コンテンプト・オブ・コート 5-2
アンカレッジ連邦地方裁判所。
マリベルの執務室。
窓の外には、アンカレッジの街が広がっている。
マリベルは机に向かい、書類を確認していた。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
コールが入ってきた。
「裁判官」
マリベルは顔を上げた。
「何の用?」
コールは向かいの椅子に座った。
「ブローカーの件です」
「取り調べは?」
「奴は口を割りません」
コールはネクタイを直した。
「裁判官が知らないような裏の仕事をする連中は、口が堅いんですよ。金をもらって人を運ぶ。仕事が終われば、あとは知らない。それで終わりです」
マリベルは書類から目を離さなかった。
「それで?」
「その気になれば、ビルから飛び降りたり、銃で頭を撃ったりして、自分で天国に向かいます。そういう連中です」
マリベルはようやく顔を上げた。
「あなたの人徳ね」
コールは苦笑した。
「そう言われると、返す言葉もありません」
「笑い事じゃないわ」
コールの表情から笑みが消えた。
「問題は、ブローカーが何を話すかです。あいつが万一口を割れば、こちらにも影響が出る」
「こちら?」
マリベルが聞き返す。
コールは一瞬だけ黙った。
「市長殺害事件に関係があると思われれば、選挙にも響きます」
「もう選挙の心配?」
「立候補を表明した以上、余計な問題は抱えたくない」
マリベルは椅子の背にもたれた。
「それで、ブローカーをどうするつもり?」
「取り調べの結果を待ちます。必要なら、別の手を考える」
「余計なことはしないで」
コールは黙って頷いた。
マリベルは彼の顔を見つめた。
「それより、マイク・ハンターのことよ」
コールの目が細くなる。
「分かっています」
「本当に?」
「マイク・ハンターが現れた理由は明らかです。二十年前に死んだ母親の敵を討つためでしょう」
マリベルは窓の外へ視線を移した。
「……まさか、弁護士になるとはね」
短い沈黙が落ちる。
「リサ・グリーンの息子らしいわ」
コールはマリベルを見た。
「母親の事件を追っているのは間違いない。カーターの弁護を引き受けたのも、そのためかもしれません」
「かもしれない?」
「まだ、どこまで知っているのか分かりません」
「なら、調べなさい」
「もちろんです」
コールは身を乗り出した。
「弁護士だか私立探偵だか知りませんが、もう容赦しません。こちらの邪魔をするなら、相応の対応を取ります」
マリベルは表情を変えなかった。
「油断しないで。あなたは、自分の力を過信するところがある」
コールは口を閉じた。
マリベルは机の上の書類を揃えた。
「マイク・ハンターは、あなたが思っているほど単純な相手ではないかもしれない」
「私には金があります」
「金ですべてが解決すると思わないことね」
コールは返事をしなかった。
マリベルは続けた。
「あなたが市長になれば、ノース・ホライズン・シティ計画を進められる。けれど、そこへ至るまでに余計な騒ぎを起こされては困るの」
「分かっています」
「なら、慎重に動きなさい」
コールは立ち上がった。
「ブローカーの件は、私に任せてください」
コールは一礼した。
「失礼します」
執務室を出る。
ドアが閉まった。
マリベルは一人になった。
机の上には、市長殺害事件の資料が残っていた。
被告人、カーター。
弁護人、マイク・ハンター。
そして、証人となる可能性のあるブローカー。
マリベルは資料を手に取り、席を立った。
