コンテンプト・オブ・コート 1-27
閉廷後。
法廷内の人間が次々と席を立った。
ローリーも立ち上がった。
トーマスが隣で上着を整える。
「行こう」
「うん」
二人は傍聴席を出た。
法廷の扉を開ける。
廊下には、判決を終えた人間や弁護士、裁判所職員が行き交っていた。
ローリーは歩きながら、先ほどの判決を考えていた。
無罪。
マリベルは迷わなかった。
ローリーはそれが意外ではなかった。
ニューヨークで自分が担当した事件とは違う。
あのときは、目の前の証拠だけで判断された。
だが、今日の判決には別のものがあった。
被告人が夫から受けていた暴力。
長期間にわたる被害。
そして、事件に至るまでの経緯。
ローリーは立ち止まった。
トーマスが振り返る。
「どうした?」
「何でもない」
ローリーは再び歩き出した。
「お父さん」
「何だ?」
「さっきの判決……」
「無罪のことか?」
「うん」
「マリベル判事は、あの人を助けたかったんだろうな」
ローリーは黙った。
トーマスは続ける。
「お前も同じようなことを考えていたんだろ?」
ローリーは答えなかった。
「だから、ニューヨークであんなことをした」
「……」
「違うか?」
「違わない」
ローリーは短く答えた。
二人は廊下の端まで歩いた。
そのとき、トーマスのポケットから携帯電話の着信音が鳴った。
トーマスが立ち止まる。
画面を見る。
一瞬、表情が変わった。
ローリーが見る。
「誰?」
トーマスは携帯電話を握った。
「友人からだ」
「友人?」
「ああ」
トーマスは少し離れた場所へ歩いた。
ローリーはその背中を見ていた。
トーマスは壁際で電話に出る。
「もしもし」
声を落とした。
「……はい」
短い沈黙。
「分かりました」
また沈黙。
「今ですか?」
トーマスは周囲を確認した。
「分かりました。すぐ行きます」
電話を切る。
トーマスは携帯電話をポケットに戻した。
ローリーのところへ戻ってくる。
「急用?」
「ああ」
「何の?」
「友人の用事だ」
「私も行こうか?」
「いや、一人でいい」
「お父さん」
「すぐ戻る」
トーマスはそれだけ言って、廊下の先へ歩き出した。
ローリーはその場に残った。
トーマスの姿が角の向こうに消える。
ローリーはしばらく動かなかった。
「ローリー」
声がした。
振り向く。
エルマ・アトキンソンが立っていた。
州検事だった。
ローリーの表情が変わる。
エルマは数歩近づいた。
「少し話さない?」
ローリーは答えなかった。
廊下の空気が変わった。
