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COP31⑤:森林減少・劣化の抑制と「森林ロードマップ」、世界の動向とアプローチ

森林減少・劣化の抑制は、パリ協定の目標達成、生物多様性の保全、持続可能な経済と社会の構築を結びつける国際的な課題である。
COP31の公式ロゴ(Getty Images)
現状(2026年10月時点)

2026年10月時点で、森林減少と森林劣化の抑制は、気候変動対策、生物多様性の保全、持続可能な開発を結びつける国際環境政策の重要課題となっている。2026年11月にトルコのアンタルヤで開催される国連気候変動枠組条約第31回締約国会議(COP31)を前に、ブラジルが主導する「2030年までの森林減少・劣化の停止と反転に向けたロードマップ」の策定作業が進められている。

このロードマップは、森林保全に関する新たな法的義務を設ける国際条約ではなく、既存の国際合意、各国の政策、資金制度、技術協力を整理し、2030年までの実行を促すための行動指針である。したがって、その成否は文書の採択そのものよりも、各国が具体的な政策と資金を確保し、森林の減少を実際に食い止められるかどうかによって評価されるべきである。

森林問題の深刻さは、森林面積の変化だけでは捉えきれない。森林減少とは、森林が農地、牧草地、鉱山、道路、都市など別の土地利用へ転換される現象を主に指し、森林劣化とは、森林としての土地利用が維持されていても、樹木の構造、生態系の機能、炭素貯蔵能力、生物多様性などが損なわれる現象をいう。

両者は相互に関連するが、発生要因や対策は必ずしも同一ではない。大規模な農地転換を規制する政策が森林減少を抑制できても、違法伐採、火災、過剰な木材採取、気候変動による乾燥化などを通じた森林劣化まで自動的に防げるわけではないため、森林面積の維持と森林生態系の健全性の回復を区別して評価する必要がある。

森林は、二酸化炭素を吸収・貯蔵するだけでなく、水循環の安定化、土壌流出の抑制、地域の気温調節、生物の生息地の確保など、複数の生態系機能を担っている。とりわけ熱帯林は、地球規模の炭素循環と生物多様性の維持に重要であり、その破壊は気候変動を加速させると同時に、先住民族や地域住民の生活基盤を脅かす。

2026年9月に報じられた国際的な分析では、2025年に世界で失われた熱帯の原生林は約430万ヘクタールに達し、10年前と比較してその損失が大幅に増加したとされる。これは、森林保全に関する国際的な宣言や資金構想が相次いでいるにもかかわらず、政策目標と現場の成果との間に大きな隔たりが残っていることを示す。

こうした状況のなかで、COP31に向けた森林ロードマップの意義は、森林保全を個別の自然保護政策にとどめず、農業、貿易、金融、エネルギー、土地制度、地域開発を横断する課題として位置づける点にある。森林破壊を引き起こす経済活動への対策と、森林を維持する国や地域に利益を還元する仕組みを組み合わせることが、今後の国際協力の重要な焦点となる。

COP31と森林ロードマップをめぐる背景

森林保全が国際的な気候政策の中心課題として認識されるようになった背景には、森林破壊が温室効果ガス排出の主要な要因の1つであることに加え、森林が気候変動の影響を緩和する重要な自然資本であるという科学的知見の蓄積がある。森林を伐採して土地を転換すると、樹木や土壌に蓄えられた炭素が大気中へ放出され、将来にわたって二酸化炭素を吸収する能力も失われる。

一方、森林の保全・再生は、気候変動の緩和だけでなく、生態系の回復や地域社会の防災力向上にも貢献する。ただし、森林を保護すればあらゆる環境問題が解決するわけではなく、植林地の拡大だけを成果とみなす政策や、自然林を単一樹種の人工林へ置き換える施策には、生物多様性や水資源への悪影響を招く危険性がある。

国際的な政策形成では、1992年の国連環境開発会議以降、森林の持続可能な管理が議論されてきた。2015年に採択されたパリ協定では、第5条に森林を含む温室効果ガスの吸収源・貯蔵庫の保全と強化が位置づけられ、途上国における森林減少・劣化由来の排出削減を促進するための枠組みも引き継がれた。

さらに、2023年のパリ協定第1回世界全体の進捗評価では、森林の保全、森林減少・劣化の抑制、生態系の保護・再生などの重要性が改めて確認された。これらの合意は、森林保全を各国の自主的な自然保護活動だけに委ねるのではなく、世界全体の気候目標を達成するための実施課題として扱う根拠となっている。

2025年11月にブラジルのベレンで開催されたCOP30では、議長国が化石燃料からの公正な移行に関するロードマップとともに、森林減少・劣化の停止と反転を目指すロードマップの策定方針を表明した。これを受け、2026年には各国政府、国際機関、研究機関、市民社会、先住民族・地域社会などから意見を募る作業が進み、COP31での提示に向けて内容の具体化が図られている。

ブラジル議長国が公表した情報によると、森林ロードマップへの意見提出は180件を超え、140の締約国を代表する22件の国・国別グループからの提出に加え、150を超える組織や9つの国連機関が参加した。こうした広範な協議は、森林問題を熱帯地域だけの課題とみなさず、温帯林や亜寒帯林、マングローブ林、泥炭地などを含む多様な生態系の問題として扱うための基盤となっている。

ただし、協議への参加が広がったことと、実行可能な合意が成立することは別問題である。森林保全に対する各国の利害は、森林資源への依存度、農業・鉱業などの産業構造、財政余力、土地所有制度、開発政策によって異なるため、共通の目標を掲げながらも、各国の事情に応じた実施方法と支援策を設計しなければならない。

「森林ロードマップ」の主な構造と方向性

森林ロードマップの基本的な考え方は、2030年までに森林減少・劣化を停止させ、森林生態系の回復を進めるため、既存の国際合意と政策手段を実行可能な枠組みに整理することである。新たな交渉制度を設けたり、すでに採択された国際合意を再交渉したりするのではなく、各国が実施すべき優先課題を明確にし、政策の連携、資金の動員、技術協力を促進することを目的としている。

このロードマップは、法的拘束力を持たない行動志向の文書として構想されている。そのため、各国に一律の政策を義務づけるというより、森林の種類や減少の原因、行政能力、経済的条件などの違いを踏まえながら、共通の目標に向けた取り組みを支援する性格が強い。

議論されている行動領域は、大きく5つに整理できる。すなわち、森林保全、持続可能な森林管理、森林劣化への対処、森林減少の抑制、森林再生であり、これらを相互に関連する政策課題として扱う方向性が示されている。

第1の森林保全では、自然林や重要な生息地を維持し、森林転換を防止することが中心となる。第2の持続可能な森林管理では、木材生産や森林資源の利用を認めながらも、森林の再生能力や生態系機能を損なわない利用方法を確立することが求められる。

第3の森林劣化対策では、違法伐採、火災、過剰利用などによって損なわれた森林の構造と機能を回復させることが課題となる。第4の森林減少対策では、農地転換やインフラ開発など、森林を失わせる直接的・間接的な要因への対応が必要であり、第5の森林再生では、自然再生を優先しながら、適切な植林や生態系回復を進めることが重要となる。

これらの5領域は、独立した施策の一覧ではない。例えば、森林減少を抑制しても、残された森林の劣化が進めば炭素貯蔵能力や生物多様性は損なわれる一方、植林を進めても自然林の破壊が続けば、森林生態系全体の保全にはつながらないためである。

また、ロードマップは、森林問題を森林行政だけで解決できる課題とは捉えていない。農業政策、土地利用計画、金融制度、貿易規制、地域開発などとの連携を通じて、森林を破壊する経済的誘因を弱め、森林を維持することが社会的・経済的にも合理的となる条件を整える必要がある。

今後の評価では、ロードマップがどの程度具体的な実施経路を提示できるかが焦点となる。森林減少の基準年や測定方法、進捗の確認手段、資金支援の条件、各国の責任分担が曖昧なままであれば、既存の宣言を再確認するだけに終わるおそれがある。

したがって、COP31で問われるのは、森林保全の重要性について各国が再び合意することだけではない。既存の約束を実際の政策へ転換するために、誰が、どのような資金と制度を用いて、いつまでに何を実施するのかという具体性を、どこまで高められるかという点にある。

① パリ協定と森林保全の不可分性

森林ロードマップを理解するうえで重要なのは、森林保全がパリ協定の気候目標を達成するための補助的な施策ではなく、温室効果ガスの排出削減と吸収源の維持を支える重要な要素だという点である。森林は大気中の二酸化炭素を吸収して樹木や土壌に炭素を蓄える一方、伐採や土地転換、火災、劣化によってその炭素を大気中へ放出するため、森林の状態は地球規模の炭素循環に直接影響する。

パリ協定第5条は、締約国に対して森林を含む温室効果ガスの吸収源・貯蔵庫の保全と強化を促し、途上国における森林減少・劣化由来の排出削減に関する既存の枠組みを実施・支援することを求めている。これは、森林保全が各国の自主的な自然保護政策だけでなく、国際的な気候変動対策の制度的基盤にも組み込まれていることを意味する。

2023年に実施されたパリ協定の第1回世界全体の進捗評価でも、2030年までに森林減少・劣化を停止・反転させることの重要性が確認された。森林ロードマップは、この政治的合意を具体的な政策実施へとつなげ、国際的な目標と各国の土地利用・産業政策との間にある隔たりを縮める役割を期待されている。

ただし、森林を炭素吸収源として評価する際には、単純な森林面積や植林本数だけでは不十分である。樹木の種類、森林の成熟度、土壌の炭素量、火災や干ばつの危険性、伐採後の再生状況などによって、単位面積当たりの炭素貯蔵量と長期的な吸収能力は大きく異なるためである。

また、森林の炭素吸収を化石燃料の排出削減の代替として過度に扱うことにも注意が必要である。森林の吸収能力には生態学的な限界があり、気候変動の進行によって森林火災や乾燥化が増加すれば、これまで吸収源として機能してきた森林が炭素の排出源へ転じる危険もある。

したがって、森林ロードマップは森林の吸収能力を高める施策と、化石燃料などからの排出を削減する施策を並行して進める必要がある。森林保全を理由に他部門の排出削減を先送りするのではなく、森林の維持と再生を気候政策全体の一部として位置づけることが、パリ協定との整合性を確保するうえで不可欠となる。

気候・環境的視点

森林減少・劣化の抑制が重要である理由は、温室効果ガスの排出量を削減できることだけではない。森林は地域の水循環を支え、土壌を保全し、気温の上昇を和らげ、多様な生物の生息地を提供するため、その喪失は気候変動、生物多様性の損失、土地の劣化を相互に悪化させる可能性がある。

気候変動に関する政府間パネルの土地利用に関する特別報告書は、人間による土地利用が森林やその他の自然生態系に広範な影響を与え、土地の劣化が温室効果ガスの排出と炭素吸収能力の低下を通じて気候変動に寄与すると整理している。さらに、森林減少によって森林の炭素貯蔵量が失われるだけでなく、農地などに転換された後の土地が、もとの自然林と同等の炭素貯蔵能力を回復するとは限らないことも重要である。

特に熱帯林では、森林破壊と気候変動の相互作用が深刻な問題となっている。森林が失われると、樹木から大気へ放出される水蒸気が減少し、地域の降水や気温に影響を与える場合があるうえ、乾燥化が進めば火災や樹木の枯死が増え、さらに森林の回復が困難になるという悪循環が生じうる。

アマゾン地域は、この問題を考えるうえで重要な事例である。農地や牧草地への転換、道路開発、採掘活動、火災などによる圧力に、気温上昇や干ばつが重なると、森林の炭素吸収能力や生態系の回復力が損なわれる危険が高まる。

気候変動に関する政府間パネルの第6次評価報告書は、1990年から2020年までに世界で4億2,000万ヘクタールを超える森林が森林減少によって失われ、その損失の90%以上が熱帯地域で発生したと評価している。こうした長期的な損失は、森林保全が一部の国の地域政策ではなく、国際社会が共同で取り組むべき地球規模の課題であることを示している。

生物多様性の観点からも、森林ロードマップには広い意味がある。自然林には多様な植物、動物、菌類、微生物が生息し、それぞれが受粉、種子散布、栄養循環、病害の抑制などの機能を担っているため、森林の単純化や分断は、森林面積の減少以上に大きな生態系への影響をもたらすことがある。

このため、森林保全の成果を測定する際には、森林面積の増減だけでなく、自然林の残存状況、森林の連続性、在来種の生息状況、土壌や水系の状態なども評価対象にする必要がある。植林地の面積が増えたとしても、自然林の消失や生物多様性の低下が続いていれば、環境政策として成功したとは評価できない。

森林ロードマップが熱帯林だけでなく、亜熱帯林、温帯林、亜寒帯林、マングローブ林、泥炭地などを含む方向で検討されていることは、このような複合的な視点と関係している。生態系ごとの特徴に応じた保全策を組み合わせることが、気候対策と生物多様性保全を両立させるうえで重要となる。

社会経済的視点

森林減少・劣化の問題は、環境保全と経済発展の対立として単純化できない。森林は木材、食料、燃料、医薬品の原料などを供給する経済資源であると同時に、農業や漁業の生産条件、水資源、防災、観光、地域文化を支える基盤でもあるため、森林を失うことによる損失は森林産業だけでなく社会全体に及ぶ。

とりわけ、森林に依存する先住民族や地域住民にとって、森林は生活の場であり、食料や所得を得る手段であり、文化や伝統を継承する空間でもある。森林開発が土地の権利や地域社会の合意を軽視して進められれば、住民の生計が損なわれるだけでなく、土地をめぐる紛争や社会的不平等が拡大する可能性がある。

一方、森林保全の強化が地域住民の経済的負担を増やす場合もある。農業や林業が主要な所得源となっている地域で、十分な代替収入や技術支援を提供せずに伐採や土地利用を制限すれば、貧困の深刻化や規制の形骸化を招きかねない。

このため、森林ロードマップでは、森林を保全することによって生じる社会的な利益を、保全活動を担う地域や人々へ適切に還元する仕組みが重要となる。森林の生態系サービスに対する支払い、持続可能な林産物の生産、地域主体の森林管理、森林と共存する農業の普及などを通じて、森林を維持することが経済的にも成り立つ条件を整える必要がある。

ただし、森林保全による利益が誰に帰属するかという問題は、制度設計によって結果が大きく異なる。例えば、森林由来の炭素クレジットを販売する事業であっても、土地の権利が不明確であったり、住民への利益配分が不透明であったりすれば、地域社会の権利を侵害する危険があるため、透明性と説明責任を備えた仕組みが不可欠である。

農業分野との関係も重要である。世界の森林減少には、牧畜、商品作物の栽培、農地拡大などが関係しており、森林保全を進めるには農業生産を一律に縮小するのではなく、既存農地の生産性向上、劣化した土地の再利用、森林と農業の適切な配置などを通じて、追加的な森林転換への圧力を抑える必要がある。

この点では、ブラジルの農業団体が森林ロードマップへの意見提出で、農業生産者の役割や森林保全に必要な資金支援を強調していることも示唆的である。森林保全を進める側と農業生産を担う側を対立させるだけでは実効性のある政策を形成できず、農業者が森林保全に参加するための経済的誘因や支援制度を整えることが、政策の持続可能性を高める。

さらに、森林保全は国際的な消費と生産のあり方にも関係している。森林を転換して生産された農産物や木材が国際市場で需要を得ている場合、森林減少の原因は生産国の土地利用政策だけにあるわけではなく、輸入国の消費、企業の調達方針、金融機関の投融資にも関係する。

したがって、森林ロードマップの実効性を高めるには、生産国の規制や監視を強化するだけでなく、消費国の企業や金融機関にも責任ある調達と情報開示を促す必要がある。生産国に森林保全の負担を集中させるのではなく、国際的な需要を通じて森林破壊に関与する経済主体にも適切な責任を求めることが、環境面と社会経済面の公平性を両立させるための基本となる。

以上から、森林ロードマップの評価では、温室効果ガスの削減量や森林面積の維持だけでなく、地域社会への利益配分、土地の権利の保障、雇用の創出、農業生産との両立なども重要な指標となる。森林保全を持続可能な経済と社会の構築につなげられるかどうかが、2030年に向けた国際的な取り組みの成否を左右する。

② 実行に向けたロードマップの柱

森林ロードマップを実効性のある政策へと発展させるには、森林保全の目標を掲げるだけでなく、政策の実施、資金の確保、科学的な監視、地域社会の参加を一体化させる必要がある。ブラジル議長国が進めるロードマップは、既存の国際合意や協力制度を活用しながら、各国が優先課題を定め、実施能力を高め、2030年までの進捗を加速させるための行動指針として構想されている。

国連食糧農業機関も、ロードマップの主要な行動領域として、森林保全、持続可能な森林管理、森林劣化への対応、森林減少の抑制、森林再生を挙げている。これらの領域を実際の政策に結びつけるうえでは、次の5つの柱が重要となる。

政策と制度の整合性を高める

第1の柱は、森林保全を環境行政だけの責任とせず、農業、鉱業、交通、エネルギー、貿易、土地利用計画などの政策に組み込むことである。森林減少の直接的な原因が農地転換やインフラ開発にある場合、森林保護区の拡大だけでは十分な成果を得られないため、森林を転換する経済的誘因そのものを見直す必要がある。

具体的には、森林保全と整合する農業補助金の設計、土地利用規制の強化、違法伐採の取り締まり、森林転換を伴わない農業生産の促進などが考えられる。政策間の矛盾を解消し、森林を守る行政機関と開発を推進する行政機関の連携を強化することが、継続的な森林減少の抑制につながる。

森林の監視と情報基盤を整備する

第2の柱は、衛星観測、現地調査、森林台帳、土地利用情報などを活用し、森林の状態を継続的に把握することである。森林面積の変化だけでなく、森林劣化の程度、火災の発生、炭素貯蔵量、生物多様性への影響などを把握できれば、対策が必要な地域を特定し、政策の効果を検証しやすくなる。

ブラジルなどでは衛星データを活用した森林監視が進められてきたが、すべての森林国が同等の技術や行政能力を持つわけではない。監視技術の移転、観測機器の整備、人材育成、データの品質管理に対する国際支援を強化するとともに、国際比較に必要な情報の共通化を進めることが課題となる。

森林保全に必要な資金を確保する

第3の柱は、森林を保全する国や地域が、その費用を継続的に賄える資金制度を整備することである。森林保全には、監視体制の構築、保護区の管理、違法伐採の防止、地域住民への支援、劣化した土地の再生など、多様な費用が発生するため、短期的な助成金だけでは十分な効果を維持できない場合がある。

このため、公的資金、譲許的融資、成果に応じた支払い、民間投資、炭素市場などを適切に組み合わせることが重要となる。ただし、資金の調達額だけを成果とみなすのではなく、実際に森林減少が抑制されたか、森林の質が改善したか、地域社会に利益が還元されたかを確認する必要がある。

地域社会と先住民族の参加を保障する

第4の柱は、森林の保全や管理に関わる先住民族と地域住民を、政策の受益者にとどめず、意思決定の主体として位置づけることである。森林に関する土地の権利が不明確な場合や、地域住民の同意が不十分な場合には、保全事業が土地紛争や生計の悪化を招くおそれがある。

そのため、土地の権利の保障、事業に関する十分な情報提供、自由意思による事前の十分な情報に基づく同意、利益配分の透明化などが重要となる。地域社会の知識や森林管理の経験を政策に反映させることは、社会的な公正だけでなく、森林保全の長期的な実効性を高めるうえでも意味がある。

国際協力を継続的な実施体制へ結びつける

第5の柱は、国際機関、各国政府、研究機関、民間企業、金融機関、市民社会の取り組みを連携させ、国際合意を各国や地域の実施計画へ落とし込むことである。既存の森林関連制度や協力枠組みを活用すれば、組織の重複や新たな制度の設立に伴う負担を抑えながら、各地域の経験や資源を共有できる。

ブラジルの政策研究機関イガラペ研究所は、2026年5月の分析で、森林ロードマップを単なる文書ではなく、既存の国際機関や各国の取り組みを結びつける継続的な協力基盤として発展させる必要性を指摘している。COP31での提示後も政治的な関心を維持し、地域別・国別の実施計画、定期的な進捗評価、資金支援の仕組みへとつなげられるかが、2030年目標の達成に向けた重要な条件となる。

先進国の役割

先進国には、森林保全に必要な資金、技術、人材育成の支援を提供するとともに、自国の消費や投資が森林減少を引き起こさないよう政策を整備する責任がある。熱帯林を多く抱える途上国が森林保全のために農地転換や資源開発を制限する一方、その恩恵を気候の安定や生物多様性の維持という形で世界全体が享受するのであれば、保全の費用を森林保有国だけに負担させることは公平性の観点から問題となる。

第1の役割は、予測可能で継続的な国際資金を提供することである。森林保全は長期的な取り組みであり、単年度の拠出や短期間の事業では成果を維持できない場合があるため、複数年にわたる資金供給と、各国の財政事情に応じた助成金・低利融資の組み合わせが求められる。

第2の役割は、衛星監視、森林管理、火災予測、森林再生、炭素量の測定などに関する技術協力を進めることである。特に、森林の状態を正確に把握するための技術や人材が不足している国に対し、機器の提供だけでなく、運用能力の構築や長期的な維持管理まで支援する必要がある。

第3の役割は、森林破壊に関係する国際的な消費と投資の構造を改めることである。先進国の企業や金融機関は、木材、牛肉、大豆、パーム油などの調達において森林破壊のリスクを把握し、取引先の管理や情報開示を強化する必要がある。

さらに、先進国は国際的な森林保全制度の設計において、途上国の政策決定権や地域社会の権利を尊重しなければならない。森林保全を資金提供国の一方的な条件に従わせるのではなく、現地の社会的・経済的な事情を踏まえた協議を通じて、支援が実際の森林保全につながる仕組みを構築することが重要である。

途上国の役割と支援

途上国には、森林保全に関する国内法の整備、違法伐採や不法な土地転換への対処、森林監視の強化、地域社会の権利の保障などを通じて、国際的な目標を国内政策へ反映させる役割がある。ただし、途上国の間でも森林の面積、産業構造、行政能力、財政余力は大きく異なるため、一律の政策を適用するのではなく、それぞれの事情に応じた実施計画を設計する必要がある。

ブラジルは、アマゾン地域の森林減少を抑制するため、衛星監視、環境法執行、保護区の管理、土地利用政策などを組み合わせてきた。その経験は他の森林国にとって参考となるが、制度を移植するだけでは同じ成果が得られるとは限らず、土地所有制度、行政機構、地域社会との関係などを踏まえた調整が必要である。

インドネシアでは、森林火災や泥炭地の劣化、農園開発などへの対策が重要な政策課題となっている。こうした地域では、森林保全と農業・林業による所得確保を両立させるため、劣化した土地の再利用、持続可能な生産方法の普及、地域主体の森林管理などを進めることが求められる。

途上国への支援では、資金の総額だけでなく、必要な主体に資金が届くかどうかが重要となる。政府間の資金移転が実施されても、地方自治体や先住民族、地域住民、森林管理を担う農業者に十分な資金が配分されなければ、現場で必要な活動が進まない可能性がある。

また、森林保全に伴う規制が貧困層や小規模生産者に過度な負担を与えないよう、技術支援、移行期間、代替所得の確保などを組み合わせる必要がある。森林を守るための政策が地域住民の生活を一方的に制約するのではなく、保全による利益と費用を公平に配分することが、途上国の持続的な取り組みを支える条件となる。

結局のところ、先進国と途上国の責任は、単純に資金を提供する側と受け取る側に分けられるものではない。途上国は国内政策と実施能力を強化し、先進国は資金・技術支援と自国の消費・投資の見直しを進めるという相互補完的な関係を構築することが、森林ロードマップの実効性を高めるうえで不可欠である。

世界の動向とアプローチ

森林減少・劣化への国際的な対応は、従来の保護区の設置や違法伐採の取り締まりを中心とする政策から、森林を維持する経済的な誘因の構築、企業の調達責任、国際金融の活用を組み合わせる方向へと広がっている。COP31に向けた森林ロードマップも、この変化を踏まえ、既存の国際合意を実施に移すための政策手段や協力の枠組みを整理する役割を担っている。

国際的なアプローチには、大きく分けて、森林保全を行う国への資金提供、森林減少に関係する商品取引の規制、企業や金融機関の責任強化、森林の監視・評価技術の普及という4つの方向性がある。これらは相互に補完し合うものであり、資金支援だけでも規制だけでも、森林減少を引き起こす経済的な圧力を十分に解消できない場合がある。

ブラジルが推進する「熱帯林フォーエバー・ファシリティー」は、森林を維持する国に継続的な資金を提供することを目指す代表的な新構想である。一方、欧州連合の森林減少防止規則は、特定の商品が森林減少と関係していないことを確認する仕組みを導入し、消費市場から森林破壊への圧力を減らそうとするものである。

両者は、森林保全を促す方法が異なる。前者は森林を維持することへの経済的な報酬を重視し、後者は森林破壊と結びついた商品が市場に流入することを防ぐ規制を重視するため、国際的な森林政策では、こうした異なる手段をどのように連携させるかが重要となる。

① 資金メカニズムと「熱帯林フォーエバー・ファシリティー」などの新潮流

森林保全の資金問題は、国際的な森林政策の最大の課題の1つである。森林を保護するためには、監視や取り締まりに加え、地域社会の生計支援、土地利用の改善、森林再生などに継続的な費用が必要となるが、森林保有国の多くは財政余力が限られ、国際的な資金援助も需要に対して十分とはいえない。

従来の資金手段には、二国間援助、国際機関の基金、気候変動対策の助成金、成果に応じた支払い、炭素市場を通じた資金調達などがある。これらは重要な役割を果たしてきたものの、資金の継続性、申請手続きの複雑さ、成果の測定方法、地域社会への配分などに課題があり、長期的な森林保全を支えるには複数の制度を組み合わせる必要がある。

こうした問題に対する新たな試みが、ブラジル主導で構想され、2025年11月のCOP30で正式に立ち上げられた熱帯林フォーエバー・ファシリティーである。この仕組みは、森林を維持する熱帯林保有国に対し、森林の保全実績などに応じて継続的な資金を提供することを目指している。

従来の助成金中心の方式と異なり、この構想では公的資金や慈善資金などを基礎資本とし、債券発行などを通じて民間資金を動員する金融モデルが採用されている。構想上の最終目標は総額1,250億ドル規模の資金を確保することであり、そのうち250億ドルを公的機関や慈善団体などから調達し、残る1,000億ドルを民間投資家などから動員する設計となっている。

このモデルの狙いは、森林保全を単なる支出ではなく、長期的な資金運用と結びついた国際的な仕組みに変えることである。森林を維持する国に定期的な報酬を提供することで、短期的な農地転換や資源開発から得られる利益に対抗し、森林を残すことの経済的価値を高めようとしている。

2025年11月のCOP30終了時点で、同施設には66か国が立ち上げ宣言への支持を示し、拠出表明額は66億ドルを超えた。その後、2026年には暫定理事会の設置や基金の制度設計が進み、同年9月には英国が4億ポンドの融資を行う意向を発表したが、これは最終的な制度・運営条件などを満たすことを前提としたものである。

一方、2026年9月のロイター通信の分析によると、拠出表明額は約73億ドルにとどまり、ノルウェーが自国の30億ドルの拠出を実行する条件として示した100億ドルの初期資金目標には届いていなかった。これは、国際的な支持を集めることと、実際に資金を確保して運用を開始することの間には隔たりがあることを示している。

資金モデルの利点とリスク

熱帯林フォーエバー・ファシリティーの最大の特徴は、森林保全のための資金を単発の寄付に依存させず、長期的な運用収益から生み出そうとしている点にある。従来の国際援助では、各国の予算編成や政治情勢によって拠出額が変動しやすかったが、長期運用を基盤とする仕組みが安定すれば、森林保全を継続的に支える新たな資金源となる可能性がある。

ただし、金融モデルには無視できないリスクもある。運用収益が想定を下回った場合、投資家への支払いと森林保全国への資金提供を両立できなくなるおそれがあり、資金運用の失敗が森林保全の停滞につながる可能性もある。

さらに、森林保全の成果をどのように測定するかという問題も重要である。森林面積だけを基準にすると、森林の劣化、生物多様性の損失、森林火災、地域住民の権利侵害などが十分に評価されないおそれがあるため、衛星データによる監視と現地調査を組み合わせ、透明性の高い評価基準を設ける必要がある。

先住民族や地域社会への利益配分も、制度の信頼性を左右する。熱帯林フォーエバー・ファシリティーは、支払いの少なくとも20%を先住民族や地域社会に直接配分する方針を掲げているが、実際に資金が届くためには、土地の権利の保障、申請手続きの簡素化、地域組織の運営能力の強化などが欠かせない。

したがって、この構想の成否は、資金の規模や金融手法の新しさだけでは決まらない。長期的な資金の安定性、森林保全の実績に関する検証可能性、投資リスクの管理、地域社会への公平な配分を同時に確保できるかどうかが重要となる。

② サプライチェーンの透明化と国際規制

森林減少を抑制するためには、森林を保有する国の政策だけでなく、森林を転換して生産された商品を購入する国や企業の責任にも目を向ける必要がある。牛肉、大豆、パーム油、木材、カカオ、コーヒー、天然ゴムなどの生産は、地域や生産方式によっては森林減少と結びついており、国際的な消費需要が森林転換を促す要因となっている。

この問題に対し、欧州連合は森林減少防止規則を導入し、対象商品を市場に流通させる企業などに対して、森林減少との関係や生産国の法令遵守を確認するためのデューデリジェンスを求めている。対象には牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材と、それらに関連する一部の製品が含まれる。

この制度の重要な特徴は、企業に対して商品の調達先や生産地に関する情報を確認させ、森林減少に関係する商品が市場へ流入するリスクを抑えようとしている点にある。生産地の位置情報や関連書類を追跡し、森林減少の有無を確認する仕組みが適切に機能すれば、企業の調達行動を変え、生産国の森林管理を改善する誘因となる可能性がある。

2026年7月、欧州委員会は同規則の対象品目や情報提出システムなどに関する措置を公表した。欧州委員会の説明では、大規模・中規模の事業者などへの適用は2026年12月30日から、小規模事業者の一部への適用は2027年6月30日からとされており、企業や行政機関が実施に向けた準備を進めている。

一方、規制の実効性を確保するためには、対象となる商品の生産地を正確に特定できること、情報の信頼性を確認できること、規則を執行する行政能力が備わっていることが必要である。特に、多数の小規模生産者を抱える地域では、地理情報の整備や書類作成に費用がかかり、規制への対応能力の違いが市場参入の格差につながる可能性がある。

また、規制が厳格化された結果、企業が森林減少リスクの高い地域からの調達を避けるようになれば、森林保全の効果が期待できる一方、適切な支援を受けられない小規模生産者が国際市場から排除される危険もある。規制を単なる取引条件として運用するのではなく、生産国の行政能力の向上、追跡情報の整備、零細事業者への技術支援を組み合わせることが重要となる。

さらに、森林減少防止規則は欧州連合の市場を対象とする制度であり、世界のすべての貿易に同一の条件を適用するものではない。そのため、規制対象外の市場へ商品が流れる可能性や、国ごとに異なる基準が並立することによる事業者の負担にも注意する必要がある。

森林ロードマップの観点からは、各国の規制を一律に統一することだけが解決策ではない。森林の監視方法、土地利用情報、合法性の確認、企業の情報開示などに関する国際協力を進め、各国の制度が相互に補完し合う環境を整えることが求められる。

資金メカニズムと国際規制を組み合わせることには、相乗効果も期待できる。森林を維持する国には長期的な報酬を提供し、企業には森林減少に関係しない調達を促し、森林保全に取り組む地域には技術と資金を提供することで、森林を破壊する経済的誘因を弱めながら、保全活動を支える収入源を増やすことが可能となる。

ただし、こうした制度の実効性は、国際的な資金の確保、規制の公平な運用、科学的な監視、地域社会の権利保障に左右される。COP31に向けた森林ロードマップが既存の資金制度と貿易規制をどのように結びつけ、実施上の課題をどこまで具体的に整理できるかが、今後の重要な検討事項となる。

主な課題

森林ロードマップの最大の課題は、森林保全の必要性について国際社会が広く合意していても、その合意を各国の具体的な政策、資金配分、企業活動、地域社会の取り組みに転換することが容易ではない点にある。森林減少・劣化の抑制には、土地利用、農業、貿易、金融、エネルギー、地域開発など複数の政策分野の調整が必要であり、単一の国際会議や制度だけで問題を解決することはできない。

第2の課題は、森林保全の成果をどのように測定し、評価するかという問題である。森林面積の増加だけを成果指標にすると、自然林が生物多様性の乏しい人工林に置き換えられた場合や、森林の内部で劣化が進んだ場合を十分に把握できないため、森林の質、炭素貯蔵量、生物多様性、地域住民への影響などを含む複合的な評価が必要となる。

第3の課題は、森林保全に必要な資金を継続的に確保することである。森林を維持することによる気候や生物多様性への利益は国際社会全体に及ぶ一方、保全活動に伴う行政費用や土地利用上の制約は、森林を保有する国や地域に集中しやすい。この不均衡を是正するためには、先進国による公的資金の拠出、国際金融の活用、民間資金の動員を組み合わせ、資金提供が途切れない制度を整備する必要がある。

第4の課題は、森林減少を引き起こす経済構造そのものを変えることである。森林破壊に関係する農産物や木材の需要が続く限り、森林保全の規制を強化しても、伐採や土地転換が別の地域や市場へ移る可能性がある。森林を破壊しない生産方式を普及させるとともに、企業の調達責任、金融機関の投融資方針、消費国の政策を連携させることが不可欠となる。

第5の課題は、森林保全と地域社会の権利を両立させることである。保護区の拡大や伐採規制が、先住民族や地域住民の土地利用権を軽視したまま実施されれば、生活基盤の喪失や紛争を招くおそれがある。森林保全の成果を持続させるためには、地域社会の意思決定への参加、土地の権利の保障、利益配分の透明化を制度の中核に位置づけなければならない。

さらに、気候変動そのものが森林保全を難しくするという問題もある。高温化、干ばつ、森林火災、病害虫の拡大などによって森林の回復力が低下すれば、保全政策によって森林減少を抑制しても、自然災害による損失を完全に防ぐことは難しい。そのため、森林の保全・再生と並行して、気候変動への適応、火災管理、生態系の回復力の強化を進める必要がある。

これらの課題を踏まえると、森林ロードマップの実効性を判断する基準は、国際的な支持の広さだけではない。資金の実行額、森林減少の実測値、森林生態系の回復状況、企業の調達行動の変化、地域社会への利益還元などを継続的に検証し、結果に応じて政策を修正できる仕組みが必要となる。

南北問題の溝

森林ロードマップをめぐる国際交渉の根底には、気候変動対策における歴史的責任と、森林保全に必要な費用を誰が負担するのかという南北問題がある。先進国は、森林保全を地球規模の公共利益として捉え、森林減少を抑制するための政策や国際的な資金制度を強化しようとする一方、途上国は、先進国が過去の工業化によって多くの温室効果ガスを排出してきたことを踏まえ、十分な資金と技術の提供を求めている。

この対立は、森林保全の必要性を認めるかどうかという問題ではなく、費用負担、政策決定権、開発の自由、国際的な利益配分をめぐる問題である。森林を保有する国が開発の機会を制限される一方、森林保全による気候安定の利益を世界各国が享受するのであれば、森林保全に必要な費用を国際社会で分担する仕組みが必要となる。

途上国側から見れば、森林を保全することによって失われる農業や鉱業などの開発機会も無視できない。森林を転換して得られる短期的な収益が大きい場合、国際社会からの支援が不十分であれば、森林保全を優先する政策を継続することは難しくなる。

一方、先進国側にも財政的・政治的な制約がある。国内の物価上昇、財政赤字、エネルギー安全保障、産業競争力などが政策上の優先課題となれば、国際環境協力への資金拠出が抑制される可能性がある。森林保全の重要性に関する政治的な合意が存在しても、実際の資金拠出が遅れるという問題は、こうした国内事情とも関係している。

さらに、森林減少防止のための国際規制をめぐっても意見の相違がある。輸入国が森林破壊に関係する商品を規制する場合、環境保全の観点では合理性がある一方、生産国からは、制度の設計や運用が自国の事情を十分に考慮していないとの批判が生じることがある。

このため、国際規制を有効に機能させるには、環境基準の設定だけでなく、生産国が規制に対応するための情報基盤、技術、人材、資金を確保できるよう支援する必要がある。規制の厳格化と能力構築への支援を組み合わせることが、森林保全と公平な貿易の両立につながる。

南北問題を解消するためには、途上国に森林保全の責任を求めるだけでも、先進国の資金提供だけに依存する仕組みをつくるだけでも不十分である。先進国は資金・技術支援と自国の消費・投資の見直しを進め、途上国は国内制度の整備と森林管理の改善を進めるという相互補完的な責任分担が求められる。

先進国側の課題

先進国側の最大の課題は、国際会議で表明した資金支援や環境目標を、継続的かつ予測可能な政策に転換することである。森林保全の資金需要は長期的であるにもかかわらず、各国の政権交代や財政状況によって支援方針が変われば、森林保全を担う国や地域は将来の資金を見通せず、長期的な計画を立てにくくなる。

また、先進国は森林保全を途上国への援助としてのみ扱うべきではない。自国の企業が森林減少に関係する商品を輸入し、金融機関が森林転換を伴う事業に資金を供給しているのであれば、国内の規制や投資方針を通じて森林破壊への関与を減らす必要がある。

国際資金の拠出方法にも改善の余地がある。申請手続きが複雑であったり、成果の測定に高額な費用が必要であったりすれば、行政能力の限られた国や地域社会が資金を利用できない可能性があるため、支援の透明性を確保しつつ、現場で利用しやすい制度を設計することが重要となる。

さらに、森林保全の費用を気候変動対策の一部として支援する場合には、他の国際的な開発支援との整合性も求められる。森林保全への資金拠出を増やす一方で、森林転換を促進する事業への公的支援が継続されれば、政策全体として矛盾が生じるためである。

途上国側の課題

途上国側の課題は、国際支援を受けることと、森林保全に関する国内の実施体制を強化することを両立させる点にある。資金や技術が提供されても、土地の権利が不明確であったり、違法伐採への取り締まりが不十分であったり、中央政府と地方政府の連携が弱かったりすれば、期待される成果が得られない場合がある。

森林減少の原因には、農業や資源開発から得られる利益だけでなく、土地所有制度の不備、行政機関の能力不足、汚職、法執行の弱さなども関係している。そのため、森林保全を継続的に進めるには、環境法の整備や執行、土地利用情報の公開、行政機関の能力向上、違法活動に対する監視を組み合わせる必要がある。

同時に、途上国の政府は、森林保全の負担を地域住民や小規模生産者に集中させないよう配慮しなければならない。森林を維持するための規制によって所得機会が制限される場合には、代替的な生計手段、持続可能な農業への技術支援、森林保全による利益の配分などを通じて、政策への理解と参加を確保する必要がある。

また、森林保全を外国からの資金獲得だけを目的とする事業にしないことも重要である。森林が提供する水資源、防災、生物多様性、地域経済への利益を国内政策の中で評価し、森林保全を長期的な国家戦略として位置づけることが、国際支援の効果を持続させる条件となる。

利害関係者の調整とガバナンス

森林ロードマップの実効性を高めるには、各国政府だけでなく、国際機関、地方自治体、企業、金融機関、研究機関、市民社会、先住民族、地域住民など、多様な利害関係者が参加できるガバナンスを構築する必要がある。森林保全に関する意思決定を政府や資金提供者だけで進めると、地域の実情や土地の権利が十分に反映されず、事業の正当性や継続性が損なわれるおそれがある。

とりわけ、先住民族や地域社会の参加は重要である。森林を長期間にわたって管理してきた地域には、生態系や土地利用に関する知識が蓄積されている場合があり、これを政策に反映させることは、森林の保全と再生の効果を高める可能性がある。

一方、利害関係者の参加を掲げるだけでは、実質的な意思決定への関与が保障されるとは限らない。会議への参加機会があっても、情報が十分に提供されない、意見が政策に反映されない、意思決定の権限が限定されているといった問題があれば、形式的な参加にとどまる可能性がある。

そのため、森林ロードマップを支えるガバナンスでは、意思決定の過程、資金の流れ、成果の評価方法を公開し、利害関係者が事業の実施状況を確認できる仕組みを整える必要がある。独立した評価、苦情処理制度、定期的な情報公開、利益相反への対処などを組み合わせれば、資金の不適切な使用や環境・社会面の悪影響を早期に発見し、改善につなげることができる。

また、国際的な森林政策には、異なる制度や評価基準が並立する問題もある。各国の森林監視制度、炭素会計、企業の情報開示、資金提供の条件が十分に整合していなければ、同じ森林保全の成果が重複して計上されたり、実際の成果を国際的に比較することが難しくなったりするため、共通の基本原則と透明性の高い報告方法を整えることが重要となる。

ただし、ガバナンスの国際的な標準化は、各国の主権や地域の事情を無視して進めるべきではない。共通の目標と評価原則を維持しながら、具体的な実施方法については各国や地域の条件に応じた柔軟性を認めることが、国際協力への参加を広げるうえで必要となる。

今後の展望

2026年11月のCOP31は、森林ロードマップをめぐる議論を、国際的な政治的合意から具体的な実施へと進める重要な機会となる。ブラジル議長国が進めるロードマップは、森林保全に関する既存の国際合意を基礎とし、森林の保全、持続可能な管理、劣化への対応、減少の抑制、再生を包括的に扱う行動志向の文書として検討されている。

今後、ロードマップの実効性を高めるには、少なくとも3つの方向性が重要となる。第1に、森林減少・劣化の抑制に関する国際目標を各国の政策と実施計画に結びつけ、進捗を定期的に検証できるようにすることである。

第2に、森林保全のための資金を拡充し、公的資金と民間資金の役割を明確にするとともに、資金の受け手である国や地域社会が長期的な計画を立てられるようにすることである。熱帯林フォーエバー・ファシリティーのような新しい金融構想については、資金調達額だけでなく、実際の支払い、森林保全の成果、金融リスク、地域社会への利益配分を継続的に検証する必要がある。

第3に、森林保全を農業政策、貿易規制、金融制度、生物多様性保全と連携させ、森林減少を引き起こす経済的な誘因を弱めることである。生産国の森林管理を強化するだけでなく、消費国の需要や企業の調達行動を変え、森林を破壊しない経済活動が持続的に成り立つ条件を整えることが求められる。

もっとも、COP31でロードマップが提示されたとしても、それだけで2030年までの森林減少・劣化の停止と反転が保証されるわけではない。ロードマップは、それ自体が法的拘束力を持つ国際条約ではなく、各国の政策、既存の国際制度、資金メカニズムを連携させるための指針であるため、成果は各国の実施状況と国際協力の継続性に左右される。

また、森林減少の抑制と森林の再生には時間がかかる。短期的に森林面積が増加したとしても、生態系の機能や生物多様性が回復するまでには長い年月を要する場合があるため、2030年の目標達成だけでなく、その後も森林を維持し続ける長期的な政策が必要となる。

科学的な監視と政策評価の重要性も今後さらに高まると考えられる。衛星観測や現地調査を通じて森林の変化を把握し、資金投入と実際の成果を照合できれば、効果の高い施策を拡大し、効果の乏しい施策を修正することが可能となる。

さらに、森林ロードマップは、気候変動対策と生物多様性保全を統合する政策の試金石ともなる。森林を炭素吸収源としてのみ評価するのではなく、生態系の健全性、地域社会の生活、土地の権利、経済活動との関係を総合的に扱うことで、より持続可能な森林政策を構築できる。

最終的には、森林ロードマップが国際社会の実行力を高めるためには、目標の明確化、資金の確保、責任の分担、透明性のある評価、地域社会の参加を一体的に進めなければならない。COP31は重要な節目となるが、真の評価は会議の終了後に森林減少がどの程度抑制され、森林生態系と地域社会にどのような変化が生じたかによって決まる。

まとめ

森林減少・劣化の抑制は、パリ協定の目標達成、生物多様性の保全、持続可能な経済と社会の構築を結びつける国際的な課題である。2026年のCOP31に向けて検討が進む森林ロードマップは、既存の国際合意を実際の政策と資金に結びつけ、2030年までの森林保全の取り組みを加速させることを目指している。

その実現には、先進国による資金・技術支援、途上国による国内制度と森林管理の強化、企業の責任ある調達、森林保全に取り組む地域社会への利益還元が必要となる。熱帯林フォーエバー・ファシリティーのような新しい資金構想や、森林減少に関係する商品の国際規制は、森林を破壊する経済的誘因を弱める手段となりうるが、その効果は資金の実行、制度の透明性、公平な利益配分によって左右される。

森林保全の費用と利益をめぐる南北問題、国際規制への対応格差、森林の質を評価する難しさ、地域社会の権利保障など、解決すべき課題は多い。COP31での議論を実際の成果につなげるには、国際的な合意を繰り返すだけでなく、誰が何を実施し、どのように成果を測定し、必要な資金をどう確保するかを具体化する必要がある。

森林ロードマップの最終的な価値は、文書の採択や国際的な支持の広さではなく、森林減少の抑制、劣化した森林の回復、生物多様性の維持、地域社会の生活と権利の保障という実際の成果によって判断されるべきである。2030年までの行動を加速させると同時に、その後も森林を維持できる制度と経済構造を整えることが、COP31以降の国際社会に求められる。


参考・引用リスト

国際合意・森林ロードマップ

1. 国連気候変動枠組条約事務局「パリ協定」第5条および第1回世界全体の進捗評価に関する資料

2. 国連気候変動枠組条約事務局「2030年までの森林減少・劣化の停止と反転に向けたロードマップに関するブラジルの貢献文書」(2026年6月4日)

3. ブラジル議長国「2030年までの森林減少・劣化の停止と反転に向けたロードマップ」

4. 国連食糧農業機関「森林ロードマップに関する対話と技術的検討」

森林統計・科学的評価

5. 国連食糧農業機関『世界森林資源評価2025』

6. 国連食糧農業機関「世界の森林減少は鈍化しているが、森林への圧力は依然として強い」(2025年10月21日)

7. 気候変動に関する政府間パネル『気候変動と土地に関する特別報告書』

森林保全の資金メカニズム

8. ロイター通信「ブラジル主導の熱帯林資金構想、資金調達の期限が迫る」(2026年9月8日)

9. ロイター通信「英国、熱帯林フォーエバー・ファシリティーに4億ポンドの融資を表明」(2026年9月3日)

サプライチェーン・国際規制

10. 欧州委員会「欧州連合森林減少防止規則の対象製品と実施支援措置の更新」(2026年7月13日)

11. 欧州連合「森林減少防止規則」関連情報

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