コンテンプト・オブ・コート 4-38
アンカレッジ連邦地方裁判所。
執務室。
マリベルは窓際に立っていた。
机の上には、除幕式で使われた資料が置かれている。
ドアが開いた。
コールが入ってくる。
「裁判官」
マリベルは振り返らなかった。
「何の用?」
「お話があります」
「……本当にふざけた男ね」
コールは口を閉じた。
マリベルが振り返る。
「除幕式を利用するとは……」
声は静かだった。
「私の許可もなく、あの場で市長選への立候補を表明した」
「申し訳ありません」
マリベルは机へ歩き、書類を一枚手に取った。
「あなたは、自分が何をしたのか分かっているの?」
コールは頭を下げた。
「市民の前で立候補を表明すれば、もう後戻りはできません。だからこそ、覚悟を示したかったのです」
「覚悟?」
マリベルは書類を机に戻した。
「あなたの覚悟など、私には関係ないわ」
コールは黙った。
「私が必要としているのは、命令を実行する人間よ。自分の判断で勝手に動く人間ではない」
「分かっています」
「なら、なぜ私に相談しなかったの?」
コールは答えられなかった。
マリベルが一歩近づく。
「それに、マイク・ハンターと何を話したの?」
「ブローカーのことです」
マリベルがため息をつく。
コールは顔を伏せた。
「……申し訳ありません」
マリベルはコールを見下ろした。
「床に伏せなさい」
コールは一瞬、マリベルの顔を見た。
「……はい」
その場に膝をつく。
両手を床につき、頭を下げた。
マリベルはコールの前に立った。
そして、その頭に足を置いた。
コールは動かなかった。
「あなたを市長にするために、私がどれだけのものを動かしてきたと思っているの?」
「分かっています」
「分かっているなら、結果を出しなさい」
マリベルは足に力を加えた。
コールの額が床に押しつけられる。
「私は、あなたを市長にすると決めた」
「はい」
「あなた自身が決めたのではない」
「はい」
「その意味が分かる?」
「……分かっています」
マリベルは足をどけた。
「顔を上げなさい」
コールがゆっくり顔を上げる。
マリベルは冷たい目で見下ろしていた。
「必ず市長になりなさい」
「はい」
「失敗は許さない」
コールは再び頭を下げた。
「俺はやります。信じてください」
マリベルはしばらく黙っていた。
やがて、低い声で言った。
「信じるかどうかは、私が決めることよ」
コールは何も言わなかった。
マリベルは窓の外へ目を向けた。
「結果を出して。さもないと、次に消えるのはあなたよ」
コールは顔を上げた。
マリベルはコールに背を向けていた。
「出ていきなさい」
コールは立ち上がった。
スーツの裾を直し、頭を下げる。
「失礼します」
ドアへ向かう。
ノブに手をかけたところで、マリベルの声が背中に届いた。
「コール」
コールが振り返る。
「はい」
「次は、私に相談してから動きなさい」
「分かりました」
コールは執務室を出た。
ドアが閉まる。
廊下に出たコールは、しばらく動かなかった。
やがて、顔を上げる。
表情からは、先ほどまでの怯えが消えていた。
コールはスーツの襟を整え、歩き出した。
執務室の中で、マリベルは窓の外を見ていた。
市長選。
裁判。
そして、マイク・ハンター。
マリベルは机の上の資料を手に取った。
「余計なことを……」
小さく呟き、書類を閉じた。
