通勤が大好きな人などいない。しかし、それを失った時、あることに気づかされた
ニューヨーカーは、一部の富裕層を除き、大半が地下鉄、バス、自転車、徒歩を組み合わせて職場に通勤している。片道1時間以上かかる方も多く、バリバリのキャリアウーマンになると、スーツ姿で子供を連れ託児所へ。可愛い子供との再会を約束し、地下鉄に乗り込む。ウォールストリートにあるオフィスで仕事を片付け、来た道を戻る、といったハードワークを平然とこなしている。
中国最大の都市、上海も同様である。こちらは車通勤を行っている者も多いが、主力はやはり公共交通機関だ。日本の首都、東京はさらに凄い。片道1時間30分、2時間通勤は当たり前。クモの巣上に地下鉄、JR、私鉄が街中を縦横無尽に走っており、郊外から公共交通機関のみで”簡単”に通勤できてしまう。
ニューヨークのウォールストリートで働いているメグ・ラフニー氏は、毎日1時間以上かけて通勤していたバリバリのキャリアウーマンである。しかし、コロナウイルスの登場で事態は一変。職場は閉鎖され、仕事は全て自宅で行うことになった。また子供の送り迎えも不要になったのである。
「それは良かった」と思いそうになるが、片道1時間の通勤を”失った”ラフニー氏は意外なことを述べた。「自宅で数週間働き、通勤が恋しくなった。仕事を失った人たちのことを考えれば、在宅勤務でもお金が稼げるだけありがたいと思う・・・」
「しかし、通勤のない在宅勤務が100%幸せとは思えなくなった。朝食を食べ家事を済ませ、すぐ仕事に取り掛かる。昼食を食べ仕事、1日のノルマが片付いたらパソコンを閉じ夕食の支度、家事、就寝・・・メリハリのない生活はストレスになり、疲れを増幅させた。私は唯一ひとりになれる通勤時間で、知らず知らずのうちにリフレッシュを図っていた」
オフィスへの旅
通勤が好きな人間などいない(はず)。人々がオフィスに向かうこの行為を最も嫌うことは、世界中の様々な団体が調査、判明している。オフィスへの旅が仕事以上の負担、ストレスになっていることも分かっているのだ。
毎日電車に揺られ、ストレスフルの状態を続けていると、いずれ体調やメンタルに不調をきたす。通勤と言う苦行を失った時、大半の人々は喜び、夢なら冷めないでほしいと考えた(?)はずだ。
ハーバードビジネススクール、組織行動学部のジョン・ジャチモウィッツ氏は、「家事と仕事を自宅という同一空間で済ませることは、容易ではない」と述べた。同氏は通勤の果たす役割(機能)、自宅と職場間の心理的関係について調査を行っている。
調査によると、日々の通勤は「各パートの区切り(節目)」を担っているという。つまり、家事と仕事を通勤が”区切っている”のである。そして、両パートを通勤で明確に区切ると、その間、頭の中をリセットしたり、全く別のことを考えることができるという。
一件意味のない行動のように思える通勤も、電車の中で音楽を聴きリフレッシュする、好きな本を読む、明日の打ち合わせ内容を整理するなど、思考をオフィスもしくは自宅から切り離す役目を担っているのだ。頭を整理しながら歩き、託児所に到着、子供と会話をしながら自宅に戻り家事を行う・・・
在宅勤務になると、通勤で使う体力を仕事や家事に回すことができる。これは大変すばらしいことだ。片道1時間、往復2時間を仕事もしくは家事に費やせば、それらを処理できる量は各段に上昇するだろう。
しかし、頭を切り替える時間が無くなったことで、家事と仕事の境界が曖昧になり、ずっとオフィスで働いている感覚に陥ってしまう。これは非常に辛い。30分歩き、30分電車に乗る時間を失った結果、心をリフレッシュする機会まで失ってしまったのである。
ブラブラ外を歩いてる時に、ふといいアイデアが思いついた、という経験はないだろうか。デスクトップと対峙し、次の作戦を必死に考えてが、いいアイデアが全く思い浮かばない。”気分転換”を兼ねてコーヒー片手に屋上のテラスへ向かったら、とんでもないアイデアが思いついた、でもいい。
通勤は退屈かつメンドクサイものである。そして、毎日欠かさず通勤を行っていると、人はそれの持つ機能を意識しなくなる。今回コロナウイルスが大流行したことで、それの大切さを改めて理解できた。
在宅勤務が当たり前の時代になった時、家事と仕事の間に設ける”緩衝材”が大きな役目を果たすことになる。ロックダウンの影響で外出が禁止されているなら、室内で10分フィットネスバイクを漕ぐだけでよい。外出できるなら、ランニング、散歩、日光浴しながらコーヒーを飲む。気分をリセットできるなら何でもOKだ。
ニューヨーク・タイムズ紙は、在宅勤務によって失われた通勤の代わりとして、”カクテルアワー”の導入を検討してはいかがだろうか、と報じた。これは結婚式と披露宴の間に行われる”伝統行事”である。新郎新婦が写真撮影や次の準備を行っている間、ゲストには飲み物とオードブルを提供し、雑談などで気分転換を図ってもらうのだ。
家事と仕事の間に緩衝材を設ける。自分なりの”何か”を見つけることができれば、在宅勤務生活はより充実したものになるだろう。
BBC News - Why you might be missing your commutehttps://t.co/SVbP6bvKr2
— Muneori (Mick) Otaka (@M_Otaka) May 22, 2020