SHARE:

欧州料理宅配競争:変化した買い物習慣、大手”次の一手”模索

2026年9月時点の欧州料理宅配競争は、コロナ禍後に形成された「宅配需要の急拡大」という第一段階を終え、収益性を伴った成長モデルを確立する第二段階へ移行していると評価できる。
フードデリバリーのイメージ(Getty Images)
現状(2026年9月時点)

2026年の欧州の料理宅配・食品宅配市場は、単純な「注文を増やせば勝てる」成長局面から、利便性を維持しながら、いかに収益性のあるデジタル小売へ転換するかという段階に入っている。とりわけ食品宅配、オンライン食料品、クイックコマースは、コロナ禍を契機として急速に普及した後、現在は成長率、配送コスト、顧客獲得費用、値引き負担などを総合的に管理する局面へ移行している。

McKinsey(マッキンゼー・アンド・カンパニー)とEuroCommerce(ユーロコマース)による2026年の欧州食品小売分析では、2025年の欧州食品小売売上高は3.4%増加した一方、数量ベースの伸びは0.6%にとどまった。またオンライン食品販売は2024年から2025年に6.8%増加したものの、前年の7.8%増から伸び率が低下しており、オンライン市場も「急拡大」から「成熟化」へ向かっていることが分かる。

この変化を理解するうえで重要なのは、「宅配需要がなくなった」のではないという点である。むしろ消費者にとってオンライン注文や宅配は日常的な購買手段として定着しつつあり、問題は利用頻度が高まったサービスを、事業者がどのような経済モデルで持続可能に提供するかに移っている。

Rabobankも2026年5月の分析で、欧州のオンライン食料品市場は「成熟期」に入り、今後は規模の拡大だけではなく、規模の経済、コスト管理、プラットフォームとの提携が成功を左右すると指摘している。特にフルフィルメント、テクノロジー、ラストマイル配送のコストが依然として収益性を圧迫しており、今後は強力なオムニチャネル小売業者と専門プラットフォームへの市場集約が進む可能性がある。

つまり2026年の競争は、「誰が最も速く料理や食品を届けられるか」という競争から、「誰が消費者の日常的な買い物を最も効率的にデジタル化できるか」という競争へ変化している。この変化こそが、欧州の大手小売企業や宅配プラットフォーマーが「次の一手」を模索する背景となっている。

消費者の買い物習慣における変化

宅配サービスの普及によって最も大きく変化したのは、消費者が「買い物に行く」という行為そのものを必ずしも必要としなくなったことである。従来の食品購入では、消費者が店舗まで移動し、商品を選び、レジで精算し、自宅まで持ち帰るという一連の工程が基本だったが、オンライン注文ではその大部分をスマートフォン上で完結できる。

この変化は単なる店舗利用のオンライン化ではない。消費者の購買判断において、商品の価格や品質だけでなく、「どれだけ早く手元に届くか」「注文操作がどれだけ簡単か」「いつでも利用できるか」といった時間価値が重要になったからである。

特に都市部では、食品宅配が「特別なサービス」から「生活インフラ」に近い存在へ変化している。夕食の食材が足りない、飲料や日用品を買い忘れた、急に来客が入ったといった場面で、消費者は店舗へ移動する代わりにアプリを開くという行動を取りやすくなった。

この点は若年層ほど顕著である。マッキンゼー・アンド・カンパニーの2026年調査では、Z世代の82%が月1回以上、調理済み・すぐ食べられる食品を利用しており、47%が週1回以上フード・トゥ・ゴーを利用している。食品小売と外食、宅配の境界が曖昧になっていることは、消費者の「食」に対する時間感覚そのものが変化していることを示している。

もっとも、こうした変化を「消費者が店舗を完全に捨てた」と解釈するのは適切ではない。オンラインと実店舗は競合するだけでなく、消費者の目的に応じて使い分けられており、2026年の欧州ではむしろオンラインとオフラインを組み合わせるオムニチャネル型の購買行動が重要になっている。

オンライン食品市場の成長にも地域差がある。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、欧州全体ではオンライン食品販売が2024~2025年に6.8%増加したものの、ポルトガルやスウェーデンなど一部市場ではオンラインの重要性が低下している一方、富裕層が多い都市部ではオンライン食品購入率が20%を超える地域もある。

このことから、欧州の宅配市場を一枚岩として捉えることには限界がある。都市密度、所得水準、交通事情、店舗網、消費者のデジタル習慣などによって最適な宅配モデルは異なり、今後の競争では「全国一律の高速配送」よりも、地域ごとに採算が成立するサービス設計が重要になる。

即時性・利便性の常態化

宅配競争の最大の成果の一つは、消費者の「待つこと」に対する許容時間を短縮したことである。かつてネット通販では翌日配送でも十分に高速だったが、食品や日用品では数時間、さらに一部のサービスでは数十分で届くことが期待されるようになった。

この変化は、単なる物流速度の向上ではない。消費者が「必要になった時点で注文すればよい」と考えるようになったことで、買い物そのものの計画性が変化したのである。

従来の食料品購入では、週末にスーパーへ行き、数日分の商品をまとめて購入する「計画購買」が重要だった。これに対して即時配送では、必要な商品を必要なタイミングで購入する「分散購買」が可能になる。

結果として、宅配プラットフォームにとっては一回当たりの注文額を増やすことだけでなく、利用回数を増やして生活の中にサービスを組み込むことが重要になる。アプリを週1回使う消費者を毎日使う消費者へ変えられれば、同じ顧客基盤から得られる取引総額を拡大できるためである。

ただし、即時性には明確なコストが存在する。注文から配送までの時間を短縮するには、利用者の近くに在庫を置き、注文を迅速にピッキングし、配送員を適切に配置しなければならないため、一般的なECよりも物流密度が高くなる。

この構造が、2026年の競争を「速さ」だけでは評価できないものにしている。15分配送、30分配送、1時間配送の違いが、消費者にとってどれほど大きな価値を持つのかを検証し、その追加的な利便性に見合う収益を確保できるかが重要になる。

実際、ドイツ発の「Delivery Hero(デリバリーヒーロー)」では、2026年第2四半期のクイックコマースGMVが前年同期比32%増加し、日用品を15~30分で届ける事業が成長の重要な柱となった。これは、即時配送そのものが消費者に受け入れられていることを示す一方、同社が「料理宅配」だけではなく日常的な買い物全体を取り込もうとしていることも示している。

ここから見えてくるのは、宅配競争の本質が「料理を届ける競争」から「消費者の時間を節約する競争」へ移ったということである。

「食」から「非食品(小売全般)」への拡張

料理宅配・食品宅配市場の大きな変化は、配送対象が「食事」や「食材」だけではなくなったことである。宅配プラットフォームは、レストランの料理を届けるサービスから、スーパー、コンビニエンスストア、薬局、専門店などの商品を消費者の自宅へ運ぶ「即時小売」のインフラへと役割を広げつつある。

この変化の背景には、消費者側の需要がある。消費者にとって「今すぐ欲しい」という需要は、夕食だけに発生するものではなく、飲料、洗剤、衛生用品、ペット用品、化粧品、電池など、日常生活で突然必要になる多様な商品に及ぶからである。

従来型のECは、商品を比較して注文し、翌日あるいは数日後に受け取ることを前提としてきた。それに対してクイックコマースは、「検索して比較するEC」よりも、「必要になった瞬間に注文する生活サービス」に近い性格を持つ。

したがって、料理宅配企業にとって非食品分野への進出は、単なる品ぞろえ拡大ではない。1回の注文を増やすのではなく、消費者がアプリを利用する場面そのものを増やす戦略なのである。

例えば夕食を注文する消費者が、その同じアプリで牛乳や洗剤、飲料、菓子なども注文するようになれば、プラットフォーム側は一人の顧客から得られる取引機会を増やせる。さらに、料理宅配の需要が弱い時間帯にも日用品配送を組み合わせれば、配送ネットワークやアプリの利用率を高めることができる。

この意味で、料理宅配とクイックコマースは別々の市場ではなくなりつつある。両者は「短時間で商品を届ける」という共通の物流基盤を持つため、配送拠点、アプリ、決済、顧客データ、配送員ネットワークなどを共有できるからである。

実際、欧州の食品小売市場でも、食品と外食・フードサービスの境界が急速に曖昧になっている。McKinsey(マッキンゼー・アンド・カンパニー)とEuroCommerce(ユーロコマース)の2026年分析では、2022~2025年のフードサービス売上高の年平均成長率は6.8%で、食品小売の4.8%を上回っており、若年層を中心に「家庭で調理する食品」と「すぐ食べられる食品」の境界が縮小している。

ここに宅配プラットフォームが加わることで、さらに境界が曖昧になる。消費者から見れば、レストランの料理を注文することと、スーパーで弁当や飲料を注文すること、コンビニで日用品を注文することは、いずれも「アプリで選んで短時間で自宅に届けてもらう」という同じ行動になり得る。

実店舗からデジタル完結への移行

こうした変化は、実店舗の存在意義にも影響を与える。従来の小売業では、店舗が商品を展示し、消費者を集客し、販売するという構造が基本だったが、デジタル宅配では店舗は必ずしも消費者が訪れる場所である必要がなくなる。

もちろん、欧州の消費者が実店舗を放棄したわけではない。2026年のマッキンゼー・アンド・カンパニー調査では、欧州のオンライン食品販売は2024~2025年に6.8%増加した一方、約半数の消費者は食品をオンラインで購入しておらず、オンライン利用率にも国・地域による大きな差が存在する。

重要なのは、オンラインと実店舗が単純な代替関係ではなくなっている点である。消費者は大型スーパーでまとめ買いをする一方、急ぎの商品は宅配で注文するなど、購入目的によってチャネルを使い分けるようになっている。

マッキンゼー・アンド・カンパニーの2026年調査では、オンラインとオフラインの双方を展開する40小売企業を分析したところ、30社でオンラインの顧客満足度が実店舗より高かった。オンラインでは「価格に対する価値」「商品の品質」「アプリやウェブサイトの使いやすさ」が満足度と強く関連しており、デジタル上の購買体験そのものが競争力になっている。

一方で、オンライン利用者のロイヤルティは必ずしも強くない。欧州平均では、オンラインで食品を購入する消費者のうち、46%が「普段利用する実店舗とは異なる小売企業だけ」をオンラインで利用しており、オンラインでは実店舗以上にブランド・店舗間の乗り換えが起きやすい構造になっている。

これは宅配プラットフォームにとって極めて重要な意味を持つ。消費者が店舗そのものではなく「最も便利なアプリ」「最も安い商品」「最も速い配送」を選ぶようになれば、従来型小売企業が長年築いてきた店舗ブランドの優位性が相対的に弱まる可能性がある。

逆に言えば、宅配企業にとっては大きな成長機会でもある。自社で多数の店舗を保有しなくても、複数の小売企業をプラットフォーム上に集めることで、消費者に対して幅広い商品選択肢を提供できるからである。

「店舗を持たない小売」の可能性

ここで登場するのが、いわゆるダークストアやマイクロフルフィルメント拠点である。これらは消費者が商品を見て回るための店舗ではなく、オンライン注文を受け、商品を集め、短時間で配送することを目的とした拠点である。

この仕組みを都市部に適切に配置すれば、従来型スーパーよりも小規模なスペースから短時間配送を実現できる可能性がある。消費者が店舗へ移動する時間を物流システム側が肩代わりすることで、「小売店舗のネットワーク」から「配送拠点のネットワーク」へ競争の基盤を変えられる。

しかし、このモデルには大きな弱点もある。店舗型小売では、同じ施設で多数の商品を販売できるのに対し、即時配送では商品のピッキング、包装、配送という追加工程が発生するため、注文単位のコストが高くなりやすい。

そのため、単純に配送時間を短縮すれば利益が増えるわけではない。むしろ配送時間を短くするほど、在庫を消費者の近くに分散させる必要があり、拠点コストと人件費、在庫管理コストが増加する可能性がある。

この問題を解決するには、店舗、倉庫、ダークストア、配送員を一体として運用する必要がある。つまり2026年の宅配競争では、アプリの性能だけではなく、都市そのものをどのような物流ネットワークとして設計するかが競争力を左右する。

プラットフォーマーを取り巻く競争環境の課題

競争相手がレストラン宅配企業だけではなくなったことも重要である。現在の宅配プラットフォームは、従来のフードデリバリー企業に加え、スーパーマーケット、コンビニ、オンライン小売企業、物流企業、さらには大手テクノロジー企業とも競争することになる。

しかも消費者にとっては、サービス間の乗り換えコストが低い。あるアプリの配送が遅ければ別のアプリを開き、価格が高ければ別の小売企業を選ぶことが容易だからである。

そのため、プラットフォーム側は「最速」「最安」だけで顧客を維持することが難しくなる。価格を下げ続ければ利益率が悪化し、配送速度を上げ続ければ物流コストが上昇するというジレンマに直面するからである。

特に食品小売そのものの市場成長が限定的であることは大きな制約になる。McKinsey(マッキンゼー・アンド・カンパニー)とEuroCommerce(ユーロコマース)は、2026年の欧州食品小売について、構造的に低い数量成長と継続的なコスト圧力を指摘しており、単純な市場拡大によって利益率を回復することは難しいと分析している。

したがって、宅配企業が非食品を取り込む最大の目的は「市場規模を大きく見せること」ではない。一つの顧客、一つの配送網、一つのアプリから、より多くの利用機会と収益源を生み出すことにある。

「消耗戦」への入り口

しかし、ここにはもう一つの問題がある。競争が激しくなるほど、各社が顧客獲得のために送料無料、割引クーポン、初回注文特典、サブスクリプション割引などを拡大し、価格競争へ陥る危険性が高まる。

消費者にとっては便利で安いサービスが増えるため歓迎すべき現象に見える。しかし企業側から見ると、配送コストを負担しながらさらに割引を提供する構造は、取引量が増えても利益が残らないという問題につながる。

そこで競争の焦点は、「どれだけ多くの注文を獲得できるか」から「どれだけ利益を残しながら利用頻度を高められるか」へ移り始めている。これは欧州のオンライン食品市場が成熟しつつあることとも一致する。

2026年のマッキンゼー・アンド・カンパニー分析では、欧州のオンライン食品事業は一部の大手で全費用配賦ベースの損益分岐に近づき、「Ahold Delhaize(アホールド・デレーズ)」では2025年にEC事業が黒字化したとされる。つまりオンラインは「赤字でも成長のために維持する部門」から、収益性を求められる事業へ変化している。

この変化こそ、EUの大手企業が次の一手を探す最大の理由である。単に料理を届けるだけでは、価格競争と配送コストの壁を越えにくくなっているからである。

プラットフォーマーを取り巻く競争環境の課題

2026年の欧州における料理宅配・クイックコマース競争を考える際、最大の論点は「需要があるか」ではなく、需要を利益へ転換できるかに移っている。食品宅配は消費者の生活に定着し、非食品への拡張によって取扱市場も広がっている一方、配送網、労働力、IT、マーケティング、顧客獲得などに継続的なコストが発生するため、売上高の拡大だけでは事業の持続性を保証できない。

欧州食品小売全体でも、この問題は明確になっている。McKinsey(マッキンゼー・アンド・カンパニー)とEuroCommerce(ユーロコマース)によると、2025年の欧州食品小売売上高は3.4%増加したが、数量ベースの伸びは0.6%にとどまり、主要小売企業の平均EBITマージンは2024年、2025年とも2.8%だった。コスト・利益率への圧力は5年連続で経営者の最大の懸念となっており、食品小売そのものが高い利益率を生み出しにくい構造にある。

この環境下で宅配プラットフォームが急速配送を提供する場合、通常の小売業よりもさらに複雑なコスト構造を抱えることになる。商品を仕入れて販売するだけでなく、注文を受け、在庫を確保し、ピッキングし、包装し、配送員を手配し、短時間で消費者のもとへ届ける必要があるからである。

したがって、宅配企業の競争力はアプリの利用者数だけでは測れない。注文単価、注文頻度、配送密度、顧客獲得コスト、リピート率、広告収入、サブスクリプション収入などを組み合わせ、1顧客・1注文当たりの経済性を改善できるかが重要になる。

消耗戦(補助金・価格競争)の限界

宅配市場が成長初期にあった段階では、企業が割引やクーポンを大量に投入して利用者を獲得することには合理性があった。消費者にサービスを試してもらい、アプリをインストールしてもらい、習慣的な利用へ誘導するには、初回無料配送や大幅な値引きが有効だったからである。

しかし、競争相手も同じ戦略を採用すれば、価格優位性は一時的なものになる。ある企業が10ユーロ相当の割引を提供すれば、競合企業が同程度のクーポンを出すことで差が消え、最終的には「消費者にとっては安いが、企業にとっては利益が残らない」という状態に陥る。

この構造は、宅配プラットフォームの事業特性と相性が悪い。1回の注文を処理するためには一定の固定費・変動費が発生するため、商品価格や配送手数料を引き下げても、配送コストそのものが同じ割合で減少するわけではないからである。

さらに問題となるのが、消費者の価格感応度である。値引きによって獲得された顧客は、値引きがなくなった瞬間に別のプラットフォームへ移動する可能性がある。つまり、企業が広告費や補助金を投入して獲得した顧客が、必ずしも長期的な資産になるとは限らない。

2026年の欧州市場では、この「成長と利益のトレードオフ」が次第に明確になっている。オンライン食品販売は2024~2025年に6.8%増加したものの、前年の7.8%増から伸び率は低下しており、もはや市場成長だけでコスト問題を解消できる状況ではない。

興味深い比較材料となるのが中国市場である。2026年9月時点のロイター報道によれば、中国ではMeituan(美団)、Alibaba(アリババ / 阿里巴巴)、JD.com(ジードットコム / 京東)などによる大規模な価格競争が消費者の「即時小売」利用を拡大させた一方、各社の利益には大きな圧力がかかった。その結果、競争の焦点はクーポンや補助金から、スーパー、ダークストア、物流拠点などのインフラへ移りつつある。

この事例はEU市場をそのまま説明するものではないが、宅配ビジネスがたどりやすい経路を示している。すなわち、①補助金による顧客獲得、②利用頻度の上昇、③価格競争の激化、④利益率悪化、⑤物流・商品構成・広告などを含む収益モデルの再構築という流れである。

利益率の改善圧力

こうした背景から、2026年の欧州宅配市場では「売上成長率」以上に「利益率」が重要な経営指標になっている。市場が成熟すれば、投資家や株主は単純な注文数の増加よりも、増加した注文がどれだけキャッシュフローや利益につながっているかを評価するようになる。

欧州食品小売ではすでにその傾向が現れている。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、オンライン食品販売について、成長率こそ鈍化しているものの、全費用を配賦したベースで損益分岐点に近づきつつあり、Ahold Delhaize(アホールド・デレーズ)では2025年にEC事業が黒字化したと分析している。

これは重要な転換である。オンライン事業が「将来のための投資部門」から「自立して利益を生み出す事業部門」へ変化すれば、経営陣は注文数だけでなく、ピッキング効率、在庫精度、欠品率、代替商品の選択、配送コスト、平均注文額などを厳密に管理する必要がある。

特にラストマイル配送は改善余地が大きい。注文を一件ずつ遠隔地へ運ぶ場合、配送員の移動時間や車両・自転車などの稼働効率が利益を大きく左右するため、同一地域で複数の注文を効率的に処理できるかが重要になる。

その意味で「30分配送」と「1時間配送」の差は、単純なスピード競争ではない。30分配送を実現するために必要な拠点密度や在庫配置が、1時間配送よりも大幅に高コストになるのであれば、消費者が感じる追加価値と企業が負担する追加コストを比較する必要がある。

したがって、今後の欧州宅配市場では「最速の企業」が必ずしも勝者になるとは限らない。むしろ、十分に速い配送を、より低いコストで安定して提供できる企業の方が、長期的には競争力を持つ可能性が高い。

プレイヤーが模索する「次の一手」

このような環境を受け、欧州のプレイヤーは単純な宅配件数の拡大とは異なる成長戦略を模索している。その代表的な方向性が、①非食品を含む取扱商品の拡大、②サブスクリプション、③広告・AdTech、④自社物流網の高度化、⑤AI・データ活用、⑥M&Aによる規模拡大である。

その中でも注目されるのが「Everyday App(エブリデイ・アップ)」という発想である。これは、消費者が料理を注文するときだけ開くアプリではなく、食品、日用品、買い物、外食など日常生活のさまざまな場面で利用するアプリへ転換する考え方である。

Delivery Hero(デリバリーヒーロー)はこの戦略を明確に打ち出している。2026年第2四半期には、同社のQuick Commerce GMV(クイックコマースの流通取引総額)が前年同期比32%増加し、サブスクリプション利用者がグループGMVの47%を占めたと発表している。さらに欧州ではGMVが8.4%増加し、Quick Commerce GMV(クイックコマースの流通取引総額)は19%増加して全体を上回ったほか、広告技術事業の売上も32%増加した。

ここで重要なのは、配送そのものだけで利益を生み出そうとしていないことである。消費者をプラットフォームへ集め、その上で商品販売、配送、サブスクリプション、広告など複数の収益源を組み合わせることで、1人のユーザーから得られる経済価値を高めようとしている。

これは従来の「宅配業者」という位置付けから、「デジタル小売プラットフォーム」への転換と表現できる。料理の配送手数料だけでは限界があるため、消費者と小売企業を結び付けるデジタル接点そのものを収益化しようとしているのである。

M&Aによる「規模」の再構築

もう一つの重要な動きが業界再編である。2025年にはProsus(プロサス)によるJust Eat Takeaway.com(ジャストイート・テイクアウェイドットコム)の買収が進み、2026年にはUber(ウーバー)によるDelivery Hero(デリバリーヒーロー)買収提案も浮上しており、欧州の料理宅配市場は独立した多数のプレイヤーが競争する段階から、より大きな企業グループへ集約される方向に動いている。2026年9月時点では、Delivery Hero(デリバリーヒーロー)の取締役会・監査役会がUberの約148億ドルの買収提案を支持したと報じられている。

この動きには、単なる企業規模の拡大以上の意味がある。複数市場で共通の技術基盤を利用し、広告、決済、データ分析、物流、サブスクリプションなどを統合すれば、重複するコストを削減し、より高い注文密度を実現できる可能性があるからである。

Prosus(プロサス)によるJust Eat Takeaway.com(ジャストイート・テイクアウェイドットコム)の買収も、その文脈で理解できる。Prosus(プロサス)は2026年時点で、Just Eat Takeaway.com(ジャストイート・テイクアウェイドットコム)を欧州におけるライフスタイル型ECエコシステムの基盤と位置付け、ラテンアメリカで展開してきたエコシステム型のビジネスモデルを欧州へ広げる構想を示している。

つまり、欧州宅配市場では「一つのサービスを大きくする」という発想から、「複数のサービスを一つの顧客基盤に統合する」という発想への転換が進んでいる。これは、今後の競争軸が配送速度だけではなく、プラットフォーム全体の経済性になることを示している。

次の競争軸は「速さ」から「ネットワーク」へ

ここまでの分析から、2026年の料理宅配競争を単純な配送スピード競争として捉えることには限界があることが分かる。重要なのは、短時間配送を可能にする店舗・倉庫・配送員・データ・顧客基盤をどれだけ効率的に組み合わせられるかである。

特に1時間以内の配送を広域で安定して実現するには、需要予測と在庫配置が欠かせない。どの商品をどの地域にどれだけ置けば、欠品を抑えながら配送距離を短縮できるのかを予測する必要があるため、AIやデータ分析の重要性が高まる。

McKinsey(マッキンゼー・アンド・カンパニー)とEuroCommerce(ユーロコマース)は2026年の欧州小売について、AI・テクノロジー投資が加速していることを指摘している。また別の2026年調査では、AIの全社的な活用によって欧州小売企業のEBITDAを今後4~10ポイント改善できる可能性があるとの試算も示されている。

もちろん、この数字は宅配企業だけに適用できる利益改善幅を意味するものではない。しかし、在庫管理、需要予測、価格設定、顧客対応、配送ルート最適化など、宅配事業が大量のデータを扱う業態であることを考えれば、AIが次の競争力になる可能性は高い。

したがって、次の段階では「何分で届くか」だけではなく、「どの地域に何を置き、どの配送員をどの注文に割り当て、どの価格なら消費者と企業双方にメリットがあるか」をリアルタイムで判断する能力が競争力になる。

「1時間配送」ネットワークの高度化

2026年の料理宅配競争では、単純な「何分で届くか」という速度競争から、短時間配送をどれだけ広い地域で、安定的かつ採算を確保しながら実現できるかというネットワーク競争へ移行している。特に食品から日用品、ヘルス・ビューティー、ペット用品などへ対象が拡大したことで、宅配企業には多様な商品の在庫を消費者の近くに配置する能力が求められるようになった。

Delivery Hero(デリバリーヒーロー)の2026年第2四半期決算は、その変化を具体的に示している。同社のQuick Commerce GMV(クイックコマースの流通取引総額)は前年同期比32%増加し、Dmarts(ディーエムアーツ)と呼ばれる小型物流拠点の注文数は39%増加した一方、拠点数の増加は8%にとどまり、1拠点当たりの注文数は28%増加した。つまり、単純に拠点を増やすのではなく、既存拠点の利用密度を高めることが重要になっている。

この数字が示すのは、クイックコマースの競争が「拠点数」から「拠点生産性」へ移っていることである。消費者の近くに倉庫を大量配置するだけでは固定費が増えるため、各拠点からどれだけ多くの注文を処理できるか、どれだけ効率的に商品をピッキングし、配送員を稼働させられるかが収益性を左右する。

ここではAIとデータ分析の役割が大きくなる。時間帯、曜日、天候、地域イベント、過去の購買履歴などを分析して需要を予測し、あらかじめ適切な商品を適切な拠点に配置できれば、欠品を抑えながら配送距離も短縮できるからである。

さらに重要なのは、配送ネットワークを食品だけでなく複数カテゴリーで共有することである。夕食需要が弱い時間帯でも、飲料、日用品、化粧品、ペット用品などの注文があれば配送員や拠点の稼働率を維持でき、設備投資の回収効率を高められる。

Delivery Hero(デリバリーヒーロー)によれば、複数のQuick Commerce GMV(クイックコマースの流通取引総額)カテゴリーを利用する顧客は、単一カテゴリーだけを利用する顧客に比べて同社ブランドでの支出額が平均5倍に達する。これは、複数カテゴリー化が単なる売上拡大策ではなく、顧客一人当たりの生涯価値を高める戦略であることを示す。

「速さ」そのものを商品にしない発想

もっとも、すべての商品を15分、20分で届ける必要があるわけではない。牛乳や薬、飲料など緊急性の高い商品と、洗剤、ペット用品、雑貨など多少待てる商品では、消費者が求める配送速度が異なるからである。

したがって、今後の合理的な配送モデルは、すべてを最速にすることではなく、商品ごとに異なる配送時間と料金を設定することになる可能性が高い。例えば「15~30分配送」「1時間配送」「当日配送」「指定時間配送」を使い分ければ、消費者の利便性を維持しながら配送コストを最適化できる。

この考え方は、宅配サービスを物流企業から「時間価値を販売する小売プラットフォーム」へ変える。消費者は単に商品を購入しているのではなく、「自分で店舗へ行く時間を節約する」というサービスにも対価を支払っているからである。

一方で、配送速度を過度に競争させれば、物流コストの増加という逆効果が生じる。したがって今後は、「最速」を宣伝することより、消費者が十分便利だと感じる速度と企業側の採算点を一致させることが重要になる。

高付加価値サービスの展開

配送単価そのものを引き上げることが難しいのであれば、宅配企業は別の収益源を作る必要がある。その代表例が、サブスクリプション、広告、データ活用、加盟店向けマーケティング支援などである。

Delivery Hero(デリバリーヒーロー)では2026年第2四半期、サブスクリプション利用者がグループGMVの47%を占め、前年同期から12ポイント上昇した。欧州ではQuick Commerce GMV(クイックコマースの流通取引総額)が19%増加した一方、アドテック事業の売上高も32%増加しており、配送以外の収益源が成長を支えている。

これは重要な構造変化である。従来の宅配企業は「商品価格+配送手数料」から収益を得ることが中心だったが、現在は「顧客基盤+データ+広告接点+サブスクリプション+配送」という複合的なビジネスモデルへ移行しつつある。

特に広告事業は利益率改善の観点から魅力が大きい。商品を配送するコストは注文が増えるたびに発生するが、アプリ内広告や検索広告は、物流費を直接増やさずに収益を追加できるためである。

マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、欧州食品小売ではRetail Media(リテールメディア)が最も有望な周辺収益領域の一つとなっており、2025~2028年の成長率は約20%と予測され、EBITマージンは約70%に達する可能性がある。これは小売企業が持つ購買データとデジタル接点が、単なる販売促進手段ではなく、新たな利益源になっていることを示す。

宅配プラットフォームにとっても、この構造は極めて重要である。消費者がアプリ上で商品を検索する瞬間そのものが広告価値を持つため、食品メーカーや小売店、レストランなどから広告収入を得る余地が広がる。

AIによる「配送」から「購買支援」への進化

高付加価値化をさらに進めるうえで、AIも重要になる。AIは配送ルートを最適化するだけでなく、消費者の商品選択、店舗側の価格設定、広告配信、在庫管理、注文予測など、宅配プラットフォームのほぼすべての工程に入り込む可能性がある。

2026年のマッキンゼー・アンド・カンパニー調査では、欧州食品小売企業の47%がAI・自動化を経営上の主要優先事項の一つとして挙げている。一方、70%の経営者は現時点でAIによるEBITへの測定可能な効果がない、または評価するには時期尚早と回答しており、AI導入がそのまま利益改善につながるわけではないことも明らかになっている。

つまり、AIは「導入すれば利益が増える魔法の技術」ではない。重要なのは、需要予測、在庫配置、配送、顧客獲得、価格設定など具体的な業務に組み込み、どの程度コスト削減や売上増加につながったかを測定することである。

Delivery Hero(デリバリーヒーロー)は2026年、加盟店向けAIアシスタントも展開している。このシステムは加盟店の承認を前提に、プロモーション、広告キャンペーン、メニュー内容の改善、レビューへの返信などを支援し、Glovo(グローボ)では同アシスタントを利用するレストランの注文数が15%増加したと同社は説明している。

このような仕組みが普及すれば、宅配プラットフォームは単なる「注文と配送の仲介業者」ではなく、加盟店の経営効率まで改善するデジタルインフラになる。加盟店側の売上が増えれば、プラットフォーム側も手数料や広告収入などを通じて利益を得られるため、双方の利害を一致させやすい。

ロイヤルティと利便性の両立

しかし、ここには大きな課題が残る。それが「便利だから使う顧客」と「この企業だから使う顧客」をどう増やすかという問題である。

オンライン食品市場では、消費者のロイヤルティが実店舗よりも流動的になっている。マッキンゼー・アンド・カンパニーによれば、欧州のオンライン食品購入者の約半数は、実店舗で普段利用している小売企業とは異なる小売企業をオンラインで利用している。つまり、オンラインでは店舗ブランドよりも、価格、品ぞろえ、利便性、配送体験などが選択を左右しやすい。

これは宅配企業にとってチャンスであると同時にリスクでもある。便利なサービスを提供しても、競合がより安い価格や無料配送を提示すれば、顧客は簡単に移動してしまう可能性があるからである。

そこで重要になるのがサブスクリプションである。一定額を支払えば配送料が安くなる、特典が受けられる、複数カテゴリーを横断して利用できるといった仕組みを設ければ、単発利用者を継続利用者へ変えられる。

ただし、サブスクリプションも単なる値引き制度になれば利益を圧迫する。重要なのは、無料配送だけではなく、限定商品、優先配送、会員向け価格、ポイント、広告なしの利用体験など、「会員であること自体に価値がある状態」を作ることである。

この点で「Everyday App」という戦略は合理性を持つ。Delivery Hero(デリバリーヒーロー)は2026年、食品とQuick Commerce(クイックコマース)を横断して日常生活のさまざまな場面で利用されるアプリを目指しており、Quick Commerce(クイックコマース)の拡大とサブスクリプション利用の増加をその中核に置いている。

「次の一手」の本質

ここまでを整理すると、EUの宅配大手が模索する「次の一手」は、単純な配送速度競争ではない。配送ネットワークを小売インフラ化し、その上に食品、非食品、広告、サブスクリプション、AIなど複数の収益源を積み重ねることが、その本質である。

このモデルでは、料理宅配は入口にすぎない。夕食を注文した顧客が、その後に日用品を購入し、翌日に飲料を注文し、週末にはスーパーの商品をまとめて注文するようになれば、一人の顧客から得られる取引機会が増える。

さらに、複数カテゴリーを利用する顧客が増えれば、同じ物流拠点、同じアプリ、同じ決済システムを複数の取引に利用できるため、ネットワーク全体の資産効率も高まる。これは「配送件数を増やす」よりも、「一人の顧客が複数の目的で同じプラットフォームを使う」ことを重視する戦略である。

欧州食品小売全体でも、構造的な低成長を背景として、M&A、プライベートブランド、食品以外の隣接事業、AI、Retail Mediaなどが成長領域として注目されている。マッキンゼー・アンド・カンパニーは2026年の欧州食品小売について、既存事業のコスト・生産性を改善しながら、選択的に周辺領域を拡大する「二つの課題」を同時に進める必要があると分析している。

したがって、今後の勝者は「最も多く料理を届ける企業」とは限らない。最も効率的な物流網を持ち、最も多くの日常購買を取り込み、そこから複数の収益源を生み出せる企業が優位に立つ可能性が高い。

今後の展望

2026年9月時点の欧州料理宅配市場を総括すると、最大の変化は「料理を届けるサービス」が「生活に必要な商品をデジタル経由で届ける小売インフラ」へ変わりつつあることである。食品宅配は依然として中核事業だが、日用品や飲料、化粧品、ペット用品などの非食品を組み合わせることで、宅配プラットフォームは消費者の利用場面を拡大しようとしている。

ただし、この市場を「成長産業だから今後も拡大する」とだけ評価するのは不十分である。欧州のオンライン食品販売は2024~2025年に6.8%増加したものの、前年の7.8%増から減速しており、欧州全体では約半数の消費者がオンラインで食料品を購入していないなど、普及率には大きな地域差が残っている。

したがって、今後の市場拡大は、単純な「オンライン化率の上昇」だけでは説明できない。むしろ、既存ユーザーの利用頻度を高め、一人の顧客が食品、料理、日用品など複数のカテゴリーを同じプラットフォームで購入するよう促すことが、成長の中心になると考えられる。

「料理宅配」から「生活インフラ」へ

今後最も重要な競争軸は、料理宅配というカテゴリーそのものではなくなる可能性が高い。消費者が「夕食を注文するためのアプリ」ではなく、「必要なものを必要なときに手に入れるためのアプリ」として宅配プラットフォームを認識するようになれば、市場の定義そのものが変わるからである。

この方向性はすでに欧州大手の戦略に現れている。Delivery Hero(デリバリーヒーロー)は2026年、Quick Commerce(クイックコマース)を含む「Everyday App(エブリデイ・アップ)」戦略を推進しており、料理、食品、日用品などを横断的に扱うことで、顧客との接点を日常生活全体へ広げようとしている。

このモデルの利点は、配送網の稼働率を高められることである。夕食時間帯には料理、昼間には食品や日用品、夜間には飲料など、異なる需要を同じ物流基盤で処理できれば、固定費をより多くの取引に配分できる。

さらに、複数カテゴリーを利用する顧客ほどプラットフォームへの依存度が高くなる可能性がある。一つのアプリで複数の買い物を済ませられるようになると、別のアプリへ移行する動機が弱まり、結果として顧客生涯価値の向上につながる。

「1時間配送」は最終目標ではない

今後の宅配競争で注意すべきなのは、「15分」「30分」「1時間」という数字そのものが最終的な競争力ではないという点である。配送速度を短縮するほど、消費者の利便性は高まるが、拠点を消費者の近くに配置する必要が生じ、在庫管理、ピッキング、配送員配置などのコストも増加する。

そのため、今後は商品ごとに最適な配送速度を設定する方向が合理的である。緊急性の高い商品は30分以内、通常の日用品は1時間程度、まとめ買いは指定時間配送とするなど、複数の配送モードを組み合わせれば、利便性と採算性の両立を図れる。

この考え方では、宅配企業の競争力は「最速配送」ではなく「最適配送」になる。消費者が十分に速いと感じる時間内に、最も低いコストで商品を届けられる企業ほど、長期的な利益を確保しやすくなる。

マッキンゼー・アンド・カンパニーも2026年の欧州食品小売分析で、オンライン事業について、単純な成長追求から利益重視へ移行し、ピッキング生産性、商品供給率、代替商品の精度、配送コストなどを改善する必要性を指摘している。

収益モデルは「配送手数料」だけでは成立しない

今後のもう一つの重要な変化は、宅配企業が配送そのもの以外から利益を得る構造を強化することである。サブスクリプション、広告、加盟店向けマーケティング、データ活用などを組み合わせれば、物流取引に依存しない収益を確保できる。

特にRetail Media(リテールメディア)、すなわち小売企業が自社アプリやウェブサイトなどの顧客接点を広告媒体として活用する市場は注目される。McKinseyは欧州食品小売におけるRetail Media(リテールメディア)について、2025~2028年に約20%の年平均成長率が見込まれ、EBITマージンは約70%に達する可能性があると分析している。

この収益構造が確立すれば、宅配プラットフォームは「商品を運ぶことでしか利益を得られない企業」から脱却できる。消費者がアプリ上で商品を検索する行為そのものが広告価値を持つため、メーカーや小売業者から広告収入を得ることが可能になる。

ただし、広告事業の拡大にも注意が必要である。広告が過剰になれば検索結果や商品推薦の信頼性が低下し、消費者が「最も自分に合った商品」ではなく「最も広告費を払った商品」を見せられていると感じる危険がある。

したがって、広告事業の成功には、収益性とユーザー体験のバランスが必要になる。プラットフォームが長期的に価値を持つためには、広告主だけでなく消費者にも「便利になった」と感じてもらわなければならない。

AIが競争構造を変える可能性

2026年以降、宅配市場をさらに変える可能性があるのがAIである。AIは需要予測、在庫配置、配送ルート、価格設定、広告、顧客対応、商品推薦など、宅配事業のほぼすべての工程に利用できる。

McKinsey(マッキンゼー・アンド・カンパニー)とEuroCommerce(ユーロコマース)の2026年調査では、欧州食品小売企業の47%がAI・自動化を経営上の主要優先事項の一つとしている。一方、70%のCEOは現時点でAIによる測定可能なEBIT効果がない、または判断するには早すぎると回答しており、AI導入が直ちに収益改善を意味するわけではないことも明らかになっている。

この点は重要である。AIを導入すること自体が競争優位になるのではなく、AIを使って在庫を減らし、欠品を抑え、配送距離を短縮し、注文単価を上げるなど、具体的な経済効果を生み出せる企業が優位になるからである。

マッキンゼー・アンド・カンパニーは2026年6月、欧州小売におけるAI活用によって、今後の価値創出機会が2,400億~3,200億ユーロに及ぶ可能性があると分析している。宅配企業にとっても、AIは単なるIT投資ではなく、物流と小売を再設計するための基盤技術となる可能性がある。

消費者にとってのメリットとリスク

消費者側から見れば、宅配競争の進展には明確なメリットがある。店舗へ移動する時間を節約でき、必要な商品を短時間で受け取ることができ、さらに複数の店舗を一つのアプリから利用できるようになれば、買い物の手間は大幅に減少する。

一方で、利便性の向上がそのまま家計負担の低下を意味するわけではない。配送手数料、会員費、商品価格、少額注文手数料などを総合すると、店舗で購入するより割高になるケースもあり、消費者は「時間を買うための費用」を負担することになる。

また、オンラインでは価格比較が容易になるため、消費者のロイヤルティが弱くなる可能性もある。マッキンゼー・アンド・カンパニーによれば、欧州のオンライン食品購入者の約半数は、実店舗で普段利用している小売企業とは異なる小売企業をオンラインで利用しており、オンライン市場では店舗ブランドを超えて競争が起きている。

したがって、今後の勝者は「安い企業」でも「速い企業」でもなく、価格、品ぞろえ、配送速度、アプリの使いやすさ、信頼性を総合的に最適化した企業になる可能性が高い。

小売企業にとっての意味

伝統的なスーパーにとって宅配市場の拡大は、単純な脅威ではない。むしろ自社店舗網を配送拠点として活用すれば、既存資産をデジタル小売へ転換する機会になる。

特に店舗とオンラインを統合したオムニチャネル戦略では、店舗が販売場所であると同時に、オンライン注文を処理する物流拠点にもなる。これによって新たなダークストアを大量に建設する必要性を抑えられる可能性がある。

しかし、店舗を配送拠点として利用する場合にも、従業員のピッキング負担、在庫の正確性、店頭顧客との競合など新しい問題が発生する。そのため、オンライン注文の増加が必ずしも既存店舗の収益性向上につながるとは限らない。

マッキンゼー・アンド・カンパニーは2026年、欧州食品小売では実店舗面積の拡大が以前ほど成長を生まなくなっていると分析している。2019年以降、EU主要11市場では食品小売の販売面積が約4.6%増加した一方、オンラインを含む数量成長は約1.7%にとどまり、面積当たり生産性が低下している。

このため、今後の小売企業にとっては「店舗を増やす」だけでなく、既存店舗を販売・受取・配送・在庫拠点として多機能化することが重要になる。

業界再編は避けられないのか

市場成熟に伴って、宅配業界では再編圧力も強まると考えられる。オンライン食品事業では規模の経済が重要であり、注文密度、物流拠点、ITシステム、広告事業、データ分析などを大規模に展開できる企業ほどコストを下げやすいからである。

一方、小規模企業には地域特化、特定カテゴリー、プレミアムサービスなどによって生き残る余地がある。すべての企業が巨大プラットフォームになる必要はなく、むしろ大手とは異なる価値を明確にできる企業が一定の顧客層を獲得する可能性がある。

マッキンゼー・アンド・カンパニーは2026年、欧州食品小売について、M&Aやアライアンスによる規模拡大が重要な戦略になると分析している。低い数量成長の下では、既存市場のシェア争いだけでなく、規模の拡大によるコスト効率向上や隣接市場への進出が重要になるためである。

この構造は料理宅配企業にも当てはまる。今後は企業数が減少し、少数の大規模プラットフォームと、地域・カテゴリーに特化した専門企業に市場が分化する可能性がある。

今後の競争を決める五つの条件

以上を総合すると、2026年以降の欧州料理宅配・クイックコマース市場では、少なくとも五つの条件が競争力を左右すると考えられる。

第一は物流密度である。消費者の近くに適切な在庫を置き、短い距離で多数の注文を処理できる企業ほど、配送コストを抑えやすい。

第二は顧客当たり取引額である。料理だけでなく食品、日用品、非食品を横断して利用してもらうことで、一人の顧客から得られる収益を増やす必要がある。

第三はロイヤルティである。値引きだけではなく、サブスクリプション、ポイント、独自商品、優先配送などを組み合わせ、競合への乗り換えを抑える必要がある。

第四は高利益率の周辺事業である。広告、データ、加盟店向けサービス、金融・マーケティングなど、配送そのものとは異なる収益源をどこまで構築できるかが重要になる。

第五はAIとオペレーションの統合である。AIを単なる顧客向け機能として導入するのではなく、需要予測、在庫、ピッキング、配送、価格、広告まで一体化できる企業が優位に立つ可能性が高い。

まとめ

2026年9月時点の欧州料理宅配競争は、コロナ禍後に形成された「宅配需要の急拡大」という第一段階を終え、収益性を伴った成長モデルを確立する第二段階へ移行していると評価できる。

消費者の買い物習慣は、実店舗中心からオンラインを組み合わせる形へ変化した。ただし、実店舗が消滅するわけではなく、店舗とデジタルを目的別に使い分けるオムニチャネル化が進んでいる。

同時に、「食事を届ける」という料理宅配の枠組みは急速に拡大している。食品、飲料、日用品、化粧品、ペット用品などを短時間で届けるクイックコマースによって、宅配プラットフォームは「即時小売」のインフラへ変わりつつある。

しかし、その成長には明確な限界がある。配送速度を高めればコストが上昇し、顧客獲得のために値引きを拡大すれば利益率が低下するため、補助金と価格競争だけでは持続的な事業モデルを構築できない。

そのため、EUの大手プレイヤーが模索している「次の一手」は、単純な配送件数の増加ではない。物流網を高度化し、食品と非食品を統合し、サブスクリプションや広告を収益源として育て、AIによってオペレーションを最適化することで、一つの顧客から得られる経済価値を最大化することにある。

今後の勝敗を分けるのは「最も速い企業」ではなく、「十分な速さを、最も効率的に提供できる企業」になる可能性が高い。そして最終的には、料理宅配企業、食品スーパー、EC企業、物流企業という従来の業界区分そのものが曖昧になり、消費者の日常的な購買をめぐる総合的なデジタル競争へ移行していくと考えられる。

欧州食品小売全体についても、2026年時点では構造的な低成長と利益率圧力が続く一方、プライベートブランド、M&A、隣接事業、Retail Media(リテールメディア)、AIなどに新たな成長余地が生まれている。つまり、料理宅配競争の「次の一手」は、宅配だけを強化することではなく、既存の小売資産とデジタル技術を結び付け、新しい利益プールを構築することにある。


参考・引用リスト

  • McKinsey & Company / EuroCommerce, The State of Grocery Retail Europe 2026: Margins under pressure, models in motion, 2026年4月。欧州食品小売の市場成長、オンライン食品販売、利益率、消費者行動、Retail Media、AI、M&Aなど、本稿の主要な市場分析に使用した。
  • McKinsey & Company / EuroCommerce, The State of Grocery Retail Europe 2026。2026年の欧州食品小売市場について、64%の食品小売CEOが市場環境について「改善または2025年と同程度」と予想していることなどを含む補足資料として参照した。
  • McKinsey & Company / EuroCommerce, European nongrocery retail: Transition and transformation, 2024年11月。欧州非食品小売における価格競争、競争激化、利益率圧力を比較するために参照した。
  • McKinsey & Company / EuroCommerce, Rewiring retail in Europe: The AI imperative, 2026年6月。欧州小売におけるAI導入、業務改革、消費者インターフェースなどの分析に使用した。
  • McKinsey & Company / EuroCommerce, E-commerce is shifting how European grocers seek profitable growth, 2021年。オンライン食品小売の収益性、配送コスト、デジタル化、クイックコマースのビジネスモデルを歴史的な比較材料として参照した。
  • McKinsey & Company, The future of online grocery in Europe。オンライン食品販売における配送、ピッキング、顧客獲得、注文単価などの収益構造を検討する際の基礎資料として参照した。
  • McKinsey & Company / EuroCommerce, State of Grocery Retail Europe 2025。欧州食品小売の低い数量成長、利益率、規模の経済、業界再編の方向性を比較するために参照した。
  • McKinsey & Company, The future of grocery retail: New ways for growth。オンライン化、効率化、データ・AI、新たな利益プールの形成という長期的な構造変化を検討するために参照した。
  • McKinsey & Company, Achieve profitable growth in e-commerce。ECにおける顧客獲得、プロモーション、クイックコマース、広告などの収益モデルを分析する際の比較資料として参照した。
最後に

本稿全体を通じて確認できるのは、欧州の料理宅配競争が「料理の配送市場」から「即時小売市場」へと構造的に変化していることである。今後の焦点は、配送速度の限界を競うことではなく、物流・店舗・データ・AI・広告・サブスクリプションを一つの経済圏として統合し、利便性と利益率を同時に成立させられるかに移ると考えられる。

特に重要なのは、消費者にとって「宅配を利用すること」が特別な行動ではなくなりつつある点である。だからこそ、2026年以降の競争では、単発の注文を奪い合うのではなく、消費者の日常生活そのものにどれだけ深く入り込めるかが、EU大手を含む各プレイヤーの企業価値を左右することになる。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします
あなたへのおすすめ