コンテンプト・オブ・コート 7-40
アンカレッジ市内の病院。
救急入口に車が滑り込んだ。マイクが降り、後部座席のカーターを支えた。エイダンも反対側へ回り、二人でカーターの身体を抱え上げる。
「患者がいる!重傷だ!」
マイクの声に、入口にいた職員が振り返った。
看護師がストレッチャーを押してくる。二人はカーターを慎重に乗せた。顔には殴られた痕が残り、衣服には血が付着している。呼吸は浅く、意識もほとんどなかった。
「いつからこの状態ですか?」
看護師が尋ねた。
「詳しい時間は分からない。倉庫で発見した時には、すでに意識がなかった」
マイクは答えた。
「すぐに処置室へ運びます。ご家族ですか?」
「違う。知人だ」
看護師はそれ以上尋ねず、ストレッチャーを押して奥へ進んだ。自動扉が閉まり、カーターの姿が見えなくなる。
マイクはその場に立ち尽くした。
エイダンが隣に来た。
「助かると思うか?」
「分からない」
マイクは処置室の扉を見つめた。
「あいつ、彼女は死んでないと言った」
「誰のことだ?」
マイクは首を横に振った。
エイダンが壁際の椅子に腰を下ろす。マイクは座らなかった。カーターが最後に口にした言葉が、頭から離れない。
彼女は死んでない。
誰のことなのか。何を知っているのか。聞き返す時間はなかった。
しばらくして、医師が処置室から出てきた。マイクとエイダンは同時に立ち上がった。
「ご友人ですか?」
「そうです。容体は?」
医師は一度、二人の顔を見た。
「複数の外傷があり、出血も相当量に及んでいます。できる限りの処置を続けていますが、予断を許しません」
「助かる可能性は?」
マイクが尋ねた。
医師はすぐには答えなかった。
「今は処置を続けるしかありません」
そう言って、再び処置室へ戻っていった。
二人は待合室の椅子に座った。
壁際のテレビでは、地元のニュース番組が流れていた。アンカレッジ市内の交通情報と、翌日の天気予報。倉庫で起きた銃撃戦についての報道はなかった。
コールの部下たちは警察に通報していない。違法行為をしていた以上、救援を求めることも、現場に残ることもできなかったのだろう。警察が到着する前に逃げ出したと考えられる。あの場に残っていれば、顔を見られただけで自分たちの立場が危うくなる。
やがて、処置室の扉が開いた。
先ほどの医師が出てくる。表情を見ただけで、マイクには結果が分かった。
「死亡が確認されました。詳しいことは、担当者から改めて説明します」
医師は頭を下げた。
エイダンが目を伏せた。
マイクは処置室の扉を見つめたまま、動かなかった。
カーターは死んだ。
市長殺害事件の濡れ衣は晴れた。だが、彼が知っていたことのすべてを聞き出すことはできなかった。
「彼女は死んでない」
その言葉だけが残された。
マイクはゆっくりと息を吐いた。
テレビの画面が切り替わった。アンカレッジ市役所で予定されている市長の記者会見について、短い予告が流れていた。コールがノース・ホライズン・シティ計画について説明するという。
マイクは画面を見た。
カーターが死んだことなど、コールは気にも留めないだろう。市長としての仕事を続け、何事もなかったかのように街の将来を語るはずだ。
病院の廊下には、看護師たちの足音が響いていた。
