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2030W杯の出場国48→64に拡大を検討、2026の48カ国はどうだった?

2030年ワールドカップの64カ国拡大案は、100周年記念大会という歴史的節目を背景に浮上した構想である。その根底には、FIFAが進める「サッカーのグローバル化」と「参加機会の拡大」という長期戦略が存在する。
FIFAワールドカップ北中米大会のイメージ(Getty Images)

2026年FIFAワールドカップ(北中米大会)は、大会史上初めて出場国を48カ国へ拡大して開催された。従来の32カ国制から一気に16カ国増加したことで、「より多くの国にワールドカップ出場機会を与える」というFIFAの長年の方針が現実となった大会でもあった。

一方、大会終了から間もない2026年春以降、FIFA内部ではさらに大きな改革案として、2030年大会限定で出場国を64カ国へ拡大する構想が議論され始めた。この案は正式決定ではないものの、世界中のサッカー界に大きな衝撃を与えている。

2030年大会は、スペイン・ポルトガル・モロッコの3カ国共催を基本としながら、ワールドカップ100周年を記念して、ウルグアイ・アルゼンチン・パラグアイでも開幕戦など数試合を開催する特殊な大会となる予定である。実質的には6カ国が開催に関与する史上最大規模の大会であり、既に「史上最も複雑なワールドカップ」とも評されている。

このような歴史的大会であることから、「100周年記念大会としてさらに参加国を増やすべきではないか」という意見がFIFA内部から提起された。その結果として浮上したのが64カ国案である。

ただし2026年7月時点では、FIFA理事会が64カ国制を正式決定した事実はない。現段階では「検討対象」「議論段階」であり、具体的な大会方式や組み合わせ方法も最終決定には至っていない。

一方で、FIFA会長ジャンニ・インファンティーノは就任以来、「世界中の国々がより多くワールドカップに参加できること」を一貫して掲げてきた。そのため64カ国案についても、「単なる思いつきではなく、これまでの拡大路線の延長線上に位置付けられる政策」と見る専門家は少なくない。

今回の議論は単純に参加国数を増やす話ではない。ワールドカップそのものの理念、競技レベル、商業価値、放映権、市場拡大、各大陸連盟との政治的関係など、多くの要素が絡み合った国際スポーツ政策そのものといえる。


2030年W杯(スペイン・ポルトガル・モロッコ共催)「64カ国拡大案」の概要と背景

2030年ワールドカップは、サッカー史上最初の大会(1930年ウルグアイ大会)から100周年を迎える記念大会である。この節目を象徴するため、FIFAは通常大会とは異なる特別な演出を数多く計画している。

開催地はスペイン、ポルトガル、モロッコが中心となるが、100周年記念として1930年大会開催国であるウルグアイでも開幕戦が開催される予定である。さらにアルゼンチン、パラグアイでも試合が行われることになっており、史上初めて3大陸・6カ国にまたがるワールドカップとなる。

この特別な大会に合わせ、一部加盟協会から「参加国も100周年にふさわしい規模へ拡大すべきではないか」という提案が出された。これが64カ国構想の直接的な発端とされている。

従来のワールドカップは長らく32カ国制で運営されてきた。2026年大会で初めて48カ国へ拡大されたばかりであり、その制度が十分に検証されない段階でさらに64カ国案が浮上したことから、世界中のサッカー関係者の間では驚きをもって受け止められた。

64カ国制になれば、FIFA加盟211協会のおよそ3割に相当することになり、これまで予選突破が極めて困難だった中小国にも現実的なチャンスが生まれる。

特にアフリカ、アジア、北中米・カリブ海、オセアニアなどでは出場枠増加への期待が高い。これらの地域では競技人口が急速に拡大している一方、欧州や南米と比較すると出場枠が限られていたため、「ワールドカップが一部地域だけの大会になっている」という不満が以前から存在していた。

64カ国制は、こうした地域間格差をさらに縮小する手段として評価する声もある。一方で、「予選の価値が薄れる」「本大会のブランド力が低下する」との懸念も同時に指摘されている。

大会方式についても様々な案が存在する。現時点では16グループ×4チーム方式、8グループ×8チーム方式、さらには予選ラウンドを追加する方式など複数案が取り沙汰されているが、FIFAは具体的フォーマットを公表していない。

いずれの方式でも、試合数や大会期間は48カ国制よりさらに増える可能性が高い。そのため選手の負担、スタジアム運営、宿泊施設、移動計画、警備体制など、運営コスト全体が大幅に拡大することは避けられないとみられている。

一方、FIFAにとってはスポンサー収入、放映権料、チケット販売、ライセンス商品などの収益拡大も期待できるため、スポーツイベントとしては極めて魅力的な大型プロジェクトでもある。

このように64カ国案は、「競技改革」と「経済戦略」が同時に進行する構想であり、単純な出場枠増加では説明できない複雑な背景を持っている。


拡大案の主な背景

64カ国案が浮上した背景には、大きく分けて五つの要因が存在すると考えられる。

第一は、FIFA加盟協会の急増である。現在FIFAには211の加盟協会が所属しており、国際連合加盟国数を上回る世界最大規模のスポーツ組織となっている。

1930年の第1回大会はわずか13カ国で始まり、その後16カ国、24カ国、32カ国、48カ国へと段階的に拡大してきた。加盟国数の増加を考えれば、出場国増加はある意味で自然な流れともいえる。

第二は、新興国サッカーの急速な発展である。アジア、アフリカ、中東、北米では代表チームの競争力が年々向上し、従来の「欧州・南米中心」の構図が徐々に変化している。

近年ではアジア勢やアフリカ勢がワールドカップで上位進出するケースも珍しくなくなった。代表チームの実力差は以前ほど大きくなくなりつつあり、「より多くの国に挑戦機会を与えるべき」という議論を後押ししている。

第三は、放映市場の変化である。サッカー人気は欧州だけでなく、中東、アジア、インド、アフリカなど巨大市場へ広がっている。

自国代表がワールドカップへ出場すれば、その国のテレビ視聴率やスポンサー市場は飛躍的に拡大する。FIFAにとっては競技普及だけでなく、新たな収益源の確保という意味でも出場国増加は大きな魅力を持つ。

第四は、100周年大会という象徴性である。通常大会では難しい改革も、「100周年記念」という特別な名目があれば実施しやすいという政治的判断が働く可能性がある。

第五は、インファンティーノ体制が進める「グローバル化戦略」である。FIFAは近年、クラブワールドカップ拡大、女子大会拡充、育成支援、地域開発などを積極的に推進している。

ワールドカップ64カ国制も、その延長線上に位置する「世界中のサッカー参加国を増やす」という長期戦略の一環として理解することができる。

もっとも、この構想は競技レベルや大会品質を重視する立場からは強い反発も受けている。拡大が必ずしも競技力向上につながるとは限らず、「量」と「質」のバランスをどのように維持するかが最大の論点となっている。


発信源とFIFAの思惑(インファンティーノ会長)

2030年ワールドカップの64カ国拡大案が国際的な注目を集めた最大の理由は、その発信源がFIFA内部であった点にある。2025年に開催されたFIFA評議会(FIFA Council)の会合において、一部加盟協会の代表から「2030年大会に限り、100周年記念として64カ国制を検討してはどうか」との提案がなされたことが各国メディアによって報じられた。

提案そのものは加盟協会側から出されたものであるが、FIFAはこれをその場で退けることなく、「あらゆる提案について検討する義務がある」として議論対象に含める姿勢を示した。この対応が、「FIFA自身も64カ国案に一定の関心を持っているのではないか」と受け止められる要因となった。

特に注目されたのは、ジャンニ・インファンティーノ会長の反応である。同会長は就任以来、「世界中のより多くの国々がワールドカップに参加できる仕組みづくり」を最重要政策の一つとして掲げてきた。

実際、2026年大会の48カ国制への移行も、インファンティーノ体制の象徴的な改革であった。32カ国制が約30年続いた中で、出場枠を一気に16カ国増やした決断は、FIFA史上最大級の制度変更と評価されている。

インファンティーノ会長は、従来から「サッカーは世界共通のスポーツであり、一部の強豪国だけの祭典であってはならない」と繰り返し発言してきた。この考え方は、競技レベルのみを重視する従来型のワールドカップ像とはやや異なり、「参加機会の公平性」を重視する理念に基づいている。

その背景には、FIFA加盟協会の構成がある。加盟211協会のうち、欧州サッカー連盟(UEFA)所属は約4分の1に過ぎず、多数派はアジア、アフリカ、北中米・カリブ海、オセアニアなどの地域で占められている。

FIFA会長選挙では加盟協会がそれぞれ1票を持つため、加盟数の多い地域との関係強化は組織運営上も極めて重要となる。このため、出場枠拡大はスポーツ政策であると同時に、加盟協会との信頼関係を深める政治的施策としての側面も持つ。

もっとも、インファンティーノ会長自身が64カ国制を積極的に推進すると公式表明したわけではない。2026年7月時点では、「提案を検討対象とする」との立場を維持しており、正式決定や具体的な大会方式には言及していない。

そのため現段階では、「64カ国制は既定路線」と断定することはできない。一方で、48カ国制も当初は大胆な構想と受け止められながら最終的に実現した経緯があるため、今回の議論も軽視できないとの見方が専門家の間では広がっている。


ビジネスと政治的思惑

64カ国制を巡る議論を理解する上では、「競技改革」という側面だけでなく、FIFAを取り巻く巨大なビジネス構造と国際政治の視点を考慮する必要がある。

現在のFIFAワールドカップは、世界最大級のスポーツイベントである。放映権、スポンサー契約、チケット販売、ホスピタリティ、ライセンス商品などを合わせた収益は数十億ドル規模に達し、FIFAの財政基盤を支える最大の事業となっている。

参加国が増えれば、本大会に出場する国・地域も増加する。これは単純に試合数が増えるだけでなく、新たな市場でテレビ放映権や広告収入が拡大することを意味する。

例えば、これまで出場経験が少なかった国が初出場を果たせば、その国内では代表戦への関心が急速に高まり、視聴率やスポンサー需要も大幅に伸びる傾向がある。FIFAにとっては、新興市場を開拓する絶好の機会となる。

近年、サッカー市場の成長が著しい地域として、中東、インド、東南アジア、アフリカなどが挙げられる。これらの地域は人口規模が大きく、経済成長も続いていることから、長期的な市場価値が非常に高いと評価されている。

さらに、ワールドカップ出場は各国政府にとっても大きな政治的成果となる。代表チームの活躍は国民的な一体感を生み、スポーツ振興や国際的なイメージ向上にもつながるため、各国サッカー協会は出場枠拡大を歓迎する傾向が強い。

この点でFIFAは、加盟協会の期待に応える形で出場機会を広げることにより、組織としての求心力を維持しやすくなる。加盟協会数が多いアジアやアフリカでは、出場枠拡大への支持が比較的強い背景もここにある。

一方、欧州や南米の一部では慎重論が根強い。競技レベルを最優先に考える立場からは、「出場国が増えすぎれば、本大会の質が低下する」との懸念が以前から示されている。

また、放映権収入の増加が期待できる一方で、大会運営費も大幅に増加する。スタジアム数、宿泊施設、交通網、警備体制、ボランティア、人件費など、多方面で追加投資が必要となるため、開催国側の負担は決して小さくない。

2030年大会は6カ国にまたがる特殊な開催形態であることから、各国間の調整や移動計画は従来大会以上に複雑になる。64カ国制が採用された場合、この運営上の課題はさらに大きくなる可能性がある。

したがって、64カ国案は「利益が増えるから実施される」という単純な話ではない。収益拡大と大会品質、加盟協会への配慮と競技性の維持という複数の要素をどのように両立させるかが、FIFAにとって最大の課題となる。


2026年北中米大会「48カ国制」はどうだったのか?

64カ国案を評価するためには、その前段階となる2026年大会の48カ国制がどのような成果と課題を残したのかを検証することが不可欠である。

2026年大会は、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共催で開催され、史上初めて48チームによる本大会が実現した。グループステージは12組4チーム制が採用され、各組上位2チームに加え、成績上位の3位チームも決勝トーナメントへ進出する方式となった。

大会前には、「実力差の大きい試合が増える」「大会期間が長くなりすぎる」「グループリーグの価値が下がる」といった懸念が数多く指摘されていた。

しかし、大会が進むにつれて評価はやや変化した。新たに出場した国々が健闘する場面も見られ、従来の強豪国が苦戦する試合も少なくなかったため、「競技レベルの低下は予想ほど深刻ではなかった」とする分析もある。

一方で、依然として実力差の大きい試合も存在した。特に伝統的強豪国とワールドカップ初出場国との対戦では、大量得点差が生じるケースもあり、出場国拡大による競技レベルへの影響は限定的ではあるものの、完全には解消されなかった。

また、48カ国制によって各大陸からの出場国が増えた結果、アフリカ、アジア、北中米・カリブ海などの代表チームが世界最高峰の舞台で経験を積む機会は大きく拡大した。これはFIFAが掲げる「世界全体の競技力向上」という目的には一定程度合致したと評価できる。

興行面でも、観客動員や放映権、スポンサー契約などは高い関心を集め、大会全体として大規模イベントとしての成功を収めたと評価する見方が多い。一方で、試合数の増加に伴う移動や運営負担、選手の日程管理など、新たな課題も明らかになった。

つまり、48カ国制は「完全な成功」でも「明確な失敗」でもなく、多くの成果を示す一方で、改善すべき課題も浮き彫りにした制度改革であったと言える。

そして現在議論されている64カ国案は、この48カ国制で得られた経験をさらに発展させるのか、それとも課題を一層拡大させるのかという点が最大の焦点となっている。


競技レベルの底上げ

ワールドカップの出場国拡大を支持する最大の論拠の一つが、「世界全体の競技レベル向上」である。FIFAは長年にわたり、競技人口の拡大だけでなく、各地域の代表チームが世界最高峰の舞台で経験を積むことこそが国際サッカー全体の発展につながると主張してきた。

従来の32カ国制では、欧州(UEFA)と南米(CONMEBOL)の代表が出場枠の多くを占める一方、アフリカ(CAF)、アジア(AFC)、北中米カリブ海(Concacaf)、オセアニア(OFC)の代表は予選突破そのものが極めて難しかった。特にアフリカやアジアでは、FIFAランキング上位国であっても予選で敗退する例が珍しくなく、「本大会へ進めないこと」が競技力向上の機会を奪っているとの指摘があった。

2026年大会では48カ国制への移行に伴い、アフリカは9~10枠、アジアは8~9枠、北中米カリブ海は開催国を含め大幅な増枠、オセアニアも原則1枠の直接出場権を獲得した。これにより、それまでワールドカップ出場経験が限られていた国々が、本大会で世界トップレベルの相手と真剣勝負を経験する機会を得た。

スポーツ科学では、高い競技レベルの大会への継続的な参加が選手や指導者の能力向上につながることは広く認められている。代表チームだけでなく、国内リーグ、育成組織、指導者教育、スポンサー投資などにも波及効果が及ぶため、一度の本大会出場が国全体のサッカー環境を変える契機となる場合も少なくない。

実際、日本、韓国、アメリカ、モロッコなどは、ワールドカップへの継続出場を重ねる中で競技力を高め、国際大会で安定した成績を残すようになった。こうした事例は、「経験の蓄積が競技力を育てる」というFIFAの考え方を裏付ける材料としてしばしば引用される。

64カ国制を支持する立場は、この好循環をさらに多くの国へ広げることを目指している。新たな出場国が増えれば、競技力向上の恩恵を受ける国も増加し、長期的には世界全体のレベル差が縮小する可能性があるという考え方である。

一方で、競技レベルの向上には時間を要する。出場機会が増えたとしても、育成環境や国内リーグの整備が伴わなければ、短期間で世界トップクラスとの差が埋まるわけではない。このため、出場枠拡大だけで競技力向上を期待するのは過大評価であるとの見方も存在する。

また、強豪国との実力差が依然として大きい代表が本大会へ進出した場合、一方的な試合展開となる可能性も否定できない。そのため、「競技レベルの底上げ」という理念は評価される一方、実際の効果については中長期的な検証が必要であるとの意見が専門家の間では多い。


多様性の証明

FIFAが近年繰り返し強調している理念の一つが、「サッカーは世界中の人々のスポーツである」という考え方である。出場国拡大は、この理念を具体的に示す政策として位置付けられている。

従来のワールドカップでは、欧州や南米の強豪国が大会の中心を担ってきた。競技レベルの高さという点では合理的であった一方、「世界大会でありながら、参加国が一部地域に偏っている」との指摘も少なくなかった。

近年はアジア、中東、アフリカ、北米などでサッカー人気が急速に拡大している。FIFA加盟211協会の多くはこれらの地域に属しており、組織としては「より多くの加盟協会が本大会へ参加できる環境を整えること」が求められている。

ワールドカップ出場は、単なるスポーツイベントへの参加ではない。国際社会における認知度の向上、観光振興、スポーツ外交、若年層への競技普及など、多方面にわたる波及効果を持つ国家的イベントでもある。

例えば、過去には初出場を果たした国で競技人口が急増し、国内リーグや育成施設への投資が活発化した事例が報告されている。こうした成功例は、ワールドカップが各国のスポーツ政策に与える影響の大きさを示している。

さらに、サッカー文化や戦術の多様性という観点からも、出場国増加には一定の意義がある。異なる地域の戦術、育成哲学、プレースタイルが交わることで、大会全体の魅力や戦術的多様性が高まる可能性がある。

もっとも、多様性の拡大と大会の競技水準は必ずしも一致しない。競技力より地域的公平性を優先すれば、本大会のレベルが低下するとの懸念は依然として存在する。そのため、FIFAには「世界大会としての質」と「世界全体への門戸開放」という二つの価値をいかに両立させるかが求められている。


「48カ国」と「64カ国」の構造比較

64カ国制の議論では、単純な出場国数だけでなく、大会全体の構造がどのように変化するかを理解することが重要である。

出場国数

32カ国制では、FIFA加盟211協会のうち約15%が本大会へ出場できた。一方、48カ国制では約23%まで拡大し、64カ国制が実現すれば約30%の加盟協会がワールドカップへ参加できる計算となる。

これは予選突破の可能性を大幅に高めることを意味する。特にアジアやアフリカなど、従来は競争率が非常に高かった地域では、本大会出場がより現実的な目標となる。

しかしその一方で、「ワールドカップ出場」という実績の希少性は低下する可能性がある。これまで数十年に一度しか出場できなかった国が増えることは歓迎される反面、出場そのものの価値が相対的に薄れるとの指摘もある。


総試合数

32カ国制では総試合数は64試合であった。2026年大会の48カ国制では104試合へと大幅に増加し、すでに大会運営の負担は大きく拡大している。

64カ国制となった場合の試合数は、採用されるフォーマットによって異なるものの、120試合を超える可能性が高いと試算されている。一部の方式では130試合前後に達するとの予測もあり、ワールドカップ史上最大規模の大会となることが見込まれる。

試合数の増加は観客や放送事業者にとっては魅力的である一方、スタジアム確保、運営スタッフ、警備、交通、宿泊など開催国側の負担を大きく増やす要因となる。


主なフォーマット案

2026年大会では12組4チーム制が採用された。64カ国制では、16組4チーム方式が最も有力視されているが、現時点でFIFAは正式なフォーマットを公表していない。

16組4チーム方式であれば、各組上位2チームが決勝トーナメントへ進出し、決勝トーナメントは32チームから開始する形が考えられる。この方式は従来のグループリーグの考え方を維持しやすいという利点がある。

一方、8組8チーム制や、予備ラウンドを設ける方式なども理論上は可能である。しかし、グループ内の試合数が増えれば大会期間も長期化し、選手への負担が増すことになる。

そのため、FIFAは競技性、放映スケジュール、開催国の負担などを総合的に考慮しながら最適な方式を検討する必要がある。


大会期間

大会期間についても重要な論点である。32カ国制では約1か月間で大会が終了していたが、48カ国制では試合数増加に伴い開催期間も延長された。

64カ国制では、現在と同程度の日程を維持することは容易ではない。試合間隔を短縮すれば選手の疲労が増し、逆に日程を延ばせば各国リーグやクラブチームの日程に大きな影響を与える。

さらに2030年大会は6カ国開催という特殊事情もあるため、各会場間の移動時間や時差、航空便の確保なども考慮しなければならない。大会規模が拡大するほど、運営全体の複雑さは飛躍的に増すことになる。

このように、64カ国制は「参加国を増やす」という単純な改革ではなく、大会全体の設計を抜本的に見直す必要がある大規模な制度変更である。


懸念点:なぜ反対意見が根強いのか?

2030年大会の64カ国制は、「世界中のより多くの国にチャンスを与える」という理念を掲げる一方で、サッカー界では慎重論や反対意見も少なくない。その理由は、単に大会規模が大きくなるという問題ではなく、ワールドカップという大会そのものの価値や競技性に関わる問題だからである。

最も多く指摘されるのは、「本大会の質が低下するのではないか」という懸念である。ワールドカップは世界最高峰の代表チームが集う大会として高い評価を受けてきたが、出場国が増えるほど、予選突破の難易度は下がり、競技力に差のあるチームが本大会へ進出する可能性も高まる。

実際、32カ国制から48カ国制への拡大時にも、「試合のレベルが下がる」「一方的な試合が増える」といった懸念が各国の指導者や評論家から示されていた。2026年大会では、そうした予想が全面的に現実となったわけではないものの、競技力の格差が完全に解消されたわけでもなかった。

64カ国制では、さらに16チームが追加されることになるため、「競技レベル維持」という課題はより重要になる。特に欧州や南米の一部では、「ワールドカップは世界最高レベルの大会であるべきであり、参加機会の拡大が競技性を損なってはならない」との意見が根強い。

また、ワールドカップ出場の希少性が薄れることを懸念する声もある。従来は予選突破自体が国家的快挙であった国でも、出場枠が増えれば本大会出場が以前より容易になる可能性があり、「ワールドカップ出場」というブランド価値が相対的に低下するとの見方である。

こうした反対意見は、単なる保守的な立場ではなく、「大会の価値を維持しながら発展させるにはどうすべきか」という観点から提起されている点に特徴がある。


主な懸念材料

64カ国制を巡る議論では、競技面だけでなく運営面や経済面にもさまざまな課題が指摘されている。

第一に、大会規模の拡大に伴う運営コストの増加である。参加国が増えれば、使用するスタジアム数、練習施設、宿泊施設、輸送手段、医療体制、警備体制など、あらゆるインフラの規模を拡大しなければならない。

2030年大会はスペイン、ポルトガル、モロッコを中心としつつ、南米3カ国でも試合を開催する特殊な大会である。この時点ですでに運営は複雑であり、64カ国制が導入されれば、各国間の調整負担はさらに増大すると考えられる。

第二に、試合数増加による放送スケジュールや観客動員への影響である。試合数が増えれば放映権収入の増加は期待できる一方、観客や視聴者が全試合に高い関心を持ち続けられるとは限らない。

スポーツイベントでは、「希少性」が商品価値を高める要素の一つである。試合数が過度に増えれば、一試合ごとの注目度が分散し、大会全体の緊張感が薄れる可能性も指摘されている。

第三に、予選の価値である。本大会出場枠が拡大するほど、各地域予選の競争率は低下する。予選の厳しさこそがワールドカップの魅力の一部であるとの考え方から、「本大会だけでなく予選の価値も変化する」との見方がある。


選手の過密日程と疲労

近年の国際サッカー界では、選手の日程過密化が大きな問題となっている。クラブレベルでは国内リーグ、国内カップ戦、大陸別クラブ大会、代表戦などが年間を通じて行われ、トップ選手は年間60~70試合以上を戦うケースも珍しくない。

これに加え、FIFAはクラブワールドカップの拡大や各種代表大会の充実を進めているため、選手の負担は以前よりも増加傾向にある。

64カ国制が実現した場合、試合数の増加に伴って大会期間が延びる、あるいは試合間隔が短縮される可能性がある。いずれの場合も、選手への身体的・精神的負担が増すことは避けられない。

スポーツ医学の研究では、十分な回復期間を確保できない状態が続くと、筋肉系や関節系の負傷リスクが高まることが知られている。また、疲労の蓄積はパフォーマンス低下だけでなく、競技寿命にも影響を及ぼす可能性がある。

近年は選手会組織や一部クラブからも、国際大会の日程見直しを求める声が上がっている。64カ国制の議論では、単に大会を拡大するだけでなく、選手保護の観点をどのように制度へ反映させるかが重要な論点となる。


大勝・大敗(ミスマッチ)の増加

64カ国制への反対論で頻繁に挙げられるのが、「ミスマッチ」の増加である。ここでいうミスマッチとは、競技力に大きな差があるチーム同士の対戦によって、一方的な試合展開となるケースを指す。

ワールドカップの歴史を振り返ると、実力差による大差の試合は以前から存在してきた。しかし、出場国を増やすことでランキング下位の代表が本大会へ進出する機会が増えれば、そのような試合が増加するのではないかとの懸念がある。

一方で、近年の国際サッカーでは競技力の均衡化も進んでいる。育成システムの普及や海外リーグでプレーする選手の増加により、かつてほど地域間の実力差は大きくないという見方もある。

2026年大会でも、新興国が強豪国を苦しめる試合や、番狂わせと呼ばれる結果が見られた。このため、「ランキングだけでは試合内容を予測できない時代になった」とする専門家も少なくない。

したがって、64カ国制によってミスマッチが増える可能性はあるものの、その程度については実際の大会運営や各国の競技力向上の状況を踏まえて評価する必要がある。


ホスト国の負担

2030年大会は、史上初めて3大陸・6カ国にまたがる開催となる予定である。この時点でも輸送や警備、入国管理など、多くの課題を抱えている。

もし64カ国制が採用されれば、各開催国にはさらに多くのスタジアム、練習施設、宿泊施設、交通インフラ、ボランティア、人員配置が求められる。大会規模の拡大は、開催国側の財政負担や行政負担を一段と増大させる可能性がある。

また、選手・スタッフ・観客・報道関係者など、多数の関係者が国境を越えて移動することになるため、ビザ手続きや安全対策、航空輸送などもより複雑になる。

一方で、大会開催は観光振興や都市開発、国際的な知名度向上などの経済効果をもたらすとの期待もある。そのため、開催国にとっては「負担」と「利益」の双方を慎重に評価する必要がある。


今後のプロセス

2026年7月時点では、64カ国制は正式決定事項ではない。FIFAは加盟協会からの提案を検討対象として扱っている段階であり、具体的な制度設計や大会方式については最終決定に至っていない。

今後は、FIFA評議会や各種委員会で競技面、財政面、運営面、法務面など多角的な検討が進められると考えられる。また、各大陸連盟や加盟協会との調整も重要なプロセスとなる。

2030年大会まで残された期間は限られており、仮に制度変更を実施する場合には、予選方式や開催計画への影響も含め、比較的早い段階で結論を出す必要がある。


今後の展望

2030年大会はワールドカップ100周年という象徴的な大会であり、その運営方針は今後の国際サッカーの方向性を左右する可能性がある。

64カ国制が採用されれば、ワールドカップは「世界中が参加する最大規模のスポーツイベント」として新たな時代を迎えることになる。一方で、大会運営や競技性に関する課題もこれまで以上に大きくなることが予想される。

仮に64カ国制が見送られた場合でも、48カ国制の検証は今後も続くと考えられる。大会運営や競技レベル、経済効果などの分析結果は、2034年大会以降の制度設計にも大きな影響を与える可能性が高い。

いずれにしても、今後の議論では「より多くの国に機会を与えること」と「世界最高峰の大会としての質を維持すること」の両立が最大のテーマとなるだろう。


まとめ

2030年FIFAワールドカップの64カ国制構想は、単なる出場国数の増減にとどまらず、ワールドカップという大会の理念、競技性、経済性、さらには国際スポーツガバナンスの在り方を問い直す重要な議論である。1930年に13カ国で始まった大会は、16カ国、24カ国、32カ国、そして2026年の48カ国制へと段階的に拡大してきた。その延長線上に64カ国制が位置付けられることは自然な流れとも考えられる一方、拡大の速度や規模については慎重な検討が求められている。

2026年北中米大会で初めて導入された48カ国制は、FIFA加盟協会の参加機会を大幅に広げるという目的において一定の成果を示した。アジア、アフリカ、北中米・カリブ海、オセアニアなどの代表がこれまで以上に本大会へ進出し、世界最高峰の舞台で経験を積む機会を得たことは、各地域の競技力向上やサッカー普及という観点から大きな意義があった。また、放映権やスポンサーシップ、観客動員など商業面でも大会は高い関心を集め、世界最大級のスポーツイベントとしての価値を維持したと評価されている。

一方で、48カ国制は新たな課題も明らかにした。試合数や大会期間の増加、開催国の運営負担、選手の過密日程、競技レベルの維持、グループステージや予選の価値の変化など、多方面にわたる論点が浮き彫りとなった。これらは48カ国制固有の問題というより、大会規模が拡大することに伴って避けて通れない構造的課題であり、64カ国制ではさらに顕在化する可能性がある。

64カ国制を支持する立場は、「サッカーは世界中の人々のスポーツであり、より多くの国に参加機会を提供すべきだ」という理念を重視する。FIFA加盟211協会の約3割が本大会へ進出できるようになれば、新興国や発展途上地域の競技力向上、サッカー文化の普及、スポーツ外交の促進など、多方面にわたる波及効果が期待できる。また、新たな市場の開拓によって放映権やスポンサー収入が拡大し、FIFAや加盟協会の財政基盤が強化される可能性も高い。

これに対し、慎重論や反対論は、「ワールドカップは世界最高峰の大会である」という価値を重視する。出場国が増えれば競技力の格差が拡大し、一方的な試合や大会全体の質の低下につながる恐れがあるほか、本大会や地域予選の希少性が薄れ、ワールドカップというブランドそのものの価値が損なわれるとの懸念が示されている。さらに、選手の疲労や負傷リスク、クラブと代表の国際試合日程の調整、開催国の財政負担など、スポーツ政策だけでは解決できない課題も多い。

2030年大会は、スペイン、ポルトガル、モロッコを中心に、ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイを加えた史上初の3大陸・6カ国開催という極めて特異な大会である。ワールドカップ100周年という歴史的節目を迎える一方で、運営面では従来以上に複雑な調整が必要となる。このような大会に64カ国制を導入することは象徴的な意味を持つ一方、実務面では極めて慎重な検討が不可欠である。

2026年7月時点では、64カ国制はあくまでも提案・検討段階であり、FIFAが正式決定した制度ではない。今後はFIFA評議会や各専門委員会、各大陸連盟、加盟協会との協議を経て、競技面、運営面、財政面、法務面など多角的な観点から実現可能性が検証されることになる。その過程では、2026年大会の詳細な検証結果や各地域の意見が重要な判断材料となるだろう。

最終的に重要なのは、「参加機会の拡大」と「競技レベルの維持」という二つの価値をいかに両立させるかである。参加国を増やすこと自体は世界のサッカー普及という理念に合致するが、それが大会の魅力や競技性を損なっては本末転倒である。逆に、競技レベルだけを優先すれば、世界中にサッカーを普及させるというFIFAの使命との整合性が問われる。

2030年ワールドカップを巡る議論は、単に「48カ国か64カ国か」を選択する問題ではない。ワールドカップという世界最大のスポーツイベントが、今後どのような理念を掲げ、どのような価値を社会へ提供していくのかを決定する重要な転換点である。FIFAには、競技・経済・政治・社会の各側面を総合的に勘案し、100周年大会にふさわしい持続可能な制度設計を行うことが求められている。


参考・引用リスト

  • 国際サッカー連盟(FIFA)公表資料・大会運営資料・FIFA Council関連資料
  • FIFA『2026 FIFA World Cup Regulations』
  • FIFA『Annual Report』
  • UEFA(欧州サッカー連盟)公表資料
  • AFC(アジアサッカー連盟)公表資料
  • CAF(アフリカサッカー連盟)公表資料
  • Concacaf(北中米カリブ海サッカー連盟)公表資料
  • CONMEBOL(南米サッカー連盟)公表資料
  • OFC(オセアニアサッカー連盟)公表資料
  • Reuters
  • BBC Sport
  • AP News
  • ESPN
  • The Athletic
  • Sky Sports
  • The New York Times(スポーツ関連報道)
  • Associated PressによるFIFA評議会・2030年大会関連記事
  • 国際スポーツ経済学・スポーツマネジメント関連研究論文
  • FIFAランキング・大会統計データ
  • 各国サッカー協会公表資料
  • 国際オリンピック委員会(IOC)のメガイベント運営関連資料
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