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ベトナムの「中国化」進む、権力集中型モデル採用で


ベトナムは高成長を維持しつつ、統治体制の再編という重要な転換期にある。
2026年1月23日/ベトナム、首都ハノイ、トー・ラム党書記長(AP通信)

ベトナムが中国型の統治モデルへの転換を進めている。特に警察権力の拡大と政治権力の集中が顕著となっており、同国の統治体制は従来の集団指導体制から大きく転換しつつある。

背景にあるのは、2026年に国家主席に就任したトー・ラム(To Lam)党書記長の存在である。公安相出身の同氏は共産党書記長と国家主席を兼任し、権力を一手に集約した。この体制は中国の習近平(Xi Jinping)国家主席が採用する権力集中型モデルに近く、これまで重視されてきたベトナムの集団指導原則からの逸脱とみられている。

実際、国内政策でも中国的手法の導入が進む。政府はAI(人工知能)を活用した監視システムやデータ統制の強化を推進し、情報管理の中央集権化が進展している。通信分野では中国企業が5Gインフラやデータセンター整備に関与し、技術面でも中国への依存が深まりつつある。

さらに注目されるのが警察権限の拡大である。公安機関は従来の治安維持にとどまらず、立法や大型プロジェクトの承認、さらには企業活動にも影響力を及ぼすようになった。こうした動きは国家の統制力を高める一方で、権力の集中と監視社会化への懸念を強めている。

経済面でも中国型の国家主導モデルへの接近が指摘される。政府はインフラ投資や補助金を軸に成長を促進し、中国との協力を通じた産業発展を重視している。実際、中国はベトナムにとって最大の貿易相手国であり、両国のサプライチェーンは深く結びついている。

外交面では、ベトナムは従来、米国など西側諸国との関係も重視する「竹の外交」と呼ばれるバランス戦略を取ってきた。しかし近年は対中接近が目立ち、南シナ海問題などの対立を抱えながらも、政治・安全保障分野での協力が強化されている。

こうした変化の象徴がトー・ラム氏の中国訪問である。国家主席就任後初の外遊先として中国を選び、首脳会談を通じて安全保障や経済協力の深化を図る姿勢を示した。これは両国関係が新たな段階に入ったことを内外に印象づけるものとなった。

もっとも、この路線にはリスクも指摘される。国家統制の強化は政策決定の迅速化につながる一方、政治的自由の制約や対外関係の偏重を招く可能性がある。特に米国との関係悪化や対中依存の深化は経済や安全保障の面で新たな不確実性を生むとの見方もある。

ベトナムは高成長を維持しつつ、統治体制の再編という重要な転換期にある。中国モデルへの転換は効率性と安定をもたらす可能性がある一方で、政治体制のあり方や国家の自律性をめぐる課題も浮き彫りにしている。今後、同国がどのように大国間のバランスを取りつつ独自の発展路線を維持できるかが注目される。

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