コンテンプト・オブ・コート 6-20
テラ・インフラテック本社。エルマ・アトキンソンは受付で身分を告げ、コールCEOの執務室へ通された。
コールは窓を背にしたデスクに座り、書類に目を通していた。エルマが入ると、顔を上げて微笑んだ。
「ようこそ。どうぞおかけください」
「……忙しそうなので、本題に入ります」
エルマは椅子に座らず、言った。
コールは書類を閉じ、デスクの上で腕を組んだ。
「市長殺害事件について、あなたに聞きたいことがあります」
「ほう」
「あなたは、この事件にどの程度関与しているのですか?」
コールの表情は変わらなかった。
「秘書の名前が出たから、私を疑っているのですか?」
「秘書の所在は、まだ確認できていません。検察は捜索を続けています」
「それで、私が関与したと?」
「質問に答えてください。秘書を通じて、市長殺害を指示したのですか?」
コールは椅子の背にもたれた。窓の外には、アンカレッジの街並みが広がっている。
「今の質問を、公判ではなく、ここで尋ねた理由は好きに解釈しても?」
エルマはコールを見据えた。
「勘違いしないでください。私は証拠を集めています。あなたが事件に関与したという確証は、まだありません」
「なら、なぜ私のところへ?」
「あなたの名前が浮上しているからです。秘書が見つからない以上、あなたに直接確認する必要がある」
「確認、ですか」
コールは小さく笑った。
「検察が証拠もなく企業の経営者を疑う。ずいぶん大胆なことをなさる」
「証拠がないから、調べているんです」
エルマの声が硬くなった。
「私は、起訴した相手が誰であろうと、事実を明らかにするつもりです。あなたが関与しているなら、逃がしません」
コールは笑みを消さなかった。
「ご立派な信念ですね」
「母の知り合いだからといって、手加減すると思わないでください」
その言葉に、コールの目がわずかに細くなった。
「次は令状を持ってきます」
エルマは踵を返した。
「失礼します」
「もうお帰りですか?」
コールは椅子から動かなかった。
エルマは答えず、執務室の扉に手をかけた。
「ひとつ、いいですか?」
背後からコールの声がした。
エルマは振り返らなかった。
「私を法廷に立たせれば、娘思いのお母様にも被害が及ぶのでは?」
エルマの手が、扉の取っ手で止まった。
数秒の沈黙が流れた。
「……脅しのつもりですか?」
「まさか。私は、あなたのお母様を心配しているだけですよ」
コールの声は穏やかだった。
エルマは振り返り、コールを見た。問い詰めたいことは残っていた。だが、ここで感情をぶつけても、相手の思うつぼになる。
「次は正式な手続きを踏みます」
それだけ言い残し、エルマは執務室を出た。
コールはしばらく扉を見ていた。やがてデスクに向き直り、閉じた書類を開く。
エルマは関与を疑っている。だが、証拠はない。秘書も見つかっていない。
コールはペンを手に取り、書類への署名を再開した。
