コンテンプト・オブ・コート 1-30
夕方。
トーマスの小売店は営業中だった。
店内には数人の客がいた。
トーマスはレジの奥で商品の整理をしていた。
入口のドアが開いた。
エイダン・フォックスが入ってきた。
後ろには三人の男が続いている。
トーマスはエイダンを見た瞬間、手を止めた。
「……エイダン」
エイダンは店内を見回した。
「少し話そうか」
「今は営業中だ」
「知ってる」
エイダンはレジまで歩いてきた。
部下の一人が入口の近くに立つ。
別の男は店内を見て回った。
客たちは何も言わず、エイダンたちから距離を取った。
トーマスが声を落とす。
「ここではやめてくれ」
「なら、金を返してくれ」
トーマスは黙った。
「返済期限は過ぎている」
「分かってる」
「利息も増えている」
「それも分かってる」
「だったら、いつ返す?」
「もう少し待ってくれ」
エイダンはトーマスを見た。
「いつまで?」
「店の売上が落ちているんだ」
「それはお前の事情だ」
「必ず返す」
「その言葉は何度も聞いた」
エイダンはカウンターの上を指で叩いた。
「金は?」
「今はない」
「銀行から借りることもできない?」
トーマスは答えなかった。
エイダンは店内を見回した。
棚には食品や日用品が並んでいる。
古いレジ。
古い冷蔵設備。
小さな店だった。
「この店、長いんだろ?」
「……ああ」
「売れば少しは作れる」
トーマスが顔を上げた。
「店は売らない」
「そうか」
エイダンは淡々と答えた。
「なら、別の方法を考えろ」
「時間をくれ」
「時間なら与えた」
「もう少しだけだ」
「その間にも利息は増える」
トーマスは拳を握った。
「娘には関係ない」
エイダンがトーマスを見る。
「ローリーのことか?」
「ああ」
「分かってる」
「なら、ローリーには何もするな」
「俺はお前から金を返してもらいたいだけだ」
エイダンはそう言った。
「娘に払わせるつもりはない」
トーマスは少しだけ息を吐いた。
だが、安心はできなかった。
エイダンの部下たちは店内に残っている。
客はいつの間にか全員いなくなっていた。
店内にはトーマスとエイダンたちだけだった。
エイダンは腕時計を見る。
「今日は帰らない」
トーマスが顔を上げる。
「何?」
「金の話をする」
「ここで?」
「他に場所があるか?」
エイダンは近くの椅子を引き、座った。
部下たちも店内に散らばる。
トーマスはレジの前に立ったまま動かなかった。
「いくら必要なんだ?」
「借りた分だけじゃない」
「分かってる」
「じゃあ計算しろ」
トーマスは帳簿を取り出した。
エイダンが手を伸ばす。
「見せろ」
トーマスは一瞬ためらった。
それから帳簿を開いた。
エイダンは数字を見る。
「これじゃ足りないな」
「だから時間が必要なんだ」
「時間をかければ増えるだけだ」
トーマスは何も言えなかった。
そのときだった。
店の入口からドアが開く音がした。
トーマスが振り向く。
「ただいま」
ローリーだった。
トーマスの顔から血の気が引いた。
ローリーは入口に立ったまま、店内を見回した。
エイダンと目が合う。
その後ろには、見知らぬ男たちがいる。
「……何してるの?」
エイダンは椅子に座ったまま、ローリーを見た。
トーマスは何も言えなかった。
ローリーはゆっくり店の中へ入った。
ドアが閉まる。
店内の空気が変わった。
