コンテンプト・オブ・コート 4-8
ローリーの自宅。
テーブルの上には、三人分のコーヒーが置かれていた。
トーマスはマイクの向かいに座っている。
トーマスが口を開く。
「ハンターさん」
「はい」
「借金の件、助かりました」
ローリーが顔を上げる。
「……どういうこと?」
トーマスはローリーを見る。
「聞いてないのか?」
「借金がどうしたの?」
「今日、職員の方が来たんだ」
「職員?」
「ああ」
トーマスはコーヒーを飲んだ。
「壊れた物を、全部弁償してくれた」
ローリーの表情が変わる。
「全部?」
「そうだ」
「誰が?」
トーマスはマイクを見る。
「ハンターさんのところの職員だと」
ローリーはマイクを見る。
「あなたがやったの?」
「俺じゃない」
「じゃあ誰よ?」
トーマスが続ける。
「それだけじゃない。借金の利子も、ほぼゼロにしてくれた」
ローリーは黙った。
「知らなかったのか?」
「……言ってよ」
マイクはコーヒーを飲んだ。
「別に言う必要はないだろ」
「あるわよ」
「父親が助かった。それでいい」
「そういう問題じゃないの」
トーマスは二人を見て笑った。
「まあ、いいじゃないか」
ローリーはため息をついた。
「お父さんまで……」
トーマスはマイクを見る。
「ハンターさん」
「はい」
「両親は健在ですか?」
マイクの手が止まった。
一瞬だけ、表情が変わる。
「……幼いころに死別しました」
トーマスは黙った。
「私の母も弁護士でした」
ローリーがマイクを見る。
マイクはカップに視線を落としたまま続けた。
「仕事をしている姿だけは、よく覚えています」
「そうですか」
トーマスはしばらく黙っていた。
それから、ローリーを見る。
「私は将来、ローリーがヴァレンタイン裁判官のような立派な人間になってほしいと思っています」
「お父さん……」
「昔から、あの人を目標にしてきただろ」
ローリーは答えなかった。
トーマスはマイクへ視線を戻す。
「あなたのお母さんも、あなたに立派な弁護士になってほしいと思っているはずです」
マイクは何も言わなかった。
しばらくして、コーヒーを一口飲む。
「……そうかもしれません」
トーマスは頷いた。
「なら、頑張ってください」
「ありがとうございます」
ローリーは二人を見ていた。
いつものマイクなら、何か軽口を返す。
だが、今は何も言わない。
トーマスも、それ以上は聞かなかった。
部屋に静かな時間が流れた。
やがてマイクが立ち上がる。
「そろそろ帰ります」
「もうですか?」
「事務所で仕事があります」
トーマスも立ち上がった。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
ローリーも立ち上がる。
玄関までマイクを送る。
ローリーが言った。
「……両親のこと、聞いてごめんなさい」
マイクはローリーを見る。
「気にするな」
「でも――」
「昔の話だ」
マイクは玄関のドアを開けた。
冷たい風が入ってくる。
「じゃあ、また明日」
「ええ」
マイクは外へ出た。
ドアが閉まる。
ローリーはしばらく玄関に立っていた。
トーマスが後ろから声をかける。
「いい人じゃないか」
ローリーは振り返る。
「……変な人よ」
トーマスは笑った。
「そういう人のほうが、信用できることもある」
ローリーは何も答えなかった。
