コンテンプト・オブ・コート 4-10
アンカレッジ市内。
市街地から少し離れた邸宅。
リビングには大きな窓があり、アンカレッジの街明かりが見えていた。
マリベル・ヴァレンタインはソファに座っていた。
向かいには、側近のジューン・アトキンソンがいる。
テーブルの上には、市長選に関する資料が並んでいた。
ジューンが一枚の書類を手に取る。
「本当に、コールCEOを市長に?」
マリベルは紅茶を飲んだ。
「もう決めたことよ」
「ですが……」
「何?」
ジューンは書類を置いた。
「気になることがあります」
マリベルはカップを置いた。
「言ってみなさい」
「市長殺害事件です」
マリベルの表情は変わらない。
「裁判は続いているわ」
「はい」
「それが何?」
「この事件だけではありません」
ジューンは声を落とした。
「マイク・ハンターです」
マリベルの目がわずかに動く。
「彼が事件を調べています」
「知っているわ」
「証人にも接触しています」
「それも知っている」
ジューンはマリベルを見る。
「何を考えているんでしょう?」
「彼は担当弁護士よ」
「ただの弁護士には見えません」
マリベルは答えなかった。
ジューンが続ける。
「コールCEOの周辺も調べているようです」
「そう」
「もし、何か掴まれたら?」
マリベルは紅茶を一口飲んだ。
「その件はコールCEOがうまくやる」
「任せるんですか?」
「ええ」
マリベルは即答した。
「私の決定は絶対よ」
ジューンは黙った。
「あなたは選挙に集中しなさい」
「コールCEOを市長にするために?」
「そう」
マリベルはジューンを見る。
「市長になれば、行政を動かせる。人事も変えられる。こちらの話を聞く人間も増える」
ジューンは黙って聞いている。
「私が必要としているのは、特定の計画ではないの」
マリベルは窓の外を見る。
「この街で、誰が決定権を持つかよ」
ジューンの表情が変わった。
「……なるほど」
「コールにはコールの目的がある」
「ノース・ホライズン・シティですね」
「そうでしょうね」
マリベルは淡々と答えた。
「彼が何を作ろうと、私には関係ない」
ジューンは少し驚いた。
「関係ない?」
「私は都市開発をしているわけではないもの」
マリベルはテーブルの資料へ目を向けた。
「彼が市長になれば、こちらの影響力も強くなる。それで十分よ」
「分かりました」
「それに」
マリベルはジューンを見る。
「コールは自分の利益のために動く人間よ。だから扱いやすい」
ジューンは何も言わなかった。
「あなたは選挙を進めて」
「はい」
「余計な心配はしなくていいわ」
「マイク・ハンターは――」
「その件はコールに任せると言ったでしょう」
マリベルの声が少し低くなる。
「あなたは選挙に集中して」
ジューンは黙った。
やがて、書類をまとめる。
「分かりました」
ジューンは立ち上がった。
「失礼します」
玄関へ向かう。
ドアの前で、一度だけ振り返った。
「裁判官」
「何?」
「本当に、コールCEOでいいんですね?」
マリベルは答えなかった。
数秒後、静かに言った。
「私が決めたのよ」
ジューンは頭を下げた。
ドアが閉まる。
マリベルは一人になった。
窓の外を見る。
アンカレッジの街が広がっている。
市長選。
裁判。
ノース・ホライズン・シティ。
マイク・ハンター。
いくつもの問題が動いている。
だが、マリベルにとって重要なのは一つだけだった。
誰が市長になるか。
そして、その市長が誰の言葉を聞くか。
マリベルはカップを手に取った。
