タイ航空会社の客室乗務員が麻薬の運び屋に、密売組織がSNSで勧誘
問題が注目されるきっかけとなったのは、タイ国際航空の客室乗務員がオーストラリアで麻薬密輸の罪に問われた事件である。
.jpg)
東南アジアの麻薬組織が交流サイト(SNS)を利用してタイの航空会社の客室乗務員や海外渡航者を運び屋として勧誘する手口を拡大させていることが明らかになった。航空会社の職員が海外で麻薬密輸容疑により摘発される事件が相次ぎ、タイ政府は空港の保安体制を強化するとともに、航空各社と連携して乗務員への教育を強化する方針を打ち出している。
問題が注目されるきっかけとなったのは、タイ国際航空の客室乗務員がオーストラリアで麻薬密輸の罪に問われた事件である。この乗務員は複数のトートバッグの裏地に隠された1キログラムを超えるヘロインをオーストラリアへ持ち込んだとして現地当局に拘束された。末端価格は約50万豪ドル(約5600万円)に上り、航空会社の現役乗務員が麻薬密輸事件に関与したことはタイ国内に大きな衝撃を与えた。
さらにロイター通信の取材では、6月18日早朝、バンコクを拠点とする格安航空会社の30歳の客室乗務員のTikTokアカウントに見知らぬ相手から「オーストラリアへ飛ぶ予定はあるか」「荷物を運ぶ仕事はするか」「報酬はいくら欲しいか」といった内容のメッセージが届いていたことが判明した。
この乗務員は不審に思い返信しなかったが、数日後にタイ国際航空の乗務員逮捕のニュースを知り、自分への接触も同じ密輸組織による勧誘だった可能性を認識したという。航空業界では以前から他人の荷物を報酬目的で運ぶ「キャリー・フォー・ハイヤー」を禁止する教育が徹底されており、この乗務員も「知らない相手には絶対に返事をしない」と話している。
タイ警察によると、密輸組織は「Powder is Powder(粉は粉)」という偽アカウントを作成し、TikTokやFacebookなど複数のSNSを利用して運び屋を募集していた。警察は問題のアカウントを特定し、現在は閉鎖されていると報告しているが、捜査の結果、同じ組織が名称を変えながら複数のアカウントを運用していたことが明らかになり、実態解明を進めている。
当局によると、密輸組織はミャンマーなど近隣国で生産されたヘロインをタイへ持ち込み、衣類やコーヒーの袋、花瓶、土産物、冬物衣料など日用品に巧妙に隠したうえで海外へ送り出している。
近年は航空会社の乗務員だけでなく、海外旅行者や頻繁に出張する人々も標的となり、SNS上で「荷物を海外へ届けるだけで報酬が得られる」といった投稿を通じて接触する手口が一般化しているという。今回逮捕された客室乗務員も、海外へ荷物を運ぶ仲介グループに自ら投稿し、その後「Rose Rose」と名乗る人物から連絡を受け、8800バーツ(約4万円)の報酬で荷物を運ぶ契約を結んだとされる。
事件を受け、タイ政府は今年上半期だけでタイから渡航した少なくとも6人が海外で商業目的の麻薬密輸容疑で摘発されていると指摘し、「国の信用を傷つける深刻な問題だ」と危機感を示した。政府は主要空港で乗客だけでなく航空機の乗務員に対する手荷物検査を強化するほか、航空会社にも他人の荷物を預かる行為に対する厳格な懲戒措置を求める方針を示した。タイ国際航空も声明で、従業員の行動規範を厳格に適用するとともに、捜査当局へ全面的に協力すると表明している。
タイ当局はオーストラリアおよび台湾の捜査機関と連携し、6月30日から7月1日にかけてバンコクから発送される予定だった5件の密輸計画を摘発した。押収されたヘロインは24.38キログラムに達し、伝統工芸品や絹製品、コーヒー、冬物衣料などに隠されていた。さらに国境地域からバンコクへ麻薬を発送していた疑いでタイ国籍の男とラオス人の女が逮捕されるなど、組織の物流網の解明も進んでいる。ミャンマーではアヘン用ケシの栽培が急増し、内戦や経済悪化を背景に違法薬物の供給が拡大しているとされる。SNSを利用した運び屋の勧誘は、こうした国際的な麻薬密輸ネットワークの新たな手段として、各国当局にとって警戒すべき課題となっている。
