2026異常気象:豪雨・干ばつ・山火事に圧倒される人類、打つ手なし状態
2026年の異常気象を総合すると、現在起きていることは単純な「異常気象の増加」ではない。
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現状(2026年8月時点)
2026年8月時点の地球では、異常気象が単発の災害として発生するのではなく、熱波、干ばつ、豪雨、洪水、山火事、海洋熱波などが地域を変えながら連続的に発生する状況が目立っている。世界気象機関(WMO)は2026年夏について、強いエルニーニョが発達しつつあり、世界の広い範囲で平年を上回る気温が見込まれる一方、地域によって降水量が大きく偏り、干ばつと豪雨の双方のリスクが高まっていると評価している。
ここで重要なのは、「異常気象が増えた」という単純な理解だけでは2026年の状況を説明できないことである。問題の本質は、気温上昇によって大気と海洋が保持するエネルギーが増加し、その結果として水蒸気、降水、土壌水分、河川流量、森林の乾燥、海面水温などの相互関係が変化し、複数の災害が同時あるいは連鎖的に発生しやすくなっている点にある。
2026年夏の欧州はその典型例となっている。欧州では熱波と少雨が重なり、乾燥した植生が山火事の燃料となる一方、別の地域では大気中に蓄積した水蒸気が集中豪雨を引き起こすという、相反する現象が同じ季節の中で発生している。
さらに海洋の異常も無視できない。国連機関による8月の報告では、2026年1月から6月までの期間に世界の海洋のおよそ82%が何らかの海洋熱波の状態にあり、2024年に次ぐ広い範囲で海水温の異常が確認されていたとされる。つまり現在の異常気象は、大気だけが暴れている現象ではなく、海洋を含む地球全体のエネルギー収支が大きく変化した結果として捉える必要がある。
この状況を「人類が自然災害に圧倒されている」と表現することには一定の妥当性がある。ただし、「打つ手なし」という表現を文字通りに解釈するのは正確ではなく、実際には早期警戒システム、避難計画、森林管理、耐候性インフラ、節水、農業技術、気候予測など、多数の対策がすでに存在している。
問題は、それらの対策が無意味になったことではなく、災害の規模、頻度、同時発生性が高まることで、従来の防災・適応能力そのものが限界に近づいていることである。たとえば消防能力を増強しても、山火事が複数地域で同時発生すれば部隊や航空機を相互に融通する余裕がなくなるし、ダムや堤防を強化しても、想定を超える降雨が発生すれば設計上の安全余裕が急速に縮小する。
したがって2026年の気候危機を理解する際には、「災害そのものが強くなっている」という視点と同時に、「社会が災害に対応するための余力が削られている」という視点が不可欠になる。これは気候変動を自然科学だけでなく、経済、エネルギー、食料、医療、都市計画、安全保障を含む社会システム全体の問題として考える必要があることを意味する。
2026年に起きている複合的気候危機
2026年の特徴を最も端的に表す言葉は「複合化」である。たとえば高温が発生すると土壌や植物からの蒸発散が増加し、降水が不足している地域では土壌水分が急速に失われるため、農作物の生育条件が悪化する。
土壌が乾燥すると植物の水分量も減少し、森林や草原では可燃性の高い乾燥した植物質が増える。その状態で強風が吹けば小規模な火災が短時間で大規模な山火事へ発展する可能性が高くなるため、熱波、干ばつ、山火事は別々の災害ではなく、一つの気候システムの中で連結した現象として理解する必要がある。
逆に、気温が高い大気はより多くの水蒸気を保持できる。そのため大量の水蒸気が特定地域に運ばれて上昇すると、短時間に極端な降水が集中する可能性が高まり、結果として「雨が降らない地域」と「雨が降りすぎる地域」が同時に存在することになる。
この点が、従来の「異常気象=雨が多い、あるいは少ない」という単純な分類を難しくしている。地球温暖化は地球全体を一様に乾燥させる現象でも、一様に湿潤化させる現象でもなく、水がどこに、いつ、どの程度存在するかという分布そのものを変化させるからである。
中南米でもこの構造は明確に表れている。WMOの地域評価では、ラテンアメリカ・カリブ海地域において記録的な高温、干ばつ、洪水、氷河後退、海面上昇などが重なり、農業・食料システムや水資源に大きな圧力を与えているとされている。
さらに2026年にはコロンビアだけでも、6月中旬から8月上旬にかけて438件の山火事が記録され、およそ7,153ヘクタールの植生が影響を受けたと報告されている。これは単なる「森林火災の増加」という問題ではなく、乾燥、熱、植生、土地利用、人間活動、消防能力が相互作用する複合リスクとして捉えるべき事象である。
こうした現象が危険なのは、一つの災害が終わった後に次の災害が発生するためである。干ばつによって農業生産が落ちれば食料価格や家畜飼料の問題が発生し、そこへ山火事が重なれば農地や森林だけでなく道路、送電線、住宅、観光資源まで損傷し、さらに復旧に必要な資金と人員が不足する可能性がある。
つまり気候危機は「災害の足し算」ではなく、「災害同士が互いの被害を増幅する掛け算」に近づいている。この構造こそが、2026年の異常気象を従来の自然災害対策だけでは処理しにくいものにしている。
そして、この複合化をさらに不確実なものにする要因が、2026年後半から2027年にかけて強まると予測されているエルニーニョである。WMOは7月末時点で、2026年8~10月に強いエルニーニョが発達し、主要な監視海域の海面水温偏差が季節平均で約2.9℃に達する可能性を示しており、11月ごろに強度がピークに近づくシナリオを示している。
欧州・中南米の記録的干ばつと山火事
欧州では2026年夏、熱波、干ばつ、山火事が相互に結び付いた状態が顕著になっている。EUの研究機関などによれば、長期的な少雨と反復する高温によって土壌と植生の乾燥が進み、河川流量の低下と森林火災リスクの上昇が同時に進行している。
特に南欧では高温そのものよりも、夜間も気温が十分に下がらないことや、熱波が連続することが問題となる。植物や土壌が夜間に回復する時間を失えば乾燥状態が長期化し、翌日の高温によってさらに水分が失われるという悪循環が形成されるからである。
2026年の欧州では山火事の規模も深刻で、8月時点ですでにEU域内の焼失面積が60万ヘクタールを超え、観測史上でも極めて厳しい火災シーズンとなっているとの報道が出ている。研究では、温暖化が進むほど高温・乾燥・強風が組み合わさった火災気象が増加し、消防能力だけでは気候要因によるリスク上昇を完全には相殺できない可能性が指摘されている。
中南米では事情がさらに複雑である。アマゾンを含む南米では、過去数年に極端な干ばつと高温が発生し、研究では2023~2024年の干ばつが火災活動や生態系、社会経済活動に大きな影響を与え、2024年のブラジル・アマゾンの焼失面積は2023年から85%増加したと報告されている。
ここで注意すべきなのは、すべての山火事を気候変動だけで説明することはできないという点である。森林伐採、農地開発、火入れ、放火、土地管理など人間活動も重要な要因であり、気候変動はそれらの火災が「発生しやすく、拡大しやすい環境」を形成する方向に働く。
つまり2026年の山火事問題は、「気候変動が火をつけた」という単純な構図ではない。人間による土地利用と温暖化による乾燥・高温が重なり、そこへ強風や降水不足などの気象条件が加わることで、従来なら局地的だった火災が大規模災害へ発展しやすくなっているのである。
この状況に追い打ちをかける可能性があるのが、2026年後半に強まるエルニーニョである。エルニーニョは地域によって豪雨をもたらす一方、別の地域では降水量を減少させるため、「世界全体が同じ方向に悪化する」のではなく、地域ごとに異なる災害を発生させる可能性がある。
したがって2026年後半から2027年にかけて警戒すべきなのは、単純な「異常気象の継続」ではない。すでに高温と乾燥によって疲弊している地域に新たな気候変動要因が加わり、干ばつ、豪雨、洪水、山火事、農業被害、水不足などのリスクが地域ごとに再配分されることで、世界全体の対応負担がさらに増大する可能性である。
「スーパーエルニーニョ」の到来予測
2026年の気候危機を論じる際、「スーパーエルニーニョ」という言葉は非常に注目されている。ただし、この言葉は科学的な正式分類として一律に定義されたものではないため、使用には注意が必要である。
WMOは7月末時点で、2026年8~10月に強いエルニーニョが続き、さらに強まる可能性を示している。NOAAなどの予測もエルニーニョが2026年秋から冬にかけて強まる可能性を示しており、報道では「非常に強い」「歴史的規模」「スーパーエルニーニョの可能性」といった表現が使われている。
しかし、現段階で重要なのは名称の強烈さではなく、その気候的意味である。エルニーニョが強まれば、熱帯太平洋の海面水温異常を通じて大気循環が変化し、世界各地の降水パターンや気温、熱波、干ばつ、豪雨などに影響を及ぼす可能性がある。
しかも2026年は、すでに世界の海洋が異常な高温状態にあり、地球温暖化による長期的な温度上昇が存在している。したがって、強いエルニーニョが単独で異常気象を作り出すというより、温暖化した地球という「高い土台」の上にエルニーニョという大規模な自然変動が重なることが重要になる。
この組み合わせが何を意味するのかについては、まだ不確実性が残っている。エルニーニョの影響は地域によって異なり、同じ現象がある地域では干ばつを、別の地域では豪雨をもたらすため、「エルニーニョ=世界的な災害」という単純な因果関係を設定することはできない。
それでも警戒すべき理由は明確である。すでに高温、干ばつ、山火事、洪水などによって社会システムの余力が低下しているところへ、さらに大規模な気候変動要因が加われば、災害への対応能力が局所的に限界を超える可能性があるからである。
2026年の問題は、一つひとつの異常気象を予測できるかどうかだけではない。むしろ重要なのは、異なる地域で異なる災害が同時発生したとき、人類がそれらを同時に処理できるだけの食料、水、電力、医療、消防、物流、財政、行政能力を持っているかという問題である。
ここに「人類は異常気象に圧倒されている」という感覚の正体がある。自然現象が完全に制御不能になったわけではないが、災害の発生速度と複雑性が、人間社会の対応速度を上回る場面が増え始めているのである。
2026年8月時点の状況を総合すると、世界は「異常気象が増えた」という段階から、「複数の気候リスクが相互作用する段階」へ移行しつつあると評価できる。欧州の熱波・干ばつ・山火事、中南米の高温・干ばつ・火災、世界的な海洋高温、そして強まりつつあるエルニーニョは、それぞれ別の現象でありながら、温暖化した地球システムの中で互いに影響し合っている。
このため「打つ手なし」という表現は、対策そのものが存在しないという意味ではなく、従来の対策能力だけでは複合災害の増加に対応しきれなくなりつつあるという意味で捉える必要がある。次回以降は、この問題をさらに掘り下げ、なぜ災害が「同時多発・連鎖」するのか、そしてなぜ「水」の循環そのものが気候危機の核心になっているのかを検証する。
なぜ「圧倒され、打つ手なし」と感じられるのか(構造的背景)
2026年の異常気象を理解するうえで重要なのは、個々の災害の規模だけではない。むしろ問題を深刻にしているのは、熱波、干ばつ、山火事、豪雨、洪水などが時間的・空間的に重なり、一つの災害への対応中に別の災害が発生することで、社会が持つ「対応余力」が急速に消耗していくことである。
世界気象機関(WMO)は2026年7月から8月にかけて、記録的な陸域・海洋高温、熱波、干ばつ、山火事、豪雨・洪水が世界各地で発生していると報告している。WMOはこうした状況を、社会と経済に連鎖的な影響を及ぼす高インパクト気象・気候現象として捉え、予測と早期警戒の重要性を改めて強調している。
ここで「打つ手なし」という印象が生まれる。実際には、衛星観測、気象予報、早期警戒、避難、治水、森林管理、灌漑、節水、耐熱住宅など、人類は過去に比べてはるかに多くの対策手段を持っている。
しかし、それらは無限の能力を持つわけではない。消防隊、救急隊、病院、電力網、ダム、河川施設、食料備蓄、行政予算、保険制度、物流網などには、それぞれ処理できる量の上限があり、同時に複数の危機が発生すれば、その上限を超える可能性が高くなる。
つまり「打つ手なし」とは、「何もできない」という意味ではなく、「従来の対策を投入しても、災害の増加速度と規模に対して社会の対応能力が追いつかない」という意味で理解する必要がある。2026年の気候危機は、このキャパシティ・オーバーが現実の問題になりつつあることを示している。
① 災害の「同時多発・連鎖(システミック・リスク)」
気候災害の最大の特徴は、被害が独立して発生するとは限らないことである。たとえば熱波によって電力需要が急増すれば発電設備や送電網に負荷がかかり、同時に河川水位が低下すれば水力発電の能力が落ち、さらに冷却水を必要とする発電施設では運転条件が厳しくなる可能性がある。
農業でも同じ構造が現れる。高温と干ばつによって収穫量が減少すれば食料価格が上昇し、農家の収入が減少し、飼料不足が畜産業に波及するなど、一つの気象現象が複数の経済部門へ連鎖していく。
2026年8月の欧州は、その構造を象徴している。EU共同研究センター(JRC)によれば、7月末時点でEUと英国の約50%が何らかの干ばつ状態にあり、9%が「警戒」レベルに達していた。
この干ばつは単なる農業問題ではない。ロワール、ポー、ライン、ドナウなど主要河川の水位が極端に低下し、農業、水道、河川輸送、エネルギー、観光、生態系など複数分野が同時に圧迫されている。
特にライン川やドナウ川のような国際河川では、水位低下が物流能力の低下につながる。河川輸送が制限されれば燃料や原材料の輸送コストが上昇し、それが産業や消費者価格へ波及するため、気候災害が経済問題へ変換される。
さらに干ばつが進めば森林や草原が乾燥し、山火事のリスクが上昇する。2026年のEUでは8月25日時点で約62万7611ヘクタールが焼失しており、前年の記録的な火災シーズンには及ばないものの、2006~2025年の長期平均を大きく上回っている。
そして山火事が発生すれば、今度は消防・医療・警察・自治体の人的資源が投入される。災害対応に人員が集中すると、別地域で発生した洪水や熱波などへの対応余力が低下するという「対応能力の奪い合い」が発生する。
この構造をシステミック・リスクとして考える必要がある。システミック・リスクとは、一つの部門で発生した問題が他の部門へ伝播し、最終的には社会システム全体の機能を損なう可能性を指す。
気候変動が危険なのは、まさにこの伝播経路を増やすからである。農業、水、エネルギー、交通、医療、金融、保険、行政は相互依存しており、一つが機能不全になると別の分野にも負荷が移る。
そのため、災害対策を「堤防を高くする」「消防車を増やす」「ダムを造る」といった個別対策だけで考えると、全体像を見失うことになる。必要なのは、ある地域で災害が発生した場合に、その影響がどの経路を通って社会全体へ伝わるのかを把握することである。
② 「水」の循環メカニズムの狂い
気候危機を理解するうえで、実は最も重要なキーワードの一つが「水」である。気候変動によって大気が暖まると、空気が保持できる水蒸気量が増えるため、降水の形態と分布が変化しやすくなる。
これは「温暖化すると雨が増える」という単純な話ではない。水が大気中に長く保持される地域では降水が不足しやすくなる一方、いったん大量の水蒸気が降水へ転換されると、短時間に極端な雨が降る可能性が高まる。
その結果、「長期間雨が降らない」という干ばつと、「短時間に猛烈な雨が降る」という豪雨が同じ気候システムの中で共存する。これが現在の異常気象を理解するうえで極めて重要なポイントである。
欧州の2026年の干ばつは、この水循環の変化を社会面から見ることができる事例である。JRCによれば、春以降の少雨と繰り返す熱波によって干ばつが悪化し、主要河川の低水位、農作物への水ストレス、山火事の燃料となる乾燥植生が同時に形成された。
しかも水不足は、単純に「雨が降れば解決する」問題ではない。土壌が極端に乾燥している場合、降雨があっても土壌水分の回復や地下水の涵養には時間がかかり、短時間の豪雨ではむしろ洪水や土砂災害を発生させる可能性がある。
つまり、同じ降水量でも「いつ降るか」「どの程度の強度で降るか」「土壌がどの程度水を保持できる状態か」によって結果は大きく異なる。気候変動は、この時間的・空間的な水の配分を不安定化させている。
農業への影響は特に大きい。JRCの8月24日発表の農業評価では、西欧・中欧の持続的な高温と水不足によって夏作物の生育が大幅に悪化し、トウモロコシなどを含む夏作物のEU平均収量予測が5年平均を最大14%下回るとされた。
ここで問題になるのが、「水不足→農業減産→食料価格上昇→所得低下→灌漑投資不足」という負の循環である。気候変動が長期化すれば、農業部門は毎年のように異常気象への対応を迫られ、将来のための投資に回す資金そのものが削られる可能性がある。
さらに水はエネルギーとも結び付いている。河川水位が低下すれば水力発電に影響し、発電所の冷却に必要な水の確保が難しくなれば電力供給にも制約が生じるため、水危機はエネルギー危機へ転化する可能性がある。
このように考えると、気候変動の本質は「温度が上がること」だけではない。温度上昇によって地球上の水の移動速度、存在場所、降水の強度、土壌水分、河川流量、地下水への涵養などが変化し、社会が依存する水資源の安定性そのものが揺らいでいるのである。
③ 予防・適応策の限界(キャパシティ・オーバー)
人類は気候変動に対して何もしていないわけではない。むしろ気象衛星、数値予報、早期警戒システム、洪水ハザードマップ、森林火災監視、耐熱インフラ、灌漑技術など、過去数十年で防災能力は大きく向上している。
WMOも2026年の異常気象を受け、早期警戒と気象・気候情報サービスを活用することで、人命や生活、生計への被害を抑える必要性を強調している。つまり、予防・適応策は実際に機能しており、「完全に無力」という評価は科学的には正しくない。
しかし、適応策には必ず限界がある。堤防には設計上の上限があり、ダムには貯水容量の上限があり、消防には同時に対応できる火災件数の上限があり、病院には受け入れ可能な患者数の上限がある。
この「上限」が、災害の複合化によって問題になる。ある地域で山火事が発生している最中に、別の地域で洪水が起き、さらに第三の地域で熱波による救急搬送が急増すれば、国家レベルで見ても消防、救急、航空機、医療スタッフ、財政資源をすべて同時に投入することはできない。
さらに適応には費用がかかる。農業用水を確保するには灌漑施設が必要であり、都市の洪水対策には排水能力の増強が必要であり、住宅の断熱や冷房設備の普及にも費用が必要となる。
経済力のある国や地域はこうした投資を進められるが、財政余力の小さい国では同じ水準の対策を取ることが難しい。結果として、気候災害の増加は単なる自然環境の問題ではなく、国家間・地域間の格差を拡大させる要因にもなる。
そして適応策そのものが、新たな制約を生み出す場合もある。たとえば干ばつ対策として地下水や河川水の利用を増やせば短期的には農業を維持できるが、長期的には地下水位の低下や河川生態系への負荷を強める可能性がある。
このため「もっと堤防を高くすればよい」「もっとダムを造ればよい」「もっと水をくみ上げればよい」という発想には限界がある。気候変動が一定範囲を超えると、従来の防御型適応だけではなく、土地利用の変更、農業作物の転換、都市構造の再設計、エネルギーシステムの転換など、社会そのものの変更が必要になる。
ここにキャパシティ・オーバーの本質がある。問題は人類が対策を知らないことではなく、必要な対策の規模が大きくなり、その費用、時間、人員、土地、水、政治的合意を同時に確保することが難しくなっていることである。
2026年の気候危機が「圧倒的」に見える最大の理由は、災害が個別に襲ってくるのではなく、相互に結び付いて社会の対応能力そのものを消耗させる点にある。熱波は干ばつを強め、干ばつは山火事を増やし、水不足は農業とエネルギーを圧迫し、そこへ豪雨や洪水が加われば、行政やインフラの処理能力が同時に試される。
したがって、「打つ手なし」という状況を正確に表現するなら、「対策が存在しない」のではなく、「気候リスクの増大と複合化に対して、既存の社会システムの対応能力が追いつかなくなる局面が増えている」ということになる。次回は、この問題がなぜ簡単には改善しないのかをさらに掘り下げ、「改善が見込めぬ」とされる根本的な理由、構造的ジレンマ、地球システムの不可逆的な慣性へと論点を進める。
「改善が見込めぬ」とされる根本的な理由
2026年の異常気象を前にして、「この状況はいつ改善するのか」という疑問が生まれる。しかし、ここでいう「改善」には、異常気象そのものが収まることと、人間社会が被害を抑えられるようになることの二つがあり、この二つを分けて考えなければならない。
人類は防災・減災能力を高めることはできるが、すでに大気や海洋に蓄積された熱を短期間で取り除くことはできない。温室効果ガス排出を削減しても、翌年から地球の気温が元に戻るわけではなく、気候システムには長い時間スケールの応答が残る。
IPCCが繰り返し示してきたように、温暖化が進むほど極端な高温、極端な降水、農業・水資源へのストレスなど、多くの気候リスクは増加する。したがって「排出削減を始めれば異常気象がすぐ減る」という期待は現実的ではなく、排出削減と適応を同時に進める必要がある。
さらに2026年は、単純な気温上昇だけで説明できない。強いエルニーニョのような自然変動が温暖化した気候背景に重なることで、地域によって極端な高温、干ばつ、豪雨などが増幅される可能性がある。
このため、短期的には「今年の災害が終われば元に戻る」という考え方が成立しにくい。ある災害が終わっても、海洋に蓄積された熱、土壌水分の不足、森林の乾燥、河川や地下水の回復遅れなどが次の季節へ持ち越される場合がある。
ここに「改善が見込めない」という感覚の第一の根拠がある。気候システムは人間社会の政治日程や年度予算とは異なる時間軸で動いており、社会が数年単位で成果を求めても、自然システムの変化は数十年から数百年単位で残る場合がある。
構造的ジレンマ
気候変動対策には、極めて大きな構造的ジレンマが存在する。一方では温室効果ガスを急速に削減する必要があり、他方では現在の経済活動がエネルギー、交通、産業、農業、建設などを通じて大量の化石燃料に依存している。
エネルギー転換を急げば、再生可能エネルギー、送電網、蓄電池、原子力、水素などへの巨額投資が必要になる。逆に移行を遅らせれば、短期的には既存産業への負担を抑えられるものの、温暖化リスクをさらに高め、将来必要となる適応コストを増加させる。
このジレンマは国家間でも存在する。先進国は歴史的に大量の温室効果ガスを排出して経済成長を実現してきた一方、気候変動による被害を受けやすい途上国では、排出量が比較的小さいにもかかわらず、干ばつ、洪水、熱波、海面上昇などの影響を強く受ける場合がある。
そのため国際交渉では、「誰がどれだけ排出を削減するのか」だけでなく、「誰が適応費用を負担するのか」「災害によって発生した損失を誰が支援するのか」という問題が常に付きまとう。科学的には必要な対策が分かっていても、経済的負担を誰が引き受けるかについて合意することは容易ではない。
さらに国内政治にもトレードオフがある。化石燃料への依存を急激に減らせばエネルギー価格や雇用、地域産業に影響する可能性があり、逆に価格上昇を抑えることを優先すれば脱炭素投資の速度が落ちる可能性がある。
気候政策は、環境政策だけでは完結しない。電力料金、ガソリン価格、住宅費、食料価格、雇用、産業競争力、国家安全保障などと直接結び付いているため、政府にとっては「正しい対策を知っているか」以上に、「社会がそのコストを負担できるか」が重要な問題になる。
こうした政治・経済的な摩擦が、対策の速度を鈍らせる。気候変動は長期的な問題であるのに対し、政治は選挙、予算、物価、景気といった短期的な課題への対応を迫られるからである。
地球システムの「不可逆的な慣性」
気候変動が難しい最大の理由の一つは、地球システムに強い「慣性」が存在することである。大気だけでなく海洋、氷床、森林、土壌、生態系などが巨大な熱・炭素・水の貯蔵庫として機能しているため、人間が排出量を変えても地球全体が瞬時に反応するわけではない。
特に海洋の影響は大きい。海水は大気よりはるかに大きな熱容量を持つため、地球温暖化によって増えた余剰熱の大部分を吸収してきた。
その結果、表面気温だけを見れば一時的に変化が小さく見える場合でも、海洋には大量の熱が蓄積されている。海洋熱波が長期化すれば海洋生態系、漁業、沿岸地域、台風などの大気現象にも影響し得るため、気候変動の影響は陸上だけで完結しない。
氷床や氷河にも時間的な遅れが存在する。一度大規模な融解が進めば、温度が一定になったとしても海面上昇が長期にわたって続く可能性があるため、現在の排出量だけではなく、過去の排出によってすでに形成された気候状態も考慮しなければならない。
ただし、「不可逆的」という言葉は慎重に使う必要がある。すべての気候変化が永遠に元へ戻らないという意味ではなく、特定の変化には数十年、数百年、場合によってはそれ以上の時間が必要になるという意味で理解するのが科学的に適切である。
この時間差が政策上の難しさを生む。人間社会にとって「10年後」は長い期間だが、地球システムにとっては比較的短い。逆に、人類が今後数十年で行う排出削減の結果が、気候システム全体に明確に現れるまでには時間がかかる。
つまり、現在の政策の成果を「来年の異常気象が減ったか」で評価することはできない。排出削減は将来の温暖化を抑える効果を持ち、適応策は現在発生している被害を減らすという、それぞれ異なる時間軸を持っているからである。
このため気候政策では、「緩和」と「適応」を対立させること自体が誤りになる。緩和だけでは現在の災害に間に合わず、適応だけでは温暖化の進行そのものを止められないため、両方を同時に進める必要がある。
経済・政治のトレードオフ
気候危機への対応を難しくしているもう一つの要因が、対策そのものが経済活動に負担を与える可能性である。防潮堤、治水施設、送電網、森林管理、灌漑設備、冷却施設などを整備するには莫大な資金が必要となる。
しかも気候変動によって災害が増えれば、既存インフラの維持・復旧費用も増加する。新しい防災投資を行う一方で、過去の災害によって損傷した道路、橋、住宅、農地、発電施設を復旧しなければならず、政府や自治体の財政余力が削られていく。
これは「適応のための投資が、適応能力そのものを圧迫する」という矛盾を生む。毎年のように災害復旧へ巨額の資金を投入すれば、将来の予防投資に回せる資金が減少する可能性がある。
農業も同じである。干ばつに対応するために灌漑設備を増強すれば農業生産を維持できるが、水資源そのものが不足すれば設備を増やしても解決できない。さらに地下水を過剰に利用すれば、将来の水資源を先食いすることになる。
エネルギー分野では、異常高温によって冷房需要が増える一方、脱炭素を進めるためには化石燃料発電への依存を減らさなければならない。再生可能エネルギーの導入を進めても、送電網や蓄電設備が十分でなければ、需要が急増した時間帯に安定供給を確保するという別の課題が生まれる。
このようなトレードオフは、政策決定を複雑にする。気候対策には「すぐに利益が出る政策」だけではなく、「将来の被害を減らすために現在コストを負担する政策」が多いため、短期的な経済合理性と長期的な気候安全保障が衝突する場合がある。
さらに災害リスクが高まれば、保険市場にも影響する。山火事、洪水、暴風雨などによる損害が増えれば保険料が上昇し、場合によっては保険会社が高リスク地域から撤退する可能性もある。
保険が成立しにくくなれば、住宅や企業の資産価値、金融機関の融資判断、自治体の財政などにも影響が波及する。つまり異常気象は、最終的には金融システムにも入り込む可能性がある。
ここまで来ると、気候変動は「環境問題」という枠を明確に超える。水、食料、エネルギー、インフラ、金融、雇用、移住、国家財政が相互に結び付くため、気候リスクは社会全体の安定性を左右するシステムリスクになる。
暴走する気候
では、現在の状況を「気候が暴走している」と表現してよいのだろうか。科学的には、地球の気候が制御不能になったと断定するのは適切ではないが、人間社会の経験してきた気候の範囲から急速に外れつつあるという意味では、その表現が使われる理由は理解できる。
特に危険なのは、極端な現象の「基準値」が変化することである。かつては数十年に一度と考えられていた高温や豪雨が、温暖化によって発生頻度を増す可能性があり、過去の統計だけを前提にした防災設計では対応しにくくなる。
これは「過去が未来の設計図にならない」という問題である。堤防、排水設備、農業用水、都市計画、森林管理などは過去の気候統計を基準に設計されてきたが、その前提となる気候そのものが変化すれば、過去の安全基準の意味も変わる。
したがって2026年の異常気象を単なる一過性の「異常」と見るのは危険である。むしろ現在起きている現象の一部は、温暖化によって変化した気候状態の中で発生する「新しい平常」の一部になっている可能性がある。
もっとも、未来が完全に決まっているわけではない。温室効果ガス排出量を大幅に削減すれば、温暖化の進行速度を抑え、将来の極端現象の増加を抑制できる可能性は残されている。
問題は、その効果が現れるまでの時間である。今後数年間については、排出削減を急いだとしても、すでに進行している気候変化への適応が必要になる。
したがって人類が直面しているのは、「気候変動を止めるか、何もしないか」という二択ではない。「どこまで温暖化を抑え、同時にどこまで変化した気候へ社会を適応させるか」という二重の課題である。
「改善が見込めぬ」という状況の根本には、対策不足だけではなく、気候システムと社会システムの時間軸が一致していないという問題がある。人類は排出削減や適応によって将来のリスクを低減できるが、すでに蓄積された熱や変化した海洋・陸域システムは短期間では元に戻らない。
さらに、気候対策には巨額の投資、政治的合意、社会的負担が必要であり、災害が増えるほど復旧費用も増加するというジレンマが存在する。
今後の展望
2026年8月時点で最も現実的な見通しは、「異常気象が近い将来に終息する」というものではなく、気候リスクが高い状態を前提として社会が対応能力を高めていくという方向である。世界気象機関(WMO)は2026年7月について、世界の陸・海面温度が記録的水準にあり、北半球の広い地域で熱波、干ばつ、山火事が発生する一方、別の地域では豪雨と洪水が発生したと報告している。
さらに2026年後半には強いエルニーニョが発達すると予測されている。WMOは8~10月に強いエルニーニョが発達し、海面水温偏差が約2.9℃に達する可能性を示しており、NOAAも8月13日時点で2026年秋・冬に「非常に強い」エルニーニョとなる確率を90%超としている。
したがって、2026年後半から2027年にかけては、地域によって干ばつと豪雨の双方が強まる可能性を考慮する必要がある。ただしエルニーニョの影響は地域差が大きく、「エルニーニョだから世界中で異常気象が悪化する」と単純化することはできない。
むしろ重要なのは、すでに温暖化によって高温化した地球に、強い自然変動が重なることである。WMOも、エルニーニョ単独ではなく、非常に暖かい世界の海洋や正のインド洋ダイポールなど、複数の気候要因が組み合わさることで地域的な干ばつ、洪水、山火事などへの影響が増幅され得ると指摘している。
この状況では、従来型の「災害が起きてから復旧する」という政策から、「複数の災害が同時に起きることを前提として事前に余力を確保する」政策へ転換する必要がある。消防、医療、電力、水道、物流、通信、食料供給などについて、平時から一定の余剰能力を持たせることが重要になる。
特に重要なのが早期警戒システムである。数日から数週間前に熱波、豪雨、洪水、山火事リスクを把握できれば、避難、農業用水の調整、電力需要への備え、消防隊の事前配置などが可能になる。
WMOが2026年8月にも強調しているように、気候変動によって災害を完全に防ぐことができなくても、予測と早期警戒によって人命・生活・経済への被害を減らす余地は残されている。したがって「打つ手なし」という結論よりも、「従来より早く、広く、複合的に備える必要がある」という結論の方が科学的には適切である。
一方で、適応能力には明確な格差が存在する。UNEPの2025年適応ギャップ報告によれば、途上国が2035年に必要とする適応資金は年間3,100億~3,650億ドルと推計される一方、2023年の国際公的適応資金は260億ドルにとどまり、必要額との間に大きな隔たりがある。
この資金格差は、気候危機が単なる「自然災害の問題」ではないことを示している。災害に強い道路、水道、住宅、病院、農業、電力網を整備するには継続的な投資が必要であり、財政余力の小さい国ほど、その投資を行うこと自体が難しくなる。
したがって今後の気候対策は、「温室効果ガスを減らすこと」と「変化した気候に適応すること」の二本柱だけでは足りない。そこに「社会の余力を維持すること」を加える必要がある。
これは、病院の病床数、消防隊員、送電能力、貯水容量、食料備蓄、物流網、行政職員、災害復旧予算などを、平時の需要だけではなく、複数災害が同時に起きた場合の需要から逆算するという考え方である。
気候変動が進むほど、「効率性」だけを追求した社会は脆弱になる可能性がある。余剰電力、複数の物流ルート、分散型発電、地域備蓄、複数水源など、一見すると非効率に見える冗長性が、巨大災害の際には社会を支える安全装置になる。
まとめ
2026年の異常気象を総合すると、現在起きていることは単純な「異常気象の増加」ではない。高温、干ばつ、山火事、豪雨、洪水、海洋高温などが異なる地域で同時に発生し、それぞれが水、食料、エネルギー、交通、医療、金融などを通じて社会へ連鎖する構造が強まっている。
欧州では2026年8月時点で干ばつが広範囲に及び、熱波と少雨によって河川水位が低下している。EUのJRCによれば、8月25日時点のEU域内の山火事による焼失面積は約62万7,611ヘクタールで、2025年の同時期より少ないものの、2006~2025年の長期平均約28万45ヘクタールを大きく上回っている。
欧州の事例が示すのは、干ばつが農業だけの問題ではないということである。河川水位が下がれば農業、水道、河川輸送、発電、生態系、観光など複数の分野が同時に影響を受け、さらに乾燥した植生が山火事のリスクを高めるという連鎖が発生する。
中南米でも、2026年初頭から高温、干ばつ、強風などが山火事を深刻化させた地域が存在する。WMOは2026年初頭の南米について、チリで大規模な山火事が発生し、南部アルゼンチンでも高温、長期的な干ばつ、強風が重なって火災を拡大させたと報告している。
このような現象を「人類が自然に負けている」とだけ捉えるのも正確ではない。衛星観測、数値予報、早期警戒、災害避難、森林火災監視などによって、人類は過去には存在しなかった高度な対応能力を獲得している。
問題は、自然現象への対応能力が向上する一方で、対応すべきリスクそのものも拡大していることである。つまり「防災能力がゼロ」なのではなく、「防災能力の向上速度よりも、複合的な気候リスクの増加速度が速くなれば、社会の余力が失われる」ということである。
ここに「打つ手なし」という感覚の正体がある。実際には打つ手は存在するが、それを十分な規模で、十分な速度で、世界中のすべての地域に展開することが難しいのである。
さらに「改善見込めぬ」という表現についても、完全な悲観論として理解すべきではない。気候変動の進行には慣性があるため、現在から排出削減を進めても短期間で地球全体が元の状態へ戻ることはないが、排出削減の速度によって将来の温暖化水準は大きく変わり得る。
つまり未来は「何をしても同じ」ではない。今後どこまで温室効果ガス排出を削減できるか、どこまで適応能力を高められるか、そして複合災害に耐えられる社会システムを構築できるかによって、将来の被害規模には大きな差が生じる。
したがって、2026年の気候危機から導かれる最も重要な結論は、「自然を完全に制御する必要がある」ということではない。むしろ、制御できない自然変動と温暖化を前提に、社会の脆弱性を減らし、災害が連鎖しても機能を失わない仕組みを構築することが必要だということである。
気候危機は、単に「暑くなる」という問題ではない。それは水循環の変化であり、食料安全保障の問題であり、エネルギー安全保障の問題であり、都市インフラの問題であり、財政の問題であり、最終的には社会そのものの持続可能性を問う問題なのである。
そして2026年は、その構造が目に見える形で表面化した年の一つとして位置付けられる可能性がある。強いエルニーニョが予測され、世界の海洋と陸域が高温状態にある以上、少なくとも短期的には「過去の気候へ戻る」ことを期待するより、「変化した気候の中で被害を最小化する」方向へ政策の重心を移すことが現実的である。
総合評価
今回の分析対象である「豪雨・干ばつ・山火事に圧倒される人類、打つ手なし状態、改善見込めぬ訳」という表現は、文字通り「人類には対策がない」という意味では科学的に正確ではない。しかし、災害の複合化、社会インフラの限界、適応資金の不足、気候システムの長期的慣性という観点から見れば、「従来型の対策だけでは対応しきれない」という問題意識は十分に裏付けられる。
特に重要なのは、2026年の状況を一つの巨大災害として見るのではなく、「多数のリスクが相互に作用するシステミック・リスク」として捉えることである。気候変動が深刻になるほど、災害そのものの規模だけでなく、災害同士をつなぐ経路が増え、社会の弱点が連鎖的に露呈する。
一方で、悲観論だけで結論を出すことも適切ではない。WMOが早期警戒・気候情報サービスを重視していることや、各国で適応計画が進展していることからも分かるように、被害を減らすための技術と政策手段は存在している。
問題は、それらを必要な規模まで拡張できるかである。今後の焦点は「異常気象を止められるか」ではなく、「異常気象が発生する世界で、どこまで人命と社会機能を守れるか」に移っていく。
この意味で2026年の気候危機は、人類に対する単純な自然災害ではなく、社会システムそのものへのストレステストと見ることができる。温室効果ガス削減、適応、早期警戒、インフラ強靱化、森林管理、水資源管理、農業改革、国際的な資金協力を同時に進められるかどうかが、今後の被害を大きく左右することになる。
参考・引用リスト
- 世界気象機関(WMO)「Record-breaking heat and extreme weather continue」2026年8月12日。2026年7月~8月の世界的な高温、干ばつ、山火事、豪雨・洪水に関する最新評価。
- 世界気象機関(WMO)「Global Seasonal Climate Update for August-September-October 2026」2026年7月31日。強いエルニーニョの発達、世界的な高温、降水パターンの変化に関する季節予測。
- 世界気象機関(WMO)「Strong El Niño expected to intensify」2026年7月31日。強いエルニーニョと正のインド洋ダイポールが地域的な干ばつ、洪水、山火事リスクに及ぼす可能性についての評価。
- NOAA Climate Prediction Center「ENSO Diagnostic Discussion」2026年8月13日。エルニーニョの発達状況と、2026年秋・冬に非常に強いイベントとなる確率に関する公式予測。
- 欧州委員会・共同研究センター(JRC)「Worsening drought and record heat grip Europe」2026年8月12日。欧州の干ばつ、河川低水位、山火事、農業・エネルギー・輸送への影響。
- European Drought Observatory(EDO)「Current drought situation in Europe」2026年8月。欧州の干ばつ状況、熱波、土壌・河川水分に関する監視情報。
- Copernicus Emergency Management Service / EFFIS「Current wildfire situation in Europe」2026年8月25日更新。2026年のEU域内焼失面積と長期平均との比較。
- 国連環境計画(UNEP)「Adaptation Gap Report 2025: Running on Empty」。途上国の気候適応資金需要と国際公的資金のギャップに関する評価。
- 国連環境計画(UNEP)「Slow climate adaptation threatening lives and economies」2025年10月29日。適応資金不足と気候リスクへの社会的影響。
- WMO「Extreme heat, cold, precipitation and fires mark the start of 2026」。2026年初頭の南米における熱波、干ばつ、山火事等の状況。
- IPCC「Climate Change 2023: Synthesis Report」。気候変動の影響、適応、緩和、将来リスクに関する第6次評価報告書の総合評価。
- IPCC「Climate Change 2021: The Physical Science Basis」。温暖化、極端現象、水循環、海洋・氷圏の変化に関する科学的評価。
- NASA Earth Observatory / NASA Global Climate Change。地球温暖化、海洋熱、氷床・海面などに関する衛星・観測データ。
- Science of the Total Environment等の査読研究。南米の極端な干ばつと山火事、気候変動・自然変動・土地利用の相互作用に関する研究。
- Reuters等国際報道機関。2026年のエルニーニョ予測、異常気象、欧州山火事等に関する現地報道・専門家取材。
追記:「打つ手なし」は本当に正しいのか
ここまでの分析を総合すると、「2026年の人類は異常気象に圧倒され、打つ手なし状態にある」という表現には、事実として正しい部分と、誇張として修正すべき部分の両方が存在する。2026年8月時点で世界気象機関(WMO)は、記録的な陸・海面高温、熱波、干ばつ、山火事、豪雨・洪水が同時期に各地で発生していると報告しており、気候リスクが複合化しているという認識には十分な根拠がある。
一方で、「人類にはもう対策がない」という意味での打つ手なしではない。気象観測、衛星監視、数値予報、早期警戒、避難計画、森林火災監視、治水、農業技術、節水、耐熱化など、被害を軽減するための手段は数多く存在しており、実際にWMOも予測・早期警戒を活用することで災害による人的・社会的被害を減らせるとしている。
したがって、より正確な表現は「打つ手がない」のではなく、「気候リスクの増加速度と複雑化に対して、既存の対策能力が追いつかない場面が増えている」である。この違いは非常に重要であり、前者は宿命論につながるが、後者ならば緩和、適応、早期警戒、インフラ強靱化などによって被害を減らす余地が残されている。
2026年8月時点で確認できる危機の実像
2026年夏の欧州は、この構造を具体的に示す重要な事例となっている。欧州委員会共同研究センター(JRC)は、春以降の少雨と繰り返す熱波によって干ばつが悪化し、8月にはロワール、ポー、ライン、ドナウの主要河川で記録的な低水位が確認されたと報告している。
水不足は農業だけに影響しているわけではない。河川水位の低下によって農業、水道、河川輸送、エネルギー、生態系、観光など複数の分野が同時に圧迫されるため、干ばつがそのまま社会全体のリスクへ転化している。
農業への影響もすでに具体的な数字として表れている。JRCは8月24日、西欧・中欧で持続的な高温と水不足が夏作物の生育を悪化させ、EU全体の夏作物の収量予測が5年平均を最大14%下回る可能性を示した。
山火事も同じ連鎖の中にある。欧州森林火災情報システム(EFFIS)によれば、2026年8月25日時点でEU域内では約62万7,611ヘクタールが焼失しており、過去最悪だった2025年の同時期を下回るものの、2006~2025年の長期平均約28万45ヘクタールを大幅に上回っている。
つまり2026年の欧州では、「暑い」「雨が少ない」「川の水が減る」「農作物が弱る」「森林が乾燥する」「火災が拡大する」という一連の現象が、独立して発生しているわけではない。複数の現象が同じ気候条件から派生し、それぞれが次の問題を発生させる構造になっている。
エルニーニョ問題の再検証
今回のテーマで最も慎重に扱う必要があるのが「スーパーエルニーニョ」という表現である。2026年8月13日のNOAA気候予測センター(CPC)は、エルニーニョが強まり、北半球の2026年秋・冬に「非常に強いイベント」となる確率が90%を超えると評価している。
さらにNOAAは2026年10~12月について、1950年以降の過去のエルニーニョを上回る歴史的規模、すなわち3か月平均のRONIが+2.5℃以上となる確率を69%と予測している。したがって「非常に強いエルニーニョ」という表現には十分な科学的根拠があるが、「史上最強のスーパーエルニーニョが確定した」と断定するのは現時点では適切ではない。
また、エルニーニョの影響は世界一律ではない。WMOは、強いエルニーニョによって地域ごとの降水パターンが大きく変化し、ある地域では降水が増える一方、別の地域では干ばつリスクが増える可能性を示している。
したがって、「エルニーニョが来るから世界中で災害が激増する」という説明も正確ではない。より妥当なのは、すでに温暖化によって高温化している地球に強い自然変動が重なることで、地域ごとの異常気象リスクを変化させる可能性が高まっているという理解である。
この点を踏まえると、2026年後半から2027年にかけての最大のリスクは、エルニーニョそのものではなく、「温暖化した気候背景+強いエルニーニョ+地域固有の脆弱性」が重なることである。そこでは同じ気候現象でも、インフラや水資源に余裕のある地域と、すでに限界に近い地域で被害が大きく異なる。
「改善しない」のではなく「元に戻りにくい」
「改善が見込めない」という表現も再検証する必要がある。気候変動には長い時間スケールがあり、温室効果ガス排出を削減しても、その翌年から気温や海洋状態が過去の水準へ戻るわけではない。
その意味では、2026年に排出削減を強化したとしても、2027年の夏に異常気象が突然消えることを期待することはできない。気候システムに蓄積された熱や海洋・氷圏・生態系の変化には、それぞれ固有の応答時間が存在するからである。
しかし、それは「何をしても無駄」という意味ではない。排出削減を早めれば、長期的な温暖化の程度を抑えられ、結果として将来の極端な高温や水循環の変化などのリスクを小さくできる。
ここには非常に重要な時間差がある。適応策は現在の被害を減らすために必要であり、緩和策は将来の気候リスクを抑えるために必要であるため、どちらか一方だけでは問題を解決できない。
この二重構造を理解しなければ、「気候変動対策をしているのに異常気象が続いている」という誤解が生まれる。対策の効果は必ずしも翌年の災害件数として現れるわけではなく、将来の温暖化水準や被害規模をどこまで抑えられるかという形で評価する必要がある。
本当の限界は「自然」より「社会」にある
2026年の状況から見えてくる最も重要な問題は、自然現象そのものよりも、それを受け止める社会側の能力に限界があることである。異常気象が一地域だけで発生している場合、他地域から消防、医療、物資、資金を応援に投入できる。
しかし、欧州各地で山火事が同時発生し、別地域で洪水が発生し、さらに熱波による救急需要が急増すれば、その「相互支援の余力」が小さくなる。これがシステミック・リスクの怖さであり、災害が増えるほど単純な応援体制では対応できなくなる。
したがって今後必要なのは、単純に消防車や堤防を増やすことだけではない。複数の災害が同時に発生しても行政、医療、電力、水道、通信、物流、食料供給が最低限機能し続ける「冗長性」を社会システムに組み込むことが重要になる。
これは経済効率とは一見反対方向に進む。平時には余剰の発電能力、備蓄、水源、医療人員、物流ルートなどは「無駄」に見えるが、巨大災害が発生した場合には、その余剰が社会を維持する生命線になる。
2026年の気候危機は、この「効率性と強靱性のトレードオフ」を明確にしている。平時のコストを最小化することだけを追求すれば、極端な災害が発生した際に社会が一気に機能不全へ陥る可能性が高くなる。
最終的な評価
今回のテーマを科学的に検証した結論は、「人類が異常気象に対して完全に無力になった」ではない。むしろ、「人類の対策能力は向上しているが、それを上回る速度で気候リスクが複合化し、社会の余力が圧迫される局面が増えている」と表現するのが最も適切である。
2026年8月時点では、欧州の干ばつと山火事、夏作物の収量低下、世界各地の熱波・洪水、そして強まりつつあるエルニーニョが、この構造を具体的に示している。特に欧州では、8月25日時点の焼失面積が長期平均を大きく上回り、同時に干ばつが水資源、農業、エネルギー、輸送へ波及している。
一方で、将来が完全に決定されたわけではない。2026年以降の温室効果ガス排出量、適応投資、早期警戒体制、都市計画、農業改革、水資源管理、森林管理、エネルギー転換によって、被害規模には大きな違いが生じ得る。
したがって、「改善見込めぬ」というタイトルは、「近い将来に異常気象が元の状態へ戻る可能性は低い」という意味では妥当だが、「対策しても改善できない」という意味なら修正が必要である。正確には、「気候システムそのものの改善には長い時間が必要だが、社会が受ける被害は現在からでも大幅に減らせる可能性がある」という二重の結論になる。
2026年の気候危機が突き付けているのは、自然を完全に制御できるかという問題ではない。限界のある社会システムを、限界を超えつつある気候リスクにどう適応させるかという問題である。
そして今後最も重要になるのは、「異常気象をなくす」という発想から、「異常気象が発生しても社会を止めない」という発想への転換である。早期警戒、分散型エネルギー、水資源の多重化、食料供給網の分散、森林管理、都市の暑熱対策、治水、医療体制、国際的な資金協力を組み合わせることで、同じ気象現象でも被害を大きく減らす余地は残されている。
最終的に、2026年は「人類が気候に敗北した年」と位置付けるべきではない。むしろ、過去の気候を前提に設計された社会システムと、急速に変化する現在の気候との間にあるギャップが、これまで以上に明確になった年と評価する方が科学的にも政策的にも意味がある。
このギャップを埋められるかどうかが、今後の最大の焦点になる。気候そのものを短期間で元へ戻すことは難しいが、社会の脆弱性を減らし、対応能力を高め、温暖化そのものを抑制することは可能であり、その成否によって21世紀後半の被害規模は大きく変わり得る。
最後に
本稿全体を一文でまとめれば、「2026年の異常気象は、人類が打つ手を失ったことを示しているのではなく、従来型の対策だけでは処理しきれないほど気候リスクが複合化していることを示している」となる。
豪雨、干ばつ、山火事は別々の問題ではない。温暖化による高温、水循環の変化、土壌水分の減少、海洋の高温、大気循環の変化、土地利用などが相互作用し、一つの現象が別の災害を誘発・増幅する可能性がある。
そして、この連鎖が社会の対応能力を超えたとき、「打つ手なし」という感覚が生まれる。だからこそ今後の気候政策では、単独災害への専門的対応だけでなく、複数危機が同時に発生することを前提とした「システム全体の強靱化」が必要になる。
2026年8月時点で確認できるデータは、その必要性を明確に示している。WMOは世界的な高温・干ばつ・火災・洪水の継続を報告し、JRCは欧州の干ばつ、低水位、山火事、農業被害を確認し、NOAAは強いエルニーニョが秋から冬にかけてさらに強まる可能性を示している。
結局のところ、2026年の問題は「自然が突然おかしくなった」ということではない。人間が過去の気候を基準として作り上げてきた社会システムが、変化する気候条件との不一致を急速に露呈させていることが最大の問題なのである。
