コンテンプト・オブ・コート 7-20
ニューヨーク連邦地方裁判所。
庁舎内の廊下には人の出入りが続いていた。弁護士や検察官が書類を抱えて行き交い、警備員が入口付近に立っている。
マイクは壁際に立ち、時計を確認した。
やがて、廊下の向こうから一人の男が歩いてきた。濃紺のスーツに書類鞄。周囲の人間に短く挨拶を返しながら、迷いのない足取りで近づいてくる。
ジュリアン・バンス。
かつてアンカレッジで検事を務め、現在はニューヨークで州検事として働いている。マイクとは以前から面識があった。
マイクは壁から背を離した。
「お忙しそうで」
バンスは足を止めた。マイクの顔を確認すると、わずかに眉を上げる。
「お前か。弁護士になったそうだな。何の用だ?」
「検事にプレゼントが」
「くだらない物なら、もう一度刑務所にぶち込んでやる」
「相変わらずですね」
マイクは持っていたファイルを差し出した。
バンスはすぐには受け取らなかった。表紙に記された会社名を確認する。
「アーバンコア・イノベーションズ?」
「ええ。資料をまとめてきました」
バンスはファイルを受け取った。中を開き、最初の数ページに目を通す。会社の登記情報、役員の記録、ハミルトン・ナショナル・バンクからの融資資料。五千万ドルという金額の横には、複数の送金先と日付が記されていた。
「……計画倒産です」
マイクが言った。
バンスはページをめくる手を止めた。
「アンカレッジ……ここはニューヨークだ。俺にどうしろと?」
「あなたは正義を追求する検事だ。資料を見てください」
「よその州の事件に首を突っ込むつもりはない」
「単なる融資の焦げ付きではありません。投資資金が不透明な経路を通って会社に流れ、倒産の前後に動かされている。背後には、アンカレッジの企業と市政に関わる人間がいる」
バンスはファイルを閉じた。
「それを裏づける証拠は?」
「まだ足りません。だから、あなたに見てもらいたい」
「俺に捜査しろと言うのか?」
「どうするかはあなた次第です」
マイクはバンスの手元にあるファイルを見た。
「どこまで暴けるかは検事次第です。大物を釣り上げてください。アンカレッジで待ってます」
バンスは黙ってマイクを見た。
「お前は、俺が戻ると思っているのか?」
「あなたなら、資料を読まずに捨てたりはしない」
「随分な自信だな」
「昔から、そういう人だと思っています」
バンスは小さく息を吐いた。ファイルを鞄にしまい、マイクに背を向ける。
「帰れ。話すことはもうない」
バンスは数歩進んだところで、足を止めることなく言った。
「……資料の原本はあるのか?」
マイクは口元をわずかに緩めた。
「あります。必要なら、いつでも渡せます」
バンスはそのまま廊下の角を曲がり、姿を消した。
マイクはしばらく、その方向を見ていた。
バンスは関心がないと言った。だが、原本の有無を確認した。単なる金銭トラブルとして片づけるつもりなら、そんな質問はしない。
彼は数字を確認し、会社の関係を調べる。そして、アンカレッジで何が起きているのかを知ることになる。
マイクは携帯電話を取り出し、ローリーに短いメッセージを送った。
バンスには資料を渡した。あとは彼の判断を待つ。
しかし、マイクには分かっていた。
ジュリアン・バンスは、必ずアンカレッジに戻ってくる。
