コンテンプト・オブ・コート 7-31
アンカレッジ連邦地方裁判所。
ローリーは受付で名前を告げ、マリベル裁判官の執務室へ向かった。廊下には職員や弁護士の姿があり、電話の音と足音が絶えず聞こえていた。
執務室の前で足を止め、ノックする。
「どうぞ」
マリベルの声だった。
ローリーがドアを開けると、マリベルはデスクの向こうに座っていた。その隣に、見覚えのある男が立っている。
ローリーの表情がわずかに硬くなった。
ニューヨークで弁護士をしていた時、自分が突き飛ばした裁判官だった。あの一件が原因で、ローリーは半年間の業務停止処分を受けた。
「急に悪かったわね」
マリベルが言った。
男はローリーに向き直り、軽く頭を下げた。
「久しぶりですね、ローリー弁護士。今日からここで働くことになりました」
ローリーは返事をせず、マリベルの向かいにある椅子へ向かった。腰を下ろし、二人を見た。
マリベルは落ち着いた様子で口を開いた。
「彼を知ってるわね」
「もちろんです」
男は苦笑した。
「あの時は俺も大人げなかった。半年の業務停止は重すぎた」
ローリーは何も答えなかった。
あの処分を受けたことで、弁護士としての仕事を失った。ニューヨークを離れ、アンカレッジに戻ることになった。彼女にとって、あの出来事は単なる口論や一時の感情では済まされない。
男はそれ以上、過去について触れなかった。
マリベルがデスクの上で手を組んだ。
「裁判所にあなたの行政処分を取り消すよう言ったわ。近日中に復帰できる。弁護士として、本来の業務に戻るの」
ローリーはマリベルを見つめた。
予想していなかった話ではない。マリベルなら、自分の立場を使って処分を取り消すこともできるだろう。だが、なぜ今なのか。なぜ、あの裁判官をアンカレッジに呼び寄せたのか。
答えは分かっていた。
マリベルは自分を再び弁護士として働かせようとしている。かつてと同じように、自分の側に置いておきたいのかもしれない。
しかし、もう戻るつもりはなかった。
ローリーは背筋を伸ばした。
「あの処分は間違いだと思っていました。まずはお礼を」
マリベルの表情がわずかに緩んだ。
ローリーは言葉を続けた。
「でも、後悔すると思います」
マリベルの手が止まった。
「どういう意味?」
ローリーは椅子から立ち上がった。
「私が復帰すれば、あなたの悪事を暴き、法廷に立たせます」
執務室に沈黙が落ちた。
隣に立つ裁判官は、ローリーとマリベルを交互に見た。マリベルはすぐには答えなかった。表情を変えず、ローリーを見つめている。
「ローリー。何か誤解しているのではないかしら」
「誤解かどうかは、これから明らかにします」
「あなたを助けようとしているのよ」
「その必要はありません」
ローリーは鞄を手に取った。
「失礼します」
マリベルは呼び止めなかった。
ローリーは執務室を出た。ドアが閉まる。
廊下を歩きながら、彼女は一度も振り返らなかった。
弁護士として復帰する機会は得られた。だが、それを与えたのは、自分が追及しようとしている相手だった。
その事実は変わらない。
ローリーは裁判所の出口へ向かった。これからは、マリベルの庇護を受けるのではない。彼女の不正を明らかにするために、弁護士として戻るのだ。
