コンテンプト・オブ・コート 5-4
アンカレッジ市内。
マイクの事務所近くの埠頭。
海から冷たい風が吹いていた。岸壁には貨物船が停泊し、作業員たちが荷物を運んでいる。
マイクは岸壁の手すりに寄りかかっていた。
少し離れた場所にローリーが立っている。
「ねえ、マイク」
「何だ?」
「あなた、最初はケンドリック・コールを追っていたんでしょう?」
「そうだ」
「なのに、どうして裁判官を?」
マイクは海を見たまま、すぐには答えなかった。
貨物船のエンジン音が響く。
やがて、口を開いた。
「マリベルの父親は、アンカレッジで三十五年間、裁判官を務めた」
ローリーは黙って聞いていた。
「法律を自分のもののように扱い、王様のように振る舞っていた」
「そんな人だったの?」
「この街ではな」
マイクは手すりから体を離した。
「マリベルは父親の権力と財力、そして市民からの絶対的な信頼を引き継いだ」
ローリーは眉をひそめた。
「裁判官としての地位だけじゃないってこと?」
「そうだ。父親が築いたものを、全部受け継いだ」
「それで、彼女が黒幕だと言いたいの?」
マイクはローリーを見た。
「コールだけを見ていても、事件の全体は分からない」
「でも、どうして裁判官がコールを市長にしようとするの?」
ローリーは一歩近づいた。
「わざわざコールのような男を市長にする必要はないでしょう」
マイクは少し笑った。
「欲深いからだ」
「欲深い?」
「ああ。自分が持っているものだけじゃ満足できない」
マイクは埠頭の先へ目を向けた。
「コールなら、喜んで自分の手を汚す。表に立って金を動かし、計画を進め、邪魔な人間を排除する」
ローリーは腕を組んだ。
「ずいぶん都合のいい話ね」
「事実だからな」
「証拠は?」
マイクは答えなかった。
ローリーが続ける。
「あなたは裁判官が黒幕だと言う。でも、今の話は推測でしょう?」
「そう思うなら、それでいい」
「私にその話を信じろと?」
マイクはローリーを見た。
「信じなくても、真実であることに変わりはない」
ローリーは呆れたように息を吐いた。
「本当に腹が立つ男ね。証拠も見せずに、信じろと言うんだから」
「信じろとは言ってない」
「同じことでしょう」
マイクは肩をすくめた。
ローリーは海へ視線を移した。
「裁判官は、私にとって恩人なの」
「……」
「弁護士になるきっかけをくれた人よ。あの人が黒幕だなんて、簡単には信じられない」
マイクは何も言わなかった。
「コールは市長になって何をするつもり?」
「ノース・ホライズン・シティを完成させる」
「再開発計画ね」
「ああ」
「それだけ?」
「それだけじゃない。二十年前に止まった計画を、今になって再開させる。そこには別の目的があるはずだ」
ローリーがマイクを見る。
「別の目的?」
マイクは海の向こうを見つめた。
「それを調べている」
「まだ分からないのね」
ローリーは小さく息を吐いた。
「あなたは、私が知らないことをたくさん知っている」
「そうか?」
「そうよ。でも、肝心なことは何も話さない」
マイクは答えなかった。
ローリーはしばらくマイクを見つめた。
「分かったわ。今は信じない」
「ああ」
「でも、調べることには協力する。カーター刑事を助けるためにもね」
マイクはローリーを見た。
「それで十分だ」
ローリーは首を振った。
「勘違いしないで。あなたを信じたわけじゃないから」
「分かってる」
ローリーは歩き出した。
「事務所に戻る。資料を確認しないと」
マイクは一人、埠頭に残った。
