地方で消えるガソスタ、倒産・廃業5年連続で増加、10年で1700社超が消滅「生活インフラ崩壊の縮図」
2026年9月時点の最新データから見ても、日本のガソリンスタンドを取り巻く環境が厳しさを増していることは明らかである。2026年1~8月だけで倒産19件、休廃業・解散125件、合計144件に達し、1~8月として過去10年で最高水準となっている。
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現状(2026年9月時点)
日本のガソリンスタンドが、静かに姿を消し続けている。かつては幹線道路沿いや市街地だけでなく、農村部や山間部にも当たり前のように存在していた給油所が、採算悪化や経営者の高齢化、後継者不足などを背景に閉店し、地方では「次の給油所まで数十キロ」という地域さえ珍しくなくなっている。
この問題を象徴するのが、2026年に入ってからの事業者の退出増加である。帝国データバンクの調査では、2026年1~8月に発生したガソリンスタンド運営事業者の倒産と休廃業・解散は合計で144件に達し、年間を通じて見れば5年連続の増加となる可能性が高い状況にある。過去10年間では、倒産や休廃業などによって1700社を超える事業者が市場から退出しており、これは一時的な景気変動では説明しにくい構造的な縮小である。
一方、全国に存在する給油所そのものも長期的な減少が続いている。資源エネルギー庁によれば、全国のガソリンスタンド数は1994年度末の60421カ所をピークとして減少を続け、2024年度末には27009カ所まで縮小した。30年間で半分以下となった計算であり、現在の減少は単なる店舗整理ではなく、日本の燃料供給網そのものが縮小している現象と見る必要がある。
特に深刻なのが地方である。人口の少ない地域では、そもそも自動車の利用者が限られるため、1カ所の給油所が販売できる燃料量にも限界がある。その一方で、地下タンク、給油設備、計量機、建物、電気設備などを維持するためには一定の費用が必要であり、販売量が減ったからといって維持費まで比例して減るわけではない。
つまり、ガソリンスタンドは「商品が売れなくなれば店を小さくすればよい」という一般的な小売業とは事情が異なる。一定規模の設備を維持しながら、減少する需要によって固定費を回収しなければならないため、人口減少が進む地域ほど経営条件が急速に悪化しやすい構造を持っている。
さらに、2026年時点では燃料価格そのものをめぐる環境も厳しい。原油価格や輸送費、人件費、電気料金、設備維持費などの上昇が経営コストを押し上げる一方、地域の顧客は少しでも安い給油所を選ぶため、販売価格へのコスト転嫁にも限界がある。企業全体を見ても、2026年は物価高を背景とした倒産が高水準で推移しており、燃料販売事業者にとってもコスト上昇と価格競争の両立が難しい環境となっている。
ここで重要なのは、「ガソリン需要が減ったからガソリンスタンドが減った」という一方向の説明では不十分だという点である。需要の減少は原因のひとつにすぎず、省燃費車の普及、人口減少、自動車利用量の変化、価格競争、経営者の高齢化、後継者不足、老朽設備の更新負担など、複数の要因が同時に重なっている。
そして、一度地域から給油所がなくなると、残った給油所には別の負担が生じる。周辺の給油所が閉鎖すれば顧客が集中するため、一見すると残存店の販売量が増えるようにも見えるが、遠距離から来る顧客への対応や営業時間の延長、設備増強などが必要となり、必ずしも経営の安定につながるとは限らない。
むしろ一定の地域では、複数の給油所が相次いで撤退することで、最後まで残った1店舗に地域の燃料供給が集中し、その店舗まで撤退すると一気に「燃料供給の空白」が発生する危険がある。資源エネルギー庁が「SS過疎地」を政策上の課題として扱っているのは、このような連鎖的な供給網の縮小を背景としている。
ガソリンスタンドがなくなることで最初に影響を受けるのは、自動車を日常的に利用する住民である。しかし影響はそこにとどまらない。農業用機械を使う農家、トラックやバスなどを運行する事業者、建設業者、訪問介護や訪問診療に携わる事業者など、地域経済の多くが燃料供給に依存しているからである。
高齢者が多い地域ほど、この問題はさらに複雑になる。公共交通機関が十分に整備されていない地方では、自動車が単なる移動手段ではなく、病院へ行くため、買い物をするため、行政手続きを行うため、家族を送迎するための生活基盤になっている。そのため給油所の閉鎖は、単純な「店が1軒減る」という出来事ではなく、地域住民が生活を維持するための移動能力を低下させる可能性がある。
さらに見落とせないのが、防災面での問題である。ガソリンスタンドは平時には燃料を販売する商業施設だが、災害時には自動車、消防、救急、警察、自治体、物流などに燃料を供給する重要な拠点となる。地震や豪雨、台風、豪雪などによって物流が寸断された場合、地域内に燃料を供給できる施設が残っているかどうかは、復旧活動の速度にも関係する。
この意味で、ガソリンスタンドの減少は「石油産業の縮小」という狭い問題ではない。人口減少によって利用者が減り、利用者が減ることで収益が悪化し、収益が悪化することで設備投資や事業承継が難しくなり、廃業によって生活圏から店舗が消え、さらに地域の利便性が低下するという循環が形成されている。
日本の地方では、すでに商店、診療所、金融機関、公共交通など、さまざまな生活サービスが縮小している。ガソリンスタンドの減少は、その流れの中で進むひとつの現象であり、地方の人口減少が「採算の取れない生活インフラ」を次々に生み出している現実を映す指標でもある。
したがって、2026年のガソリンスタンド問題を考える際には、「何店舗が倒産したのか」だけを見るべきではない。問題の本質は、採算性を失った給油所が地域から撤退した結果として、どこまで燃料供給網を維持できるのか、そしてその負担を誰が担うのかという点にある。
今後、電動車の普及が進めば、従来型のガソリン需要はさらに変化する可能性がある。しかし資源エネルギー庁も、ガソリン・軽油を使用する車両がすぐに消滅するわけではなく、特に積雪寒冷地などでは燃料車の重要性が残ると指摘している。したがって、ガソリン需要の減少を前提にしながらも、一定の地域では燃料供給拠点を維持するという難しい課題が残される。
問題は、これまで「そこにあること」が当然だったガソリンスタンドが、実は人口、物流、交通、防災、地域経済によって支えられてきたインフラだったという事実である。その前提が崩れ始めた現在、ガソリンスタンドの減少は地方社会の将来を考えるうえで無視できない問題になっている。
減少の主な要因
ガソリンスタンドの減少は、ひとつの原因によって発生しているわけではない。燃料需要の減少、人口減少、自動車の省燃費化、経営者の高齢化、後継者不足、設備の老朽化、維持更新費用の増加、価格競争などが重なり、採算を維持できなくなった事業者から市場を退出している。
特に地方の小規模事業者にとって深刻なのは、売上が減少しても必要な設備や土地を維持する費用は大きく変わらないことである。給油所には地下タンク、計量機、配管、給油設備、建物、電気設備などが必要であり、一般の小売店舗のように販売スペースを縮小するだけで固定費を大幅に減らすことは難しい。
このため、燃料販売量が一定水準を下回ると、売上高の減少がそのまま利益の減少につながりやすい。さらに人件費、電気料金、物流費、設備保守費などが上昇すれば、販売量が横ばいでも利益が圧迫され、販売量が減少する地域では経営環境が一段と厳しくなる。
需要の減少と省燃費化
第一の大きな要因は、ガソリンそのものに対する需要が長期的に縮小していることである。日本では人口減少に加えて、自動車の燃費性能が向上し、同じ距離を走行しても以前ほど燃料を消費しなくなった。
特にハイブリッド車の普及は、ガソリン需要の構造を変えた。ハイブリッド車はガソリンを使用するため、完全な電動化とは異なるものの、従来型のガソリン車と比較すれば燃料消費量を大幅に抑えられる場合がある。
つまり、道路を走る自動車の台数が急激に減らなくても、1台当たりの燃料購入量が減少すれば、給油所が販売できる燃料総量は縮小する。これはガソリンスタンドにとって極めて重要な変化であり、「車が走っているから給油所も必要」という単純な関係が崩れていることを意味する。
さらに電気自動車の普及が進めば、ガソリンを必要としない車両が増えることになる。現時点では電気自動車が日本の乗用車市場全体を急速に置き換えているわけではないが、長期的には燃料需要を押し下げる方向に作用することは避けにくい。
一方、地方では自動車依存度が高いという事情もある。これは一見するとガソリンスタンドに有利に思えるが、実際には人口そのものが減少しているため、自動車依存度が高くても地域全体の燃料需要が増えるとは限らない。
例えば人口10000人の地域で住民の多くが自動車を使用していたとしても、人口が8000人、6000人へと減れば、同じ自動車依存率であっても地域全体の燃料需要は縮小する。地方のガソリンスタンドが直面しているのは、まさにこの「自動車社会のまま需要だけが減っていく」という矛盾である。
しかも、燃料需要が減少すると価格競争が激しくなりやすい。限られた顧客を複数の給油所が奪い合うため、価格を下げて販売量を確保しようとする動きが生まれ、結果として販売数量を維持しても利益が残りにくくなる。
このため、需要減少は単純に「売上が減る」という問題ではない。需要減少によって競争が激化し、販売価格や利益率が圧迫され、その結果として設備更新や人材確保に使える資金まで減少するという二次的な影響を生み出す。
経営者の高齢化と後継者不足
第二の問題が、経営者の高齢化と後継者不足である。これは地方のガソリンスタンドに限った問題ではないが、設備産業として一定の資金を必要とする給油所では、事業承継の難しさが廃業に直結しやすい。
長年にわたって地域の給油所を経営してきた事業者の場合、経営者本人が顧客との関係、仕入れ先との取引、従業員の管理、地域の農家や運送業者との契約などを一手に担っているケースもある。ところが子どもなどが事業を引き継ぐ意思を持たなければ、経営者の引退がそのまま店舗の閉鎖につながる。
特に問題なのは、将来性に不安がある事業を若い世代が積極的に引き継ぎにくいことである。燃料需要が減少し、設備更新にも多額の資金が必要となる一方、人口減少によって将来的な顧客数も減る可能性が高いからである。
事業承継では、単に店舗と会社を譲れば終わるわけではない。地下タンクや給油設備などの資産を維持し、必要な安全対策を行い、従業員を確保し、仕入れ価格と販売価格の差から利益を確保しなければならない。
したがって後継者から見れば、ガソリンスタンドは「地域に必要だから残す」という社会的価値があっても、それだけで生活を支えられるとは限らない。社会的には必要な事業と、民間企業として採算が取れる事業との間に大きな隔たりが生じている。
さらに、経営者が高齢化している場合には、廃業を選択する心理的・経済的なハードルが低くなることもある。後継者がいない状態で多額の設備投資を行い、10年、20年先まで経営を続けることには大きなリスクが伴うためである。
この結果、現在の給油所がなくなるだけでなく、次の世代に引き継がれるはずだった地域の燃料供給網そのものが途切れる。ここにガソリンスタンド問題の特殊性がある。
設備投資の負担(消防法規制)
第三の問題が、設備の老朽化と更新費用である。ガソリンスタンドでは、ガソリンなどの危険物を取り扱うため、消防法をはじめとする安全規制の対象となっている。
給油所の地下には燃料を貯蔵するタンクが設置されており、これらの設備は永続的に使用できるものではない。老朽化したタンクや配管については安全性を確保するための点検、修繕、交換などが必要となり、設備の状況によっては大規模な更新が必要になる。
問題は、設備更新の必要性が燃料販売量とは無関係に発生することである。地域の燃料需要が半分になったからといって、地下タンクの更新費用が半分になるわけではない。
むしろ販売量が減少した事業者ほど、設備投資の負担は相対的に重くなる。年間数百万円、場合によってはそれ以上の投資が必要になったとしても、将来的な燃料販売によって回収できる見込みがなければ、経営者は投資より廃業を選択することになる。
消防法上の安全確保は当然必要であり、安全規制そのものを問題視することは適切ではない。問題は、人口減少によって収益基盤が縮小している地域で、安全性を維持するための設備投資を誰が負担するのかという点にある。
この構造は、地方の給油所ほど不利になる。大都市圏や交通量の多い幹線道路沿いの給油所であれば、設備更新後も大量の燃料を販売して投資を回収できる可能性があるが、人口の少ない山間部や離島では同じ投資額を少ない販売量で回収しなければならない。
そのため、設備更新の時期が事業継続の分岐点になる。経営者が「ここで数千万円規模の投資をしても将来回収できない」と判断すれば、設備を更新せずに廃業するという選択につながる。
こうした事情から、地方のガソリンスタンドでは「赤字だからすぐ倒産する」というより、「将来の設備投資まで考えると事業を継続できない」という理由で廃業するケースが重要になる。これは統計上の倒産件数だけでは把握しにくい、地方の燃料供給網が縮小する根本的な要因である。
そして、ここまでの要因を重ね合わせると、ガソリンスタンドの経営悪化が単純な一時的問題ではないことが分かる。需要は減少し、燃費は向上し、人口は減り、経営者は高齢化し、後継者は不足し、その一方で安全確保のための設備投資は必要になるという、相反する圧力が同時にかかっている。
この状態では、経営努力だけで問題を解決することは難しい。価格を上げれば顧客が離れ、価格を下げれば利益が減り、投資をすれば資金負担が増え、投資をしなければ安全面や事業継続性に問題が生じるという、地方SS特有の経営上の袋小路が形成されている。
収益性の悪化
ガソリンスタンドの減少を理解するうえで最も重要な問題のひとつが、燃料を販売しても十分な利益を確保しにくくなっていることである。ガソリンは生活に欠かせない商品である一方、給油所側から見ると価格競争が激しく、販売量を増やしても必ずしも利益が大きくなるとは限らない。
ガソリンスタンドの収益は、基本的には仕入れた燃料を販売した際の価格差によって生み出される。ところが地域の給油所同士が顧客を奪い合えば、販売価格を引き下げる必要が生じ、仕入れ価格や人件費、電気料金、設備維持費などが上昇しても、そのすべてを販売価格へ転嫁することは難しい。
特に人口の少ない地域では、そもそも販売数量を大きく伸ばすことができない。交通量の少ない道路沿いに立地する給油所では、周辺住民や事業者から得られる需要だけで店舗を維持しなければならず、都市部のように多数の通行車両を取り込むことが難しい。
この問題をさらに深刻にしているのが、セルフ式給油所や大規模事業者との競争である。セルフ式は人件費を抑えやすく、一定の販売量を確保できる事業者ほど価格競争力を持ちやすい。一方、地方の小規模給油所ではフルサービスを維持しながら地域住民に対応しているケースも多く、価格だけを比較されると不利になりやすい。
もちろん、地方の給油所にも価格以外の役割がある。灯油の配達、農業用燃料の供給、洗車、タイヤ交換、自動車整備、車検など、燃料販売以外の事業を組み合わせることで経営を維持している事業者も存在する。
しかし、その「油外収益」も人口減少の影響から逃れることはできない。地域の自動車保有台数や利用者数が減少すれば、整備やタイヤ交換などの需要も縮小し、燃料販売の減少を補うことが難しくなるからである。
つまり、地方のガソリンスタンドは燃料販売だけでは利益を確保しにくくなり、燃料以外のサービスによって補おうとしても、その市場自体が人口減少によって縮小するという二重の問題に直面している。
さらに、ガソリンスタンドは営業時間を短縮すれば簡単に経営を改善できるわけでもない。地域によっては早朝や夜間の給油需要があり、農業や運送業などの事業者が営業時間外にも燃料を必要とするため、営業時間を維持すること自体が地域サービスの一部となっている。
その結果、人件費を削減したくても必要な営業時間を維持するために従業員を配置しなければならず、逆に人手不足によって営業時間を短縮すれば、住民にとっての利便性が低下するという問題が生じる。
このように、ガソリンスタンドの経営悪化は「燃料が売れない」という単純な話ではない。販売量が減少し、価格競争が強まり、固定費負担が相対的に上昇し、人件費やエネルギーコストが増え、設備更新費まで必要になるという複数の要素が同時に作用している。
地域社会への影響と課題
給油所が1店舗閉鎖しただけなら、近隣の別の給油所へ行けばよいと考えられるかもしれない。しかし地方では、1店舗の閉鎖が地域全体の燃料供給に大きな変化をもたらす場合がある。
都市部では数キロ圏内に複数の給油所が存在することも珍しくないが、人口密度の低い地域では事情がまったく異なる。最寄りの給油所まで10キロ、20キロ、それ以上という地域もあり、ひとつの店舗が閉鎖するだけで住民の移動距離が大きく伸びる。
この距離の問題は、若い世代より高齢者に大きな影響を与える。自動車を運転できる高齢者であっても、遠距離の給油や買い物、通院を繰り返すことは負担となり、運転を控えるきっかけになる可能性がある。
また、給油所の減少は農業にも影響する。農業機械や軽トラックなどには燃料が必要であり、農繁期には一定量の燃料を安定して確保しなければならない。近隣の給油所がなくなれば、農家は遠方まで燃料を取りに行く必要が生じ、時間的・経済的な負担が増える。
物流業界への影響も無視できない。トラック輸送は燃料供給に依存しており、地方の幹線道路沿いに給油拠点が減少すれば、運行計画そのものに影響を与える可能性がある。
さらに、建設業、林業、除雪業、訪問介護など、地域に根ざした多くの仕事が自動車と燃料を必要としている。ガソリンスタンドはそれらの事業者に燃料を供給することで、地域経済の基盤の一部を担っている。
したがって給油所の閉鎖は、店舗経営者だけの問題ではない。地域住民の移動、農林業、物流、建設、福祉、医療など、幅広い分野の活動コストを押し上げる可能性がある。
ここで重要なのが、燃料供給の空白が発生する地域の増加である。経済産業省・資源エネルギー庁は、給油所が地域から減少することによって、住民が燃料を入手することが困難になる「SS過疎地」の問題を政策課題として位置付けている。
「燃料供給の空白地帯(SS過疎地)」の拡大
SS過疎地とは、給油所の数が少なく、住民が燃料を入手しにくくなっている地域を指す。単純に給油所の数が少ないだけではなく、地域住民が日常生活を維持するために必要な燃料供給へのアクセスが悪化していることが本質である。
この問題は、給油所が減少するにつれて直線的に悪化するわけではない。むしろ一定の段階を超えると、地域の燃料供給網が急激に脆弱になる可能性がある。
例えば地域内に5店舗の給油所が存在していた場合、1店舗が閉鎖しても住民は別の店舗を利用できる。しかし残りが2店舗、1店舗となれば、次の1店舗の閉鎖が地域全体の燃料供給に与える影響は格段に大きくなる。
つまり、給油所の減少には「数」だけでは測れないネットワーク上の問題がある。一定数を下回った段階で、残った給油所が地域の燃料供給を事実上独占する状態となり、その店舗の廃業が地域全体の供給危機につながる。
さらに、給油所の経営者から見れば、近隣店舗の廃業によって一時的に顧客が増えることがある。しかし、その顧客増加が将来の人口減少や燃料需要減少を上回るとは限らず、短期的な販売量の増加だけでは長期的な事業継続を保証できない。
このため、地域で最後まで残った給油所が「最後の1店舗」になった時点で、むしろ事業者の社会的な重要性が極めて高くなる。ところが、その店舗ほど代替する競合店がないために価格競争が緩和される一方、設備更新や人材確保といった経営上の問題を単独で抱えることになる。
ここには、民間事業としての採算性と地域インフラとしての必要性の衝突がある。地域住民にとっては「なくなっては困る施設」であっても、その施設を民間企業が赤字を抱えて維持し続けることには限界がある。
この問題を解決するため、国や自治体では給油所の維持、事業承継、設備更新、共同運営などを支援する取り組みが進められている。しかし、すべての給油所を従来と同じ形で維持することは現実的ではなく、地域ごとに必要な供給拠点をどこに残すのかという選択も必要になる。
特に人口が大きく減少する地域では、「すべての集落に給油所を残す」という考え方には限界がある。そのため、複数地域をカバーする中核的な給油所を確保し、そこへ需要を集約する方法や、自治体、農協、地域企業などが共同で運営する仕組みが重要になる。
一方で、給油所までの距離が伸びすぎれば、高齢者や農業従事者など自動車への依存度が高い住民ほど負担を受ける。燃料供給拠点を集約すれば経営効率は高まる可能性があるが、生活者側の移動距離は増えるというトレードオフが存在する。
ここまで見てくると、ガソリンスタンドの減少が単なる店舗数の問題ではないことが明確になる。問題は、人口減少によって需要が縮小する地域で、誰が、どの程度の費用を負担して燃料供給網を維持するのかという、地方社会そのものの問題なのである。
ライフライン・防災機能の喪失
ガソリンスタンドが地域から消えることの重大な意味は、平時の給油だけにあるわけではない。災害が発生した場合、燃料は消防車、救急車、警察車両、自治体車両、医療関係車両、物流車両などを動かすために不可欠である。
大規模災害では、電力や通信だけでなく燃料供給も同時に問題になる。道路が寸断されれば燃料輸送そのものが難しくなり、地域内に残された給油所が重要な燃料供給拠点になる。
特に地方では、都市部のように多数の代替施設が存在しない。そのため平時には「少し不便になるだけ」と考えられる給油所の閉鎖が、災害時には地域の対応能力そのものを低下させる可能性がある。
この点から見ると、ガソリンスタンドには市場価格だけでは評価しにくい社会的価値が存在する。燃料販売による通常の収益だけでなく、地域交通、物流、農業、防災を下支えするインフラとしての価値を持っているからである。
しかし、その社会的価値に対して民間事業者が十分な対価を得られる仕組みは必ずしも確立していない。ここに「地域には必要だが、民間企業だけでは維持できない」という現在のSS問題の核心がある。
そして、この矛盾が解消されないまま廃業が進めば、「給油所がなくなる→生活が不便になる→地域の人口がさらに減る→需要がさらに減る→残った給油所の採算が悪化する」という悪循環が形成される。
これは単なるガソリンスタンド業界の縮小ではない。地域の人口減少と生活インフラの縮小が互いを強め合う、地方社会の構造的な問題なのである。
日本の地方が直面する課題のひとつ
ここまで見てきたように、ガソリンスタンドの減少は燃料販売業界だけの問題ではない。人口減少と高齢化が進む日本の地方では、生活に必要なサービスを維持するための需要そのものが縮小しており、ガソリンスタンドもその影響を直接受けている。
地方では、商店、銀行、診療所、公共交通、郵便局など、かつて地域の中に存在することが当然だった施設が減少している。人口が減少すれば利用者が減り、利用者が減れば事業としての採算が悪化し、採算が取れなくなれば施設が撤退するという構造が、さまざまな分野で共通して発生している。
ガソリンスタンドも例外ではない。むしろ自動車依存度が高い地方ほど、燃料供給という生活に不可欠な機能を担っているため、店舗数の減少と住民生活の維持が強く結びついている。
この問題の難しさは、人口減少そのものを短期間で反転させることが困難な点にある。仮に給油所へ補助金を出して一定期間営業を維持できたとしても、地域人口が減り続ければ燃料販売量はさらに減少し、同じ問題が再び発生する可能性が高い。
したがって必要なのは、単純に「廃業する給油所をすべて救済する」という政策だけではない。将来の人口、交通量、農業、物流、防災などを考慮しながら、地域に最低限必要な燃料供給拠点をどのように配置するかを考える必要がある。
生活インフラ崩壊の縮図
ガソリンスタンド問題をさらに大きな視点で見ると、これは日本の地方で進行している「生活インフラ崩壊」の縮図ともいえる。ここでいう崩壊とは、ある日突然すべての施設が消えることではなく、必要なサービスが少しずつ減り、住民が生活を維持するために必要な距離と費用が徐々に増えていく状態を指す。
例えば近所の給油所が閉鎖されても、隣町に給油所が残っていれば生活は直ちに破綻しない。しかし隣町の給油所まで閉鎖されれば、さらに遠くまで移動しなければならず、給油だけでなく買い物や通院など他の用事も同時に組み合わせる必要が生じる。
このような変化は、住民一人ひとりにとっては小さな不便に見える。しかし地域全体で積み重なれば、生活コストの上昇につながる。
特に自動車を運転できない人や、運転を控える高齢者にとっては、その影響が大きい。給油所がなくなることによって移動距離が伸びれば、自動車を持たない住民と持つ住民との間で生活上の格差がさらに拡大する可能性もある。
また、給油所の減少は他の生活サービスの減少と組み合わさることで影響を増幅させる。近隣の商店が閉鎖され、病院が遠くなり、路線バスが減便され、そのうえ給油所までなくなれば、住民は自動車に依存しながら、その自動車を維持するための燃料を得ることも難しくなる。
これは地方社会が抱える矛盾のひとつである。公共交通が縮小するため自動車への依存度は高まる一方、自動車を動かすために必要な燃料供給拠点は減少している。
つまり地方では、「自動車が必要なのに、自動車を維持するためのインフラが縮小する」という状態が発生している。ガソリンスタンドの減少は、この矛盾を最も分かりやすく示す現象のひとつである。
今後の展望
では、今後のガソリンスタンドをどう維持すべきなのか。第一に考えられるのは、地域内の給油所を無条件にすべて維持するのではなく、将来の人口と需要を踏まえて重要拠点を選び、そこへ支援を集中する方法である。
すべての地域に同じ数の給油所を残すことは、人口減少が進む日本では現実的ではない。むしろ一定範囲の住民、農業者、物流事業者などが利用できる中核的な給油所を確保し、そこについては設備更新や事業承継を重点的に支援する方が持続可能性は高い。
その際に重要になるのが、自治体と民間事業者の役割分担である。ガソリンスタンドを単純な民間商業施設として扱うだけでは、採算性が低い地域で事業を維持することは難しい。
一方、自治体がすべての給油所を直接運営することにも限界がある。必要なのは、燃料供給を地域インフラのひとつとして位置付けたうえで、民間事業者、自治体、地域団体、農業関係団体などが役割を分担する仕組みである。
すでに一部の地域では、給油所の共同運営や自治体による支援、地域企業との連携など、さまざまな取り組みが行われている。重要なのは、廃業してから対策を始めるのではなく、経営者の引退や設備更新の時期を事前に把握し、地域の燃料供給が途切れる前に対策を講じることである。
事業承継についても、従来の「親から子へ」という形だけに依存する必要はない。複数の給油所をまとめて運営する企業への事業譲渡、地域企業による引き継ぎ、複数事業者による共同運営など、経営規模を拡大して効率を高める方法も考えられる。
また、ガソリンスタンド単独で収益を確保することが難しくなるのであれば、燃料販売以外の地域サービスと組み合わせることも重要になる。自動車整備、タイヤ交換、灯油配送、宅配、買い物支援など、地域の需要を一つの拠点に集約することで、施設全体の収益性を高められる可能性がある。
ただし、ここで忘れてはならないのが、燃料需要そのものが長期的には縮小する可能性である。省燃費化や電動化が進めば、ガソリンスタンドは従来と同じ方法で燃料販売量を確保することが難しくなる。
そのため将来の給油所には、「ガソリンを売る場所」から「地域の移動とエネルギーを支える拠点」への転換も求められる可能性がある。電気自動車の充電設備、蓄電池、地域交通との連携など、新しい需要を取り込むことが長期的な課題になる。
しかし、電動化が進んだからといって、直ちにガソリンスタンドが不要になるわけではない。ガソリン車、ハイブリッド車、トラック、農業機械、建設機械など、今後も液体燃料を必要とする車両や機械は長期間残ると考えられ、特に地方では燃料供給機能の重要性が一定期間続く可能性が高い。
むしろ問題は、ガソリン需要が減少していく過程で、燃料供給網をどの程度の規模で維持するかである。需要が100ある時代の供給網を需要が70、50と減っていく地域でそのまま維持しようとすれば、過剰設備となり、事業者の経営を圧迫する。
したがって、今後は「すべてを残すか、すべてをなくすか」という二者択一ではなく、必要な拠点を選択し、そこへ資源を集中する発想が必要になる。これはガソリンスタンドだけでなく、病院、公共交通、商店、行政サービスなど、人口減少地域のさまざまなインフラに共通する考え方でもある。
まとめ
日本のガソリンスタンドは、長期的な減少局面に入っている。2026年時点では倒産や休廃業・解散の増加が続き、過去10年間で1700社を超える事業者が市場から退出するなど、問題は一時的な景気変動を超えた構造的な段階に入っている。
その背景には、人口減少、自動車の省燃費化、燃料需要の減少、価格競争、人件費や電気料金などのコスト上昇、経営者の高齢化、後継者不足、老朽設備の更新負担などが複合的に存在する。どれか一つを解決すれば問題が解消するという状況ではなく、複数の要因が互いに経営を圧迫している。
そして、最も重要なのはガソリンスタンドが単なる燃料販売店ではないという点である。地方では自動車を利用する住民、農業、物流、建設、福祉、医療などを支える燃料供給拠点であり、災害時には地域の復旧活動を支える防災拠点にもなり得る。
そのため、給油所の減少は一企業の廃業として処理できない場合がある。一定地域から給油所がなくなれば、住民の移動距離が伸び、生活コストが上昇し、農業や物流にも影響が及び、さらに地域の居住環境が悪化する可能性がある。
ここに「SS過疎地」の問題がある。給油所が減少することで燃料へのアクセスが悪化し、生活の利便性が低下し、その地域の人口流出をさらに促す可能性があるためである。
ガソリンスタンドの減少は、日本の地方が直面している人口減少問題を目に見える形で示している。需要が減ることで商業施設が維持できなくなり、施設がなくなることで生活コストが上昇し、生活コストの上昇がさらに人口減少を促すという循環が、燃料供給の分野でも発生している。
だからこそ、今後必要なのは単純な店舗数維持ではない。人口、交通、農業、物流、防災などを総合的に考え、地域にとって最低限必要な燃料供給網をどのように維持するのかを決めることである。
そのためには、廃業直前になって補助金を投入するのではなく、経営者の年齢、後継者の有無、設備の更新時期、地域人口、燃料需要などを早期に把握する必要がある。地域の最後の給油所がなくなってから対応するのでは遅く、地域全体の将来計画の中で燃料供給を考えることが求められる。
同時に、ガソリンスタンド側にも事業モデルの転換が必要になる。燃料販売だけに依存せず、自動車整備、灯油配送、地域交通、電気自動車の充電、エネルギー関連サービスなどを組み合わせ、地域の総合的なサービス拠点へ転換できるかが重要になる。
もっとも、すべての給油所が生き残れるわけではない。人口が大幅に減少する地域では、給油所の集約や拠点化が避けられず、住民側にも一定の負担を求めざるを得ない地域が出てくる可能性がある。
最終的に問われているのは、「ガソリンスタンドを何店舗残せるか」ではない。人口が減少する日本で、住民が最低限の移動と生活を維持するために必要な燃料供給網を、どのような規模と仕組みで残すのかという問題である。
ガソリンスタンドの減少は、地方社会の未来を考えるためのひとつの警告でもある。店舗がなくなること自体が問題なのではなく、店舗がなくなった後に、誰がその機能を担うのかが決まっていないことこそが最大の問題なのである。
参考・引用リスト
- 経済産業省・資源エネルギー庁「SS過疎地対策」関連資料
- 経済産業省・資源エネルギー庁「石油製品販売業の現状」関連資料
- 経済産業省・資源エネルギー庁「給油所数の推移」関連統計
- 経済産業省・資源エネルギー庁「SS過疎地対策協議会」関連資料
- 帝国データバンク「ガソリンスタンド運営事業者の倒産・休廃業動向」関連資料
- 帝国データバンク「全国企業倒産集計」関連資料
- 消防庁「危険物施設の現状」関連資料
- 国土交通省「地域交通・地方部の移動手段」に関する資料
- 総務省「人口減少地域における生活サービス」に関する資料
- 各地方自治体によるSS過疎地、燃料供給、地域交通に関する調査・政策資料
追記:数字が示しているもの
今回のテーマで最初に確認すべきなのは、「ガソリンスタンドが減っている」という事実と、「ガソリンスタンド運営事業者が倒産・廃業している」という事実を混同しないことである。給油所数の減少は店舗・施設の数を示す指標であり、倒産・休廃業・解散の統計は事業者の退出を示す指標であるため、両者は同じ数字ではない。
そのうえで、2026年9月12日に公表された帝国データバンクの調査では、2026年1~8月にガソリンスタンド運営事業者の倒産が19件、休廃業・解散が125件発生し、合計144件となった。前年同期を約1割上回り、1~8月としては過去10年で最も高い水準となっており、年間では5年連続の増加となる可能性が示されている。
また、同調査では過去10年間に1700社を超えるガソリンスタンド事業者が倒産や休廃業・解散によって市場から退出したとされている。このため、今回のタイトルにある「10年で1700社超が消滅」という表現は、正確には「ガソリンスタンドそのものが1700店舗消滅した」という意味ではなく、「ガソリンスタンドを運営する事業者が1700社超、市場から退出した」という意味で理解する必要がある。
この区別は重要である。1社の企業が複数の給油所を運営している場合もあるため、事業者数の減少と給油所数の減少は1対1には対応しないからである。
一方、給油所数そのものも長期的には大幅に減少している。資源エネルギー庁は、1990年代半ばに6万カ所を超えていた全国のサービスステーションが、現在では約3万カ所規模まで縮小していることを示しており、燃料供給網の規模そのものが長期的に縮小してきたことは明確である。
つまり、「事業者が退出している」という企業側の統計と、「給油所が減少している」という施設側の統計は別々の現象ではあるものの、長期的な燃料需要の縮小と事業環境の悪化という同じ構造の中で進んでいると考えられる。
「地方で消える」という表現の意味
では、なぜ問題が特に「地方で消える」と表現されるのか。理由は、給油所の収益性が商圏人口や交通量に強く左右される一方、人口減少の影響が大都市圏より地方で先行しているからである。
帝国データバンクの最新調査では、地方に本社を置くガソリンスタンド事業者の約4社に1社が赤字とされている。首都圏でも2割超が赤字とされていることから、問題が地方だけに限定されるわけではないが、地方では人口減少と高齢化によって商圏そのものが縮小するため、収益回復の余地がより小さい。
さらに、ガソリンそのものの販売利益は大きくない。最新調査では、セルフ式給油所や大手チェーンとの価格競争を背景に、ガソリン1L当たりの利益は数円程度にとどまるケースが多く、車検、洗車、板金整備、レンタカーなどの燃料以外の収益が重要になっているとされる。
この構造では、人口の多い都市部であれば一定量の燃料販売と関連サービスによって利益を確保できても、人口の少ない地域では同じ事業モデルを成立させることが難しい。地域唯一の給油所であっても、それだけで十分な利益が保証されるわけではない。
むしろ「地域唯一」という状態は、経営者にとって別の負担を生み出す場合がある。地域に代替施設がないため簡単には営業時間を短縮できず、住民から必要とされるサービスを維持しながら、減少する需要の中で経営を続けなければならないからである。
「SS過疎地」は単なる店舗不足ではない
資源エネルギー庁が問題視している「SS過疎地」は、単にガソリンスタンドの店舗数が少ない地域を意味するものではない。重要なのは、住民が日常生活を維持するために必要な燃料を、合理的な距離と時間で入手できるかどうかという点にある。
2026年には資源エネルギー庁が「新たな地域燃料流通に関する研究会」を開催し、過疎地における給油所維持のあり方や、新しい地域燃料流通の仕組みについて検討を進めている。2026年6月には自治体向けのSS過疎地ガイドライン案も研究会資料として示されており、国も問題を単なる民間企業の経営問題ではなく、地域政策上の課題として扱っている。
これは重要な変化である。従来の発想では、給油所が赤字になれば企業が撤退し、別の企業が参入するという市場原理が基本だったが、人口減少地域では需要そのものが小さくなっているため、撤退後に新しい民間事業者が参入するとは限らない。
つまり、人口減少地域では「競争相手が撤退したから残った企業が儲かる」という通常の市場メカニズムが機能しにくい。残った企業が地域の燃料供給を一手に担うようになっても、人口そのものが減少していけば、その店舗の採算性も時間とともに悪化する可能性がある。
この点が、SS過疎地問題を難しくしている。単なる競争政策では解決できず、人口構造、交通政策、地域経済、農業、物流、防災などを同時に考えなければならないからである。
防災拠点としての価値
ガソリンスタンドの社会的価値を考える場合、防災機能も重要になる。資源エネルギー庁によると、住民拠点サービスステーションは自家発電設備を備え、災害などによる停電時にも地域住民への給油を継続できる仕組みである。
2026年3月31日時点では、全国約30000カ所のサービスステーションのうち14215カ所が住民拠点サービスステーションとなっている。これはガソリンスタンドが単なる商業施設ではなく、災害時の燃料供給拠点として政策的にも位置付けられていることを示している。
もちろん、住民拠点サービスステーションであっても、施設そのものが災害によって損壊した場合などには給油できない可能性がある。そのため、店舗数が減少すれば即座に防災機能が消滅するという単純な関係ではないが、地域内の燃料供給拠点が少なくなるほど、災害時の代替性が低下するという問題は残る。
特に道路が寸断されやすい山間部や離島では、地域外から燃料を運び込むこと自体が困難になる可能性がある。こうした地域では、平時の採算性だけでは評価できない「最後の燃料拠点」としての価値をどう扱うかが重要になる。
これから必要になる政策
今後の政策で重要なのは、すべてのガソリンスタンドを一律に救済することではない。人口減少が進む地域で従来と同じ数の給油所を維持することは、需要と供給の両面から見て難しいからである。
必要なのは、地域ごとに「最低限必要な燃料供給網」を明確にすることである。人口、交通量、農業、物流、公共交通、防災拠点などを考慮し、どの給油所を地域の中核拠点として残すべきかを事前に判断する仕組みが求められる。
そのうえで、設備更新、事業承継、共同運営、自治体支援などを組み合わせる必要がある。特に重要なのは、経営者が引退を決めてから対応するのではなく、数年前から地域の燃料供給の将来を検討することである。
資源エネルギー庁が2026年に新たな地域燃料流通について研究を進めていることは、こうした問題意識の表れといえる。国の資料でも、過疎地の給油所を単独の民間事業者だけに依存するのではなく、地域の実情に応じた新しい燃料流通のあり方が検討されている。
また、給油所の経営モデルそのものを変えることも必要になる。燃料販売だけに依存するのではなく、自動車整備、灯油配送、地域交通、充電設備などを組み合わせ、地域の移動とエネルギーを支える複合拠点へ転換することが選択肢になる。
ただし、電気自動車の充電設備を導入すれば問題がすべて解決するわけではない。人口減少地域では電力需要そのものが限られるうえ、既存のガソリン車、トラック、農業機械、建設機械などへの燃料供給も長期間必要になる可能性がある。
したがって、今後の地域燃料政策は「ガソリンから電気へ」という単純な置き換えではなく、複数の移動手段とエネルギーを組み合わせながら、地域の生活をどう維持するかという視点が必要になる。
本当に問題なのは「廃業」なのか
ここまで検証すると、ガソリンスタンドの廃業そのものを問題視するだけでは、本質を捉えられないことが分かる。人口が減少し、燃料需要が減少している以上、一定数の給油所が市場から退出すること自体は経済合理性のある現象でもある。
問題は、退出した後に必要な機能が維持されるのかという点にある。民間企業が撤退することと、地域から燃料供給機能が消えることは同じではないが、人口減少地域では代替する企業が現れない可能性が高く、その差が極めて小さくなっている。
したがって、政策の目的は「企業を永遠に存続させること」ではなく、「地域に必要な燃料供給機能を持続させること」と考えるべきである。企業が変わっても、運営形態が変わっても、必要な地域拠点が残る仕組みを構築することが重要になる。
これは、病院、路線バス、商店などの地方インフラにも共通する考え方である。施設そのものを守ることと、住民が必要とするサービスを守ることは同じではなく、人口減少社会では後者を優先する必要がある。
最後に
2026年9月時点の最新データから見ても、日本のガソリンスタンドを取り巻く環境が厳しさを増していることは明らかである。2026年1~8月だけで倒産19件、休廃業・解散125件、合計144件に達し、1~8月として過去10年で最高水準となっている。
年間では5年連続の増加が見込まれ、過去10年間では1700社を超える事業者が市場から退出した。したがって、今回のタイトルにある「5年連続で増加」「10年で1700社超」という問題提起は、最新の企業退出統計によって概ね裏付けられている。
ただし、「1700社超が消滅」という数字を、そのまま「1700カ所のガソリンスタンドが消えた」と解釈することは適切ではない。この数字は事業者の退出を示すものであり、給油所の施設数とは統計上区別する必要がある。
一方で、全国の給油所数自体も長期的に大幅な減少を続けている。したがって、企業退出と施設数減少という異なる統計を合わせて考えれば、日本の燃料供給網が長期的な縮小局面にあるという結論は変わらない。
そして、その影響が最も深刻になりやすいのが地方である。人口減少によって需要が縮小し、燃料販売の利益が圧迫され、後継者が見つからず、設備更新の負担も重くなることで、地域唯一の給油所まで経営継続が難しくなる。
その先にあるのがSS過疎地の拡大である。給油所の減少は住民の移動距離を伸ばし、農業、物流、建設、福祉などの事業活動にも影響を与え、災害時には燃料供給拠点の不足という問題にもつながる。
だからこそ、ガソリンスタンド問題は「石油需要が減ったから店舗が減っている」という一言では説明できない。これは人口減少によって生活インフラを維持するための経済的基盤が縮小し、その一方で社会的には必要な機能が残り続けるという、日本の地方が直面する大きな矛盾のひとつである。
ガソリンスタンドは、その矛盾が非常に分かりやすく表れる施設である。需要が減っている以上、店舗の集約や撤退は避けられないが、撤退すれば住民生活に影響が出るため、完全な市場原理だけでも、全面的な公的支援だけでも解決できない。
今後必要なのは、地域ごとに燃料供給の重要度を評価し、必要な拠点を選び、その拠点に設備更新や事業承継などの支援を集中することである。さらに、燃料販売だけに依存しない複合的な地域サービス拠点へ転換し、人口減少下でも維持できる事業モデルを作ることが求められる。
結局のところ、問題は「ガソリンスタンドを何店舗残せるか」ではない。「人口が減り、燃料需要が減少する日本の地方で、住民の移動、物流、農業、防災を支える燃料供給機能をどう残すのか」が本当の問いである。
ガソリンスタンドの消滅は、地方の衰退そのものではない。しかし、必要なサービスを維持できる経済規模を地域社会が失いつつあることを示す重要な兆候ではある。
その意味で、地方から消えるガソリンスタンドは、日本の生活インフラが抱える問題を映す鏡である。店舗の数だけを追うのではなく、その背後にある人口構造、地域経済、交通、防災、エネルギー政策まで一体として考えることが、これからの地方政策には必要になる。
参考・引用リスト(追記)
- 帝国データバンク「地方で消えるガソスタ 倒産・廃業、5年連続で増加 10年で1700社が消滅 首都圏でも2割超が『赤字』『地域最後の給油所』に迫る限界」(2026年9月12日)
- 経済産業省・資源エネルギー庁「新たな地域燃料流通に関する研究会」関連資料(2026年)
- 経済産業省・資源エネルギー庁「住民拠点サービスステーションについて」
- 経済産業省・資源エネルギー庁「SS過疎地対策」関連資料
- 経済産業省・資源エネルギー庁「給油所数の推移」関連統計
- 消防庁「危険物施設の現状」関連資料
- 国土交通省「地方部における地域交通・移動手段」関連資料
- 総務省「人口減少地域における生活サービス」関連資料
- 各地方自治体によるSS過疎地、地域燃料供給、事業承継に関する調査・政策資料
