コンテンプト・オブ・コート 1-31
店内の空気が止まった。
ローリーは入口に立ったまま、エイダンたちを見ていた。
トーマスはレジの奥にいる。
その表情を見て、ローリーは何かがおかしいと気づいた。
「お父さん」
トーマスは答えない。
ローリーはエイダンを見る。
「あなたたち、何してるの?」
エイダンは椅子から立ち上がった。
「お前がローリーか」
「そうよ」
「弁護士だな」
「今は業務停止中よ。それが何?」
「別に」
エイダンはカウンターの上に置かれていた帳簿を閉じた。
「お前の父親と金の話をしている」
ローリーがトーマスを見る。
「金?」
「……ローリー」
「何の話?」
トーマスは答えなかった。
ローリーはエイダンに向き直った。
「父に何をしたの?」
「何もしてない」
「じゃあ、どうしてこんな人数で店にいるの?」
「借金があるからだ」
ローリーの表情が変わった。
「借金?」
トーマスが口を開く。
「ローリー、これは俺の問題だ」
「黙ってて」
トーマスが止まる。
ローリーはエイダンを見る。
「いくら?」
「本人に聞け」
「本人が話さないから聞いてるの」
エイダンはポケットから一枚の書類を取り出した。
折り畳まれていた紙を開く。
「これだ」
ローリーが受け取る。
借用書だった。
ローリーは書面に目を落とした。
金額。
返済期限。
利息。
そして、トーマスの署名。
ローリーの目が止まる。
「……これ」
「読めるか?」
「読めるわよ」
ローリーは数字を追った。
「お父さん」
トーマスは顔を上げない。
「これ、本当に署名したの?」
「……ああ」
「どうして?」
「店を続けるために必要だった」
「銀行じゃなくて、こんなところから借りたの?」
「仕方なかった」
ローリーは借用書を握った。
「仕方なかった?」
「店を潰したくなかった」
「だから黙ってたの?」
トーマスは答えなかった。
ローリーは再び借用書を見る。
「この利息……」
エイダンが言った。
「契約したんだ。文句はないだろ」
「文句?」
ローリーが顔を上げる。
「この条件で?」
「嫌なら借りなければよかった」
「父は知らなかったんでしょう。これがどれだけ異常な条件なのか」
「署名はしてる」
「そういう問題じゃない」
ローリーは一歩近づいた。
エイダンは動かない。
「あなたは何者?」
「貸した側だ」
「個人でこんな金を?」
「そうだ」
「登録は?」
エイダンは笑った。
「いきなり弁護士らしくなったな」
「質問に答えて」
「今日は借金を返してもらいに来ただけだ」
ローリーは借用書をエイダンに返した。
「父は返せないわ」
「それは聞いた」
「店を売らせるつもり?」
「俺は方法を指定してない」
「じゃあ何をするの?」
「返してもらう」
エイダンは借用書を折り畳んだ。
「それだけだ」
ローリーはトーマスを振り返る。
「どうして私に言わなかったの?」
「お前に迷惑をかけたくなかった」
「もう迷惑かかってる」
「ローリー」
「私はあなたの娘よ」
トーマスは何も言えなかった。
エイダンが部下に目を向ける。
「行くぞ」
男たちが動き始めた。
ローリーがエイダンを呼び止める。
「待って」
エイダンが振り返る。
「何だ?」
「この借用書、私が調べるから」
「好きにしろ」
「違法な部分があったら、ただじゃ済まないわよ」
エイダンはローリーを見た。
「今のお前は弁護士じゃない」
ローリーの目が鋭くなる。
「それでも法律は知ってる」
「そうか」
エイダンは店の入口へ向かった。
部下たちが続く。
ドアの前でエイダンが立ち止まった。
トーマスを見る。
「早く返せよ」
トーマスは何も答えなかった。
エイダンたちは店を出ていった。
ドアが閉まる。
ローリーはしばらく入口を見ていた。
そして、父親を見る。
「お父さん」
「……何だ」
「どうして、あんな連中から金を借りたの?」
トーマスは答えられなかった。
ローリーはテーブルの上を見る。
そこには、エイダンが残していった借金の記録があった。
ローリーはそれを手に取った。
「私が何とかする」
トーマスが顔を上げる。
「ローリー」
「このままにはしない」
ローリーは書類を握った。
「相手が誰なのか、調べる」
そう言って、ローリーは店の奥へ歩いていった。
