コンテンプト・オブ・コート 7-21
アンカレッジ市内。
大通りから一本入った建物の二階に、小さな独立系メディアの事務所があった。看板は控えめで、入口のガラス扉には社名と連絡先が貼られている。
室内には数人の記者と編集スタッフがいた。壁際の棚には過去の記事をまとめたファイルが並び、机の上にはノートパソコンや資料が広げられている。大手新聞社のような規模ではないが、地元企業や行政の問題を独自に取材していた。
ローリーは受付で訪問の目的を伝えた。
「約束していた者です」
スタッフが電話で確認し、奥の会議室へ案内した。
部屋には一人の女性が待っていた。三十代後半ほどの記者で、机の上にはノートパソコンと取材用の録音機が置かれている。
ローリーが入ると、女性は椅子から立ち上がった。
「初めまして」
「電話の方ですね。今日はどういった用で?」
「情報提供を」
ローリーは鞄を開き、ファイルを机の上に置いた。
女性はすぐには手を伸ばさなかった。
「どのような情報ですか?」
「アーバンコア・イノベーションズという会社についてです」
記者の目がファイルに向いた。
「投資関連の会社ですね。最近、倒産した」
「ご存じでしたか」
「被害を受けた投資家から相談がありました。かなりの金額が焦げ付いたと聞いています。ただ、会社の実態がつかめず、取材は進んでいません」
ローリーはファイルを開いた。
「この会社には、ハミルトン・ナショナル・バンクから五千万ドルの融資が行われています。ところが、会社の規模や事業内容を見ると、融資額に見合う実態がありません」
記者は資料を引き寄せた。会社の登記情報、役員名簿、融資記録。ページをめくるごとに、数字と日付を確認していく。
「この送金先は?」
「関連企業と見られる会社です。いくつかは同じ人物や企業とつながっています」
「融資された資金が、別の会社に移された?」
「その可能性があります。会社が倒産する前後の資金の動きに、不自然な点があるんです」
記者は資料から目を離した。
「あなたは、これを詐欺だと考えているんですね」
「少なくとも、単なる経営破綻ではないと思っています」
「誰が関与しているんですか?」
ローリーは一枚の資料を指した。
「ハミルトン・ナショナル・バンクのドミニクCEOです。銀行からの融資に関わる立場にあり、テラ・インフラテックの財務にも関係している人物です」
記者はドミニクの名前をノートに書き留めた。
「テラ・インフラテックのコールCEOともつながっている?」
「そこも調べてほしいんです」
「あなたは、何を望んでいるんですか。記事にしてほしいだけ?」
ローリーは少し間を置いた。
「事実を明らかにしてほしい。資金がどこへ流れたのか、誰が動かしたのか。被害を受けた人たちに説明されるべきです」
記者は資料をもう一度見た。
「これだけでドミニク氏を犯罪者と決めつけることはできません」
「分かっています。だから、調べてほしいんです」
ローリーはファイルを閉じた。
「銀行の内部記録や融資審査の経緯を確認できれば、資金の流れが分かるはずです。ただ、私には調べられる範囲に限界がある」
「それで、こちらに持ってきた?」
「独立した立場で調べられる人が必要だったんです」
記者は椅子に座り直した。資料を手元に置き、会社名と金額をもう一度確認する。
「分かりました。まずは登記や公開記録を照合します。融資の経緯も取材します。ただし、裏付けが取れない内容は記事にできません」
「それで構いません」
「情報の出所は明かせませんか?」
「今は答えられません」
記者はローリーの顔を見たが、それ以上追及しなかった。
「では、こちらから連絡します。もし追加資料があれば、提供してください」
ローリーはうなずき、名刺を机に置いた。
「お願いします」
会議室を出ると、事務所の電話が鳴っていた。記者はすぐに資料を持って自分の机へ戻り、パソコンを開いた。
ローリーは建物の外へ出た。
携帯電話を取り出し、マイクに短いメッセージを送る。
情報を渡した。ドミニクの名前も伝えてある。
送信を終え、ローリーは画面を閉じた。
記者がどこまで調べるかは分からない。記事になるまで時間がかかる可能性もある。
それでも、これで動き出すはずだった。
アーバンコアの融資を調べれば、ハミルトン・ナショナル・バンクの内部に目が向く。ドミニクが関与しているなら、検察も無視できない。
ローリーは歩き出した。
