若者の35%「結婚するつもりない」こども家庭庁調査、何が起きているのか
今回のこども家庭庁調査が示した「未婚者の35.1%が結婚するつもりはない」という結果は、単純な「若者の結婚離れ」を意味するものではない。
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現状(2026年9月時点)
2026年8月、こども家庭庁が15歳から39歳までの若者約10万人を対象に実施した大規模なインターネット調査の結果が公表され、未婚者の35.1%が「結婚するつもりはない」と回答したことが大きく報じられた。回答者は約6万8000人、そのうち未婚者は約4万3500人であり、「結婚するつもりはない」35.1%に対して、「いずれは結婚したい」は37.5%、「5年以内に結婚したい」は7.7%、「2~3年以内に結婚したい」は10.3%、「すぐにでも結婚したい」は9.5%だった。
この数字だけを見ると、「若者の3人に1人以上が結婚を拒否している」という印象を受けやすい。しかし、調査結果を詳しく見ると、実態は単純な「結婚嫌い」の増加ではなく、結婚を人生の必須条件と考えない層が大きくなったこと、結婚したい気持ちはあっても実現に踏み切れない層が存在すること、さらに結婚以外の生活上の価値を優先する傾向が強まっていることが同時に表れていると考えるべきだ。
特に重要なのは、「結婚するつもりはない」という回答と、「現在結婚できる状況にない」という状態を同一視してはいけない点である。前者には価値観として結婚を選択しない人だけでなく、経済的な不安、適切な相手が見つからないこと、自由時間を失うことへの懸念、恋愛・人間関係への不安など、複数の事情が重なった結果として結婚を将来の選択肢から外している人も含まれる可能性がある。
今回の調査では、結婚に対するハードルとして「安定した結婚生活を送れる収入への不安」が40.0%で最も高く、「自由な時間がなくなる、趣味時間が短くなる」が34.4%、「結婚したいと思える人がいない」が32.6%と続いた。つまり、35.1%という数字の背後には、経済・時間・相手探しという異なる問題が並列して存在しているのである。
調査結果の構造と数字の読み方
今回の調査を理解する上で最初に注意すべきなのは、「若者全体の35.1%」ではないということである。報道で「若者の35%」という表現が広がっているが、実際には15~39歳の回答者全体から未婚者を取り出し、その未婚者約4万3500人について結婚意向を尋ねた結果である。
したがって、「15~39歳の若者の35.1%が結婚しない」という読み方は統計的には不正確である。より正確には、「今回回答した15~39歳の未婚者のうち、35.1%が結婚するつもりはないと回答した」という意味になる。
さらに、「結婚するつもりはない」35.1%と「いずれは結婚したい」37.5%は、単純な賛成・反対の二分法ではない。「いずれは結婚したい」と考えていても、現在は経済的に準備ができていない、相手がいない、仕事を優先しているなどの理由で結婚時期が見えない場合がある一方、「結婚するつもりはない」と回答した人についても、今後の生活環境や価値観の変化によって意識が変わる可能性を完全には排除できない。
ここから見えてくるのは、現在の若者の結婚意識が「結婚する/しない」という二択ではなく、「結婚したいが条件が整わない」「いつかは考える」「今は考えていない」「結婚そのものを人生設計に組み込んでいない」という連続的なスペクトラムになっていることである。この構造を無視して35.1%だけを強調すると、社会の変化を「若者の結婚離れ」という一言で説明する誤った理解につながりかねない。
また、こども家庭庁がこれまで実施してきた「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」でも、未婚者の結婚観は一様ではない。2024年度調査では、15~39歳の未婚者について、「結婚することは自然なことである」と考える割合は49.5%だった一方、「結婚して配偶者がいたら生活が楽しく豊かになる」と考える割合は64.3%であり、結婚を社会的な規範として受け入れることと、自分の生活を豊かにする選択肢として評価することには差が存在していた。
この違いは非常に重要である。かつては「一定の年齢になれば結婚する」という人生コースが社会的に強く共有されていたが、現在は結婚をするかどうか、いつするか、どのような関係を築くかを個人が判断する傾向が強まっているため、「結婚しない人が増えた」という現象だけでなく、結婚そのものの社会的位置づけが変化していると見る必要がある。
母数の定義
統計を検証する場合、最も重要なのが母数である。今回の「35.1%」は、15~39歳という年齢範囲、未婚という婚姻状態、そして実際に回答した人という三つの条件を経た集団の数字であり、日本の若者全体を直接代表する単純な人口比率ではない。
さらに、インターネットによる意識調査では、調査対象者の募集方法や回答者属性、回答率、年齢・性別・地域などの構成を確認する必要がある。今回の調査は非常に大規模であり、約10万人を対象として約6万8000人から回答を得ている点は大きな特徴だが、標本数が大きいことと、社会全体を完全に代表していることは同じではない。
したがって、今回の35.1%は「日本の若者の結婚意識を考える上で極めて重要なシグナル」ではあるものの、それだけで日本社会全体の将来を断定する数字ではない。こども家庭庁自身も、年齢や地域などによるさらなる分析を進め、2026年度末に最終報告をまとめる方針を示しているため、現段階では速報的な結果として位置づけ、今後公表される詳細分析と合わせて評価する必要がある。
現時点で最も妥当な結論は、「若者が一斉に結婚を拒否し始めた」ということではない。むしろ、結婚をめぐる意思決定が個人化し、経済的条件、仕事、自由時間、趣味、出会い、心理的負担など複数の要素によって左右される時代になったことが、この35.1%という数字の背景にあると考えられる。
そして、今回の調査で特に注目すべきなのは、結婚を阻む要因の第1位が「安定した結婚生活を送れる収入への不安」だったことである。
対象の広さ
ここまでは、「35.1%」という数字をそのまま「日本の若者の35%が結婚しない」と読むことはできないことを確認した。重要なのは、この数字を単独で見るのではなく、こども家庭庁の調査、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」など、異なる調査を組み合わせながら、若い世代が結婚をどのように位置づけているのかを立体的に捉えることである。
こども家庭庁の調査は15~39歳という比較的広い年齢層を対象としているため、18~20代前半と30代後半では、就業状況、所得、恋愛経験、家族形成への意識が大きく異なる可能性がある。一方、国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査は18歳以上55歳未満の独身者を対象に、無作為抽出による全国調査を行っており、結婚意思だけでなく、交際状況、結婚相手との出会い、ライフコースなどまで継続的に調べている。
この違いを踏まえると、今回の35.1%は「若者全体の価値観」を表す一つの指標である一方、結婚をめぐる社会構造を分析するには、より長期的な統計との比較が不可欠だ。実際、第16回出生動向基本調査では、18~34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」と答えた割合が男性81.4%、女性84.3%となり、前回調査から低下していることが確認されている。
ここで注意したいのは、調査によって「結婚するつもり」の定義や対象年齢が違うことである。したがって、こども家庭庁の35.1%と出生動向基本調査の数値を単純に足したり引いたりすることはできないが、複数の調査が同じ方向、つまり「結婚を当然の人生コースとみなす層が縮小している」という変化を示していることには注目する必要がある。
結婚を阻む「主たる要因」の多層化
今回の問題をさらに深く理解するには、「なぜ結婚するつもりがないのか」という問いを一つの理由に還元しないことが重要である。こども家庭庁の関連調査では、結婚に関する障壁として「そもそも出会いの場・機会がない」が26.2%、「自由に使えるお金がない」が22.5%、「自由な時間がない」が21.1%、「家族を養えるほど経済力がない」が20.2%、「恋愛の仕方がわからない」が18.2%となっている。
つまり、結婚を阻む要因は大きく分けても、経済的要因、時間的要因、出会いの要因、恋愛能力への不安、自己評価、人間関係、価値観などに広がっている。しかもこれらは互いに独立しているわけではなく、「所得が低い→仕事を優先する→自由時間が減る→出会いが減る→恋愛経験が積めない→結婚相手を見つけにくい」というように、複数の要因が連鎖する構造を持っている。
この点は、従来型の「結婚支援」の発想にとって大きな課題となる。もし問題を単純に「出会いがないこと」と捉えれば婚活イベントやマッチングの機会を増やせばよいことになるが、実際には経済的余裕がない人や仕事で時間がない人、そもそも交際を望まない人まで含まれているため、出会いの場だけを増やしても全体の問題は解決しない。
経済的・雇用不安の常態化
結婚をめぐる問題の中で、特に重視すべきなのが経済的条件である。こども家庭庁の今回の調査では、安定した結婚生活を送れる収入への不安が主要な障壁として挙げられており、結婚や家族形成を「自分が維持できる生活水準」と結びつけて考える若者が少なくないことが示唆される。
これは単に「若者の収入が低い」という一面的な問題ではない。結婚すると住宅費、食費、教育費、保険、将来の貯蓄など、単身時代には発生しなかった、あるいは規模が小さかった支出を長期的に考える必要があるため、将来所得が不安定だと感じる人ほど、結婚そのものをリスクとして認識しやすくなる。
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査でも、結婚の意思がある未婚者に「一年以内に結婚するとしたら障害となるもの」を尋ねた場合、「結婚資金」が男女とも最も多く挙げられてきた。第15回調査では男性43.3%、女性41.9%が結婚資金を障害として挙げており、経済的な障壁は決して最近突然生まれたものではない。
むしろ注目すべきなのは、経済的不安が「結婚費用」という一時的な問題から、「結婚後の生活を維持できるか」という長期的な問題へ広がっていることである。結婚式や新居に必要な資金だけではなく、住宅取得、子育て、教育、介護、老後まで含めたライフコース全体の不確実性が、若い世代の意思決定に影響している可能性が高い。
さらに、雇用の安定性も無視できない。正規・非正規雇用、賃金上昇の弱さ、転職の増加、物価上昇などが重なると、「今の収入」だけでなく「10年後、20年後も現在の生活を維持できるのか」という予測可能性が低下する。結婚とは長期的な共同生活を前提とする制度であるだけに、将来予測が難しい社会ほど結婚への慎重姿勢が強まりやすい。
このため、「結婚しない若者が増えた」という現象を、個人の価値観だけで説明するのは不十分である。結婚したくないという意識と、結婚したくても将来の生活を維持できる自信がないという意識が重なり合っている可能性を考える必要がある。
価値観の多様化と個人の時間(自由・趣味)の重視
しかし、経済だけですべてを説明することもできない。今回の調査では、結婚すると自由な時間がなくなったり、趣味の時間が短くなったりすることへの懸念も大きな要因となっている。これは所得とは異なる、時間資源に対する価値観の変化を示している。
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査でも、未婚者が独身生活の利点として「行動や生き方の自由」を挙げる傾向は長期的に確認されている。また、結婚を考えた場合に気になることとして、「生活リズムや生活スタイルを保てるか」「余暇や遊びの時間を取れるか」「お金を自由に使えるか」などが上位に挙げられている。
ここには、結婚そのものを否定するというより、結婚によって現在の自己決定権を失うことへの警戒が存在する。仕事、趣味、友人関係、旅行、ゲーム、スポーツ、創作活動など、自分の意思で時間やお金を使うことが生活満足度につながっている人にとって、結婚は「幸せになるための制度」であると同時に、「自由を制限する可能性のある制度」にも見える。
この意識は、過去の若者にも存在した。しかし現在は、結婚しないことによる社会的な不利益や周囲からの圧力が相対的に弱まり、一人暮らし、単身消費、オンライン上のコミュニティなど、独身生活を成立させる社会的インフラが拡大しているため、「結婚しなくても生活できる」という選択肢が現実的になっている。
こども家庭庁の調査資料にも、「自由に使えるお金がない」「自由な時間がない」「結婚より優先したいことがある」といった項目が明確に設定されている。これは、結婚をめぐる若者の判断が、単なる恋愛感情だけではなく、限られた所得と時間を何に配分するかという生活設計の問題になっていることを示している。
したがって、「自由を優先する若者」を単純に「自分勝手」と評価することも適切ではない。むしろ、人生の選択肢が増えた社会において、結婚という選択肢が以前ほど自明ではなくなり、他の選択肢と比較されるようになったと理解する方が社会学的には妥当である。
「出会いの欠如」と「パートナーシップへのハードル」
もう一つの重要な要因が、「そもそも相手と出会えない」という問題である。こども家庭庁の調査では、「そもそも出会いの場・機会がない」が26.2%と、結婚をめぐる障壁の中で最も高い割合となっている。
国立社会保障・人口問題研究所の調査も、この問題を裏付ける。第15回出生動向基本調査では、異性の交際相手を持たない未婚者が男性69.8%、女性59.1%に達し、さらに交際相手を持たず、かつ交際を望んでいない人も男性30.2%、女性25.9%存在した。
ここから重要なことが分かる。「相手がいない」ことと「相手を求めていない」ことは別問題であり、前者だけを解決すれば結婚が増えるとは限らない。
さらに、出会いの減少には生活環境そのものが関係している可能性がある。学校を卒業すると職場以外で異性や新しい友人と継続的に知り合う機会が減り、長時間労働や通勤、オンライン化によって偶然の人間関係が形成されにくくなると、「結婚したいかどうか」を考える以前に、「結婚につながる相手との接点そのもの」が減少する。
そして、出会いが減れば交際経験も減り、交際経験が少なければ恋愛やパートナーシップの形成に対する心理的ハードルが上がる可能性がある。こども家庭庁の調査で「恋愛の仕方がわからない」「自分のことを好きになってくれる人がいない」「自分のことを理解してくれる人がいない」といった項目が一定の割合を占めていることは、この問題を単なる「出会いの数」の問題として扱えないことを示している。
つまり現在起きているのは、「結婚したくない人が増えた」という一つの現象ではなく、「結婚したい人でも相手と出会えない」「出会っても交際・結婚まで進みにくい」「結婚そのものを必要と感じない」「結婚したいが経済的に自信がない」という複数の層が同時に拡大・併存している状態と考えられる。
ここまでの分析をまとめると、35.1%という数字の背景には、少なくとも三つの大きな変化がある。第一は、結婚を支える経済的基盤への不安、第二は、仕事・趣味・自由時間を重視する価値観の定着、第三は、出会いと交際そのものの難しさである。
そして、この三つは別々に存在しているわけではない。所得が不安定であれば結婚を先送りし、仕事を優先すれば出会いの時間が減り、出会いがなければ交際経験も蓄積されず、結果として「結婚するつもりはない」という意識に至る可能性がある。
したがって、問題の本質は「若者の結婚観が悪化した」という単純なものではない。結婚という人生選択を実行するために必要な経済・時間・人間関係・心理的条件が、それぞれ別の方向から難しくなっていることが、今回の35.1%という数字の背景にあると考えられる。
心理的影響:未婚30代の「生活満足度の低下」と「孤立感」
ここまで見てきたように、若者の結婚意向を左右する要因は、経済、雇用、自由時間、出会い、恋愛経験など多岐にわたる。問題をさらに難しくしているのは、結婚しないという選択が必ずしも直ちに不幸や孤独を意味するわけではない一方、30代以降になると人間関係の構造そのものが変化し、孤立感や生活満足度に影響する場合があることである。
まず確認すべきなのは、「未婚=孤独」ではないという点である。友人、家族、職場の同僚、地域、オンライン上のコミュニティなど、配偶者以外にも人間関係を形成する経路は数多く存在するため、結婚していなくても豊かな社会関係を持つ人は当然存在する。
しかし一方で、結婚やパートナーシップには、日常生活を継続的に共有する「恒常的な他者」を持つという特徴がある。友人関係は生活段階によって頻度が変化し、職場の人間関係も転職や退職によって変わるのに対し、パートナーは食事、家事、休日、病気、将来設計などを継続的に共有する可能性が高い。
このため、未婚者が30代以降に直面する問題は、単純な「結婚できるか」という問題ではなく、誰と日常生活を共有するのか、困ったとき誰に相談するのか、将来の生活を誰と支えるのかという社会的ネットワークの問題になっていく。
内閣府の孤独・孤立対策に関する調査でも、孤独感は年齢や家族状況、社会とのつながりなど複数の要因によって左右されることが示されている。したがって、未婚者の生活満足度を考える際にも、婚姻状態だけを見るのではなく、友人・家族との交流、相談相手の有無、地域とのつながり、仕事の状況などを含めて考える必要がある。
特に注意すべきなのは、若い時期には独身生活の自由度が大きなメリットとして感じられていても、年齢が上がるにつれて生活上の課題が変化する可能性があることである。20代では「好きなことに時間を使える」ことが満足につながっていても、30代、40代になると、親の高齢化、自身の健康、住宅、仕事、将来の経済、老後など、長期的な生活設計の重要性が増してくる。
つまり、結婚しないこと自体が問題なのではなく、結婚しない人生を選択した場合に、それを支える人間関係や社会制度が十分に存在するのかが重要なのである。この視点を欠くと、「結婚しない若者が増えた」という統計を、個人の幸福度や社会的孤立と短絡的に結びつけることになる。
「結婚したくない」と「結婚したいができない」の境界
今回の35.1%を考える上で、もう一つ重要なのが「結婚したくない」と「結婚したいができない」という二つの集団を区別することである。この二つは外から見るとどちらも未婚という同じ状態だが、その背景は大きく異なる。
「結婚したくない」人の中には、結婚そのものに魅力を感じない人もいる。独身生活の自由を重視する人、仕事や趣味を優先する人、子どもを持たない人生を望む人、過去の人間関係から結婚制度に慎重な人など、理由はさまざまである。
一方、「結婚したいができない」人の場合は、経済力、仕事、出会い、恋愛経験、容姿への自己評価、コミュニケーションへの不安など、外部条件や心理的条件が大きな障壁になる。両者を同じ「結婚しない若者」として扱えば、必要な政策も社会的支援も見誤る。
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査は、この点を考える上で重要な資料である。18~34歳の未婚者の多くはなお「いずれ結婚するつもり」と回答している一方、その割合は長期的には低下しており、結婚意思を持つ層の中でも、交際相手がいない人が相当数存在する。
つまり、日本では「結婚願望が完全に消滅した」という状況ではない。むしろ、結婚を希望する人が一定数存在するにもかかわらず、希望を現実の結婚につなげるための条件が整わないという問題が同時に存在している。
ここには少子化との重要な接点もある。結婚と出生が強く結びついている日本では、結婚する人が減れば、必然的に出生数にも影響が及ぶ。したがって、結婚を希望する人が経済的・社会的条件によって結婚を先送りする状態は、個人の問題にとどまらず、人口構造そのものに影響する。
「出会いの欠如」が生み出す連鎖
「相手がいない」という問題は、一見すると恋愛市場だけの問題に見える。しかし実際には、若者の生活構造そのものが出会いの機会を左右している。
学校を卒業すると、同年代の人と継続的に接触する機会は大きく減少する。職場が異性との主要な出会いの場だった時代と比べ、職場環境の男女分離、リモートワーク、非正規雇用、転職、長時間労働などによって、自然な人間関係を形成する経路が変化している。
さらに、マッチングアプリなどデジタル技術の普及によって出会いの可能性そのものは拡大した。国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査では、夫妻が出会ったきっかけについて、SNSやマッチングアプリなどを含むインターネットを通じた出会いが増加していることが確認されている。
これは重要な変化である。かつての「職場」「学校」「友人・知人の紹介」中心の出会いから、アルゴリズムによって相手を探す仕組みへ移行することで、出会いの量は増えても、恋愛や結婚に至るまでの心理的・社会的ハードルが消えたわけではない。
むしろ、選択肢が増えたことで「より自分に合う相手」を探し続ける傾向が生まれたり、比較対象が増えたりする可能性もある。これは単純な「出会いの不足」とは異なり、出会いの量と質、関係形成の難しさが別々の問題になっていることを意味する。
パートナーシップへのハードル
現代の結婚問題を理解するには、「出会った後」の段階も重要である。出会いがあったとしても、交際、同棲、婚約、結婚という段階を進むには、双方の価値観、収入、住居、仕事、家族関係などを調整する必要がある。
特に若い世代では、男女双方が仕事を持ち、結婚後の家事・育児分担についてもより対等な関係を求める傾向が強まっている。その結果、結婚相手を選ぶ際の条件が複雑化し、「好きだから結婚する」というだけでは生活設計を成立させにくくなっている。
これは悪い変化とは限らない。むしろ、結婚生活における男女平等や個人の尊重が重視されるようになったことは、長期的には望ましい方向とも評価できる。
しかし、求められる調整能力が高くなるほど、恋愛や結婚に対する心理的負担も増える可能性がある。結婚とは恋愛の延長ではなく、二人の生活設計を統合する高度な意思決定になっているのである。
結婚しないことが「普通」になる社会
ここで価値観の変化をもう一度考える必要がある。日本では長い間、「結婚して家庭を持つ」という人生コースが社会的に標準とされてきたが、現在では独身、結婚、子どもを持たない夫婦、事実婚など、さまざまなライフコースが社会的に認識されるようになった。
この変化によって、「結婚しなければ社会から逸脱する」という圧力は弱まった。結果として、結婚を望まない人が無理に結婚する必要性も低下し、個人が自分の人生を主体的に選択できる範囲は広がった。
一方で、この自由には別の問題もある。かつて社会や家族が担っていた「人と人を結びつける仕組み」や「困ったときに支える関係」が弱くなった場合、個人が自分自身で人間関係を構築しなければならなくなる。
その結果、「自由になったが、つながることも自己責任になった」という構造が生まれる可能性がある。これは、現在の若者の結婚問題を考える上で非常に重要な視点である。
政策・社会へのインプリケーション(何が起きているのか)
以上を総合すると、現在日本で起きているのは単純な「若者の結婚離れ」ではない。より正確には、結婚をめぐる社会的な前提が変化し、個人が結婚を選択する際に負担するコストと判断項目が増えた結果、結婚する人としない人の分化が進んでいると考えられる。
その背景には、少なくとも四つの構造変化がある。第一に、経済・雇用の不確実性、第二に、自由時間や自己実現を重視する価値観、第三に、出会いと交際の機会・方法の変化、第四に、家族以外の人間関係を含む社会的つながりの変化である。
これらが相互作用することで、結婚は「年齢が来れば自然にするもの」から、「自分にとって合理的かどうかを判断する選択肢」へと変化している。35.1%という数字は、この社会的転換がかなり進んでいることを示す重要なシグナルといえる。
ただし、ここで政策が「結婚したくない人を結婚させる」方向に進めば、逆効果になる可能性がある。必要なのは、結婚を望む人が望む人生を実現できる環境を整えることと、結婚しない人も孤立せず安定した生活を送れる環境を同時に整備することである。
つまり、少子化対策と結婚支援、孤独・孤立対策、雇用政策、住宅政策、子育て支援を別々の政策として扱うのではなく、「若者がどのような人生を設計できる社会をつくるのか」という一つの問題として統合的に考える必要がある。
政策・社会へのインプリケーション(何が起きているのか)
ここまでの分析を踏まえると、今回の「35.1%」という数字が政策に突きつけている問題は、「どうすれば若者を結婚させられるか」ではない。むしろ問われているのは、若者が結婚するかしないかを含め、自分の望む人生を実現できる社会条件が整っているのかという問題である。
こども家庭庁は、少子化対策を結婚・子育て支援だけに限定せず、若い世代が希望するライフデザインを描ける環境づくりへと政策の対象を広げている。この方向性は重要であり、今回の調査結果も、若者の意識を変えることより、意識の背景にある経済、仕事、出会い、時間、生活環境を把握する必要性を示している。
日本の少子化対策では長年、保育所整備、児童手当、育児休業、出産支援など、結婚・出産後の支援が重視されてきた。しかし、そもそも結婚に至る前の段階で「経済的に家庭を持つ自信がない」「相手と出会えない」「仕事が忙しく時間がない」と感じる人が増えているのであれば、結婚後の支援だけでは人口減少の入り口に十分対応できない。
ここに現在の政策課題がある。「結婚してから支援する」だけではなく、「結婚するかどうかを考える前段階の生活基盤」まで政策対象を広げなければならないのである。
支援のミスマッチ
従来型の結婚支援は、「出会いがあれば結婚する人が増える」という前提を置きやすい。自治体による婚活イベント、結婚相談所への補助、マッチングサービスとの連携などは、実際にパートナーを求めている人にとって有効な手段になり得る。
しかし、今回の調査結果から明らかなように、結婚をためらわせる要因は出会いだけではない。「安定した結婚生活を送れる収入への不安」「自由な時間や趣味時間の減少」「結婚したいと思える人がいない」など、異なる種類の問題が同時に存在している。
このため、「出会いの場を増やす」という政策だけでは、経済的に結婚をためらっている層には届かない。また、結婚より仕事や趣味を優先したい層に婚活を促しても、本人の価値観と政策目的が一致しない。
さらに重要なのは、結婚願望が強い人ほど、必ずしも支援を受けやすいとは限らないことである。仕事が不規則、所得が低い、地方に住んでいる、交友関係が狭い、人付き合いに苦手意識があるなど、支援を必要とする人ほど婚活イベントなどに参加しにくい可能性がある。
つまり、「支援制度を用意する」ことと、「支援を必要としている人に届く」ことは別問題である。政策評価では参加者数やマッチング件数だけでなく、どのような層が参加していないのかまで分析する必要がある。
経済支援だけでも解決できない問題
一方、経済的支援を拡充すれば問題が解決するという考え方にも限界がある。所得が増えれば結婚のハードルの一部は下がるが、それだけで「結婚したいと思える相手」が現れるわけではない。
また、現在の若者にとっては、結婚後の家事・育児負担も重要な判断材料になっている。特に女性にとって、結婚・出産によってキャリアが中断したり、家事・育児負担が偏ったりする可能性が残っているなら、単純な金銭給付だけでは結婚・出産への不安を取り除くことは難しい。
したがって、必要なのは「結婚できる所得」だけではない。結婚しても仕事を続けられる、子どもを持っても生活水準を維持できる、家事や育児を公平に分担できる、住宅を確保できるという将来への予測可能性が重要になる。
これは企業の雇用政策とも直結する。賃上げだけでなく、長時間労働の抑制、柔軟な勤務制度、育児休業の実効性、転職しても生活が不安定になりにくい労働市場などが、間接的に結婚・出生の意思決定に影響する。
つまり、少子化政策は厚生労働政策、住宅政策、教育政策、雇用政策と切り離すことができない。結婚や子育てを望む人が「将来の生活を想像できる」状態をつくることが、政策の重要な目的になる。
総合的なライフデザイン支援の必要性
ここで重要になるのが、「ライフデザイン」という考え方である。ライフデザインとは、結婚を促すことそのものではなく、仕事、所得、住居、人間関係、結婚、子育て、趣味、自己実現などを含め、自分がどのような人生を送りたいのかを考える機会を提供する考え方である。
このアプローチには大きな利点がある。結婚を望む人には結婚・子育てにつながる選択肢を提示し、結婚を望まない人には独身生活を含めた将来設計を考えてもらうことができるからである。
例えば20代の段階で、「結婚したいか」だけを尋ねるのでは不十分である。「どのような仕事をしたいか」「どこに住みたいか」「将来どの程度の所得が必要か」「パートナーとどのような生活をしたいか」「子どもを持つ可能性をどう考えるか」といった複数の要素を一体として考える必要がある。
この視点に立てば、「結婚するつもりはない」という回答も重要な情報になる。それは必ずしも政策の失敗を意味しないが、なぜそう考えるのかを理解することで、若者がどのような社会を求めているのかを把握できる。
一方で、ライフデザイン教育を「早く結婚・出産するように誘導する教育」にしてしまえば、若者からの信頼を失う可能性がある。重要なのは、特定の人生コースを押し付けるのではなく、選択肢を知り、その選択を実現するために必要な条件を理解できるようにすることである。
「結婚支援」から「人生の選択肢を支える政策」へ
今回の調査結果は、政策の言葉そのものを変える必要性も示している。「結婚支援」という言葉だけでは、結婚しない人や結婚を迷っている人を政策対象から外してしまうからである。
むしろ、「若者の生活基盤支援」「ライフデザイン支援」「人とのつながり支援」という広い枠組みの中に、結婚支援を位置づける方が実態に近い。結婚を希望する人には出会いや経済面で支援し、結婚しない人には孤立を防ぎ、住宅や所得、老後などを含めて安定した生活を支える仕組みが必要になる。
この考え方は、少子化対策と個人の幸福を対立させないためにも重要である。政府が出生数を増やすことだけを政策目標にすると、個人の自由な選択との緊張関係が生じるが、「希望する人が希望する人生を実現できる環境」を整えることを目標にすれば、両者をある程度両立できる。
もちろん、こうした政策だけで出生率が急速に回復するとは限らない。出生数は結婚、所得、住宅、雇用、子育て費用、教育費、女性の就業、男性の育児参加など極めて多くの要因によって決まるためである。
しかし、少なくとも政策の方向性としては、「若者の意識を結婚へ変える」より、「結婚したいと思ったときに結婚できる条件を整える」ことの方が合理的である。
今後の展望
今後最も注目すべきなのは、今回の35.1%という数字が一時的な意識変化なのか、それとも長期的な社会構造の変化を反映したものなのかという点である。こども家庭庁が今後公表する詳細分析によって、年齢、性別、所得、就業形態、地域などによる違いが明らかになれば、より精密な議論が可能になる。
特に重要なのは、「結婚するつもりはない」と答えた人の中身を細分化することである。価値観から結婚を選択しない人、経済的理由で結婚を諦めている人、相手が見つからない人、恋愛そのものに関心がない人、仕事や趣味を優先している人では、必要な政策がまったく異なる。
さらに、若者だけを見ていても問題は解決しない。現在の若者が30代、40代、50代へ進んだとき、未婚化の進行が住宅、介護、地域社会、孤独・孤立、老後保障にどのような影響を与えるのかを、長期的に追跡する必要がある。
日本社会は、「結婚して子どもを持つ世帯」を標準とした制度から、単身者、子どものいない夫婦、ひとり親、事実上のパートナーシップなど、多様な世帯を前提とした制度へ移行する必要に迫られている。これは少子化対策だけではなく、社会保障制度そのものの再設計につながる問題である。
今回の「35.1%」が示しているのは、若者が結婚を嫌っているという単純な事実ではない。結婚を選択するための経済的・時間的・心理的・社会的条件が複雑化し、同時に結婚しない人生も現実的な選択肢になったという社会構造の変化である。
したがって、政策の目標も「結婚率を上げる」だけでは不十分である。結婚を望む人が経済的・社会的理由で諦めなくて済む環境を整えながら、結婚しない人も孤立せず、安定した生活を築ける社会をつくるという二重の視点が必要になる。
そして、その中心にあるのが「ライフデザイン」である。結婚、仕事、住居、所得、子育て、人間関係、自由時間という複数の要素を個別政策として処理するのではなく、一人の人間がどのような人生を選択し、その選択を実現できるのかという観点から統合することが求められている。
ここまでの検証を総合すると、こども家庭庁の調査で示された「未婚者の35.1%が結婚するつもりはない」という数字は、日本の若者が一斉に結婚を拒否し始めたことを意味するものではない。むしろそこには、結婚という人生選択をめぐる社会的前提そのものが変化し、経済、雇用、出会い、時間、価値観、心理、社会的つながりが複雑に絡み合う構造変化が存在している。
最も重要なのは、「結婚したくない人」と「結婚したいが実現できない人」を同じ未婚者として扱わないことである。前者には価値観やライフスタイルの多様化という側面があり、後者には所得、雇用、住宅、出会い、恋愛経験、将来不安などの社会的制約が存在するため、両者に同じ政策を適用しても効果は限定的になる。
今回の調査結果を長期的な統計と重ねると、日本では結婚する年齢が上昇し、未婚化・晩婚化が進行してきたことが確認できる。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査でも、若い未婚者の「いずれ結婚するつもり」という割合は長期的に低下しており、結婚が「ほとんどの人が当然に経験する人生段階」から、より個人の選択に委ねられるものへ変化している。
しかし、ここで「昔はみんな結婚したのだから、若者の意識を昔に戻せばよい」と考えるのは適切ではない。かつて結婚率が高かった背景には、職場や地域、親族などによる人間関係のネットワーク、男女の役割分担、雇用慣行、家族規範など、現在とは異なる社会構造が存在していたからである。
現在では、女性の就業率上昇、個人の経済的自立、都市化、デジタル化、価値観の多様化などによって、結婚しなくても一定程度自立して生活できる環境が形成された。これは個人の自由という観点からは重要な社会的進歩だが、同時に、結婚を自然に生み出していた従来型の社会的仕組みが弱くなったことも意味している。
「結婚しない社会」と少子化
日本の少子化を考える場合、結婚と出生の関係を無視することはできない。日本では現在も出生の大部分が婚姻関係の中で生じているため、結婚する人が減少したり、結婚年齢が上昇したりすれば、出生数にも強い影響が及ぶ。
人口減少が進む中で、出生数の減少はすでに極めて大きな規模になっている。厚生労働省の人口動態統計によれば、2024年の日本人の出生数は約68.6万人まで減少し、合計特殊出生率も1.15となった。
ただし、「出生数が減っているから若者に結婚・出産を促す」という一方向の政策だけでは問題の本質を捉えられない。若者が結婚をためらう背景には、子どもを持つことそのものへの否定だけでなく、「結婚後に家庭を維持できるのか」「子育てと仕事を両立できるのか」という将来への不安があるためである。
この意味で少子化は、単なる「出生意欲の問題」ではなく、若い世代が将来の生活をどの程度予測できる社会なのかという問題でもある。所得が増える見通し、安定した雇用、住宅を確保できる可能性、子育てを支える制度、仕事を続けられる環境がなければ、結婚や出産という長期的な意思決定は難しくなる。
「結婚しない自由」と「結婚できない現実」
今回の調査をめぐる議論では、「結婚しないのも個人の自由だ」という意見と、「少子化のために結婚を支援すべきだ」という意見が対立しやすい。しかし、この二つは必ずしも矛盾するものではない。
重要なのは、本人が自由に選択した結果として結婚しないのか、それとも経済的・社会的障壁によって望んでいた結婚を諦めているのかを区別することである。前者の自由は尊重されるべきであり、後者については、社会環境を改善することで「本当は望んでいた選択」を可能にする余地がある。
この区別を政策に組み込むなら、政府が目指すべきなのは「結婚率そのものを人工的に引き上げること」ではない。結婚したい人が結婚を諦めなくても済む社会をつくることであり、同時に、結婚しない人も社会から孤立せず安定して暮らせる制度を構築することである。
これは政策目標を「結婚数」から「選択可能性」へ転換することを意味する。結婚という結果だけを評価するのではなく、その前提となる所得、雇用、住宅、人間関係、時間、子育て環境などを改善することが、結果的に結婚を希望する人の選択肢を広げることになる。
支援のミスマッチをどう修正するか
今後の結婚支援で重要になるのは、支援対象を一括りにしないことである。例えば、「相手と出会えない人」には出会いの機会を提供することが合理的だが、「経済的に結婚できない人」には所得・雇用・住宅支援の方が重要である。
また、「仕事が忙しくて交際する時間がない人」に必要なのは婚活イベントではなく、労働時間の短縮や柔軟な勤務制度かもしれない。「結婚によって自由を失うことが不安な人」に対しては、結婚後も個人の時間やキャリアを尊重できる家庭モデルを社会に広げる必要がある。
さらに、恋愛や人間関係そのものに不安を抱える人に対しては、単純に異性との接触機会を増やすだけでは十分ではない。コミュニケーション、人間関係、自己理解、ライフプランなどを含めた支援が必要になる。
したがって、今後の政策は「婚活支援」だけではなく、生活基盤支援、就労支援、住宅支援、若者の孤立対策、ライフデザイン教育、子育て支援を連続した政策として設計する必要がある。
総合的なライフデザイン支援の必要性
この問題を統合するキーワードが「ライフデザイン」である。若者が「結婚するかどうか」だけを考えるのではなく、仕事、所得、住居、パートナー、子ども、趣味、友人、老後など、自分の人生全体をどのように構築するのかを考えられる環境が必要になる。
ここで重要なのは、ライフデザイン教育を「結婚・出産を促す教育」に変えてしまわないことである。結婚しない人生も含めて複数の選択肢を示し、それぞれにどのような経済的・社会的条件が必要なのかを理解できるようにすることが、本来の意味でのライフデザイン支援となる。
例えば、若い段階で「30代になったときどの程度の所得が必要か」「どこに住みたいか」「結婚した場合に家事・育児をどう分担するか」「独身の場合に老後の人間関係をどう構築するか」といった問題を考えることは、結婚するか否かにかかわらず有益である。
このような支援が普及すれば、「結婚したいけれど何となく不安」という状態から、「自分が何を不安に感じているのか」を具体化できるようになる。政策側にとっても、若者が何を必要としているのかを把握しやすくなり、支援策の精度を高めることができる。
孤独・孤立という第二の問題
結婚しない人が増える社会では、もう一つの課題が浮上する。それが孤独・孤立である。
もちろん、未婚者が孤独になるとは限らない。友人や家族、職場、地域、趣味のコミュニティなどに十分なつながりがあれば、結婚していなくても豊かな生活を送ることができる。
しかし、人生の各段階で人間関係が縮小していく可能性はある。学校を卒業し、転職し、親が高齢化し、友人が結婚や子育てによって生活環境を変えると、単身者が持つ人間関係が次第に細くなる場合がある。
したがって、未婚化への対応を少子化だけに限定してはならない。「結婚しない人が増える社会をどう支えるか」という社会政策上の課題も同時に考える必要がある。
内閣府が進める孤独・孤立対策が示すように、孤独や孤立は個人の性格だけで説明できる問題ではなく、社会との接点、生活環境、経済状況などと関係する。結婚という一つの関係だけに依存せず、多様な人間関係を維持できる社会基盤を整えることが重要になる。
35.1%という数字が本当に示しているもの
ここまでの検証から、今回の「35.1%」は三つの意味を持つと考えられる。
第一に、結婚がもはや若者にとって当然の人生コースではなくなったことを示している。第二に、結婚を希望する人であっても、経済、仕事、出会い、時間など複数の条件によって実現を阻まれている可能性がある。第三に、結婚しない人生が一般化する一方で、それを支える社会制度の整備が追いついていない可能性がある。
つまり、35.1%という数字は「若者の意識が悪化した」という数字ではない。社会の側が、結婚・家族をめぐる大きな変化に直面していることを示す数字なのである。
若者の意識だけを問題視すれば、「なぜ結婚しないのか」という問いになる。しかし社会構造から見れば、「なぜ結婚したい人が結婚できないのか」「なぜ結婚しなくてもよいと考える人が増えたのか」「結婚しない人を社会はどう支えるのか」という三つの問いになる。
この三つを同時に考えることが、現在の日本社会を理解する上で欠かせない。
まとめ
今回のこども家庭庁調査が示した「未婚者の35.1%が結婚するつもりはない」という結果は、単純な「若者の結婚離れ」を意味するものではない。そこには、結婚を人生の必須条件としない価値観の広がりと、結婚したくても経済・雇用・出会い・時間などの制約によって実現しにくい現実が同時に存在している。
特に重要なのは、経済問題と価値観の問題を対立させないことである。若者が自由や趣味を重視するようになったから結婚しなくなったのでも、所得が低いからだけでもない。「経済的に余裕がない」「将来が見えない」「出会いがない」「時間がない」「結婚によって自由を失いたくない」という複数の要因が重なり、結婚の優先順位が相対的に低下していると考える方が実態に近い。
したがって、必要なのは「若者の意識を変える政策」ではなく、「若者が望む人生を実現できる社会」をつくる政策である。結婚を希望する人には経済・雇用・住宅・出会い・子育ての面から障壁を取り除き、結婚を望まない人には孤立せず安定して生活できる環境を提供するという、二方向の政策が求められる。
少子化対策の観点から見ても、この発想は重要である。結婚・出産を直接促すだけではなく、若い世代が「将来、この社会で家庭を持っても生活できる」と感じられるだけの予測可能性を高めることが、結果的に結婚や出生を希望する人の選択を支えることになる。
そして最終的に問われているのは、「若者はなぜ結婚しないのか」ではない。「結婚するかしないかを含め、若者が自分の人生を選択でき、その選択によって過度な経済的不利益や社会的孤立を受けない社会を、日本はつくれるのか」という問題である。
35.1%という数字は、その問いを日本社会に突きつけた重要なシグナルである。結婚を「するのが普通だった時代」から、「するかどうかを一人ひとりが決める時代」へ移行した以上、政策もまた、家族の形を一つに固定する発想から、多様な人生を支える発想へ転換する必要がある。
参考・引用リスト
1.政府・行政機関
- こども家庭庁「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」関連資料・会議資料。若者の結婚観、出会い、ライフデザイン等に関する政策資料。
- こども家庭庁「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」。15~39歳を中心とした若年層の結婚、恋愛、出会い、ライフコース等に関する意識調査。
- 内閣府「孤独・孤立対策」。孤独感・孤立状態の実態把握および孤独・孤立対策に関する政府資料。
- 厚生労働省「人口動態統計」。出生数、婚姻件数、離婚件数、合計特殊出生率等の基礎統計。
2.専門研究機関・学術的資料
- 国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」。未婚者の結婚意思、交際状況、結婚相手との出会い、夫婦の出生行動等を継続的に分析する基幹調査。
- 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」。婚姻、出生、未婚化・晩婚化、人口構造などに関する長期的な統計資料。
- 内閣府「男女共同参画白書」。男女の就業、家族、結婚、育児、生活時間などの社会構造の変化を把握するための基礎資料。
3.主要メディアによる報道
- テレビ朝日「未婚者の35.1%『結婚するつもりはない』――こども家庭庁調査」に関する報道。
- FNNプライムオンライン「結婚に対する若者の意識・結婚の障壁」に関する報道。
- TBS NEWS DIG等によるこども家庭庁の若者の結婚意識調査に関する報道。
