◎オミクロン株の登場で事態は一変した。
2022年1月14日/中国、河南省滑県のコロナ検査所(Chinatopix/AP通信)

中国と香港は世界で最も厳しいコロナウイルス対策を追求しているが、現在、この2年間で最大の感染急拡大に直面している。

中国共産党が2019年末の武漢パニックで導入した厳格なゼロコロナ政策は、コロナをおおむね封じ込めてきた。

習近平 国家主席は西側諸国の感染拡大を横目にゼロコロナ政策の成功を宣言し、厳しい対策こそコロナに打ち勝つ唯一の方法と繰り返し主張した。

しかし、オミクロン株の登場で事態は一変した。

共産党は重症化リスクの高いデルタ株の抑え込みには成功したが、感染力の強いオミクロン株はゼロコロナの壁をぶち破り、全土に拡大しつつある。

一部の医療専門家はゼロコロナを追求することに疑問を抱いている。

中国本土では現在、毎日数千件の新規陽性が報告され、北東部吉林省の住民は封鎖下に置かれた。共産党が省全体を封鎖したのは武漢パニック以来2年ぶりである。

昨年末までほとんど感染者を報告していなかった香港でもオミクロン株が急拡大し、最近の新規陽性は2~3万件台、1日の死亡者は200人を超えている。

香港市内の医療機関は感染急拡大に対応できず、多くの患者が病院の駐車場や入り口に設置されたベッドで治療を受けた。

共産党は今のところゼロコロナを追求する予定だが、態度を軟化させる兆候が出始めている。

国家衛生委員会は今週、軽症患者を医療機関ではなく隔離施設で治療するよう規則を変更した。また、患者が検疫から解放される条件も合わせて緩和した。

本土および香港市内で陽性と診断された症状のある患者は医療機関、無症状患者は専用の隔離施設に収容され、自宅療養は認められていない。今回の規則変更で医療機関に入院する患者は原則重症患者のみになった。

李克強 首相も全国人民代表大会の中で、「今後はより的を絞った対応を取ることになる」と述べていた。

最前線で働く医療関係者の考えも確実に変化している。

中国のトップ疫学者である張文紅 博士は昨年、「中国は最終的にコロナと共存する必要がある」と初めて示唆した。この発言は国内で物議を醸し、ソーシャルメディアには「裏切り者」「外国勢力と結託して中国のゼロコロナを貶めようとしている」などといった批判が殺到した。

しかし、張博士は今週、中国版ツイッターのWeiboに同様のコメントを投稿し、全く異なる反応を受けた。張博士は、「中国は今のところゼロコロナを維持する必要がある」と述べる一方、「将来的にはより持続可能な戦略に移行することを恐れてはいけない」と付け加えた。

Weiboユーザーはこの発言を批判せず、逆に称賛した。

あるユーザーは「科学的かつ合理的に問題を解決してくれた張博士に感謝します」とコメントを寄せた。

別のユーざーはこの2年間の苦労を語った。「私はずいぶん苦しみました。コロナの名の下に自由を失ったのです...」

外交問題評議会のグローバルヘルスを担当する黄燕中 教授によると、ゼロコロナに対する国民の支持は低下しているという。

特に上海のような大都市では「やりすぎだ」と言う人も多い。共産党は3月21日、上海で感染者が増加しつつあることを受け、上海ディズニーランドを閉鎖した。当局は上海の住民約2,400万人に自宅にとどまるよう促している。市内の公共バスは運行を取りやめ、市内に入るためには陰性証明が必要。

共産党が今年、ゼロコロナを見直す可能性は低い。

多くの医療当局者が、今規制を緩和すれば医療機関に圧力がかかり、死亡率が大幅に上昇する可能性があると考えている。

香港の混乱も医療当局者の不安をあおった。香港の死体安置所は満杯になり、病院外に患者があふれている。

一部の専門家とWeiboユーザーは西側諸国のように「長期的な安定を確保するために短期的な痛みを受け入れるべき」と主張している。感染者の急増は多くの犠牲を伴うが、ワクチンを併用することで死者を抑え、集団免疫を達成できるかもしれない。

しかし、多くのアナリストが今年、共産党が規制を緩和するその可能性は低いと予想している。

黄教授は、「第20回党大会の年に規制を緩和する可能性は低い」と述べた。「もし規制を緩和すれば死亡者は確実に急増し、社会的パニックに陥るかもしれません。党大会の年にそのような失態は絶対に許されません」。

中国共産党第20回党大会はこの10年で最も重要な政治イベントのひとつであり、習近平 国家主席の歴史的な3期目が決まると広く認識されている。

共産党が党大会の年に危険を冒す可能性は低く、習 国家主席も自分のキャリアに悪影響を与えかねい決定を下すとは思えない。

国営メディアによると、習 国家主席は17日の政治局会議の中で、「中国はダイナミックなゼロコロナ政策を堅持する」と述べ、「勝利は忍耐から生まれる」と政府高官を鼓舞した。

トップが明確な指示を出しているため、当局は代わりに少しずつ規則を見直し、医療機関にかかる負担を抑えつつオミクロン株に対処すると予想されている。少なくとも習 国家主席の3期目が始まるまでゼロコロナが見直させる可能性は低い。

黄教授は「ゼロコロナ政策の問題点はリスクを受け入れないこと」と述べている。「つまり、政府が最悪のシナリオ(感染者と死者の急増)を受け入れない限り、政策の根本的な変更は期待できません...」

2021年6月28日/中国、首都北京、共産党創立100周年式典の前に開催された集会(Ng Han Guan/AP通信)
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