マスクをつけなさい

マスクはコロナ時代を象徴する防護具である。マスクは目に見えないウイルスから着用者を守り、また、自分が持っている何らかの病気の放出を抑え、家族や友人、第三者を守ってくれるだろう。

ロックダウンの緩和もしくは解除を進める”ことができた”国は、感染予防対策などの措置を徹底し、パンデミックを抑えた。そして、対策の中で活躍した防護具がマスクである。

一部の国を除き、公の場でマスクを着用する人は他社から視線を集める傾向にあった。欧米では「マスク=医療関係者、病人」というイメージが定着しており、医師や看護師以外の人がマスクをつけて街中を歩くと、「あの人は病人だ」と思われ、怪訝な顔をされたものである。

しかし、世界保健機関(WHO)がマスクの効果を認め、各国政府もコロナ時代を生き抜くためには顔の一部を覆う防護具が必要不可欠であると判断し、感染予防対策のガイドラインに加えた。さらに、着用を義務化し、違反者には罰金を科す国まで出てきた。

この動きは欧州から世界に広まった。アメリカでは州によって多少異なるものの、マスク着用義務化だけでなく、市民に無償配布する地域もある。彼らはなぜマスクの着用目覚めたのか。

アジア地域の感染状況は、欧米やアフリカに比べると明らかに緩やかである。震源地の中国の累計感染者数は90,000人弱。日本は約19,000人、韓国は約13,000人。欧米諸国より感染者数が少ないのは誰の目にも明らかである。

【各国の10万人あたり感染者数】

 人口密度
(㎢あたり)
コロナウイルス感染率
(10万人あたり)
感染者
(人)
死亡者
(人)
アメリカ33.42,720,000130,000829
イギリス274.8313,00044,000470
ドイツ232.3196,0009,060236
フランス104.1166,00029,900248
イタリア200.3241,00034,800399
カナダ3.8104,0008,620277
日本334.718,80098015
中国145.185,250-6
ロシア8.5654,0009,540453
インド411.6585,00017,40043
ブラジル24.61,450,00060,640692
ペルー24.9288,0009,860900
サウジアラビア15.7194,0001,700576
南アフリカ47.4159,0002,750275
韓国515.412,85028225
オーストラリア3.27,92010432
ニュージーランド18.21,5302231

中国、日本、韓国の10万人あたり感染者数は欧米諸国に比べかなり低い。アジア地域の感染率が低いことは世界から認識されており、専門家による原因調査(人種、予防摂取の有無、食生活など)が進められている。

中国、日本、韓国人はマスク着用に抵抗を感じていない(と思う)。インフルエンザの流行期になると、街はマスク着用者で溢れかえる。また、花粉症やハウスダストに悩まされている人は、年中マスクを手放せない。

中国は大気汚染の影響で外出時のマスク着用はコロナウイルス発生以前から国民の常識になっていた。

アントワープ熱帯医学研究所、性感染症部長のクリス・ケニヨン氏はBBCの取材に対し、「重要なポイントは、コロナウイルスの感染拡大を比較的抑えた国がマスクを公の場で使用していたこと。アジアの国々がこれに該当する。ヨーロッパの専門家たち(チェコ共和国を除く)はアジアで何が機能し、感染を抑え込んでいるのか理解していなかった」と述べた。

マスクが感染予防に役立つ理由を理解するためには、ウイルスの特性を知ることが重要である。

ウイルスは保菌者の肺、口、のど、鼻などに付着し、1回咳をすると大気中に大量拡散される。エアゾールと呼ばれる「唾のシャワー」が、友人や家族の顔面に降り注ぐ様子をイメージしてほしい。

1回の咳で放出される唾の滴(しずく)は最大3,000滴と言われている。また、会話をするだけでも唾は放出されるため、至近距離で友人と向かい合って会話をすれば、お互いの顔面にエアゾールを”ぶっかけ合っている”ことになるのだ。

さらに、エアゾールは長時間空中を浮遊する。保菌者の唾が蝶のように空をフワフワと舞うのである。それを吸い込めば当然ウイルスに感染、新規感染者の出来上がりだ。

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唾のシャワー

モンタナ州ハルミトンの米国国立アレルギー感染症研究所のチームが行った研究によると、サーズウイルス(Sars-CoV-2)はエアゾールとして大気中に拡散されてから3時間生存することが分かっている。

さらに同チームが現在行っている研究(未発表)によると、エアゾールは16時間以上感染能力を保持し続ける可能性があるという。

香港大学の疫学および生物統計学の責任者を務めるベン・カウリング教授はBBCの取材に対し、「私たちは、標準的な外科用マスクを着用することで、軽度のコロナウイルス、インフルエンザ、風邪の原因となるライノウイルスなど、様々な呼吸器系ウイルスから身を守ることができる」と述べた。

さらにカウリング教授は、「ロックダウンを解除するためには、感染者と濃厚接触した者の追跡やPCR検査体制を整えることが重要である。さらに、ウイルスを拡散させないマスクの着用が大きな効果を発揮するだろう」と付け加えた。

現在、一部地域でマスクの品薄状態が続いている。また、発展途上国ではマスク自体が流通しておらず、国民は手作りもしくは顔を覆うスカーフなどで対応せざるを得ない。

マスクが不足することで最も困るのは医療関係者である。病院内で勤務する際のマスク着用は必須。診断時にマスクを着用していなければ、まず間違いなくウイルスに感染するだろう。医師や看護師は最後の砦である。彼らがウイルスに感染し、倒れるようなことになれば、医療システムは崩壊する。

WHOは医療関係者のマスクを100%確保すべく、一般の人々にマスクを着用(購入)せず、社会的距離のルールを遵守し感染予防対策に努めてほしい、と呼び掛けていた。

マスクのウイルス防御能力は製品によって大きく異なる。最高レベルは医療関係者向けのN95サージカルマスク、以下その他のサージカルマスクや標準的な使い捨てタイプなどが続く。

N95は慢性的な品薄状態にあり、各国政府は医療関係者分の確保に奔走している。できれば私たちもN95を着用したいが、まずは医療関係者を優先すべきである。買い占め行為は厳禁だ。

既に述べた通り、標準的な使い捨てタイプや手作り布マスクの防御能力はN95に劣る。しかし、ひと工夫加えることで、それに匹敵する効果を得られることが分かっており、「もうダメだ」とあきらめる必要はない。

手作り布マスクの内ポケットにエアコンフィルターもしくは掃除機用フィルターを挿入すると、N95と同じ防御性能を手に入れることが分かっている。また、ハンカチやタオルを入れるだけでも性能を向上させることが研究で証明されているという。

夏のマスク着用はムレるし、不快極まりない。しかし、それを使わずコロナウイルスに感染すれば目も当てられない。自分が保菌者になれば、家族や友人、同僚を危険にさらすだろう。公共交通機関や人の集まる屋内施設に足を運ぶ際は、必ずマスクを着用しよう。

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