コンテンプト・オブ・コート 7-30
マイクの事務所。
窓の外では車が行き交っていた。机の上にはカーターが残した資料が広げられ、ローリーは会社の登記記録と銀行取引の一覧を照合していた。
マイクは別の机で電話をかけていた。相手はエイダンの部下らしい。関係者への聞き込みについて、進捗を確認している。
「分かった。新しい情報が入ったら連絡してくれ」
マイクは通話を終え、メモを取った。
「何か分かった?」
ローリーが尋ねた。
「まだだ。ドミニクの銀行をめぐる捜査も始まったばかりだ。資金の流れがどこまで追えるか、もう少し時間がかかる」
「そう」
ローリーは資料に目を戻した。
カーターの箱から出てきた記録には、マリベルの名前もあった。土地取引、融資、裁判所の判断。複数の企業や人物が関係していることは分かる。しかし、記録だけで犯罪を立証できるわけではない。
何より、マリベル本人の関与を示す決定的な証拠が必要だった。
ローリーはペンを置いた。
マリベル・ヴァレンタイン。
自分が弁護士になるまで支えてくれた人。母親が失踪した後も、何度となく相談に乗ってくれた人だった。
その人物が、母親の失踪に関わっている。
もう疑いを打ち消すことはできなかった。マイクの話を聞き、二十年前の記録を調べ、カーターの反応を見た。すべてがマリベルへとつながっている。
ローリーは、彼女と決別する覚悟を決めていた。
そのとき、机の上の携帯電話が鳴った。
画面に表示された名前を見て、ローリーの手が止まる。
マリベル・ヴァレンタイン。
マイクが顔を上げた。
「出ないのか?」
ローリーは一度、画面を見つめた。やがて通話ボタンを押した。
「もしもし」
『ローリー?』
聞き慣れた声だった。落ち着いていて、いつもと変わらない。
「はい。どうしました?」
『今から裁判所に来られる?』
ローリーはすぐには答えなかった。
「裁判所ですか?」
『ええ。少し話があるの。できれば、すぐに来てほしい』
「何の用件でしょうか?」
『会ってから話すわ』
ローリーはマイクに目を向けた。彼は何も言わず、こちらの様子を見ている。
「分かりました。今から向かいます」
通話が切れた。
ローリーは携帯電話を机に置いた。
「マリベルか?」
マイクが尋ねた。
「ええ。裁判所に来てほしいそうよ」
「何の用だ?」
「会ってから話すって」
マイクは椅子から立ち上がった。
「俺も行こうか?」
ローリーは首を横に振った。
「いいえ。私一人で行くわ」
「大丈夫か?」
「大丈夫よ。話をするだけだから」
そう答えたが、ローリーはマイクの目を見なかった。
彼女は携帯電話を鞄にしまい、机の上の資料を揃えた。マリベルが何を話すつもりなのかは分からない。これまでどおり、親身な態度で接してくるのかもしれない。あるいは、何かを確かめようとしているのかもしれない。
どちらにしても、もう以前のように接することはできなかった。
「行ってくるわ」
ローリーはコートを手に取った。
「何かあったら連絡しろ」
「分かった」
事務所の扉を開け、廊下へ出る。
マリベルと面と向かって話すのは、これが最後になるかもしれない。
