コンテンプト・オブ・コート 7-29
マリベルの邸宅。窓の外は暗く、庭の照明が植え込みと石畳を照らしている。
マリベルはソファに座り、新聞に目を通していた。テーブルの上には飲みかけの紅茶と、数枚の書類が置かれている。
隣室から女性が出てきた。マリベルの施術を担当しているセラピストだった。施術道具を片づけ、帰り支度を整えている。
「今日はこれで終わりです。次回も同じ時間でよろしいですか?」
「ええ。いつもどおりでお願い」
マリベルは新聞から目を離さずに答えた。
セラピストは道具をバッグに収めた。マリベルが書類に目を落としているのを確認すると、静かに玄関へ向かった。
「お疲れさま」
「ありがとうございました」
玄関の扉が閉まった。
セラピストは門を出ると、道路脇に停めてあった車へ向かった。周囲を一度見回してから運転席に乗り込む。バッグを助手席に置き、携帯電話を取り出した。
登録されている番号を選ぶ。
呼び出し音が二度鳴った。
『もしもし』
コールの声だった。
「私です。裁判官の邸宅を出たところです」
『何か分かったか?』
「ジューン・アトキンソンが裁判官のところへ来ました。市長と会った後、すぐにこちらへ向かったようです」
『それで?』
セラピストはバックミラーを確認した。門の向こうに邸宅の明かりが見える。
「裁判官は、ジューンに調査を命じました」
『何を調べる?』
「ニューヨーク市で、ローリー・ブルックスに殴られた裁判官です。その人物をアンカレッジに呼び寄せるよう指示していました」
電話の向こうで、短い沈黙があった。
『ローリー・ブルックス……』
「はい。裁判官は、彼女を弁護士として復帰させるつもりのようです。ニューヨークでの処分に関係する人物を呼び出す必要があるのでしょう」
『そうか』
コールの声は低かった。
「アトキンソンはすぐに動くと思います。裁判官から直接指示を受けていますから」
『分かった。重要なのはジューン・アトキンソンだ。しっかり見張ってくれ』
「承知しました」
『あの女が誰と接触するか、どこへ行くか。分かったことはすぐに報告しろ。裁判官に気づかれるな』
通話が切れた。
セラピストは携帯電話を助手席に置き、しばらく邸宅の方を見ていた。
マリベルの施術を担当するようになってから、彼女は屋敷への出入りを繰り返していた。施術中の会話や、訪問者の出入り、電話の内容。すべてを把握できるわけではない。それでも、マリベルの周辺で何が動いているのかを知るには十分だった。
コールは、マリベルの動きを探るために彼女を送り込んでいた。
ただし、今回の報告で明らかになったのは、ジューンが新たな仕事を命じられたということだけだった。
ローリー・ブルックスを弁護士に戻すため、なぜニューヨークの裁判官を呼び寄せる必要があるのか。マリベルが何を考えているのかまでは分からない。
セラピストはエンジンをかけ、邸宅を後にした。
