◎中国共産党は事件をもみ消しましたか?
2008年8月11日/中国、北京2008五輪 女子テニスの予選、彭帥(ポン・シュアイ)選手(Toby Melville/ロイター通信)

中国のテニススターで夏季五輪に3度出場した彭帥(ポン・シュアイ)選手は11月2日、共産党の政治局常任委員会のメンバー兼元副首相である張高麗(ちょうこうれい)氏に7年前に性的暴行を受け、3年前にはテニスの試合後にセックスを強要されたと告白し、行方不明になった。

女子テニス協会主催のWTAツアーで24勝を挙げている彭帥 選手の告発と失踪は深刻懸念を引き起こし、米国を含む一部の国は北京2022冬季五輪に政府関係者を派遣しない外交ボイコットを表明している。

彭帥失踪事件のタイムラインは以下の通り。

11月2日:「真実を話します...」

彭帥 選手は中国版ツイッターWeiboの公式アカウントに張高麗 氏から性的暴行を受けたという声明を投稿した。

この投稿はすぐに削除されたが、声明のスクリーンショットは広く共有され物議を醸した。

彭帥 選手は声明の中で、「私の手元に証拠はないが、真実を伝えたい」と述べた。

彭帥 選手の声明は共産党の検閲に引っ掛かり削除されたと信じられている。彭帥 選手に関連する情報はスクリーンショットも含全て削除された。

11月6日:大坂 なおみ選手が懸念を表明

日本の大坂 なおみ選手がツイッターに「彭帥はどこ」というハッシュタグとコメントを投稿した。

大坂選手は声明の中で、「仲間のテニス選手が性的虐待を受けたと告発した直後に行方不明になったと聞き、職を受けた」と述べた。「彭帥と彼女の家族が無事であることを祈っています...」

この投稿は広く共有され、90,000以上のいいねを獲得した。

11月17日:中国の国営メディアが声明を発表

中国の国営メディアは懸念の高まりを受け、彭帥 選手のものとされる声明を発表した。

国営のGGTNヨーロッパは彭帥 選手がWTAのスティーブ・サイモンCEOに送信したとされる声明を公開し世界に落ち着くよう促したが、この声明は火に油を注いだ。

彭帥 選手は声明の中で、「こんにちは、私は彭帥です」と挨拶し、性的暴行を告発した投稿は誤りであると主張した。「私は自宅で休んでいるだけです。すべて順調です」

WTAのサイモンCEOは主要メディアの取材に対し、「私たちの手元に届いた声明を彭帥が書いたとは到底思えない」と述べ、当局の影響を受けない独立した検証が必要であると強調した。

米国のセリーナ・ウィリアムズ選手も投稿に懸念を表明し、「彭帥 選手が保護されることを望んでいる」とツイートした。

11月18日:中国外務省が失踪事件に言及

中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)報道官は彭帥 選手の失踪事件に関する質問を受け、「外交問題ではないので知らない」と答えた。

11月19日:国連が懸念を表明

国連人権高等弁務官事務所のリズ・スロッセル報道官が声明を発表した。

スロッセル報道官は彭帥 選手の告発と失踪に懸念を表明し、「性的暴行の申し立てを独立機関で検証する必要がある」と述べた。「彭帥 選手はどこにいますか?彼女の健康状態は?拘束されていませんか?私たちは彼女の無事をまず最初に確認したいと思っています」

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は定例会見で、彭帥 選手の所在と告発に関する検証可能な証拠を提出するよう中国に求めた。

11月21日:IOCのトーマス・バッハ会長が写真を公開

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が彭帥 選手とオンラインで対話したことを明らかにし、写真を公開した。

対話の音声データは公開されていない。

北京2022冬季五輪を主催するバッハ会長は声明の中で、「彭帥はうまくやっており、元気だ」と述べた。「彼女は家族や友人と一緒に過ごすことを望んでいます。彼女はこれからも大好きなテニスに関わり続けるでしょう」

IOCによると、対話は約30分行われ、IOCアスリート委員会の委員長の中国のIOC委員も参加したという。

バッハ会長は、来年1月に北京で予定されている夕食会に彭帥 選手を招待し、快諾を得たと述べた。

2021年11月21日/IOCのトーマス・バッハ会長は中国の彭帥(ポン・シュアイ)選手はオンラインで約30分話した(Getty Images/AFP通信/IOC/Greg Martin)

12月1日:WTAが中国大会の中止を発表

WTAのサイモンCEOは公式ウェブサイトの中で、2022年のWTA中国大会をすべて中止すると発表した。これには香港の大会も含まれる。

サイモンCEOは声明の中で、「WTAは検閲なしの完全に透明な調査と彭帥 選手の安全が保証されることを望んでいる」と以前の声明を繰り返した。「女性の権利を尊重せず、性的暴行の申し立てを一掃する中国でトーナメントを開催することはできません...」

WTAはIOC、男子プロテニス協会(ATP)、NBA、PGAツアーなど、中国で数千万から数億ドルの収益を上げている国際的なスポーツ団体に先駆け、人権を尊重しない共産党に立ち向かうと宣言した。

しかし、北京冬季五輪を主催するIOC、2022年のツアー開始を控えているATP、PGAツアーなどは国際社会の「中国から撤退すべき」という圧力に抵抗している。

中国の規制当局はWTAの決定に「憤慨と確固たる反対」を表明した。

12月2日::IOCが彭帥 選手と2回目のオンライン対話を行った発表

1回目のオンライン対話で批判を浴びたIOCは、12月1日に彭帥 選手と2回目のオンライン対話を行ったと発表した。

IOCは声明の中で、「彼女は3度五輪に出場したスターであり、IOCは中国のスポーツ組織と協力して問題に取り組んでいます」と強調した。

IOCの声明は「静かな外交」と批判され、IOCの最古参であるディック・パウンド委員はCNNニュースに、「バッハは中国のスポークスマンになった可能性がある」と懸念を表明した。

IOCによると、彭帥 選手は「元気であるように見えた」という。

音声データは公開されていない。

12月19日:彭帥 選手が謎めいた動画でスキャンダルを否定

1か月半沈黙を守ってきた彭帥 選手がシンガポールの報道機関の取材に応じ、謎めいた声明を発表した。

聯合早報(れんごうそうほう)によると、彭帥 選手は上海で開催されたクロスカントリースキーの展示会に出席した際、質問に答えたという。

聯合早報は共産党にやさしいことで知られるシンガポール最大の新聞社で、中国本土でも比較的自由に取材を行うことができる。

聯合早報が公開したクリップによると、彭帥 選手はいつでも好きなところに行き、好きなように行動できるという。

彭帥 選手は動画の中で、11月2日に投稿した声明は誤りであることを強調した。「まず第一に、私は報じられている問題に関する声明を発表していません。私は何も言っていません...」

彭帥 選手は記者からWeiboの声明について尋ねられ、「プライバシーの問題であり、多くの誤解を招いたが、言うことは特にない」と語った。

また彭帥 選手は、GGTNヨーロッパが11月17日に公表した声明について、「私がサイモンCEOに送信したメールの翻訳はイマイチだったが、内容はおおむね正しかった」と述べた。

WTAは聯合早報が公開したクリップについて、「懸念は払しょくされていない」と強調した。「彭帥 選手の無事を確認できたことをうれしく思います。しかし、これまで述べてきた通り、放送された映像が検閲されていないという保証はありません...」

海外の主要メディアも彭帥 選手の発言に否定的な反応を示した。

ソーシャルメディアには、「共産党は彭帥の家族を人質に取っている」「彭帥は確実に銃口を押し付けられている」などといった投稿が相次いで寄せられた。

<北京2022冬季五輪 外交ボイコットを表明した国>
・米国
・オーストラリア
・イギリス
・カナダ
・日本(JOC・JPC委員を派遣)

2022年2月7日:再びスキャンダルを否定

彭帥 選手は2月7日に公開されたフランスの新聞社の取材に対し、「一連の国際的な懸念は巨大な誤解に基づくものだ」と述べ、中国高官から性的暴行を受けたという昨年の告発を再び否定した。

レキップ(L'Équipe)のインタビューは中国当局の管理下で行われ、中国共産党とトラブルになったかなど、主要な質問は却下された。

レキップ(L'Équipe)によると、インタビューは中国の五輪委員会を通じて企画され、彭帥 選手は約1時間質問に応じたという。

一方、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は7日の声明で、彭帥 選手と5日に夕食を共にしたと発表した。

IOCによると、彭帥 選手はIOC委員のカースティ・コベントリー氏(ジンバブエ)とともに、中国対ノルウェーのカーリング競技のイベントに出席したという。

レキップ(L'Équipe)によると、質問は事前に中国の五輪委に通知したものに限定され、五輪委の職員がインタビューに同席し、彭帥 選手は質問にすべて中国語で答えたという。

彭帥 選手は性的暴行を受けたという11月の告発文書について、「私は誰かに性的暴行を受けたとは一言も言っていない」と述べた。「以前の投稿は大きな誤解を招く結果となりました。私の願いは、この問題がこれ以上歪曲されないことです...」

2009年10月6日/中国、北京で行われたWTAトーナメント、彭帥(ポン・シュアイ)選手(NgHan Guan/AP通信)
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