コンテンプト・オブ・コート 7-32
アンカレッジ市役所。
市長室の扉が開き、コールが廊下に出てきた。手には携帯電話を持っている。秘書が後ろから書類を抱えてついてきた。
「市長、午後の会議ですが、開始を三十分ほど遅らせますか?」
「いや、今日は出ない」
「先方には何と伝えれば?」
「急用だと言っておけ」
コールは足を止めず、エレベーターへ向かった。
秘書が追いつく。
「市長、行き先は?」
「用事がある」
それ以上、説明するつもりはなかった。
エレベーターが到着した。コールは乗り込み、秘書を見た。
「ここで待っていろ。運転手にも伝えておけ」
「承知しました」
扉が閉まった。
一階に着くと、コールは正面玄関から外へ出た。庁舎前には市長専用の黒いセダンが停まり、運転手が車外で待っていた。近くには市職員が数人立っている。
運転手が姿勢を正した。
「市長、どちらまでお送りしましょうか」
「必要ない。車を使う」
コールは運転手から鍵を受け取った。
「一人で行くんですか?」
「そうだ。しばらく戻らない。連絡があるまで待機していろ」
運転手はうなずいた。
コールはセダンの運転席に乗り込み、エンジンをかけた。市職員たちに軽く手を上げると、車を発進させる。
庁舎前の道路を抜け、幹線道路へ入っていった。
その様子を、少し離れた駐車スペースに停めた車の中から二人の男が見ていた。
エイダンとジムだった。
二人はカーターの行方を追っていた。カーターが残した資料を調べる一方で、彼を捜すためにコールの動向にも目を光らせていた。
「市役所から出てきたな」
ジムが言った。
エイダンはコールの車を目で追った。
「あいつが運転してる。一人だ」
エイダンがエンジンをかけた。コールのセダンが交差点を曲がる。二人は少し間を空けてから車を出した。
市街地の道路はすいていた。信号で何度か車列が途切れる。エイダンは無理に距離を詰めず、前方の車の動きを見ながら進んだ。
「カーターが姿を消してから、コールの動きが変わった」
ジムが言った。
「ああ。あいつはカーターが何かを持っていると考えている」
「捜査資料か?」
「それもあるだろう。だが、カーター本人から聞き出したいことがあるはずだ」
ジムは携帯電話を取り出しかけたが、やめた。まだ行き先も分からない。中途半端な報告をしても意味がなかった。
コールの車は市街地を抜け、幹線道路を進んでいく。
エイダンは車間距離を保った。
コールの車が右折する。しばらく進むと、倉庫や小規模な事業所が並ぶ地域に入った。通りを走る車は少なくなり、歩道を歩く人影もまばらになっていく。
ジムが前方を指した。
「あの辺りは倉庫が多いな」
エイダンは速度を落とした。
コールの車はさらに先へ進み、建物の並ぶ一角へ入っていった。
二人は距離を保ったまま後を追う。
カーターの行方を追うために始めた監視だったが、ようやくコール本人の動きをつかんだ。彼が向かう先に、カーターがいる可能性もある。
コールの車は前方の建物へ近づいていく。二人は速度を落とし、その後を追った。
カーターが姿を消してから、コールは何度も人を動かしていた。
今度は、自分自身で動き始めた。
エイダンとジムは、その行き先を見失わないよう、慎重に車を進めた。
