コンテンプト・オブ・コート 7-23
アンカレッジ市役所。
コールは市長室の窓際に立ち、街を見下ろしていた。机の上には就任に関する書類が積まれ、壁際には市長室の職員が運び込んだ荷物が並んでいる。
今日から、この部屋が彼の仕事場になる。
市長就任の式典を終え、関係者への挨拶も済ませた。職員たちは新しい市長の指示を待ち、廊下では電話の音が絶えず聞こえている。
コールは机に戻り、書類を一枚手に取った。
ノース・ホライズン・シティ計画。
市長の権限を使えば、これまで以上に計画を進めやすくなる。土地の取得、開発許可、予算の調整。市政を握ったことで、実行に必要な手段は揃いつつあった。
携帯電話が鳴った。
画面には、グレート・プラーンズ・ヘラルドのエリスCEOの名前が表示されている。
コールは通話ボタンを押した。
「どうした?」
『市長、大変だ』
エリスの声は、いつもの落ち着きを失っていた。
コールは椅子に腰を下ろした。
「そんなに慌ててどうした?俺が市長になるより大変なことが?」
『いいからテレビを見ろ。ハミルトン・ナショナル・バンクだ。検察が動いている』
通話が切れた。
コールは机の上のリモコンを取り、壁際のテレビをつけた。ニュース専門チャンネルに切り替える。
画面には、ハミルトン・ナショナル・バンクの本店前が映っていた。建物の入口には複数の捜査官が立ち、箱を運び出す職員の姿も見える。警察車両が道路脇に停まり、報道陣が建物の前に集まっていた。
画面の下には速報の文字が流れている。
〈州検察、ハミルトン・ナショナル・バンクを捜索〉
アナウンサーが原稿を読み上げた。
『検察は本日、ハミルトン・ナショナル・バンクの本店に家宅捜索に入りました。アーバンコア・イノベーションズによる融資詐欺事件に関して、有力な情報提供があったようです。ドミニクCEOの関与が疑われており、検察が資金の流れを追っています』
画面が切り替わり、銀行の建物を背景に、捜査関係者が資料を運び出す映像が流れた。
コールはリモコンを握ったまま、画面を見つめていた。
「……誰が情報を流した?」
独り言のように口にした。
アナウンサーは続けた。
『今回の捜査は、ジュリアン・バンス検事が指揮を執ると見られています。バンス検事はニューヨークで複数の大型事件を担当した経歴を持ち、その手腕に注目が集まっています』
コールの目が細くなった。
ジュリアン・バンス。聞き覚えのない名前だった。
アーバンコアの融資記録を調べれば、ドミニクだけでなく、テラ・インフラテックに流れた資金にも行き着く可能性がある。銀行の内部資料が押さえられれば、これまで表に出ていなかった取引まで明らかになるかもしれない。
コールは携帯電話を取り、ドミニクに電話をかけた。
呼び出し音が続く。
出ない。
もう一度かけたが、結果は同じだった。
コールは通話を切り、エリスにかけ直した。
「検察の動きを調べろ。誰が情報を提供したのか、捜査の範囲はどこまでなのか。分かったことはすぐに知らせろ」
『分かった。だが、今は報道を抑えるのも難しい。銀行の捜索はすでにニュースになっている』
「報道の話は後だ。まず情報源を探せ」
コールは電話を切った。
市長室の扉がノックされた。職員が入ってくる。
「市長、次の打ち合わせの準備ができました」
「延期だ」
「しかし、関係者がすでに会議室に」
「聞こえなかったのか。延期だ」
職員は短く頭を下げ、部屋を出ていった。
