コンテンプト・オブ・コート 4-39
アンカレッジ連邦地方裁判所。
執務室。
マリベルは机に向かい、書類を確認していた。
ノックの音がした。
「どうぞ」
ドアが開く。
マイク・ハンターが入ってきた。
マリベルは顔を上げた。
「……招待した覚えはないわ」
「俺は招かれざる客です」
「何の用?」
「コールを市長にしたいようですね」
マリベルの手が止まった。
「それで?」
マイクは机の前まで歩いた。
「コールを市長にするつもりなら、考え直したほうがいい」
マリベルは椅子の背にもたれた。
「あなたに指図される覚えはないわ」
「俺も、あんたの許可を取るつもりはない」
二人は黙って見つめ合った。
マリベルが口を開く。
「ずいぶん自信があるのね」
「自信じゃない。警告だ」
「私に?」
「ああ」
マリベルは小さく笑った。
「あなた、自分が誰に向かって話しているのか分かっている?」
「裁判官だろ」
「そうよ。市民から信頼され、この街の司法を支えている裁判官」
マイクは答えなかった。
「あなたのように、証拠もなく人を疑う弁護士とは違うの」
「証拠なら、これから出てくる」
「そう」
マリベルは机の上の書類を整えた。
「楽しみにしているわ」
マイクは一歩近づいた。
「コールは市長になるために、邪魔な人間を消してきた。市長も、カーターも、そして実行犯まで」
マリベルの表情は変わらない。
「それを私に話して、何を期待しているの?」
「自分が何をしてきたのか、思い出してほしいだけだ」
マリベルはしばらくマイクを見つめた。
やがて、静かに言った。
「……あなた、母親にそっくりね」
マイクの表情がわずかに変わった。
「何だと?」
「リサ・グリーン」
マリベルはその名を口にした。
「無謀なところが、そっくりよ」
部屋の空気が変わった。
マイクは動かなかった。
「……母の名前を口にするな」
マリベルは構わず続ける。
「正義感が強くて、自分が正しいと思ったら、相手が誰であろうと引かなかった」
マイクはマリベルを見つめた。
「それで、母は殺された」
マリベルは答えなかった。
「あなたは、あの事件について何を知っている?」
「何のことかしら」
「リサ・グリーンの殺害事件だ」
マリベルは椅子から立ち上がった。
「あなたは何も知らないのね」
「何をだ?」
「知らないほうがいいこともあるのよ」
マイクは笑わなかった。
「俺は知りたい」
「だから、あなたは母親と同じ道を歩くのね」
マリベルは机の向こうからマイクを見た。
「忠告しておくわ。これ以上、首を突っ込まないことね」
「断る」
マイクは即答した。
「コールを市長にするつもりなら、全力で止める」
マリベルの目が細くなる。
「あなたに何ができるの?」
「これから見せてやる」
マイクは踵を返し、ドアへ向かう。
「マイク・ハンター」
マリベルに呼び止められた。
マイクは振り返らなかった。
「あなたが何をしようと、法廷で決めるのは私よ」
マイクは答えず執務室を出た。
ローリーはマイクがマリベルの執務室に入るところを見た。ドアが半開きになっている。
執務室に入ろうとすると、中から声が聞こえた。
「リサ・グリーン……」
マリベルの声だった。
ローリーはドアの前に立ったまま、動けなかった。
「無謀なところが、そっくりよ」
その言葉が耳に残った。
リサ・グリーン。
マイクの母親。
マイクは母親についてほとんど話さなかった。
それでも、マリベルがその名前を知っているとは思っていなかった。
ローリーは執務室のドアを見つめた。
マイクは何を隠しているのか。
マリベルは、リサ・グリーンの死について何を知っているのか。
ローリーは手にしていたファイルを強く握った。
中には、市長殺害事件の資料が入っている。
だが、今、ローリーの頭にあるのは別の事件だった。
