コンテンプト・オブ・コート 6-21
マリベルの邸宅。ジューン・アトキンソンは窓際のソファに座り、セラピストの施術を受けていた。
セラピストの指が肩を押す。ジューンは目を閉じ、息を吐いた。張りつめた筋肉がわずかに緩む。
「少し力を抜いてください。肩にかなり負担がかかっています」
「そうね。最近、落ち着かないことが多くて」
ジューンは目を開けた。窓の向こうには手入れの行き届いた庭が広がっていた。刈り込まれた生垣。石畳の小道。その先に、門へ続く車寄せが見える。
テーブルの上で携帯電話が振動した。
画面には、コールの名が表示されていた。
ジューンは眉をひそめ、セラピストに目配せした。施術が中断されるのを待ってから、電話に出た。
「何の用?」
『娘さんの件です』
ジューンの表情が変わった。
「何ですって!」
セラピストが手を止め、様子をうかがった。ジューンは片手を上げて、席を外すように促した。セラピストは道具をまとめ、隣室へ移った。
「エルマに何かあったの?」
『何かあった、というほどではありません。先ほど、あなたの娘さんが私のところへ来ましてね』
「あなたのところへ?」
『市長殺害事件について、あれこれ質問されました。まるで私が犯人であるかのような扱いでしたよ』
ジューンはソファの背から身を起こした。
「エルマが、あなたを疑っているというの?」
『少なくとも、私を調べるつもりのようです。証拠もないのに、ずいぶん熱心でした』
「それで?」
声が低くなった。
コールは一拍置いた。
『犯人はカーターですよ。娘さんが起訴した相手だ。自分の判断に疑問を持ち始めたのか、それとも誰かに吹き込まれたのか。いずれにしても、厄介なことになりかねません』
「エルマは検事よ。事件を調べるのが仕事でしょう」
『もちろん。だからこそ、立場を忘れてもらっては困るんです』
ジューンは携帯電話を握り直した。
「何が言いたいの?」
『主張を変えれば、娘さん自身が立場を失うことになる。検察が一度起訴した事件を、途中でひっくり返すんですからね。世間も上司も、黙ってはいないでしょう』
「私に、エルマを黙らせろと?」
『私は心配しているだけです。あなたから話しておいてください』
ジューンはしばらく考え、言った。
「エルマが何を調べるかは、あの子が決めることよ」
電話の向こうで、コールが小さく笑った。
『母親として、娘さんを守ってあげてください』
通話が切れた。
ジューンは携帯電話を耳に当てたまま、しばらく動かなかった。画面には通話終了の表示が出ている。
やがて携帯を下ろし、テーブルに置いた。
エルマはコールを疑っている。だが、証拠はない。コールはそれを知ったうえで、ジューンを通じて娘を抑え込もうとしていた。
ジューンは隣室へ向けて声をかけた。
「施術を続けてちょうだい」
セラピストが戻ってくる。ジューンは再びソファに横になったが、肩の力は抜けなかった。
娘に警告するべきか。それとも、余計なことをするなと釘を刺すべきか。
コールの要求は単純だった。エルマを止めろ。
ジューンは目を閉じた。
