コンテンプト・オブ・コート 7-24
アンカレッジ検察庁。
庁舎の一角に、新しい執務室が用意されていた。机の上には捜査資料が積まれ、壁際には書類棚と会議用のテーブルが置かれている。窓の外には、市街地の建物と遠くの山並みが見えた。
ジュリアン・バンスはドアを開け、室内に入った。
ニューヨークからアンカレッジへ移って数日。新しい職場の設備や職員の配置は、まだ完全には把握していない。だが、仕事を始めるのに必要なものは揃っていた。
机の上には、ハミルトン・ナショナル・バンクに関する資料が並んでいる。アーバンコア・イノベーションズへの融資記録、関連企業の登記情報、資金移動の一覧。今回の捜査で確認すべき項目が整理されていた。
ノックの音がした。
「どうぞ」
ドアが開き、一人の男が入ってきた。
カーティス・ハミルトンだった。州警察で長年勤務し、数々の事件を担当してきた刑事である。今回、バンスは彼を地方検事局の捜査官として迎えていた。
カーティスは室内を一度見回してから、バンスの前まで歩いた。
「初めまして」
バンスは椅子から立ち上がった。
「ジュリアン・バンスです。わざわざ来てもらってありがとうございます」
「カーティス・ハミルトンです。こちらこそ、よろしくお願いします」
二人は握手を交わした。
バンスはカーティスに椅子を勧め、自分も座った。
「検察のもとで働くのは初めてで?」
「はい。これまでは警察で捜査をしていました。検察の捜査官として働くのは初めてです」
「仕事の進め方は違いますが、基本は同じです。事実を確認し、証拠を集める。憶測で結論を出さないことです」
カーティスは机の上の資料に目を向けた。表紙にはハミルトン・ナショナル・バンクの名称が記されている。
「ところで、なぜ俺のような古い刑事を?」
バンスはすぐには答えなかった。資料を一枚めくり、カーティスに視線を戻す。
「推薦されて」
「俺を?誰がです?」
「秘密です」
バンスは淡々と答えた。
カーティスは少しだけ眉を上げたが、それ以上は追及しなかった。
「そうですか。まあ、仕事をするうえで問題がなければ構いません」
「そのつもりです。あなたには、これまでの経験を生かしてもらいたい」
バンスは机の上の資料を閉じた。
「今回の捜査は、銀行の融資記録だけを調べて終わる話ではありません。アーバンコア・イノベーションズへの融資、その後の資金の移動、関連企業との取引。金の流れを一つずつ追う必要があります」
「ドミニクに話を聞くんですね」
「ええ。銀行の経営判断に誰が関わっていたのか。融資を承認したのは誰か。資金がどこへ流れたのか。本人の説明を聞く必要があります」
カーティスはうなずいた。
「資料は確認しました。いくつか不自然な点があります。倒産した会社の規模に対して、融資額が大きすぎる」
「そこも確認しましょう。数字だけで不正と決めつけることはできません。記録と証言を突き合わせます」
バンスは立ち上がり、ファイルを手に取った。
「まずはドミニクの取り調べを」
「分かりました」
カーティスも椅子から立ち上がった。
二人は執務室を出た。廊下の先には、事情聴取に使う部屋が用意されている。
バンスは歩きながら、手にしたファイルを開いた。
「相手が何を言っても、記録と照合してください。説明に矛盾があれば、そこを掘り下げる」
「了解です」
カーティスは短く答えた。
