自動車専用道路は封鎖され、自転車および歩行者用レーンが新たに整備されつつある

コロナウイルスと自転車

イギリスは、欧州の中でも特に深刻な被害を受けた国のひとつである。政府は経済活動の再開を見据え、徐々にロックダウンの緩和を始めているが、1日当たりの死者数は高い水準を維持したままだ。

政府は社会的距離の確保を維持するために、現在、自転車および歩行者専用レーンの拡充を進めている。今週、グラスゴー、レスター、ヨーク、ブライトンでサイクリングとウォーキングを楽しめる専用レーンが整備された。

さらに、数十の都市や町が同じような整備計画を実行中だという。15日、ロンドンのサディク・カーン市長は市内で特に混雑する自動車道を閉鎖すると発表した。

カーン市長は「ロンドン市民はロックダウンによりウォーキングとサイクリングの楽しさを再発見した。我々は自転車および歩行者専用レーンを迅速かつ安価に拡充し、自動車道を閉鎖する。コロナウイルスはロンドンのライフスタイルを大きく変えることになるだろう」と述べた。

ただし、全ての自動車道が閉鎖されるわけではない。これまで通り、車とバスに乗ってロンドン市内を散策し、会社に出勤することも当然できる。自転車および歩行者専用レーンを拡充させる理由は、サイクリングとウォーキングの安全性を向上させるためだ。

バスや電車などの公共交通機関は、「密閉、密集、密接」、三つの密を兼ね備えている。コロナウイルスの感染リスクを下げるためには、これらの密を避けねばならない。最も有効な手段が、自転車および徒歩での移動推奨である。

自転車および徒歩(ウォーキングとサイクリング)の安全性を向上させるために、専用レーンは拡充されつつある。さらにこの対策は、パンデミックだけでなく、二酸化炭素の排出量を抑える効果も期待されている。自転車で通勤するロンドン市民が10万人増加すれば、市内を走る車は確実に減少するだろう。

二酸化炭素の排出を抑えつつ、感染予防を図るというこの発想は、新時代のトレンドになるかもしれない。気候変動、環境破壊問題は、地球規模で対策を進めねばならず、一刻の猶予も許されないのだ。

新時代

マンチェスター市の交通と環境の主要メンバーであるアンジェリキ・ストギア評議員は、「マンチェスターが導入したいくつかのプロジェクトは、パンデミック以前から計画されていたものである」と述べた。

社会的距離を確保しながら移動する方法は、ロックダウン解除後に直面する大きな課題のひとつである。イギリス政府は国民に対し、「公共交通機関の利用を減らしてほしい」とメッセージを送った。

運輸国務長官のグラント・シャップス氏は地方自治体に対し、自転車および歩行者専用レーンの拡充を指示。これまでの年度方針を大幅に転換した。また同氏は、「アクティブ・トラベル」と呼ばれる2億5,000万ポンド(約320億円)規模の緊急支援策を発表した。

この支援策は、2月に議会承認された50億ポンド(約6,500億円)の緊急予算の一部であり、サイクリングやウォーキングを支援するために使用されるという。

同国の議会は、一時的な交通規制、舗装の拡張、自転車専用レーンの新設権限を持っている。すなわち、この権限を発動すれば、地方自治体の公共事業計画も簡単に変更できるのだ。

しかし、現時点で行われている主要な対策は、自動車やトラックなどのアクセスを制限するだけである。運送業界の関係者は、「政府が指示を出せば従わねばならない。しかし、その結果、反自動車、反トラック、反運転、反バスにつながらないか心配である」と述べた。

マンチェスター市では、ウォーキングとサイクリングを奨励するキャンペーンが実施されている。ポスターには、「安全な通りが命を救う」と書かれた。

同市は500万ポンド(約6億5,000万円)の緊急資金を使用して、交通機関のハブ、病院へのルートなどに専用レーンを設けるべく、調整を進めているという。

同市の南東部、レブンシュルムでは、地域全体の交通改革を計画中である。その中のひとつは、生活道路の一部に大きな植木を設置し、自動車の通過を禁止するというものだ。

レブンシュルムに住むポーリン・ジョンソン氏は、「我々は住みやすい町を望んでいる。住民の大半は自治体の計画に賛成している。車の通行量が減少すれば、子供たちも通りで安心して遊べるだろう」と述べた。

コロナウイルスは自転車業界に素晴らしい恩恵を与えた。イギリス国内の自転車販売最大手、ハルフォーズグループの株価は、今年に入り17%以上上昇した。同社は3月23日のロックダウン以降、一部のサイクリング用品が飛ぶように売れ、売上高が500%増加したと述べた。

ウォーキングおよびサイクリングの奨励は大変素晴らしいことである。しかし、それらを利用できない高齢者や障害者などへの配慮も忘れてはならない。また、公共交通機関の利用者が著しく減少すれば、運行する企業は厳しい経営を余儀なくされる。

車やトラックを運転しなければならない人(タクシー、運送業など)は、道路形態の大幅な変更に戸惑い、事故やトラブルを誘発しかねない。また、運転に対する規制が厳しくなれば、彼らの収入にも影響を与えるだろう。

自動車、自転車、歩行者、3つがバランスよくミックスされた街づくりを目指せば、慢性的な渋滞の緩和、満員電車の減少、そして、コロナウイルスの感染予防につながるはずだ。ひとつに特化した極端な計画ではなく、バランスが大切である。

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