◎最新の世論調査によると、元独裁者の息子であるマルコスJrの支持率は2位に倍以上の差をつけている。
2022年4月13日/フィリピン、ケソンシティの集会所、フェルディナンド・マルコス・ジュニア氏(Aaron Favila/AP通信)

フィリピンの世論調査会社によると、大統領選に立候補したフェルディナンド・マルコス・ジュニアと副大統領選に立候補したサラ・ドゥテルテ氏の勝利は堅いという。

何十億ドルもの公金をだまし取り、鉄の拳でフィリピンを支配した独裁者の息子は、残忍な麻薬撲滅キャンペーンにより国際刑事裁判所から人道に対する罪で調査を受けているロドリゴ・ドゥテルテ大統領の後を継ぐ可能性が高い。

ドゥテルテ大統領の娘であるサラ氏の人気はマルコスJrをはるかに上回っているように見える。

独裁者のフェルディナンド・マルコスは敵対勢力に対する超法規的殺人(即決処刑)と拷問を推進し、軍の兵力を増強したが、1986年2月に行われた100万人規模の抗議デモ「ピープルパワー」に屈し、ハワイに逃亡した。

ひとり息子のマルコスJrは1983年から1986年まで故郷の州知事を務めていたものの、家族と一緒にハワイに亡命し、父親の死後フィリピンに帰国した。

マルコスJrの選挙キャンペーンチームは、「過去について話すのはやめよう。戒厳令の時代がどうだったのかについて争うのはやめよう。そして、前を見て、前に進もう」と有権者に呼びかけ、主に若者の支持を集めている。

マルコスと夫人、およびその取り巻きがだまし取った公金の一部は後に押収され、フィリピン政府に返還された。この事件を調査する専門家委員会によると、マルコス一族から取り戻した公金は33億ドル(約4300億円)以上に上るという。

しかし、マルコスJrは父親の行為について謝罪せず、選挙ポスターの中で幼い頃のニックネームである「ボンボン」あるいは「BBM」を名乗り、父親のイメージを受け入れ、当選すれば、父親の汚名を払拭すると約束している。

フィリピンの政治学者であるクロエ・ウォン氏はAP通信の取材に対し、「マルコスJrは若者を巧みに誘導し、フィリピンの黄金時代を取り戻すと吹聴し、独裁時代を知らない人々の支持を集めています」と説明した。

フィリピンの年齢中央値は約25歳で、マルコスJrは多くの有権者が父親の時代を知らないことを巧みに利用している。

マルコスJrは他の候補との直接討論を拒否し、選挙戦開始以来、一度しか記者会見を開かず、インタビューの回数も制限している。

マルコスJrは先週放送されたCNNフィリピンのインタビューの中で、家族の豪勢なライフスタイルを擁護し、「われわれが享受する快適さや特権はすべて人民から来たものであり、だからこそ奉仕しなければならない」と語った。

またマルコスJrは独裁時代の批判を一蹴し、「父は敵対勢力と戦うために行動せざるを得なかった」と主張した。「やるしかなかったのです」

マルコス婦人の膨大な宝石コレクションと1220足の靴が蜂起で破壊された大統領官邸から発見された時、世界は衝撃を受けた。夫人は1992年と1998年の大統領選に立候補し、敗れている。

首都マニラの豪邸で生活するマルコス婦人は帰国後、横領、汚職、脱税など約900件の民事・刑事事件に直面したが、それらはほとんど証拠不十分で棄却され、数少ない有罪判決も上訴で覆された。

一方、マルコスJrは1991年に下院議員に、2010年には上院議員に選出されるなど、独裁者のボンボン兼政治家として活動してきた。

まもなく退任するドゥテルテ大統領はマルコス一族の過ちを水に流し、過去の政権が認めなかったマルコスの英雄墓地への埋葬を許可した。ドゥテルテ大統領はマルコス一族と相思相愛で、副大統領選に立候補したサラ氏はマルコスJrのランニングメートである。

マルコスJrは圧倒的な人気を誇るサラ氏とタッグを組むことで保守層の支持を集めた。

同時に、マルコスJrのキャンペーンチームはネット上の荒らしやコメンテーターにライバル候補を中傷させた。SNSにはライバル候補がマルコス一族の歴史を改ざんしたという投稿が相次いで寄せられている。

この戦略は今のところうまく機能しており、最新の世論調査によると、マルコスJrは55%、サラ氏も55%の支持を集め、次点に大きな差をつけている。

マルコスJrの最大のライバルである副大統領のレニ・ロブレド氏も200万人以上のボランティアと各地で選挙キャンペーンを展開しているが、支持率はマルコスJrの半分以下である。

同国の登録有権者6700万人の大半は労働者階級だが、エリート一族のマルコスJrとドゥテルテ大統領を支持している。

クロエ・ウォン氏によると、多くの有権者がマルコス以降に誕生した改革志向の政権が成果を挙げられなかったことに不満を感じているという。「労働者階級は人口の約4分の1が極度の貧困にあえぎ、政府機関や司法は政治家の汚職を告発できず、貧富の差が広がり続けていることに不満を感じています。彼らはマルコスJrならこれらの問題を解決できると信じています」

しかし、フィリピン政府を苦しめる膨大な債務の多くはマルコスが積み重ねた。マルコスJrのチームは1970~80年代の債務がフィリピンを借金大国にしたことをうまく隠している。

ウォン氏は、「有権者は独裁者が多くの富をもたらしたというプロパガンダに魅了されている」と語った。「若い世代は独裁時代を知らないため、SNSで拡散されるプロパガンダを信じ、以前のフィリピンはもっと良かったと思い込んでいます」

先月マニラ郊外で開催されたマルコスJrの集会に参加した5児の母親はAP通信に、「マルコスさんの過去をほじくり返している人たちは、彼を破滅させようとしています」と語った。「マルコスさんの疑惑が本当なら、なぜもっと前に問題提起しなかったのですか?選挙が始まってから攻撃するなんておかしいです」

別の有権者は、「マルコスさんの家族は、病院、学校、歩道橋など、国民の生活に欠かせないものをたくさん造ったと聞きました」と語った。「ドゥテルテ大統領もマルコスさんを応援しているので、私は彼に投票します」

ロブレド副大統領の「ピンク革命」運動は選挙戦中盤から終盤で勢いを増したように見えるが、世論調査では劣勢である。

しかしウォン氏は、「マルコスJrが勝利して父親の古臭い独裁的なやり方に傾倒すれば、国民は黙っていないだろう」と警告した。「この国には多くのエネルギー、多くの精神、多くの希望があります。民主主義が危機にさらされるようなことになれば、国民は黙っていないでしょう」

5月9日に予定されている総選挙では、大統領、副大統領、連邦議会議員、地方議員、市長、町長など、合わせて1万8000以上の議席を数万人の候補者が争う。

2019年9月3日/フィリピン、首都マニラの政府庁舎近く、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領と娘のサラ・ドゥテルテ氏(Getty Images/AFP通信)
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