パキスタンの工場労働者、猛暑で健康被害、安全対策を約束した世界的ブランドに批判
世界的ブランドは生産を委託する工場の労働環境についても責任を負うべきだと、労働問題の専門家や人権団体は指摘する。
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パキスタン南部カラチの工場で、衣料品などを生産する労働者が猛暑にさらされ、健康被害が相次いでいる。気候変動による高温の危険性が増す中、国際的な衣料品ブランドはサプライチェーン(供給網)で働く人々の安全を守ると約束してきた。しかし、現場では十分な冷却設備や休憩、水分補給などの対策が取られておらず、企業の公約が実行されていない実態が明らかになっている。
AP通信の取材に応じた28歳の女性は、スペインのブランド、ザラやマンゴー向けの衣料品を縫製する工場で働いている。高温の機械が並ぶ室内は蒸し暑く、換気も不十分だった。作業中に視界がぼやけ、胸が痛くなるなど、体調が悪化したため、上司に助けを求めたが、仕事を続けるよう指示された。その後、意識を失って倒れたという。雇用主から病院代の支払いを拒まれ、月収1万5000パキスタン・ルピー(約8500円)から医療費を負担した結果、6人の子どもに食事を十分に与えられなくなったと話した。
APがカラチの工場労働者10数人に聞き取りを行ったところ、全員が職場の耐え難い暑さや、熱中症対策の欠如、健康への悪影響を訴えた。身元を明かせば雇用主から報復される恐れがあるとして、匿名を条件に証言している。複数の労働者は自らも仕事中に失神した経験があり、同僚が倒れる場面も目撃したという。暑さによる体調不良で欠勤した労働者のうち、1人を除く全員が賃金を減らされたと回答した。有給を使えると答えたのも1人だけだった。
工場の環境も問題を深刻化させている。金属製の屋根は日差しで熱せられ、室内の温度を押し上げる。扇風機は小型だったり故障していたりするほか、窓が狭く、盗難防止のために閉められている場合もある。労働者らによると、職場に温度や湿度を測定するセンサーはなく、冷たい飲料水や休憩も十分ではない。換気設備があると答えた労働者も、監査担当者が工場を訪問する際にしか稼働しないと証言した。
専門家は、こうした被害を防ぐための対策は技術的にも経済的にも実施可能だと指摘する。職場の温度・湿度を測定し、冷たい飲料水や休憩時間を確保するほか、機械からの放射熱を遮断し、換気・冷却設備を整備することが有効だ。屋根を白く塗り、太陽光の吸収を抑える方法もある。暑熱環境で長時間働くと、脱水症状や熱中症、臓器障害などの危険が高まる。気候変動に伴い、パキスタンでは極端な熱波の頻度や強度が増しているとの研究結果もある。
企業も対策を表明している。ザラの親会社インディテックスはAPの取材に対し、工場監査の見直しや取引先への指導・研修、業界団体との協力を通じて、供給網での暑熱対策を強化していると説明した。マンゴーも労働者の健康と安全を最優先事項とし、今年、取引先向け行動規範に高温や暑熱ストレスへの対応を明記したと述べた。
繊維・衣料産業の労働安全に関する国際協定も、2025年に暑熱を職場の安全上のリスクとして扱い、対策指針を策定する方針を発表した。ただし、具体的な手順はなお検討中で、実施には至っていない。パキスタンには労働者を保護する法律があるものの、現場での執行が不十分だとの指摘が出ている。政府関係者も、規制の実施が課題であることを認めた。
世界的ブランドは生産を委託する工場の労働環境についても責任を負うべきだと、労働問題の専門家や人権団体は指摘する。気温の上昇が続けば、労働者の健康だけでなく、貧困や食料不足にも影響が及ぶ恐れがある。企業の安全方針を実効性のある対策に結びつけ、行政による監督と供給網全体の責任を強化できるかが問われている。
