コンテンプト・オブ・コート 4-27
アンカレッジ郊外。
市街地から離れた崖の下に、警察車両が数台停まっていた。
崖の上には木々が生い茂り、その先には舗装された道路が続いている。
崖下の斜面に、男性の遺体が横たわっていた。
救急隊員が遺体の状態を確認している。
カーティス・ハミルトン刑事が現場に到着した。
車を降り、規制線の前まで歩く。
「どうした?」
同僚の刑事が振り返った。
「仏さんはキッチンカーの運転手です。自殺ですね。飛び降りたようです」
カーティスは返事をせず、規制線をくぐった。
遺体のそばまで歩く。
男性は四十代ほどだった。
顔には傷があり、服は泥で汚れている。
カーティスは遺体を確認した。
それから、崖の上を見上げた。
「ここから落ちたのか?」
「そうですよ。通行人が下をのぞいたら、遺体が見えたそうです」
「誰かが落ちるところを見たのか?」
「さあ。発見したときには、すでに倒れていたそうです」
カーティスは周囲を見回した。
崖の上には、道路がある。
その脇には、車を一時的に停められるスペースもあった。
「現場に車の跡は?」
「確認中です」
「目撃者は?」
「いませんよ」
カーティスは遺体のそばにしゃがみ込んだ。
男性の手を確認する。
指先には細かな傷があった。
服の袖にも裂け目が残っている。
カーティスは立ち上がった。
「決めつけるなよ」
同僚が眉をひそめた。
「自殺ですよ。ポケットに遺書と借金の督促状が入っていました」
「だから自殺だと?」
「困っていたんでしょう。遺書にも、それらしいことが書かれています」
カーティスは遺体を見た。
「遺書は誰が見つけた?」
「遺体の所持品を確認した警官です」
「写真は撮ったか?」
「はい。督促状も回収済みです」
カーティスは崖の上へ視線を戻した。
「遺書の筆跡を確認しよう。携帯電話と、崖の上の足跡と車の出入りもだ」
同僚は困った顔をした。
「そこまでする必要がありますか?」
「ある」
カーティスは即答した。
「もっとしっかり調べるべきだ」
同僚はため息をついた。
「カーティス刑事。前にも、終わった事件を蒸し返して懲戒処分になりましたよね」
カーティスは同僚を見る。
「それがどうした?」
「警部も自殺で処理しろと言っています。遺書も借金の督促状もあるんです。もう十分でしょう」
「十分かどうかは、調べてから決める」
同僚は首を振った。
「ごちゃごちゃうるせえな」
同僚は腕時計を確認した。
「俺は先に戻るよ。メシを食べに行きましょうや」
「俺は行かない」
「あっそ」
同僚は規制線の外へ歩いていった。
カーティスは一人、崖下に残った。
遺体をもう一度見る。
男性の服には泥がついていたが、斜面の土とは色が違うように見える。
カーティスは遺体の位置を確認し、崖の上を見上げた。
自分で飛び降りたのなら、何かしらの痕跡が残っているはずだ。
カーティスは手帳を取り出した。
遺体の位置。
傷の状態。
崖の上の道路。
遺書と督促状。
一つずつ記録していく。
「……本当に自殺か?」
小さく呟いた。
そのとき、現場の警官が近づいてきた。
「刑事、何か?」
「崖の上をもう一度確認しろ。足跡、車の跡、何かを引きずった痕跡がないか調べるんだ」
「警部の指示では、自殺として処理することになっていますが」
カーティスは警官を見た。
「確認するべきことを確認する。それだけだ」
警官は一瞬ためらい、頷いた。
「はあ。分かりました」
警官が崖の上へ向かう。
カーティスは手帳をポケットにしまった。
冷たい風が吹いている。
規制線の向こうを、数人の通行人が足早に通り過ぎていく。
誰も、この男が何を知っていたのかを知らない。
市長殺害の目撃情報をコールに垂れ込んだ男。
ジョニーに廃墟から突き落とされ、遠く離れた場所に遺棄された。
その死が市長殺害事件につながっていることを、カーティスは知らなかった。
