◎5月9日に予定されている総選挙では、大統領、副大統領、連邦議会議員、地方議員、市長、町長など、合わせて1万8000以上の議席を数万人の候補者が争う。
2022年4月24日/フィリピン、マニラ首都圏のパサイ、大統領候補のレニ・ロブレド副大統領(Aaron Favila/AP通信)

フィリピンの狂犬ドゥテルテ大統領の後任を決める大統領選は異様な盛り上がりを見せており、候補のひとりであるレニ・ロブレド副大統領の陣営は「ピンク革命」で元独裁者の息子を追いかけている。

ある支持者はSNSで400万回再生されたロブレド応援ソングを作った。

他のボランティアは郊外の村をピンク色の服で探索し、有権者に声をかけ、元独裁者フェルディナンド・マルコスのひとり息子であるマルコス・ジュニア氏(通称ボンボン)ではなく賢明な現職女性副大統領に票を投じるよう促している。

最新の世論調査によると、元独裁者の一人息子はロブレド氏に大差をつけており、当選は固いように見える。

5月9日に予定されている総選挙では、大統領、副大統領、連邦議会議員、地方議員、市長、町長など、合わせて1万8000以上の議席を数万人の候補者が争う。選挙管理委員会によると、フィリピン国内の有権者は約6600万人、海外有権者は約160万人。

パルスアジアが公表した最新の世論調査では、マルコス氏は低中所得者層の間でわずかに支持率を落としたものの、56%の支持を集めている。一方、ロブレド氏の支持率は9ポイント上昇し24%で2位。他の候補は圏外である。

ロブレド氏を応援する家族、医師、活動家、カトリックの司祭、尼僧、テレビや映画のスター、農民、学生などは、元独裁者の息子ではなく、女性大統領の誕生を信じ、各地で数千人規模の集会を展開している。

ロブレド氏は全国各地で展開されている集会をボランティアが身に着けているピンク色の服やアイテムにちなんで、「ピンク革命」と呼んだ。

数万人規模の群衆、ドローン写真、ボランティアがネットに投稿した動画は、1986年の平和的な革命「ピープルパワー」の記憶を呼び起こした。

32歳の音楽家、ロサリオ氏はAP通信の取材に対し、「私たちは、良い統治、誠実で勤勉な公務員、純粋に国民のことを考える政治家を望んできました。そして...ついに彼女が現れたのです」と語った。「彼女のような人は滅多に現れませんよ。このチャンスを無駄にしないでください」

ロサリオ氏と友人が作った2曲のキャンペーンソングは音楽ストリーミングサービスSpotifyで400万回近く再生され、フェイスブックやユーチューブでも拡散し、ピンク集会で支持者の涙を誘った。

しかし、ロブレド氏はマルコス氏に圧倒的な差をつけられており、逆転は難しいように見える。

2022年4月24日/フィリピン、マニラ首都圏のパサイ、ロブレド副大統領のボランティア応援団(Aaron Favila/AP通信)
2022年4月24日/フィリピン、マニラ首都圏のパサイ、ロブレド副大統領の集会(Aaron Favila/AP通信)

マルコス氏の圧倒的な支持率は、ランニングメイトである副大統領候補のサラ・ドゥテルテ氏(狂犬ドゥテルテの娘)の人気に支えられている。サラ氏は当選確実と予想されている。

36年前のマルコス追放を覚えている活動家たちは、アジアの民主主義の砦とみなされてきたこの国の指導者にマルコスの息子が就任し、フィリピンの歴史が覆されることを恐れている。

64歳の元上院議員であるマルコス氏は、父親の遺産を擁護し、戒厳令時代にフィリピンを傷つけた広範囲な弾圧と略奪を認め、謝罪することを断固として拒否している。

マルコスは敵対勢力に対する超法規的殺人(即決処刑)と拷問を推進し、軍の兵力を増強したが、1986年2月に行われた100万人規模の抗議デモと圧力に屈し、ハワイに逃亡した。

ひとり息子のマルコス氏は1983年から1986年まで故郷の州知事を務めていたものの、家族と一緒にハワイに亡命し、父親の死後フィリピンに帰国した。

ロブレド氏の選挙アドバイザーを務めるアバド氏はAP通信の取材に対し、「私たちはマルコスの再来を恐れている」と語った。「マルコスの再来...フィリピンは世界的な非難にさらされるでしょう。フィリピンは86年はもう二度とないと誓ったのです。それなのに、奴は戻ってきました...」

3児の母である未亡人のロブレド氏は無所属で立候補しており、この国に根強く残る王朝や裕福な土地所有一族のいずれにも属さない。

ロブレド氏は政府の資産を持ち逃げしたと非難されている独裁者のマルコスとは違い、誠実さと質実さで評価され、副大統領にのぼり詰めた。

ロブレド氏の魅力は、2012年の飛行機事故で亡くなった政治家である亡き夫のように、権力に媚びないところにある。議員時代、同氏は地方から首都マニラまでバスで通勤し、移動時間を睡眠にあてていた。

1980年代、フィリピン大学の学生だったロブレド氏は1986年の革命を含む反マルコス抗議に参加していた。

2016年の副大統領選、ロブレド氏はマルコス氏を僅差で破った。マルコス氏はこの結果に異議を唱え、数年にわたる法廷闘争を繰り広げた。

大統領選に必要な戦力を持たないロブレド氏は大統領を目指していなかったが、マルコス氏が立候補を表明し、野党候補の一本化の話が決裂したことを受け、土壇場で考えを改めた。

ボランティアの活動を調整しているヘルナンデス氏はAP通信に、「彼女は大統領選に必要なロジスティックを持っていなかったが、ボランティアが選挙戦を激しく活気づけている」と語った。

ヘルナンデス氏によると、ロブレド氏のボランティア「民兵」は200万人近くに達したという。その多くがSNSでロブレド氏の情報を発信し、街中にビラを貼り付け、街宣車を運転し、過疎地域の炊き出しに参加し、その他の様々な活動に従事しているという。

ヘルナンデス氏は「最近、ほとんどの民兵が戸別訪問に力を入れるようになった」と説明した。

一方、1986年の革命に参加したというボランティア民兵のブアン氏は、「マルコス家のイメージを刷新する資金力十分のキャンペーンがソーシャルメディアで盛り上がっている」と懸念を表明した。

「多くの有権者がソーシャルメディアに依存し、TikTokのようなプラットフォームで情報を得ているため、ボンボンのフェイクニュースを信じる若者が増えています」

フィリピン大学の社会学者であるランディ・デイビッド氏はSNSに、「ロブレド氏の自然発生的なボランティア運動は、暴君に対する赤信号である」と投稿している。「マルコム氏が大統領に就任すれば、1986年のような抗議デモが発生するかもしれません」

マニラの主要日刊紙フィリピン・デイリー・インクワイアラーは社説で次のように指摘している。「社会運動を最も恐れるのは独裁者である。なぜなら、社会運動はほとんどの場合、政権交代の種を内包しているからである」

2022年4月24日/フィリピン、マニラ首都圏のパサイ、ロブレド副大統領の選挙集会(Aaron Favila/AP通信)
2022年4月24日/フィリピン、マニラ首都圏のパサイ、ロブレド副大統領の選挙集会(Aaron Favila/AP通信)
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