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大人が「おもちゃ」に夢中、推し活、ぬい活が盛況!「モノを買う」から「意味を買う」へ

大人の玩具・ホビー需要、推し活、ぬい活は、それぞれ独立した流行として存在しているのではなく、「好きなものを自分の生活に取り込み、その価値を他者と共有する」という現代的な消費文化の一部として捉えることができる。
ぬいぐるみと女性(Getty Images)
現状(2026年8月時点)

2026年の日本では「大人がおもちゃで遊ぶ」という現象が、もはや一部の趣味人だけの特殊な消費行動とは言い切れなくなっている。玩具、フィギュア、プラモデル、トレーディングカード、キャラクター雑貨、ぬいぐるみなどを大人が購入し、さらに「推し活」や「ぬい活」と組み合わせて楽しむ行動が、日常的な消費文化として社会に定着しつつある。

この変化を象徴するのが、国内玩具市場そのものの拡大である。日本玩具協会の2024年度調査では、国内玩具市場は1兆992億円となり、前年度比107.9%、過去最高を更新した。市場全体には子ども向け商品も含まれるため、この数字をそのまま「大人向け市場」と解釈することはできないが、カードゲーム・トレーディングカード、キャラクター商品、ぬいぐるみ、ホビーなど、大人の消費とも結びつきやすい分野が顕著に伸びている点は重要である。

特に注目すべきは、2024年度にカードゲーム・トレーディングカードが3,024億円、ホビーが1,845億円、ぬいぐるみが451億円、キャラクター玩具が785億円に達したことである。前年比では、ハイテク系トレンドトイが142.4%、キャラクターが121.3%、ぬいぐるみが115.3%、ドール・ままごとが112.1%と、それぞれ大きく伸びている。

日本玩具協会の資料では、2024年度の市場拡大を支えた商品ジャンルについて、キダルト層、すなわち子どもだけでなく大人にも支持される需要の存在が指摘されている。カードゲーム・トレーディングカード、ハイテク系トレンドトイ、ぬいぐるみ、雑貨など、大人が「趣味」「コレクション」「癒やし」「キャラクター消費」として購入する商品が、玩具市場の広い範囲にまで浸透していることが分かる。

ただし、ここで重要なのは「大人が子どものようになった」という単純な説明ではない。むしろ現在起きているのは、従来「子どもの遊び」として分類されていた商品や行動が、大人自身の自己表現、ストレス解消、人間関係、記憶、アイデンティティー形成などを支える消費対象へと意味を変えている現象だと考えられる。

現状の概観:なぜ今、大人が「おもちゃ・推し活・ぬい活」なのか?

「大人のおもちゃ」という言葉からは、従来であれば模型、コレクション、ゲーム、鉄道模型、フィギュアなど、特定の趣味に没頭する人々が想起されやすかった。しかし現在は、その範囲が急速に広がり、キャラクターのぬいぐるみを持ち歩く、写真を撮る、洋服を着せる、旅行先で一緒に撮影する、SNSに投稿する、イベントへ連れていくといった行動まで含むようになっている。

この変化を理解するうえで、「推し活」は極めて重要なキーワードになる。推し活とは、単に好きな人物や作品の商品を買うことではなく、自分が特に応援したい人物、キャラクター、作品、チームなどに対して、視聴、購入、応援、イベント参加、情報発信などの行動を積極的に行う文化である。

2025年に矢野経済研究所が15~69歳の男女1万人を対象に実施した調査では、「推しがいる」と回答した割合は、オタク層で64.2%、非オタク層でも21.5%に達した。これは「推し」という概念が、オタク文化の内部だけに閉じたものではなく、一般消費者の生活にも入り込んでいることを示す重要なデータである。

さらに、メットライフ生命が2025年に実施した全国調査では、全体の43.3%が応援する「推し」がいると回答し、20代では65.2%に達した。また、推しを選んだ最大の理由として「単純に好き、惹かれるから」が74%を占めたほか、若年層では「憧れ」「成長を後押ししたい」「仲間とつながれる」といった理由も目立ち、高齢層では「生活に張り合いが出る」という回答が比較的高かった。

この結果から見えてくるのは、推し活が単純な「娯楽消費」ではないということである。そこには、好きなものを通じて自分自身を確認する行為、他者とつながる行為、日常生活に楽しみを設定する行為、さらには人生に意味やリズムを与える行為まで含まれている。

ぬい活も、この構造と密接に関係している。ぬいぐるみそのものは古くから存在するが、現在のぬい活では、ぬいぐるみを単なる所有物ではなく「一緒に行動する存在」として扱い、旅行、食事、イベント、カフェ、観光地などへ連れて行き、その姿を撮影して共有するという新しい利用形態が広がっている。

ここでは「物を所有する」という従来型の消費から、「物との関係を作る」という消費へ変化している点が重要である。ぬいぐるみは話しかけることもでき、感情を持っているわけでもないが、持ち主が意味を与えることで、単なる商品から「思い出を共有する対象」へ変化する。

日本玩具協会の2024年度統計でも、ぬいぐるみ市場は前年比115.3%と大きく伸びている。もちろん、この伸びすべてを「ぬい活」によるものと断定することはできないが、ぬいぐるみという商品が子ども向け玩具の枠を越え、キャラクター、コレクション、インテリア、ギフト、推し活など複数の消費領域を横断する商品になっていることは確認できる。

ここでさらに重要なのが、推し活とフィジカルな商品が結びついていることである。推しの存在そのものはデジタル上で確認できても、アクリルスタンド、ぬいぐるみ、フィギュア、缶バッジ、カードなどは「手に取れる推し」として機能するため、デジタル情報とは異なる所有感覚を生み出す。

財務省の2025年11月号でも、推し活について、国内アイドル、ミュージシャン・バンド、K-POPアイドル、スポーツ選手、キャラクター、俳優、ゲーム、YouTuber・VTuber、アニメ、漫画など、対象が極めて多様化していることが紹介されている。推し活は特定ジャンルの特殊な文化ではなく、人物、作品、キャラクター、スポーツなどを横断する生活文化へと変化している。

一方で、この現象を「若者文化」とだけ捉えるのも正確ではない。朝日大学マーケティング研究所の2025年調査では、現在または過去に「推し」がいた経験を持つ人が半数を超え、週1回以上の推し活を行う割合も54.4%となった。女性では59.1%と男性の47.2%を上回っており、推し活が一定の頻度で生活に組み込まれている実態が示されている。

つまり、2026年時点で観察される「大人のおもちゃ」「推し活」「ぬい活」は、それぞれ独立したブームではない可能性が高い。玩具やホビーを買う、推しを応援する、ぬいぐるみを持ち歩くという一見異なる行動の背後に、「好きなものを自分の生活に取り込みたい」「何かを大切にしたい」「誰か・何かとつながっていたい」「自分自身を表現したい」という共通する心理的需要が存在すると考えられる。

したがって、この現象を理解するには、単純な「消費ブーム」という視点だけでは不十分である。次の段階では、なぜ日本社会でこのような需要が拡大したのかを、少子化、働き方、SNS、価値観の変化、自己表現の自由化、デジタル化による反動など、より広い社会的・文化的背景から検討する必要がある。

特に注目されるのは、「大人なのだから、子ども向けのものを卒業すべきだ」という従来の規範が弱まり、「好きなものを好きと言ってよい」「自分のお金を自分のために使ってよい」という価値観が広がったことである。この変化が、かつては隠れて楽しむこともあった趣味を、SNSやコミュニティーを通じて堂々と共有する文化へと転換させている。

そして、その先にはさらに深い問題がある。なぜ人は、単なる商品であるぬいぐるみやフィギュア、カード、キャラクターグッズに、これほど強い感情的価値を感じるのかという問題である。

この問いを心理学的に考えると、「所有欲」だけでは説明できない。自己表現、所属、承認、安心、愛着、ケア、達成感、日常への意味づけなど、人間のかなり根源的な欲求が、「おもちゃ」「推し」「ぬい」という形を取って表出している可能性がある。

大人の玩具・ホビー需要の拡大

日本の玩具市場を考える際、まず確認すべきなのは「少子化が進んでいるのに、なぜ玩具市場が拡大しているのか」という逆説である。日本では出生数の減少によって本来の子ども向け市場には縮小圧力がかかっているが、その一方で玩具産業は大人や訪日外国人など、新しい需要層を取り込むことで市場を維持・拡大している。

日本玩具協会による2024年度調査では、国内玩具市場は1兆992億円となり、前年度の1兆191億円から7.9%増加した。カードゲーム・トレーディングカードは3,024億円、雑貨は1,047億円、ホビーは1,845億円、ぬいぐるみは451億円に達しており、特に大人の趣味やコレクションと親和性の高い分野が市場全体の成長を牽引している。

さらに矢野経済研究所の調査では、2024年度の国内玩具市場は主要8品目で4,602億円、前年度比3.7%増となった。調査では、少子化や物価高という逆風が存在する一方、インバウンド需要と「キダルト需要」を取り込むことで市場が成長していると分析されており、出生数だけでは現在の玩具市場の動きを説明できないことが明確になっている。

ここでいう「キダルト」は、KidとAdultを組み合わせた言葉で、子どもの頃の遊び心を持ち続ける大人の需要を指す。重要なのは、この層が単に「子ども向け商品を買う大人」ではなく、商品そのものに趣味性、コレクション性、希少性、デザイン性、作品への愛着などを見いだし、自分自身のために積極的に消費している点である。

たとえばプラモデルやフィギュアの場合、購入して終わりではない。組み立てる、塗装する、改造する、撮影する、展示する、SNSで公開する、他のファンと交流するといった複数の行動が連続し、一つの商品が長時間の趣味体験を生み出す。

トレーディングカードも同様である。カードを購入することは入口にすぎず、集める、交換する、対戦する、相場を確認する、イベントに参加する、コレクションを展示するなど、消費行動がコミュニティーやゲーム性と結びついている。

この構造は、従来型の「商品を買って使う」という消費とはかなり異なる。商品が提供しているのは物理的なモノだけではなく、「時間」「体験」「知識」「交流」「達成感」「自己表現の機会」まで含んだ複合的な価値である。

そのため、大人向け玩具市場では必ずしも低価格の商品だけが強いわけではない。むしろ精密なフィギュア、高品質な模型、限定版、コラボレーション商品、希少性の高いカードなど、ファンにとって意味のある商品については、価格よりも「所有する理由」が重視される傾向がある。

ここには消費社会の変化も関係している。生活必需品については価格上昇への警戒が強まる一方、自分が強く関心を持つ趣味については「これは自分のために必要な支出だ」と考える消費者も存在するためである。

つまり、現在の玩具市場では「子どもが欲しがるから親が買う」という従来型の需要に加えて、「大人自身が欲しいから自分で買う」という需要が重要になっている。これは玩具を「教育・育児用品」から「個人の趣味・文化・ライフスタイル商品」へと再定義する変化でもある。

推し活・ぬい活の一般化

こうした市場構造の変化と並行して拡大しているのが推し活である。推し活の特徴は、好きな対象を「見る」だけではなく、応援する、購入する、記録する、共有するという複数の行動を一つの文化として結び付けている点にある。

矢野経済研究所が2025年に実施した調査では、「推しがいる」と回答した割合はオタク層で64.2%、非オタク層でも21.5%となった。これは推しという概念が、従来の「オタク」と呼ばれる層を越えて、一般消費者にも広がっていることを示すデータとして注目できる。

また、推しの対象はアイドルだけではない。音楽アーティスト、俳優、スポーツ選手、声優、アニメや漫画のキャラクター、ゲーム、VTuberなど、対象は極めて広い。

この多様化によって、「推し活=若い女性がアイドルを応援する活動」という従来型のイメージも変化している。実際には年齢や性別を越えて、自分が価値を感じる対象を応援する文化へと拡張している。

推し活の重要な特徴は、「好き」という感情が消費行動へ直結しやすいことである。CDや映像作品を見る、ライブに参加する、関連商品を購入する、コラボカフェへ行く、イベントへ参加する、SNSで情報を発信するなど、感情が具体的な行動に変換される。

ここで登場するのが「ぬい活」である。ぬい活は、推しを象徴するぬいぐるみや自分の好きなぬいぐるみを持ち歩き、写真を撮ったり、服を着せたり、旅行や食事に同行させたりする活動として広がっている。

ぬい活が興味深いのは、推し活の中でも特に「フィジカルな存在」を必要とすることである。スマートフォンの画面上にいる推しを、ぬいぐるみという触れることのできる存在に変換することで、ファンは推しを日常生活の空間に持ち込むことができる。

観光地でぬいぐるみを撮影する「ぬい撮り」は、その典型である。旅行先の風景とぬいぐるみを一緒に撮影することで、単なる観光記録が「推しと過ごした時間」の記録へ変わる。

この意味で、ぬいぐるみは単なる商品ではなく、記憶を保存するメディアとして機能している。写真を見ることで、その場所だけでなく、「このぬいぐるみと一緒に行った」という個人的な物語まで思い出せるからである。

日本玩具協会のデータでも、ぬいぐるみ市場は2024年度に451億円となり、前年度比15.3%増と大きく伸びた。矢野経済研究所も、2024年度の主要8品目の中でぬいぐるみが最も高い成長率を示したとし、インバウンドによる土産需要だけでなく購買層の多様化を指摘している。

もちろん、ぬいぐるみ市場の成長をすべて推し活やぬい活だけで説明することはできない。キャラクター人気、訪日外国人による購入、ギフト需要、インテリア需要など複数の要因が存在するためである。

しかし、「ぬいぐるみ」という商品が子ども向け玩具だけではなく、大人の感情やライフスタイルに入り込む商品へ変化していることは確かである。これは市場分析上、極めて重要なポイントである。

「モノを買う」から「意味を買う」へ

大人の玩具、推し活、ぬい活を一つの流れとして見ると、共通する変化が浮かび上がる。それは、消費者が商品そのものだけではなく、その商品によって得られる「意味」を購入するようになっていることである。

たとえば同じぬいぐるみでも、ある人にとっては単なるキャラクター商品であり、別の人にとっては大切な推しの象徴であり、さらに別の人にとっては旅行の思い出を共有する相棒になる。商品の物理的価値は同じでも、消費者が与える意味によって主観的価値は大きく変化する。

この現象は、マーケティングでいう「モノ消費」から「コト消費」への移行とも関係している。ただし、現在の推し活やぬい活では、モノとコトが対立しているわけではなく、「モノを媒介としてコトが生まれる」という形になっている。

ぬいぐるみを買うこと自体が目的なのではなく、そのぬいぐるみと一緒に旅行する、写真を撮る、友人と共有する、SNSに投稿するという体験が価値になる。フィギュアやプラモデルでも、所有することに加えて、制作する、飾る、語る、交流するといった一連の行動が価値を構成している。

この点から見ると、現在の「大人のおもちゃ」ブームは、幼児化ではなく、むしろ消費の高度化として理解することもできる。大人は単純に遊んでいるのではなく、自分の価値観や人間関係、時間の使い方に合わせて商品に意味を与え、それを生活の一部として利用しているのである。

そして、この動きをさらに強く後押ししているのがSNSである。かつては個人の部屋に飾って終わっていたコレクションが、現在では写真や動画によって他者へ共有され、同じ趣味を持つ人々との新しいコミュニティーを形成する。

結果として、「所有する」「楽しむ」「撮影する」「発信する」「共感される」「さらに購入する」という循環が生まれる。この循環こそが、大人向け玩具と推し活市場を継続的に拡大させる重要な仕組みの一つと考えられる。

背景にある社会的・文化的要因

大人の玩具需要、推し活、ぬい活の拡大は、単純な流行として捉えるよりも、日本社会における「趣味の位置づけ」が変化した結果として捉える方が適切である。少子化や物価高という市場全体にとっての逆風があるにもかかわらず、玩具市場ではキダルト層やインバウンド需要が成長を支えていると矢野経済研究所は分析しており、従来の「子どものための玩具」という市場構造そのものが変化している。

その背景には、第一に「大人も自分の好きなものにお金と時間を使ってよい」という価値観の定着がある。かつては、一定の年齢になると玩具やキャラクター商品から卒業し、実用品や家族のための商品へ消費の重点を移すことが社会的に期待される傾向が強かったが、現在ではその規範が相対的に弱まっている。

これは単なる「子ども返り」ではない。むしろ成人後も趣味や遊びを人生の一部として維持し、それを自分らしさの表現として積極的に位置づける文化が広がったと考える方が実態に近い。

第二に、インターネットとSNSの普及がこの変化を大きく後押しした。以前なら自宅で一人楽しんでいたフィギュア、模型、ぬいぐるみ、カードなども、現在では写真や動画を通じて他者と共有でき、同じ趣味を持つ人を容易に発見できる。

矢野経済研究所の2025年調査では、オタク層の情報収集源としてメーカーなどの公式ホームページ・SNSが半数を超え、よく利用するSNSとしてYouTube、LINE、Xなどが挙げられている。つまり、趣味の消費は「商品を買って個人的に楽しむ」という閉じた行動から、情報収集、交流、発信を伴うネットワーク型の活動へ変化している。

この構造では、一人の消費者が単なる購入者ではなく、情報の受け手であると同時に発信者にもなる。新商品を知り、購入し、写真を撮り、感想を投稿し、他者の投稿を見てさらに別の商品を知るという循環が成立するため、趣味市場が継続的に活性化しやすい。

「好き」を発信・肯定できる時代の到来

現在の推し活を理解するうえで特に重要なのが、「好き」という感情を公に表現することへの心理的・社会的なハードルが低下したことである。推しを持つこと自体が珍しい行為ではなくなり、SNSのプロフィールや投稿で好きな人物、キャラクター、作品を明示することも一般的になった。

矢野経済研究所の2025年調査では、「推しがいる」と答えた割合はオタク層で64.2%、非オタク層でも21.5%に達している。しかも同調査では、推しの対象は日本のアイドル、音楽系アーティスト、アニメ・漫画などのキャラクターなどに広がっており、「推し」という概念そのものが特定の趣味集団だけに限定されていないことが分かる。

この変化には、SNSによる「可視化」の効果がある。自分と同じ作品を好きな人、自分と同じキャラクターを応援している人、自分と同じぬいぐるみを持っている人を検索によって簡単に見つけられるため、「自分だけが好きなのではない」という感覚を持ちやすくなる。

ここで重要なのは、他者からの承認だけが目的ではないという点である。むしろ、自分の好きなものを表現することで「自分はこういう人間である」という自己認識を確認することができる。

たとえば、好きなキャラクターのグッズを持ち歩くことは、単なる商品の携帯ではない。それは「自分はこの作品が好きだ」という個人の価値観を目に見える形にする行為であり、場合によっては同じ趣味を持つ人を見つけるためのコミュニケーション手段にもなる。

このため、推し活市場では「商品そのもの」よりも、「その商品が何を意味するのか」が重要になる。数千円のぬいぐるみが、単なる布製品としてではなく「自分の推しを象徴する存在」として認識されれば、消費者が感じる価値は大きく変化する。

趣味の「個人化」とコミュニティー化

一見すると、推し活やぬい活は非常に個人的な行動に見える。自分の好きなキャラクターを選び、自分のお金でグッズを購入し、自分の部屋に飾り、自分の楽しみとして消費するからである。

しかし、その個人的な趣味は同時にコミュニティーを形成する。SNSで同じ趣味の人とつながったり、イベントへ参加したり、グッズの交換をしたり、同じ場所で「ぬい撮り」をしたりすることで、個人の趣味が社会的な関係へと変換される。

これは現代社会における「弱いつながり」とも関係する。必ずしも家族や職場のような強い人間関係を必要とせず、「同じキャラクターが好き」「同じ作品を応援している」という一点だけで交流できるからである。

このような関係は、日常生活の人間関係とは異なる心理的メリットを持つ可能性がある。仕事上の立場や年齢、肩書きなどから一度離れ、「好き」という共通項だけで他者とつながることができるためである。

メットライフ生命の2025年調査でも、推しを選んだ理由として全体では「単純に好き、惹かれるから」が74%と最も多かった一方、20代では「仲間とつながれる」「成長を後押ししたい」「自分も一緒に成長できる」といった理由も比較的高かった。推し活には、純粋な好意だけでなく、人とのつながりや自己成長に関する意味も含まれていることが示唆される。

したがって、推し活を単なる「ファン心理」だけで説明するのは不十分である。そこには、現代人が自分の価値観を確認し、他者との緩やかな関係を形成し、日常生活の中に楽しみを作るための社会的機能が存在している。

デジタル社会の反動(フィジカルへの回帰)

さらに興味深いのが、デジタル化が進んだ社会であるにもかかわらず、フィジカルな商品への需要が強まっていることである。音楽、映像、コミュニケーション、買い物、娯楽の多くがスマートフォンやインターネット上で完結する時代になったからこそ、「触れることができる」「そこに置いておける」物質的な対象の価値が相対的に高まっている可能性がある。

推し活におけるアクリルスタンド、缶バッジ、カード、フィギュア、ぬいぐるみなどは、その典型である。推しそのものはデジタル上で見ることができても、グッズは自分の部屋やバッグに存在し続けるため、「好きな対象が自分の生活空間にいる」という感覚を与える。

特にぬいぐるみには、画面上の画像にはない物理的特徴がある。触れる、抱える、持ち運ぶ、服を着せる、座らせる、写真を撮るといった行為が可能であり、単なる画像よりも身体感覚を伴った関係を作りやすい。

この点は、ぬい活が単なるキャラクター消費以上の意味を持つ理由の一つと考えられる。ぬいぐるみは「見る商品」ではなく、「一緒に行動する商品」になっているからである。

矢野経済研究所は2024年度の玩具市場について、ぬいぐるみが主要8品目の中で最も高い成長率を示し、インバウンド需要に加えて購買層の多様化が見られると分析している。2025年度についても、ぬいぐるみは引き続き好調に推移すると予測されており、フィジカルなキャラクター商品の需要が一過性のものではない可能性を示している。

ここで注意すべきなのは、「デジタル社会だからフィジカル商品が売れる」と単純に因果関係を断定することはできないという点である。実際の市場成長にはキャラクター人気、商品開発、インバウンド、SNSマーケティング、限定販売など複数の要因が関係している。

しかし、デジタル化によって情報や映像が容易に消費できるようになった一方、「所有できる物」「触れられる物」「思い出を残せる物」への需要が存在するという仮説は十分に検討する価値がある。

「大人らしさ」の再定義

この一連の変化は、最終的には「大人とは何か」という文化的な定義にも関係している。かつての大人像は、責任を負い、仕事をし、家庭を支え、合理的に消費する存在として描かれやすかった。

現在はそこに、「自分の好きなものを大切にする」「趣味に時間を使う」「遊びを生活に残す」という価値観が加わっている。玩具メーカー側もこの変化を市場機会として認識しており、矢野経済研究所は少子化が進む日本で玩具市場の成長を目指すうえで、キダルト需要の取り込みが重要になると指摘している。

つまり、大人が玩具を購入することは「大人なのに子どもっぽい」という価値判断から切り離されつつある。むしろ、自分の可処分所得と時間を、自分が本当に価値を感じるものへ配分する行為として正当化されるようになっている。

ここまでの分析から、推し活、ぬい活、大人の玩具・ホビー需要には、少なくとも三つの社会的変化が重なっていると考えられる。第一に趣味を肯定する価値観の広がり、第二にSNSによる趣味の可視化とコミュニティー化、第三にデジタル化が進んだからこそ生じるフィジカルな商品の価値の再発見である。

しかし、これだけではまだ「なぜ人はそこまで夢中になるのか」という核心部分には到達していない。市場や社会環境が整ったとしても、そこに強い心理的欲求が存在しなければ、これほど長期的な消費行動には発展しにくいからである。

心理的分析:なぜ人はハマるのか?(根源的欲求の充足)

ここまで見てきたように、大人の玩具、推し活、ぬい活は、市場環境の変化やSNSの普及だけでは説明しきれない。なぜなら、同じ商品を目にしても、ある人にとっては単なる商品である一方、別の人にとっては「どうしても欲しい」「毎日の楽しみになる」「手元に置いておきたい」という強い心理的価値を持つからである。

したがって、その背景を理解するには、消費者が商品を通してどのような心理的欲求を満たしているのかを見る必要がある。本稿では、特に①自己表現と他者とのつながり、②心の安定と癒やし・情緒的豊かさ、③育成・世話をしたいというケアの欲求、という三つの観点から分析する。

心理学的には、人間の行動は金銭的利益だけで決まるわけではない。自分の能力を示したい、他者とつながりたい、安心したい、自分が何かに貢献していると感じたい、といった内発的な動機が行動を持続させる。

この観点から見ると、推し活やぬい活は「娯楽」というより、日常生活の中で複数の心理的欲求を同時に満たす行動システムとして理解できる。

① 自己表現と「他者とのつながり」の欲求

第一に重要なのが、自己表現である。人は自分が何を好きなのか、何を大切にしているのかを他者に示すことで、自分自身のアイデンティティーを確認することができる。

推し活では、好きな人物やキャラクターのグッズを購入することが、単なる所有行為では終わらない。缶バッジをバッグにつける、アクリルスタンドを部屋に飾る、ぬいぐるみを持ち歩く、イベントに参加するなど、好きな対象を生活空間に組み込むことで、「自分は何者なのか」を外部に表現することができる。

これはファッションにも似ている。服装が自分の趣味や価値観を表現するように、推しグッズもまた個人の価値観を可視化する道具になる。

ただし、推し活にはファッションとは異なる特徴がある。それは、「自分の好きなものを媒介として他者とつながれる」という点である。

SNSでは、同じ作品やキャラクターを好きな人を容易に探すことができる。投稿に反応したり、コメントしたり、イベントで交流したり、グッズを交換したりすることで、現実の職場や学校とは異なる人間関係を構築できる。

この構造は、現代社会における孤立や人間関係の希薄化を考えるうえでも重要である。もちろん、推し活が孤独を解消すると一般化することはできないが、「好き」という共通項によって他者とつながれることには一定の社会的機能がある。

メットライフ生命の2025年調査でも、推しを選んだ理由として「単純に好き、惹かれるから」が最も多い一方、若年層では「仲間とつながれる」「成長を後押ししたい」などの理由も確認されている。推しは個人的な感情の対象であると同時に、人間関係や自己成長を媒介する存在にもなっている。

ここには「所属したい」という人間の基本的な欲求も関係していると考えられる。同じ作品を好きな人、同じアイドルを応援する人、同じぬいぐるみを持つ人という共通性は、社会の中で自分の居場所を感じるための一つの手段になる。

重要なのは、必ずしも大きなコミュニティーに所属する必要がないことだ。SNS上で数人と交流するだけでも、「自分の好きなものを理解してくれる人がいる」という感覚を得られる場合がある。

したがって、推し活の「つながり」は、従来型の濃密な人間関係とは異なる。距離を保ちながら、共通の関心によって緩やかにつながることができる点に現代的な特徴がある。

② 心の安定と「癒やし・情緒的豊かさ」の欲求

第二の要素は、安心感や癒やしである。ぬいぐるみ、キャラクター、フィギュアなどが大人に支持される理由の一つとして、これらが「心理的に安全な対象」として機能する可能性が考えられる。

特にぬいぐるみは、柔らかい、丸い、抱きしめられる、表情が穏やかであるといった身体的特徴を持つ。そのため、視覚だけでなく触覚を通じて安心感を得やすい。

ただし、「ぬいぐるみを持てばストレスが解消する」と医学的に一般化することはできない。個人差が大きく、心理的効果については具体的な対象や状況を区別して考える必要がある。

一方、推し活全体については、日常生活に楽しみや目標を設定するという側面がある。たとえば「次のライブまで頑張る」「新しいグッズの発売日が楽しみ」「週末に推しの動画を見る」といった予定が、日常に小さな楽しみを配置する。

メットライフ生命の調査でも、推しを持つことによって「生活に張り合いが出る」という回答が確認され、特に一定の年齢層では推しが日常生活を充実させる存在として認識されている。

この点から、推し活は単なる消費ではなく、「未来に楽しみを置く」という心理的行動としても理解できる。日常が仕事や家事などの義務だけで構成されていると感じる人にとって、好きなものに関する予定は生活にリズムを与える。

ぬい活にも同じ構造がある。旅行先でぬいぐるみを撮影するという目的があれば、単なる旅行が「ぬいと一緒に過ごすイベント」へ変化する。

つまり、対象そのものが日常を変えるというより、「対象に意味を与えること」によって日常の経験が再構成されるのである。これは心理的な豊かさという観点から重要である。

さらに、コレクションにも情緒的な機能がある。棚に並んだフィギュアやカードを眺めることは、所有物の確認であると同時に、自分がこれまで経験してきた時間を振り返る行為にもなり得る。

「このフィギュアは学生時代に買った」「このぬいぐるみは初めて参加したイベントで購入した」といった記憶が商品に結びつけば、物そのものが個人史の一部になる。

このため、大人にとっての玩具は「遊ぶための物」だけではない。「思い出を保存する物」「自分の過去と現在をつなぐ物」としても機能するのである。

③ 育成・世話をしたいという本能(ケアの欲求)

第三の要素は、何かを大切にしたい、世話をしたいというケアの欲求である。これはぬい活を理解するうえで特に興味深い。

ぬいぐるみは本来、自律的に動くことも、食事をすることもない。しかし、持ち主が服を着せたり、寝かせたり、旅行へ連れて行ったり、季節ごとに衣装を変えたりすることで、あたかも「世話をしている」ような行動が発生する。

ここには人間が持つ養育・保護行動に近い心理メカニズムが関係している可能性がある。ただし、「ぬいぐるみへの愛着=親としての本能」と直接結びつけることは科学的には慎重であるべきであり、ケア欲求の一つの表現として捉えるのが妥当である。

ぬいぐるみの場合、相手から拒絶されることがないという特徴もある。話しかけても否定されず、服を選んでも嫌がらず、写真を何枚撮っても文句を言わない。

そのため、ぬいぐるみは「世話をしたい」という行動を比較的安全に表現できる対象になる。人間関係では相手の意思や感情を考慮する必要があるが、ぬいぐるみにはその負担がない。

これは、現代社会において重要な意味を持つ可能性がある。仕事や家庭などで常に他者への配慮を求められる人にとって、ぬいぐるみとの関係は「自分が自由に意味を与えられる関係」になるからである。

また、フィギュアやプラモデルにも類似した構造がある。組み立てる、塗装する、改造する、展示するという行為は、対象を自分の手で完成させ、維持し、より良い状態にするという「ケア」に近い満足感を生み出す。

この意味で、ホビーは受動的な娯楽ではない。自分の時間と技術を投入し、対象を育て、完成させ、維持するという能動的な活動なのである。

「ハマる」の正体は、一つの欲求ではない

ここまで三つの欲求を検討すると、推し活やぬい活がなぜ強い継続性を持つのかが見えてくる。自己表現、他者とのつながり、安心感、癒やし、ケア、達成感などが、一つの活動の中で同時に満たされるからである。

例えば、一つのぬいぐるみを購入した場合、購入によって所有欲が満たされるだけではない。写真を撮れば自己表現になり、SNSに投稿すれば他者との交流になり、旅行へ連れて行けば体験になり、服を着せればケアや創作活動になる。

つまり、一つの商品が複数の心理的報酬を生み出す。この「多重性」こそが、推し活やぬい活の強さを説明する重要な要素と考えられる。

同じことはホビーにも当てはまる。フィギュアやプラモデルは、購入、制作、完成、展示、撮影、発信、交流という複数の行動を誘発するため、消費者は商品を購入した後にも継続的な体験を得ることができる。

したがって、「なぜ大人はおもちゃにハマるのか」という問いに対する答えは、「子どもの心を取り戻したいから」だけではない。むしろ、大人が現代社会の中で抱える自己表現、所属、安心、意味、ケア、達成といった欲求を、玩具やキャラクターが比較的手軽な形で満たしてくれるからだと考えられる。

経済・産業へのインパクト

この心理的構造は、そのまま産業構造にも影響を及ぼしている。商品そのものではなく、商品に付随する「物語」「体験」「コミュニティー」「限定性」が価値を持つため、企業は単純な大量生産だけではなく、ファンとの関係を長期的に構築する必要がある。

玩具市場の成長分野を見ると、カード、ホビー、キャラクター商品、ぬいぐるみなど、購入後も楽しみ方が続く商品が多い。これは、消費者の支出が一回限りで終わらず、関連商品、イベント、追加アイテム、コラボレーションなどへ波及しやすいことを意味する。

さらに推し活では、ライブ、イベント、旅行、飲食、ファッション、交通、宿泊など、玩具産業だけにとどまらない消費が発生する。財務省も推し活をめぐって、様々なジャンルの人物やキャラクターが対象となっていることを紹介しており、推しを中心とした消費の裾野が広いことが分かる。

高単価化とロングテール

大人向け市場の特徴として重要なのが、高単価化である。大人は子どもより可処分所得が大きく、さらに「自分が本当に欲しい商品」を選択的に購入できるため、品質や精密さ、限定性、ブランド性などに対して対価を支払う余地がある。

これはメーカーにとって、単純な数量拡大とは異なる収益機会になる。少数の熱心なファンに対して高品質な商品を提供し、継続的に新商品を投入することで、長期間にわたって需要を獲得できるからである。

また、SNSによってニッチな趣味でも全国規模の顧客を発見できるようになった。以前なら採算が合わなかった小規模な商品でも、オンライン販売とコミュニティーを組み合わせることで、一定数のファンを対象としたビジネスが成立しやすくなっている。

これは「ロングテール型」の市場構造と親和性が高い。巨大なヒット商品だけに依存するのではなく、多数の小規模な需要を積み重ねることで市場全体を形成する考え方である。

体験価値(コト消費)との融合

さらに重要なのが、モノ消費とコト消費の融合である。ぬいぐるみを購入するだけなら「モノ消費」だが、それを旅行へ連れて行けば旅行体験と結びつき、写真をSNSへ投稿すればコミュニケーション体験になる。

同様に、フィギュアを買って終わるのではなく、展示会へ行き、他のファンと交流し、写真を撮り、SNSへ投稿すれば、商品は一連の体験を生み出す起点になる。

企業側から見れば、これは大きな意味を持つ。商品単体の販売だけでなく、「商品を買った後に何をしてもらうか」まで設計することが、ブランド価値を高める可能性があるからである。

今後の推し活・ぬい活市場では、グッズそのものだけでなく、イベント、カフェ、観光、宿泊、展示、デジタルサービスなどとの連携がさらに進む可能性がある。大人の玩具市場は、玩具産業だけで完結するのではなく、エンターテインメント、観光、外食、ファッション、広告、SNSなどを横断する市場へ変化していくと考えられる。

今後の展望

ここまで見てきたように、大人の玩具・ホビー需要、推し活、ぬい活は、それぞれ独立した流行として存在しているのではなく、「好きなものを自分の生活に取り込み、その価値を他者と共有する」という現代的な消費文化の一部として捉えることができる。特に2026年時点では、この動きが単なる消費者側のブームにとどまらず、玩具産業そのものの成長戦略に組み込まれている。

そのことを最も明確に示すのが、2025年度の国内玩具市場である。日本玩具協会によれば、2025年度の市場規模は1兆1,664億円となり、前年度比6.3%増で過去最高を更新した。しかも2019年度以降、6年連続で過去最高を更新しており、少子化が進行する日本において玩具市場が成長を続けるという、一見すると矛盾した現象が続いている。

この現象を説明するうえで、キダルト需要は極めて重要である。矢野経済研究所も、2025年度の玩具市場について、少子化や物価高というマイナス要因がある一方、インバウンド需要とキダルト需要を取り込むことで市場全体が成長していると分析している。

したがって、今後の玩具市場では「子どもの人口が何人いるか」だけでは市場規模を予測できなくなる可能性が高い。成人がどれだけ趣味に支出するのか、どれだけコレクションや推し活に時間を使うのか、そしてどれだけ商品を通じた体験を求めるのかが、これまで以上に重要な市場指標になる。

大人向け市場はさらに細分化する

今後の第一の方向性は、大人向け商品の細分化である。大人と一括りにするのではなく、コレクター、模型ファン、キャラクターファン、カードゲーム層、ぬいぐるみ愛好者、推し活層など、それぞれ異なる欲求を持つ消費者に向けた商品が増えていくと考えられる。

矢野経済研究所の2026年版「玩具産業白書」でも、模型・ホビー、ぬいぐるみ、フィギュア、鉄道模型、ハイターゲット(キダルト)トイ、トレーディングカードゲームなどを個別市場として分析している。これは、大人の趣味市場が一つの市場ではなく、多数の専門市場へ分化していることを示す。

この傾向が進めば、「大人向け玩具」という言葉自体もさらに細分化される可能性がある。消費者は年齢によって分類されるのではなく、「どのような楽しみ方をする人なのか」という行動や価値観によって分類されるようになる。

たとえば、同じぬいぐるみを購入する場合でも、部屋に飾りたい人、旅行へ連れて行きたい人、衣装を作りたい人、SNSで撮影したい人、コレクションしたい人では求める商品が異なる。メーカーにとっては、こうした「利用目的の違い」を理解することが商品開発の重要なテーマになる。

推し活は「市場」から「生活インフラ」へ

第二の方向性は、推し活のさらなる生活への浸透である。2025年の矢野経済研究所の調査では、「推しがいる」と回答した割合がオタク層で64.2%、非オタク層でも21.5%となった。推し活はすでに一部のコアファンだけが行う活動ではなく、一般消費者にも広がっている。

さらに同研究所は2026年の調査でも、「推し」の有無、対象、推し活状況をオタク・非オタク間で比較する調査を継続している。これは、推し活が一過性の流行ではなく、継続的に観測する価値のある消費行動として認識されていることを示している。

今後は、推し活がエンターテインメント業界だけでなく、旅行、飲食、交通、宿泊、ファッション、化粧品、金融、保険などにもさらに広がる可能性がある。すでに推しのライブやイベントに合わせて遠方へ移動する、コラボレーション店舗へ行く、限定商品を購入するなど、推しを起点として複数の消費が連鎖する構造が成立している。

これは企業にとって、単一の商品を販売するだけではなく、「ファンの一日」「ファンの旅行」「ファンのイベント参加」といった一連の体験全体を設計する必要性を意味する。推し活市場の競争は、商品単体の競争から、体験全体の競争へ移行していく可能性がある。

「ぬい」はさらに強いメディアになる

第三に注目されるのが、ぬいぐるみの役割の変化である。ぬいぐるみは従来、子どもの玩具やインテリア、ギフトとして理解されることが多かったが、現在では推しを象徴するフィジカルな媒体としての性格を強めている。

日本玩具協会によれば、2025年度の玩具市場では、ぬいぐるみを含む複数のカテゴリーが引き続き成長を支えている。また、矢野経済研究所もぬいぐるみについて、インバウンド需要に加えて購買層の多様化が進んでいることを指摘している。

今後のぬい活では、単にキャラクターのぬいぐるみを販売するだけではなく、衣装、アクセサリー、バッグ、家具、撮影用品、収納用品など周辺市場が広がる可能性がある。さらに、ぬいぐるみと旅行、カフェ、イベント、観光地などを組み合わせることで、「ぬいと一緒に体験する」という新しい消費モデルが形成される可能性もある。

ここで重要なのは、ぬいぐるみが「商品」であると同時に「物語を作る道具」になっていることである。旅行先で撮影した写真、イベントで撮った写真、自宅で撮った写真などが蓄積されることで、一体のぬいぐるみに個人的な記憶が付加されていく。

このため、ぬいぐるみは時間が経過するほど個人的価値が増す可能性がある。新品の商品価値とは別に、「自分と一緒に過ごしてきた時間」という価値が蓄積されるからである。

デジタルとフィジカルは対立しない

本稿では、デジタル社会の反動としてフィジカルへの回帰が起きている可能性についても検討した。しかし、今後重要になるのは「デジタルかフィジカルか」という二者択一ではなく、両者が融合することである。

例えば、SNSで推しの情報を知り、オンラインで商品を購入し、実際にぬいぐるみを受け取り、それをイベントへ持って行き、写真を撮影し、再びSNSへ投稿するという一連の行動が成立している。つまりデジタルはフィジカルの代替ではなく、フィジカル商品に意味を付与し、拡散するためのインフラになっている。

これは玩具産業にとって極めて重要である。商品そのものの完成度だけではなく、「写真を撮りたくなるか」「SNSで共有したくなるか」「他者と語りたくなるか」といったデジタル時代の利用価値まで考える必要があるからである。

VTuber市場もこの構造を象徴している。矢野経済研究所によれば、2023年度のVTuber市場ではグッズが445億円で市場の55.6%を占め、ライブストリーミングやイベントなどと並んで重要な収益領域となっている。2025年度市場は1,260億円規模に拡大すると予測されており、デジタル上の存在とフィジカルなグッズが補完関係にあることを示す。

したがって、これからの「おもちゃ」は、現実世界の商品でありながら、デジタル空間と連動する存在になっていく可能性が高い。SNS、動画、ライブ配信、オンラインコミュニティーなどが、フィギュアやぬいぐるみ、カードなどの物理的商品の価値をさらに増幅する構造である。

「根源的欲求」という仮説をどう評価するか

では、本稿の中心的な問いである「背景に根源的欲求があるのか」に対して、どのような結論を出せるだろうか。

結論から言えば、「根源的欲求が関係している」という仮説には十分な妥当性がある。ただし、それを「人間の本能だけで推し活やぬい活が説明できる」とまで拡張することはできない。

人間には、他者とつながりたい、自分の価値を確認したい、安心したい、何かを大切にしたい、達成感を得たいといった基本的な心理的欲求が存在する。推し活やホビーは、こうした複数の欲求を比較的低コストかつ継続的に満たせる活動になり得る。

特に推し活は、「好き」という感情を起点として、自己表現、所属、交流、応援、消費、体験という複数の行動へ発展する。ぬい活の場合は、そこに触覚、所有、記憶、ケア、写真撮影などが加わる。

したがって、「ハマる」という現象の本質は、単純な依存や衝動買いではなく、「一つの対象が複数の心理的報酬を提供すること」にあると考えられる。これは推し活やホビーが一時的な娯楽ではなく、生活習慣になり得る理由の一つである。

一方で、注意すべき側面もある。推し活やコレクションが過度な支出、生活時間の圧迫、他者との比較、限定商品への過剰反応などにつながれば、心理的メリットと経済的負担が逆転する可能性がある。

したがって、推し活を「良いもの」と一方的に評価することも、「大人の幼児化」と否定することも適切ではない。重要なのは、それが本人にどのような価値をもたらし、生活全体とのバランスが取れているかである。

経済・産業へのインパクト

産業面では、今後も「少子化だから玩具市場は縮小する」という単純な予測は成立しにくくなる可能性がある。日本玩具協会が2025年度に1兆1,664億円という過去最高市場を記録したことは、人口構造の変化を補う新しい需要が実際に形成されていることを示す。

特に重要なのは、玩具の価値が「子どもを楽しませるもの」から、「大人自身の人生を豊かにするもの」へ拡張していることである。これによって玩具メーカーは、子どもの人口だけでなく、大人の趣味時間、可処分所得、SNS利用、ファンコミュニティーなどを市場の重要な変数として考える必要が生じている。

さらに、オタク市場全体でも成長分野が多い。矢野経済研究所によれば、2024年度の主要17オタク市場では15市場が成長し、アイドル市場は前年度比23.7%増となった。特にアイドル市場では、ファンとの関係性を軸にした体験型消費への進化が市場活性化に寄与したと分析されている。

これは、今後の消費市場において「ファンとの関係性」が重要な資産になることを意味する。商品そのものを売るだけでなく、ファンが「参加したい」「応援したい」「共有したい」と感じる仕組みを構築できる企業ほど、長期的な需要を獲得できる可能性がある。

まとめ

本稿で検証してきた「大人が『おもちゃ』に夢中、推し活、ぬい活が盛況」という現象は、単純な一過性のブームではないと評価できる。2025年度の国内玩具市場が1兆1,664億円と過去最高を更新し、少子化の中でも6年連続で市場規模を拡大させていることは、その背景に構造的な需要変化が存在することを強く示唆している。

その中心にあるのが、キダルト需要と推し活の一般化である。大人が自分自身のために玩具やホビーを購入するようになり、推しを応援するためにグッズ、イベント、旅行、飲食などへ消費を広げることで、従来の「玩具市場」という枠組みを越えた巨大な消費圏が形成されている。

また、ぬい活はこの変化を象徴する文化である。ぬいぐるみは単なる玩具ではなく、推しを象徴する存在、旅行やイベントの同行者、写真の被写体、思い出の保存媒体、自己表現の道具として複数の役割を担っている。

社会的背景としては、「大人は玩具を卒業する」という従来の規範が弱まり、「好きなものを好きと言ってよい」という価値観が広がったことが大きい。SNSはこれをさらに加速させ、個人的な趣味を可視化し、同じ価値観を持つ人々をつなぐコミュニティー形成装置として機能している。

心理面では、自己表現、所属、他者とのつながり、安心、癒やし、ケア、達成感などの複数の欲求が関係していると考えられる。特に推し活やぬい活は、一つの対象を通じて複数の心理的報酬を同時に得られるため、単なる娯楽以上の継続性を持ちやすい。

ただし、「根源的欲求」という説明は仮説として扱う必要がある。玩具や推しへの愛着をすべて本能や心理的欲求だけで説明することはできず、キャラクターの魅力、商品設計、SNS、マーケティング、コミュニティー、所得、ライフスタイルなど、多数の要因が相互作用しているからである。

それでも、大人の玩具・推し活・ぬい活を「子どもっぽい趣味」とだけ見ることには限界がある。そこには、現代人が「自分らしくありたい」「誰かとつながりたい」「心を落ち着けたい」「何かを大切にしたい」「日常に楽しみを作りたい」という欲求を、商品やキャラクターを通じて具体化している側面がある。

したがって、現在の日本で起きているのは「大人が子どもに戻っている」という現象ではない。むしろ、大人が自分の人生の中に「遊び」「好き」「愛着」「物語」を意識的に取り戻し、それを消費・交流・自己表現と結びつけている現象と捉える方が適切である。

今後、少子化がさらに進行しても、大人の趣味消費まで同じ割合で縮小するとは限らない。むしろ玩具、ホビー、推し活、ぬい活は、人口減少時代の日本において「少ない人口でも、一人当たりの関与度と消費価値を高める」市場モデルの一つになる可能性がある。

最終的には、これらの文化の持続性を決めるのは、単なる商品数や市場規模ではない。消費者がそこに「自分にとって意味がある」と感じ続けられるかどうかであり、その意味を生み出す力こそが、今後の大人向けエンターテインメント市場の最大の競争力になると考えられる。

総括

本稿の検証を一文でまとめるなら、「大人のおもちゃ・推し活・ぬい活の拡大は、玩具市場の大人化であると同時に、現代人が『好きなものを通じて自分自身を満たす』ための文化の拡大である」と言える。

市場データはこの現象が実際の経済活動として拡大していることを示し、推し活に関する調査は、その対象がオタク層を越えて一般層にも広がっていることを示している。さらに、心理的な観点から見ると、自己表現、所属、安心、ケア、達成などの複数の欲求が、これらの消費行動を持続させる要因になっている可能性がある。

したがって、「なぜ今、大人がおもちゃに夢中なのか」という問いへの答えは、「子ども心を忘れられないから」という単純なものではない。むしろ、大人だからこそ自分の意思で『好き』を選び、その対象にお金、時間、感情、思い出を投じることができる時代になったからこそ、大人の玩具文化が拡大していると結論づけることができる。


参考・引用リスト

  • 一般社団法人日本玩具協会「玩具市場規模データ/2025年度日本の玩具市場規模」2026年6月22日。2025年度の国内玩具市場を1兆1,664億円、前年比106.3%、過去最高と公表。
  • 株式会社矢野経済研究所「玩具市場に関する調査を実施(2026年)」。少子化・物価高の一方、インバウンド需要とキダルト需要が玩具市場の成長を支えていると分析。
  • 株式会社矢野経済研究所「『オタク』に関する消費者アンケート調査を実施(2025年)」。15~69歳の男女1万人を対象に、推し活、オタク人口、消費行動などを調査。推しがいる割合はオタク層64.2%、非オタク層21.5%。
  • 株式会社矢野経済研究所「『オタク』市場に関する調査を実施(2025年)」。2024年度の主要17市場のうち15市場が成長し、アイドル市場は前年度比23.7%増と分析。
  • 株式会社矢野経済研究所「2026年版 玩具産業白書」。模型・ホビー、ぬいぐるみ、フィギュア、鉄道模型、キダルトトイ、トレーディングカードゲームなど、玩具関連市場を分野別に分析。
  • 株式会社矢野経済研究所「VTuber市場に関する調査を実施(2025年)」。デジタル上のキャラクターとグッズ・イベントなどフィジカルな消費の融合を示す資料。2025年度市場を1,260億円と予測。
  • 株式会社矢野経済研究所「2026 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究~消費者調査編~」。オタク31分野を対象に、推し、推し活、年間消費額、活動時間などを調査する資料。
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