「デフレ世代」と「インフレ世代」、賃上げ観に微妙な温度差、世代間の温度差を成長の原動力に変える
「デフレ世代」と「インフレ世代」の賃上げ観の違いは、日本経済が長期停滞から物価・賃金上昇を伴う経済へと移行する過程で生じている、労働者の経験と期待の違いとして理解できる。

現状(2026年10月時点)
2026年10月の日本経済では、賃上げが一時的な企業の対応から、雇用や経営を左右する構造的な課題へと変化している。長年続いた物価と賃金が上がりにくい経済環境から、物価上昇と人手不足を前提とする経済環境への移行が進むなか、働く人々の賃金に対する意識にも変化が生じている。
厚生労働省が2026年7月に公表した民間主要企業の春季賃上げ集計によると、2026年の平均妥結額は月額1万8167円、賃上げ率は5.18%だった。賃上げ率は3年連続で5%台となり、名目賃金を引き上げる動きが高い水準で続いている。ただし、集計対象は資本金10億円以上、従業員1000人以上で労働組合のある企業428社であり、この結果を中小企業や非正規雇用を含む労働者全体の状況と同一視することはできない。
一方、賃金が上がっても、生活が楽になるとは限らない。食料品、エネルギー、住居費などの負担が増加すれば、賃上げによる所得の増加が相殺されるためだ。実際、日本銀行が2026年9月に実施した生活意識に関する調査では、1年後に物価が上がると予想した回答者は合計88.6%に達した。物価上昇が例外的な出来事ではなく、家計管理や将来設計に織り込まれる状況になっている。
このような経済環境の変化を理解するうえで注目されるのが、長期のデフレや就職難を経験した中高年層と、近年の物価高や人手不足のなかで働き始めた若年層との意識の違いである。ただし、両者の間に賃上げへの態度の差が存在するとしても、それを年齢だけで説明することはできない。雇用形態、職種、所得、勤続年数、企業規模、家庭の状況などが複雑に関係しているため、世代の違いは経済環境の影響を分析するための一つの視点として扱う必要がある。
概要:なぜ今「世代間の温度差」が注目されるのか
世代間の温度差が注目される背景には、日本企業が賃金を抑制する経営から、賃金を引き上げて人材を確保する経営へと転換を迫られている事情がある。かつては、賃金の引き上げを抑え、雇用を維持し、企業の競争力を守ることが合理的と考えられる場面が多かった。しかし、人手不足が深刻化し、転職によって待遇を改善しようとする労働者もいる現在、賃金を十分に引き上げられない企業は人材の確保や定着で不利になりやすい。
この変化は、単に給与明細の金額が増えるという問題ではない。賃上げを当然の要求と考えるのか、企業業績を踏まえて慎重に判断すべきものと考えるのか、あるいは賃金だけでなく雇用の安定や働きやすさを重視するのかという、仕事に対する基本的な価値観にも関係している。
長期のデフレを経験した世代には、賃金が上がらないことを前提に支出を抑え、雇用の安定を優先する姿勢が形成されている可能性がある。一方、近年の物価上昇や人手不足を経験した若年層には、生活費の増加に対応する賃上げを求め、待遇が改善しなければ転職も選択肢に入れる姿勢が生まれやすいと考えられる。
もっとも、ここで重要なのは、こうした対比がそのまま実証された世代別の賃上げ意識を意味するわけではないという点だ。厚生労働省の2025年版労働経済の分析では、若年層ほど賃金水準を重視する傾向や、転職を通じたキャリア形成を望む割合が相対的に高いことが示されているが、これは賃上げ要求の強さそのものを直接測定した結果ではない。
したがって、本稿では「デフレ世代」を慎重な賃金観、「インフレ世代」を積極的な賃金観と単純に結び付けるのではなく、それぞれが経験してきた経済環境と、現在置かれている雇用・生活条件を区別して分析する。
両世代の定義と賃上げ観の比較
本稿では、分析上の便宜として、長期のデフレや就職難を経験した層を「デフレ世代」、近年の物価上昇や人手不足を背景に就職・転職を経験している若年層を「インフレ世代」と呼ぶ。ただし、これらは公的統計で定められた正式な世代区分ではなく、経済環境の違いが労働観に及ぼす影響を考察するための呼称である。
「デフレ世代」は、主に1990年代半ばから2010年代前半にかけて、就職活動や社会人生活の初期を経験した人々を中心に想定する。2026年時点では、おおむね30代後半から50代を中心とするが、就職時期や職歴は個人によって異なるため、年齢だけで一律に分類することは適切ではない。
これに対して「インフレ世代」は、主に2020年代に社会人となった10代後半から20代、30代前半の層を想定する。物価上昇が家計に直接影響し、人手不足を背景に企業が採用や処遇の改善を迫られる環境で働き始めた点が、従来の世代との重要な違いである。
両世代の違いを考える際には、賃上げに対する期待だけでなく、賃金がどのように決まり、どの程度まで上昇し得ると考えているのかにも注目する必要がある。デフレ世代には、賃金は勤続年数や企業業績に左右されるものであり、個人が強く要求しても容易には変わらないという認識が形成されている可能性がある一方、インフレ世代には、物価上昇や人材獲得競争を背景として、賃金の改善を求める合理性が高まっていると考えられる。
ただし、若年層の賃金重視を、そのまま強気な賃上げ要求と解釈することには注意が必要である。厚生労働省の2025年版労働経済白書が紹介する調査では、20代や30代は、仕事内容よりも賃金水準を重視する傾向が相対的に強いが、これは賃金に対する関心の高さを示すものであり、実際にどの程度の賃上げを要求するかを直接示したものではない。
「デフレ世代」――背景・原体験
デフレ世代の賃金観を理解するには、バブル経済崩壊後の日本社会が経験した長期停滞を振り返る必要がある。1990年代以降、日本企業は需要の低迷、金融危機、国際競争の激化などに直面し、雇用の維持や財務体質の改善を重視する経営姿勢を強めていった。
その過程では、企業が基本給の引き上げを抑制する一方、採用の縮小や非正規雇用の活用によって人件費を調整する動きが広がった。就職氷河期に社会人となった人々のなかには、希望する企業への就職がかなわなかったり、不安定な雇用から職業生活を始めたりした人もおり、その後の所得形成やキャリア形成に長期的な影響を受けたケースがある。
もっとも、就職氷河期の経験は、すべての人に同じ結果をもたらしたわけではない。大企業に正規雇用で就職した人と、非正規雇用や失業を経験した人では、その後の賃金推移や生活の安定度が大きく異なるため、世代全体を一つの価値観で説明することはできない。
それでも、賃金が上がらない時代に働き始めた経験は、将来の収入を楽観視しない姿勢につながり得る。昇給を期待して生活水準を引き上げるよりも、収入が伸びない場合に備えて支出を抑え、雇用の安定や貯蓄を優先するという行動は、長期停滞のなかで身に付いた適応策と解釈できる。
日本銀行が2026年に公表したデフレ期の賃金形成に関する研究も、このような環境が企業の賃金決定に及ぼした影響を示唆している。同研究は、デフレ期には名目賃金が上方にも下方にも動きにくく、特に賃金の引き上げが抑制されていたことを指摘しており、雇用の安定を賃金上昇より優先する慣行が定着した可能性を分析している。
この点は重要である。賃上げを求めることに慎重な労働者がいたとしても、それは必ずしも意欲の低さや現状への満足を意味しない。賃金が上がりにくい環境を長く経験した結果、昇給への期待を抑え、確実性の高い雇用や福利厚生を重視するようになった可能性がある。
「デフレ世代」の賃上げ観の傾向――「慎重・保守的」
デフレ世代の賃上げ観を特徴付けるとすれば、賃上げそのものに反対するというより、賃上げの持続性や実現可能性を慎重に見極めようとする姿勢である。過去に賃金の停滞や雇用不安を経験した人にとって、一時的な賃上げ発表だけを根拠に将来の生活設計を変更することは、リスクの高い判断になり得る。
この慎重さは、家計の支出構造にも表れる可能性がある。住宅ローン、教育費、親の介護、自身の老後資金などを抱える中高年層は、毎月の基本給が安定して増えることを望む一方、賞与や一時金だけの増額では、長期的な生活設計を変更しにくい。
また、企業内で中堅・管理職の立場にある人々は、自身の賃金だけでなく、部下の人件費や部署全体の業績にも責任を負う場合がある。そのため、賃上げの必要性を認めながらも、原資となる利益の確保や、賃上げ後に企業業績が悪化した場合の影響を同時に考える傾向が生まれやすい。
一方、デフレ世代の慎重な姿勢には、企業側にとって都合のよい形で解釈される危険もある。労働者が賃上げを強く要求しないことを、待遇に満足している証拠と受け止めれば、企業は賃金体系の見直しを先送りしかねない。本人が不満を抱えていても、転職による収入減や職場環境の変化を恐れて現職にとどまっている可能性を考慮する必要がある。
さらに、デフレ世代は、若年層に比べて賃金の伸びが小さい時期を長く経験してきた場合があり、近年の賃上げ率の上昇を実感しにくいことも考えられる。企業が新卒採用者の初任給を大幅に引き上げる一方、既存社員の給与改定が小幅にとどまれば、長年の勤続や経験が十分に評価されていないという不公平感が生じる可能性がある。
したがって、デフレ世代の賃上げ観を単なる保守性として片付けるべきではない。その背景には、長期停滞から学んだリスク回避、生活上の責任、雇用制度への適応、そして自分の努力が賃金に反映されにくかったという経験が重なっている。こうした要因を理解することが、世代間の対立を避け、納得感のある賃金制度を構築するための出発点となる。
「インフレ世代」――背景・原体験
「インフレ世代」の賃金観を理解するには、社会人としての出発点が、長期的な物価停滞ではなく、物価上昇と人手不足が目立つ経済環境に置かれていることに注目する必要がある。2020年代に入った日本では、新型コロナウイルス感染症の流行による経済活動の停滞と回復、国際的な資源価格の変動、円安、物流費や人件費の上昇などが重なり、生活必需品を中心に価格上昇が続いてきた。
若年層にとって、こうした物価上昇は統計上の数値にとどまらない。食費、家賃、光熱費、交通費など、毎月の支出に直接影響するため、給与が増えなければ実質的な生活水準が低下するという認識を持ちやすい。社会人になった当初から生活費の上昇を経験していれば、賃金は勤続年数に応じて少しずつ上がればよいという考え方よりも、現在の生活費に見合う水準へ早期に引き上げる必要があるという考え方が強まる可能性がある。
また、近年は人手不足が企業の採用活動や人事制度に大きな影響を及ぼしている。少子高齢化によって労働供給が制約されるなか、企業は人材を確保するために初任給を引き上げたり、若手社員の待遇を見直したりする必要に迫られている。新卒採用の競争が激しい業界では、初任給の引き上げが企業の採用戦略の一部となり、若年層が賃金を交渉可能な条件として意識する機会も増えている。
この変化は、賃金に対する期待を形成するうえで重要である。以前は、入社後の賃金は年功的な賃金体系や定期昇給によって徐々に上昇するものと考えられがちだったが、現在は企業間の待遇差や転職市場での評価が、若年層の選択に影響しやすくなっている。就職先を選ぶ段階から初任給、休日、柔軟な働き方、福利厚生などを比較することが一般化すれば、賃金は企業に与えられるものではなく、就職先を選ぶための重要な判断基準として位置付けられる。
ただし、若年層が必ずしも経済的に恵まれているわけではない。初任給が引き上げられても、家賃や食費の高騰によって可処分所得が十分に増えない場合があるほか、奨学金の返済、非正規雇用、地方と都市部の賃金格差など、生活設計を難しくする問題も存在する。賃金上昇を前向きに受け止める姿勢の背景には、将来への楽観だけでなく、生活費の増加に対する切迫感が含まれていると考えられる。
「インフレ世代」の賃上げ観の傾向――「やや強気・前向き」
インフレ世代の賃上げ観は、賃金の上昇を特別な恩恵ではなく、生活水準を維持するための必要条件として捉えやすい点に特徴がある。物価が上がり続ける環境では、給与が据え置かれること自体が実質的な所得の減少を意味するため、賃上げを求めることに一定の合理性が生まれる。
この世代は、企業が人材確保のために賃金を引き上げる動きを目にする機会も多い。周囲の企業で初任給の引き上げが相次げば、自社の給与水準が競争力を保っているかどうかを意識しやすくなり、待遇改善を求めることへの心理的な抵抗も弱まる可能性がある。特に、同業他社との賃金差が求人情報などを通じて比較しやすくなったことは、賃金に関する情報格差を縮小する要因となっている。
転職に対する意識も、賃上げ観に関係している。現在の職場で賃金が十分に上がらない場合、別の企業に移ることで所得や労働条件を改善できる可能性があるため、転職は必ずしも失敗や挫折とはみなされなくなっている。若年層にとっては、勤続年数を重ねることだけでなく、自分の能力や経験がより高く評価される環境を選ぶことも、キャリア形成の一つの方法になっている。
もっとも、転職を積極的に検討することと、実際に転職によって賃金を上げられることは別の問題である。専門性の高い職種や人材不足が深刻な業界では待遇改善の機会が比較的多い一方、経験の浅い労働者や代替可能性の高い職種では、転職しても十分な賃上げにつながらないことがある。若年層の交渉力は一様ではなく、職種、地域、企業規模、技能水準によって大きく異なる。
また、インフレ世代の前向きな賃金観は、単に高い給与を求める姿勢と同義ではない。給与が一定水準に達していても、長時間労働や過度な負担を伴う職場であれば、働き続けることを望まない人もいる。賃金、労働時間、休暇、成長機会、職場の人間関係などを総合的に評価し、自分にとって納得できる働き方を求めることが、待遇への積極的な姿勢の一部となっている。
ここで留意すべきなのは、若年層が賃上げに前向きだからといって、将来の経済成長を無条件に信頼しているとは限らない点である。むしろ、物価上昇が続く一方で、年金制度や将来の雇用に不安を抱える若年層にとって、現在の所得を確保することは将来への備えでもある。したがって、その姿勢は楽観主義というよりも、経済環境の変化に対応するための現実的な選択と理解する方が適切である。
温度差を生み出している主な要因
世代間の賃上げ観の違いを考えるうえで、重要な概念が「学習効果」である。人は過去に経験した出来事をもとに将来を予測し、同じような状況に直面した際の行動を決める傾向があるため、社会人生活の初期に経験した経済環境は、その後の賃金観や雇用観に影響を及ぼす可能性がある。
デフレ世代は、賃金が長期間上がらず、企業が人件費を抑制する状況を経験してきた。そのため、賃上げの発表があっても、それが一時的なものではないか、将来の業績悪化によって昇給が止まるのではないかと考え、長期的な所得の増加を慎重に見積もる可能性がある。
一方、インフレ世代は、物価上昇と人手不足を背景に企業が賃上げを進める状況を目にしている。賃金が上がらなければ実質的な生活水準が低下するという経験を通じ、待遇改善を求めることを当然の権利と考えたり、企業間の賃金競争を自身のキャリア形成に利用したりする姿勢が形成される可能性がある。
ただし、過去の経験が将来の判断を決定するわけではない。デフレ世代であっても、現在の人手不足や企業業績の改善を踏まえて積極的な賃上げを求める人はいるし、インフレ世代であっても、雇用の不安定さや将来の景気後退を懸念して慎重な行動を取る人はいる。世代間の違いは、個人の経験や現在の環境と組み合わさることで初めて具体的な行動として表れる。
テクノロジーと労働市場に対する見方の違い
人工知能をはじめとする技術革新も、賃金観を左右する要因となっている。企業が業務の自動化や生産性向上を進めるなか、労働者に求められる技能は変化しており、従来の経験や勤続年数だけでは賃金上昇を保証できないという認識が広がっている。
デフレ世代のなかには、長年培ってきた業務知識や社内調整能力が評価される一方、技術革新によって自分の技能の価値が低下することを懸念する人もいる。特に、既存の業務手順や組織内の経験を重視してきた労働者にとって、人工知能の導入は生産性向上の機会であると同時に、職務の再編や評価基準の変更を意味する可能性がある。
若年層は、デジタル技術を活用した業務や新しい職種に適応しやすいと期待されることがあるが、若いという理由だけで技術への適応力が高いと断定することはできない。重要なのは年齢そのものではなく、学習機会、教育環境、実務経験、企業による支援の有無である。
人工知能が生産性を高めた場合、その成果が賃金に反映されるかどうかも重要な論点となる。企業の利益が増えても、成果が設備投資や株主還元に偏り、労働者の基本給が十分に上がらなければ、技術革新への期待は失望に変わり得る。世代を問わず、技能の向上や業務効率化が賃金上昇につながる仕組みを整えることが求められる。
労働市場の変化も見逃せない。人手不足が深刻な職種では労働者の交渉力が高まりやすい一方、景気変動の影響を受けやすい業種や、求人の選択肢が限られる地域では、賃上げを求めても実現しにくい場合がある。したがって、世代間の温度差を分析する際には、技術への態度だけでなく、個々の労働者がどのような職種や地域で働いているかを考慮する必要がある。
企業内でのポジションと利害関係
世代間の賃金観には、企業内で担っている役割や責任も影響する。若手社員は、生活費の上昇に対応できる基本給や、自身の能力に見合った報酬を求める傾向がある一方、中堅社員や管理職は、個人の処遇だけでなく、組織全体の人件費、業績、部下の育成、雇用の安定などを同時に考えなければならない場合がある。
特に問題となるのが、初任給と既存社員の賃金の逆転、あるいは賃金差の縮小である。新卒採用の競争力を高めるために初任給を大幅に引き上げても、既存社員の基本給が同程度に見直されなければ、長年の経験や技能が十分に評価されていないという不満が生まれやすい。
この問題は、若手社員と中堅社員のどちらか一方に責任があるわけではない。企業が採用市場への対応を優先し、社内の賃金体系全体を見直さなかったことが、世代間の不公平感を生む構造的な要因となる。
また、管理職が賃上げに慎重な姿勢を示す場合でも、それが若手社員の要求への反発とは限らない。原材料費や人件費の上昇を販売価格に十分転嫁できない企業では、賃上げを継続するための利益を確保できるかどうかが経営上の課題となる。企業の収益力や価格交渉力に差がある以上、すべての企業が同じ速度で賃上げを進めることは難しい。
その一方で、企業が経営上の制約を理由に賃上げを抑制し続ければ、採用難や離職の増加を通じて、かえって事業の継続が困難になる可能性もある。必要なのは、世代間の意識の違いを対立として扱うことではなく、賃金の決定基準と企業の経営状況を明確にし、各世代が納得できる処遇制度を構築することである。
社内コミュニケーションのギャップ
世代間の賃上げ観の違いが企業内で表面化するのは、賃金そのものの問題だけでなく、仕事に対する価値観や評価の基準が異なるためでもある。長期のデフレを経験した中堅・ベテラン社員が、企業業績や勤続年数、組織への貢献を重視する一方、若手社員が現在の市場価値や生活費、労働条件に見合った処遇を重視すれば、互いの判断を理解しにくくなる場合がある。
例えば、若手社員が賃上げや昇進について上司に意見を伝えた際、上司が「まずは経験を積むべきだ」と応じる場面が考えられる。上司にとっては長期的な育成を重視した助言であっても、若手社員には、現在の働きや成果が正当に評価されていないというメッセージに受け取られる可能性がある。
反対に、若手社員が給与水準や転職の可能性を率直に話すことを、中堅社員が組織への忠誠心の不足と受け止める場合もある。しかし、転職を検討することと、現在の職場で責任を果たすことは必ずしも矛盾しない。待遇やキャリアの選択肢について率直に話し合える環境を整えることが、相互理解の前提となる。
この問題を解決するには、世代ごとの性格や価値観を批判するのではなく、賃金が決まる仕組みを明確にする必要がある。基本給、定期昇給、賞与、職務に対する手当、評価制度などについて説明責任を果たし、どのような成果や能力が処遇に反映されるのかを共有すれば、賃上げをめぐる不満を具体的な改善課題へと変えられる。
また、若手社員の意見を聞く機会を設けるだけでは十分ではない。中堅・ベテラン社員が経験してきた雇用不安や経営上の制約についても共有し、双方の立場を理解できる対話が必要である。世代間の温度差を解消する目的は、全員の考え方を同じにすることではなく、異なる経験を持つ人々が納得できる意思決定の仕組みをつくることにある。
持続的な成長への不確実性
賃上げをめぐるもう一つの大きな課題は、現在の賃金上昇を将来にわたって持続できるかどうかである。企業が人手不足への対応や物価上昇を受けて賃金を引き上げても、生産性や付加価値が十分に高まらなければ、人件費の増加を継続的に吸収することは難しい。
特に中小企業では、原材料費やエネルギー費、物流費などの上昇分を販売価格に転嫁できるかどうかが、賃上げ余力を左右する。大企業が高い賃上げ率を実現しても、取引先である中小企業が十分な価格転嫁をできなければ、賃上げの動きが企業間で偏り、労働者の所得格差が拡大するおそれがある。
さらに、名目賃金と実質賃金の違いにも注意が必要である。名目賃金が上昇していても、消費者物価の上昇率がそれを上回れば、賃金で購入できる商品やサービスの量は減少する。生活者にとって重要なのは給与額の増加だけではなく、物価上昇を差し引いた購買力が改善しているかどうかである。
こうした不確実性は、世代間の賃金観にも影響する。過去の賃金停滞を経験した層は、名目賃金の上昇が一時的に終わる可能性を警戒しやすく、若年層は生活費の増加に対応するため、より迅速な賃上げを求める可能性がある。しかし、どちらの姿勢も、所得と生活水準を安定させたいという共通の目的から生じている。
したがって、持続的な賃上げを実現するには、企業の生産性向上、適切な価格転嫁、人材育成、設備投資などを一体的に進める必要がある。賃上げを企業にとっての単なる費用増加と捉えるのではなく、従業員の定着や技能向上、消費の下支えにつながる投資として位置付けられるかどうかが、今後の重要な分岐点となる。
「インフレ・マインド」への完全な世代交代は起こるのか
日本経済が長期的なデフレから脱却し、賃金と物価がともに上昇する経済へ移行するためには、企業と労働者の双方が、賃金や価格に対する考え方を変える必要がある。ここでいう「インフレ・マインド」とは、物価が上がることを当然視する心理だけではなく、生産性や付加価値の向上に応じて賃金も上がると期待し、必要な価格改定や賃金交渉を行う姿勢を意味する。
デフレ期には、企業が販売価格の引き上げを避け、賃金を抑制することが合理的な経営判断となる場面が多かった。しかし、物価上昇が続く状況では、価格と賃金を長期にわたって据え置くことが、企業の収益や従業員の生活をかえって圧迫する可能性がある。こうした変化を受け、企業は価格設定、人材確保、賃金決定の仕組みを総合的に見直すことを迫られている。
もっとも、インフレ・マインドが社会全体に定着したと判断するには、名目賃金の上昇だけでは不十分である。物価上昇率を上回る実質賃金の改善が継続し、労働者が将来の所得増加を一定程度見通せるようになることが重要だ。賃金が上がっても生活費の負担が増え続け、家計が将来への不安から消費を抑えれば、経済の好循環は十分に形成されない。
また、世代交代によって経済意識が自動的に変化するわけでもない。若年層が社会人として経験を積み、管理職や経営層に移行すれば、その判断は企業業績や雇用責任などの制約を受けるようになる。一方、デフレ期を経験した世代も、賃金上昇が継続し、企業の収益力や労働市場の構造が変化すれば、賃上げに対する期待を修正する可能性がある。
したがって、重要なのは、デフレ世代からインフレ世代への単純な交代ではなく、世代を超えて賃金上昇が合理的な選択となる経済構造を形成することである。物価と賃金がともに上昇しても、労働者の購買力が改善し、企業が利益を確保し、消費と投資が持続的に拡大する仕組みが整わなければ、インフレ・マインドは定着しない。
2027年春闘に向けた試金石
2027年の春季労使交渉は、日本の賃上げが一時的な動きにとどまらず、経済の構造的な変化として定着するかを見極める重要な機会となる。2026年10月時点で、労働組合の全国組織である連合は、2027年の春闘でも5%以上の賃上げを求める方針を示しており、組合員数300人未満の中小組合については6%以上を目指す方向で調整している。
2026年春闘では、連合の最終集計による賃上げ率が全体で5.01%となり、3年連続で5%を超えた。一方、300人未満の中小組合では4.69%にとどまり、大企業との間には差が残った。この結果は、賃上げが広がりつつあることを示すと同時に、企業規模によって賃上げ余力に違いがあることを浮き彫りにしている。
2027年春闘で問われるのは、賃上げ率の高さだけではない。大企業で実現した賃上げが中小企業や非正規雇用の労働者にも波及するか、基本給の引き上げが継続するか、物価上昇を差し引いた実質賃金が改善するかといった点が重要になる。特に、価格転嫁が難しい企業や労働集約型の業種で、賃上げの原資をどのように確保するかが大きな課題となる。
さらに、初任給の引き上げと既存社員の賃金改定のバランスも、企業内の公平性を左右する。若手社員の採用競争力を高める一方、中堅・ベテラン社員の技能や経験を適切に評価できなければ、賃上げが新たな不満を生む可能性がある。企業には、採用市場への対応と既存社員の処遇改善を別々の課題として扱うのではなく、賃金体系全体を見直す姿勢が求められる。
一方、国際情勢や資源価格の変動、為替相場の動向、国内需要の強さなどによって、企業の収益環境は変化する。賃上げを継続するためには、企業が人件費の増加を吸収できるだけの生産性と付加価値を確保するとともに、取引先との価格交渉や人材育成を進める必要がある。
2027年春闘は、デフレ世代とインフレ世代のどちらの賃金観が正しいかを決める場ではない。むしろ、長期的な賃金停滞を経験した人々の慎重さと、現在の生活費に対応するために賃上げを求める人々の切実さを、持続的な所得改善につなげられるかどうかが問われる。
今後の展望――世代間の温度差を成長の原動力に変える
今後の日本企業には、賃金を一律に引き上げるだけでなく、従業員の技能、職務、責任、成果に応じて納得感のある処遇を実現することが求められる。年齢や勤続年数を重視する制度と、職務や能力を重視する制度のどちらか一方に偏るのではなく、経験の蓄積と新しい能力の発揮をともに評価する仕組みが重要となる。
デフレ世代が持つ業務知識や組織運営の経験は、企業の安定的な成長に欠かせない。一方、インフレ世代が重視する待遇の透明性、能力開発、柔軟な働き方への要求も、企業が人材を確保し、生産性を高めるうえで無視できない。両者の価値観を対立させるのではなく、経験の継承と新しい働き方の導入を両立させることが、企業の競争力を高める可能性がある。
政府にとっても、賃上げの促進だけでなく、中小企業の生産性向上、価格転嫁の環境整備、職業訓練の充実、労働移動の支援などを組み合わせることが重要となる。労働者が技能を高め、その価値に見合う賃金を得られる環境を整えることは、特定の世代だけでなく、社会全体の所得形成を改善することにつながる。
ただし、今後の展望を楽観的に描きすぎるべきではない。賃上げが物価上昇に追いつかない状況や、企業規模による待遇格差が続けば、賃金上昇への期待は弱まり、再び慎重な行動が広がる可能性がある。持続的な賃上げを実現するためには、労使の交渉だけでなく、経済全体の生産性と所得分配のあり方を継続的に検証する必要がある。
まとめ
「デフレ世代」と「インフレ世代」の賃上げ観の違いは、日本経済が長期停滞から物価・賃金上昇を伴う経済へと移行する過程で生じている、労働者の経験と期待の違いとして理解できる。長期のデフレや就職難を経験した人々は、雇用の安定や将来の所得の確実性を重視しやすい一方、近年の物価高や人手不足のなかで働き始めた人々は、生活費に見合う賃金や市場価値に応じた待遇改善を求めやすい。
しかし、両者の違いを年齢や世代の性格だけで説明することは適切ではない。賃金への期待は、社会人になった時期だけでなく、雇用形態、所得水準、職種、企業規模、家族構成、職業経験などによっても左右されるためだ。世代間の温度差は、経済環境の変化を考えるための有効な視点ではあるものの、すべての労働者に当てはまる固定的な特徴ではない。
また、賃上げに慎重な姿勢と、積極的に待遇改善を求める姿勢は、必ずしも相反するものではない。長期的な所得の安定を重視する考え方も、物価上昇に応じた賃上げを求める考え方も、生活水準を維持し、将来への不安を軽減したいという共通の目的に根差している。重要なのは、異なる経験から生まれた考え方を対立として扱わず、持続的な所得改善という共通の課題に結び付けることである。
企業に求められるのは、初任給の引き上げだけでなく、既存社員の賃金体系の見直し、評価基準の明確化、技能形成への投資、適切な価格転嫁などを総合的に進めることだ。政府には、中小企業の生産性向上や人材育成を支援し、企業規模や雇用形態による賃金格差を縮小するための環境整備が求められる。
2027年春闘は、賃上げの勢いが継続するかどうかに加え、その成果が幅広い労働者に波及し、実質賃金の改善につながるかを見極める重要な機会となる。名目賃金の上昇率だけでなく、物価上昇率、実質賃金、企業規模別の賃上げ格差、雇用の安定性などを総合的に評価する必要がある。
最終的に問われるのは、どちらの世代の賃金観が正しいかではない。過去の停滞から得た慎重さと、現在の経済環境が生み出す待遇改善への期待を、どのように持続的な成長へと結び付けるかである。世代間の違いを相互理解と制度改革の契機に変えられるかどうかが、日本経済が賃金の上がりにくい構造から脱却するための重要な条件となる。
分析上の留意点
本稿で用いた「デフレ世代」と「インフレ世代」は、経済環境の違いを説明するための分析上の呼称であり、公的に定義された統計上の分類ではない。また、デフレ期に就職したことが慎重な賃金観を生み、インフレ期に就職したことが積極的な賃金観を生むという因果関係が、世代別の意識調査によって直接実証されているわけではない。
したがって、本文で述べた世代ごとの傾向は、経済環境、雇用慣行、家計の状況、労働市場の変化を踏まえた分析的な解釈として読む必要がある。今後、世代別の賃上げ希望、実際の賃金交渉、転職意向、実質所得への評価などを継続的に調査することで、世代間の温度差がどの程度実在し、何によって説明できるのかを、より精密に検証できるようになる。
参考・引用リスト
政府・公的機関の資料
1. 厚生労働省「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」(2026年7月31日公表)
主要企業428社の賃上げ状況を集計した資料。平均妥結額1万8167円、賃上げ率5.18%という数値の出典である。
2. 厚生労働省「令和7年版 労働経済の分析」
労働市場の変化、賃金体系、転職行動、労働者の意識変化、生産性向上などを分析した資料。若年層の就業意識や企業と労働者の関係性を考察する際の基礎資料である。
3. 厚生労働省「第Ⅱ部 第3章 企業と労働者の関係性の変化や労働者の意識変化に対応した雇用管理」
年功的な賃金体系の変化、若年層の継続就業意向、転職を通じたキャリア形成などを扱う。本稿の世代間比較に関連する資料である。
4. 日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(第107回、2026年9月調査)(2026年10月13日公表)
家計の景況感や物価予想などを調査した資料。1年後の物価上昇予想を分析する際に参照できる。
労働組合・賃上げ交渉に関する資料
5. 日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果」(2026年7月公表)
全体の賃上げ率5.01%、300人未満の中小組合の賃上げ率4.69%など、企業規模による賃上げ格差を検討するための資料である。
6. 日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争の取り組みについて」
賃上げ目標、価格転嫁、格差是正、実質賃金の改善など、労働組合側の政策的な問題意識を把握するための資料である。
報道機関の資料
7. ロイター通信「88.6% of Japan households expect prices to rise a year from now, BOJ says」(2026年10月13日)
日本銀行の生活意識調査を報じた記事。物価上昇に対する家計の予想や、インフレに対する意識を確認するための補助資料である。
追記:世代間の賃上げ観をどう検証するか
これまでの分析をさらに深めるには、賃上げに関する統計を、集計対象や算出方法の違いを踏まえて読み解く必要がある。賃上げ率が5%を超えたという発表があっても、それが大企業の労働者を対象とするのか、幅広い企業の労働組合を対象とするのかによって、示している実態は異なる。
2026年春闘について、日本労働組合総連合会の最終集計では、全体の賃上げ率は5.01%、組合員300人未満の中小組合は4.69%だった。一方、厚生労働省による民間主要企業の集計では5.18%となっているが、こちらは大企業を中心とする限定された対象の集計である。両者の数値は必ずしも矛盾するものではなく、対象企業や集計方法の違いを考慮して比較する必要がある。
この違いは、世代間の賃上げ観を分析するうえでも重要である。大企業で働く若手社員が高い賃上げ率を実感していても、中小企業で働く中堅社員が同じ恩恵を受けているとは限らない。世代間の温度差とされるものの一部は、実際には企業規模や業種、雇用形態による待遇格差から生じている可能性がある。
さらに、賃上げ率が高くても、基本給の引き上げと賞与・一時金の増加では意味が異なる。基本給の増加は翌年以降の賃金や時間外労働手当、賞与の算定などに影響し得る一方、一時金は継続性が保証されない場合がある。労働者が将来の生活設計を考える際には、賃上げ率だけでなく、その内訳と持続性を確認することが欠かせない。
世代別の意識を直接測定する必要性
「デフレ世代は慎重で、インフレ世代は強気」という仮説を厳密に検証するには、年齢別の賃金重視度だけでは不十分である。必要なのは、賃上げに対する期待、実際に希望する昇給額、会社への要求経験、転職意向、雇用の安定性に対する評価などを、同じ調査のなかで比較することである。
例えば、20代と50代の回答に差があったとしても、それが年齢によるものなのか、社会人になった時期に経験した経済環境によるものなのかは、単純な比較では判断できない。年齢、出生年、調査時点は互いに関係しているため、同じ年齢層を長期間追跡する調査や、異なる世代を同じ条件で比較する分析が重要になる。
また、世代別の平均値だけでなく、回答のばらつきにも目を向ける必要がある。若年層のなかにも安定した雇用を重視する人がいる一方、中高年層のなかにも積極的に転職や賃上げ交渉を行う人がいるからだ。世代内の違いを把握せずに平均的な傾向だけを強調すると、固定観念を強め、職場の相互理解を妨げるおそれがある。
したがって、今後の調査では、世代別の意識と実際の賃金変化を組み合わせることが望ましい。賃上げを強く希望する人が実際に高い昇給を得ているのか、転職によって所得が改善したのか、あるいは企業の賃金制度や労働組合の有無が結果を左右しているのかを分析すれば、世代間の温度差をより具体的に説明できる。
企業が取り組むべき具体策
世代間の賃金観の違いを解消するために、企業が最初に取り組むべきなのは、賃金決定の透明性を高めることである。昇給の基準、職務や技能に対する評価、昇進の条件、企業業績と賃金改定の関係を明確にし、従業員が自分の処遇を理解できるようにする必要がある。
次に重要なのは、若手社員の初任給引き上げと、既存社員の賃金改善を一体的に進めることである。採用競争への対応だけを優先すれば、中堅・ベテラン社員の不公平感が強まり、組織への信頼が損なわれる可能性がある。勤続年数だけに依存せず、経験、技能、責任、成果を適切に評価する制度を整えることが望ましい。
さらに、従業員の意見を継続的に把握する仕組みも必要となる。賃金や労働条件に対する不満を定期的に調査し、労使協議や個別面談を通じて改善策を検討すれば、問題が離職や職場内の対立として表面化する前に対応しやすくなる。重要なのは、意見を聞く機会を設けるだけでなく、寄せられた意見に対して企業がどのように判断し、何を改善したかを説明することである。
政策面で求められる対応
政策面では、賃上げを企業の自主的な努力だけに委ねず、賃金上昇を支える経済的な基盤を整えることが重要である。とりわけ中小企業が適正な価格転嫁を行い、人件費の増加を継続的に吸収できる環境を整備することは、大企業と中小企業の賃金格差を縮小するうえで欠かせない。
日本労働組合総連合会が2027年春闘に向けて掲げる方向性にも、実質賃金の改善、企業規模や雇用形態による格差の是正、取引先を含めた付加価値の適正な分配が含まれている。2026年10月時点では、2027年春闘の賃上げ要求を5%以上とし、中小組合について6%以上を目指す方向で調整されていると報じられているが、正式な闘争方針の決定とは区別して扱う必要がある。
また、職業訓練や学び直しへの支援も重要である。人工知能や自動化によって仕事の内容が変化するなか、労働者が新しい技能を身に付け、その能力を生かせる職務へ移行できるようにすることは、長期的な賃金上昇の可能性を高める。年齢にかかわらず学習機会を確保し、経験豊富な労働者の技能と若年層の新しい知識を組み合わせることが、企業と社会双方の利益につながる。
ただし、政策の成果は、賃上げ率の上昇だけで評価すべきではない。実質賃金の改善、雇用の安定、労働時間、企業規模別の賃金格差、若年層と中高年層の処遇の公平性などを併せて検証する必要がある。賃金の上昇が生活の改善につながり、企業の持続的な成長を支えるかどうかが、最終的な評価基準となる。
最後に
世代間の賃上げ観の違いは、日本経済の変化を理解するうえで有用な切り口である。しかし、世代だけを原因とみなすと、企業規模、雇用形態、職種、所得、賃金制度などの構造的な要因を見落とすことになる。
今後は、世代別の意識調査と実際の賃金データを組み合わせ、どのような条件のもとで賃上げへの期待が強まり、どのような仕組みが実質所得の改善につながるのかを検証する必要がある。世代間の温度差を固定的な対立として扱うのではなく、賃金制度の改善、労働者の技能形成、企業の生産性向上を進める契機として活用することが望ましい。
2027年春闘は、その進展を測る重要な機会となる。賃上げの水準だけでなく、企業規模や雇用形態を超えた波及、実質賃金の改善、従業員が納得できる評価制度の整備まで実現できるかどうかが、日本経済の持続的な成長を左右する。
参考・引用リスト(追記)
- 日本労働組合総連合会「2026年春闘」
- 日本労働組合総連合会「2027年春闘」
- 労働政策研究・研修機構「連合中央委員会に関する報道・労働政策情報」(2026年10月14日)
- 時事通信「連合、賃上げ要求『5%以上』で調整=4年連続、持続的上昇へ―27年春闘」(2026年10月16日配信)
