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平成レトロ:デジカメの時代が来た?ブームの背景にある「不便さ」の再評価

デジカメは一度、スマートフォンに敗れた。しかし、その敗北によって生まれた「古さ」そのものが、新しい時代には最大の武器になったのである。
デジカメのイメージ(frankie magazine)
現状(2026年8月時点)

スマートフォンのカメラが高性能化し、日常の写真撮影がほぼスマートフォンだけで完結するようになって久しい。ところが2020年代半ばに入り、その流れとは逆方向に、2000年代から2010年代前半に普及したコンパクトデジタルカメラ、いわゆる「コンデジ」や「オールドコンデジ」が若年層を中心に再評価される現象が広がっている。

これは単純な「古いカメラの復活」ではない。かつてはスマートフォンへの置き換えによって市場から姿を消しかけた低価格コンパクトデジカメが、現在では「平成レトロ」「Y2K」「エモい写真」「撮影体験」といった新しい価値を与えられ、写真機器であると同時にファッションやライフスタイルを構成する小型ガジェットとして消費され始めている。

2026年に入ってからは、この現象を一過性のSNS上の流行だけでは説明しにくくなっている。BCN総研によれば、全国の主要家電量販店やネットショップの実売データを集計したBCNランキングで、コンパクトデジカメの2025年販売台数は前年比127.4%となったとされ、若年層のレトロブームが伸長要因の一つと分析されている。さらに同調査では、デジカメ市場全体に占めるコンデジの販売台数構成比が直近5年間でも6割以上を維持しているとされる。

ここで重要なのは、「デジカメ市場全体が昔の規模に戻った」という意味ではない点である。スマートフォンの普及によってデジタルカメラ市場そのものは2000年代とは大きく異なる構造になっており、現在起きているのは、かつての大量普及市場がそのまま復活するというより、縮小した市場の一部に新しい需要が発生している現象と見るべきである。

実際、CIPA(カメラ映像機器工業会)の2026年の統計をめぐる報道では、カメラ全体の出荷がすべて一様に拡大しているわけではなく、レンズ一体型のコンパクトカメラなど一部カテゴリーが相対的に強い動きを示している。2026年上半期には、固定レンズ型カメラが前年同期を上回る動きを示す一方、デジタル一眼レフやフルサイズミラーレスなどでは弱さもみられ、市場の重心が単純な高性能化だけでは説明できない方向へ変化している。

さらに2026年6月の国内出荷では、レンズ一体型カメラの出荷台数が前月比125.3%となり、構成比が59.1%まで上昇したとBCN総研は報告している。一方でミラーレスは台数、金額とも減少し、平均単価も低下したとされており、少なくとも国内出荷統計には「レンズ一体型が再び存在感を高める」という特徴が表れている。

したがって、2026年の「デジカメ復活」を論じる場合には、二つの現象を区別する必要がある。一つはカメラ産業全体におけるコンパクト機の相対的な持ち直しであり、もう一つは中古のオールドコンデジを中心とする平成レトロ的な消費文化の拡大である。

何が起きているのか?(現象の概要)

現在の現象を最も端的に表現するなら、「高性能なカメラから低性能なカメラへ」という単純な逆転ではなく、「高画質であることが必ずしも写真の価値ではなくなった」という価値観の変化である。

スマートフォンのカメラは、複数レンズ、コンピュテーショナルフォトグラフィー、HDR、夜景処理、AIによる画像補正などを駆使して、暗所でも明るく、人物でも風景でも破綻しにくい写真を自動的に生成する。つまり現代のスマートフォン写真は、「失敗しないこと」「きれいであること」「すぐ共有できること」を徹底的に追求してきた。

ところが、若年層を中心とするオールドコンデジの利用では、むしろその反対側にある特徴が魅力として受け入れられている。低解像感、色の転び、白飛び、暗部のつぶれ、強いフラッシュ、ノイズ、独特のレンズ描写など、最新の画像処理技術なら修正されるはずの要素が「味」として評価されているのである。

この変化は、写真の評価基準が「技術的な完成度」から「記憶や雰囲気を想起させる質感」へ部分的に移ったことを示唆する。2026年に公開されたオールドコンデジ関連の記事でも、最新スマートフォンの「きれいすぎる」画像との差異そのものが、古いデジカメの魅力として紹介されている。

さらに注目すべきなのが、「撮った写真」だけでなく「カメラを持って撮る行為」そのものが商品価値になっていることである。スマートフォンは常に手元にあり、撮影から加工、投稿まで一台で完結するが、デジカメを持ち歩く場合には、カメラを取り出し、電源を入れ、構図を決め、シャッターを押し、後からデータを転送するという一連の手間が発生する。

本来なら、この手間はデジタル化によって排除されるべき「不便さ」だった。しかし現在では、その不便さが「撮影している感覚」を生み出す装置として再評価されている。2026年3月には、ケンコー・トキナーがフィルムカメラのように撮影後に巻き上げ操作を行う「レトロデジ90」を発売し、背面液晶を搭載せず、ファインダーを覗いて撮影するという体験そのものを商品化した。

これは市場にとって重要な変化である。従来のデジタルカメラは「フィルムより便利」「フィルムより大量に撮れる」「撮影結果をすぐ確認できる」といったデジタルの利便性を売りにしてきたが、現在のレトロ系デジカメでは、その一部を意図的に逆戻りさせることで商品価値を作っている。

つまり、デジカメがフィルムカメラに取って代わった歴史の逆方向で、「デジタル技術を使いながら、フィルム時代の不便さや初期デジタルカメラの未完成さを再現する」という奇妙な現象が起きているのである。

中古市場の価格高騰と品薄

このブームを考えるうえで重要なのが、中古市場である。現在人気を集めている機種のすべてが高騰しているわけではないが、特定のメーカー、機種、デザイン、CCDセンサー搭載機などには需要が集中し、状態の良い個体を探すことが難しくなっている。

かつて中古カメラ店やネットオークションで比較的安価に入手できた古いコンパクトデジカメが、SNSで作例を共有されることで突然「欲しいカメラ」に変わるケースもある。しかも2000年代のコンデジはすでに製造終了から長期間が経過しており、新品の供給によって需要を吸収することができないため、人気が集中すれば中古在庫だけが取り合われる構造になる。

ここにはフィルムカメラブームとは異なる特徴もある。フィルムカメラには新品のフィルムという継続的な消耗品市場が存在するが、オールドデジカメの場合、基本的には中古本体そのものが供給源であり、同一機種を追加生産できない。

そのため、SNSで特定機種が注目されると、「人気が上がる→中古価格が上がる→さらに希少性が意識される→購入希望者が増える」という循環が発生しやすい。ただし、すべての中古デジカメが投機対象になっているわけではなく、機種ごとの価格差も大きいため、「オールドコンデジ全般が高騰している」と一般化するのは適切ではない。

むしろ2026年の市場で特徴的なのは、比較的安価な現行コンパクト機と、中古の人気オールド機、高級コンパクト機という複数の市場が並行して拡大していることである。2026年上半期の日本市場については、BCN+Rの販売データを基にした海外報道でも、SNSで話題になりやすい高価格帯コンパクト機とは別に、安価なレトロ系コンパクト機が販売上位を占める傾向が指摘されている。

この点から見ると、現在のブームは「古いデジカメを買う」という一つの現象ではない。中古市場で過去の製品を探す消費と、新品市場で「昔っぽいデザインや写り」を持つ製品を買う消費が同時に成立しているのである。

「SNS文脈」での爆発的流行

オールドコンデジの復活を理解するうえで最も重要な要素の一つが、SNSとの結びつきである。かつてのデジカメは「写真を撮るための道具」だったが、現在では「どのような写真を撮れるか」「その写真をSNS上でどのように見せられるか」まで含めて商品価値が形成されている。

TikTokやInstagramでは、古いソニー、キヤノン、ニコン、パナソニックなどのコンパクトデジカメで撮影した写真を紹介する投稿が増え、「digicam」「Y2K camera」「CCD camera」などの言葉とともに独特の色調やフラッシュ撮影が共有されてきた。豪ABCは2025年、若者のデジカメ人気がTikTokやInstagramを通じて広がり、中古販売業者やカメラ店でも古い機種への問い合わせや注文が増えていると報じている。

ここでSNSが果たしている役割は、単純な広告とは異なる。従来なら「このカメラは画質が低い」「古い」「機能が少ない」という欠点になった特徴が、SNS上で大量の作例とともに共有されることで、「この写りを出すために必要な特徴」へと意味を変えている。

つまり、SNSは製品の情報を伝えるだけでなく、製品の評価基準そのものを作り出している。スマートフォンで撮影した写真との差異が可視化され、「少しぼけている」「フラッシュが強い」「色が独特」という要素が一つの様式として認識されることで、オールドコンデジは単なる中古家電から文化的なアイテムへ変化した。

この現象には「模倣」の力も大きい。同じ機種を使えば、好きなインフルエンサーや芸能人が投稿した写真と似た雰囲気を再現できるため、カメラそのものがファッションアイテムのように機能する。

特に若年層にとって2000年代は、自分自身が当時の文化を十分に理解していなかった時代でもある。そのためY2K文化は単なる「自分が経験した過去の再現」ではなく、写真、音楽、ファッション、携帯電話、ゲーム機などを通じて想像された過去への参加という性格を持つ。

豪ABCが取材した文化研究者は、文化的トレンドが約20年周期で回帰する傾向を指摘し、Z世代によるY2K文化への関心を、直接経験していない時代への文化的参加として説明している。これは、オールドコンデジが単なる中古品ではなく、2000年代という時代を象徴する「記号」として消費されていることを示す。

海外からの波及

日本でのオールドコンデジ人気は、日本国内だけで自然発生したものと考えるより、海外のSNS文化と相互作用しながら形成された現象と捉える方が適切である。実際、日本の中古カメラ販売店への取材でも、海外のハリウッドスターや韓国のインフルエンサーのSNS投稿をきっかけに人気が拡大したとの説明が出ている。

ファッション誌Oggiは、東京都内の中古カメラ店への取材を通じ、2023年初頭にオールドコンデジ専用コーナーを設置したところ予想以上に売れ、その後日本でも人気が急速に拡大したと報じている。同記事では、海外で先行した流行が日本へ入り、数年の間に中古価格が大幅に上昇したとの販売現場の証言も紹介されている。

この流れは、従来の日本発のカメラブームとは少し異なる。日本は長年、キヤノン、ニコン、ソニー、富士フイルムなど世界的なカメラメーカーを抱え、カメラ文化の供給側として強い存在感を持ってきたが、今回のブームでは海外の若者文化やインフルエンサーが「過去の日本製品」を再発見し、その価値を逆輸入する構図が生まれている。

象徴的なのが、2000年代のソニーCyber-shotやキヤノンPowerShotなどである。当時は一般家庭や若者が普通に使用していた製品が、海外では「Y2K aesthetic」を象徴するアイテムとして扱われるようになった。Ars Technicaも、2000年代のコンパクトデジカメを使ってフラッシュを強く当て、低解像度で粒状感のある写真を撮るスタイルがY2K的な表現として注目されていると報じている。

この海外発の評価が日本へ戻ってくることで、「昔は普通だったものが、海外で再評価されている」という逆輸入効果も発生する。国内では「古いデジカメ」と呼ばれていたものが、海外SNSでは「Y2K camera」「vintage digicam」という新しいカテゴリー名を与えられ、それが日本の若者にも再発見されるのである。

香港などアジア圏でもY2KファッションとCCDカメラの組み合わせが紹介され、韓国の芸能人やインフルエンサーの使用例も人気を押し上げる要因になっている。2025年には香港版ELLEも、NewJeansやBLACKPINKなどの人気アーティストを含むY2K文化との関係から、旧型CCDデジカメがファッションアイテム化している状況を取り上げている。

したがって、現在のデジカメブームは「日本で昔のカメラが若者に流行した」という一国型の現象ではない。日本製品、韓国・欧米のポップカルチャー、TikTokやInstagramなどの国際的SNS、Y2Kファッションが相互に影響しながら形成されたグローバルなリバイバル現象と考えるべきである。

なぜ人気なのか?(背景・要因の分析)

では、なぜスマートフォンより性能が低い古いデジカメが、いま改めて選ばれるのか。その答えは一つではなく、「画質」「ノスタルジー」「所有」「撮影体験」「SNS」「価格」「ファッション」という複数の要因が重なっている。

第一に、スマートフォンの写真があまりにも高性能になったことが逆説的な要因になっている。現在のスマートフォンはHDRやAI処理などによって暗部を持ち上げ、顔を認識し、色を補正し、手ぶれを抑え、失敗写真を減らす方向に進化してきた。

これは一般的な記録写真にとって大きなメリットである。しかし同時に、撮影者が意図的に「失敗する」余地を小さくしたともいえる。

オールドコンデジはその反対側にある。暗い場所ではノイズが出やすく、フラッシュを使えば被写体が強く照らされ、動けばぶれ、逆光なら白く飛ぶこともある。

しかし、その予測できなさが写真に個体差を生む。最新スマートフォンならソフトウェア処理によって均質化される場面でも、古いデジカメでは撮影環境や設定、レンズ、センサーの特性によって結果が変わるため、「その瞬間にしか撮れなかった写真」という感覚が生まれやすい。

第二に、スマートフォンから距離を置きたいという需要もある。スマートフォンはカメラであると同時にSNS、メッセージ、動画、ゲーム、ニュース、検索などを一つにまとめた端末であり、写真撮影中にも別の情報へ注意が奪われる。

その点、デジカメは基本的に写真を撮るための機械である。米ワシントン・ポストは2025年、若い世代の一部がスマートフォンから離れ、ポケットサイズのデジカメに「撮影だけに集中できること」や、独特のビンテージ感を求めていると報じた。CIPA統計でも2025年上半期のレンズ一体型デジタルカメラ出荷は100万台を超え、同紙はスマートフォンとは異なる撮影体験が人気の背景にあると分析している。

第三に、「自分だけの写真」を作りたいという欲求がある。スマートフォンの標準カメラは多くの人が同じように使用するため、撮影結果も似通いやすい。

もちろんアプリやフィルターを使えば差別化は可能だが、オールドコンデジの場合はカメラそのものが写真の個性を決める。そのため「撮影後に加工する」のではなく、「撮影する段階で独特の写真になる」という点が魅力になる。

①「エモい」写り――技術的・質感の再評価

オールドコンデジ人気の核心にあるのが、「エモい」という曖昧な言葉で表現される画像の質感である。これは単なる画質の悪さではなく、現在のスマートフォンでは失われつつある「デジタル写真初期の視覚的特徴」が再評価されていると考えることができる。

2000年代のコンデジでは、現在ほど画像処理性能が高くなかったため、撮影条件によって明暗差が大きく出たり、肌の色が独特に再現されたり、暗部にノイズが発生したりすることがあった。こうした特徴は当時には「改善すべき欠点」とみなされたが、現在では逆に「時代を感じさせる質感」として評価されている。

特に重要なのが、写真の「情報量」である。スマートフォンは細部まで鮮明に写すことを目指すが、古いコンデジでは解像感が低く、細部が曖昧になる。その結果、写真を見る側が不足している情報を記憶や想像で補う余地が生まれる。

この違いは、単純な解像度比較だけでは説明できない。写真を見る人が「これは昔の写真のようだ」と感じるのは、低解像度、色、コントラスト、ノイズ、フラッシュ、レンズの描写など複数の特徴が組み合わさっているためである。

Oggiが中古カメラ店や若年層への取材で紹介したように、「スマートフォンではきれいすぎる」「古いカメラだからこそ年代の雰囲気が出る」という評価は、現在のブームを象徴している。つまり、写真の価値が「現実を正確に再現すること」から、「特定の記憶や時代感を想起させること」へ部分的に移っているのである。

ここには、生成AIや高度な画像処理が急速に普及している2026年ならではの背景もある。写真がますます簡単に補正・加工・生成できるようになるほど、逆に「加工されていないように見える写真」「偶然できた写真」の価値が上がる可能性がある。

実際、2026年の海外カメラメディアでは、Y2K期の低画素コンデジが一時的なブームではなく、数年間にわたり人気を維持しているとの論評も出ている。最新のAI画像処理が「完璧な画像」を目指す時代に、意図的に不完全な画像を選ぶことが、創作上のスタイルになりつつあるとの指摘である。

この意味で「エモい写り」は、単なる画質の低下ではない。それは、デジタル写真が高性能化する過程で切り捨ててきた「偶然性」「不完全さ」「時代性」を、もう一度写真の価値として取り戻す動きなのである。

①「エモい」写り――技術的・質感の再評価

ここまでは、オールドコンデジの人気を「画質が悪いから面白い」という単純な話ではなく、スマートフォンが追求してきた「きれいで失敗しない写真」に対する別の価値観として捉えた。ここではその中心にある低画素、CCDセンサー、強いフラッシュなどの技術的特徴を検証し、なぜ2000年代のデジタル写真が現在の若者に「エモい」と感じられるのかを掘り下げる。

低画素とCCDセンサーの「味」

オールドコンデジを語るとき、頻繁に登場するのが「CCD」という言葉である。CCDはCharge Coupled Deviceの略で、2000年代のコンパクトデジタルカメラなどで広く使われた撮像素子であり、現在主流となっているCMOSセンサーとは構造や信号処理の方式が異なる。

ただし、「CCDだから必ずエモい写真になる」という説明には注意が必要である。写真の見え方は撮像素子だけで決まるものではなく、レンズ、画像処理エンジン、ホワイトバランス、色調設計、露出、JPEG圧縮、撮影条件などが複合的に作用するため、「CCD=独特の色」という単純な因果関係を立てるのは技術的には正確ではない。

それでもCCD搭載機が特定のファンから高く評価される背景には、2000年代という時代の製品設計そのものがある。当時のコンデジは現在ほど高画素化・高感度化・AI処理が進んでおらず、撮影されたJPEGには機種ごとの色やコントラスト、ノイズの出方が比較的はっきり現れた。

例えば、晴天下では色が鮮やかに出る一方、暗い場所ではノイズが増え、人物撮影ではフラッシュによって顔が明るく浮かび上がる。こうした結果は現代のスマートフォンなら自動補正によって抑えられることが多いが、オールドコンデジでは撮影条件そのものが写真の個性として残る。

さらに、当時のコンデジには現在のスマートフォンほど大容量の演算処理を前提としない画像処理が採用されていた。つまり、センサーが取得した情報を高度なAI処理によって「現代的な写真」に作り替える度合いが現在とは異なり、レンズとセンサーとJPEG処理の組み合わせによる「機種固有の絵」が表れやすかったと考えられる。

この点が、現在の若者にとって重要な意味を持つ。スマートフォンでは機種が違っても、標準カメラで撮影すれば非常に似た方向性の写真になるが、オールドコンデジではメーカーや機種を変えるだけで色や明暗、シャープネスの印象が変わる。

したがって、「CCDの味」と呼ばれているものは、CCDという単一の技術だけで説明するより、CCDを含む当時の撮像素子、レンズ、画像処理、低画素数、JPEG処理、撮影環境の組み合わせによって形成された世代固有の画像表現として理解する方が適切である。

低画素だからこそ生まれる質感

ここで重要なのが画素数である。現在のスマートフォンでは数千万画素級の撮像素子が採用されることも珍しくないが、2000年代前半から中盤のコンパクトデジカメは、現在から見ればはるかに少ない画素数で撮影していた。

しかし、写真の魅力は画素数に比例するわけではない。むしろSNSの小さな画面で見る場合、細部を極端に高精細に再現する必要はなく、低解像感やノイズ、色のにじみなどが写真全体の印象を形成する要素になり得る。

これは写真表現における一種の逆説である。技術的には「情報量が少ない」写真なのに、見る側には「情報量が多い」ように感じられる場合があるからだ。

例えば、暗い場所で撮影された人物写真では、最新スマートフォンなら顔の輪郭や背景まで明るく補正されることがある。しかし古いコンデジでは背景が暗く落ち、人物だけがフラッシュで浮かび上がることがある。

その結果、写真は現実を忠実に記録するものではなく、「その場の空気を切り取ったスナップ」に近づく。技術的な欠点が、逆に写真の物語性を高めることがあるのである。

これは「解像度が低ければ低いほど良い」という意味ではない。人気が集まっているのは、低画素そのものではなく、低画素によって生まれる色、階調、ノイズ、シャープネス、圧縮感などが一定の世代感を形成しているからである。

強力なフラッシュが「平成感」を作る

オールドコンデジ人気を語るうえで、CCD以上に分かりやすい特徴がフラッシュである。2000年代のコンパクトデジカメで撮影された写真には、暗い室内で人物だけが突然明るく照らされ、背景が黒く沈むような写真が少なくない。

現在のスマートフォンは暗所撮影に強く、ナイトモードなどを使えばフラッシュを使わずに明るい写真を撮影できる。ところがオールドコンデジでは、暗所でフラッシュを使うことが撮影スタイルそのものになる。

この「強い光」が、現在のSNS文化では一つの視覚的記号になっている。人物の肌を明るくし、背景とのコントラストを強め、写真に直接的なインパクトを与えるため、パーティー、夜の街、友人同士のスナップなどとの相性がよい。

そしてフラッシュには、画像処理だけでは再現しにくい物理的な特徴がある。被写体との距離、背景までの距離、光の反射、レンズの焦点距離などによって結果が変化するため、同じカメラでも撮影条件によって写真の雰囲気が変わる。

そのため、強いフラッシュは単なる照明装置ではなく、オールドコンデジの「個性を作る機能」になっている。最新スマートフォンが自然な明るさを作ろうとするのに対し、古いコンデジは人工的な光によって「写真らしさ」を強調するのである。

② フィルムカメラからの「低コスト・高コスパ」な移行

オールドコンデジの復活は、フィルムカメラブームとの関係から考える必要がある。2020年代前半には若年層を中心にフィルムカメラが再評価されたが、フィルム価格や現像費用の上昇、フィルムそのものの入手性などが普及の障壁になった。

フィルムカメラは撮影そのものに独特の魅力がある一方、1枚ごとにフィルムを消費する。撮影後には現像やデータ化などの費用も発生するため、日常的に大量撮影するにはコストがかかる。

これに対してオールドコンデジは、一度購入すれば記録メディアやバッテリーなどを用意するだけで何度でも撮影できる。機種によっては中古価格が比較的安く、フィルムカメラと同様の「古い写真の雰囲気」を求めながら、ランニングコストを大幅に抑えられる。

ここに若年層にとっての大きな魅力がある。つまりオールドコンデジは、「フィルムのようなレトロ感」と「デジタルの低コスト」という二つの特徴を同時に満たすのである。

さらに、撮影した画像をすぐ確認できることも重要だ。フィルムでは撮影結果を見るまで時間がかかるが、デジカメなら撮影直後に確認できるため、初心者でも扱いやすい。

したがって、オールドコンデジはフィルムカメラの完全な代替品ではないものの、「フィルム写真に興味を持った人が次に選択する低コストな入口」として機能する可能性がある。

これは市場構造上も重要である。フィルムカメラとオールドコンデジは競合するだけでなく、レトロ写真文化という大きな市場を共同で形成しているからだ。

③ Y2Kファッションと「撮影体験」のガジェット化

オールドコンデジ人気をさらに押し上げているのがY2Kファッションである。Y2Kとは一般に2000年前後のファッションやカルチャーを再解釈する潮流を指し、2000年代のデザイン、携帯電話、音楽、ゲーム、ファッションなどが若年層の間で再評価されてきた。

この文化の中では、コンデジは単なる撮影機器ではない。小型で、シルバーやピンクなど当時らしい外観を持ち、ストラップを付けて首や肩から下げられるため、ファッションの一部として成立する。

ここでは「何を撮影するか」だけでなく、「何を持っているか」が重要になる。スマートフォンは多くの人が持っているため所有による差別化が難しいが、特徴的なオールドコンデジなら、機種そのものが個性を表現するアイテムになる。

この現象は、カメラ業界にとっても大きな意味を持つ。従来のカメラ広告では、画素数、ズーム倍率、手ぶれ補正、高感度性能、連写速度などのスペックが重要だった。

ところがレトロデジカメ市場では、「どんな写真になるか」「持っているとかわいいか」「SNSに載せたときに雰囲気が出るか」「撮影している時間が楽しいか」といった感性的な価値が重要になる。

2026年3月に発売されたケンコー・トキナーの「レトロデジ90」は、この変化を象徴する製品の一つである。背面液晶をあえて搭載せず、ファインダーを覗いて撮影し、撮影後にフィルムカメラのような巻き上げ操作を行う仕様を採用しており、デジタルカメラでありながら「撮る行為」を商品化している。

つまり、メーカー側も「高性能なデジカメを作る」だけではなく、「レトロな撮影体験を作る」という新しい商品設計に動き始めている。この方向性は、単なる中古ブームが現行製品の企画思想にまで影響を与えていることを意味する。

ブームの背景にある「不便さ」の再評価

ここまでを見ると、現在のデジカメブームには一つの共通した原理があることが分かる。それは、かつて技術革新によって取り除かれた「不便さ」が、現在では体験価値として再評価されていることである。

撮影結果が完璧ではない、暗い場所ではフラッシュが必要、写真をスマートフォンへ移す手間がある、機種によって画質が大きく異なる、撮影前にカメラを取り出さなければならない。これらはすべて、かつてのデジタルカメラにとって克服すべき問題だった。

しかしスマートフォンによって撮影が極端に簡単になった現在、その「手間」が撮影という行為を意識させる。写真を撮るためだけに機械を持ち歩くことが、日常の中で特別な行為になるのである。

これはレコード、フィルムカメラ、機械式時計、紙の本など、デジタル化によって一度は効率面で劣勢になった製品が再評価される現象とも共通する。ただし、オールドコンデジの場合は完全なアナログ回帰ではなく、デジタル技術を使いながら「昔のデジタル」を楽しむという点に特徴がある。

言い換えれば、現在起きているのは「アナログへの回帰」ではない。「デジタル化された生活の中で、あえて別のデジタル体験を選ぶ」という現象なのである。

ここまでの分析から、オールドコンデジの人気は単なるノスタルジーでは説明できないことが明らかになる。低画素、CCD、フラッシュ、Y2Kデザイン、低ランニングコスト、SNSとの親和性、そして「撮影する」という行為そのものの再評価が重なり、一つの新しい消費文化を形成している。

特に重要なのは、「性能が低いから売れない」という従来の家電市場の常識が崩れていることである。性能が低いことが明確な欠点ではなくなり、むしろ「他のカメラとは違う写真を撮れる」という差別化要因に転換されている。

このブームがもたらす影響と構造変化

ここまで見てきたように、オールドコンデジの人気は「昔のカメラが若者に受けている」という表面的な現象だけでは捉えられない。スマートフォンによって撮影行為が極端に効率化された結果、逆に「専用機を持つこと」「不完全な写真を撮ること」「撮影そのものを楽しむこと」に価値が生まれるという、消費構造の反転が起きている。

従来のデジタルカメラ市場では、新製品が旧製品を置き換えることが基本だった。より高画素、高感度、高倍率、高速処理という性能向上が購買動機となり、消費者は新しい機種へ移行することで、より高性能な撮影環境を手に入れてきた。

ところがオールドコンデジ市場では、その論理が成立しない。2000年代の製品が最新機種より明らかに低性能であるにもかかわらず、その古さ自体が商品価値になっているからである。

これは中古市場にとって大きな意味を持つ。通常、中古電子機器は新製品の登場によって価値が下がるが、オールドコンデジでは「古いからこそ欲しい」という需要が存在するため、製造終了が必ずしも価値の消滅につながらない。

さらに、製造終了によって供給量が増えないことも重要である。人気機種がSNSで紹介されるたびに需要は増加するが、メーカーは過去の製品を大量生産できないため、人気が集中した機種では中古価格が上昇しやすい。

ただし、ここにはバブル的な側面も存在する。SNSで一時的に注目された機種が急激に値上がりし、その後、流行が落ち着けば価格が修正される可能性があるため、「価格上昇=製品の恒久的な価値上昇」と判断するのは危険である。

実際、海外の中古カメラ市場では、2026年上半期にも一部の中古カメラ価格が上昇する一方、すべての機種が同じように値上がりしているわけではないことが報告されている。Digital Camera Worldが中古市場の機種別価格を調査した結果でも、値上がり率には大きなばらつきがあり、人気の集中が市場価格を左右している。

したがって、現在のブームを「中古デジカメ全体の価格革命」と表現するのは適切ではない。正確には、特定の機種やデザイン、センサー、写り、ブランドイメージなどに需要が集中し、その結果として価格差が拡大していると考えるべきである。

カメラ業界の視点の変化

この現象がメーカーに突きつけているのは、「性能競争だけでは新しい需要を生み出せない」という問題である。スマートフォンが写真撮影の基本性能を急速に向上させた結果、一般消費者にとって「わざわざカメラを買う理由」を説明することが以前より難しくなった。

そのためカメラメーカーは、単純な画質競争から「カメラで撮る意味」の提案へと軸足を移し始めている。高画質を必要とするプロや愛好家には高性能ミラーレスを提供する一方、若年層には小型、軽量、デザイン性、簡単な操作、独特の色、SNSとの親和性などを訴求する余地が生まれている。

CIPAの統計からも、デジタルカメラ市場ではカテゴリーごとの明暗が大きくなっていることが分かる。カメラ市場全体がかつてのような大量販売市場に戻ったわけではないが、レンズ交換式カメラとは異なる価値を持つレンズ一体型カメラに一定の需要が戻っていることは注目される。

2026年6月の国内出荷では、レンズ一体型カメラの台数が前月比で大きく伸び、構成比が約6割に達したとBCN総研が報じている。一方でミラーレスは前年同月比で台数、金額とも減少しており、カメラ市場の成長軸が一枚岩ではないことが示されている。

この状況は、メーカーの製品開発にも影響を与える。消費者が求めているのが単なる「最高画質」ではなく、「スマートフォンでは撮れない写真」であるなら、メーカーは高性能化とは別の方向で差別化できる。

例えば、独特の色調を作る画像処理、強いフラッシュ、小型ボディ、レトロな外観、物理ボタン、フィルムカメラを意識した操作などは、スマートフォンとの差別化に使える。

ここで興味深いのは、これらの機能が必ずしも技術的に最先端ではないことである。むしろ古い製品が持っていた特徴を現代的に再解釈することで、新しい価値を生み出している。

これは「技術革新の方向が逆転した」とも表現できる。以前は古い機能を新しい技術で置き換えることが進歩だったが、現在は古い機能を意図的に残したり再現したりすることが、商品差別化につながっている。

消費行動の逆転

オールドコンデジブームの本質を理解するには、「消費者は何にお金を払っているのか」という観点が重要である。従来の家電では、消費者は性能や利便性に対して対価を支払っていた。

しかし現在のレトロ系カメラでは、消費者が購入しているものはハードウェアだけではない。そこには「写真の雰囲気」「所有する楽しさ」「撮影する体験」「SNSで共有できる世界観」「過去の時代への接続」といった無形の価値が含まれている。

これは経済学的には、製品の使用価値に加えて象徴価値が大きくなっていると捉えられる。機能だけを比較すればスマートフォンに大きく劣る製品でも、「このカメラだから撮れる」という差別化された意味を持てば、購入動機が生まれる。

例えば、古いコンデジで撮影した写真をSNSに投稿する場合、写真そのものだけでなく「この写真は○○年発売のカメラで撮った」という情報もコンテンツになる。つまりカメラが写真の付属品ではなく、写真コンテンツの一部になる。

ここでは「所有→撮影→共有→再評価→購入」という循環が生まれる。従来の広告ではメーカーが商品の魅力を説明していたが、SNSではユーザー自身が作例を通じて商品の魅力を説明し、その投稿が次の消費者を生み出す。

この構造は、口コミ以上に強力な場合がある。なぜなら、消費者は広告を見るだけでなく、「実際に誰かが使っている写真」を確認できるからである。

さらに、写真そのものが商品の宣伝素材になる点も特徴的だ。オールドコンデジは、撮影した写真を見せることで「このカメラが欲しい」という欲望を直接刺激できる。

これはファッション産業との類似性が強い。服を着た写真が服そのものの広告になるように、デジカメで撮った写真がカメラそのものの広告になるのである。

「オールドコンデジ」ブーム

ここで「オールドコンデジ」という言葉そのものにも注目する必要がある。これは単に古いコンパクトデジタルカメラを意味するだけではなく、現在のSNS文化の中で特定の価値を持つカテゴリーとして成立しつつある。

かつて中古市場では、コンデジは「古いデジタル機器」として扱われることが多かった。しかし現在は、「平成」「Y2K」「CCD」「エモい」「フラッシュ」「低画素」といった複数のキーワードが結びつき、一つの文化的ジャンルになっている。

このカテゴリー化によって、消費者は自分が何を探しているのかを理解しやすくなった。単に「中古のデジカメを探す」のではなく、「CCDのオールドコンデジ」「Y2Kっぽいコンデジ」「フラッシュが強い機種」など、写真の雰囲気から製品を選べるようになった。

この変化は市場を細分化する。以前は画素数やズーム倍率などのスペックで比較されていた製品が、現在では「色」「質感」「デザイン」「サイズ」「フラッシュ」「SNSでの人気」など複数の軸で評価される。

つまり、カメラ市場に「性能市場」と「文化市場」の二つが併存するようになったのである。プロや写真愛好家にとって重要なのはセンサーサイズやレンズ性能だが、若年層のレトロカメラ需要では、それらとは異なる評価基準が成立している。

なぜ「古いデジカメ」なのか

ここで一つ疑問が残る。なぜフィルムカメラではなく、わざわざ2000年代のデジタルカメラなのか。

その理由としてまず挙げられるのが、世代感である。2000年代のコンデジは、現在の若年層にとって「親や年上の世代が使っていたカメラ」「子どもの頃に家にあったカメラ」といった記憶と結びつきやすい。

つまり、フィルムカメラほど遠い過去ではない。完全に知らない時代ではなく、身近な記憶の周辺にある製品だからこそ、「懐かしい」と「新しい」が同時に成立する。

第二に、デジタルであること自体が重要である。撮影後すぐに画像を確認でき、パソコンやスマートフォンに取り込めるため、SNS文化との相性がよい。

第三に、価格である。もちろん人気機種の中古価格は上昇しているが、フィルムカメラと違って撮影のたびにフィルムや現像費用が必要になるわけではない。

そのため、レトロな写真表現に興味を持った若者が比較的低いハードルで参入できる。これがオールドコンデジ市場の裾野を広げる重要な要因になっている。

ブームは一過性なのか

では、このブームはいつまで続くのか。現時点で「永続する」と断定することも、「一時的な流行」と断定することも難しい。

一過性のブームになる可能性を示す要素としては、SNSトレンドへの依存が挙げられる。特定機種への人気がインフルエンサーや動画投稿によって急上昇した場合、別の製品や新しい撮影スタイルが登場すれば需要が移る可能性がある。

また、古いデジカメは電子機器であるため、フィルムカメラ以上に経年劣化の問題が大きい。バッテリー、液晶、レンズ、記録メディア、電源系統などに故障リスクがあり、中古市場の供給は時間とともに減少する。

一方、ブームが単なる流行を超える可能性もある。最大の理由は、オールドコンデジが「写真文化」だけでなく「Y2K」「ファッション」「SNS」「ガジェット」「ノスタルジー」という複数の文化領域にまたがっていることだ。

一つの流行が終わっても、別の領域から需要が流入する余地がある。さらにメーカーがレトロ系デザインや独特の写りを持つ新品デジカメを投入すれば、中古市場で形成された需要が新品市場へ移行する可能性もある。

つまり、今後重要なのは「オールドコンデジの中古価格が上がり続けるか」ではない。むしろ、レトロなデジタル写真という文化が、一時的な中古品ブームを超えて定着するかである。

2026年のデジカメ再評価は、カメラ市場の単純な復活ではない。それは、スマートフォンによって失われた「専用機を使う意味」を、古いデジタルカメラが別の形で取り戻している現象である。

「高性能だから売れる」という従来の市場原理に対し、「低性能だからこそ違う写真が撮れる」という逆転した価値観が成立している。そして、その価値をSNSが可視化し、Y2Kファッションや平成レトロ文化が補強している。

このため「オールドコンデジ」は単なる中古電子機器ではなく、一つの文化的カテゴリーへ変化しつつある。今後の焦点は、中古品の価格動向そのものよりも、メーカーがこの新しい需要をどのように商品化し、スマートフォンとの差別化につなげるかにある。

今後の展望

ここまでの検証を踏まえると、2026年のデジカメ再評価を「一時的な平成レトロブーム」とだけ捉えるのは適切ではない。確かにSNSの流行に左右される側面は強いが、その背後ではコンパクトデジカメの販売回復、若年層の新規需要、レトロ系新品の登場、撮影体験の再評価という複数の変化が同時に進んでいる。

BCN総研による2026年5月の調査では、2025年のコンパクトデジカメ販売台数は前年比127.4%となった。BCN総研はその伸長要因としてSNSを起点とした若年層のレトロブームを挙げており、コンデジが単なる過去の市場ではなく、現在進行形の消費カテゴリーになっていることを示している。

さらに2026年上半期のBCNランキングでは、KODAKブランドのPIXPRO C1がコンパクトデジカメのシリーズ別販売台数で首位、PIXPRO FZ55が2位となった。両機種についてBCNは、レトロ感のあるデザインと手頃な価格がライト層から支持されていると分析しており、「古いカメラを中古で買う」だけではなく、「レトロ感のある新品を買う」という市場も形成されている。

この点は今後の市場を考えるうえで非常に重要である。中古オールドコンデジの供給量には限界がある一方、新品メーカーは「レトロな外観」「独特の写り」「小型軽量」「簡単操作」といった要素を商品として再構成できるからだ。

したがって、今後のデジカメ市場では、古い機種の中古市場と、それを参考にした新製品市場が相互に影響する可能性が高い。中古市場が需要を発見し、新品メーカーがその需要を商品化するという循環が形成されれば、ブームは単なる中古品人気を超えて産業構造の変化につながる。

「ブームの持続性」をどう評価するか

では、オールドコンデジ人気は今後も続くのだろうか。現段階で最も妥当なのは、「現在の人気機種や価格がそのまま維持されるとは限らないが、レトロなデジタル写真という需要そのものは一定期間残る可能性が高い」という評価である。

理由の一つは、流行を支える世代が一つではないことだ。2000年代を実際に経験した世代にとってはノスタルジーであり、当時を知らないZ世代などにとってはY2K文化としての新鮮さがあるため、同じ製品が異なる意味で消費されている。

豪ABCが2025年に報じた若者のデジカメ人気についても、TikTokやInstagramを通じて古い機種の魅力が広がり、若者が「昔の見た目」や「子どもの頃の記憶」を求めていることが紹介されている。同記事では文化研究者が、流行が約20年周期で回帰する傾向とY2K文化との関連を指摘している。

もう一つの理由は、スマートフォンの高性能化がむしろ差別化需要を生み出していることである。スマートフォンがさらに高画質になればなるほど、一般的な写真については「スマートフォンで十分」という状況が強まる。

そうなると専用カメラは、スマートフォンより高画質であることだけではなく、「スマートフォンとは違う写真が撮れること」に価値を求められる。これはオールドコンデジだけでなく、GRシリーズのような高級コンパクト、インスタントカメラ、レトロデザインの新品デジカメなどにも共通する方向性である。

実際、2026年上半期のBCNランキングでは、KODAKの低価格帯モデルだけでなく、キヤノン、OM SYSTEM、パナソニックなどの製品も上位に入っている。つまりコンデジ市場は一種類の商品によって形成されているのではなく、「安価なレトロ機」「高倍率機」「タフネス機」「高級コンパクト」「ハイブリッド型」など複数の需要が併存している。

この多様性は、ブームが一定程度定着するうえで重要である。特定のSNSトレンドが終わっても、旅行、日常スナップ、アウトドア、ファッション、子どもの撮影など別の用途が需要を支える可能性があるからだ。

一方で「中古価格の高騰」には注意が必要

ただし、ここで一つ冷静に区別しなければならない。デジカメ人気の拡大と、すべてのオールドコンデジの中古価格上昇は同じ現象ではない。

SNSで話題になった機種については需要が急増する一方、同じ年代の製品でもほとんど価格が上がらないものが存在する。価格を左右するのは、ブランド、デザイン、色、センサー、レンズ、作例の多さ、インフルエンサーによる紹介、状態、付属品、希少性など複数の要素だからである。

さらに中古デジカメは電子機器であるため、経年劣化という問題を避けられない。液晶の劣化、バッテリーの寿命、レンズ機構の故障、記録メディアの問題など、フィルムカメラとは異なる故障リスクがある。

このため、現在高値で取引されている機種が、将来も同じ価格を維持するとは限らない。逆に、現在は注目されていない機種が、SNSで新しい作例が広がることによって突然評価される可能性もある。

したがって、オールドコンデジを「投資対象」として捉えるのは慎重であるべきだ。市場の本質は希少性そのものより、「その機種で撮った写真を楽しみたい」という使用価値にあるからである。

カメラ業界への長期的影響

このブームがカメラメーカーに与える最大の影響は、製品開発における「性能」の意味を変える可能性である。

20世紀末から2010年代までのデジタルカメラ市場では、画素数、ズーム倍率、感度、連写速度、液晶性能など、数値化しやすいスペックが競争軸になっていた。スマートフォンの登場後は、さらに高度な画像処理やAIによる補正が加わり、「より失敗しない写真」が追求された。

しかし現在のレトロ系市場では、必ずしも数値性能が購買理由にならない。むしろ「どんな写真になるか」「どんな気分で撮れるか」「持ち歩きたくなるか」といった体験価値が重要になっている。

これはカメラ業界にとって大きな方向転換である。メーカーは「スマートフォンより高性能なカメラ」を作るだけではなく、「スマートフォンでは得られない撮影体験」を作らなければならなくなる。

2026年の市場を見ると、すでにその兆候は明確になっている。BCNのランキングでは、レトロ感や価格を評価されたKODAK PIXPROシリーズが上位を占める一方、富士フイルムのinstax mini Evoやキヤノンのコンパクト機など、異なる価値を持つ製品も支持を集めている。

さらに、2025年のBCN AWARDではレンズ一体型デジタルカメラ部門でKODAKが年間販売数量1位となった。BCNによれば2025年のデジタルカメラ市場全体の販売台数は前年比114.8%、レンズ一体型は127.4%となる一方、ミラーレス一眼は93.5%だった。これは、カメラ市場の回復が「すべてのカテゴリーで高性能化が進む」という形ではなく、コンパクト機を含む複数の方向へ分散していることを示す。

CIPAもデジタルカメラの世界出荷統計を継続的に公開している。2025年の統計を見ると、デジタルカメラ全体の出荷は前年を上回る月が複数確認されるが、現在の市場規模は2000年代の最盛期とは大きく異なるため、「デジカメ黄金時代の完全復活」と表現することはできない。

したがって、業界にとっての本当のチャンスは数量の復活だけではない。縮小した市場の中でも、スマートフォンとは異なる価値を持つカテゴリーを作り出すことで、カメラを再び若年層の生活文化に組み込める可能性が生まれたことにある。

消費行動の逆転が示すもの

今回のブームをより広い消費社会の変化として見ると、興味深い現象が浮かび上がる。それは「新しいものほど価値が高い」という20世紀型の消費モデルが、一部の若年層市場で相対化されていることである。

古いデジカメ、カセットプレーヤー、レコード、フィルムカメラ、古着など、かつては新製品に置き換えられたものが、現在では「新しい体験」を提供する商品として再発見されている。

ここでは「古い=時代遅れ」ではない。むしろ、現在の生活では失われた特徴を持っているからこそ価値が生まれる。

オールドコンデジの場合、その特徴が「低画質」「強いフラッシュ」「物理ボタン」「小型ボディ」「単機能性」「データ転送の手間」などである。これらは2000年代には改善対象だったが、2026年には差別化要素になっている。

この逆転は、デジタル社会が成熟したからこそ起きている。すべてが高速、便利、自動化された環境では、あえて時間がかかるもの、手間が必要なもの、結果を完全には制御できないものが新鮮に感じられるからだ。

したがって、オールドコンデジの人気は「昔が良かった」という懐古主義だけではない。むしろ最新技術を十分に経験した世代だからこそ、その反対側にある不便さを新しい価値として発見していると考えられる。

「オールドコンデジ」は新しい写真文化になったのか

現時点では、「オールドコンデジが新しい写真文化として完全に定着した」と断定するにはまだ早い。しかし、少なくとも単なる一過性のネットミームを超え、販売市場、メーカーの商品企画、中古市場、ファッション、SNSという複数の領域に影響を及ぼしていることは確認できる。

特に注目すべきなのは、需要が中古品だけにとどまっていない点である。2026年上半期の販売ランキングでKODAK PIXPRO C1やFZ55のような現行モデルが上位に入っていることは、消費者が「昔の製品そのもの」だけではなく、「昔っぽい撮影体験」にもお金を払っていることを示唆する。

このことから、今後は「オールドコンデジ」という名称自体が変化する可能性もある。中古の2000年代機を指す言葉から、レトロな画像表現や小型ボディ、簡単な操作、強いフラッシュなどを特徴とする一つの製品ジャンルへ発展する可能性がある。

その場合、カメラメーカーにとって重要なのは、単に昔のデザインを模倣することではない。若年層がなぜオールドコンデジを使いたいのかを理解し、「スマートフォンでは得られない撮影体験」を現代の技術で再構築することになる。

まとめ

2026年8月時点で「デジカメの時代が来たのか」と問うなら、答えは「かつてのデジカメ時代がそのまま戻ったわけではないが、新しい意味でデジカメの価値が再発見されている」となる。

現在のブームを支えているのは、第一に2000年代の写真表現への再評価である。低画素、CCDを含む当時の撮像・画像処理、強いフラッシュ、ノイズ、色の癖などが「エモい」という言葉で再評価され、技術的な欠点だったものが表現上の特徴へと転換された。

第二に、フィルムカメラより低コストで、デジタルならではの扱いやすさを持つことがある。フィルム写真の雰囲気に興味を持った消費者にとって、オールドコンデジは比較的低いコストでレトロ写真に入れる選択肢となっている。

第三に、Y2Kや平成レトロという文化との結合がある。カメラは単なる撮影機器ではなく、ファッションやガジェットとして所有され、撮影している姿そのものがSNSコンテンツになる。

第四に、スマートフォンの高性能化が逆説的に専用機の価値を高めている。スマートフォンが「きれいな写真」を簡単に撮れるようになったからこそ、「スマートフォンとは違う写真」を撮れることが専用カメラの魅力になった。

そして最も重要なのが、消費者の価値観そのものが変化していることである。「新しく、高性能で、便利なものほど良い」という従来の価値観に対して、「古く、不完全で、少し不便だから面白い」という価値観が並存するようになった。

BCN総研の2026年調査でコンデジ販売台数が2025年に前年比127.4%となったことや、2026年上半期の販売ランキングでレトロ感を持つKODAK PIXPROシリーズが上位を占めたことは、この変化が単なる印象論ではなく、少なくとも販売市場にも表れていることを示している。

ただし、これをもって「デジカメがスマートフォンを再び駆逐する」と考えるのは誤りである。日常の記録、検索、通信、編集、共有まで一台で行えるスマートフォンの優位性は依然として圧倒的であり、コンデジがその座を奪い返す可能性は低い。

むしろ今後形成されるのは、「スマートフォンかデジカメか」という二者択一ではなく、「スマートフォンでは撮らない写真をデジカメで撮る」という使い分けである。スマートフォンが日常の記録装置であり続ける一方、コンデジは旅行、友人との時間、ライブ、ファッション、夜のスナップなど、特定の体験を記録する専用装置として存在感を高める可能性がある。

そう考えると、今回の平成レトロ現象が示しているのは、単なる「昔のカメラの復活」ではない。それは、写真が「記録するための画像」から「その場に参加した証拠」「思い出の質感」「自分らしさを表現するメディア」へと変化する中で、カメラという道具そのものの意味が再構築されているということである。

2000年代のデジカメは、スマートフォンによって一度は役割を終えた。しかし2020年代後半、その「古さ」が新しい価値になった。これは技術の進歩が一直線ではなく、過去に切り捨てられた特徴が、時代が変わることで再び価値を持ち得ることを示す象徴的な事例である。

したがって「デジカメの時代が来た?」という問いへの最終的な答えは、「昔のデジカメ時代の再来ではなく、スマートフォン時代だからこそ成立する、新しいデジカメ時代が始まりつつある」というのが最も妥当である。


参考・引用リスト

  • 一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)「デジタルカメラ統計」「CIPA REPORT」――デジタルカメラの国内・世界出荷動向を確認するための基礎統計。
  • BCN総研「コンパクトデジカメ購入・利用実態調査報告書 2026年5月」――2025年のコンデジ販売台数が前年比127.4%となったことや、若年層のレトロブームとの関連を分析した資料。
  • BCN+R「KODAKが初の年間首位、デジタルカメラ レンズ一体型部門【BCN AWARD 2026】」――2025年のレンズ一体型デジタルカメラ市場とメーカー別販売動向を確認する資料。
  • BCN+R「KODAKが富士フイルム・キヤノンを上回る、26年上半期に売れたコンパクトデジカメTOP10」――2026年上半期のコンパクトデジカメ販売ランキングと製品別動向。
  • BCN+R「高くても売れてる個性派カメラは?――台数・金額コンデジランキング比較」――コンパクトカメラ市場の販売台数・販売金額の動きを分析した資料。
  • ABC News Australia「It's a gen Z thing: Why young people are obsessed with digital cameras」――TikTok、Instagram、Y2K文化、若年層のノスタルジーとオールドデジカメ人気の関係を取材した報道。
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