、揚泥管の重量、船体の位置保持、海底での採鉱機操作など複数の問題が同時に発生するため、陸上鉱山や比較的浅い海域での採掘技術をそのまま転用することはできない。今回の成功によって、少なくとも「日本の技術では6,000メートル級の海底からレアアース泥を船上へ連続的に輸送できる」という実証データが得られたことになる。

しかし、本当に重要なのは次の段階である。政府・JAMSTECは2027年2月から約1カ月間の本格的採鉱試験を予定しており、揚泥したスラリーを南鳥島へ船舶輸送し、陸揚げ・脱水した後、本土へ運んで分離・精製・製錬のプロセス試験まで行う計画である。

政府資料では、2027年にはレアアース泥を1日約350トン規模で採鉱・揚泥する試験が計画されている。これは2026年の約50トン回収とは桁の異なる規模であり、採鉱そのものだけでなく、輸送、一次処理、分離・精製、製錬、経済性評価を含めた「一貫生産システム」の実証が次の焦点になる。

ここから分かるのは、2026年の成功はゴールではなく、むしろ「資源開発の入口を突破した」という位置づけである。深海から泥を引き揚げる技術が成立しても、1日数百トン規模で安定運転できなければ産業にはならず、さらに回収した泥から高純度のレアアースを経済的に取り出せなければ、資源としての価値は限定される。

「資源の宝庫」としての期待

南鳥島沖が注目される最大の理由は、単純な資源量だけではなく、含まれている元素の構成にある。レアアースは17元素の総称であり、EVの駆動モーター、風力発電機、電子部品、半導体関連材料など、現代の高度な産業に幅広く利用されるが、元素ごとに用途、価格、供給構造が大きく異なる。

特に重要なのが、2026年7月に明らかになった「中重レアアースが約54%」という分析結果である。JAMSTECはイットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどを挙げており、単に「レアアースがたくさん含まれている」という従来型の評価から、「供給リスクの高い元素を含む資源」という評価へと一段進んだ。

もっとも、「約54%」という数字は泥そのものの重量の54%がレアアースという意味ではない。あくまで「回収されたレアアース総量のうち約54%が中重レアアースだった」という意味であり、この点は報道を読む際に非常に重要である。レアアース泥全体に占めるレアアース濃度と、レアアースの内訳に占める中重レアアースの割合は別の指標であり、両者を混同して「泥の半分以上が希少金属」と理解するのは誤りである。

さらに、今回の分析では有害物質および放射性物質について有意な数値が検出されなかった。これは将来の環境対策や処理工程を考える上でプラス材料となり得るが、これだけで環境影響問題が解決したことを意味するわけではない。実際の商業規模採鉱では、海底の堆積物を大量に移動させることによる懸濁物の拡散、生態系への影響、揚泥・輸送工程での影響などを総合的に評価する必要がある。

このため、南鳥島沖レアアースを「日本の海底に眠る宝」と表現すること自体は資源戦略上の期待を示す言葉として理解できるが、「見つかった資源をすぐに日本国内で使える」という意味ではない。真に評価すべきなのは、豊富な資源量だけでなく、希少性の高い元素をどれだけ安定して回収し、どの程度のコストで分離・精製し、最終的な製品までつなげられるかという点である。

成分分析から判明した特性:半分以上が「中重レアアース」

ここまでは、2026年の南鳥島沖レアアース泥開発が、単なる資源調査から実海域での採鉱技術実証へ移ったことを確認した。以降では、その中でも特に重要な「レアアース総量の約54%が中重レアアースだった」という分析結果を、資源・産業・経済安全保障の観点から検証する。

JAMSTECが2026年7月に公表した分析によると、2026年1~2月の試験で回収されたレアアース泥は、海水を除いた重量で約50トンに達した。その中に含まれるレアアース総量を分析したところ、約54%がイットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの中重レアアースだった。

ここで重要なのは、「泥の54%がレアアース」という意味ではないことである。54%という数字は、あくまで回収されたレアアース総量の内訳に占める中重レアアースの割合であり、泥全体の重量に対するレアアース濃度とは別の指標である。この区別をしなければ、「50トンの泥から25トン以上の希少金属が得られた」といった誤った理解につながる。

それでも、この成分構成には大きな意味がある。レアアースは17元素の総称であり、各元素の市場価値や用途、供給リスクは大きく異なるため、単純な「総量」だけでは資源としての価値を判断できないからである。

例えば、ランタンやセリウムなど比較的供給量が多い元素を大量に含む資源と、ジスプロシウムやテルビウムなど供給源が限られる元素を相対的に多く含む資源では、経済安全保障上の意味が異なる。南鳥島沖のレアアース泥については、後者に近い特徴を持つ可能性が確認されたことが、今回の分析結果の重要なポイントである。

2018年に『Scientific Reports』で発表された研究では、南鳥島周辺のレアアース泥について、特定の有望区域だけでも約120万トンのレアアース酸化物資源量が推定され、イットリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウムについて、それぞれ世界年間需要の相当年数を賄える可能性が示された。研究対象全体では1,600万トンを超えるレアアース酸化物資源量が推定されており、南鳥島沖が世界的にも異例の規模を持つ可能性が早くから指摘されていた。

もっとも、これらは地質学的な資源ポテンシャルであって、その全量を実際に回収できる埋蔵量と同一視することはできない。水深6,000メートル級という採鉱条件、資源の分布、採掘可能な区域、環境制約、処理コストなどを考慮すれば、理論的資源量と商業的に利用可能な資源量の間には大きな隔たりが存在する。

なぜ「中重レアアース」が貴重なのか

中重レアアースの重要性を理解するには、まずレアアースが「一つの商品」ではないことを理解する必要がある。17元素は化学的性質が似ているため分離が難しい一方、磁気的・光学的・電気的性質には違いがあり、それぞれ異なる産業用途を持っている。国際エネルギー機関(IEA)も、レアアースの価値は元素ごとの物理的・磁気的特性と、それを利用する技術によって大きく異なると指摘している。

特に重要なのが、ジスプロシウム(Dy)とテルビウム(Tb)である。両元素はネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB)系永久磁石の耐熱性を高めるために利用され、高温環境で磁石の性能を維持する役割を担う。経済産業省も、ネオジム磁石では耐熱性向上のためジスプロシウムまたはテルビウムが使用されることを説明している。

この性質は電動化社会において極めて重要である。EVの駆動モーター、ハイブリッド車、風力発電機、産業用モーターなどでは、高出力・小型・軽量で効率の高い永久磁石が重要な部品となっており、IEAによれば永久磁石はレアアース需要の金額ベースで約95%を占める最大かつ最重要の用途となっている。

つまり、ジスプロシウムやテルビウムの価値は「量が少ないから高い」という単純な話ではない。少量の添加によって高性能磁石の耐熱性などを改善でき、しかも代替技術の開発には時間とコストがかかるため、現代のモーター産業において戦略的価値が高いのである。

もっとも、日本の技術開発は「重希土類を確保する」だけを目標としているわけではない。重希土類そのものへの依存を減らす省重希土・重希土類フリー磁石の開発も同時に進められており、経済産業省は2027年度までに重希土類フリー永久磁石や、それに対応したEV用基幹モーターの開発を目標に掲げている。

これは非常に重要な視点である。南鳥島沖から大量のジスプロシウムなどを取り出せれば日本の供給安全保障に寄与する一方、将来的に技術革新によって重希土類の使用量そのものを減らせれば、資源開発への依存度を下げることもできるからである。

したがって、南鳥島沖レアアースの価値は「日本が大量のレアアースを持っている」という一点だけでは評価できない。「世界的に供給リスクの高い元素を含む資源を、自国のEEZ内に保有している」という点にこそ、経済安全保障上の意味がある。

国産化へ向け立ちはだかる「山積する課題」

ここまでを見ると、南鳥島沖レアアースは日本の資源問題を一気に解決する切り札のようにも見える。しかし、実際の国産化までには、資源の存在確認とは別次元の技術的・経済的・制度的課題が残されている。

最大の問題は、海底から泥を取り出せることと、レアアースを「製品として使える状態」にできることの間には、多数の工程が存在することである。採鉱、揚泥、脱水、輸送、選鉱、化学的分離、酸化物化、金属化、合金化、磁石製造という一連の工程を安定的につなげなければ、資源開発は産業として成立しない。

IEAは2026年の分析で、レアアースのサプライチェーンを「採掘→選鉱・濃縮→分離→精製→金属化→合金化→磁石製造」という連続したバリューチェーンとして捉えている。そして、各工程が異なる技術的ハードルを持つため、鉱山を確保するだけでは供給網の強靱化にはならないと分析している。

この問題は日本にとって特に重要である。仮に南鳥島沖からレアアース泥を大量に回収できても、それを中国など海外の分離・精製施設へ送らなければならない状況が続けば、「採掘だけ国産、加工は海外依存」という構造になり得るからである。

日本はすでに海外資源を活用して供給源の多角化を進めている。例えば日本政府は豪州のライナス社に関与し、ジスプロシウムとテルビウムについて最大65%を日本向けに供給する契約を締結しており、これは国内需要の約3割に相当すると見込まれている。

このような海外資源の確保と南鳥島沖開発は競合する政策ではない。むしろ、海外鉱山、国内リサイクル、代替材料、南鳥島沖の海底資源を組み合わせることで、特定国への依存を減らすという「複線型」の供給網を構築することが現実的な戦略となる。

そして、ここから先に立ちはだかる課題は、さらに具体的になる。第一に、6,000メートル級の超深海から大量の泥を継続的に揚げる技術、第二に、南鳥島から本土までを含めた輸送・分離・精製・精錬システム、第三に、それらを商業的に成立させるコスト、第四に、深海環境への影響を科学的に評価する仕組みである。

これら四つの問題は独立しているように見えて、実際には相互に結び付いている。例えば採鉱速度を上げれば生産量は増えるが環境影響や設備負荷が大きくなる可能性があり、環境対策を強化すればコストが上昇するため、最終的には「技術的に可能か」だけでなく「経済的かつ環境的に持続可能か」という総合判断が必要になる。

① 超深海(水深6,000m級)からの「継続的な大量揚泥システム」の確立

南鳥島沖レアアース泥の国産化を考える際、最初に直面するのが「海底から取り出せるか」という問題である。2026年の実海域試験によってこの問いには一定の答えが出たが、「一度取り出せた」ことと「産業として毎日、大量かつ安定的に取り出せる」ことの間には、依然として大きな技術的距離がある。

2026年1月から2月にかけて、JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」は南鳥島沖の水深約6,000メートル海域で採鉱システムの接続試験を実施した。1月30日に採鉱機を海底へ到達させ、2月1日未明には実際にレアアース泥が船上へ揚泥されたことで、6,000メートル級の超深海からレアアース泥を連続的に輸送する技術の実証が大きく前進した。

しかし、今回の試験には重要な限界もある。回収されたレアアース泥は海水を除いた重量で約50トンであり、これは技術実証としては大きな成果である一方、将来想定される産業規模の採鉱量とはなお大きな差がある。

政府の工程表では、2027年度に1日350トン規模の採鉱・揚泥試験を実施する計画が示されている。つまり2026年の試験が「深海から回収できること」の実証だとすれば、2027年の試験は「一定規模で継続して回収し、次工程までつなげられるか」を検証する段階と位置付けられる。

この差は単純な「7倍の増産」ではない。深海採鉱では、揚泥管、採鉱機、船舶、ポンプ、動力、船位保持、海底設備などが相互に連動しており、処理量を増やせば各設備にかかる負荷も増大するからである。

「6,000メートル」という数字が意味するもの

水深6,000メートルは、単に「長いパイプを海底まで下ろせばよい」という問題ではない。深海では水圧が極めて大きく、揚泥管には自重だけでなく、海流や船体の動揺による荷重も加わるため、装置の機械的信頼性を長期間維持することが重要になる。

さらに南鳥島周辺では、2026年の試験期間中に波高約7メートル、強風約20メートルという荒天にも遭遇した。採鉱機や揚泥管の降下には予定していた7日間を超える12日間を要しており、深海技術だけでなく、気象・海象条件を含めた運用面にも大きな課題が存在することを示した。

この点は商業化を考える上で極めて重要である。仮に年間数カ月しか安定して操業できないのであれば、設備投資が大きい深海採鉱では稼働率の低さがそのままコスト上昇につながるためである。

また、海底に設置する採鉱機そのものにも耐久性が要求される。レアアース泥は硬い岩盤鉱床とは異なり、比較的軟らかな堆積物だが、海底面から泥を解泥し、集泥し、それを揚泥管へ送り込む一連の操作を安定して繰り返す必要がある。

JAMSTECが開発している方式では、「解泥」「集泥」「揚泥」を一体化した採鉱システムを用いる。2022年には茨城県沖の水深2,470メートルで海底堆積物の揚泥に世界で初めて成功しており、その技術を基礎として約6,000メートルまで対応範囲を拡大してきた。

したがって、2026年の成果は突然生まれたものではない。2018年以降の研究開発、2022年の2,470メートルでの実証、2023年の南鳥島沖5,600メートル海域におけるAUV探査など、複数年にわたる技術蓄積の上に成立したものと評価する必要がある。

「継続的」であることが最大の難関

深海資源開発で最も重要なのは、単発の成功ではなく「連続運転」である。工業プラントでは、設備が数時間動いただけでは製品として成立せず、長期間にわたって一定品質・一定量の原料を供給し続けられることが求められる。

レアアース泥についても同じである。採鉱機を海底へ降ろして泥を回収するだけではなく、海底から船上まで安定して輸送し、詰まりや設備故障を防ぎながら一定の流量を維持しなければならない。

特に問題となるのが、固体粒子を含むスラリーを約6,000メートルにわたって輸送する点である。泥の性状や粒径、水分量などによって流動特性が変化するため、ポンプ能力や配管内の流速、摩耗、閉塞リスクなどを総合的に管理する必要がある。

さらに、深海では設備に異常が発生した場合の対応が陸上とは比較にならないほど難しい。海底に設置された機器を修理するためにはROVなどの無人機を使用する必要があり、場合によっては船を現場に維持しながら大規模な復旧作業を行わなければならない。

したがって商業化のためには、単に「採鉱能力」を高めるだけでなく、故障を予測して予防保全を行う仕組み、交換部品の管理、遠隔操作、海底設備の耐久性向上などを含めた総合的な運用技術が必要になる。

② 輸送・分離・精製・精錬のサプライチェーン構築

仮に350トン/日のレアアース泥を安定して回収できるようになったとしても、そこで国産化が完成するわけではない。次に現れるのが、海底から回収した「泥」を、最終的に産業で使用できる「レアアース」に変える工程である。

ここには、揚泥、脱水、一次処理、輸送、分離、精製、製錬、金属・合金化など複数の工程が存在する。JAMSTECも、採鉱だけでなく選鉱、製錬、製品化プロセスを経済的に行う一貫供給システムの構築を研究開発の目標として掲げている。

特に重要なのが「分離」である。レアアース17元素は化学的性質が互いに非常によく似ているため、混合物から特定の元素だけを高純度で取り出すことが難しい。

南鳥島沖では中重レアアースの比率が約54%だったことが確認されたが、それはそのまま高純度のジスプロシウムやイットリウムが得られることを意味しない。むしろ、複数の元素を含む泥から目的元素を選択的に分離し、さらに不純物を除去する化学プロセスこそが、商業化における重要な技術課題になる。

また、採鉱地点は日本本土から遠く離れている。南鳥島は東京都小笠原村に属する日本最東端の島であり、本土の工業地帯から大きく離れているため、回収した泥や一次処理物をどこへ運び、どこで処理するのかという物流設計も必要になる。

政府の工程表では、2026年の採鉱・揚泥試験に続き、一次処理試験を行い、2027年には350トン/日規模の採鉱・揚泥試験と、それに対応する一次処理試験を実施する計画が示されている。これは日本が「海底から泥を取る技術」だけでなく、「取った泥を次の工程へつなぐ技術」の実証へ進もうとしていることを意味する。

③ 経済合理性(コストと採算性)の壁

技術的に可能でも、採算が取れなければ民間産業として定着しない。南鳥島沖レアアース開発において、最終的に最も厳しい判定を下す可能性があるのが、この経済合理性である。

陸上の鉱山と比較すると、6,000メートル級の海底から資源を回収するには特殊な船舶、揚泥管、海底機器、ROV、環境監視設備などが必要になる。さらに南鳥島という遠隔地まで船舶を往復させ、回収物を国内へ輸送するための燃料、人員、保守費用も必要となる。

一方で、レアアース価格は一定ではない。価格が高騰している時期には深海採鉱のコストを吸収できても、供給増加や需要減少によって価格が下落すれば、採算が急速に悪化する可能性がある。

ここには南鳥島沖レアアース特有の難しさがある。資源量が大きいからといって、必ずしも一単位当たりの生産コストが低いとは限らないからである。

むしろ、日本にとっては「多少高くても国産化する価値があるのか」という経済安全保障上の判断が重要になる。市場価格だけで採算を判断すると、安価な海外資源に勝てない可能性があるが、供給途絶リスクを回避する保険として考えれば、一定の追加コストを許容する政策的合理性が生じる。

このため、南鳥島沖レアアースの評価では「国際市場で最安値の資源になるか」だけを基準にするべきではない。安定供給、供給源の多角化、国内産業基盤の維持、経済安全保障上の価値を含めた「総合的な社会的便益」で判断する必要がある。

④ 環境影響の評価と対策

深海採鉱には、経済性とは別に環境面の課題もある。海底堆積物を大量に掘削・吸引すれば、周囲の海水中に微細な粒子が拡散する可能性があり、それが海洋生態系へどのような影響を与えるかを科学的に検証しなければならない。

2026年の試験では、この問題を重視して海底と船上で同時に環境モニタリングを実施した。海底設置型無人探査機「江戸っ子1号COEDO」、環境DNA自動採取装置、ハイドロフォンなどを使い、採鉱に伴う懸濁物の発生や生物群集などを観測した。

また、採鉱システムそのものにも環境負荷を抑える工夫が組み込まれている。JAMSTECが開発している「閉鎖型循環方式」は、採鉱時に発生する懸濁物の漏洩・拡散を抑制することを目的としており、2026年試験でもこの方式が採用された。

さらに今回回収されたレアアース泥について、有害物質および放射性物質に有意な数値が検出されなかったことも重要である。船上で行われた生物検定に基づく分析でも、今回の採鉱に伴う鉱物由来の環境汚染リスクは低いと判断された。

ただし、「今回の試験でリスクが低かった」ことと、「大規模商業採鉱による環境影響が存在しない」ことは同義ではない。採鉱規模が大きくなれば、発生する懸濁物の量、採鉱時間、海底環境への物理的影響なども変化する可能性があるため、2027年以降の大規模試験で継続的な環境データを取得することが重要になる。

ここでは環境保護と資源開発を対立させるだけでは不十分である。環境影響を定量的に測定し、影響が許容範囲内に収まる採鉱方法を設計し、そのデータを公開して社会的な合意形成につなげることが必要になる。

「実証成功」から「産業化」へ

以上を整理すると、2026年の南鳥島沖レアアース開発は、最初の巨大な技術的壁を突破したと評価できる。6,000メートル級の深海から実際にレアアース泥を船上へ揚げたことは、世界的に見ても重要な技術実証である。

しかし、国産化という目標から逆算すると、まだ「第一段階を突破した」にすぎない。次の焦点は、2027年に予定される350トン/日規模の採鉱・揚泥試験と一次処理試験であり、ここで連続運転、処理能力、物流、分離・精製、環境監視などを一体として評価できるかが重要になる。

さらに重要なのは、南鳥島沖だけで日本のレアアース問題を解決しようとしないことである。海底資源、海外鉱山からの長期調達、都市鉱山からのリサイクル、省レアアース・レアアースフリー磁石などを組み合わせた多層的な供給体制を構築する方が、現実的な経済安全保障戦略となる。

南鳥島沖レアアースの本当の価値は、「日本が巨大な資源を発見した」ことだけではない。これまで海外に依存してきた資源供給について、探査から採鉱、処理、精製、製品化までを国内技術でつなげられるかどうかという、日本の資源政策そのものを再構築する機会になっている点にある。

そして、この問題を考える際に避けて通れないのが中国である。現在のレアアース産業では、中国が採掘だけでなく分離・精製、金属・合金、永久磁石などの下流工程でも極めて大きな存在感を持つため、南鳥島沖で資源を回収できても、中国を中心とする既存サプライチェーンとの競争・依存関係をどう変えるかという問題が残る。

中国という巨大な壁

南鳥島沖のレアアース泥が日本の資源安全保障にとって重要なのは、単に日本のEEZ内に大量のレアアースが存在するからではない。より本質的なのは、日本が長年にわたって依存してきた中国中心のレアアース・サプライチェーンに対して、採掘段階から別の供給源を確保できる可能性が生まれた点にある。

しかし、ここには大きな落とし穴がある。南鳥島沖からレアアース泥を回収できたとしても、その後の分離・精製、金属化、合金化、永久磁石製造までを国内または信頼できる第三国で完結できなければ、中国依存を根本的に解消したことにはならない。

2026年の国際エネルギー機関(IEA)の分析は、この構造を明確に示している。2024年時点で、中国は磁石向けレアアースの採掘で世界の約60%、精製で約90%を占め、さらにレアアース永久磁石の製造でも約90%を占めているとされる。つまり中国の優位性は「鉱山を持っている」ことではなく、資源から最終製品までの複数の工程を巨大な産業基盤として押さえていることにある。

米国地質調査所(USGS)の2026年版資料でも、中国は2024年の世界のレアアース鉱山生産量の約71%を占めたと推定されている。これだけを見ると中国の強さは採掘にあるように見えるが、実際には中国の優位性はさらに川下へ広がっている。

このため、南鳥島沖開発の意味を「中国に代わる新しい鉱山を日本が持つ」とだけ理解するのは不十分である。真に問われているのは、中国が長年かけて構築してきた「鉱石→分離→精製→金属→合金→磁石」という一貫した産業集積に、日本がどこまで対抗できるかという問題である。

中国が圧倒的な地位を築いた理由

中国のレアアース産業が現在の地位を獲得した背景には、単純な資源量だけでは説明できない複数の要因がある。豊富な鉱物資源に加え、長期間にわたる国家的な産業育成、低コストの大量生産、分離・精製技術の蓄積、磁石産業への投資、そして川上から川下までの企業集積が相互に作用してきた。

特に重要なのが「分離・精製」という中間工程である。レアアースは元素同士の化学的性質が似ているため、採掘した原料から特定元素を高純度で取り出す工程が難しい。IEAは、レアアースについて中国が精製工程で90%超のシェアを持つと分析しており、資源を採掘できる国が増えても、分離・精製能力が不足すれば供給網の多角化は完成しないと指摘している。

さらに中国は、単に外国企業が中国国内でレアアースを加工するという段階を超えて、資源開発から製品流通までを国家的な産業政策の対象としている。2024年10月に施行された中国の「レアアース管理条例」では、採掘、製錬・分離、金属製錬、総合利用、製品流通、輸出入までが制度的な管理対象となっている。

これは日本にとって重要な示唆を持つ。南鳥島沖の開発を成功させるためにも、採鉱技術だけを独立して開発するのではなく、分離・精製・金属化・磁石製造までを含めた産業政策として取り組む必要があるからである。

2025年の輸出規制が示した「本当のリスク」

中国依存の危険性が単なる仮説ではないことを示したのが、2025年の輸出管理強化である。中国政府は2025年4月、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウムなど7種類の中・重レアアースに関連する品目について輸出管理を導入した。

この措置によって、2025年4月と5月には対象となったレアアースや永久磁石の輸出量が大きく落ち込み、米国や欧州などの自動車メーカーが磁石の調達に苦しみ、一部では生産能力の低下や一時的な工場停止にまで至った。IEAはこの事例を、レアアース供給網が単なる価格問題ではなく、製造業そのものの稼働を左右する安全保障問題であることを示した出来事と評価している。

この経験が重要なのは、レアアースそのものの数量が必ずしも巨大ではなくても、それを必要とする製品の経済価値が非常に大きいからである。IEAは、中国による輸出規制が完全に実施された場合、中国国外で年間最大6.5兆ドル相当の下流生産がリスクにさらされ得ると分析している。

さらに2025年10月には、中国が規制対象を拡大し、中・重レアアース関連品目だけでなく、中国産レアアースを含む製品や中国の技術を使用して製造された製品に関係する規制も打ち出した。これらの追加措置の一部は2025年11月から1年間停止されたが、2026年時点でも供給網の構造的な脆弱性そのものが解消されたわけではない。

つまり、南鳥島沖開発には「資源価格が高騰したときに儲かる」という以上の意味がある。日本企業が必要なレアアースを政治的・外交的な理由によって突然調達できなくなるリスクを低減するという、経済安全保障上の保険としての価値が存在する。

南鳥島沖が中国依存を終わらせるのか

結論から言えば、南鳥島沖の開発だけで中国依存を終わらせることは難しい。理由は極めて単純で、レアアースの「採掘」と「供給」は同じものではないからである。

南鳥島沖で泥を回収しても、そこから必要な元素を分離し、高純度化し、金属や合金へ加工し、最終的に高性能磁石を製造できなければ、日本の自動車や電機メーカーが直接利用できる材料にはならない。したがって「南鳥島沖の資源を日本が保有する」ことと「日本の産業が中国に依存せずレアアース製品を調達できる」ことの間には、巨大な工程上の空白がある。

この点で、南鳥島沖開発は日本のレアアース政策全体の一部として位置付ける必要がある。海外鉱山からの長期調達、国内での分離・精製能力、リサイクル、代替材料、省レアアース磁石、そして南鳥島沖の海底資源を組み合わせることで、初めて供給途絶に強い構造が形成される。

実際、IEAも2026年の分析で、鉱山開発だけを進めてもサプライチェーンの多角化にはならないことを示している。2035年に向けて、中国以外で計画されている鉱山能力は増加しているものの、精製・分離能力や金属・合金・磁石の下流能力はそれを大きく下回ると分析されており、「鉱山は増えたが加工できない」という新たなボトルネックが生じる可能性がある。

ここに南鳥島沖開発の本当の課題がある。日本が目指すべきなのは「海底資源の国産化」だけではなく、「レアアース供給網の国産化・多角化」である。

国産化の現実的な意味

「国産化」という言葉も慎重に定義する必要がある。南鳥島沖で採鉱した泥を100%日本国内で処理し、最終的な磁石まで国内で製造することが理想的ではあるが、最初からすべてを完全な国内循環にすることが必須とは限らない。

むしろ現実的なのは、重要工程を日本または信頼できるパートナー国に分散し、一つの国が供給を止めても産業全体が停止しない構造を構築することである。これは「完全な自給自足」よりも「供給網の強靱化」を目指す考え方であり、重要鉱物政策の国際的な潮流とも一致する。

例えば日本は豪州など海外の資源開発にも関与し、重希土類の安定調達を進めてきた。こうした既存の海外調達を維持しながら、南鳥島沖という新たな供給源を加えれば、一つの供給ルートに依存する度合いを低下させられる。

同時に、レアアースの使用量そのものを減らす技術も重要になる。高性能磁石については、ジスプロシウムやテルビウムの使用量削減、重希土類を使用しない磁石、新しい磁石材料などの研究開発が進められており、「供給を増やす」と「需要を減らす」を同時に進めることがリスク低減につながる。

これは一見すると南鳥島沖開発と矛盾するように見える。しかし実際には逆である。資源開発だけに依存せず、代替技術やリサイクルを同時に進めることで、南鳥島沖の資源を「不足を埋めるために無理に大量採掘する資源」ではなく、「戦略的な供給源の一つ」として利用できるようになる。

南鳥島沖開発が日本にもたらす戦略的意味

ここまでの分析から、南鳥島沖レアアース開発の価値は三つに整理できる。第一は、日本のEEZ内に存在する資源を自国の技術で利用できる可能性を開いたこと、第二は、中・重レアアースを含む供給源を確保することで特定国への依存を低下させられる可能性、第三は、深海採鉱から分離・精製までの技術基盤を日本国内に蓄積できる可能性である。

一方、リスクも三つある。第一は採鉱コストが高く、国際市場で価格競争力を持てない可能性、第二は採鉱以外の分離・精製・磁石製造で中国依存が残る可能性、第三は大規模採鉱による環境影響を十分に評価できなければ社会的受容性を失う可能性である。

したがって南鳥島沖レアアースを「日本の救世主」と表現するのは適切ではない。むしろこれは、日本が中国中心の資源供給構造に対して新しい選択肢を持つための、長期的な戦略プロジェクトと評価するべきである。

そして2026年時点で最も評価すべきなのは、「日本が海底からレアアースを取った」という一点ではない。資源調査、超深海採鉱、揚泥、環境モニタリング、一次処理、分離・精製、製品化という一連の技術をつなぐ方向へ、研究開発が実際に進んでいることである。

今後の展望

ここまでの検証から明らかになったのは、南鳥島沖のレアアース泥が「夢物語」から実証段階へ移った一方、まだ商業生産には到達していないという事実である。2026年1~2月の試験では、約6,000メートルの海底からレアアース泥を船上へ連続的に揚泥することに成功し、海水を除いた回収量は約50トンに達した。さらに分析によって、レアアース総量の約54%がイットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの中重レアアースであることも確認された。

この成果を踏まえ、2027年には約1カ月間の本格的な採鉱試験が予定されている。ここでは単に海底から泥を回収するだけではなく、スラリーを南鳥島まで船舶輸送し、陸揚げ・脱水して「マッドケーキ」とした上で本土へ輸送し、分離・精製・製錬までを試験する計画となっている。つまり2026年が「深海から資源を取れるか」を確認する段階だったのに対し、2027年は「取った資源を産業工程につなげられるか」を検証する段階となる。

内閣府の工程表では、2027年度の採鉱・揚泥試験について1日350トン規模を目標としており、2027年10月までの採鉱・揚泥試験、同年12月までの一次処理試験が示されている。さらに2028年3月までにレアアース生産の社会実装化プランをまとめ、2028年度以降の社会実装につなげる工程が設定されている。

この工程が順調に進めば、日本のレアアース政策は大きな転換点を迎える可能性がある。ただし、「2028年度以降に社会実装を目指す」という政府工程は商業生産開始を意味するものではなく、あくまで実証結果を踏まえて事業化・社会実装の判断を進めるという意味である。

したがって、2026年8月時点で南鳥島沖レアアースを評価する場合、「数年以内に日本がレアアースを完全自給できる」と考えるのは適切ではない。むしろ2026~2028年は、技術、経済性、環境、物流、分離・精製を総合的に評価し、本当に産業として成立するかを見極める決定的な期間と位置付けるべきである。

「資源量が多い」ことと「資源大国になる」ことは違う

南鳥島沖レアアースの評価で最も注意しなければならないのは、地質学的な資源量と商業的な可採資源量を混同しないことである。2018年の『Scientific Reports』掲載研究では、南鳥島周辺の有望区域105平方キロメートル、海底下0~10メートルについて、約120万トンのレアアース酸化物資源量が推定された。さらにイットリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウムについて世界年間需要の数十年分に相当する可能性も示された。

これは極めて大きな資源ポテンシャルである。しかし、推定資源量のすべてを採掘できるとは限らない。実際に利用できる量は、資源の分布、採鉱技術、海底環境、採掘区域、回収率、分離・精製効率、輸送条件、価格などによって決まるためである。

例えば、1トンの泥から得られるレアアース量が大きくても、採鉱・揚泥・輸送・分離に莫大な費用がかかれば、経済的価値は低下する。逆に含有量がそれほど大きくなくても、希少価値の高い元素を効率よく分離でき、安定した需要が存在すれば、資源としての価値は高くなる。

したがって南鳥島沖について本当に注目すべきなのは、「何百万トンあるか」だけではない。「1トンの泥から、どれだけの価値を持つレアアースを、どれだけ安定して、どの程度の費用で取り出せるか」が最終的な評価を決める。

商業化の最大の分岐点は2027~2028年

2027年の本格試験が重要なのは、採鉱システム単体ではなく、サプライチェーン全体を一つのシステムとして検証できるからである。海底で泥を回収し、船上へ揚げ、南鳥島へ輸送し、脱水して本土へ送り、さらに分離・精製・製錬するという工程が実際につながれば、商業化に必要なデータが大幅に増える。

逆に、このどこか一つでも大きなボトルネックが確認されれば、商業化には追加の研究開発が必要になる。例えば揚泥量が目標に達しない、設備故障が頻発する、悪天候による稼働率低下が大きい、分離工程の回収率が低い、あるいはコストが想定を大幅に上回るといった問題が発生すれば、資源量がどれほど大きくても事業化は難しくなる。

特に経済性については、政府も2028年3月までに総合評価を行う予定としており、単純な技術成功だけでなく採算性が重要な判断基準になる。JAMSTECも2027年の本格試験で得られたデータを基に、国内における国産レアアースの産業化について経済性を含めた総合評価を行うとしている。

ここで一つ重要な考え方がある。それは、南鳥島沖レアアースを「中国産より安いレアアースを作るプロジェクト」とだけ考える必要はないということである。

経済安全保障という「見えない価値」

通常の鉱山開発であれば、最も重要な指標の一つは市場価格に対する生産コストである。南鳥島沖でも当然ながら採算性は重要だが、レアアースの場合は、それだけでは評価しきれない側面がある。

IEAによれば、レアアースは採掘、分離・精製、金属化、合金化、磁石製造という複数の工程からなるサプライチェーンを形成しており、中国は2024年時点で磁石向けレアアースの採掘の約60%、精製の約91%、焼結永久磁石生産の約94%を占めていた。供給源がこれほど集中している場合、通常の市場競争だけでなく、輸出規制や外交関係などの政治的要因が企業活動を左右する。

2025年には中国が中・重レアアース関連品目に輸出管理を導入し、米国や欧州などの自動車メーカーが永久磁石の調達に苦しむ事態が発生した。IEAは、こうした供給途絶が自動車、電子機器、防衛、エネルギーなどの広範な産業へ波及し得ると分析している。

この状況を踏まえると、日本が一定の追加コストを負担してでも国内または信頼できる供給源を確保することには、経済安全保障上の意味がある。例えば、平時の市場価格だけを見れば割高な国内生産であっても、供給途絶時に日本企業の工場を動かし続けるための「保険」と考えれば、その価値は大きく変わる。

したがって南鳥島沖レアアースの経済性評価では、単純な「1キログラム当たりの生産コスト」だけでなく、供給途絶リスクを低減する価値、国内産業基盤を維持する価値、技術・人材を国内に蓄積する価値まで含めた総合的な評価が必要になる。

それでも「完全自給」は現実的な目標なのか

結論から言えば、短中期的に日本がレアアースを完全自給することを目標にするのは現実的ではない。むしろ目指すべきなのは、複数の供給源を持ち、どこか一つの国や地域からの供給が途絶しても産業が停止しない「多層的な供給網」である。

その中で南鳥島沖は重要な一層を担うことになる。海外鉱山からの調達、国内リサイクル、代替材料、使用量削減技術、そして南鳥島沖の海底資源を組み合わせることで、単一供給国への依存度を下げることができる。

これはIEAの分析とも整合する。IEAは2035年時点で、中国以外の地域において鉱山能力の拡大が進む一方、精製・分離能力や金属・合金・磁石製造能力の拡大が遅れていると指摘している。特に既存・計画中の中国外の鉱山能力が約50キロトン規模に達する一方、下流の金属・合金・磁石能力は約18キロトンにとどまり、採掘より川中・川下工程の整備が重要な課題となっている。

この構造は、日本にとってむしろチャンスでもある。南鳥島沖の採鉱技術だけでなく、国内で分離・精製、金属化、磁石製造までを強化すれば、単なる資源国ではなく「重要鉱物の加工・製造技術を持つ国」としての競争力を高められるからである。

環境面では「慎重な実証」が不可欠

もう一つ、商業化を左右するのが環境問題である。2026年の試験では、海底・船上で環境モニタリングが実施され、回収したレアアース泥から有害物質や放射性物質について有意な数値は検出されなかった。これは前向きな材料ではあるが、大規模商業採鉱の環境影響が完全に否定されたことを意味するわけではない。

特に重要なのは、採鉱規模が大きくなった場合の影響である。1日数百トン規模で泥を回収する場合、単発の小規模試験とは異なる量の堆積物が移動するため、懸濁物の拡散や海底生態系への影響を長期間観測する必要がある。

したがって、今後の試験では「資源をどれだけ取れたか」だけでなく、「どの程度の環境負荷で、どの程度の資源を回収できたか」という指標が重要になる。環境負荷を低減できる採鉱方式を確立し、そのデータを継続的に公開することが、商業化に対する社会的信頼を得るためにも不可欠である。

今後のシナリオ

今後の展開は、大きく三つのシナリオに分けて考えられる。

第一は、2027年の本格試験が成功し、採鉱・揚泥・輸送・一次処理・分離・精製・製錬の技術的な連続性が確認され、2028年の総合評価でも一定の経済性が認められるシナリオである。この場合、2028年度以降に社会実装へ向けた具体的な事業化検討が加速し、日本の重要鉱物政策における南鳥島の位置付けは大幅に高まる可能性がある。

第二は、技術的には成功するものの、コストが高すぎるシナリオである。この場合、全面的な商業生産ではなく、経済安全保障上特に重要な中重レアアースを対象とした限定的・戦略的な生産や、国家備蓄と組み合わせた運用が検討される可能性がある。

第三は、技術または環境面で大きな問題が判明し、商業化が延期されるシナリオである。この場合でも、深海探査・採鉱技術そのものが無価値になるわけではない。得られた技術やデータは、将来の海底資源開発や深海科学、海洋産業に活用できる可能性がある。

この三つのシナリオのうち、現時点で最も避けるべきなのは「資源量が大きいから必ず商業化できる」という思い込みである。むしろ2027~2028年の実証結果を冷静に検証し、採算性と環境性の両方を満たす場合に段階的に投資を拡大する方が、長期的には合理的である。

まとめ

南鳥島沖レアアース泥は、2026年8月時点で「日本の将来の資源安全保障を変える可能性を持つ有望な海底資源」であると評価できる。特に2026年の実海域試験で、水深約6,000メートルから約50トンのレアアース泥を回収し、レアアース総量の約54%が中重レアアースだったことが確認された点は、資源開発上の大きな前進である。

一方で、これを「日本がレアアース資源国になった」と表現するのは早い。2026年の成果はあくまで実証段階であり、今後は1日350トン規模の採鉱・揚泥、南鳥島への輸送、本土への移送、分離・精製・製錬、経済性評価、環境影響評価という複数の難関を突破しなければならない。

最大のポイントは、南鳥島沖を「海底にある資源」として見るのではなく、「日本が自律的なレアアース供給網を構築するための一つの基盤」として見ることである。採鉱だけ国産化しても、中国が圧倒的な強みを持つ分離・精製や永久磁石製造を海外に依存し続ければ、供給網全体の脆弱性は残る。

逆に、南鳥島沖の資源開発と並行して、国内の分離・精製能力、金属・合金化技術、磁石製造、リサイクル、省レアアース技術を育て、豪州などの友好国からの調達も組み合わせれば、日本は供給途絶に対する耐性を大きく高められる。IEAも、レアアースの供給多角化では採掘だけでなく、精製・金属化・磁石製造まで含めたバリューチェーン全体の整備が必要だと指摘している。

したがって、南鳥島沖レアアースの本当の価値は「莫大な資源量」にのみあるのではない。日本が自国のEEZ内にある資源を起点として、探査、採鉱、輸送、分離、精製、製錬、磁石製造、リサイクルまでを含む独自の技術体系を構築できるかどうかにこそ、戦略的価値がある。

そして最終的な評価を下すには、2027年の本格採鉱試験と2028年までの総合評価を待つ必要がある。現段階で最も妥当な結論は、「南鳥島沖レアアースは日本の資源問題を即座に解決する切り札ではないが、中国への過度な依存を低下させ、日本の経済安全保障と重要鉱物サプライチェーンを再構築するための極めて重要な戦略的選択肢になり得る」というものである。

総合評価

資源ポテンシャルについては非常に高いと評価できる。2018年の研究で巨大なレアアース酸化物資源量が推定され、2026年の実試料分析でも中重レアアースの比率が高いことが確認されたため、単なる「資源量の大きさ」だけでなく「資源の質」という観点でも注目度は高い。

採鉱技術については実証段階から産業化検証段階へ移行したと評価できる。6,000メートル級からの揚泥成功は重要な突破口だが、2027年の350トン/日規模試験によって初めて、連続運転と大規模化の実現性が本格的に判断できる。

経済性については現時点では未確定である。深海採鉱、遠距離輸送、分離・精製などの費用を考慮すると、単純な市場価格との比較では不利になる可能性がある一方、供給途絶を防ぐ経済安全保障上の価値まで含めれば、一定の政策的支援を行う合理性がある。

サプライチェーンについては最大の課題の一つである。中国は2024年時点で磁石向けレアアースの精製で約91%、焼結永久磁石生産で約94%を占めており、南鳥島から原料を確保するだけでは中国中心の供給構造を十分に変えられない。

環境面については慎重な継続評価が必要である。2026年の試験では有害物質・放射性物質に有意な数値が検出されなかったことはプラス材料だが、大規模・長期採鉱時の影響については今後の環境モニタリングによって検証する必要がある。

総合すれば、南鳥島沖レアアースは「日本の資源問題を一挙に解決する夢の資源」ではない。しかし、資源・技術・産業・外交・安全保障を一体化させれば、日本がレアアース供給網の脆弱性を低減するための極めて重要なカードになり得る。2026年の成功はゴールではなく、本格的な産業化判断へ向かうスタートラインに立ったことを意味する。


参考・引用リスト

  • 海洋研究開発機構(JAMSTEC)「南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の結果について」2026年7月24日。 
  • 内閣府「海洋開発等重点戦略・工程表――特定離島である南鳥島とその周辺海域の開発の推進」。 
  • International Energy Agency(IEA)「Rare Earth Elements」2026年。 
  • International Energy Agency(IEA)「Global Critical Minerals Outlook 2026」。 
  • International Energy Agency(IEA)「With new export controls on critical minerals, supply concentration risks become reality」。 
  • International Energy Agency(IEA)「Outlook – Global Critical Minerals Outlook 2026」。
  • 東京大学・研究グループ「The tremendous potential of deep-sea mud as a source of rare-earth elements」Scientific Reports, 2018。
  • International Energy Agency(IEA)「New projects, partnerships and policies are needed to address supply chain risks for rare earth elements」2026年。
  • International Energy Agency(IEA)「Renewables 2025」レアアース永久磁石サプライチェーン分析。 
  • U.S. Geological Survey(USGS)『Mineral Commodity Summaries 2026』。
この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします
あなたへのおすすめ