コンテンプト・オブ・コート 7-43
コールが去った後も、礼拝堂には重い空気が残っていた。
参列者たちは再び席に戻り、牧師が葬儀の進行を続けていた。マイクは棺のそばに立ったまま、しばらく入口の方を見ていた。ローリーは席に戻り、握りしめていた手を膝の上に置いた。
「大丈夫か?」
マイクが小声で尋ねた。
「ええ」
ローリーは短く答えた。
「腹が立っただけよ」
「無理もない」
マイクはそれ以上何も言わず、棺に目を向けた。
教会の外では、冷たい風が吹いていた。
一台のタクシーが道路脇に止まり、後部座席から女が降りた。四十代後半から五十代ほどに見える。落ち着いた色のコートを着て、小さなバッグを肩にかけていた。
女は運転手に料金を支払い、教会の建物を見上げた。
入口の脇には、葬儀の案内が掲示されていた。
カーターの名前。
女はその文字をしばらく見つめた。
やがて、周囲を確認してから入口へ向かった。扉を少しだけ開け、礼拝堂の中をうかがう。
牧師の声が聞こえた。
女は扉の陰に立ったまま、室内を見渡した。祭壇の前には棺があり、その周囲に白い花が並んでいる。参列者の姿も見えた。
女の視線が、棺の前にいるマイクに移る。
それから、少し離れた席に座るローリーの姿を捉えた。
女は動かなかった。
ローリーは隣に座るマイクに何かを話しかけていた。女はその様子を見つめていたが、やがて視線を落とした。
バッグの持ち手を握る指に力が入った。
礼拝堂の中では、牧師が参列者に向けて言葉を続けていた。誰も入口に立つ女には気づいていない。
女はもう一度、棺に目を向けた。
カーターの名前を確認するように、入口脇の案内へ視線を戻す。
そのまま数秒、立ち尽くした。
やがて、扉から手を離した。
女は教会の中へ入らなかった。来たときと同じように、周囲を確かめながら入口から離れていく。
そのとき、ローリーがふと顔を上げた。
入口付近に人影が見えた。黒っぽいコートを着た女性が、教会の外へ出ようとしている。
ローリーは立ち上がった。
「少し失礼するわ」
マイクにそう告げ、通路を歩いて入口へ向かった。
扉を開けると、女性は数メートル先にいた。
「すみません」
ローリーが声をかけた。
女が足を止める。
ローリーは相手の顔を見た。初めて見る女性だった。少なくとも、すぐに思い当たる人物ではない。
「参列ですか?」
女は何も答えなかった。
ローリーはもう一度、相手の表情を確かめた。
女はローリーを見つめていた。何かを言おうとするように唇がわずかに動いたが、声は出なかった。
「カーターをご存じだったんですか?」
女の視線が一瞬だけ揺れた。
それでも、返事はなかった。
ローリーが一歩近づこうとすると、女は視線をそらし、歩き出した。
「待ってください」
ローリーは呼び止めた。
女は振り返らなかった。
教会の前の歩道を進み、通りの角を曲がっていく。ローリーは追いかけることなく、その後ろ姿を見送った。
しばらくして、マイクが入口までやってきた。
「どうした?」
「女性がいたの。中をのぞいていたから声をかけたんだけど、何も答えずに行ってしまった」
「知っている人か?」
「分からない。でも、カーターの名前を見ていたわ」
マイクは通りの先に目を向けた。
「どんな女だった?」
「四十代か五十代くらい。落ち着いた服装で、小さなバッグを持っていた」
マイクは周囲を見渡したが、女の姿はもうなかった。
「参列者だったのかもしれないな」
「そうかもしれない。でも、何かを言いたそうだった」
ローリーは教会の入口を振り返った。
礼拝堂では、牧師が葬儀を続けている。
女は何も語らなかった。
ローリーはもう一度、通りの先を見た。
「……誰だったのかしら」
